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時空魔人センテニアル  作者: 渡辺健太郎
7/9

俺達の正義

 アルバ・アドキンズはイスカラオ大学工学部の学生だ。だが、スペイスが発展してからというもの、大学の地位は揺らいできている。

 いくら多人数の方が効率的に優れているからといって1人当たりの作業効率が3倍にも4倍にもなる訳ではない。

 よって6倍や10倍のスペイスを使用可能なヴェスゴア人にとって外の世界の教育、研究機関である大学は個人の発展にとって重要なものではなくなった。

 よって現在の大学に求められる役割は研究の発表や人材の交流等の社交的なものへと切り替わっている。

 今日アルバが大学に来たのも月一の研究発表会に参加するためだ。

 勿論全員がタイムマシンの研究をしているわけではない。むしろタイムマシンの研究をしている者などほとんど居ない。

 しかし、分野外であっても新しい情報は一通り仕入れていかなければ自分自身が旧い人間になってしまう。

 

 極端な話、絶対にスペイスから出ない人間は死んでいるのと同じだ。何故ならスペイスはネットは勿論、電話、電報、メールといった人と人との交流手段が一つとして機能していないのだから。

 イスカラオ大学の研究発表会は各自の携帯端末にダウンロードされたアプリで見に行きたい発表を選択に予約。後は予約人数によって割り当てられた教室と時間に発表者と受講者が集まり、勝手に研究を発表していくというスタイルだ。

 人の研究を見学するだけでなく、自分の研究も同じ手段でもちろん発表する事が出来る。規定時間までに予約人数が0だと強制的にキャンセルされてしまうが。

「さてと……」

 アルバが予約した発表はキルジュ・ゼサノバの『時間経過による空間の歪みについて』だ。空間に関する研究がタイムマシン開発に繋がると考えた。

 アプリに指定された教室に入る。

 瞬間、息が止まった。

「ジョージ? あのジョージ・マイヤーズ!?」

 ありえない。ジョージはこの学校どころかこの国にすら居なかった。軍人の父と一緒に秀真国で暮らしているはず。

 何故彼が教室に居るのか説明が付かない。

「ちょっと、いきなり何? 発表前なんだから静かにしてよ」

 ジョージの隣に座っていた女の子が言った。

「あ……ごめん。別れたはずの昔の友人が突然現れたからさ」

 そう言うと、増々女の子は不審そうな顔をした。

「大丈夫? 先月もあなた達話してたじゃない。それを別れたって……」

「?????」

 考えたが、何も分からなかったので口に出した。

「僕の知っているジョージは、ヴァザ投下に成功した偉大な指揮官の息子で、秀真について行った」

「それ、本気で言っているの? ヴェスゴアは戦争に勝ったけど、最後の作戦だけは失敗した。正体不明のゼタトロニクス・ギアに35機も落とされて敗走。戦後、徹底的にそのギアの正体を国が突き止めようとしたけど未だ何も分かっていない。有名な話じゃない」

「え……え……」

 からかっているような口調ではない。そもそもヴェスゴア人が自分の国の軍隊の事を故意に悪く言うはずがない。つまり、ヴェスゴアがヴァザの投下に失敗したという事は一般的な認識という事になる。

 何が起きているのか、アルバには分からなかった。自分の常識と人の常識がまるで噛み合わない。

 黙るしかなかった。これでは頭のおかしな人間だ。

 二人の傍に居るのも恥ずかしい。そのまま通り過ぎて教室の端に行こうとした。

「発表が終わったら南棟の屋上に来い。そこで話せ」

 通り過ぎる瞬間、ボソッとジョージは呟いた。


 キルジュの発表の事はまるで身に入らなかった。

 発表終了後、アルバはジョージの言った通り南棟の屋上にやってきた。ポツポツとプラスチック製の白いイスや丸いテーブルが置かれている。

 屋上で人気があるのは食堂に近い北棟の方で、こちらはほとんど人が居ない。

 ジョージは扉から奥まった位置のイスに座っていた。それを確認してテーブルの向かいの椅子に座る。

「お前の体験をこちらを向きながらそのまま話せ。遠慮はいい」

「わ、分かった」

 アルバの話を、ジョージはムスっとした表情で聴いた。何を考えているのかは読み取れない。

 起きた事象を言葉にする事で、アルバも一つ確信を得た。要するに過去を変えた者が居る。偶然アルバも時を止めていたのでその影響を受けずに済んだ。偶然が過ぎるかも知れないがそういう風に考えるのが一番納得出来る。

「だから、僕は最近の君の事を何も知らないんだ。教えてくれないか」

 話の途中でそんな方向に話が飛んだ。

「俺の親父が将校だったのは確かだ。だが、最後の作戦が失敗に終わった事で立場が悪化した。結局責任を取る形で軍を辞めた」

「そんな……」

「責任を取る人間が必要だっただけさ。すっかり老け込んじまって。今じゃ首が真っ赤になるまで畑いじりしてやがる」

 過去が変わる事で一人の功労者が除け者になってしまった。

「それで……俺もこんな地元の田舎大学に通っている。10倍のスペイスも使用を認められていない」

 同じヴェスゴア人であっても使用が認められているスペイスの倍率には違いがある。そもそも高圧縮率のスペイスは絶対的な数が少ない。10倍を使えるのはいわゆる上級ヴェスゴア人のみだ。


