水の章 エクストラバトルⅡ
○対戦者の資質Ⅱ
(エリアス)
「何度でも問おう!」
「誇り高き水の信仰者達よ!」
「我は誰だ!?」
「信仰者達よ、我が名を!!」
「我が教示を述べよ!」
「どうした!?誰も答えられんのか!?」
エリアスの問い掛けは続いた。
しかし、観客達は意図が分からない質問に加え、
エリアスが帝への反乱者を庇っている状況が理解出来ず。
質問に対し、どう返答するべきか迷っていた。
そして同時に…。
そんな理解出来ないエリアスの行動に。
一部の観客達は、彼女に対する不信感を抱き始めていた。
突然、目の前で行われた帝への反逆行為。
そして、それを庇うかの様なエリアスの行動。
信仰に生活の全てを捧げる民にとって。
目の前の状況を、すんなりと受けいれることなど出来るはずもなく…。
会場はエリアスへの疑心暗鬼により、異様な空気に包まれ始めた…。
(観客たちⅠ)
「エリアス様…。一体何を考えているんだ?」
「あの質問に、一体何の意味がある?」
「そして何よりも、
どうしてアイツらを!
反逆者どもを庇っておいでなのだ!!」
「エリアス様は水の大陸の副官!」
「誰よりも、帝様を信じ!
民に模範的な信仰心を示すべき立場にある!」
「なのに、どうしてアイツらを庇っておる!」
「どうして信仰者たる、我々の行動の邪魔をするのだ!」
「そうだ!確かにそうじゃないか!」
「エリアス様は大陸の副官である!」
「我々に模範的な態度を示すべきだ!」
「今のエリアス様の態度!副官として、どう考えてもおかしい!」
「自分の立場を!望まれている職責を!
十分に理解しての行動とは思えない!」
「副官たる人物が、どうして水の帝への反逆者を庇おうというのだ!」
「副官たるもの!
その身を持って大衆に信仰心を示し!
時には、自ら帝様の刃となりて!
不信仰者を討たねばならん!」
「それが数々の戦いを乗り越え!
厳格に教えを守り抜いてきた!
水の大陸の副官のあるべき姿ではないのか!」
「命に代えても!刺し違えてでも!
民の為に、あるべき信仰心を貫き通す!」
「歴代の副官は皆そうしてきたはずだ!」
「それが何だこの事態は!」
「副官自らが、帝様を思い!決死の行動に撃ってでた!真なる信仰者である観客を止め!」
「逆に反逆者どもの盾となっておる!」
「なんたる体たらくだ!」
「エリアス様の副官たる資質!
この場限りで疑わざるを得ん!」
「こんな副官では、他の大陸から水の大陸を守ることなど不可能だ!」
「最低な副官ではないか!」
「さっさと辞めさせてしまえ!」
「外に出しては、水の大陸の大恥だ!」
「そうだ~!そいつこそが反逆者だ~!」
「今すぐ地位を剥奪しろ~!」
「あんな不信仰な女に副官は任せられん!」
「ふざけるな!恥を知れ!」
「まともな信仰心も示せない副官など、民衆は求めてはおらん!!」
「早々に辞任し、大陸を去れ!!」
「この面汚し目が!」
エリアスの行動に、強い不信感を抱いた観客達から、怒声が響き渡った。
ステラにおいて、絶対的な価値を占める信仰。
例え大陸の副官たる人物であろうと、その信仰心を疑われれば、容赦なく糾弾される。
唯一にして絶対的な価値であるが故。
信仰に対する姿勢は、一切の甘えも許されない。
立場が高くなればなる程。
大衆に求められるは、
模範的な信仰者。
信仰心を疑われるという事。
これは則ち、地位を有する資質をも疑われる事を意味する。
幾度の大戦を経験し、
古から続く信仰を貫いている者達。
そういった辛い歴史を経験してきた者ほど。
帝やエリアスの様な高い地位の人物に。
模範的な信仰心を、求める傾向が強くなるようである。
しかし、他方においては…。
(観客たちⅡ)
「さっきから黙って聞いていれば!」
「お前達は何を言っている!?」
「誰に対してモノを言っているのだ!?」
「お前らは、エリアス様が、普段どれだけ我々民の事を気にかけて下さっているか!」
「本当に理解していないと言うのか!?」
「大戦の混乱を乗り越え!大陸が安定し!
