水の章 副官 エリアス・ペール 第2ラウンドⅡ
○ 謎の営業マン現る
(審判)
「では、バトルを再開いたします!」
「両クラン!中央へ!」
大歓声に包まれるなか、闘技場の補修を終え、両者は再び闘技場に並び立つ。
変わらず自信に満ち溢れた表情を浮かべるエリアスに対し、ディープインパクトのメンバーの表情は重い。
再開前の表情は、両者の相反する感情を、如実に表したものとなっていた。
(エリアス)
「なんじゃなんじゃ?」
「湿気た顔を並べおって。」
「それなりに時間はやったんじゃ。」
「ちゃんと話し合いをしてきたのであろう?」
「私に対する対策は浮かんだのか?」
「何を話したか教えてみぃ。」
エリアスは余裕の表情を浮かべ質問する。
『どんな解答も嘲笑ってやる。』
彼女の顔には、そんな言葉が浮かんでいる。
一方。その質問を受けたディープインパクトの面々は、全員気まずそうな表情を浮かべる事しかできない。
(マリエ)
「ちょっと!どうすんのよ?」
「いきなり一番ヤバイ質問来てるわよ?」
「何も決まりませんでした。」
「寧ろ喧嘩になりました。」
「なんて話したら、なんかあのオバサン怒りだしそうよ?」
「私嫌よ。またアイツの長話に付き合うの。」
「ちょっと貴方。どうにかしなさいよ。」
「なんか上手いこと言って濁しなさいよ。」
「得意でしょ?話はぐらかす事だけは。」
マリエが肘で小突きながら、小声で悠に釈明を促す。
いい大人が厄介事を押し付け会う。
そこには、社会の縮図が示されている。
(悠)
「ええ?ずっる!!ここで俺!?マジ!?」
「絶対無理でしょ!マトモに話したら雷落ちるって!」
(マリエ)
「じゃあ、どうすんのよ!?」
「リナちゃんは機嫌悪いだろうし…。」
「レイナちゃんには荷が重すぎる…。」
「私は絶対に嫌よ!喧嘩にしかならないわ!」
「いいから!たまには男見せなさいよ!」
「黙って、ここは俺に任せろ!」
「って出ていきなさいよ!」
「大丈夫よ!骨は拾ってあげるから!」
(悠)
「全然大丈夫じゃないですよ!」
「寧ろ俺が思っていたより、事態は悪くなってるじゃないですか!!」
「何で会話の中で遺体が発見されてるんですか!?」
(マリエ)
「細かいとこはいいのよ!」
「ホントに小さい!」
「ミク○マンみたいな男ね!」
「いいから早く出なさいよ!」
「それでもアンタキャプテンなの!?」
(悠)
「ミク○マンは誇り高き小さな戦士!」
「僕らの世代のヒーローですから!」
「それにこういう時だけ、立場を利用して!」
「そっちこそ小さいじゃないですか!」
「それなら普段から敬意を払ってくださいよ!」
(マリエ)
「そんなの無理よ!」
「尊敬の念は心から溢れるものじゃない!」
「私は自分の心に嘘はつけないわ!」
(悠)
「ヒデェ!さらりとヒデェ事言ったよ!」
「それに、そんなに真剣に答えなくても大丈夫ですよ!」
「そう!こういう時は愛想笑い!」
「ただの世間話!挨拶ですよ。挨拶!」
「テキトーに聞き流しとけば、問題ないっすよ」
悠は矢面に立ちたくないが故に、エリアスの質問には、真剣に取り合おうとはしない。
そんな悠の気持ちをよそに、エリアスは質問を続けた。
(エリアス)
「おいおい。何を遊んでおる。」
「こちらの質問に、黙りはないじゃろう?」
「せっかく対策を練る時間まで与えてやったというのに…。」
「お主ら…。何だか中断前よりも、周りの空気が悪くなっとらんか?」
「まさか話し合いが上手く行かずに、喧嘩でもしたのか?」
「敵の余りの強大さに、逃げる手段ばかり話し合ってしまったか?」
「またつまらんバトルなぞしおったら、それこそただじゃおかんぞ?」
「その辺りは、きちんと分かっておるのか?」
