二十七話 鍛えてほしいっていうなら実力を見せろ
あけましておめでとうございます。
同日に閑話を投稿しています。
四話~五話の間の保管となるお話です。
なお、それに伴う改稿をしましたが、特に重要な内容の変化はありません。
早朝。
俺とカレン、リゼルの三人と、ミューディは村の広場で向き合っていた。
実力を測る模擬戦のためだ。
勇人は朝食を作るためこの場にはいない。
昨晩話し合った結果、順番は俺、リゼル、カレンとなった。
俺はリゼルとの打ち合いでも使った木の棒を片手に、前へと進む。
ミューディも同様だ。どこから探してきたのか、身の丈ほどの木の棒を握っていた。
「ああ。言い忘れてたね。あんたたちは剣を使いな。言い訳されても面倒だしね」
「なっ……」
彼女が実力者というのは聞いているが、それでも無茶だろう。
例えば俺のガラティーンに一瞬でも触れ合えば、木の棒が耐えられるはずもない。
「本気の実力が知りたいんだよ、あんたはそれで本気が出せるのかい?」
ちっと舌打ちし、俺はガラティーンを抜く。
「本当にそれでいいんだな? 怪我しても知らないぞ?」
「させられるものなら、ね」
その言葉に、俺の中にあった躊躇いが消える。
昨日の戦闘で会得した技能を早速使用する、ガラティーンの形状が変化し、炎を纏う。とりあえず、この形態を炎化と名付けた。
「ほう……そこまでは出来るのかい」
少し感心したように笑い
「ああ、エルフの嬢ちゃん……カレン。あんたが勝負の合図をしてくれるかい?」
といった。
「え……はい。わかりました」
まさか自分に声がかかるとは思いもしなかったのだろう。
カレンは、慌てて椅子代わりにしていた切り株から立ち上がった。
「では、はじめ!」
カレンの合図に、俺は駆ける。
先手必勝。リゼルのそれには及ばないが、並みの相手が捉えられるスピードだとは思わない。
構えもしないミューディに、勢いのままガラティーンを振りかぶり
「――甘い」
俺の心臓目がけて、木の棒が突き出された。
目にもとまらぬ一撃。
無警戒だったはずの彼女は、瞬時に構え、そして突いたのだ。
自身のスピードと相まって、威力は倍加する。木の棒なので怪我はしないものの、息がつまり、盛大に咽た。
「げほっげほっ!」
俺は体勢を崩し転げる。
「次、犬のお嬢ちゃん、リゼルだったね。かかってきな」
ミューディはそのまま俺を無視して次へと進めていった。
俺は、邪魔をしないよう急いで離れる。
「よ、よしっ! あたしの力、見せてあげるよ~!」
「いいから来な!」
俺があっさりやられたのを見て、若干リゼルも引いているようだった。
「はじめっ!」
再びカレンによって火ぶたが切られる。
先ほどの戦いを鑑みてか、リゼルは突撃することは避けたようだ。
二刀流のまま、じりじりとにじり寄る。
しかし
「それで勝てると思っているのかい?」
ミューディの挑発。
だが事実だ。リゼルはスピードを活かした戦闘を得意とするため、小刀を使用している。重量のないそれは振るいやすく、体の動きを阻害しないからだ。
しかしメリットがあれば当然デメリットも生じる。リーチだ。現に、リゼルはミューディに近寄れていない。身の丈ほどの長刀――を模した木の棒の前に、動きを封じられていた。
本来ならば、一瞬の隙をついて攻め込み、そして離脱する戦術。だがミューディには通用していない。
そのまま追い詰められ――
「ぐえ!」
顔目がけて鋭い突きがお見舞いされた。
あっと言う間に二敗。
最後に残ったのはカレンだった。
「ラストだね。合図はライガ。あんたがやりな」
あらかじめカレンに聞いていたのだが、当然ながら魔法に寸止めという概念はない。
直撃すれば大けがは必至である。
そのため、魔道士同士の模擬戦では、魔力による障壁を生み出し、それを破壊することで競うのだという。二人の前の光りの壁が展開されていく。
「じゃ、はじめ!」
俺の掛け声を受け、カレンが詠唱を始める。
だがミューディは動かない。
「風よ、雷となりて、一条の光で敵を貫け! 【雷砲】!」
オーガとの戦いでも見せた、貫通力を高めた術式だった。
ミューディは光の壁を五枚、重ねて配置している。カレンは、それを全て一度に破壊しようという戦術らしい。
「まあ、魔力操作は悪くないね」
迫る雷に、ミューディは笑う。
「だが悪くない止まりさ。打ち消せ、【反射壁!】」
彼女の詠唱はたったの一言だった。光の壁とは別に鏡のような壁が出現し、雷を受け止める。そして、名のとおり反射し――カレンの光の壁は、自身の雷によって全て破壊された。
◆
一矢報いることすら出来ず、全員が敗北した。
この事実は、俺たちを大きく打ちのめした。
「ふぅ……まさかここまでとはねえ」
ミューディは呆れたように言う。
「前衛二人は身体能力に任せて暴れるだけ。剣術のけの字もありゃしない」
叱責に小さくなる俺。
確かに、俺は剣なんて学んだことはない。ただ勢いで振るっていただけだった。
今までの敵は、それでどうにかなる相手だったというだけなのだ。
リゼルも心当たりがあるようだった。
聞けば、彼女のかつて住んでいた村には剣の使い手が一人もおらず――いたとしてもリゼルより弱かったので、自力で編み出すしかなかったのだという。
我流の剣術と言えば聞こえはいいが……素人の浅知恵とも言い換えられる。
「ま、センスは悪かないよ。基礎を学べばなんとかなるだろう」
次はカレンの番だった。
「後衛は……魔力の扱いなんかは及第点だよ。だけど、詠唱が遅いね」
「う……」
「あんたの魔術は守られること前提のものさ。一対一で向き合えば、唱える前にあんたの首が飛ぶだろう」
「……事実です」
悔しそうにカレンは俯く。
確かに今までの戦いでは俺たちが前に立ち、そこを援護するのが基本パターンだった。
「あんたは治癒魔法も使えるんだろう? たった数秒回復が遅れるだけで死ぬこともあるんだ」
想像したのか、更にカレンの顔色が曇る。
「ま、裏技を教えてやるさ。あんたたちの課題もわかったところだ。腹も減っただろ、飯にしな」
俺たちは、各々の欠点を噛みしめると、村長代理宅へと戻ることにした。