こうして平和が維持できているのは!
エリアス様のお人柄と、外交力の賜物に他ならない!」
「他の人物が副官であったならば、この様な平和な時代などやって来なかったであろう!」
「大戦を経験した連中は、いつまでも古くさい信仰心に縛られ続けおって!」
「信仰の為に身を捨てる事を!
アイシス様は!今の帝様は望んでいない!」
「信仰の為に命を捧げてきた、大戦前の古い時代の信仰は!
現在のステラにおける帝様や、精霊様の下では、良しとはされていないのだ!」
「それはこれまで!
各大陸の執政部が、懸命に周知してきたことではなかったか!」
「我々は、悲惨な大戦を乗り越え!」
「ステラを変えようと誓った!」
「次の世代に、平和な世界を託そうと誓ったではないか!」
「帝様方の努力によって、実際にステラは少しずつ変わり始めている!」
「エリアス様も、帝様と並ぶ地位にありながら、
懸命に我々の様な庶民に、教えを伝えて回って下さったではないか!」
「立場など関係なく、新しい教えを広めようと、尽力していただいたことを、知っているはずではないか!」
「そんなエリアス様を!信じられない!
不信仰者だと騒ぎたてる!
お前らこそが本当の不信仰者だと、何故分からんのだ!」
「エリアス様は、アイシス様の言葉を、我々一人一人に伝えて下さる!
言うなれば、帝様の代弁者だ!」
「信仰者であれば当然の認識であろう!」
「エリアス様を信じず!」
「まして侮辱するなど許されん!」
「エリアス様への侮辱はアイシス様!
そして水の精霊様への侮辱だ!」
「自分の不信仰を棚にあげ!」
「不平不満だけをダラダラ述べおって!」
「信仰者の風上にもおけん!」
「恥を知るのはお前らの方だ!」
(観客たちⅠ)
「なにぃ!?言わせておけば!」
「若造が生意気な口を挟むな!」
「これは古からの教義を信じ続ける!
真の信仰者ならば当然の意見だ!」
「日の浅いバカ共が伝え始めた、浅はかな教義などと比べられるか!」
(観客たちⅡ)
「バカは貴様らの方だろ!」
「古の信仰が大戦の悲劇を産んだ!」
「それに危機感を抱いた帝様方が、現在の信仰の基礎をお作りになられたのだ!」
「帝様の言葉は精霊様の言葉…!」
「精霊様方も新たなる信仰を求めておる!」
「信仰者なら、当然理解すべき事実だ!」
「お前たちなど、所詮大戦の遺物ではないか!」
「新しい。これからのステラの中では、お前らの様な、古い考えに固執する人間は不用なのだ!」
「今の帝様達と、新しいステラを作り上げる!」
「戦争のない!平和な世界を築いていく!」
「時代は今、新しい方向に向かっているんだ!」
「頭の固い連中は、いつまでも遺物にしがみついて勝手に吠えていろ!」
「死ぬまでそうして、昔に思い浸ればいい!」
会場の中には、エリアスを擁護する立場の観客達もいるようだ。
エリアスの人柄を信じ。
彼女の行動には、必ず理由があると信じている。
しかし、同じ大陸の。同じ精霊の信仰者同士。
何故この様な言い争いが発生するのか。
ディープインパクトの面々には分からずにいた。
(観客たちⅠ)
「何だと!?若造共がふざけたことを!!
我が家は代々に渡り、水の帝様への絶対的な信仰を貫き!
彼の大戦の際は、最前線で帝様の為に命をなげうってきた、誇り高き信仰者だ!」
「そんな私たちが不信仰者!?」
「時代遅れだと!?」
「それこそ、我が先祖が命を捧げた!
