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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
95/114

○ 水の章 副官の目的Ⅲ

 ○ 改革のための強奪


 (エリアス)

 「私達は旧帝。そして執政部から奪い取った。」

 「権力及び教義の設定権を。」

 「大地の帝。ベルガリスの力を使ってな。」

 (悠)

 「前の帝達から奪い取った?」

 「大地の帝の力を使って?」 

 「それじゃあ、あの有名な

  大地の帝の政治力の高さを表す逸話は?」

 「多くの人を惹き付けるカリスマ性の逸話は?」

 (エリアス)

 「ああ…。あれか。」

 「あれもほとんど嘘だな。」

 「民主的に解決したと偽装させるため。」

 「現在の執政部により、

 かなり脚色を加えられておる。」

 「政治力やカリスマ性の高さは事実だが。」


 「全て奴が説得により解決した訳ではない。」

 「奴がしたのは、

  どちらかと言えば帳尻合わせだな。」

 「旧執政部も含めた、

  情報統制の類いの色合いが強い。」

 (マリエ)

 「な、何てことなの…。」

 「ステラに広められた改革はほとんど嘘で。」

 「元々あった執政部からは力付くで権力を奪い  とった?」

 「一体どんな手段を使えばそんな事が…。」


 誰もがあまりの衝撃に驚きを隠せなかった。

 これまで聞いていたステラの歴史。

 その一部はほぼ全て偽りであった。

 旧執政部は、半ば強制的にその権力を奪い取られ、現在は堕天者として現体制に復讐を企てている。


 そして、何より。

 目の前の人物は。その事件の主犯であるようだ。


 突然突き付けられた真実に。

 誰もが言葉を失っていた。


 (エリアス)

 「あまりの事に声も出ぬか…。」

 「まあ、驚くのも無理はない。」

 「この事実を知っているのは、 

 現在の執政部でも一部の人間に限られる。」


 「何せ現在の体制に対する、ステラの民の

 《求心力》にさえ関わる問題だ。」

 「今の体制や教義が略奪されて制定されたと知れ ば、一部の民が暴動を起こしかねないからな。」

 (リナ)

 「暴動?いくら何でもそこまで?」

 「だって、今の執政部に変わってから、教義やバ トルのルールは、いい方に改善されたはずで   しょ?」

 「戦争だって今は収まってる訳だし。」


 不思議そうに質問をするリナ。

 それに対しエリアスは黙ったままだ。

 そんなリナに対し、マリエが声をかける。


 (マリエ)

 「リナちゃん。恐らくそれは違うわ。」

 「確かに、私達から見れば、今の教えの方が平和 的でいい物に感じられる。」

 「けれど…。やっぱり違う人もいるのよ。」

 (エリアス)

 「うむ。そうだな。」

 「いい方に変わったと感じておる者も確かにお  る。」

 「だが、教義が変更されてからまだ8年。」

 「未だに以前の教義に執心し、現在の教義を受け 入れられぬ者も多数おるのが現実なのだ。」

 (リナ)

 「ええ!?どうしてよ!?」

 「戦争は起きない、戦いで命は落とさない。」

 「いい事ずくめじゃない。」

 「新しい教義に何の問題があるのよ?」

 (レイナ)

 「ああ…。そうか…。リナちゃん。」

 「恐らくそれが、私達との文化の違いなんだ。」

 (リナ)

 「文化の違い?」


 (マリエ)

 「ええ、その通りね。」

 「ステラの民は、長きに渡る戦争の中で、帝や精 霊の為に、命を捧げる教えを是として受け入れて きた。」

 「それが正しいという教義を、心から信じて。」


 「それがある日、突然命を捧げるかつての教義は 否定され、現在の平和的な新たな教義に変更され た。」


 「例えそれが、客観的には改善策に見えたとして も、彼らは長い歴史を、その教義を信じて生きて きたの。」

 「中には近しい人を、以前の教義を信じて亡く  してしまった人も沢山いるはず。」

 

 「こういうのは恐らく…。」

 「《変わる》という事自体が大きな問題。」

 「変わる方向は関係ないのよ。」

 「良くなろうが、悪くなろうが。」

 「変わってしまう事自体が、世界中の人々の感情 を刺激してしまうの。」


 「今までの教義は何だったのか。」

 「教義を信じ犠牲になった人は報われるのか。」

 「今まで自分が費やした時間は何だったのか。」

 「そもそも新しい教義は本当に正しいのか。」


 「溢れでる感情は、ほぼ百パーセント負の感情に 支配されている。」

 「それがもし、無理矢理ねじ曲げられた教義だと 分かれば…。」

 (レイナ)

