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時空魔人センテニアル  作者: 渡辺健太郎
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芸藻の戦い(1)

 芸藻の戦い。それは大戦末期の2048年7月12日に勃発した。秀真国は諜報部による暗号解読によって新型爆弾投下以外の作戦を事前に察知していた。芸藻湾沿岸にて秀真国主力量産ゼタトロニクス・ギア『矩形式』最後の21機でこれを迎え撃つ事になった。しかしヴェスゴア国は性能で大きく上回るゼタトロニクス・ギア『オルク・ジェストラーダ』を45機投入する。芸藻市には大型の高射砲が六門備えられており、確実に新型爆弾を投下するにはそれらをすべて破壊する必要があった。

 午前8時24分頃戦闘開始。同9時8分頃、矩形式19機撃墜、2機大破。秀真国軍事実上の壊滅。同9時15分頃すべての高射砲が破壊される。9時20分新型爆弾ヴァザ投下。死者24万人。西沢首相が降伏の意思を伝えたのはその15分後だった。

「興味深いのはこの時西沢首相はヴァザ投下をちゃんと把握していなかったという事だ」

 センテニアルは縦軸時間空域の中をフヨフヨと浮かびながら進んでいる。

「ヴェスゴア側の情報分断、妨害交錯によって情報が錯綜していたのね。ヴァザ投下前に降伏されては困るから」

「つまり、この作戦の成否によって彼の降伏の意思が変わる事は無い。8時24分から9時35分までの71分を凌げばヴァザ投下を」

 そこで一瞬逆瀬川は息を呑んだ。

「回避出来る。必ず!」

 忘れられないあの日、床一面に並んだ白い布団、頭にかけられた白布、隙間から見える赤黒い首。

『母さん?』

 握る操縦桿に力が籠った。


 2046年7月12日8時15分、芸藻湾。コンクリートで埋め固められた沿岸には矩形式15機が配置されていた。だがそのパイロットの表情は皆暗い。

(士気が低過ぎる……情報によればヴェスゴアの方が数も質も上。普通に考えればあと数十分の命か)

 秀真国軍隊長、小出康利はその状況を嘆いていた。だが、打つ手は何も無い。

 その時、機体後方から強い光が発せられた。空中に螺旋状の穴のような物が空いている。そこから見た事も無いようなロボットが現れた。ゼタトロニクス・ギアと結論付けられなかったのはそれが一度も見た事のない異様な形をしていたからだ。

 それは矩形式には目もくれず、護岸された岸の端に着陸した。


「そこの不明機。所属と目的を述べよ。返答次第でここに居るすべてのギアがお前を討つ」

 着陸すると、秀真国の量産機である矩形式に腕の機銃を突き付けられた。恐らく隊長の小出だろう。彼はこの戦いで戦死する事になっている。

 既に隊長機の無線識別暗号は解読済みだ。

「所属は無い。個人だ。未来から来た。今から一時間後、ここに新型爆弾が投下され24万人死ぬ。目的は爆弾の投下の阻止。我が機体はその遂行に十分な能力を持つ。協力を要請する」

 率直にすべてを伝える。姑息な嘘は事態を悪化させると逆瀬川は考えた。

(未来? 新型爆弾? 何を言っているんだこいつは。スペイスを使ってもタイムマシンなんて作れるのか。だが、ここで重要なのはこいつが現在俺達に対して敵意を向けていない事。ヴェスギアに刺客を用意する必要は何処にも無い。寧ろこれからの攻撃の邪魔になるはずだ。それならばこの状況での最善の一手は……)

「分かった。我々はこの不明機を僚機として扱う。但しまともな支援は期待しないでくれ」

「本気ですか隊長!? こんな得体の知れない奴らを仲間にするなんて」

 矩形式に乗った隊員の一人が言った。

「これは勝率0%を0.1%にするための策だ。それより来たぞ」

 40~50機ほどのヴェスゴア国量産機『オルク・ジェストラーダ』が矩形式のレーダーにおぼろげに映る。これが映ったが最後十数分後には前線が崩壊し、甚大な被害が出るのが常だった。


 センテニアルの背部に付いた8本の管が両側に展開する。そして24発のミサイルが発射された。

 

「11機ロスト!? 一体何が起きた?」

 芸藻から遠く離れた管制室のオペレーターの女性は狼狽した。秀真国の一撃でここまでヴェスゴア国のゼタトロニクス・ギアが撃墜された事は一度も無い。

「なんだ今のは!? 聞いてないぞ!」

「沿岸に見かけない奴が居る あれがやったのか?」

 前に居たオルク・ジェストラーダがまとめて消し飛んだのを身近に目撃し、パイロット達が動揺する。

「狼狽えるな!」

 ヴェスゴア軍隊長ダニエル・マイヤーズはそれを一喝した。

「ここから敵高射砲の射程に入る。高度を落とせ。我が班はあのギアの注意を惹く。デルタ班は沿岸周辺の箱を掃討。その他の班は高射砲の射線に入らないようにビルに機体を隠しつつ接近し対象を破壊せよ! 狭い路地には入るなよ、待ち伏せされる」

