No.28
皮なめし加工を初めてやったときの話です。
-2023年2月-
「えーと、これがこうで」
猟期終了間近のころ、俺はあるものの用意をしていた。
それは、高圧洗浄機である。
1月にあることをするために買ったものである。
「今まで道具がないからと引き延ばしてきた。
が、さすがに20何頭分も冷凍庫にストックして容量を圧迫してるとなるとやらないわけにはいかない。
道具も手に入ったしな」
そう、今俺の手元に高圧洗浄機は、皮なめしの工程で使うために買ったのだ。
1月にすでに買っていたのだが、何枚か失敗しても大丈夫なくらいのストックできるまで放置してたのだ。
「さすがに20そこらもあれば1枚くらいは成功するだろうからな。
最初にして一番大事な行程がこれで大幅に時間短縮できるなら1万なんて安い物さ」
1万円で買った高圧洗浄機、そんな値段だがれっきとしたあの有名なメーカー製である。
「よし。とりあえずちゃんと動くか試そう」
俺は組み立て終わった後外に出て、電源と水道をつないでじゃ口を開け、スイッチを入れる。
「よしよしちゃんと動くな。ちょっと車についた泥落としてみるか」
俺は高圧洗浄機のノズルを車に向け、狩猟でついた汚れを落としていく。
「おー落ちる落ちる。いいね」
車を洗浄したあと、俺は家の中に戻り、玄関に置いた冷凍していた毛皮3枚を手に取る。
「ん、毛皮の解凍も終わってる。早速実験してみるか」
俺は毛皮を持って再び外に出る。
コンクリの地面にヌートリアの毛皮を置き、高圧洗浄機の準備をする。
準備を終え、地面に置いたヌートリアの毛皮にノズルを向ける。
高圧洗浄機のトリガを引いた瞬間、そこら中にヌートリアの毛皮についた肉片が飛び散る。
そして、俺の服にも容赦なくかかる。
「アッカン!!ストップ!!
ウェーダーとレインコート着てやらないとすっごい汚くなる……」
俺はすぐさま倉庫に行き、チェストハイのウェーダー着てからレインコートを着る。
それからヌートリアの毛皮から肉を削ぐ作業を再開する。
しかし俺は気づく。
「これ、水圧でどんどんノズルの方向に毛皮が向かっていくな。
足で抑えないと」
足で抑えて作業をする。
「しかし、確かに除肉がくそ早い。
肉が四方八方に飛び散って周囲がめっちゃ汚くなるが、この速さの代償なら目をつぶれる」
そんなことを考えながら、なかなか取れない肉を除肉をするためにノズルを少し近づけた瞬間に毛皮に穴が開く。
「やっちまったああああああああああ!!」
思わず叫んだ。
高圧洗浄機の作動音で恐らく周囲には聞こえてないと思う。
「あーこんなんじゃ商品になんないよ~。
まぁいいか、そも失敗するのを前提でやったわけだし」
俺はすぐに気を取り直し、作業を再開する。
1時間半くらいして、ほぼほぼ除肉できたところで作業をやめる。
「これ以上は穴が増えるばかりだろうからやめよう。
しかし、壁にとんでもないくらいに肉が飛び散ったなぁ。
おまけに足跡が毛皮にはっきりついちまったし。
まあいいや、、次にとりかかろう」
残りのヌートリア毛皮も、同じように作業する。
今度は毛皮を踏まずにやる。
次の1枚も見事穴を開けてしまい、最後にやったものは、なんとか穴を開けずに済んだ。
「ふむ、中心から外側に伸ばすようにやるといいかんじにできるな。
あとは毛穴がうっすら見えるくらいでやめるのがミソのようだ」
作業を終えた後、そんな感想を覚える。
そして俺は、周囲を見渡す。
「ひええ。とんでもなく壁とかが汚くなっちまった。
高圧洗浄機で掃除だ掃除」
俺は高圧洗浄機で、周囲を掃除する。
10分くらいかけて掃除をして、毛皮をあらかじめ用意していたバケツに入れて、上に持って入る。
ふと時計を見ると、作業を始めてから3時間くらい経っていた。
「やっぱ高圧洗浄機だと圧倒的に速いし楽ってことがこれで証明されたな。
これ、牛刀だったら3日かかってただろうな」
俺は毛皮を風呂場に置きつつ思う。
それから、俺はなめし液の準備をする。
ここからの工程は、ネットで調べた羊皮のミョウバンなめしの方法を基に、作業をする。
「えっと、水はこんだけでそれに合わせてミョウバンと塩を用意して……」
塩と数日前に買った焼きミョウバンをフリーザーバッグに入れながら質量を量る。
量ったらその中に水を入れる。
入れたら毛皮を裏面が外になるように入れ、空気を限界まで抜いてフタをする。
これを3回繰り返す。
「よし、あとは4~7日寝かせて、それから次の工程だな」
俺は浴槽になめし液に漬けたヌートリア毛皮を置いた後、自室に戻る。
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ときどき揉んだりかきまぜながら7日後。
「よし、取り出そう」
ヌートリアの毛皮をなめし液から取り出し、毛のほうを水道水で洗う。
3枚とも取り出して洗った後、バケツに入れて倉庫に釘とトンカチと一緒に持っていく。
倉庫に入り、そこに置いてあるコンパネに、ヌートリアの毛皮を、毛穴がある側を外気にさらすようにして、伸ばしながら打ち付ける。
「最初はタッカー使おうかと考えたが、釘にして正解だ。
タッカーで打ったらコンパネから外すのがめんどうになったかもしれんな」
3枚全部打ち付け終え、バケツをさっと洗って倉庫に入れ、余った釘とトンカチも倉庫に放置で鍵をかける。
「これで半乾きまで待つ」
倉庫の鍵をかけた俺は、すぐに自室に戻る。
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「ん、半乾きになったな。じゃあ油を塗ろう」
俺はあらかじめ持ってきておいた、油入れに漬けてたタコ焼き機に油塗るための刷毛を手に取る。
少し油を切って、ヌートリアの毛皮の毛穴がある側にサラダ油を塗っていく。
本来はハッカ油とかワセリンを混ぜたほうがいいのだが、今回は実験ということと、単純に用意がめんどくさいもとい用意しても使い切らずに使用期限切れになるのが目に見えていたのでそこまでしなかった。
「よし、全部塗り終えた。
やっぱこの刷毛だと無駄なくきれいに塗れるな」
全部の毛皮に油を塗り終えた俺は、またも道具を倉庫に放置して倉庫を後にする。
「あとはまた乾燥させるだけ」
乾燥を待つため、俺は自室に帰る。
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何日か経った後、倉庫の鍵を開け、倉庫の中に入る。
「ん、いい感じに見えるが」
俺は毛皮の感触を確かめる。
毛皮を確かめた後、毛皮に打った釘を外していく。
全部外し終え、毛皮を持って波打たせたり曲げたりしてみる。
「お~、いいじゃん!ほぼ成功じゃね?」
毛皮を触りつつ思う。
毛穴側はちゃんとカチカチになっているし、毛のほうも触り心地が非常によろしい」
「でも、穴開いたのとにおいがあるのと、毛穴側は黒くなっちまったな。
においはあれだ、洗剤で洗う工程忘れたせいだろう。
毛穴側が黒いのは恐らく除肉の程度が甘かったのだろう。
除肉は妥協をせざるを得ないからどうしようもない。
においは今度はちゃんと洗うのを忘れないようにしよう」
なめしが終わり完成したヌートリアの毛皮を手に持ち、反省する。
俺は毛皮を倉庫にしまったままにして、倉庫を後にした。




