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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
86/114

水の章 対エリアス・ペール 第2ラウンドⅥ

 ○ 先のレベルへ

 

 (リナ)

 「これで終わりだ!!エリアス・ペール!!!」

 (エリアス)

 「あまり舐めるなよ!!この若造が~~!!!」


 パアアアアアン!!!!


 ビリビリビリビリ!!!!!!


 両者の渾身の一撃が、闘技場中央でぶつかり合った。

 闘技場に凄まじい破裂音が響く。

 その衝撃は闘技場全体の空気を震わせた。


 あまりの衝撃の大きさに、観客やディープインパクトのメンバーは、思わず耳塞ぎ、体を丸めた。


 (観客)

 「うわ!!なんつー衝撃だ!!」

 「闘技場全体が波のように震えてやがる!!」


 観客も驚きを隠せない。


 (悠)

 「な、なんて破裂音だ!!」

 「咄嗟に耳を塞いじまった!!」

 「二人は!?」

 「バトルの結果は!?今の攻防!!」


 「どっちに軍配が上がったんだ!?」


 悠は直ぐに顔をあげ、闘技場の中央を見つめる。


 二人が激しくぶつかり合った余韻か。

 闘技場中央には、土煙が立ち昇っている。


 その中には、佇む二人のシルエット。


 次第に煙が晴れ。

 現れる二人の姿。

 

 果たしてこの勝負の軍配は…。


 (観客)

 「おお!見ろ!あの二人!!」

 「あれは間違いなく!!」


 (マリエ)

 「あの様子…。この攻防、間違いない…。」


 「二人の攻撃のスピード!威力!」


 「共に…。《互角》!!!」


 煙が晴れ。姿を現す。

 そこには…。


 二人がもの凄い形相で攻撃を押し込み。

 拳と剣でつばぜり合いをしている姿が映し出された。

 

 (エリアス)

 「互角だと!?あの一撃と!?バカな!?」

 「こやつの一撃が、あの技のレベルにまで達したと言うのか!?」


 力を込めた一撃がリナと互角。

 この一撃で沈めるはずであった。

 しかし、リナは無傷で自分に刃を向けている。


 この状況に、一番衝撃を受けたの、攻撃の張本人である、エリアス本人の様だ。


 方やリナは…。


 (リナ)

 「ウッソでしょ!?これでもダメなの!?」

 「間違いなく仕留めたと思ったのに!!」

 「なんでアンタ普通に立ってんのよ!?」


 「しかもまた手なの!?どうなってんのよ!?」

 「本当にどんだけしつこいの!?」

 「不死身か!?アンタは!?」


 リナもまた。

 自身の渾身の一撃に、揺るがない手応えを感じていた。

 しかし、その一撃もこれまでと同じ。

 エリアスに生の拳で防がれたことに対し、驚きを隠せない。


 二人は互いの状況に困惑していた。

 しかし、攻撃の手を休めることはなく。

 つばぜり合いをしながら、顔を近づけ睨みあう。


 (観客)

 「ウオ~~!!スゲエ!!」

 「あの衝撃で二人とも立ってるよ!!」

 「信じらんね~~!!二人とも化け物かよ!?」


 あまりにレベルの高い攻防に、観客たちは総立ちとなり歓声を上げる。

 そして、実況者も同様に、沸き上がる興奮を押さえることが出来ない。


 (実況)

