○ 水の章 終章Ⅰ
○ おじいちゃん亀の実力
(悠)
「あ、あのヨボヨボの小っこい亀が…。」
「伝説の精獣エンシェント・タートル…?」
目の前にいるのは…。
確かに亀にしては大きい。
二足歩行に杖を携えた生き物。
しかし、とにかく老いている。
目に見えて老いている。
シワシワヨボヨボフッガフガである。
とても過去の大戦の最中。
大陸中で恐れられた、伝説の怪物とは想像もできない。
(エリアス)
「なんじゃああ!この老いぼれた亀は!?」
「シワッシワでないか!!」
「ヨッボヨボではないか~!!」
「フッガフガではないか~!!」
「私達があんなに苦労して手に入れた、
この触媒は偽者だったと言うのか!?」
「ふざけるな~!!」
「何がエンシェント・タートルだ~!!」
「私達がこれに、どれだけ時間と労力を割いたと
思っとるんだ!」
「おい!誰か!イアンを呼べ~!!」
「一発殴らせろ~!!」
「誰か殴らんと気が収まらんわ~!!」
エリアスは頭を押さえ、怒りに身を震わせている。
手に持った触媒は、今にも握り潰されてしまいそうだ。
恐らく、彼女たちは本日の召喚に到るまで。
かなりの苦労を重ねてきたのだろう。
捜索・研究・分析・仮説。
その努力は計り知れない。
彼女は最早発狂寸前になっていたのだ。
(悠)
「イアンさん…。こんな時までも…。」
「いや、気持ちは分かるけどさ…。」
(リナ)
「八つ当たりも甚だしいね。」
「彼は師と仰ぐ人間を完全に間違えたよ。」
(マリエ)
「強ければ正義。勝てば官軍。」
「ステラはまだまだ人権に対する、尊重意識が
足りないみたいね。」
「強弱問わず平等に。それが人権の原則よ。」
(レイナ)
「何だか社会問題も絡んだ
規模の大きい話になりましたね。」
「先ずは身近にいるイアンさんの身を案じたいと ころです。」
ディープインパクトの面々は
(悠・リナ)
『元々そこまでは期待してない。』
(レイナ・マリエ)
『こういう可能性も考慮しないと。』
と密かに思いながら、荒れ狂うエリアスを見つめていた。
ただリナだけは。
『でっかい怪獣…。見たかったな…。』
と他のメンバーよりは、少しだけ残念に思っていたのだった。
(エンシェント・タートル)
「え…?呼んだ…?」
「ワシのこと…。呼んだ?」
(全員)
「?」
その場にいた全員が自分の耳を疑った。
(エンシェント・タートル)
「あれ…?気のせい…?」
「誰か今…。ワシのこと呼んだ…?」
「あれ…?違う…?あれ?どこ?ここ?」
「あれ…?朝飯食べた?え?知らない?」
エンシェント・タートルは全員の顔を見て回る。 しかし、誰も彼の問い掛けには答えられない。
彼は不思議そうに周囲を見渡し、結局誰もご飯を食べたかは分からない事だけは理解したようだ。
(悠)
「エリアスさん…。まさかこれって…。」
「ホントにこのおじいちゃんが…。」
悠はおじいちゃん亀の背中を指差し、エリアスに視線を送る。
エリアスも
「まさか…。」
と言った表情だが。
薄々その可能性に気付いていた様だ。
(エリアス)
「まさか…。なんて事だ…。」
「この年老いた亀が…。」
「伝説の精獣…。だと言うのか…。」
「信じられん…。夢なら覚めてくれ…。」
「人生史上最大の悪夢じゃ…。」
「私のこれまでの努力は…。」
エリアスは顔を覆い、泣き出しそうな声を出している。
彼女のこれまでの努力は、ほぼ確実に徒労に終わったのだ。
そのショックたるや…。
やはり誰にも想像もつかない。
(マリエ)
「と、取り合えず。」
「本人に確認しなければ始まらないわ。」
「私ちょっと聞いてくる。」
マリエがエンシェント・タートルに駆け寄る。
この際だ、直接本人に問いただそうと言うのだ。
(マリエ)
「ねえ、おじいちゃん。ちょっといいかしら?」
肩をポンポンと叩く。
(エンシェント・タートル)
「…はい?」
「なんだって…?」
(マリエ)
「ちょっと!聞いても!いいかしら!?」
耳元で声を大きくし、語りかける。
(エンシェント・タートル)
「ああ~。いいよ。いいよ。」
「すまんの~。最近耳が遠なって…。」
(マリエ)
「いいのよ!気にしないで!」
「それでね!聞きたいんだけど!」
(エンシェント・タートル)
「あ~。構わないよ~。」
「あらあら、あんたベッピンさんだね~。」
「昔の母ちゃん見てるみたいだ~。」
(マリエ)
「それはありがとう!奥さまにもよろしくね!」
「それでね!聞きたいのはね!」
「おじいちゃんは!エンシェント・タートル!
