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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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三十話 成長したっていうなら結果を見せろ

 本日二話目です。

 ――頭ががんがんする。


 予定通り――僕だけは襲い掛かる頭痛を堪えながら――僕たちはエルナ村を後にした。


 そういえばリゼルに同行するかどうかの確認を取り忘れていたのだけど、彼女は快く了承してくれた。というよりもとよりそのつもりだったらしい。


「あたしはミューディに絶対勝つからね、絶対!」


 と宣言していた。

 ……目的がすり替わっている気がするのだけれど。


 エルナ村の人々は本当に僕たちに感謝してくれた。

 結界を張ってくれたこと、半年に渡り村を守護してくれたこと、オーガを退けてくれたこと……その他諸々だ。

 嬉しいことに僕の料理は好評で、『魔竜』を倒した後、また立ち寄って作ってほしいという意見が殺到した。

 そんな彼らに、僕は曖昧に微笑む。


 僕たちとしても久々にベッドでゆっくり寝られたのはありがたいことだった。

 オーガとの激戦を抜きにしても、かなり英気を養えたといえるだろう。


 久々に瘴気の中を進み続ける。

 ……【索敵(ソナー)】に反応があった。


「来るよ、三匹。ブラッドオーガよりも強い魔力だ。警戒して」


 僕の言葉に全員が臨戦態勢を取る。


 紛うことなく実戦なのだが、ミューディ以外の三人には制約が課せられている。

 雷牙とリゼルは片足を固定し、敵の攻撃を捌くこと。カレンさんは五秒以内に詠唱を済ませること。

 これがミューディのいう「旅の中での鍛錬」だった。


 当然のことながら、命より優先するものではない。

 だが、破った場合、夜に厳しい訓練が追加されるのだという。

 中々ハードな条件だった。


 だというのに、三人の表情は明るい。

 むしろ、自分の力を試したいとうずうずしているようだった。


「勇人、安心して待ってろよ!」

「楽勝楽勝~!」

「ミューディさん、ユートさんを頼みますね」


 そして三人は駆けていく。

 この間、ミューディは僕の護衛となる。僕は戦場にいるべきではないのだが、かといって一人でおいておくのも気がかりだということでこうなった。

 【索敵(ソナー)】で察知は出来るものの、一瞬で接敵するような魔物が出ないとも限らない……というミューディの意見だった。





 俺たちの前に現れたのは三匹の獣だった。獅子の頭に山羊の胴体、鳥の羽、そして尻尾には蛇――俺には見覚えがある。キマイラだ。


「あれは、キマイラ?」

「知っているのですか?」

「あたしもあんな魔物見たことないよ~」


 彼女たちは見たことがないらしい。

 よく見れば、三匹それぞれ微妙に差異があった。あくまで大まかな構成パーツは同じなのだが。

 例えば、一匹が鷲の羽なのに対し残り二匹が烏だ。他にも、尻尾の蛇が一匹だけコブラのように頭がしゃもじ型になっている。胴体が白黒なものまでいた。もしかすれば、牛……なのか?