 「こ…。これは…!」

 「何というハイレベルな攻防なのでしょうか!」

 「リナ選手が、突如物凄いスピードを見せたと思っていたら…!」

 「エリアス様は、そのスピードにきっちりと合わせ相殺!!」

 「互角の攻撃を叩き込みました~!!」

 「私も含め、あまりの攻防に、声を失った方は多かったのではないでしょうか~!!」


 「そして…。皆さんが何よりも驚いたのは…。」

 「やはり、リナ選手の攻撃に対して…。」

 「ではないでしょうか?」


 「彼女がまさか、ここまで善戦するとは…。」

 「バトルの前。帝様に剣を向けた無礼者が。」

 「まさかこれ程までに、あのエリアス・ペール様に立ち向かえるとは…。」


 「一体誰が想像できたでしょうか…?」

 「少なくとも今の攻防を見て…。」  

 「私には彼女への、賞賛の感情すら沸き上がり始めています…。」  

 「なんて素晴らしい剣士なのだろう…。と。」


 「不届きものと思われるかもしれませんが…。」

 「私は今、震えています…。」  

 「戦いを通して、みるみる成長を遂げていく彼女の姿に…。」

 「強い相手に真剣に立ち向かう…。」 

 「そんな彼女の姿勢に。」


 「そしてもしかすると…。」  

 「このバトルは彼女…。」

 「彼女がこのまま、成長の糧にしてしまうのではないか…。」

 「そんな考えさえ。思い描いてしまうのです。」


 実況は思わず、立場を忘れ。

 本音を口にしてしまったのだろう。

 普段なら観客に配慮し、無礼者のリナに対する賞賛の言葉など、口にすることなどしないはず。


 しかし、彼が思わず口に漏らした通り。 

 闘技場には既に、そんな彼の言葉を嘲笑する者など一人もいなくなっていた。


 皆、既に気付いていたのだ。

 あの世間知らずの無礼者が、ただの口だけの若造ではないことに。

 あの若造が、口にする強気な言葉には。

 それを裏付けるだけの、根拠があることを。


 いや、これには少し語弊があるのかもしれない。

 これはリナが皆に《気付かせた》結果なのだ。 


 彼女が口にする自信が。不遜な態度が。

 振る舞いが。視線が。挙動が。 

 人を刺激するその全てが。


 一点の曇りもない。  

 本物の実力に裏付けられているのだという事実を。 

 リナは大観衆の前に叩き付け。

 そして証明して見せたのだ。


 齢僅か20の若い女性が、ここに集う多くの人間を、自らの資質により力づくで黙らせた。


 その事実を目の当たりにし、悠は心の中から沸き上がる興奮を押さえきれず。

 その身を小さく震わせていた。


 (悠)

 『スゲエ!本当にスゲエ!』

 『あのヤロー!本当に会場を実力で黙らせやがった!!』

 『仲間である俺たちでさえ、こんなこと絶対に不可能だと思っていたのに!』


 『アイツは本当に…。』

 『自分を曲げず!信念を曲げずに!』

 『戦いのなかでより強い力を手に入れて!』

 『本当にやり遂げやがった!』


 『こんなことが…。現実に起こり得るのか…。』

 『周りに無理だと笑われようと…。』

 『誰もできないと諦めていようと…。』

 『自分を信じ…。努力を惜しまなければ…。』


 『いつか俺も…。』 

 『アイツみたいに…。』  


 悠は震える体を押さえながら、リナに対しこれまでの人生では、経験し得たことの無いほどの。

 深い興奮と尊敬の念が、全身から沸き上がるのを感じていた。


 人をこれ程迄に敬い。

 羨望したことなどあっただろうか。


 自分の中から沸き上がる。

 そんな新しい感覚を前に。

 悠は自らの可能性も試してみたいという、強い欲求に駆られ始めている自分に、気づかずにいた。


 そして闘技場中央。

 つばぜり合いはしばらく続き。


 互いに感情が高まっている二人は、興奮を抑えきれず罵りあう。 


 (エリアス)  

 「ふざけるなよ!この若造が!!」

 「私の一撃を受けて吹き飛びもせずに無傷!?」

 「そんな事有り得るはずがない!!」

 「キサマ!一体どんなペテンを使った!!」

 「このペテン怪力女!!」


 (リナ)

 「ああ!?ふざけんじゃないわよ!!」

 「アンタこそ、私の渾身の一撃を受けて、何普通に立ってんのよ!!」 

 「アンタの方が絶対に何か使ってるでしょ!?」

 「この年増怪力ババア!!」


 (エリアス)

 「誰がババアじゃ!!」

 「こう見えても、私はまだ20代だ!!」

 「お姉さんと呼べ!!お姉さんと!!」

 (リナ)

