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元Sランク冒険者、孤独は辛いので幸せを求めて旅をします  作者: ヰ米
✩二章✩‐Extreme clumsiness of lullaby‐
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本当の優しさ《True kindness》

「ははっ!今のを避けるか兄ちゃん」


男のものと思われる低い声でそう賞賛する。


土煙の晴れ、声の主が明らかになった。

そこにあったのは野太い声音がお似合いな大男が地面にめり込んだ戦斧(バトルアックス)を引き抜いている姿だった。


「なんだ、お前……?」


全く襲われる覚えのない俺は疑問を口にする。ふと下を見ると、脇に抱えられた少女が目に涙を浮かべながら不満そうな顔をしていた。

女性を脇に抱えるのは流石に不味かったか……


「わ、悪い……」


「ゲホッ、し、死ぬかと思いました~」


男が怖かったのでは無く、土埃が目に入っただけだったようだ。

案外余裕そうで何より。


「俺を無視するな!」


大男が叫んだ。

引き抜いた戦斧(バトルアックス)を手に俺に向かって走ってくる。

大地を揺るがす程の体重に石畳が耐えきれずヒビが入る。

なかなか体は鍛えられているがまだまだ足りんな……


俺は振り下ろされた戦斧(バトルアックス)を少女と共に横へずれることにより紙一重で回避する。

荒い攻撃だから人を守りながらでも十分に対処可能だ。

攻撃が空を切り、体制を崩した一瞬の隙を利用して懐へと潜り込む。

戦斧(バトルアックス)は重さだけで脅威になり得るので武器から無力化していこう。


拳を握りしめ、刃の部分の横を殴りつけた。


「がぁああ!」


衝撃が男の方にも回ったのかたたらを踏んで後退する。

案外握りが甘かったのかくるくると回転しながら飛んでいってしまった。

男は唖然とした様子で飛んで行った戦斧(バトルアックス)を見ている。


「さて、ここで退くのが最善策だと思うが?」


武器が無くなり、無手となった男に提案する。無駄に剣を抜きたくないし被害者だとしても衛兵のお世話になるのは勘弁だ。

退いてくれないのなら拳で決着をつけるしかない。


「うるせえ!俺は退けない!」


さっきの余裕な態度はどこに行ったのか、焦りを顔に浮かべると、俺ではなく少女に殴りかかった。

……それは無いだろ、

俺は怒りを覚えて剣の柄を握ろうとした。


瞬間


風弾(バレット)!」


少女は手に魔力を集めると、それを凝縮して一瞬で弾の形に整形すると、男の額めがけて飛ばした。


ドンっ!


鈍い音がしたと思うと、男は仰向けに寝そべっていた。泡を吹いているが、手足が小刻みに痙攣しているため生きてはいるだろう。


「い、いきなり殴りかかってくるからつい!だ、大丈夫ですか?」


少女は何やら凄く焦った面持ちで男を揺さぶる。


「生きてるから大丈夫だと思うぞ?」


俺は少女は人殺しに嫌悪感を抱いているのではと想像し、生きていることを伝えた。


「ほ、本当ですか?よかったー……」


少女は心底安堵したといった様子で胸をなでおろす。


「じゃあ、こいつも寝たわけだし財布探し続行するか。」


「はい!そういえば名前をまだ言っていませんでしたね。私はレミアです!」


「お、レミアか。いい名前だな、俺はエリック、エルと呼んでくれ」


「よろしくお願いしますエルさん!私も気軽にレミアと呼んでください!」


「それにしても、レミアのさっきの魔術すごかったな……」


「いえ!エルさんこそすごい体術だと思いますよ!」


「はは、そりゃどうも、というかお前なんだか嬉しそうだな」


レミアはさっきの件以降謎に機嫌がいい。どうしたのだろうか。


「えっと、その、二人で敵を撃退って、なんだか仲間とか冒険者とかそんな感じがして……」


レミアはもじもじと若干頬を赤らめながら恥ずかしそうに言う。なるほどな、俺も協力関係に憧れてた頃があったからその気持ちはわかる。


「そうか、冒険者憧れてるんだったな。」


「あの、いきなりなんですが、私とお友達になってくれませんか?」


本当にいきなりだな。

だが、俺も友達と呼べる友達がいなかったからちょっと嬉しい。


「あ、嫌なら、その!」


「いいぞ!喜んで、俺はエレノア孤児院で泊り込みの手伝いをしてるからよかったら遊びに来てくれ、子供たちも喜ぶぞ」


そう答えるとレミアは、ぱあ、と花の咲いたような笑顔を浮かべ


「はい!絶対行きます!」


と答えるのだった。









あれから暫く歩くと、子供の声が聞こえる場所へと出た。

何やら一人の少年が皆に何かを見せているようだった。


「あ、あれは……」


レミアは角から顔を覗かせて少年の持っているものに注目する。

花柄の布だ


「まさか、あれが財布か?」


「は、はい……」


俺たちは息を潜めて会話を聞く。


「お兄ちゃん、これで今日もお母さんにご飯を買ってあげられるね」


「そうだね、僕達もお腹すいちゃったし……」


「お肉、食べられるの?」


「ああ、たくさん食べられるよ」


嬉しそうに弾む子供の声。

レミアの様子が気になり、顔を見て見ると、何か諦めたように笑顔を浮かべていた。


「エルさん、行きましょう?」


「いいのか?」


「はい、あの楽しそうなお話を邪魔する気にはなれません」


「そうか」


俺たちは、息を潜めたまま路地を後にするのだった。









「今日は付き合わせてしまってごめんなさい。こんな雨なのに」


「いや、いいんだ。なんだか気分が軽くなった気がするんからな」


あの優しさは、レミアの強さであり魅力だ。

こうして謝ってくれるところも好感が持てる。責めるなんてありえない。


「あ、私がぶつかってしまった時、何かを探していたみたいでしたが、見つかりましたか?」


「あー、実は、俺も「鴉の剣」に行こうとしてたんだが、見つからなくってな。よければ案内してもらえないか?」


俺は、レミアに案内を頼んだ。

頼まれてたものに、もう一つ、買わないといけないものが増えた。


戦斧、噛ませの法則……

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