表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

─1─ 廃遊園地の噂~赤い手紙~


 夢は、ユメとて 血色の世界


 人は、ヒトでも 生者はおらず


 今宵も、始まる アヤカシの舞い



 探せや、サガセ 生者は死者へ


 罪には、罰を ツミには、バツを




 冷たさの広がる静けさのなかに、少女の声が優しく響く。


 赤く錆び付いたレールの上に、存在感の無い少女は、その身に似合わぬ鮮やかな赤色せきしょくの着物を身に付けて、独り寂しく座っていた。


 少女は、夕日が傾くのを眺め、繰返し繰返し同じ歌を歌う。

 何度目か、鳴き続けていた赤いカナリアしょうじょの声が止む。

 

 少女は、とても美しかった。


 その目は、綺麗な藍色アイイロと黒。

 肌は、雪のように真っ白で、髪は深く艶のある紫色。

 顔の輪郭、手足の太さに、上と下の身体の比率も、これまた綺麗にキレイで、淑やかで。

 

 少女は、とても美しかった。

 それは、まるで、人ではなく、……人を模した作り物のよう。


 少女は、まるで、──人形のように、それはそれは、美しかった。


 少女は、いつしかまた、歌を歌う。

 同じ歌を、何度も何度も繰り返す。


 着物の振り袖が、歌に合わせて揺れていた。

 

 『つまんない、な。あそ………ぼぅ?』



 ─◆◇◆─

 


 ──放課後。

 日の傾き始めた空は、緋色に染まり。

夏の日差しのなかに、僅かな救いのような優しい風が吹く。


 呆けて、その様を眺める僕、高野宇治たかのうじ 蓮鵺レンヤ


 優しい風が、睡魔を誘う。

 昨日の徹夜が、今頃になってふっかえすとは、………

 


 手元の文庫本が、落ちそうになり、はたと目が覚めた。教室端の時計は、もう6時半過ぎを回っている。



 【“18:46”~ 刻限まで¦¦¦】




 まだ寝ぼけた脳に深呼吸をして、酸素を送り込む。口もとのヨダレを拭い、机に掛かったスクールバックに文庫本を仕舞う。

 その時になって、ようやくこの教室内に居る者が、己のみでは無いことに蓮鵺レンヤは気付く。

 



