表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時空魔人センテニアル  作者: 渡辺健太郎
8/9

01の世界線

 母が生きている。つまり、会えるという事だ。

「じゃあまず、日記を確認しましょうか」

「分かっている」

 エリカの一言で身が引き締まる。まだ始まったばかりだ。

 日記と言ってもただ過去に起きた事を確認する事が目的ではない。

 この日記に書かれた事は、二人が起こした過去改変によって変化した事実だ。

 つまり、この日記によって、過去改変による記憶の影響を受けなかった二人の知らない事実、言い換えるならこの世界線で新たに起きた事を理解出来るという訳だ。

 日記はエリカとこの計画を立案した日から毎日付ける事にしていた。その事はこの世界線でも変わらない。

 ミクロ的な視点で言えば、一番の変化は逆瀬川の母、世実が生きていた事だろう。しかし。

「入院しているのか」

 どうやら戦争の事が原因で心身に影響を受けているようだ。しかも入院は現在も続いている。

 マクロ的な視点では、やはりヴァザ投下失敗が大きい。24万人もの人間が助かり、それによる経済の回復、人口の増加。センテニアルは秀真国の救世主とまで言われている。

 この世界線の逆瀬川は少しづつセンテニアルの正体について確信を深めていったようだ。

 つまり、謎のギアの正体は自分の作ったタイムマシン付きゼタトロニクス・ギアなのではないか。その疑念はセンテニアルが50%完成したあたりで確信へと変わっている。

 あのジョージというヴェスゴア人も決行当日に現れていない。

 そして、決行当日の日記にはこう記されていた。


 2053年6月2日

 いよいよ世界線が変動する日が来た。センテニアルの性能について、私は何の心配もしていない。作戦は必ず成功するだろう。というか、もう成功しているのだ。

 センテニアルこそが謎のギアである。センテニアルによってヴァザの投下は阻止された。

 よってこの世界線は00ではない。ヴァザ投下阻止は第一の作戦として立案されているのでおそらく01か行っても03ぐらいまでだろう。

 私は世界線変動装置に従い、エリカと共にこのスペイスでセンテニアルの中にただ座るだけで良い。そうすればヴァザから芸藻を守った英雄が私達と入れ替わる。

 入れ替わった私とエリカは何処に行くのだろう。分からないし、恐ろしい。だが、これは絶対にしなくてはならない事だ。センテニアルと二人がここに居ないと歴史に矛盾が生じる。

 せめて、私はこれを名誉と思って受け入れる事にする。

 頑張れよ、最後まで諦めるなよ、00の逆瀬川智。この長い日記もこれで終わりだ。さようなら。


 センテニアルの世界線変動観測装置は変動する二週間前にそれを告知する。これは二週間後に人格が消える告知をされたのと同じ事だ。

 00や01という数字はとは世界線が変動した回数を表す。ヴァザ投下を阻止したのが00の二人で、ここで座っていたのが01の二人だ。

「言われなくても、やってやるさ」

 人の命だけでなく自分の人格を皆殺しにして二人は進む。もう決めた事だ。後戻りはしない。

「どうだった?」

 一通り読み終わったらしいエリカが内容を聞いてきた。

「大体想像している通りだよ。母は入院しているらしい。実家もあるがほとんど帰っていないようだ」

「会ってきなさいよ。お母さんに。どうせ時間はかかるんだから自由に使いなさい」

「ありがとう」

 センテニアルに内蔵されているタイムマシンには二つの機能がある。一つは文字通り時間の跳躍を行う機能、そしてもう一つが過去改変が現代の時間に与える影響を計算する機能だ。

 この計算には世界最高級のコンピューターとスペイスの時間圧縮をもってしても結構な時間がを必要とする。故に安易な連続過去改変は出来ないという訳だ。


「ここが母さんの入院している病院か」

 世実が入院している病院は秀真人向けの古い医院だった。そんなに大規模なところでもなく、設備も充実しているか怪しい。

「やあ智君。今日もお見舞いかい」

 受付で手続きをしている時に初老の医師から声を掛けられた。

「はいそうです」

 当然00の逆瀬川は彼の事を知らないが話は合わせておく。

「世実さんも喜ぶだろう。大事にしてやってほしい。彼女にはそれが必要なんだ」

 少し引っかかる言い方だなと逆瀬川は感じた。具体的にどうと言われると説明が難しいのだが。

 203逆瀬川山田藤波と書かれたプレートの前に逆瀬川は立った。この扉の奥に母が居る。残りの苗字は相部屋の人だろう。

 出来るだけ柔らかい表情を作って扉を開けた。

「あら智、今日も来てくれたの」

 5年ぶりに聞いたその声は思い出の通りだった。しばらく、感動に打ち震える。

「うん、調子はどう?」

「元気よ。むしろどうして退院出来ないのかしら」

 智の目に映る世実は特に悪い所は無さそうに見えた。さすがに5年前と比べて少し年を取っているがそれすらいとおしい。

「早く家に帰れると良いね」

 言ってから気付いた。どうして5年も退院出来なかったのかと。

「明子には新しい服を買ってあげないとね。富司ならおもちゃが良いかしら」

「え……」

 明子は姉、冨司は弟だった。

「何を言ってるの? もう明子も冨司も居ない」

「……」

 世実は虚空を見つめた。脳の処理が追い付いていない様子で、虚ろな目をしている。

 どういう訳か、智の家族は戦争で全員死んでいる。それも皆違った経緯で。生き残ったのは智だけ、今回の過去改変でやっと世実が生き返った訳だ。

「……この前冨司の遠足のお弁当作ってあげたばかりじゃない」

 それは5年前の5月の事だ。よく覚えている。

 その後も智は母と会話と続けた。日記には書かれていなかったがどうやら昨日01の智もここに来たらしい。母との最後の別れという事か。世実の状態がここまで酷いとも書かれていなかった。苦労を日記にまで残したくなかったのかも知れない。

(駄目だ。話にならない)

「……また来るよ」

 病室を出る。

 世実の様子がおかしいのも、戦争で智を除いて皆死んでしまった所為だろう。

「つまり、全員助ければ元の母さんに戻るという事だ。いや……数人だけでもかなり良い状態に戻るはずだ」

 厄介だな、と続けて智は呟いた。

世実の読みはよみです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