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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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三十三話 最終決戦だっていうなら楽勝で勝たせろよ

 俺たちの目の前に鎮座している『魔竜』は凄まじく巨大だった。

 連想するのは広大な野球ドーム。その屋根を突き破って頭、羽が生えている。

 四肢はない。

 その代りなのか、全身からパイプのような管が突き出ていた。

 管は、まるでエンジンが排気ガスを出すように瘴気を排出し続けている。


 瘴気に包まれながら空を見上げる『魔竜』は、(いびつ)で、なのにどこか荘厳に思えた。


「あれが、『魔竜』……?」


 カレンが呟く。

 

「ああ、俺たちが、やつを倒す」


 誰ともなしの言葉だったのだろうが、答えるのは俺。

 不思議と気まずさはなかった。


「先駆けを切るのはあたしだよ、あたし~」


 リゼルがにかっと笑いながら言った。


「ま、スピードならあんたが一番さ。適任だね」


 ミューディは長刀を抜き、構える。

 勇人は戦場から少し離れた場所で待機中。

 ミューディ曰く、『力の解放』に『聖女』との距離はあまり関係ないらしい。

 もちろん離れすぎては駄目だが、今の距離ぐらいなら問題ない。


「よし、行くぞ!」


 俺は高らかに宣言する。

 必ず勝つ。勝って、そして――!




「行きます! 英知よ、彼の者たちに守護を! 【防護鎧(ディフェンスブースト)】!」


 まずはカレンの詠唱。

 守りを固める防御呪文だ。俺たちの姿を光が包み、やがて消える。

 中位の魔物程度の攻撃であれば確実に弾き返すそれは、『魔竜』相手に通用するかはわからないが、価値はある。


「いくよ~本気の本気の本気! 全獣化形態(フルビーストモード)!」


 リゼルがいつぞやと同じように魔力で疑似的な月を生み出す。

 そして、今度は半獣化ではない。完全な獣化を果たす。銀髪が毛皮に変化し、銀狼が誕生する。以前は使用してもすぐに力尽きてしまうとかで封印していたらしい。

 だが、ミューディの修業を受け、実戦運用に足る状況に至ったのだとか。


「とっつげき~!」


 銀色の風が、『魔竜』へと襲いかかる。


 接敵に気づき、『魔竜』が吠えた。

 地の底から呻くような、耳障りな響き。

 呼応して、瘴気からいくつもの触手が現れる。


 襲撃者を迎え撃とうと一斉に触手が襲いかかるが、遅い。

 とらえること叶わず、回避されていく。


「俺たちも行くぞ!」


 ミューディに声をかけながら後に続く。


「言われなくても行くさね」


 リゼルほどではないが、俺たちも速い。

 触手を掻き分け、『魔竜』へと迫る。途中、どうしても避けられない触手は手にした得物で引き裂いていく。


「怪我をしたら私が治癒します! 無理はしないでください!」


 カレンが叫ぶ。

 彼女は触手の範囲外で待機だ。


「わぉぉ~んっ!」


 完全な獣化で人語を話せなくなったリゼルが、『魔竜』へと食らいつく。

 が、金属を叩いたような音が響く。

 障壁に阻まれたのだ。


「魔力以外も阻害するのかっ!?」

「浅い一撃は無駄みたいだね……!」


 ならば――!

 ガラティーンを炎化させ、俺は駆ける。


「足場はあたしが作る! 飛びな!」


 ミューディが叫ぶと、【土壁(アースウォール)】の呪文が唱えられる。

 本来なら防御用の魔術だが、味方の足場にもできる便利な術式だ。

 俺が飛び乗ると


「伸びろ――! 【倍加(インクリーズ)】!」


 さらに術式が追加される。

 付与魔術の一種だ。無機物の大きさを変化させる魔術である。

 どんどん壁が巨大化していく。

 そして『魔竜』の眼前へと届き――


「いっけええええぇっ――!」


 俺はガラティーンを振るう。

 炎化は魔力を注ぎ込んだ結果の事象だが、ガラティーンという刃に包まれている。

 障壁を容易く砕き、『魔竜』の首へと迫る。


 そのまま全力で振り下ろし――!