って言う!精獣さんかって事なのよ!」
(エンシェント・タートル)
「ああ…。はいはい…。」
「ウチの母ちゃんはのぉ~…。」
「昔は海中一のベッピンでの~…。」
(マリエ)
「うんうん。奥さまのお話はいいのよ!」
「私が聞きたいのはね!」
「おじいちゃん!貴方の事なの!」
(エンシェント・タートル)
「ああ。ワシの?こんなベッピンさんが?」
「いや~。これは嬉しいの~…。」
(マリエ)
「うん!ありがとう!」
「それでね!おじいちゃんは誰なのかしら!?」
「私達はエンシェント・タートルって言う!
精獣さんを呼んだつもりだったのよ!」
「おじいちゃんがそうなの!?」
(エンシェント・タートル)
「ワシか?ワシもなぁ。そりゃあ昔はなあ。」
「そりゃあブイブイ言わせとってなぁ。」
「なかなかのいけ面だったよなぁ…。」
「母ちゃんとはなぁ…。」
「あれはいつだったかなぁ…。」
「確か嵐の夜になぁ…。」
(マリエ)
「そうなの!昔はカッコ良かったのね!」
「見てたら分かるわ!今も素敵よ!」
「それでね!私達が知りたいのはね!」
「貴方がエンシェント・タートルかって
事なんだけどね!」
「貴方がその精獣さんなのかしら!?」
(エンシェント・タートル)
「おお!お前さん…。」
(マリエ)
「うん!なに!?そうなの!?」
(エンシェント・タートル)
「お前さん。えらくベッピンさんじゃのぉ。」
「昔の母ちゃんにそっくりじゃて…。」
「母ちゃんは海中一のベッピンでのぉ…。」
(マリエ)
「…。」
「あら!ありがとう!」
「それでね!私達が聞きたいのはね!」
「貴方がね!エンシェント・タートルって!」
「・・・・。」
そしてこの同じやり取りは、全く同じ内容で、この後7度繰り返される事となった。
流石のマリエも疲れ果て。
「もうダメね、この亀。これダメな亀だわ。」
「ダメよ。ダメダメ。もう全然ダメ。」
「もう甲羅に戻して海に返すべきよ。」
「それか甲羅ごと晩の鍋の出汁にしましょう。」
「その方が世の中の為よ。」
と捨て台詞を吐き、
皆の横に座り込んでしまった。
(悠)
「ウチで一番ご年配に優しい
マリエさんがこれじゃあな…。」
(リナ)
「マリ姉なんかぶつぶつ言いながら
地面殴ってるよ。」
「なんか超怖いんですけど…。」
(レイナ)
「私も流石にあれ以上の対応ができる
自信はありません~。」
(エリアス)
「私なら2回目で殴りかかっておった。」
「あやつは我慢強い奴なのだな。」
本人に聞いても埒が開かない。
これは手詰まりだな。皆が困り果てていた時。
(エリアス)
「!?」
「お主ら!伏せろ!」
(ディープインパクト)
「!?」
バシャアン!!
