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No.21

-2022年11月-




猟期初日の未明。

俺は零時を回ってすぐ、倉庫の扉を開ける。



「いやしかし……売る気ない車を売らざるを得ない事態が発生して、

車がない状態で猟期が始まるなんて夢にも思わなかったよ」



倉庫から箱罠を取り出しつつ、ぽつり言う。


そう、狩猟者登録証の申請をした後、のっぴきならぬ事情があって、急遽車を売る羽目になってしまった。

その事情は車を売ってどうにかなったものの、普段の買い物をするのにすら非常に困る事態となっている。



「当分は家の庭だけで勝負するしかないな。

しかし、去年は猫しかかからなかったんよねー。

まぁでもあれはブラックバスやブルーギルを餌にしたから説があの後出たからなぁ。

今回は全部対アライグマ決戦兵器、キャラメルコーンを餌に使ってみてどうなるか試してみよう」



俺は箱罠を全部取り出した後、扉を閉める。

三角コーナー用のネットとインシュロック、そしてキャラメルコーンを用意する。

釣り餌式の箱罠の餌をつるす部分にネットをインシュロックを使ってつける。

あとはいつも通りに用意をして、設置する。



「家の庭になら4つでもなんとかなる。とりま四隅に置いて様子見てみるか」



釣り餌式×3、踏板式×1の合計4つの箱罠を、すべてキャラメルコーンを餌にして敷地の四隅に仕掛ける。



「さて、どうなるか楽しみだな」



箱罠を仕掛け終えた俺は、家の中に戻る。

そのままの勢いで、俺は布団に入る。



+++++++


朝、起きてすぐに俺は箱罠がどうなっているか確認する。

果たして結果は、というと……



「にゃーん」



猫が入った箱罠が2台、そしてスカが2台という結果となった。



「ぐぬぬ、まさか猫がキャラメルコーンを食うなんて」



俺は悔しさをにじませ、猫を放したあと、猫がかかった2台の箱罠を再度セットする。



「いや、まだ検証は始まったばかりだ。

とりあえず、車を手に入れるまではこのままで続けよう」



俺は箱罠を仕掛けなおした後、バイクで仕事へと向かう。



++++++++++++



数日後。



家に帰ると、箱罠が1台、扉が閉まっていた。



「んん、また猫だろうか」



俺はバイクを定位置に戻したあと、箱罠の中に入った獲物を確認する。

すると、箱罠にいたのは、猫ではなかった。


猫より明らかに小さい体、山吹色の毛、長いしっぽ、そして、俺を威嚇するこの鳴き声。

こ、これはっ……



「これは、イタチか?しかし、こいつはどっちだ?」



俺はスマホを取り出し、必死に検索する。

なぜかというと、狩猟鳥獣としてニホンイタチがあるのだが、そいつはオスだけとっていいとなっているからだ。

シベリアイタチなら、性別関係なく獲っていいとなっている。

なので、俺はどっちでどっちなのか、ようつべやぐーぐるてんてーを使って必死に調べる。

そして狩猟読本も見て、一つの結論に至る。



「こいつは、シベリアイタチ……!

毛皮獣、外来種……!