「――――!」


 『魔竜』が悲鳴を上げる。

 文字通り首の皮一枚で繋がっているものの、傷口から噴水のごとく黒々とした血(・・・・・・)が迸っている。


 ――いける、これなら!


 勝利を確信し、追撃に移ろうとし――


 血ではなく、瘴気であることに気づいた。





 溢れ出る瘴気は止まらない。

 見れば、どんどん首へと集まっていき――固体化する。


 俺たちの眼前にいたのは、双頭と化した『魔竜』だった。


「……冗談きついだろ、これ」

「「――――!」」


 双頭が同時に吠える。

 当然ながら声量も二倍。

 無意識に気圧されそうになり、俺は慌てて集中する。


「くそっ! 攻撃の手を緩めるんじゃないよ!」


 叱責するミューディだが、肩から血が滲んでいた。

 魔術を使う隙に、触手の攻撃を受けてしまったらしい。


 俺もいつの間にやら、頬に一撃を食らっていた。

 血は流れているものの、傷は浅い。

 必要ないとカレンに断り、警戒を続ける。


 その間に、すかさずカレンが治癒の呪文を唱えていく。


「大丈夫です、治りました!」


 カレンの声と共に、俺たちは再び動き出す。

 今度の一撃はリゼルだった。

 限界まで加速し、牙と爪で胴体を抉り取る。


 また溢れ出る――瘴気。

 そして形作られる三つ目の頭。


「きゅぅ~ん……!」


 リゼルも困惑している。

 どれだけ攻撃しても、致命傷にはならない。むしろ攻め手が増えている現状。


「退くか……?」


 絶望的な状況に、心が折れかけた。つい逃げ道を探そうとしてしまう。


「無駄さね」


 あたりを見回したミューディが言う。


「見な、囲まれてる」


 周囲は触手に包まれていた。

 破壊することは可能だろうが、背を向けた瞬間、『魔竜』の一撃が襲うだろう。

 幸いなことに、近寄らなければ反応しないらしい。

 まさしく、『魔竜』による、逃げ出すことを許さないバトルフィールド。


「くそっ、戦うしかないか……!」


 ガラティーンを握る手に、力がこもる。

 ……『力の解放』。それさえできれば勝てる。一縷の希望に縋るように――


「うぉぉぉっ!」


 吠えることで、萎えかけた闘争心を奮い立たせる。

 そして、リゼル、ミューディと突撃する――!





「は、ははは……」


 乾いた笑いが漏れる。

 幾度となく切り付けた結果、『魔竜』の首は八つに分かれていた。

 まるで、俺たちの世界に伝わる八岐大蛇を歪めたような姿だった。


 俺の腕は力なく垂れ下がる。

 魔力も底を突き、ガラティーンは本来の刀身へと戻ってしまっていた。


 なんとか生きてはいるものの、力の尽き果てた状況。

 ミューディも、長刀を振るうだけの余力を失い、杖のようにして何とか立っている。

 リゼルは獣化が解け、全裸にマントという出で立ち。カレンは俺たちを何度も癒し魔力を使い果たしている。


 全員が一歩も動けない。絶望的な状況だった。


「『力の解放』……起きなかったな」


 何が「時が来れば」だったのか。

 頭に響く声なんて、一度も聞こえなかった。

 起こせなかったのは自分なのだから、責めても仕方ないが、つい愚痴る。


「何が『確実に勝てます』だったんだろうな……」


 女神は――間違いなく有罪だろう。

 勝ち目ないじゃねーか。詐欺にもほどがある。あいつ、瞬殺とまで言ってたぞ。


「いや、『力の解放』は起きるよ。そして、確実に勝てる」


 俺の目の前にふらりと現れたのは――


「勇……人……?」


 血を恐れ、戦いを好まないはずの少女だった。

 次回最終話。

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