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僕が好きだっていうなら誠意を見せろ  作者: ぽち
僕が好きだっていうなら誠意を見せろ
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二十六話 未熟だっていうなら鍛えてくれよ

 雷牙と合流し、村へ戻った僕は、こっ酷く叱られた。


「どうして一人で囮になった!」


 とか


「約束はどうする気だったんだ!」


 と攻め立てられているうちは良かったのだけれど


「お前が死んだら、俺は……」


 と男泣きされてしまっては対処に困った。

 そうなると僕はただ謝るしかなく、仕方がないので雷牙を抱きしめるしかなかった。


 すると僕を抱きしめようと手を伸ばしてきたので払う。


 泣き止んだ彼は不満げにしていたが


「僕がするのはいいけど、君がするのはダメ」


 とぴしゃりと言い含めておいた。

 それから半刻ほど過ぎて、日が完全に沈んでからカレンさんとリゼルが帰投した。


 激戦を繰り広げたことは聞いていた。しかし、カレンさんは兎も角、リゼルは月が出たことで完全に体力を取り戻したようだった。

 何故か服が肌蹴ていたので


「どうしたの、リゼル! 誰にやられたの?」


 と駆け寄ると、彼女は雷牙を指さし


「ライガが無理やり――!」


 涙目だった。


「雷牙……やっぱり約束を……?」

「ちっがーうっ!」


 僕が疑わしげな視線を向ければ、雷牙が叫ぶ。

 それを見届けていたカレンさんがくすくすと笑った後


「リゼルとライガ様は本当に相性が悪いのですね」


 と言った。

 まあ、僕も旅の中で雷牙がそういう人間じゃないことはわかってきた。

 冗談で言ってるだけ。

 和やかな雰囲気が場を包む。


「ごほんっ……」


 いい加減にしろと言いたげにミューディが咳払い。

 彼女は村に帰還してすぐ話し合いを求めたのだが、残り二人が戻るまで待ってほしいと僕は断った。そして、律儀に待っていてくれたのだった。

 とはいえかなり苛立たしげ。

 彼女の姿を見てすぐ礼の宴を開こうとした村民たちだが、一睨みされると萎縮して去って行った。


「では、場を移しましょうか」


 僕の提案にミューディが頷く。そして雷牙も異論はないと同意し、状況のわからない残り二人がとりあえずついていく。





 元村長宅のソファーに全員が腰掛ける。

 普段から村長宅は会議の場としても使用されるので、必然的に大広間になるという。

 ちなみにリゼルはすぐに着替えている。どうやら、破れることを考慮して同じ服装をいくつも持っているらしい。


「彼が雷牙、貴女がお探しの『英雄』です」

「ん、こっちがかい? あんたが『英雄』じゃなかったのか」

「僕は一言もいっていませんよ。そして僕が『聖女』。そういうことになっています」


 訝しげなミューディを無視し、僕は二人に目を向ける。


「彼女がカレン。エルグランドの貴族令嬢で、先代の『聖女』です。こっちの犬耳はリゼル」

「なんかあたしだけぞんざいじゃない? ぞんざい!」


 それだけ言って、この世界に転移してからの出来事を語っていく。


 異世界から召喚されたこと。

 女になっていたこと。

 カレンさんが聖痕(スティグマ)を失ったこと。


 流石に言いたくないことは言わなかったが、大体情報の共有が出来たと思う。 

 すると、直近のオーガの出来事については答えが出た。


「瘴気に侵された存在は急速に進化していく。あんた、進化に必要なのは何か知っているかい?」


 まるで、ミューディは試すかのように僕に視線をやる。

 ……僕は理系じゃないけど、地球高校生だった以上、少しぐらいの知識はある。


「刺激……ですか?」

「正解。まあまあ頭は回るようさね。群れにとってもっとも強い刺激、それは外敵さ」