 「やっぱり暴動は…。避けられない…。」

 (エリアス)

 「うむ。そういう結論になるであろうな。」


 エリアスは腕を組み、黙って大きく頷いた。


 (リナ)

 「嘘でしょ…。」

 「じゃあ、今の執政部はそれを承知で?」

 「自分達は恨まれるしか道がないのを知って?」

 (エリアス)

 「ああそうだ。それを承知で奪ったのだ。」

 「それが《正しいこと》だと信じて。」

 「長きに渡る戦争を終わらせるためには。」

 「《それしかない》と信じてな。」


 (悠)

 「マジかよ…。」

 「そこまでの覚悟を持って、

 今の執政部の人たちは…。」

 「けれど《奪った》と言うなら、堕天者になっ  てる執政部の連中が騒ぎ出せば、直ぐにバレちま うんじゃ…。」

 (エリアス)

 「正にその通りだ。」

 「だから我々はベルガリスの力を使ったのだ。」

 (悠)

 「力を?大地の帝に一体どんな力が?」

 「まさか催眠術とか…。」


 (エリアス)

 「たわけが。奴の心具に決まっておろう。」

 「奴の心具はな、勝敗に関してはかなり不確定だ が、代わりに相手に特殊なルールを強いる事が可 能なのだ。」

 「これによりある程度、その後の対戦相手の行動 を制限することができる。」

 「そのルールを使い、我々は旧執政部に対し、

 革命に関する事実を口止めしたのだ。」

 「約束を破れば、命をもって償う。」

 「そういうルールを使ってな。」

 (悠)

 「相手の行動を制限する心具!?」

 「心具には、そんな特殊な力が付いてる物も存在 するのか!?」


 (エリアス)

 「ああ、そうだ。かなり貴重な能力だがな。」

 「しかし、心具とはその者の心の形。」

 「相手を思い通りに操りたいという想いが強けれ ば、そういった類いの武器が発現する可能性はあ るのだ。」


 「実際に発現させ、自由自在に使用するにはかな りの資質が必要だろうがな。」

 「まあ、その点。奴は帝足り得る器だ。」

 「発現するに足る資質は持ち合わせておる。」

 「つまり奴だからこそ、

  使用可能な力と言えるだろうな。」


 (悠)

 「マジかよ…。」 

 「そんなチートみたいな心具まで使われちゃあ、 勝ち目なんてねーじゃんか。」

 「全く俺らとは格が違う…。」

 (マリエ)

 「ホントに…。嫌になるわ。」

 「何だか話だけで気が滅入りそうね。」


 ステラの教義。帝の心具。

 口を出るその全てが驚愕に値するものばかりだ。

 最早誰も、頭の整理が追い付いていない。


 (エリアス)

 「驚き過ぎて声も出ない様だな。」

 「だが奴とて、何の代償もなしに相手の行動を制 限する程の力を使える訳ではないぞ。」

 (マリエ)

 「…?どういう意味かしら?」

 (エリアス)

 「奴の力はな。」

 「一種の賭け事の様な物なのだ。」

 

 「此方が相手に条件を強いる事は出来るが。」

 「同時にそれに見あった代償を支払う必要があ  る。」

 「現在帝の地位に着いている人間は。」

 「それに見合うだけの

 代償も支払っていると言う事なのだよ。」

 (レイナ)

 「帝の地位に見合うだけの代償!?」

 「そんなの一体何を支払えば…。」


 (エリアス)

 「そうだな。あまり詳しい事は言えぬが。」

 「ある者は五体の一部を。」 

 「ある者は重ねた年月を。」

 「そしてある者は…。」

 「最愛の人間を…。だな。」

 「まあ、とにかく。皆、とても大きなものだ。」

 「心が抉られる様な。」

 「大切なものを彼等は皆、失っておる。」


 (マリエ)

 「制限なく使える力ではない。」

 「それでもやはり貴女達は今の道を選んだ。」

 「誰からも賞賛されないいばらの道を。」

 「ホントに底知れぬ覚悟よね。」

 「けれど、そんな話。私達にして良かったの?」


 (エリアス)

 「まあ、私もバニスターの親書が無ければここま で話すつもりは無かった。」

 「だが、お主らは知っておいた方が良い。」 

 「何故だかそんな気がするのだ。」 

 「そう判断したから話したのだよ。」

 