 ただでさえちぐはぐな生物だというのに、統一性すらちぐはぐだった。


 ……ある発想に思い至る。

 このキマイラは、瘴気によって周囲の生物を取り込む歪な進化を遂げた結果ではないのかと。二人が知らないのもその説を補強する。

 カレンは『聖女』として旅することを考えていたため博学だし、リゼルは魔物の本場である魔大陸育ちである。


「多分、あいつらは、それぞれのパーツが模した生物の力を持ってる! 気をつけろよ!」


 だとしても、俺たちのやることは変わらなかった。

 打倒『魔竜』のため、力をつけ、そして阻むものを排除する。それだけだ。


「グオァァァッ!」


 獅子のように合成獣(キマイラ)が吠えた。

 これが合図となり、戦いが始まった。


 ――とはいえ、俺たちは待機。

 片足しか動かせないのだ。攻め込むわけにはいかない。

 相手を誘い出し、迎え撃つ。


 俺たちの背後にはカレンが位置し、呪文の詠唱を行っている。


「雷よ! 【雷撃(ライトニング)】!」


 以前と比べ、明らかに早い。

 空間を裂き、稲妻が一匹のキマイラを襲う。反転するも遅すぎる。あっさりと直撃し、烏の羽を捥ぎ取った。


「凍れ! 【氷槍(アイシクル・スピア)】!」


 矢継ぎ早に追撃。

 凍てつく槍が周囲に展開し急襲。そのままあっさりと一匹は死亡した。


「す、すげえ……」

「回復魔法だけを高める予定だったんですが、思いのほか、それ以外にも効果があったみたいです!」


 カレンは胸を張る。

 俺も負けてはいられない。


 迫る二匹目のキマイラの一撃を、炎化させたガラティーンで受け止める。


「ギャン!」


 攻撃したはずのキマイラが悲鳴を上げる。それもそのはず。炎化したガラティーンは炎の刃だ。熱した鉄板に思いきり手を押し付けたようなもの。

 その隙を見逃さず、返す刀を一閃。

 キマイラが身を捻るが遅い。尻尾のコブラに命中し、千切れ飛ぶ。


「グアァァッ!」


 痛みに叫びながら、キマイラは後退する。

 その隙は逃さない。


「逃がすか! 射抜け、炎よ! 【火矢(ファイアアロー)!】」


 集中し、初となる戦闘中の炎魔法をお見舞いする。

 今までは戦闘中、魔術に集中する暇がなかった。だが、間合いを測る訓練を行ったことで、どんなタイミングでならば集中する間が産まれるか理解出来たのだ。


 すでに仲間の一匹を失っており、力の差は歴然。怯え、撤退を考え始めたタイミング。俺からすれば、狙ってくれと言わんばかりだった。

 とはいえ、俺の魔法の腕を考えると大した威力ではない。ダメージは敵の肌を焦がす程度に収まる。


「グゥゥ……!」


 だが、キマイラは撤退を不可能だと考えたようだ。

 退けば、そこを突かれる。そう警戒させるには十分な働きだったらしい。


「ガアァァッ!」


 起死回生をかけた突撃。

 俺は身を捻ることで回避し


「甘いんだよ!」


 すれ違いざまに一刀両断した。


 最後の一匹はリゼルの相手だ。

 すでに同胞を失ったキマイラは完全に劣勢となっている。だが、二匹の死にざまを見て、退くことも困難と考えたのだろう。

 リゼルへ向かい突貫する。

 完全にリゼルの身体の芯を捉えたルートだ。両足を動かさなければ避けられるものではない。


 だが――


「リゼルちゃん、微獣形態(リトル・ビーストモード)!」


 あっさりと、今まででは考えられない膂力で受け止めていた。

 見れば、片腕だけが獣化していた。

 そう。これがリゼルの生み出した新しい戦い方だった。

 ロードオーガのような強敵はこれから頻度を増して出現するだろう。だが、切り札の半獣形態は消耗が激しい。ならばどうするか。


 彼女の結論は、更に範囲を狭めた半獣形態だった。

 変身を一点に集中することで、必要な魔力を軽減。そして――彼女的に一番重要らしいが――服装の損耗も軽減。


 昨日、夕日の中で「やってみたら出来た」と言い出した時は、つい腰を抜かしそうになってしまった。


「そんなのありかよ!」


 と突っ込みを入れた俺に、リゼルはただ笑っていた。


 何にしろ――


「じゃあね~」


 もう片方の手も獣化させ、キマイラを貫く。

 こうしてあっさりと、課題もクリアしたままで、俺たちはキマイラを退けたのだった。





「三人は、どうですか?」


 二人きりになった状況。僕はミューディに問うた。


「……正直、厳しいかね」


 苦々しげな顔で彼女は答える。


「間違いなく実力はあるさ。たった一日で見違えるようだったよ。普通の人間の基準でいけば、十分化け物さ」

「やはり、『解放』は必要ですか……」

「それがなきゃ無理だね。『魔竜』と人間じゃあ格が違う。だから『英雄』の力が必要なんだよ」


 ミューディの言葉は、僕に重く響いた。

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