表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕も好きだから誠意を見せる
44/45

後日談6 友達だから全部聞いてあげる

「そっか……残念だったね」

「ううん、そんな気はしてたんだよね~」


 昼下がり。

 僕は銀髪の少女を抱っこしていた。


 リゼルだ。

 彼女はそういうものの、耳は垂れ下がり、尻尾も力なくぶらりとしている。


 昨晩、彼女は半年ぶりにこの村へと尋ねてきた。

 狼少女の帰還に、村は湧いた。元々、リゼルの方が僕たちよりエルナ村に先にいたのだ。

 自然と飲めや歌えやの大宴会。

 どうやら、この村は随分お祭り好きらしい。


 その翌日、ようやく落ち着いた僕たちは近況報告をしていたところ。

 ちなみに雷牙は、リゼルに振舞うため新鮮な獲物を狩りに行っている。

 いつぞやの宴会を思い出せば、貯蔵している分では足りないのが明白だから。


 リシャール王への彼女の願いだけど、残念なことに何の成果も得られなかったらしい。


 いくつもの村が瘴気へと消えた。

 この世界に地球のような詳細な戸籍があるはずもなく、死者の名すら残らないのだ。


 もちろん、指令を受けた調査員たちは国中を調べつくした。

 だというのに、一切の手がかりは見つからなかったとか。


「元気出して?」

「だから大丈夫だって~。元気だからね、元気」


 明らかな空元気に頭を撫でてやると、彼女は少しだけ嬉しそうに震えた。


 ……最初に彼女と出会ったのもこの村だった。

 オーガに苦戦する雷牙たちの前に颯爽と現れたのが始まり。


 僕にはそれが随分遠いことのように思えて来る。


「それで、これからはどうするの?」

「うーん。とりあえず、他の国も回ってみようかなって思ってる。他の国ね」

「エルフがいるっていえば、レギオニアとか?」


 この大陸の中央にある多人種国家だ。

 もっとも交通量が多い国。であれば、自然と行きかう情報も豊富なはず。

 そう考えた僕が言うと、彼女は首を縦にすることで肯定した。


 ここから山脈を越え、更に小さな山々の先。

 少なくとも気軽に行き来できる距離ではない。


「それで、当分は会えないと思う……当分ね?」


 リゼルは暗に再会を仄めかしつつ、にやりと笑う。

 僕の頭には疑問符。


「だからユートはそんなに寂しそうな顔しないでよ~」

「え……」


 僕はそんな顔をしていたのだろうか。

 つい顔に手をやるけど、そんなことで表情がわかるわけがない。


 先ほどまで宥める側だったはずなのに、いつの間にか立場逆転。

 見た目だけなら年下の少女に気を遣われてしまっている。


 ……僕はこの世界に来てから弱くなった。

 昔の僕なら、顔色変えずに彼女を送り出すことが出来ただろう。いや、そもそも関わることすらしなかったかもしれない。

 でも、その変化が嫌じゃない。

 むしろ好ましいものだと感じられるようになった自分がいて、少し驚く。


「ずっと人探しするわけじゃないからね~。とりあえず軽く三年くらいかな、軽くね? そしたら戻ってくるよ」


 感覚が違いすぎて苦笑。

 僕たちの概念では三年「も」だ。


「三年後か……どうなっているんだろうね」


 つい遠い目をしてしまう。

 元の世界では大学に進学か就職しているころ。

 だけど、この世界ではそんなこと関係ない。今のところは雷牙と一緒に暮らすだけで手一杯だし。未来の展望が思い浮かばず、呟きが漏れた。


「うーん。子供とかいるんじゃない? 子供」

「え?」


 リゼルの言葉に一瞬フリーズ。

 誰と、誰の?


「ライガとユートだよ」


 ……僕は声に出してしまっていたらしい。

 リゼルに突っ込まれ、頬が熱を持ったのがわかった。


「……早いよ。まだ」

「え~、プロポーズして同棲してるんじゃないの? 王都の方でも噂になってたよ、噂!」


 ――リシャール王の面前でのやりとりか。

 僕は言葉に詰まる。

 この村に移住してきたとき、リルッドさんに言われたように、そう解釈をしたエルフは多いらしい。


 あのときは何とも思わなかったのに、今になって妙な気恥ずかしさが込み上げてきた。


「リゼルはどうなの?」


 だから僕が話を逸らすと


「うーん、どうだろうね~」


 と意味深に微笑む。


 僕は昨晩の出来事を思い出す。

 彼女の容姿は、村民の男性からも人気があるようで、何度もダンスのお誘いを受けていた。

 黙っていれば西洋人形のような美少女で犬耳に尻尾だ。当然だと思う。

 ついでに言えばフリー。

 やっぱり世界が違っても、そして種族は変わっても人間の趣味は変わらないのだと実感する。


「とりあえず今のところ予定はないよ~予定は」


 そしてリゼルは「あたしより強い相手じゃなきゃ」と付け加えた。

 とてつもなく高いハードルだ。

 高すぎて下から潜り抜けてしまいそうなほど。間違いなくエルナ村の男性陣は全滅だろう。


「それに、お母さんの家族が見つかるまでは待とうかなって」

「そっか……」


 なんとなくしんみりとした空気になってしまった。

 すると、リゼルが切り出した。


「ユート。本当のことを言うから聞いてほしい。本当のこと」


 いきなり雰囲気の変わった彼女に、無言で僕は頷く。

 すると、彼女は語り始めた。 


「ルーツ探しなんて言ってたけど、最初はね、旅に出る口実でしかなかったんだ」

「……うん」

「お父さんの領地にあたしより強い人はいなくて、毎日つまんなかった。お母さんは口うるさかったし……。だから、本当は家出みたいなもんだったんだよね、家出」


 まるで懺悔のようで、僕は相槌を打つことしかできない。


「でも、たまたまこの村に来て、家族を失った村のエルフたちを見て思ったんだ。お母さんもこんな気分だったのかもって。いきなりの理不尽で引き離されて……」

「――わかるよ」


 一瞬ですべてを失う苦しみと悲しみは、僕もよくわかる。

 あの心細さは、体感した人間じゃないとわからないし、体感する人間を増やしていいものではない。


「だから、今あたしは絶対にお母さんの家族を見つけてあげたいと思ってる。絶対ね。それがあたしの誓い」

「……もし、辛いことがあったらいつでも来てほしい。なんでも聞くよ? もちろん、僕の愚痴も聞いてもらうけど」

「そ、それはやだな~。愚痴るのはいいけど、聞きたくはないよね~、愚痴は」


 リゼルは本当に嫌そうな顔。

 それがなんだかおかしくて、つい笑いが零れる。

 彼女も呼応するように顔を綻ばせ、不思議と和やかな空気が部屋に流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