性別関係なく獲ってよし、ならば……!」



俺は意を決し箱罠に近づく。

すると



「くっさ!!!!」



箱罠の周囲に異臭が漂っていた。



「こ、これは、イタチ独特の臭い……

この匂い、アレだな、あの臭いだ」



ここでは明確な言及を避けるが、とにかく知ってる臭いなのだ。

俺は臭いを我慢しつつ、箱罠を家の中へと運ぶ。

風呂場まで持ってきたはいいが、これでもし箱罠が浴槽に入らない場合どうするか本気で悩まなければならない。

なにせ、よりにもよって狩猟鳥獣のなかでかなり小さい部類であるイタチが、アライグマ用のでかい箱罠にかかるという、

非合理的極まりないことになっているからだ。


しかし、やってみなければわからない。

とりあえず、浴槽に箱罠を突っ込んでみる。



「あ、入るわこれ」



浴槽に箱罠を少し入れた瞬間、確信した。

その確信の通り、箱罠は浴槽に入った。

ただし、結構にギリギリだった。



「あーよかったー入って。

これで入らなかったらどうしようかと思ったよ」



俺は箱罠を浴槽に沈めた後、栓をして水を入れていく。

そして箱罠の天面と水面の高さが同じになり、箱罠の中のシベリアイタチがもがく。

そして数分後、シベリアイタチがどんどん底に沈んでいき、最後動かなくなる。



「気絶したな」



俺は気絶から回復して噛まれた場合に備え、水濡れOKな皮手袋をつける。

箱罠の扉を開け、中にいる気絶したシベリアイタチを取り出す。

急いでカッターナイフを手に取り、刃を出してイタチの喉元を切る。

それからシャワーを使ってちぬきをしていく。

そして血が流れなくなったところでシャワーを止める。

血抜きしたシベリアイタチを一旦ビニル袋に入れる。

臭いにやられたのもあるが、今さばくのが難しいというのがあり、一旦玄関に置いておく。

気温がすでに冷蔵庫レベルに低いので腐りはしないだろう。



「いやぁそれにしても、まさか猫以外の動物がかかるなんてな。

しかし、イタチは食べたっていうひとをぐーぐるてんてーでもほとんど見つけられなかったしなぁ。



俺は調理法を再度ぐーぐるてんてーを使っておいしそうなものを調べる。

そうして、時間が過ぎ去る。



+++++


数日後。



「やるか」



いつもどおりに獣をさばく準備をして、シベリアイタチをまな板(笑)の上に転がす。

その瞬間



「くっさ!!!!」



イタチの臭いが風呂場中に広がる。

俺はそのにおいを我慢しながら、シベリアイタチをさばいていく。



「……」



イタチの皮を剥ぎ終わったところで、思った。

肉が小さすぎて脚ごとに分解するとさらにとんでもなく小さくなるのが目に見えていた。

なので、今回は皮剥いだ後頭落として終わりにすることにする。



「うー」



後片付けを全部終え、イタチ肉と皮を冷凍庫に入れたとこでうめく。

なんせ、ずっとイタチの臭いと戦いながらさばいていた。

なので、臭いがなくたったことで自身がわりとグロッキーになっていたことを痛感する。



「でも、毛皮をうまくなめせれば、いい値段で売れると思うんだ。

肉は正直調べる限りは結構アレらしいからあまり期待はすまい」



一通りの作業を終えた俺は、明日の準備をする。




+++++++



それからまた数日が経つ。

3頭シベリアイタチが獲れたころである。

仕事から帰ると、またしても一番大きい箱罠の扉が閉まっていた。



「ん?まさか」



俺はバイクをいつもどおり収めて、箱罠に近づく。

すると、そこにはまたイタチがかかっていた。



「んん、これは」



ただし、今まで獲れたイタチと違いがあった。

こげ茶色の毛、短いしっぽ。

ぱっと見てわかる違いはそれくらいだ。

俺はまた少しスマホで調べる。

俺はそこから、一つの結論を導き出す。



「こいつは恐らく、ニホンイタチだ」



俺は箱罠に入っている獲物をそう判断し、そこで悩む。

放すか殺して食うか。

少し悩んだが、在来種ということとオス以外獲ってはいけないことを考えると、放す方が賢明だと考えた。

俺は箱罠の入り口のロックと扉を上げ、ニホンイタチを逃がす。



「にしても、猫以外はイタチしか獲れないなぁ」



ニホンイタチを放した後、ぽつりこぼす。

だが、ウシガエル入れたら何もかからない、他の餌は何使っても絶対に猫が食ってくるという状況である

そんな状況だと、他の動物がかかる前に猫がかかってしまう。

詰んでね?

だってさ、特に住宅地だと猫を外で飼うって放す輩多いのよ?

そんなとこで猫を、ってなったらお縄になること請け合いだぞ。



「猫が学習するまで物量作戦?

金の余裕そんなにないのにそんなことできるかよ」



俺は一人狩猟の方針に悩みつつ、箱罠を仕掛けなおして家に入る。


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