過去の水の帝様や精霊様への侮辱であろう!」
「そもそも!何故教義を変える必要がある!?」
「我が大陸は、古くから帝様の下で団結し!」
「大戦においても、数多くの戦価を上げてきたではないか!」
「それこそが、これまでの教義が正しかった、何よりの証拠!」
「それをぽっとでの若い連中がずけずけと!」
「あるべき姿を変え、正しい信仰をねじ曲げているのは、お前らの方ではないのか!」
「我が大陸だけでも、古の教義に戻し!」
「大陸としての強い絆を取り戻すべきなんだ!」
「我々は前々から、教義をねじ曲げたあの女共が気に食わなかった!」
「今日化けの皮が剥がせて良かったわ!」
「我々の正しさが証明されたんだからな!」
(観客たちⅡ)
「エリアス様を、あの女呼ばわりだと!?」
「大戦後、大陸の為に尽力し!」
「我らに新しい信仰の可能性を示して下さった」
「そんなエリアス様を…!」
「許せん!何たる無礼だ!!」
「もう我慢できん!!」
「そこに直れ!これ程の反逆行為は見逃せん!」
「私たちが直々に裁いてくれるわ!」
観客同士の言い争いは、遂には乱闘寸前にまで深刻なものとなった。
しかし、エリアスに匿われているディープインパクトに出来ることはなく…。
エリアスも黙って、言い争う観客達を見つめているだけであった…。
(悠)
「おいおい…。」
「どうなってんだよこれ?」
「なんか雲行きが怪しくなってきたぞ…。」
「俺たちへの批判から、新しい教義がどうだのこうだの…。」
「どんどん話が逸れて、深刻な内輪揉めが始まってきてんぞ?」
「なんか一部の連中に至っては、エリアスさんを反逆者扱いまでしてるみたいだし…。」
「エリアスさんは帝の右腕。大陸のお偉いさんなんだろ?」
「そんな相手に対して、あんな暴言吐いて大丈夫なのかよ?」
「そもそも、同じ大陸の信仰者同士なのに、何で教義の内容で言い争ってんだ?」
「皆同じ精霊を信じる仲間なんじゃねーのかよ」
「帝と精霊はステラにおける絶対的な存在。」
「言い争う様な認識の違いなんて、発生しないんじゃないのか?」
当然の疑問を口にする悠に対し。
マザーがふよふよと近づき、声をかける。
(マザー)
「いえ悠さん。それは少し違います。」
「これは難しい。非常に難しい問題ですが。」
「同じ帝様。精霊様を信仰していたとしても。」
「その《教え》。則ち《教義》の受け取り方によっては…。」
「信仰に対する、解釈や姿勢に違いが生じる事は、十分に起こり得るのですよ。」
「これは、急速に近代化を進める現在のステラにおいて。
どの大陸も頭を悩ませている。
大きな社会問題の一つになっているのです。」
(悠)
「同じ帝と精霊を信仰するのに、教義においては相反する認識が存在する…?」
「なんだそりゃ?意味が分からん。」
「水の大陸は、水の帝と精霊を信仰し。」
「過去には団結して、他の大陸と戦争した。」
「これは勿論、他の大陸も同じ。」
「だから、ステラでは異信仰者同士は、未だにクランを結成したがらない。」
「クラン内には、違う精霊の属性を有する仲間は、基本的には存在しない。」
「確か、そんな話なかったっけ?」
(マザー)
「はい。確かにその通りです。」
「大戦の影響もあり、現在でも異信仰者同士でクランを結成するのは、非常に稀有な例と言えます」
「大会で皆さんを見た観客達は、さぞ驚かれたことでしょう。」
「しかし、非常に残念な事に。」
「異信仰者同士の対立が根強く残っている中。 近年では同じ信仰者同士の対立までもが表面化してきている。」
「これは、先程も述べましたが。
大戦後に進められた、急速な近代化の影響と言われています。」
「唯一はっきりと言えることは。」
「どちらの信仰者も《自分は間違っていない》。 相手の考え方が間違っている。
《自分が真の信仰者》だと信じていること。」
「そして間違いなく。
どちらの立場の方達も、帝と精霊を心から信仰している事。」
「どちらも心の底から帝様を、精霊様を信じている。」
「生活の中で、信仰を大切にしている。」
「だからこそ、争いが発生している。」
「ステラでは現在。
こういった大きな矛盾が発生しているのです」
(悠)
「う~ん…。」
「だから、そこが分かんないんだよね。」