 「残念でした~~!!」

 「私は20歳丁度なのよ!!」

 「アンタとは、攻撃の《鮮度》が違うのよ!鮮度が!!」

 「アンタの攻撃は鮮度不足なのよ!!」

 「ツヤツヤの私とは質が違うの!!」


 (エリアス)

 「ふざけるなよ小娘!!」

 「昔から女は30から。と言う言葉があるのを知らんのか!!」

 「人として!女性として完成するのは30歳からと相場は決まっておる!!」


 「故に私の攻撃は、お主のソレとは《完成度》が違うのじゃ!!」

 「お主の酸いも甘いも知らん一撃など、なんの色香もないわ!!」

 「攻撃においても人を惹き付ける!!」

 「これが本来の女性の!私の魅力じゃ!!」


 (リナ)

 「ハア!?何言ってんのよ!?」

 「30からとか、どう考えても逃げの一手じゃない!!」 

 「広告業界の誇大表現に踊らされちゃって、本当に可哀想なおば様ね!!」


 「いい!?生物学的に見ても、人間のピークは20歳前後なのよ!!」

 「つまり20を境に、人は動物としてのピークを終えているの!!」

 「つまり、残りは余生なのよ!!」 

 「ピークを終えた生き物が、その後の生活を楽しむための時間なの!!」

 「分かる!?つまりアラサーのアンタは、既に生き物としてのピークを終えているの!!」  

 「30からとか甘いことばかり言ってるから、そうやって結婚できずに売れ残るのよ!!」


 「そうよ!アンタこそ少子化の原因そのものじゃないの!!」

 「少子化社会の生き証人じゃない!!」

 「本当にムカつくわ!!」

 「私たちはね!!アンタみたいなのが増えたせいで、将来年金貰えるか分かんないのよ!?」

 「私の老後の不安は、アンタのせいでもあるの!」

 「万が一生活出来なかったら絶対に許さない!」

 「もしそうなったら、せめて私が払った分くらいは、アンタが返しなさいよ!」


 その言葉を聞き、エリアスは一瞬顔を伏せる。

 そして、リナの剣を弾き、一度リナから距離を取る。


 (エリアス)

 「…ないじゃろ…。」

 (リナ)

 「は!?何よ!?全然聞こえないけど!!」

 (エリアス) 

 「…から…。ないじゃろ…。て…。」

 (リナ)

 「だから聞こえないのよ!!」

 「何なのよ!年取ると声まで小さくなんの!?」

 「もっとハキハキ喋りなさいよ!!」

 「受付ならクレームくるわよ!?」

 「これだから年増の売れ残りは…。」

 (エリアス)

 「だからバトルと私が結婚できないのは関係ないじゃろと言うとろうが!!!」

 「このバカちんが~~!!!」


 バカちんが~~…。バカちんが~~……。

 ちんが~~…。ちんが~~………。


 エリアスの悲痛な叫びは、山彦となりステラ中に響いた。

 その余りの悲壮な言葉に、多くの独身女性が共感し、拍手を送った。

 そして、彼女は多くの女性の支持を受け、将来的に女性のキャリアアップの理想形として、ステラ中に名を轟かす事になる。


 しかし、それはまた別の話…。


 シ~~~~ン………。


 エリアスの魂の叫びに、闘技場はひっそりと静まりかえった…。

 暫しの静寂が皆を包む。


 そして、闘技場にいる全ての人間が理解する。


 やはり帝の右腕と言われる人物と言えど、デリケートな部分は存在するのだと。

 どんなに強くても、やはり彼女は一人の女性なのだと。


 (リナ)

 「ごめん…。なさい…。」

 「ちょっと勢いで…。」

 「言い過ぎました…。」

 「本当に申し訳ありませんでした…。」


 必死に涙を堪えるエリアスを見て。

 リナは素直に謝った。


 その様子を見て、ディープインパクトの面々は、優しい微笑みを浮かべていた。


 (悠)

