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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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五話 やれっていうなら約束するよ

 翌日。 

 何故か僕と雷牙は馬上で民衆に手を振っていた。


 僕は昨日とは異なるドレス。恥ずかしいことに、若干露出度を上げた――といっても胸元がちらりと見える程度だけど――ものだ。

 でも僕にはこれでも恥ずかしい。

 人前に出るのと相まって、顔が真っ赤なのが自分でもわかる。


 雷牙は、衣装室にあった騎士用の制服に若干の装飾を施したもの。

 乗っている白馬も雷牙の衣装に合わせた鐙が取り付けられていた。

 多分、地球にいた女生徒たちが見たら、王子様とか叫びながら卒倒するんじゃないかと思う。


 どうしてこうなったのか……。

 とりあえず回想してみようと思う。





「お二人にはパレードに参加していただきます」


 リシャール王のこんな一言が始まりだった。


「どういうことですか?」

「民は『魔竜』に怯えています。『英雄』と『聖女』の勇姿を見せ、安心させたいのですよ」

「以前から計画されていたことです。召喚が成功したことを公にする意味も込めてですけどね」


 カレンさんが補足する。

 王による単なる思い付きではないらしい。

 至極真っ当な理由だったので、反論することもできない。


 僕の頭をよぎったイメージは、某夢の国で行われる夜のパレードだ。

 ライトアップで照らされながら、巨大な馬車の上で笑顔を振りまく僕――いやいやいや。


「なぁに、騎乗で民に姿を見せる程度の簡単なものですよ。残念ながらあまり余裕がないもので」


 リシャール王は朗らかに笑う。

 少し地味で残念かも……とは思えない。むしろほっとするぐらいだ。


 カレンさんは俯いていた。

 ……本来なら彼女がパレードに参加するはずだったのだ。心境はいかほどのものだろうか。


 だけど、僕は彼女にかける言葉を持たない。

 望まぬ異変によってそれを奪ってしまったのは僕なのだから。


「勇人、馬なんて乗れるのか?」


 雷牙の素朴な一言。


「乗れるわけないだろ。やったことないよ。……そういう君はどうなのさ」

「ん? 乗れるぞ。家の牧場で夏休みとか良く乗ってた」


 なんでもないように返してくる。

 そうだった。こいつはそういうやつだった。


 家の牧場といっても、雷牙の親が働いているわけじゃない。

 所謂、オーナー側の人間だ。


 そう、こいつは金持ちのボンボンだった。


 だけど、それを歯牙にかけない。

 クラスメイトでも知る者はほとんどいないだろう。

 雷牙は自分から自慢はあまりしないし、友人を呼ぶときは、本来の家でない小さな一軒家に招待するからだ。誰も住んでいない家に女生徒を「今日、親帰り遅いからさ」といいつつ連れ込むのだ。多分。


 ちなみに、通っている学校が遠いので、ポケットマネーで建てたらしい。

 親の金ではない。雷牙自身の金だ。

 中学生に進学した時、親から100万渡されて「これを高校卒業までに最低でも百倍にしろ。出来なければ親子の縁を切る」と告げられたとか。

 僕にはさっぱり想像もできない世界だ。

 結局、株とか投資とか駆使して、高校入学の時点であっさりと達成寸前みたいだけど、興味がなかったのでよく覚えていない。


 まあそんな男なので、乗馬が出来ても不思議ではない。

 それよりも問題は僕だ。

 どうしたものだろう。


「いえ、ユート様は問題ありませんよ。ライガ様と同乗という形になりますので」

「え?」

「ドレスを着て馬に跨れるわけがないでしょう。横座りしてもらいます」

「え?」


 リシャール王とカレンさんが答えた。


 え?

 僕が?

 よく青春漫画とかで自転車に女の子が乗せてもらうあれをやれと?

 まっさかー!