「だって、同じ精霊の信仰者なんだろ?」
「信仰者同士、仲間同士が争う理由なんてないはずだし…。」
「大戦の時は、助け合って戦っていた訳だし。」
「さっきから出てきてる《近代化》って言うのは、一部の信仰者に対して、弾圧でもかけたって事なのか?」
「それに耐えられない、一部の信仰者の不満が、爆発しているってことなのかな?」
(マザー)
「いいえ。弾圧など決してありません。」
「各大陸の帝様方は、大陸間の協定に基づき。」 「信仰者たちに、教義に対する信仰の自由を認めています。」
「信仰者たちが、自由な意思に基づき信仰を続けられる。」
「帝様方が近代化を進めていく中で、一番神経を磨り減らしているのは、この部分です。」
「ステラにある、伝統的な信仰者たちの権利を、決して損なわせない。」
「これは、新しい信仰の形を教示していく中で、最も重要視されています。」
「ですが、だからこそ。」
「教義の統一が進まないからこそ。」
「同じ大陸内で、信仰に対する争いが発生してしまっている。」
「大戦の悲劇を繰り返さぬよう、産み出された新たな仕組みにより。新たな火種が発生している。」
「帝様方は、この大きな矛盾を解決する手段に、いつも頭を悩ませているようです。」
(悠)
「なるほど…。」
「ちょっとだけ見えてきた気がするな…。」
「要するに、大戦が終わった後。
ステラ全体で、各大陸の教義の見直しが行われた。」
「見直された教義を、仮に《新しい教義》とすると。」
「大戦時の教義は、《古い教義》になる。」
「各大陸では、この2つの教義を尊重しようとしているけど、上手くいってない。」
「つまりは、そういうことなのかな?」
(マザー)
「はい。正にその通りです。」
「残念な事に。帝様方の願いとは裏腹に。」
「今度は大陸内での争いが頻発している。」
「帝様方は、さぞお心を痛めていることでしょう。」
(悠)
「う~ん。なるほど。何となくは分かってきたけど…。」
「何ていうか、どうも腑に落ちないんだよな~」
「確かに違いはあれど、結局は同じ大陸の信仰者なんだろ?」
「大きなくくりで言えば、やっぱり仲間同士じゃないのか?」
「異信仰者を毛嫌いするのは、何となく分かるんだよ。」
「そりゃあ、自分が信じているものを否定して、他のモノの方が優れているって言うんだから。」
「熱心な~。それこそ心の底から、自分達の精霊を信仰している人にとって、腹の立つ話だとは思う。」
「まあ、戦争までしちまうのは、流石に理解は出来ないけどさ…。」
「でも、やっぱり同じ精霊の信仰者なんだろ?」
「多少相手と考え方が違っていたとしても、最終的に大事にしている精霊は同じだって言うのに。」
「どうして仲間内で対立する必要があるんだ?」
「相手には、相手なりの考え方がある。」
「そう考えれば、お互い何事もなく。」
「平和に同じ精霊を信仰出来るじゃないか。」
「帝だって、それを認めてるんだろう?」
(マザー)
「ええ。その通りです。ですが…。」
(マリエ)
「マザー。ちょっといいかしら?」
隣で黙って聞いていたマリエが手をあげ、マザーに声をかけた。
(マリエ)
「前にも話したけれど、私たちの世界では。
そもそも信仰という概念事態が、極めて薄いのよ。」
「だから、悠さんもイメージしにくいのよ。」
「ここは、私から説明するわ。」
「恐らく悠さんも、その方がイメージしやすいでしょうし…。」
マザーは、マリエをふよふよと見つめている。
(マザー)
「分かりました。マリエさん。お願いします。」
マザーとマリエがお互いの立ち位置を入れ換える。そして今度はマリエが話を始めた。
(マリエ)
「悠さん。マザーが言いたいのはつまり…。」
「同じ帝を、精霊を信仰している者同士であっても…。」
「信仰の《方向》や《解釈》事態は、決して一枚岩ではない。ということなのよ。」
「同じ物を信じていても、その考え方や受け取り方は、立場によって微妙に違うの。」
「信仰者が、全く同じ解釈で信仰するということは、かなり難しいことなのよ。」
「…。分からないわよね。」
「まあ、ここまではただの能書き。」
「恐らくここからの内容の方が、悠さんはイメージしやすいと思うの。」
「いいかしら?悠さん。」