 『そうだぞリナ。今のはお前が悪い。』

 『どんなに相手が憎くても、敬意を失ってはいけないんだ。』

 (マリエ)

 『ええ、そうね…。』

 『相手を倒そうとする気持ち。』

 『負けず嫌いな事は悪い事じゃない。』

 (レイナ)

 『けれど、人の弱味につけこんで、相手の《心》を傷付ける。』

 『これは《ダメ絶対》。』

 『人としてモラルは、最低限保たなくてはいけないよ。リナちゃんなら分かるでしょ?』


 (悠)

 『リナも二十歳。立派な大人だ。』

 『もういい年なんだから、相手の気持ちには配慮しよう。』

 『君はそれが出来る娘。』

 『うん、僕信じてる…。』

 (マリエ)

 『貴女はきっと、これからもっと沢山の事を経験して、もっと沢山の人と出会って…。』

 (レイナ)

 『傷付けて…。傷付けられて…。』

 (悠)

 『悩んで…。悩んで…。悩みぬいて…。』

 (マリエ)

 『それでも、やっぱり大切って思える人がきっと現れる。』

 (レイナ)

 『それがきっと…。リナちゃんにとって、本当に大切な存在…。』

 (悠)

 『大切な友達…。』

 (マリエ)

 『本当の仲間…。』

 (レイナ) 

 『さあ!手を取って!』

 (悠)

 『一緒に踊ろう!』

 (マリエ)

 『きっと素敵なワクワクが待ってる!!』

 (レイナ)

 『イエス!イッツアパーティナイ!!』

 (ディープインパクト)

 『ボンバヘッ!!ヨォ!ヨォ!』

 『ボンバヘッ!!イエスカマン!!』

 『ボンバヘッ!!ヨォ!ヨォ!』

 『ボンバヘッ!!イエスパーティナイ!!』


 『うふふ…。素敵な夜ね…。』

 『オラワクワクすっぞ!!』


 『ボンバヘッ!!ヨォ!ヨォ!』

 『ボンバヘッ!!イエスパーティナイ!!』

 『レッツトゥゲザ~~!!』


 (三人)

 「うふふ…。パーティナイ…。」

 「セイ!ボンバヘッ…。うふふ…。」


 三人は笑顔で涎を垂らしながら、リナを見つめている。

 その顔は、仲間の成長の喜びを感じ。

 とても幸福感と充実感に満ち溢れていた。


 (悠)

 『きっと…。きっと届いてる…。』

 『俺たちの心…。』

 『俺たちのボンバヘッ!!イエス!カマン!!』


 それを遠くから見ていたリナは…。


 (リナ)

 『あいつらヤベエ…。』

 『なんか涎垂らしながらこっち見てる…。』

 『絶対にヤベエもんに手ぇ出してる…。』 

 『私がしっかりしないと。』

 『私が皆の社会復帰を促さないと!』


 一人クランの将来を嘆いていた。

 

 そして、二人の舌戦により、何人かの脳内がお花畑に包まれた後。

 

 エリアスの心は不思議と落ち着き。

 (周りがお花畑状態と確認した事で、逆に自分は冷静さを取り戻す。所謂逆療法効果である。)


 バトルは再び、緊迫の時を迎える…。

 

 (リナ)

 『悠兄たちのバカ面を見て、コイツの眼に力が戻った!?』

 『何してくれてンだ!』

 『あのボンバヘッ軍団!!』


 リナにはきちんと、皆の心は伝わっていた。


 (リナ)

 『ん?まてよ…。なんだこれ?』


 ふと、リナは自分の心具に違和感を覚え、不思議そうに自らの剣を見つめ始める。

  

 それに気が付き、エリアスが声をかける。


 (エリアス)

 「少しばかり横道にそれておったが…。」

 「なんじゃ小娘?自分の剣など見つめおって。」

 「心具に歯零れでも見つけたか?」

 

 「まあ、当然じゃろうな。」

 「先の一撃…。私もある程度力は込めておる。」

 「お主の軟弱な心具程度が、無傷で受け止められるハズがな…。」

 (リナ)

