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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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三十一話 決戦前夜だっていうなら宴を楽しめよ

 そして、俺たちは『魔竜』の元へとたどり着いた。

 道中、何度も魔物には襲われたものの、俺たちはあっさりと退けていった。

 ミューディから修業終了の認可が出たのは昨日のことだった。

 「あんたたちは、自分の限界まで(・・・・・・・)強くなった」とのことで、『魔竜』戦に全力で挑むことになる。


 残念なことに、ミューディに挑む時間は残されていなかった。

 リゼルとしてはそれが一番悔しいらしい。


 流石に身体に疲れが残っている状況で戦うのは難しい……と話し合いで決まり、一日休憩を挟んで決戦へ向かうこととなった。

 現在、テントを立ててキャンプの準備中。


 ちなみに、この世界のテントは基本的に、二人用である。現在女性陣が四人となっているが、リゼルがテントを所持していた。

 そのため、俺が一人で男性用を、勇人とカレンが女性用を、リゼルとミューディがリゼルのを……という内訳になっている。


 瘴気は依然として……いや、むしろ『魔竜』に最大限近づいたことでどんどん濃くなっている。だが、何故か『魔竜』の近くは魔物が出没しなかった。勇人の【索敵(ソナー)】にも反応しない。

 そのおかげでゆったりと寛げるというわけだ。

 正直、ありがたい。





 夜は宴だった。

 勇人は、貯蓄しておいた食料を全て使い切る勢いでどんどん料理を作る。

 ハンバーグ、シチュー、カレー、ポテト(に似た野菜の)サラダ――懐かしい地球の料理が、バイキング形式で並んでいく。


「やっぱり味噌も醤油もないと和食は難しいね。せめて米だけでもあればなあ」


 少し残念そうな彼女だったが、俺としては好物ばかりだ。

 本音を言えば、勇人の作るものならなんでも旨いのだが。


「んまーい! これならどれだけでも食べられるよ~!」


 肉食獣リゼルが料理に手を伸ばしては、掃除機のように平らげていく。

 恐ろしいほど遠慮がない。目下のお気に入りはハンバーグだった。根こそぎ持っていこうとして勇人に叱られている。

 数を等分するという発想はないのだろうか?


「リゼルは本当に食いしん坊なのですね」


 カレンがリゼルを見守っている。

 菜食主義者――ほどではないが、野菜好きの彼女からすれば対岸の火事である。


「ステーキ焼けたよー!」


 勇人が輪切りにした巨大肉を持ってきた。

 魔力で焼き上げているので火加減は思いのままだ。とはいえ、牛などではなく、牛のキマイラの肉なので生焼けは怖い。しっかりと火を通して頂くことにした。


「ステ~キ~!」


 リゼルの注意がステーキへと向く。


「あはは、ステーキはいっぱいあるからね。こっちは好きなだけ食べていいよ」


 ひき肉にして捏ねる手間のあるハンバーグと違い、ステーキは――暴論だが――切って焼くだけだ。ただでさえキマイラの体躯は普通の牛と比べてデカい。

 全員でも食べきれる量ではなかった。


「カレンさんにはこれだよ」


 そういって勇人が差し出したのは、キノコのステーキだった。果実で作ったソースがかけられている。肉があまり好きでない彼女のためのメインディッシュだった。


「ありがとうございます、ユートさん。……本当に、この旅の間、ユートさんの食事は美味しかったです」

「そう言ってもらえると、嬉しいな……」


 深々と頭を下げるカレンと照れる勇人。

 なんだか、しんみりとした空気が流れた。


「ったく、うるさいねえ。まだ勝ったわけじゃないんだ。気が早いよ」


 そこに今まで黙り込んで料理をつついていたミューディ。


「だからこそ、明日は勝つよ! あんたたちの修業の成果、見せてやりな!」


 そして喝を入れる。


「当然~当然~! 明日は最初から全力でいくよ~!」

「例えどんな怪我を負ったとしても、私が治癒して見せます!」

「『英雄』の役割、絶対に果たして見せるぜ」


 全員が決意表明し


「雷牙、カレンさん、リゼル、そしてミューディ。みんな、ここまで連れてきてくれてありがとう。明日は、絶対に勝とうね」


 勇人が締めた。

 そして、夜が更けていく――。





 宴もたけなわということで、食事会はお開きとなった。

 恐ろしいことに、大量に用意したはずの食事は全て空となってしまった。余ることを想定していたステーキすらもだ。肉食獣リゼル恐るべし。……狼はイヌ科だから雑食のはずなのだけれど。


 僕は、夜空を見上げる。

 澄み切った――とはいかない。瘴気に覆われているからだ。

 満月に近い真ん丸なお月様が見えるだけに残念に思う。


 隣には雷牙がいた。


「明日、だね」

「ああ……」


 他には誰もいない。二人きりだ。


「勝てると、思う?」

「勝つさ。約束だろ?」


 不安を打ち消すように彼は言う。


「ミューディの修業のおかげかな、全身に力が溢れてるのがわかる。それに、『力の解放』って切り札もある」

「うん……」

「不安……なのか?」


 僕は明日も後方で見守るだけ、という手はずになっている。

 死地に赴くのは他の四人だ。


「うん、……ごめんね」

「いや、わかるよ」


 僕を支配しているのは、漠然とした未来への不安と死の恐怖だった。

 本当に勝てるのだろうか? という不安。

 もしそうなれば? という恐怖。

 その二つが綯交ぜになって、僕の心に嵐を作っていた。


「でも、信じてくれ。俺は、これだけしか言えない」

「――ありがとう。雷牙」

「帰ってきたら、聞かせてくれよ。返事。見せたぜ、『誠意』。約束ちゃんと守ったからな」

「雷牙っ!」


 つい、僕はすべてを告白しそうになる。


「答えは全部終わってから聞くさ。でないと、所謂死亡フラグってやつになるだろ?」


 雷牙は冗談めかして笑う。

 そして


「明日もあるんだ。俺はもう寝るよ。でないと、つい聞きたくなっちまうし。勇人も遅くならないうちにな」


 雷牙は去って行った。


 僕は――


 僕はね――


「ごめんね、約束。守るつもりはないんだ」


 僕が絞り出した一言は、闇へと吸い込まれ、彼に聞こえることはなかった。

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