 (悠)

 『親書…。そういえば渡していたっけ…。』

 『結局あれには何が…。』

 『そんなに大事な内容だったのかな?』


 (マリエ)

 「何となく話は見えてきたわ。」

 「今の執政部は、旧執政部から権力を奪った。」

 「大地の帝の心具を使って。」


 「けれど、無理矢理奪うという行為は、これまで の教義を信じてきたステラの民の不信感を強めて しまう。」

 「教義を変更するだけでも、民にとって大きなス トレスになるのに。」

 「強奪したという刺激は、現執政部への反乱因子 を強めてしまう。」


 「だから全てを隠した。」

 「民主的に、平和的に。」

 「今の教義は制定されたのだと。」

 「経緯を改編してでっち上げて。」


 「貴女達はステラの民を騙している。」


 「そして加えるなら。その強奪により。」 

 「旧執政部に恨みを買い。」

 「命を狙われる形になった。」

 「だからカイミさん?の動向を探っている。」

 「これも民にはバレない様、

  慎重を心がけながら。」


 「失ったものも多いけれど。」

 「結局全ては身から出た錆。」


 「つまりはそういうことなのよね?」


 マリエが真に迫る表情でエリアスを見つめる。

 他のメンバーは二人のやり取りを、ただ黙って見つめていた。


 (エリアス)

 「ふむ。正にその通り。」

 「ぐうの音も出ない程。完璧に理解しておる。」

 

 「因みにカイミはな、アイシスの実弟であり。」

 「同時に次期帝候補であった。」

 「父親はアイシスよりも

  カイミを高く買っておってな。」

 「恐らく後継者にはアヤツを指定するつもりで  あったのだろう。」


 「アヤツは昔から素直ないい子供でな。」

 「私にもよくなついてくれたよ。」

 「父親同様に、旧教義を深く信じておった。」

 「疑うという行為自体を知らぬかの様に。」

 「父親を尊敬し、精霊を敬愛していた。」


 「だから私達は…。」

 「改革の仲間にアヤツを含めなかったのだ。」

 「旧教義を変更すると知ると、恐らく大きく揉め る事になるだろうからな。」

 「アヤツの素直さは、改革には向かん。」

 「恨まれるのを承知で、

  アイシスと共にそう決断したのだ。」


 「私達が裏切り。帝を失脚させた事を知ると。」

 「アヤツは深く憔悴しておったよ。」

 「あの時のアヤツの顔を…。」

 「私は生涯忘れる事はないだろうな。」


 「そう…。全ては身から出た錆。」  

 「私達が命を狙われるのは当然だ。」


 「本当に、その一言に尽きるのであろうな。」


 エリアスは腕を組んだまま。

 とても寂しそうに空を見つめた。

 カイミと言う男性は、彼女にとっても親しい仲であった様だ。

 その表情を見て、皆は胸が締め付けられる思いがしていた。


 (リナ)

 「ちょっと!なによそれ!?」

 「何でアンタは何も否定しないのよ!?」

 「アンタ達にも、何かあったんでしょ!?」

 「教義を変えなきゃいけない!」

 「平和にしなきゃいけない!」

 「そういう想いがあったから、

  親しい人を裏切ってまで!」

 「自分達も辛い思いをしてまで!」

 「前の執政部を倒したんじゃないの!?」


 「大事なのはそういう所でしょう!?」

 「誰かの為に犠牲になった訳じゃない!」

 「皆が幸せになって欲しいとか!」

 「そういう気持ちとか、想いとか、 

  大事な部分も伝えてくれないと!」

 「私バカだから全部鵜呑みにしちゃうわよ!」

 「これじゃあアンタの事、

  本気で嫌いになっちゃうじゃない!」


 沈黙を破ったのはリナであった。

 眼にうっすらと涙を浮べ、声を荒げる。

 彼女の想いが、周りの仲間にも伝わってくる。


 (レイナ)

 「リナちゃん…。」

 「リナちゃんはやっぱり格好いいね。」


 レイナだけではない。

 皆がそう感じていた。


 彼女は信じているのだ。  

 すべてを理解した上でも。

 教義はいい方向に変わったはずだと。 

 争いのない世界の方が絶対に正しいはずだと。

 経緯はどうであれ、今の執政部の想いに間違いはないはずだと。


 彼女は感じているのだ。

 エリアス達の想いを。辛さを。

 誰かが理解してあげなければならないことを。

 自分にとっては、彼女達が正しいのだと。

 伝えなければいけないのだということを。


 (エリアス)