 自分の認識している事をアルバはジョージに大体話し終えた。

「つまり、お前はこう言いたい訳か? 元々の世界ではヴェスゴアはヴァザ投下に成功した。それが『今日』、変わった。過去改変を起こした奴が何処かに居るはずだ」

「そういう事だ。信じてくれるのか」

「信じる」

 アルバが言い終わるより前にジョージはその言葉を言った。なんと言うかアルバの知っているジョージはもう少し粗暴な人間だったような気がする。苦しくなった立場が彼を変えたのかも知れない。

「本当に?」

「冗談じゃないというのはお前の様子を見れば分かる。俺はそういうのにスペイスの時間を費やしているからな」

 そういえばジョージは自身の感覚を研ぎ澄ます事に時間を使っていた。昔は探偵になりたいと言っていた。今はどうだか知らない。

「で、お前の言う世界では俺は秀真で豊かに暮らしてた。親父の成功が失敗に変わったから今ここに居る」

「理解が早い」

「なんだよそれ。むかつくな」

 むかつくな、の矛先は過去改変を起こした者にだろう。

「でも、これで終わりって事も考えられるよね。秀真人からしたら多くの人命が救われた訳だし」

「これで満足して止める? ありえないな」

「どういう事だ?」

「こんな自分達だけで過去を変えるなんて気持ち良くて仕方が無いはずだ。奴等は何度でもやるだろうよ。ほっといたら戦争の結果まで変えかねない。その次はこの国の征服? 世界までいくかもな」

 元ワルなだけあってジョージはこういう考え方が出来る。

「恐ろしい」

 アルバの最終目標は未来に行ってそこの技術をすべて持ち帰る事だ。どれだけ人類は発展出来るのか想像も付かない。

 だから一度終わった過去を変えるなんて事はアルバの基準ではありえなかった。

「それで、どうしようか? 軍か警察に報告する?」

「俺は無い」

 言い終わる前にジョージは吐き捨てた。

「お前も無いんじゃないか」

「え……」

 アルバには軍への不信があった。誰にも言っていない。

「そ、そんな訳ないだろ。何故そんな事を言う! 僕が君に話したのか?」

 自分の知らない自分がジョージに話したとしたら……何故そんな事になったのだろう。

「どっちでも良いじゃん」

「良くない!」

「さっきからよお、自分で認めてるもんじゃないか。タイムマシン以外はポンコツだよなお前」

「あ……」

 自分の事が短慮過ぎて嫌になる。

「それより、良い提案がある」

「何だよ」

「この事件を、俺達で解決するんだ。で、事後報告で国の英雄になる。簡単だろ」

 ジョージはギロリと眼を輝かせている。

「……は?」

「俺も軍にはムカついているんだ。手柄を譲るつもりはない」

「それって黙ってるっていう事? この国の危機なのに!?」

「時間遡行犯罪に通報義務は無い。てか法律自体整備されてないか。でさ、アルバはどうするんだよ。俺も無理矢理お前の口に戸を立てるのは無理だ。第一お前が居なきゃ敵の時間遡行に対抗出来ない。お前次第だ」

 確信した。ジョージは何も変わっていない。多少攻撃的でなくなったにせよ、内心は人から認められたい心で埋め尽くされている。

「言わない」

 言ってからまた口を滑らせたと感じた。

 ある理由で軍の事が嫌いなのは確かだ。だがこの国自体は嫌いではない。寧ろ好きだ。なのに明確に国益に反する事をしようとしている。

「よく言った。じゃあ過去改変から影響を受けなくするアイテムを大急ぎで二つ作れ。作れなきゃこの話は無しだ」

「いや……僕は」

「何だよ、怖気付いたか。それともそんな都合の良いものは作れないか」

「それは作れる」

 今回の超具体的なデータにこれまでの実験。作れない方がおかしい。タイムマシンだけは絶対に負けない。タイムマシンだけは僕が一番なんだ。

「で、やるのやらないの」

「やる」

「はいもう一回!」

「やる!」

 軍への不信、そしてもう一つアルバの中に闘志が生まれた。

 タイムマシンによる過去改変、それを先にやられて滅茶苦茶悔しいんだと、アルバは理解した。

 敵の野望を打ち砕き、タイムマシンでも先行する。それでいいじゃないか。

「じゃあすぐに帰ってスペイスに入れ。アイテムが出来たら連絡くれよ」

「分かった」

 やる気がグングン湧いてきた。

「後、長く話してるとやっぱ違和感あるな」

 こちらをジッと見て言った。

「何が」

「もうチョイ女らしく話せんものなのかとね」

「ほっといてくれ。これが一番自分らしい」

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