No.31
-2023年3月-
「おいおい嘘だろ!?今年狩猟免許更新じゃねぇかよ……」
海外赴任の準備が進む中、狩猟免許の更新がよりにもよって今年であることが、免許の有効期限を調べる中で発覚してしまった。
「うーわどうしよう。有効期限切れるれるときには、100%海外にいるんだが。
しかも狩猟免許の更新試験は日にちも場所も決まってて、それに合わせないと更新できないんだよなぁ。やっべどうしよう」
日程的にどう考えても詰んでることに、俺は絶望する。
「日本に帰る予定ないし、かといって失効させて取り直すのは、とてつもなくめんどくさい。
それに、再取得するときに、取得条件が厳しくなってる可能性もある。これは困ったねぇ」
もうそれはそれは困ったことになったと、本気で思った。
「……ダメもとで県庁に問い合わせてみるか。
海外赴任中の免許更新はどうしたらいいかを。
ついてに、用水路に罠を仕掛けるのは問題ないのかも問い合わせてみるか」
俺はPCで県庁のホームページから、免許更新と罠の設置についての問い合わせメールを出す。
1週間後
「ん?電話がきてる」
仕事中に、突然電話が来る。
一旦見過ごして電話番号を検索したら、県庁からだった。
都合のいいタイミングで折り返しの電話してみると、前に問い合わせた免許の更新についての回答だった。
その回答内容は、次のようなものだった。
1.海外赴任中の場合、帰国時に免許の更新は可能。
2.その場合、海外にいたことを証明しないといけない。
3.それでも、ちゃんと診断書は用意してね
で、用水路に罠を仕掛けるのは、狩猟を管轄する部署としては問題ないと。
ただ、周知徹底はしてね、と。
「とはいえ、そんなこと、今知ったところで意味はないんだが」
そんな独り言を、ぽつりこぼす。
「しかし、免許更新は帰国時でいいってことで、それはよかった。
これで安心して海外赴任できるぞ」
とりあえず免許の心配がなくなった俺は、安心して仕事を再開する。
数週間後
「すまない。こちらの事情で、渡航予定が延びてしまった」
また上司に会議室に呼び出されたと思ったら、そんなことを言われる。
「え?」
「夏に延期になった。だから、ビザや準備を急ぐ必要はなくなった」
「わかりました。でしたら、一つお願いがあります」
俺が言うと、背中を向けてた上司が、こちらを向く。
「言ってみろ」
「今年、免許更新があるんです。それが終わってからの渡航にしていただきたく思います」
「ふむ、何の免許だね」
「狩猟免許です」
俺が狩猟免許を持っている事実を伝えると、上司が驚いた顔をする。
「君は、そんな免許を持っていたのか」
「はい」
「銃は」
「持ってません」
「ふむ。銃を持ってなかったのは、不幸中の幸いだな。
いいだろう。こちらは絶対に拒否できない命令をしたのだから、認めよう」
「ありがとうございます」
俺の要求が通り、安心する。
「とりあえず、そういうことだから、引き続きスローペースでもいいから、赴任の準備をしてくれ」
「わかりました」
「うむ。では、仕事に戻ろうか」
話し合いを終えた俺と上司は、同時に会議室を出る。