水の刃が突然エンシェント・タートルを強襲したのだ。
辺り一面に水しぶきが上がる。
しかし、当のエンシェント・タートルは、特にダメージを受けた様子もない。
黙ってその場に立ち尽くしている。
そして驚いた皆が見つめる。
その刃の出所は勿論。
(アイシス)
「あらあら。見事に防ぐじゃない。」
「伊達に精獣と呼ばれてないわね~。」
「もう少し強くしても良かったかしら?」
「ねえエリィちゃん?見てたでしょ?」
「やっぱりその亀さん。私たちが捜してた。」
「本物の精獣で間違いはないみたいよ?」
アイシスはクスクスと笑いながらエンシェント・タートルを見つめている。
その顔には、全く反省している様子もない。
無邪気に遊ぶ、子供の様な表情だ。
(エリアス)
「お主はいつもいつも~…。」
「考えるより先に動きおってからに!」
「アイシス!お主!」
「仕掛けるなら予め声をかけぬか!」
「私たちに当たったらどうするんだ!」
エリアスはアイシスの大胆な行動に驚いた様だ。
その慌てた表情を見て、アイシスは再びクスクスと笑っている。
(悠)
「うっわ~…。ビックリした~…。」
「あっぶねぇな~…。」
「なんだよあの帝さん…。」
「ヨボヨボのじいさんに向かって、
いきなり不意打ちかよ…。」
「幾らなんでもやることがえげつねぇ…。」
「俺達も巻き込まれたらどうすんだよ…。」
(レイナ)
「けれど流石は帝さん…。」
「魔法の気配が全くありませんでした。」
「威力もかなり強かったのに。」
「やっぱりあの人も別格ですね…。」
(マリエ)
「けれど、それを造作もなく防いだ。」
「それこそ防ぐ素振りすらなかった。」
「つまりやっぱりあのおじいちゃんが。」
(リナ)
「精獣…。って事?ええ~ホントに?」
「私にはやっぱり亀のおじいちゃんにしか。」
(エリアス)
「いや。間違いない。」
「あの反応の鋭さは尋常ではない。」
「やはりあの亀は…。」
(エンシェント・タートル)
「やれやれ…。」
「まだ寝起きでボーッとしとるのに…。」
「最近のもんは荒っぽい…。」
「ワシへの敬意が感じられん…。」
「ワシが現役なら…。アレじゃ…。」
「もうアレをして…。アレしてやるわ…。」
「そうじゃ、アレもいいの…。」
「アレのアレもアレじゃな…。」
全員の視線が集中する中。
その亀は頭を軽く掻きながら。
しかし先程よりは、明らかにはっきりとした顔立ちでそこに立ち尽くしている。
そして視線を感じ、皆を一様に睨み付けた。
ピーン…。
空気が一瞬にして張りつめていく。
(レイナ)
「い、いきなり!?気配が爆発した!?」
「何ですかこれは!?震えが止まりません!」
「やっぱり!凄い!凄い気配です!」
(マリエ)
「意識がしっかりして一気に!」
「魔力量も気配も尋常じゃない!」
「間違いない!この方がやはり伝説の!」
(エリアス)
「エンシェント・タートル…。様だ!!」
魔力感知の鋭い3人。
直ぐにその変化に気付いた様だ。
アイシスの手荒い歓迎を受け。
エンシェント・タートルはその意識を取り戻したのだ。
禍々しい程の魔力が周辺に溢れ。
周囲の景色がゆらゆらと揺らいでいる。
(エリアス)
「ち、違う!我々とは!」
「明らかに異なる次元!桁外れの!」
「禍々しい魔力の塊!」
「これが伝説の!精獣の力か!」
その立ち姿だけで、
大陸の副官を屈伏させてしまった。
ディープインパクトのメンバーが、模擬戦とは言え、全く歯が立たなかった。
そんなエリアス・ぺールが。
今は一匹の亀を前にして。
足が震え。肩をすくめている。
魔力感知が苦手なリナもまた。
周辺の気配を察知し、事態の深刻さを一瞬で理解していた。
『この相手には絶対に勝てない。』
『絶対に手を出してはいけない。』
その場にいる全員が、その点のみに意識を集中していた。
絶対に刺激してはいけない。
絶対に目をつけられてはいけない。
そうなれば最早、立ち向かう気力すら湧かない。
