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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕も好きだから誠意を見せる
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後日談2 一つ屋根だから距離が縮まる

 エルナ村に訪れるのは三度目。

 村人たちも慣れたもので僕たちを迎え入れてくれた。事前に通達が行っているから尚更だ。


「ようこそおいで下さいました、『英雄』様、『聖女』様」


 村長代理だった。

 お祭りの夜を期に、正式に村長に就任したらしい。


「『英雄』も『聖女』もやめてください。これからはただの雷牙と勇人ですから」


 僕がそういうと、彼は慇懃に


「わかりました。――新たな村人を歓迎しますよ」


 と言った。


 ちなみに、僕が『勇者』であることは雷牙以外知らない。

 カレンさんたちも、僕と雷牙が『英雄』の力を半分ずつ持ち合わせたのだと思っている。

 この世界にとって『勇者』とは特別なものらしいから。

 だからこれは二人だけの秘密。


「それで、俺たちはどこに住めばいいんだ?」

「ええ。そのあたりは事前に決めてあります。もちろん、お二人が気に入ればのお話ですが」





 案内の末、辿り着いたのは見覚えのある一軒家だった。


「前村長宅ですか?」

「はい。先代には身寄りがなかったため、空き家になっていたんです。それに、一度過ごされた家の方がよろしいかと思いまして」


 ……一週間も滞在しなかった家だけど、不思議なもので懐かしさを感じる。

 僕は村長の心遣いに感謝し、礼を言う。


「それで、俺の家は?」


 雷牙が訊くと、村長さんはきょとんとする。


「え? お二人は一緒に住まれるのでは?」

「……ちょっと待ってくれ」

「リシャール王の前でプロポーズされた……と兵が噂しておりましたよ?」


 僕は彼の言葉を聞いて、あのときのことを想起する。


『守る力が欲しい』

『お前と一緒にエルナ村に行く』


 ……そう受け取られても仕方のない言葉だった。


「あ、いや、そういう意味じゃなくて……いや、まあそれでいいんだが……兎に角、早すぎる!」


 雷牙が顔を真っ赤にして慌てるのがなんだかおかしくて、僕はクスリ。


「いえ、大丈夫です。色々とありがとうございます、村長さん」

「おい、勇人!」


 雷牙を無視して村長さんに頭を下げると


「では、また何かあれば相談してください」


 彼は手を振って去って行った。

 ……僕が言うのもなんだけど、雷牙を無視できるあたり、中々いい性格をしている。





 家に入れば、数日前と変わらない光景が待っていた。

 ……四人で過ごしていたことを想うと、二人だけというのは少し寂しいか。


 燥ぐリゼルに、それを叱るミューディ。

 そんな二人に笑う僕とカレンさん。


 目を閉じればそんな情景が簡単に思い起こせて……なんで思い出に浸る暇は残念ない。


「勇人、どういうつもりなんだよ!」


 雷牙がうるさいからだ。

 落ち着かなさそうにうろうろ。

 少し座った方がいいと思う。


「雷牙、落ち着いて。紅茶を入れるから」

「おうサンキュ……ってそうじゃない!」


 凄いノリツッコミ。

 やっぱり慌ててる。

 僕は無視して茶器に手をやる。


 聖痕(スティグマ)からはもう力を感じない。

 これが女神の言う「一度だけ」なんだろう。それでも少しだけの魔法は使えるようで、日常生活を送るには十分だ。


 いつの間にか、雷牙は椅子に座っていた。

 テーブル越しに対面する形となる。


「はい」


 一瞬でお湯を沸騰させ、カップに注ぐと雷牙へと渡す。

 彼は渋々とだけど、受け取り一口。

 僕もそれを見てカップを傾けた。


 雷牙は一気に全部飲んでしまう。

 ……お城でもらった結構いい茶葉なのに勿体ない。

 机に置いたところをもう一杯注いでやる。


「お、ありがとう。……で、もう一度聞くが、どういうつもりなんだ?」

「どういうつもりって?」

「いや、……一つ屋根の下で間違いがあったらどうすんだよ」


 自分で言っていて恥ずかしいのだろう。

 彼の顔は、紅茶よりも鮮やかな赤だった。


 ――なんだ、そんなことか。


「それが、問題?」

「いや、大問題だろ!?」

「僕はいいよ。君は僕の身体を好きにしていい。その権利がある」


 ……彼が息をのんだのが、対面している僕にはわかった。





「どういう意味だ?」

「今日は質問ばかりだね」

「……はぐらかすなよ」


 場を和ませるためにおどけてみせたのに、逆効果だったみたい。

 雷牙の声に苛立ちが混ざってしまった。


「言ったでしょ? 『誠意を見せろ』、って。君は僕に誠意を見せてくれた。だから僕も答える。それだけだよ」

「……負い目からじゃ、ないんだな?」


 彼の瞳が僕を射すくめる。

 ……彼が言うのは、僕の嘘について。

 それを気に病んで、こんなことを言っているのではないかと思ってるらしい。


「……違うよ」 


 ――君は、最後まで僕を守るために戦った。


 ――君は、最後まで決して僕以外の女の子に目を向けなかった。


 ――君は、最後までこんな嘘だらけの僕を信じてくれていた。


 ――そして、君は、最後まで生き残った。


 ……好きになるのも仕方がないと思うんだけど、違うのかな。


「僕は、君と一緒に生きたい。だから、別に、いいよ。これは本心から言ってる」

「……わかった」


 そう答えると、彼は立ち上がり、テーブルの横を通り僕の方へやってくる。

 ……この流れだと、そういうこと(・・・・・・)だよね?


 僕も立ち上がると、彼の方へと歩んでいく。


「えっと……よろしく」


 そして、目を瞑る。

 僕は一切の経験がないので、身を委ねるしかないから。


 ……いつまでたっても、何も来ない。


 不思議に思い、目を開けようとした直前


「いたっ!」


 おでこに軽い衝撃。

 多分、デコピン。


「いいんだ」


 驚きに目を見開く僕に、雷牙が言った。


「焦らなくていい。少しずつ、距離を詰めていけばいいんだよ」

「……うん」


 僕は、ようやく手が震えていることに気づいた。

 もしかしたら、ちょっと怖かったのかもしれない。


「そうだね……、時間はたっぷりあるんだし……。よろしく、雷牙」

「ああ、これからも、よろしく」


 僕が手を差し出せば、少年のように笑う彼も片手を出す。

 親愛の握手。


 これからは、僕が彼に誠意を見せる日々が始まる……のかもしれない。

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