 「ふふ。なんなんだお主は。」

 「本当に変な奴だのう。」

 「いや、思ったよりもずっと…。」

 「優しい奴なのだろうな…。」

 「ありがとう剣士よ。いやリナと言ったかな。」

 (リナ)

 「な、何よ~変な奴って。バカにしてんの~。」 

 リナはグシグシと袖で涙を拭いている。

 泣いているのが恥ずかしい様で、赤らんだ顔を隠している。

  

 (エリアス)

 「いや、違うさ。感謝…。している。」

 「分かってくれる者もいてくれるのかと…。」

 「心の底から安堵しておるよ。」

 (リナ)

 「え?」

 (エリアス)

 「お主はどう思うかは分からんがな。」

 「私達がしたことは。してしまったことは。」

 「絶対に許される事ではないのだ。」


 「例え世界が平和になったとして。」

 「例え沢山の人々が幸せになれたとして。」

 「そのやり方は許されていい物ではない。」


 「こんな民を騙す様なやり方では。」

 「これまで幾度となく積み重ねられた。」

 「沢山の人達の想いを、願いを、

  全て踏みにじっているのだからな。」


 「もしかしたら、民にとっては…。」

 「以前の教義の方が良かったのかもしれん。」

 「私達が争いを無くしたいと思い。」

 「平和な世界を願い。」

 「そうやって無理矢理ねじ曲げた教義は。」

 「本当は誰も望んでいなかったのかもしれん。」

 (リナ)

 「ちょっ!そんなこと!」

 (エリアス)

 「いいのだ。いいのだよ。」

 「私達はそれでもいいのだ。」

 「例え民に恨まれようと。」

 「未来の世界で愚行と罵られようと。」

 「私達はそれでも構わないのだ。」

 

 「それ位の事をした自覚もある。」

 「罰されるべきだという意識もある。」


 「だがそれでも!」 

 「変えねばならんのだ!」

 「これ以上悲劇を産み出さない様に!」 

 「今の子供達が、笑って!」

 「安心して暮らしていける様に!」


 「誰かが変えねばならないのだ!」

 「例え恨まれようと、憎まれようと!」

 「新しい教義は、ステラを平和に導くはずだ!」

 「そう信じたからこそ!」

 「私達は多くを犠牲にして、

 今の立場に立ったのだから!」


 エリアスはそう叫ぶと、肩で息をしながら俯いていた。

 それを見たリナが呟く。


 (リナ)

 「なんだ。アンタ結構優しいじゃない。」

 「ステラの皆の為に、涙まで流してさ。」

 (エリアス)

 「うるさい…。黙れ小娘が。」


 そう言い合いながら、エリアスは涙を拭いた。

 そして二人は見つめあって笑ったのだ。


 『この二人意外に気が合うのかもしれないな。』


 悠は二人を見て、そんな思いにかられていた。


 (マリエ)

 「何だかとてもいい物を見せて貰ったわね。」

 「私もちょっとウルッと来ちゃったわ。」


 「けれど、副官さま?」

 「私達をここに呼んだのは、

 他にも理由があってのことではなくて?」


 (エリアス)

 「おおすまん。そうであった。」 

 エリアスはグシグシと袖で涙を拭いている。


 (エリアス)

 「ふむ。そうであった。」

 「お主らを呼んだのは他でもない!」

 「そこにおる魔法使い!」

 「お主に頼みがあっての事なのだ!」


 エリアスは真っ直ぐにレイナを指差した。

 

 (レイナ)

 「ええ!?わ、私ですか!?」  

 「な、何でしょうか!?」

 「私に出来ることでしたら…。」


 突然指名され。

 レイナはオロオロと動揺を隠せない。


 (エリアス)

 「うむ!魔力量が桁外れなお主こそが適任だ!」

 「それを見込んでの頼みなのだが…。」

 (レイナ)

 「は、はい!何でしょうか!?」

 (エリアス)

 「まあ、そう緊張するな。」

 「簡単な話だ。気をはるものではない。」

 「それで当の頼みなんだが~…。」


 「魔法使いよ。」

 「お主、ウチの亀の餌になってはくれぬか?」


 (レイナ)

 「…。え?エサ?」


 (ディープインパクト)

 「な、なんですと~~!?」


 エリアスの真意は一体…。

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