 と笑い飛ばしたくなったが、そんなことが言える雰囲気ではなかった。





 と今に至るわけだ。


 非常に不本意ながら、僕は雷牙の腰に手を回し、抱き着くような体勢で馬に乗っている。

 パレードの始まりは


「どういうことだ? 『聖女』はカレン様ではなかったのか?」

聖痕(スティグマ)が消えたという噂は本当だったんだ!」


 などと民衆がざわついていたものの、リシャール王が


「カレンの聖痕(スティグマ)は、異世界の『英雄』を呼び出す際に力を使い果たし消えた。だが、彼女の強き意思は、異世界より『聖女』をも呼び寄せたのだ。カレンと、二人の来訪者へ敬意と感謝を表すのだ!」


 と大ぼらを吹いたことですぐに収まった。

 そんな事実はない。

 状況を繋ぎ合わせただけだ。


 例え疑うものが現れても問題はない。確認する術はないのだ。

 とはいえこれでよかったのだと思う。

 もし、カレンさんが偽りの『聖女』だとか濡れ衣を着せられたらと思うと、胸が苦しくなる。

 誰も悲しまない嘘ならそれが一番だろう。


「ライガ様ーっ! どうか魔竜を倒してくださいっ!」

「ユート様、お美しいです!」

「カレン様、あなたのお導きに感謝します!」


 エルフの民たちにエールを送られるたび、そちらの方へ向いて手を振る。

 これの繰り返し。作り笑いが崩れないよう必死だ。


「らいがさま、ゆーとさま、ぜったいに、まりゅうをたおしてくださいっ!」


 すると、突然舌足らずな声がかけられた。

 目をやれば、幼いエルフの少年が声を張り上げていた。両親なのだろう。男性のエルフが肩車をしてあげていて、女性のエルフが手を貸してバランスを取ってあげていた。


 家族か。

 どこか僕は胸の奥が温かくなるのを感じながら


「うん! 絶対に平和を取り戻して見せるよ!」


 と嘘偽りのない笑顔で返した。





「約束してしまった……」


 勇人が呆然としているのを見た俺は


「相変わらずだな、子供好きは」


 と笑いながら肩を叩いた。

 パレードが終わり、俺が馬から降ろしてやってからずっとこの調子だ。


「うるさいよ、雷牙。仕方ないじゃないか、あんな一生懸命言われたら」


 人嫌いを自称し、実際クラスメイトと一切かかわらない勇人だが、子供は別だ。七歳より下ぐらいの子供が大好きで、いつもボランティアに参加しては世話を焼いていた。


 ……勇人に特殊な趣味があるわけではない。具体的にショタとかロリとか。

 純粋に子供が好きなのだ。

 「理由はないよ」と言っていたが、俺は多分、彼が――今は彼女だが、当時は間違いなく彼だった――七歳のころ起きた事故が関係していると考えている。


 勇人の家庭は、平凡なものだった。

 両親二人に子供が一人。本当は弟か妹が欲しかったらしいが、残念ながら叶わなかったらしい。

 だが、それは七歳までの話だ。

 出かけた帰りの交通事故。飲酒運転の車が突っ込んできて、両親は即死だったらしい。勇人だけは、母親が突き飛ばしたことで無傷だったとか。


 きっと、幼い子供と触れ合うことが、勇人の幸せだった記憶を想起させるのではないだろうか。


「はあ、僕も自分の子供を抱いてみたかったよ」


 勇人がぼやく。

 よくボランティアに参加している勇人は――それを付け回す俺もたまに参加していた――その度言っていた。


「他人の子がこれほど可愛いのなら、自分の子だと尚更なんだろうね」


 と。

 経験から、家庭への憧れがとても強い少年だった。

 いつか結婚して、かつて家族と暮らしていた家に新たな家庭を築くのが夢だ――なんてふとした時に語っていたのを俺は知っている。

 俺は、彼のささやかな夢を応援してやりたいと考えていたのだ――。

 雷牙視点なのですが

 男性時代の勇人を指す場合→彼

 この世界に来てからの勇人を指す場合→彼女

 と使い分けています。少し読みづらいかもしれません。

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