そんな空気が辺りを包んでいる。
そうそんな空気を読めない。
ただ一人の男を除いて…。
(悠)
「ええ~?うっそだ~!」
「見た感じ何も変わってないでしょ?」
「何も怖い様子もないよ~!」
「皆なに急に黙っちゃって~。」
「まさか俺のことビビらせる気なの~?」
「ほら、何も変わってないって~。」
「ほら顔。シワシワ~。ここ。ヨボヨボ~。」
「な~んも変わってないって~。」
「何をそんなに怖がってんのさ~。」
「なあ、じいちゃん。」
「何も変わってないよね?」
「意識ハッキリして良かったな!」
悠はエンシェント・タートルの顔をベタベタと触り。頭をポンポンと叩いている。
髭もグイ~っと引っ張り。ほっぺもつねる。
頬をすりよせ、ゲラゲラと笑っている。
(エリアス)
「おい!お主!正気か!?」
「本気なのか!?お前は何処までアホなのだ!」
「止めい!怒らせるな!早く帰ってこい!」
エリアスが慌てた様子で声を細め。
手招きをする。
(悠)
「またまた~。全然怖くないですって~。」
「寧ろちょっと可愛く思えて来ましたよ~。」
「ねぇ、じいちゃん。」
「寝てる所起こして悪かったね。」
「急に起きて大丈夫?血圧とか。」
「薬あるならちゃんと飲みなよ?」
悠はエンシェント・タートルと肩を組み。
顔を近付けて笑いかける。
皆が
「おい!よせ!止めろ!」
「お前マジでふざけんなよ!」
と慌てふためくが、気にかける様子もない。
そんな悠をエンシェント・タートルはジッと見つめたまま。声をかけた。
(エンシェント・タートル)
「おい、お主よ。」
(悠)
「お、どうしたじいちゃん?」
(エンシェント・タートル)
「お主はあれか?」
「あそこにいる皆の様にワシが怖くないのか?」
(悠)
「ああ、怖くないさ。怖いわけないだろ?」
「何たって男同士。一度会ったら友達だからな」
「いや、もしかしたら俺らはもう兄弟かもな。」
「な?ブラザー?」
悠はおもむろに親指を立て、エンシェント・タートルにウインクをした。
(エンシェント・タートル)
「ワシの見立ても鈍ったかの~…。」
「まさかこんな奴だとは…。」
「しかし、そうでなければ…。」
「う~む…。」
エンシェント・タートルは首を傾げ、何やらぶつぶつと呟き始めた。
(悠)
「おい、じいちゃん。どうしたんだ?」
「なんか困ってるなら相談しろよ。」
「俺達友達だろ?兄弟だろ?」
「俺に出来ることなら何でもするぜ!」
「俺は年寄りには優しいんだ。」
悠は再び肩を組み。顔を近づける。
(エンシェント・タートル)
「うむ。見せてやろう。」
(悠)
「お?何をだい?」
「おじいちゃん。何かお楽しみがあるのかい?」
(エンシェント・タートル)
「おお。楽しませてやる。」
「何せ兄弟だからな。」
「お主よ。ちょっとワシの正面に立て。」
悠は言われるがまま、エンシェント・タートルの正面に立った。
(悠)
「へい、じいちゃん。ここで大丈夫かい?」
(エンシェント・タートル)
「ああ、そこで良い。」
「今見せてやる。」
「少し待っておれ。」
そう告げると、エンシェント・タートルは再びうつ向き、何かを呟き始める。
(エリアス)
「おい!何をしておる!」
「早く下がれ!頭が高いぞ!」
「ホントに危ないぞ!バカかお主は!」
心配したエリアスが再度手招きをしている。
しかし、悠はそんなエリアスを鼻で笑い。
両手を広げて安全をアピールしている。
(悠)
「全く心配性なんだから~…。」
「エリアスさん。大丈夫ですって。」
「このおじいちゃん。」
「今から俺に何か見せてくれるって。」
「もうホントに友達ですよ。」
「今は異種間交流中ッスよ。」
悠は皆は何を過度に心配しているのだと。
顔は余裕で満ち溢れている。
(エンシェント・タートル)
「よし。良いぞ。お主よ。」
「死にたくなかったら、絶対に動くなよ。」
(悠)
「お、準備できた?」