「違う世界の話だからって、難しく考えないで」
「実は極めて単純な話なのよ。」
「いい?」
「私たちの世界のことを思い出してみて?」
「私たちの世界でもあったんじゃない?」
「これと全く同じ現象が。」
「毎日のようにニュースや新聞に載っていたはずよ?」
「同じ宗教を信じていながら、宗派や教義の解釈の違いから、国や地域に分かれ、戦争や反落を繰り返す。」
「どちらが正しいか。どちらがより優れた宗派であるかで対立する。」
「そんな時代が…。そんな地域が…。」
「私たちの世界にも、間違いなく存在していたじゃない?」
「遠い国の話で、私たちには、あまり実感が湧かなかったけど…。」
「いつか自分達も巻き込まれやしないかと…。
怖い思いをしてたじゃない?」
「覚えているでしょう?」
「今、私たちの目の前で起きているのは、正にそれと同じことなのよ。」
(悠)
「俺達の…。世界で?」
「ええ?あったかそんなこと…。」
悠は、暫し腕を組み。
考え込んでいた。
しかし、直ぐにマリエが言わんとしていることの意味を理解する。
(悠)
「そうか。あった…。いや確かにあったわ…。」
「俺達の世界にも確かにあった。」
「遠い地域で、遠い時代で…。」
「俺にはあまり実感が湧かなかったけど。」
「教科書やニュースでしか見聞きしなかったけど…。」
「確かにそんな地域が、時代が…。」
「俺達の世界にも存在していたんだ。」
「それも、つい最近から現在に至るまで、普通にあったじゃないか。」
「同じ宗教を信じながらも、どっちの教えが正しいかで、国同士で戦争を始めちまう。」
「宗教が違うだけで、対立し、争いを起こしていく。」
「信仰という文化が根強い地域ほど、そういった矛盾は確かに存在していた。」
「そうだよ。あれと一緒じゃねーか。」
「そんな地域、毎日のようにテレビで見てた。」
「何で気付かなかったんだ…。」
「けど…。それが、ステラにも?」
「ここまで信仰が徹底している、ステラにも同じ事態が存在しているっていうのか?」
(マザー)
「どうやら、イメージが出来てきたみたいですね。」
「はい。その通りなんです。」
「寧ろ、信仰が強く根付いているステラだからこそ…。」
「人は自分の信仰の正しさを主張し、他者を排斥しようとしてしまう。」
「強い思いがあるからこそ、他者に対して、どうしても譲ることが出来ない部分が存在する。」
「他者の考えに、寛容な姿勢を示すことが出来なくなる。」
「残念ながら、私には人間という生物自体が。」
「この問題を解決するには、不向きな生き物の様な気がしてなりませんね。」
(マリエ)
「確かにそうかもしれないわね。」
「私たちの世界でも、人間の歴史は戦いの歴史」
「人間は、常に自分達にとって、より都合のいい何かを求め、争いを続けてきた。」
「土地・食料・資源・経済・軍事・文化。」
「何かを欲する度に、他者を攻撃し、力付くで手に入れ続けてきた。」
「そう考えると、結局人間は、自分以上に優れたものは受け入れる事が出来ない。」
「自分と違う価値観は、存在を許すことが出来ない事になる。」
「常に自分の考えが一番正しく。より優れたものは、粗を見つけて排斥せずにはいられない。」
「何だか、随分と器の小さい。ちっぽけな生き物みたいで悲しくなるわね。」
マリエはそう話ながら、扇で自分をパタパタと扇ぎ始める。
言葉とは裏腹に、
《人間なんてそんなもんだ》と。
彼女は、とっくの昔から、割りきって考えているようにも感じられる。
(悠)
「なるほどね。よく分かったよ。」
「俺たちの世界で起きていたこと。」
「それが此方でも行われていた。」
「同じ人間がやることなんだ。」
「そうなっていたとしても、何ら不思議はないよな。」
(マザー)
「分かっていただけたようで良かったです。」
「流石はマリエさんですね。」
その言葉に、マリエは笑顔を浮かべながら。
マザーに向けて手を振り返していた。
(マザー)
「そもそも、今回の争いの原因は、大戦後の教義の転換にあります。」
「大戦が終わり、教義の転換期が訪れたのは、僅か十数年前。まだまだ日が浅いのです。」
「古い考えに基づき、信仰を続けてきた人達が、急激な教義の転換に適応できるはずもない。」