 「水…?」

 (エリアス)

 「なに?」

 

 エリアスの言葉を遮るように、リナは自らの剣を指差す。

 リナの表情は自然と緩み、自ら辿り着いた結論を示すようにエリアスに語りかけた。


 (リナ)

 「ねえ?大陸の副官さま?」

 「私の剣。不思議な事に水がついてるのよ。」

 「水を切った覚えなんてないのに。」

 「これはおかしいわね。」

 「きっと何か原因がある…。」

 「自然に濡れるはずはないし…。」

 「きっと何かしらの裏があるはず…。」


 (エリアス)

 「ほう…。何が言いたいのだ…?」


 (リナ)

 「いえね…。ただ貴女がさ…。」

 「どうして私の攻撃を素手で捌けるのか…。」

 「私はずっと不思議だったんだけど…。」


 「何だか物凄い単純な仕組みなんじゃないかって。」

 「言われてみたら、なんだ当たり前じゃないって。」  

 「今はそんな結論が導き出せそうなのよ。」


 (エリアス)

 「ほう…。つまりは私の力…。」

 「その使い方に気が付いた…。そう言いたい訳だな…。」


 これまで絶対的な自信を見せ続けたエリアス。

 リナの言葉に、ここで始めて若干の動揺の色を見せた。

 額から一筋。汗が流れる。

 

 (リナ)

 「いえね…。単純に閃いただけなんだけど。」 

 「もしかしたら、刃先に着いた水。」

 「これが答えなんじゃないかと思って。」


 (エリアス)  

 「・・・・。」


 (リナ)

 「黙りは寂しいわよ。エリアス・ペールさん。」

 「そう。アンタは攻撃を捌くときには、水の膜を手や体に纏っていたのかなって。」

 「だから剣を直接触れたし。」

 「当たったはずの攻撃で無傷だし。」

 「当たった時に不思議な破裂音がした…。」

 

 「貴女は水の使い手なんだから当然なんだけど」

 「魔力の気配に疎い私は気付かなかった。」


 (エリアス)

 「・・・・・。」


 エリアスは拳を握りしめ。

 焦りの表情を浮かべる。


 (リナ)

 「けれど今は気付けた…。」

 「単純なことだけど、私にとってこれは大きい」


 「魔力に疎い私は、より《速さ》を追求することで、貴女の能力の本質に気が付いた。」

 「自分の長所を伸ばすことで、短所を補え始めているんだ。」


 「やっぱり間違っていないんだ。」

 「私が追求すべきもの。」

 「私は今、確信を手に入れた気がするの。」


 リナはゆっくりと剣を上げ。

 それをエリアスに見せるよう差し出した。

 

 (リナ)

 「魔力に疎く、弱点も多い!!」

 「それでも私が求めるもの!!」 


 「それはやっぱり《速さ》だ!!」


 「速ければ攻撃は捌かれない!!」

 「速ければ相手の判断は鈍る!!」

 「相手の攻防の手段を掴むことも出きる!!」


 「帝の副官のアンタに通用するんだ!!」

 「この通が間違っているはずはない!!」


 リナの表情は一層明るくなり。

 心なしか更に自信を深めている様に見える。


 それに対し、エリアスは…。


 (エリアス)

 『クソ!まさかこんな小娘に私の能力の本質を悟られるとは!!』

 『確かに私の長所は、繊細な魔力制御と武術を融合させた総合体術!!』

 『全身に不可視の水を纏い、武術を合わせて攻守両面を磐石なものとする力!』


 『普段は相手に纏った水に気付かせるなどのヘマなどせんのだが…。』

 『如何せんアヤツは《速すぎ》た!』

 『高い攻撃力とスピードに対し、魔力制御が追いつかんかった…。』

 『何処かのタイミングで制御を過った…。』


 『いや、私の制御を上回ったのだ!』

 『他ならぬアヤツの《資質》が!』

 『私のこれ迄の鍛練を!』

 『一瞬にして上回ってみせたのだ!』


 エリアスは悔しげな表情でリナを見つめる。


 (エリアス)

