死にたいと君は言う
俺の好きな人は死にたがりだ。
春になると、満開の桜を見上げながら
夏になると、青い空を彩る入道雲を見上げながら
秋になると、紅く色づく紅葉を見上げながら
冬になると、美しい銀世界を作り出すやわらかな雪を見上げながら
「死にたい」と呟く
誰にも聞かれないように、風に飛ばされてしまいそうな声は俺にだけは届いてしまう。
俺は君に何も言わない。
ただ呟く君を見つめるだけ。
君は死にたがりだけど、誰かを傷付ける事が出来ないから、微笑みながら自分の心を殺していく。
誰にも知られないように、誰かを傷付けてしまわないように静かに孤独を選んでいく。
俺は隣で見ているだけ。
君の流すことの出来ない心の涙を見つめ続ける。
君が「死にたい」と願うたび、君のことを想う俺の心が死んでいく。
君に生きていて欲しいと、生きていて嬉しいと想う俺の心を殺していく。
優しくて残酷な俺の愛する君に、死なないでと叫ぶ声は届かない。
君の世界は、君以外を求めていないから。
君が望む言葉を言えない俺は、求めてもらえない。
俺と共に過ごした季節だけが君をつくる。
1人になった君は未来を望まない。
「死にたい」と君が呟く
君の隣にいるよ。
それを君が望まなくても、俺は側にいる。
泣きたいのに泣けない君の隣にいるから。
『死なないで』と呟く声は、君に届かない。
触れられない俺は、君の隣にいることしか出来ない。
春になったら、満開の花びらを君にあげる
夏になったら、君の好きな向日葵を咲かせてあげる
秋になったら、色づく紅葉で君を喜ばせてあげる
冬になったら、立ち尽くす君の隣にずっといるから
俺を想って泣く君を、いつもみたいに抱きしめてあげられなくてごめん。本当にごめん。
一緒に生きていこうって、笑って誓った約束を果たせなくてごめん。
誰が悪い訳ではないんだ。
死んでしまった俺を求める君も。
君の側にいたくて何処にもいけない俺も。
ただ、ただ、恋しくて苦しいんだ。
俺を忘れない君を見て、悲しみよりも喜びが俺の心をを満たした。許される筈がないのに。
泣く君を心配する人達が、君から涙を奪った。
優しい君は自分の心よりも、自分を心配する人達の心を守ったから。
流せない涙は、君の心を満たし続け…春も夏も秋も冬も、君は俺を想い声なく泣いた。
泣いて泣いて泣き続け、君は未来を望まなくなってしまったんだ。
『死なないで』
側にいたい。
まだ俺は君の側にいたい。
俺を殺してしまわないで。
また冬が来た。
君から俺を奪った季節。
俺と君が初めて出会い恋に落ちた季節。
君の生まれた日に、共に生きる約束をする筈だった。
降りしきる冷たい雪が、君を壊していく。
こんな日に1人で墓参りなんて、俺が生きていたら絶対にさせなかったのに、君が寂しさに負けて俺に会いに来たって知っているから怒れないんだ。
声もなく、君が泣く。
吐く息は、白い雪に隠されていく。
「生きるって…なんだろう?ねぇ、なんだと思う?
生きていれば幸せになれるって言われたの。でも、貴方はいないのに?どんなに生きていても、私の隣に貴方がいない。なら幸せって何?私の幸せは、貴方がいなくてもつくれるの?」
静かな声だった。
悲しみも苦しみも全てなくしてしまったかのように、君の声は優しくて響き雪にとけた。
俺がいなくても幸せになれる、なんて言えない。
俺は君がいないと幸せになれないから。
それでも俺は願う。どうか俺を殺さないで。
君を愛する俺を殺さないで。
「ごめんね」
君が、笑った。
いつもみたいに、幸せそうに笑った。
「貴方を殺してでも、側にいたいの。」
俺を見て、君が笑う。
俺を殺して、俺の隣を望む。
生きていて欲しいと願っていた俺を君は知っていたんだね。君は、俺の為に生きていたのか。
俺の好きな人は死にたがりだ。
自分の為だけに生きれない、寂しがりで可愛い君。
もう頑張れないと言うのなら、共にいようか。
俺は微笑みながら、両手を広げた。
抱きしめ合う2人に言葉はいらない。