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作者: 姉子

音がする。

嫌な音だ。

耳から入り込み、脳をかき乱して思考が断絶される。

まるで背中に氷を滑らしたかのような寒気、肋骨の上が痺れてくすぐったい。

音の元を探り、前を見る。

あまり堂々とは見ない。

時計を見るふりをして、目線を泳がす。

誰も気づいていない。

誰も気づきはしない。


彼がいた。

土や泥が入り、黒ずんだ長い爪。

汚い。

顔もケチャップがついたままで、服は3日連続変わっていない。

汚い、すごく汚い。

毎日喧嘩して、腕も足も傷だらけ。

・・・汚い。


こんなに汚い人がいる場所にいたくない。

自分も汚れてしまいそうだ。

机のものと、見ていた本をかばんに入れ席を立った。


「あ、それ!」


まずい。

近づいてくる。


「待ってよ!」


呼ばないでほしい。

誰もが変な目で見てくる。

廊下は本来走ってはいけないが、今はそんなこと守ってる場合じゃない。

追ってくる。

誰もがささやいている。

息は上がるし、めまいはするし、何か迫り上がってくる。

嫌な音はまだ鳴り止まない。


「ひーちゃん!」


呼ばないでよ!

叫ばないでよ!

惨めにさせないでよ!

あんたのほうが汚いのよ!


足がもつれて、地面にぶつかった。

まだここには誰かいる。

きれいな白いワンピースに、血がついている。

大きな石が足元に転がり、笑っていた。

笑ってる。

みんな笑っている。


「大丈夫?」


彼だった。

汚い彼だ。

その汚い爪をこっちに向けないで。

その汚い顔をこっちに向けないで。


「痛い?先生呼ぶ?一緒に行ってあげよっか?」


やめてよ、汚い。


「泣かないで、痛い?一緒に行こう」


その爪で、腕で、支えないで。

その顔で、声をかけたりしないで。

笑われる、みんなに笑われるよ。

あいつは汚いって。

あいつに近寄ると汚くなるって。

白い服なんて全然似合わないって。


「ね、さっき教室で読んでた本貸してくれる?」


笑わないでよ。

話さないでよ。

触れないでよ。

涙が止まらなくなるのよ。


「・・・え?ごめん。もうしないからさ、貸してよ。大切にするから、どっちも」


笑ってる。

彼が笑ってる。

もうしないと、彼が言う。

私と、約束した。


「ありがとう」


彼は不思議そうにした。

わかってなくてもいい。

それが一番、汚い彼のきれいなもの。

私を救う、誰よりもきれいな心。


あの音はもうしない。


「ひーちゃん」

「ゆーくん」


長い爪はなくなり、私は白いワンピースを着て、彼と手をつないだ。


読んでくださってありがとうございます。

いじめられっ子が折れないように必死に他人を蔑み、ふと見せられた優さにころっと救われた話を考えてみました。

まだまだ未熟ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。

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