 『もしかすると…。』

 『私は、とんでもない才能を目覚めさせてしまったのかもしれない…。』


 『こやつの表情。自信。真っ直ぐな視線。』

 『今や迷いなど一切ないのだろう。』  


 『しかしてコヤツは未だにCランク。』

 『まだまだ発展途上…。』  

 『延びシロは十分に備わっている…。』


 『つまりは素材だけでこのレベル!!』

 『強くなるのはこれからと言うこと!!』

 

 エリアスは冷や汗をかき、リナを見上げた。


 (エリアス)

 『私ですら想像していなかった!』

 『コヤツのこれ程迄の成長を!』  

 『まさかここまで追い込まれるとは…。』

 『余り出し惜しむのも失礼かもしれんな…。』


 ニヤッ


 エリアスは不敵な笑みを浮かべ、両手を腰にあてがい、胸を張った。


 (エリアス)

 「リナと言ったな。お主の戦いに挑む姿勢。」

 「見事であった。」

 「ここまで真摯に戦いに向き合い。」  

 「短期間に急激に力を伸ばす事例など、早々見受けられるものではあるまい。」


 「非常に興味深い経験であった。」

 「素直に称賛し、感謝したい。」


 エリアスの態度の変化に少しの苛立ちを覚え。

 リナは剣を構え直し、エリアスに問いかける。


 (リナ)

 「急にどうしたのかしら?」

 「ただの負け惜しみ?」

 「それとも勝てないと分かって、敗戦の弁を述べたつもりかしら?」

 「どちらにしても直ぐに終わらせてあげる。」


 「《私はまだまだ強くなれる。》」

 

 「貴女のお陰でそれに気づいて、私は今。」

 「興奮を押さえられないのよ。」


 「さあ、さっさと構えなさい。」

 「私は更にスピードに磨きをかけて。」

 「アンタの水の膜なんか、一瞬で切り裂いて見せるから。」


 リナは既に臨戦態勢。

 戦いの再開を、今や遅しとまっている。

 戦いたくてウズウズしている。

 リナの表情には、そんな気持ちがハッキリと現れていた。

 

 フ~~~~。


 エリアスは深く溜め息を付き、再びリナに視線を向け直した。

 そしてリナに対し、驚くべき言葉を口にした。


 (エリアス)

 「小娘…。いやリナよ。」

 「私が今話したことは、負け惜しみでも敗戦の弁出もない。」


 「素直にお主の成長に驚き。称賛しておる。」


 (リナ)

 「へ~~。それは嬉しいわね。」

 「なら貴女が認める成長著しい若手の手で。」

 「これから水の大陸の副官という重責からも、私が解放して…。」

 (エリアス)

 「じゃがリナよ。」

 (リナ)

 「?」


 言葉を遮られたリナは、不思議そうな顔でエリアスを見つめる。


 (エリアス)

 「少しは出来るようになったくらいで、帝の副官に刃が届くと考えるのは、あまりに安直だとは思わんか?」

 

 「確かにお主は強くなった。」

 「私が思うよりも速いスピードで。」


 「それは称賛しよう。」

 「だが、私が誉めているのは、そこ《だけ》だ」


 言葉を続けるエリアス。

 その周囲の空気が、あからさまに変化していた。

 強い魔力に覆われ、彼女の周囲が震え始める。


 (マリエ)

 「魔力が!空気が!明らかに変わった!」

 「今までとは、明らかに別人!!」

 「こんな強い魔力…。見たことがない!!」


 ディープインパクトにも動揺が走る。

 エリアスの気配は、これまでとは比べ物にならないほどのプレッシャーに満ちている。


 (エリアス)

 「強くなったのなら、相応の力で潰すまでだ!」

 「逃げるなよ小娘!!」  

 

 「次の攻防は、もう一段先のレベルだ!!」

 

 (リナ)

 「!?」


 バッ!!

 

 気配に圧され、リナは咄嗟に剣を構えた。


 先のレベルの戦いとは、果たして…。


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