 続けて具体的な指示を出す。箱とは秀真国の量産機の事を指す。オルク・ジェストラーダと比べて性能は格段に低い。

「サー! イェス! サー!」


「初めて人を殺した」

「感想は?」

「想像以上に何ともないな。もっと何か来ると思った」

「頼もしいわね」


「爆撃だ! 各自防御態勢を取れ」

 ミサイルから難を逃れたオルク達が爆弾をばら撒く。矩形式の対爆耐性はお粗末なものだ。腰部にある可動型装甲を前方に展開する。一度しか使えない上に確実性も低い。

「必要無い」

 センテニアルの左肩から広範囲を覆う透明のバリアが展開される。オルクが投下した爆弾はすべてそれによって防がれた。バリアは傷一つ付いていない。

「火力も防御力も桁違いだ! 本当に未来の機体なのか?」

「えっ、これ勝てちゃったりするの? ヴェスゴア相手に?」

 秀真国軍兵士達が希望の兆しを感じ始めた。

「敵の狙いは高射砲です。単機で勝負せず、下がって高射砲を守ってください。後、勝率は100%だ」

 オルクが降下を開始する。

「アンチバリアスキン展開!」

 アンチバリアスキンとはオルク・ジェストラーダに標準装備されている展開パターンで、エネルギー系のバリアを打ち破る事に特化した性能をしている。本来なら莫大なエネルギーの必要なバリアをギアに搭載する事は出来ない。センテニアルのバリアもこれには耐えきれずに破損した。

「あの爆発を受けて全く怯んでいない!? 士気が高過ぎるぞ!」

 矩形式とオルクが接敵する。矩形式が先に構えたはずだった。

「ッラア!!」

 オルクに装備されたブレードが矩形式を切り裂く。真っ二つにされた矩形式の腕から見当違いの方向に弾丸が発射された。

「単体性能では勝ち目はない! 狭い路地に逃げ込み多対一の状況を作れ。頃合いを見て事前に割り当てた高射砲に移動し防衛するんだ!」

 小出は機銃で牽制をしながら隊員達に指示を出し、自身も奥に逃げ込んだ。

「やはり奴以外は後退したか。命令変更! デルタ班を機体番号順に分割しベータとガンマに合流させる。命令伝達はお前に委任する」

「了解!」

 ダニエルはそれを確認すると、副隊長のゴルビルに命令の変更を伝えた。

「お前は俺等が相手だ!」

 シールドを構えた二機のオルクがジグザク飛行しながら40mm機関砲でセンテニアルに襲い掛かる。

 それに対し、逆瀬川は左腕のクアトロガトリングガンをぶっ放す。しかし、高速で飛行するオルクを中々捉えられない。

「クソ、当たらない。やはりエース級はスペイス内で訓練を積んでいるのか!?」

「そろそろ私に撃たせなさいよ。もういいでしょ?」

「ハハッウスノロ! もっと遊ぼうぜ! 目を瞑ったら当たるかもよ」

「おかしいぞ、あのギア。いくら40mm機関砲を当てても傷一つ付かない。何か特殊なコーティングが施されているのか?」

 40mm機関砲、つまり直径4cmの弾を時速2000kmで数百発当てても手ごたえが無い。あの四角い奴なら2、3秒で爆発四散するというのに。

 エリカが逆瀬川から操作権を受け取る。そして。

「ア」

 敵機の動きを読んだ完璧な偏差撃ち。寧ろ当たらなかった弾がほとんどない精度でオルクが爆散する。

(急に命中精度が上がった? シールドがまるで役に立たない威力だ。実弾耐性と併せて通常遠隔戦闘による撃破はほぼ不可能という事になる)

 ダニエルが身構える。

「エイムなら絶対に負けない。八十年間ずっとそれしかやってないから」

「認めるよ。まともな方法では突破は出来ない。だがそれは諦めて良い理由にはならない。必ず突破口はある。そしてそれを実行するんだ」

 指揮官は考える事を諦めてはならない。ヴェスゴアの軍人が最初に習う言葉の一つだ。

「よし、味方は全員高射砲に向かったな」

 ダニエルが超小型の弾頭を4発発射する。エリカはそれにすぐさま反応し、そのうち三発を落としたが一発が起動した。

 その弾頭は圧縮された煙幕だ。すぐさま白色の煙が辺りを覆い尽くす。

「スモーク? 全く見えないわね」

 逆瀬川は頭部に装備されたライトを付けた。

「ライトも効果が限定的だ。上から脱出しよう」

 逆関節を生かしたジャンプで、勢い良く煙から脱出しようとした。

 その上空にあったのは倒れてきた灯台。センテニアルの頭と肩ににそれがぶち当たる。特殊サスペンションで抑えられているとはいえ、操縦室にも衝撃が伝わってきた。

「オクトパスブラスター6機破損!残り二機も管が曲がったみたい。右カメラは予備に切り替えるわ」

「あと少しで第二射を出来たのに……判断を誤ったな」

「やけに冷静ね」

「このくらいでセンテニアルは壊れない」

 右肩の両腕で灯台をどかす。

「居ない。高射砲の方に向かったな」

「追うわよ。一つも壊させないんだから」

 今度こそジャンプでセンテニアルは高射砲の方に向かった。

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