ディープインパクトを煽るように睨み付け。
エリアスが挑発にも似た質問をぶつける。
一瞬でクランの状態を見抜かれ。
クラン内の空気が凍りつく。
『おい。何が大丈夫だよ。全然話反れてないぞ』 『ほらお前。責任とって話してこいよ。』
『お前だよ。お前。ほら出番だぞ。』
皆が悠を見つめ、瞳がそう命じていた。
その視線の意味を瞬時に理解し。
悠は仕方なく質問に答えた。
(悠)
『こいつらマジかよ…。こういう時だけ、ばっちり息合わせやがって…。』
『さっきまで空気悪かったクセによ…。』
「いや、その…。まあ…。何ですか…。」
「我々にも、ちょっと色々ありましてぇ~…。」
「エリアスさんのご希望も十分理解しておりますが~…。」
「ちょっと…。果たしてご希望に沿えるかどうか…。」
「ええ…。私だけでは、若干身に余る部分も御座いまして…。」
「ええ…。微妙な所です…。はい…。」
「大変申し訳ありません…。」
悠の返答は、最早ミスでクレームを受けた営業マンのソレであった。
謝っているようで要領を得ない。
正に《時間よ。早く過ぎてくれ状態》である。
こうなった営業マンは、実は質が悪い。
完全に思考を捨てているため。
何を言っても謝罪しか返ってこない。
状況を改善する手立てを、既に考える意欲を捨て去っている。
つまりは、心を完全に閉ざし。
ただの謝罪を続ける機械と化しているのだ。
これぞ真の営業マンの姿である。
何を言っても謝罪するだけなのだから、相手は手出しが出来なくなる。
つまりはいずれ、必ず手が詰まるのだ。
そう…。相手が普通のクレーマーならば。
これで終わるはずなのだ。
後は時間の問題のはずなのだが…。
(エリアス)
「なんじゃお主の態度は!?謝らんでいい!」
「きちんと質問に答えよ!」
「短い時間とはいえ、何かしらの算段くらいは浮かんだのであろう?」
「そうであろう?」
「そうでなくてはおかしいだろう?」
「違うか!?」
(営業マン)
「おっしゃる通りでございます。」
「全てこちら側の過失でございますので。」
「損害に関する話し合いに付きましては、後日上司と共にお伺いさせて頂きました際に…。」
(エリアス)
「ならん!上司とはなんだ?」
「今!お主が解決せよ!」
「何でも人に頼るな!」
「自分達の問題は自分達で解決せよ!」
「お主はそんな常識も知らんのか!?」
(営業マン)
「おっしゃる通りでございます。」
「私としても耳が痛い次第です。」
「返す言葉もございます。」
「何卒不勉強なものでして。」
「どうぞご容赦ください。」
営業マンはそう話し、深々と頭を下げる。
(エリアス)
「だから謝らんでもいい!」
「お主らは私を楽しませる義務を負っておる!」
「優しい私のアドバイスを踏まえ、意味のある議論が成されたことを、強く望みたいところなのじゃ!」
「私はただ、その確認がしたいだけじゃ!」
「敵に塩を送るなど!私のような良心の塊の様な人間でなければ、そう容易く考え付くようなものではあるまい!」
「私の善意と深い愛に感謝し。」
「是非とも意義のある戦いにしてもらいたい。」
「それに対するお主らの解答を得たい。」
「他ならね、お主らの言葉で。」
「お主の言葉で答えて見せよ。」
エリアスは腕を組んだまま、営業マンを睨み付けている。
迫力に恐縮した営業マンは、ハンカチで額の汗を拭き取る。
『如何にしてこの場を乗り切るべきか。』
『下手な言い訳は、相手の怒りを増幅させる。』
『軽率な発言は許されない。』
『この手のタイプのクレーマーは、一番やっかいだな。』
汗を拭う一瞬の間に、幾つもの言葉が頭を過る。
そして、
『上司にはどのように報告すべきか…。』
『今後の内容によっては、かなり時間が…。』