「動くと死んじゃう?お~こわ。」
「了解したぜブラザー。」
「さて、何が出るのかな~。」
「じいちゃんだからあまり期待してないけど。」
「まあ、楽しく見せて貰おうかな。」
悠は両手を頭の後ろに組んで、エンシェント・タートルを見下ろしている。
エンシェント・タートルは無表情のまま、そんな悠を見つめていた。
(エンシェント・タートル)
「そうだな。派手にやっても仕方ない。」
「軽いやつでいこうかの。」
(悠)
「そうだよ。そんなにさ。」
「ハードル上げなくていいからさ。」
「ブラザーなんだし、気楽に見せてよ。」
「俺も期待してないって。」
「さあ、始めよ。どうぞ。どうぞ。」
悠はエンシェント・タートルに手を伸ばす。
(エンシェント・タートル)
「…。ふむ。では、いくぞ。」
「必殺、アルティメット~…。」
「カメカメ波~~!!!」
エンシェント・タートルは叫び声を上げ、目を見開いた。
すると口から。
「ジョロ…。ジョロロロ…。ジョロロロロ…。」
何とも情けない音と共に水が流れ落ちた。
(悠)
「アッハッハッハ~!!!」
「いきなり大声出したと思ってビビったら!」
「何だそれ!?小便!?」
「じいちゃん朝から下ネタかよ!?」
「ホントに止めてくれよな~!」
「なんかシワシワな亀の頭だし、悪いけど
尿漏れにしか見えね~って!!」
「やっぱりそっちも年には勝てねぇ~よな!」
「分かる!俺も最近よく振らないとダメ!」
「いやぁ~分かるよ!」
「アッハッハッハ!酷い!こりゃあ傑作だ!」
「いや~!最高の一発芸だな!」
「じいちゃんなのに体張るな~!」
悠はエンシェント・タートルを指差し。
腹を抱えてゲラゲラと笑っている。
(エンシェント・タートル)
「あれ?ジョロ…。」
「おかしいの~?ゴボボ…。オエ…。」
「久しぶり…。ゴボボ…。」
「だから…。ジョロロロ…。かの…。」
「ゴボボ…。オエ…。」
エンシェント・タートルは何かを話す度。
口から水が漏れ、嗚咽を繰り返している。
(悠)
「アッハッハッハ!今度は残尿かよ!」
「止めてくれよ!腹がちぎれちまう!」
「そっちもちょっと分かるんだよ!」
「やっぱり年には勝てないよな!」
「もういいよ!じいちゃん!」
「もう充分笑わせて貰ったからさ!」
「もうダメだって!女性陣もいるしさ!」
悠は涙を拭いながら、エンシェント・タートルの肩に手を伸ばす。
(エリアス)
「馬鹿者!何処までバカなのだ!」
「早く伏せんか~!」
(エンシェント・タートル)
「あ、出たよ。」
その瞬間。
一筋の閃光がエンシェント・タートルの口から放たれた。
閃光は悠の頬をかすめ。
エリアスの結界を撃ち抜き。
遥か先にある、山の先端を吹き飛ばしていた。
(エンシェント・タートル)
「ふぅ~…。やっぱり年かの…。」
「オエ…。出るまで…。ジョロロ…。」
「時間が…。ジョボボボ…。」
「かかる…。ゴボボ…。わい…。ジョボボ…。」
「確かに…。ジョロ…。これでは…。チョロ。」
「残尿…。チョロ…。じゃ…。テンテン…。」
エンシェント・タートルは、閃光を放った後も残った水分を口から吐き出し続けている。
最後はブルブルと顔をふり。
その姿は悠の述べた通り。
最早残尿のそれにしか見えない。
(悠)
「アハハ~…。そうだよね~…。」
「やっぱり年取ると、よく振らないとね~…。」
「まさに残尿だね~。アハハ~…。」
悠は頬を伝う血を拭きながら、呆然と破壊された山を見つめていた。
(エリアス)
「私の結界を、あれ程。いとも容易く…。」
「それを突き破り、山をも吹き飛ばすか…。」
「やはり本物だ…。」
「あの方は本物の…。」
「精獣…。エンシェント・タートル…。」
(エンシェント・タートル)
「ゴボボ…。あ、多分これで最後じゃな。」
「ホントにいやになるの…。」
「あ~、なんかまだ喉に残っとるかな~…。」
残尿感に苦しむ古の精獣。
彼の存在が、後に嵐を巻き起こす。