「新しい考えを受け入れられず…。」
「教義を転換した、現在の帝様や執政部に。
厳しい姿勢を求めるのは、仕方ないとも言えるかもしれません…。」
(悠)
「十数年前に起きた大戦の終わり。」
「それと教義の転換か…。」
「その時に、反乱につながってしまう様な…。」
「信仰に対する姿勢や考え方に、大きな変化があったってことなんだよな?」
(マザー)
「はい。この状況ですから、あまり詳しくは話せませんが…。」
「いい機会ですから、可能な限りお伝えします。」
「皆さんはきちんと知っておくべきでしょう。」
「これからステラで生きていく上では、知っておく必要がある、重大な歴史です。」
そう話すと、マザーはディープインパクトの面々の中心の位置まで移動した。
(マザー)
「いいですか。大切なことです。」
「よく聞いておいてくださいね。」
「現在のステラの状況。今、会場で起こっている混乱が産み出された原因。」
「それは遡ること19年前。大戦の末期。」
「当時のステラでは…。
各大陸が己の領地拡大と信仰の正統性を主張し、大きな戦争が続いていました」
「これが俗に言う《第四次ステラ大戦》」
「これ迄の大戦の中でも、一番多くの犠牲者を生み出し。」
「一番長きに渡り戦火が続いてしまった。」
「ステラにおける、最も悲惨な歴史の一つです」
「その戦火は約15年にも渡り、ステラの各地が戦争により、次々と荒廃していきました。」
「そんな終わりの見えない戦いの中…。」
「どの大陸も、自分達の領地だけでは、戦いを続ける資源を賄いきれなくなっていった。」
「すると、当然のことながら。他の大陸に、資源の補填先を見出だそうとする。」
「つまりは、苦しい資源でありながらも。
結局は戦争を継続せざるを得ない。
という、悪循環が産み出されてしまう。」
「この悪循環により、争いが収束する気配は一更に見られなかった…。」
「奪われては奪い。奪っては奪われる。」
「正に悪夢の様な戦いが、延々と続いていた。」
「このままでは、どこかの大陸がステラを統一するまで、戦争は繰り返される事になる。」
「自分達が最後まで勝ち残らなければ、大陸もろとも全てを消滅させられてしまう可能性が高い。」
「事態を重く見た各大陸の帝様方は、一時の停戦に踏み切り。
全ての大陸の中心に位置する。《大地の大陸》に集結した。」
「帝様同士による、停戦に向けた会談を行うために…。」
「そして帝様という、大陸を代表する人物が一同に集い。大戦終結に向け、話し合いが行われた。」
「帝様が揃い踏んだのは、恐らくステラの歴史においても始めての出来事。」
「各大陸はそれほど迄に追い込まれ、逼迫していたのです。」
「各大陸の民も、これで戦争が終わる。」
「平和な生活を取り戻すことが出来ると、信じていました。」
「しかし、蓋を開けてみれば…。」
「どの帝様も、自身の大陸の正統性を主張し、他の帝様に降伏を促すばかり…。」
「会談は戦況と同様。誰も譲らず、平行線を辿りました。」
「先の見えない議論は、数ヵ月にも渡り…。」
「結局このまま、会談は破談になるだろう。」
「結果は火を見るよりも明らかでした。」
「しかし、停滞する現状に痺れを切らした、一人の青年の登場により。」
「大戦は一気に、終息に向け加速することとなる…。」
「その青年は、当時齢僅か18。」
「たった一人で各大陸の帝の前に立ち。」
「臆することなく、堂々と立ち振舞い。
停戦に向けた協定を提唱した。」
「そして、その類いまれなる弁舌により。
最終的に全ての帝様を説き伏せ、大戦を終結に導いた。」
「そしてその後、現在に至るまで。」
「彼はステラに、次々と新しい風を吹かせ続けている…。」
「後に彼は、《大戦の英雄》と呼ばれ。
ステラ中から喝采を浴びる事になる…。」
「そう。その青年こそが、現在の大地の大陸を治める、帝様の若き日の姿。」
「マルコス・G・ベルガリス様」
「その人だったのです。」
「彼の登場により、ステラは平和に向け、一気に団結することとなります。」
マザーの言葉に、悠とマリエは言葉を失い。
顔を見合わせた。
(悠)
「大戦を、たった一人で!?」
長きに渡る大戦を終結させた。
若き日の大地の帝。
その類いまれなる手腕とは…。




