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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
71/114

水の章 エクストラバトルⅠ

 ○対戦者の資質


 エリアスは顔を押さえたまま、恥ずかしさから身を隠すように。

 しばらくその場に座り込んでいた。


 しかし、悠の呟きを受け、何かを決心したのか。


 ゆっくりとその場で立ち上がり、無言のまま悠の隣を横切り、闘技場の中心に向かい始めた。


 まだ恥ずかしさが抜けないのか。 

 頬は紅く染まったまま。

 目にはうっすら涙が浮かんでいる。


 悠の横に立ち。少し立ち止まる。

 そしてすれ違い様。

 エリアスは呟いた。



 (エリアス)

 「すまないな。見苦しい姿を見せてしまった。」

 「私の…。昔からの悪い癖だ…。」


 「話に夢中になり、周りが見えなくなる。」

 「自分の事を話し出すと、すっかり立場を忘れてしまう。」

 「何とも恥ずかしい話だ…。」   


 「消したい過去が、また増えてしまったよ…。」

 

 「まあとにかく。」

 「かなり時間を使ってしまったのも事実だ。」

 「さっさと次の段階に、話を進めなくてはな。」

 「観客の皆も待っておる。」



 そう話すと、エリアスは悠の肩にそっと手を置き、顔を近付けた。

 そして周りに聞こえない様。

 耳元で話を続ける。



 (エリアス)

 「言っておくが…。先程のお主らの行為。」

 「決して許されるものではないぞ…。」 


 「あってはならない…。起きてはならない。」

 「今後、事実が知れ渡れば」

 「大陸全土を巻き込んでの大騒動にさえ成りかねない。」  

 「煩いだけが取り柄の、大陸の有力者達も黙っておらぬじゃろう。」

 「お主らに懸賞金が付く可能性もある。」


 「そうすれば皆がお主らを狙うじゃろう。」

 「少なくともこの大陸に安住の地はなくなる。」


 「まあ、身から出た錆じゃ。ある程度の報復は覚悟しておれ。」


 「私自身も。未だに腸が煮えくり返っておる。」

 「私の目の前で…。」

 「アイシスを。水の帝を。水の精霊を侮辱しおったのだ。」


 「今すぐにでもあの娘の首。」 

 「撥ね飛ばしてやりたい気分じゃよ。」 


 「ここにいる他の連中。」

 「大会関係者・警備の兵達・他の参加クラン・そして観客達。皆が同じ気持ちであろう。」 


 「お主らの罪はそれほど迄に重いものじゃ…。」 

 「だから…。」

 「その罪絶対に忘れるな。必ず心に留めおけ。」

   

 「そしてここから先は絶対に間違うな。」 


 「次に間違えば。流石にもう私が助力する余地など残されぬぞ。」


 「それを忘れる事の無いよう。」


 「何度もお主らの心に聞かせ続けろ。」


 「それがここで生き残る。」

  

 「唯一の手段と理解せい。」

 


 そう真顔で話すエリアスを見ながら。 

 悠は肩に置かれた手に、強く力が込められていくのを感じていた。


 自分達が起こした事態の重大さ。

 先程迄とはうって変わり。

 静かに。そして真剣に。

 怒りを露にするエリアスの姿に。


 ディープインパクトは事の深刻さを、改めて認識させられていた…。



 (レイナ)

 「あの…。私達はどうしたら…。」


 事態の大きさに怯えながら、レイナがエリアスに声をかける。

 エリアスは、彼女を手で制しながら。

 安心させる様に、ゆっくり語りかける。


 (エリアス)

 「先程も話したが…。」

 「今回の事は許されるものではない。」

 「不問などという決定など、下しようがない。」

 「それこそ私の信頼が地に落ちる。」

 

 「申し訳ないが、私にもまだやりたいことがあるのじゃ。」

 「だからまだ、決してこの地位を手放す訳にはいかん。」

 「公私混同といわれようと…。」

 「まだ私にも出来ることがあるはずなんじゃ。」


 「だから…。お主らには、然るべき報いを受けて貰うわなければならん。」

 「観客や大陸中の人間が、納得できるような形で。」

 「お主らは裁かれたという認識を、もって貰わねばならんのじゃ。」



 (リナ)

 「あんたの言いたい事は分かるよ…。」

 「私が言えた義理じゃないけど…。」  

 「じゃあ、どうすればいい?」

 「私達は…。私はどうすればいい?」

 「どうすれば許して貰えるのかな…?」


 

 エリアスに問いかけるリナの表情は暗い。 

 自分の起こした安易な行動を。

 今は深く後悔しているのであろう。



 (エリアス)

 「ほう…。少しは事の大きさが分かってきたか。」「なかなかいい傾向じゃな。」


 「そうだな。一番手っ取り早いのは、お主の首をはぬることじゃろうな…。」

 「一番分かりやすく、処罰としても単純じゃ。」

 「命をもって償わせる。というやつじゃ。」

 「誰もが納得し。犯した罪にも見合う罰じゃ。」



 エリアスは薄ら笑いを浮かべ。

 皮肉を込めてリナに語りかける。



 (悠・マリエ)

 「それは受け入れられません。」

 「受け入れられないわね。」



 悠とマリエ。そしてレイナが。  

 リナの前に立ち、エリアスを睨み付ける。


 例え、大陸中を敵に回そうとも。

 リナに危害が加わるなら全力で阻止する。

 話し合わずとも、皆が同じ気持ちなのだ。 



 (エリアス)

 「ふむ。そう構えずともよい…。」

 「元よりそんなつもりなど微塵もないわ…。」

 「事の大きさを理解させる為に言っただけじゃ」

 「安心せい。私がそやつの命を取るような事はないよ。」


 (悠)