 ──女子生徒が、3人。

 教室の隅で机と椅子を囲み、何やら話し込んでいる。


「そんでさぁ! その女子生徒は、首つってたんやって!」


 と、正面此方こちらに背を向けた少女が、興奮ぎみにはやし立てた。


「うわぁ、むごいなぁ。でも、呪われるのも頷けるね。相当、酷いことしてるもの」


 と、右端の少女は、腕を組みながら頷き、「そっちは?」と、正面へ目線を上げる。


「……う…ん………」


 と、左端の少女は、やや寝ぼけたように、返事を返す。どうやら怪談話に花を咲かせているようだ。



 そこで、思い出したかの様に右端に座る少女が、話題を変えた。


「あっ! ねえ、知ってる? A市の廃園になった遊園地のはなし……」


「…あぁ、あれね……。かなり前に、女の子が事故に遭って、封鎖したとかって話でしょ?」


 と、少し嫌そうに左端の少女。


「えぇー、なんなんそれ? 人一人で、無くなるもんなん?」


 と、正面此方に背を向けた少女。


「…知らないよー……。たしか、ジェットコースターが何とかって…ねぇ? まゆみ」


 と、左端の少女。


「えっ? 私が聞いたのと違うじゃん? 私が聞いたのは、ミラーハウスのはなしでって……あれ?」


 二人の話を聞き、もう一人が少し目を見開いてからニヤニヤしだし、


「あはは! 二人とも誰に聞いたん? 真実味ゼロやなぁ!」

「もぅ! ゆうなは、真面目に聞いてよ! 私は、先輩にだよ」

「…えっと……。私は、おねーちゃんから。あっ、そっか。えっと、おねーちゃんは、その遊園地に行ったことあるって…」

「うぉ! まじで? りおッチの姉さん、パネェのな! まゆミンの話より、よっぽど真実味あるぅ!」

「ちょっと、失礼な! そんな悪い子のゆうなには、こうしてやるぅー」


 そう言った、彼女は、お返しだと横腹をくすぐる。


「ぅあはははっはははッッッ! ちょっ、止めてって、なぁ?っァははッッ、ほんと、ホントにたんまって!」

「…えっと、…その。私は、おねーちゃんに聞いたのだけど、おねーちゃんは、ネットで見付けたって」

「んぇ? わぉ! 結局、二人とも一緒じゃんよ。なあ?」

「だーね。今度、おかーさんにでも聞いてみますか」

「…だね…。そしたら、また明日の放課後ね?」

「おぅ! まぁ、うちのおっかさんが、知ってそうに無いけどなぁー」

「えー? そーかなっ? 案外、学校サボって、行ってたかもよ? 噂の遊園地」

「いや、ナイナイって! 流石に授業は受けてんだろ。頭いいしさ」

「いやぁ、ゆうなが、それ言ってもなぁ。説得力がさ?」

「こんのぉー!」


「…ぇ、えっと、………私、そろそろだから」

「ん? あー、そっか。そんじゃ、帰りますかね」

「そ、だね。ん? 明日って、何か宿題あったっけ?」

「…えーと、……確かぁ…………」


 会話を途切れさせずに、三人の少女たちは、廊下を歩いて行く。

 僕もそろそろ帰るか、と蓮鵺もまた椅子から立ち上がった。



 ──耳に入った話し。


 良くもまあ、こんな夕刻に話すもんだね。こんな、内容。

 一番、人外の類いが、多く出没するって言われてる時間帯なのに。いや、知らないだけかな? でも、僕には、そんな勇気ないなぁー。


 苦笑いに交ぜてため息をついた蓮鵺は、そのまま思考を続ける。


 しかも、何だ? 僕の家の近くの遊園地の話しじゃんさ。あっ、廃園になってるから、もう、遊園地じゃないか。


 あそこの噂話しって、小中学生の頃は、よく流行ってたよな。


 確か、『メリーゴーランドの無人運転と、少女のワライ声』だとか、『拷問用の地下室がある』だとか。

 そんで、あの女子達が、言っていた、『ジェットコースターの事故』と『ミラーハウスの入れ替わり』だとか。


 廃園になってからの噂だと、『観覧車の声』かな。

警備で、見回った時に、少女の声が聞こえたって、ねぇ。確か、「…だ……して?」だったかな。何があったのやら。


 まぁ、もっとも有力で、実証したって人と、被害にあったって、訴えられてる説は、……………『人形遊びの血印けついん』………かな。


 傾き始めた陽の光が、廊下におちる。

 階段に差し掛かり、足元へ注意をむけるために意識が現実に引き戻された。と、共に先程まで、気付きもしなかった、ツクツクボウシとヒグラシの鳴く声が、耳に入り込んで来た。


 つい最近まで、知らなかったのだが、両方ともセミなのだとか。僕が知らなかったことに、お祖母ちゃんは、発端である僕よりびっくりしてたっけな。



 ──やがて、蓮鵺は昇降口にたどり着く。


 上履きとは名だけの、内履き用のスニーカーを脱ぎ、金属製の下駄箱のくちを開く。


 外履きのローファーに手を掛けると、革製の靴とは、また別の手触りに蓮鵺は戸惑う。


「え? なに、これ」


 思わず独り言を溢した。

 ローファーの上に置かれ、共に抜き出されたそれは、何とも奇妙な赤い封筒だった。


 中身は? と、花びら形のシールを剥がし、これまた真っ赤な一枚の手紙を取り出した蓮鵺は、三つ折りのソレに目を通す。


 【拝啓、(中略)


 あなたを、待っています

 つたえたい事が、あります


 今日、葉月の8日、水の曜日。


 場所は、貴方もよく知るところ。

 目的を無くし、今は、野良の徘徊するところ。


 廃園と化した、例の遊園地。その場所の、門前で…………


 私は、貴方を待っています。ずっと、ずっと、………】



 ラブ………レター……? 


 それにしては、ずいぶん不気味で、雑な文だけど………略って何だよ。


 あっ! 病んデレな女の子なのかな? いや、リアルに居ないだろ。

 ん? 人違いって可能性もあるのか。

まぁ、どうせ帰り道だし、寄ってくかな。


 ん? 時間指定ないし…………おいっ!


 よく見れば、宛先名もないその手紙を片手に靴を履き替えた蓮鵺は、本日何度目かという長いため息をつき、目を覆う伸び過ぎた前髪を掻き上げた。



 ──陽が山々の陰に沈むまで、あと数刻。


 今作者が、ホラー作品を執筆致しますのは、初となります。どうぞ、お手柔らかに、宜しくお願いします。


《恐い怪談等々(例;こっくりさん)で、何か面白いものがありましたら、ご意見を頂けると幸いです。》


ブックマーク、感想、評価等々、お待ちしております。


後拝読、ありがとうございました。

宜しければ、こらからもどうぞよしなに。


   author:真宵夜々榊 より

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