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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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二十八話 反省だっていうなら次回に活かせ

 僕がテーブルに皿とパンを配置し終わると、雷牙たちが戻ってきた。

 全員こっ酷くやられたようで、表情は暗い。


「おかえり。……どうにかなりそうですか?」

「まあ、ね。幸い、『魔竜』へ向かいながらでも鍛えられそうさ」


 ミューディが答える。


「そうですか……。じゃ、ご飯にしよう」


 そしてスープをよそっていく。

 雷牙とリゼルは普段なら朝からガツガツ食べるのだけど、敗戦のショックのためか食が進まないようだった。僕はそれを見越して、あっさりとした食事を作っておいた。





「あんたたち、『力の解放』は一度でもしたのかい?」


 食欲が湧かないながらもなんとかスープを流し込む。ようやく皿が空になってきたところでミューディが口を開いた。


「解放? なんだそれ」


 俺が知らないと言えば


「僕たちはイレギュラーに選ばれました。『力の解放』が何か、わからないですね」


 勇人も同意する。

 カレンを見れば首を振る。彼女も知らないようだった。


「エルグランドには『英雄』が長らく現れなかったからね、伝えられていないのかね……」


 ミューディは遠い目をする。

 確かに、ガラティーンは『英雄』に与えられる剣だというのに、使われた形跡がなかった。手入れが行き届いていたからかもしれないが、ならば名ぐらいつけられていてもおかしくないはずだ。


「『解放』ってのは、文字通り聖痕(スティグマ)に封じられた魔力を解放することさ。身体能力や戦闘力が大幅に向上する。それが出来るからこそ『英雄』なのさ。もちろんデメリットもあるがね」

「デメリットとは……?」


 カレンの疑問に


「何度もは肉体が耐えられないのさ。大抵の『英雄』は一回っきり。限界が来たら聖痕(スティグマ)は消えてなくなる。それでお役御免。ま、何度も使えるやつもいるが、それでも多くて三回さね」


 とミューディは言った。


「一度もやっていないなら問題ないさ。『魔竜』相手にゃ使えるだろう」

「……やり方は?」


 勇人の声は何故か震えていた。


「さあね。不思議と、必要な時になったら頭に声が聞こえてくるそうだよ」

「そう、ですか……」

「『聖女』――あんたの役割ってのは、聖痕(スティグマ)の制御だね。『英雄』一人で『解放』を行うには、魂の容量ってもんが足りないのさ。その足りない分を『聖女』が補う。それをするには、何故か女でないと駄目らしい」

「……」


 そのまま俯いて何も言わなくなってしまった。


「まあ、あんたたちはその段階までたどり着いてない。まずは基礎からだよ」


 そうして、明日出発ということが決まり、ミューディの特訓が始まった。





 俺とリゼルの特訓内容は、予想外のものだった。

 剣術の基礎が足りないというので、てっきり、素振りや動作の反復練習といった剣道に近いことをするのかな考えていたのだ。

 実際に下されたのは、打ち合いだった。

 お互いに剣の届く距離で向き合い、攻撃し合う近接戦だ。


 ルールは二つ。

 直径0.5メートルほどの円から出てはならない。

 動かしていい脚は片方だけ。

 ただこれだけだ。


 敗北条件も二つ。

 相手の攻撃をまともに受ける。

 選択していない足を動かす。


 剣の戦いというより、押し相撲に似ているかもしれない。

 最初は高をくくっていた俺だが、実際にやってみるとかなりハードだった。


 まず近接戦闘なので、息をつく暇がない。

 普通の戦いならば引いて体制を立て直せるのだが、このルールでは不可能だ。リゼルの熾烈な攻めを捌ききるのは至難の業だった。

 後でリゼルに聞いてみれば、一撃一撃が重い俺の攻撃を回避するのも大変だったらしいが。


 次に、攻めにくい。

 俺たち二人は基本的に全力疾走から切り付けるのが王道パターンだった。

 しかし、近接した状況で走れないこの戦いでは不可能。攪乱して攻め込むのではなく、じっくりと隙を狙っていく長期戦が求められたのだ。


 最後に、守りにくい。

 敵の攻撃を受ければ、そのまま押され、指定していない足を動かしてしまうかもしれない。つまり、必要なのは回避。だが、回避するにしても片足しか動かせない。

 相手の攻撃を読み、最低限の動きで躱していく必要があった。


 ここまでくれば俺にもこの訓練の意図がわかった。

 間合いと体捌きを鍛えるためのものだ。


 確かに俺たちは身体能力によるいわばごり押しで戦ってきた。

 そのため、無駄な動きが多いのだ。


 特にリゼルは酷い。先日の戦いで半獣化して、身体能力が上がっているのにすぐ息切れしていたことからも明らかだ。

 間合いもあまり意識したことはなかった。

 基本的に最初の一太刀で勝負が決まってしまうからだ。懐に潜り込んで切り捨てる。これで十分だった。


 模擬戦における大敗の理由はここにあるのだろう。

 俺は、ミューディの反撃を考慮せず、間合いを測りかねた。

 一方、リゼルは、無駄な動きが多すぎて攪乱に至らず消耗するだけだった。


 弱点は理解した。


「次こそ、絶対勝とう!」


 リゼルが肩で息をしながら宣言した。


「俺たちの目的は『魔竜』なんだけどな……でも、ミューディに勝てなきゃ『魔竜』に勝つなんて夢のまた夢だ」


 俺も答える。

 二人で勝利を誓い合う。


 そして、俺たちは日が暮れるまでひたすら訓練に打ち込んだ。

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