様々な方策を探しながら、営業マンは今日も帰りの終電を覚悟する。
『一担当者の限界。』
営業マンが、自身の力の無さを実感する瞬間。
「やりたいように仕事をしたいなら、転職するか、今の会社で偉くなれよ。」
彼の中で、会社を辞めていった先輩の言葉が頭を過った。
あれから4年。未だに平社員の自分には、偉くなる道はないのかもしれない…。
そう思いながら、営業マンは頬を濡らした。
(エリアス)
「ええい!何を泣いておる!」
「気持ちの悪い奴が!」
「もうよいわ!何も思い付かなかった!」
「それは良かろう!」
その言葉に、営業マンは直ぐに顔をあげた。
(営業マン)
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「この恩は、いつか必ず!」
「社をあげて返して見せます!」
敗北濃厚な状況から一転。
まさかの相手からの譲歩。
『これは…。これは奇跡だ!』
『俺の日頃の、謝罪意識が招いた奇跡だ!』
これまでの経験から、かなり縺れる事を想定していた営業マン。
『今日は間違いなく終電だ。』
『愛する妻との時間も限られてしまう。』
そう考えていた矢先。
まさかの逆転撃が待ち受けていた。
営業マンは、頬を濡らしながら、笑顔で何度も頭を下げた。
喜びと悔しさ。
そんな複雑な感情が入り交じりながら。
営業マンは、この場を一人で凌いだという、大きな経験を手にしたのである。
(営業マン)
「ありがとうございます!」
「ホントにありがとうございます!」
「では、私は急いで報告を致しますのでこれで!」
営業マンは、何度も頭を下げながら、足早にその場を後にする。
相手の気が変わらない内に、その場を急いで後にする。
クレーム対応を続けてきた営業マンが、生きるために身に付けた防衛術である。
悠はそそくさとその場を離れ、マリエとレイナの間に戻り。
フ~っと。安心したかの様な溜め息をついた。
(マリエ)
「貴方って…。ホント…。」
「ホントに情けない…。」
「ホント、クソの役にも立たないわね。」
(レイナ)
「がっかりです…。」
「この人には、心から失望しました…。」
「本当に酷い…。ダメな大人のお手本です。」
(リナ)
「悠兄…。最低ね…。」
皆が安堵の表情を浮かべる悠に、たっぷりと皮肉を込めて言い放つ。
しかし、そんな隣人の皮肉は、今の彼の耳には届かない。
彼は仕事以外では、不要な争いに首を挟まないのだ。
『今は一仕事終えた自分を誉めてあげたい。』
『上司を呼ばずに済み、ホッとしています。』
彼は心からそう思っていた。
彼はそんな営業マンの鏡。
彼こそが一流の営業マンだと人は言う。
(悠)
『今日は発泡酒はやめだ!』
『今日はキヨカと二人でビールにしよう!』
大きな仕事のあとには、ほんの少しの贅沢を。
彼はまだまだ続いていく、社会と言う荒波を。
風に揺られる木々のように、ヒラリヒラリとかわして行くのだろう。
毎日遅くまで働く皆様。
お疲れさまです。
家族のために働く皆様。
本当にお疲れさまです。
これからも、皆様のご多幸をお祈りし。
結びの言葉とさせていただきます。
全ての労働者に幸あらんことを。
全ての社会人に、喜びがあらんことを。
では、これにて失礼を。
(審判)
「始め!!」
ドオン!!
悠が営業マンとしての仕事を終えた直後。
遂にバトルは再開された。
(悠)
『やれやれ。やっぱりこの会社は、簡単には休みを取らせてはくれないな…。』
悠は社会人時代を思い出し。
そんな事を思っていた…。
書いてる側と致しましても。
この回はあまりに悪ふざけが過ぎたと反省しております。
あまりに駄文過ぎて、申し訳ございませんとしか、言いようがありません。
本当に申し訳ありませんでした。