 ――瘴気に狂った魔物は、異常なまで攻撃性を強化される。

 そして交戦し、戦闘経験を瘴気を通して群れのリーダーへと集めていく。すべては『魔竜』の強力な配下となるために。


 この村の経験した、異常な進化スピードはそれが原因らしい。

 あえてエルナ村へ少数を派遣し、殺させることで経験を蓄積していく。

 だがそんな狙いに狂いが生じた。


「多分、この村へ別戦力を投入しだしたのは『英雄』が来て焦ったんだろうね。ブラッドオーガってのは、オーガの最上位種。いわば進化の頂点なのさ。だから今度は知性の緩やかな発達を狙ったんだろうが、そこに根絶しかねないのが来たってわけさ」

「確かに、そう考えると納得がいきます。――だけど、一つだけ腑に落ちないことがある」

「なんだい?」


 ミューディは肩をすくめた。


「どうして貴女はそんなことを知っているんです?」

「……ハハハ!」


 おかしそうに彼女は腹を抱えて笑った。


「何かおかしいことでも?」

「いや、あんたはそういうことをちゃんと疑問に思う子なんだと思ってね。あたしゃ、『英雄』ハンターなのさ」

「……ハンター!?」


 その言葉に僕以外の三人が大きく身構える。


「ハンターって意味が多分違うよ。殺す気ならオーガの群れから僕を助けずその場で殺してる」

「そう、話が早くて助かるよ。あたしの目的は『英雄』を探し出して力の使い道を教えること。それで、一年間探し回ってるうちに、瘴気の影響を受けた魔物の生態がわかってきたわけさ」

「なんでそんなことを?」


 警戒を解かず、雷牙が訊いた。


「『英雄』って言っても、力のコツを掴むまでは一般人と変わらない。あんたたち、エイベル・バートランドを知ってるかい?」


 僕と雷牙は聞いたことがない名だった。

 だけどカレンさんとリゼルは違ったようだ。


「ヒトの『英雄』だと聞いています」

「確か、レギオニアに現れた『機竜』を倒したって。噂だけどね、噂」

「あいつはあたしが鍛え上げたのさ。初めて会ったときはひよっこだったがね。意外と才能ある奴だったよ」


 ああ、城で話に聞いたもう一人の『英雄』か。


「それで、今度は僕たちを鍛える番というわけですか」

「ああ。あんたたち、オーガ程度に苦戦したんだって?」

「程度って……!」


 ミューディの物言いに、むっとするカレンさん。

 死闘を見届けただけに不満を感じたようだった。

 一方


「確かに……ロードオーガに梃子摺ったのは事実だ。それで『魔竜』に勝てるのか、不安に思うのは嘘じゃない」


 雷牙は思うところがあるようだ。


「あんたに特訓してもらえれば、強くなれるのか?」


 彼はが尋ねる。

 そのとき、拳を強く握っていたのを僕は見逃さなかった。


「ま、それはあんた次第さね」

「あたしもあたしも! 強くなりたい!」

「ついでだ。稽古をつけてやろうじゃないか」


 意外と面倒見がいいらしい。

 リゼルの申し出も許諾される。


「あんたは? 『聖女』なんだろう?」


 視線が僕へと移る。

 僕は


「結構です。必要ありませんから」


 とだけ。


「私もお願いします! ライガ様の力になりたいのです……!」

「ふん、思い出すねえ。似たようなことを言ってきた娘が少し前にもいたよ。いいさ、魔法についてなら教えてやる」


 僕とは打って変わってカレンさんが願い出る。

 ミューディはそんな彼女を見て


「誰が『聖女』なんだかわかりゃしないね」


 と、隣に座る僕にだけ聞こえる声の大きさで言った。

 内心同意する。

 僕は間違いなく『聖女』ではない。


「なら、あんたたちの実力を見せてもらおうか。流石に今日は厳しいかね。明日の朝一番、一人ずつかかってきな」


 そうしてこの場は解散となった。

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