 「その言葉…。信じていいんですね?」

  

 (エリアス)

 「構わんよ。嘘を言ったつもりはない。」


 「皮肉なものでな。」

 「私は、この大会の運営責任者という。極めて大きな立場にある。」

 「そして、大きな責任を持つが故。」

 「私が怒りに任せて暴走し、大会を台無しにする訳にもいかんのだ。」


 「水の大陸の執政機関でもある。我々大陸上層部の意見として…。」

 「目的の為。何としても、この大会は成功させねばならないと考えておるのだ。」


 「お主らに全てを話すことは出来んが…。」

 「我々にとって、この大会はとてつもなく大きな意味を有しておる。」


 「大会の中で私たちが見極めたいのは。」


 「〈誰が強いか〉ではなく…。」  

 「〈誰が相応しいか〉なのじゃ…。」


 「私達は、この大会で。」

 「私達が〈期待する人材〉が見つかる事を願っておる。」

 「その人材が見つかれば、例えそやつらが優勝出来ずとも。」

 「私達が大会を開いた《価値》は、十分にあったと言える訳なんじゃ。」


 「だから…。例えこのバトルの結果も踏まえ。」 「優勝がどのクランになろうとも…。」 


 「我々は、お主らの力を。」

 「クランとしての能力を。」

 「見極める必要があると思っている。」


 「大会を開いた《価値》があるのかを、見極めねばならぬと思っておるのだよ。」


 「だから何としても、お主らには、このバトルを受けてもらわねばならぬ。」  

 「どんな理由が。どんな事態が起ころうとも。」

 「大会を辞める訳にはいかんのだ。」


 「例えそれが…。」

 「死罪に値する罪人であろうと…。」

 「私は甘んじて罪を許そう…。」


 「私と…。アイシス。そして大陸の…。」

 「莫大な利益の為なら…。」

 「帝の右腕として、喜んでその者の力を借りようと思う。」


 「私達は、それだけの覚悟を持って。」

 「今回の大会を開いておるのだ。」


 「あやつらの出方を確認するためなら…。」

 「何にだって手を染めよう。」

 「それが私の価値を落とそうとも…。」


 「あやつの。あやつらの姉として必要なら…。」



 そう話すエリアスの表情は、どこか寂しそうに。


 そして、どこか儚げに見えた。 


 この大会にかける彼女の思いを感じとり。

 悠は、開催された際の彼女とのバトルは。

 一筋縄ではいかない物になることを。

 ひしひしと、身を持って感じていたのであった。



 (エリアス)

 「私としては、さっさとバトルを始めたい。」

 「だが…。」

 「その娘に対し、我々は何ら罰を与えておらぬ」


 「この事態じゃ。それでは観客の気持ちも治まるまい。」


 「今は、私が話している状況に気を使い。」

 「闘技場に乗り込んで来てはいないが…。」


 「我々からは、何の処分も下されないと判断されてしまえば。彼らも黙ってはいまい。」


 「怒りを再燃させ、再び暴動を起こす輩も現れようぞ…。」


 「先程も話したが、私とてお主らの行為を許した訳ではない。」

 「だから観客の気持ちも分かる。」

 「流石に処分なしは受け入れられぬよ。」

 「信仰者として、当然の行動じゃ。」


 「しかし、単純に今から私たちには。」

 「それよりも優先せねばならんことがある…。」


 「本意ではない…。そして、帝の腹心として、決して許すべきではない…。」

 

 「分かってはいる…。だが…。」


 「今はやむを得んということだ…。」



 そう話すエリアスの手は、先程よりも強く握りしめられていた。

 彼女とて、水の精霊の信仰者。

 精霊の化身である、帝への侮辱など許せるはずもない。

 

 しかし、その気持ちを噛み殺してまで。 

 彼女はこの大会を成功させようとしている。


 低ランクのクランだけを集めた。

 不可思議なこの大会。


 いったい、彼女らにとってどんな意味が込められているのか。


 悠を含め、ディープインパクトの面々。

 その全員が、改めて強い疑問を感じた瞬間であった。



 (悠)

 「エリアスさん…。あの…。」



 悠は自分の横をすり抜けていくエリアスに。

 思わず手を伸ばし。声をかける。


 

 (エリアス)

 「よい。言いたい事は分かっておる。」

 「今は言えぬが、いずれ分かるさ…。」


 「お主らが、私を満足させる資質の持ち主であれば、それほど遠い話ではないじゃろう。」


 「とにかく…。私は何としてもこの大会を成功させねばならぬ。」

 「話はその後で、いくらでも聞こう…。」



 そう話ながら、悠の問いかけには振り返らず。

 エリアスは真っ直ぐら闘技場の中心に歩みを進める。

  


 (エリアス)

 「とりあえず…。」

 「この場は私に任せて貰ってよいよ。」

 「不本意ではあるが、皆の説得は私が引き受けた。」


 「大会成功のためじゃ。」

 「その為なら私がけじめをつける。」

 「それが一番安全で確実だろう。」


 「それに…。」

 「お主らがクランバトルを受けると言うのだ。」

 「大会を開いた意味があるのか…。」

 「確かめる絶好の機会となろう。」

 「さすれば、この機会。」


 「潰すわけにはいかぬのじゃよ。」



 エリアスは振り返らず、悠に手を降りながら闘技場中央に陣取った。

 腕を組み。観客達へ視線を向ける。

 これ迄に無いほど。

 真剣な表情に見えた。


 観客達は舞台中心に位置するエリアスを気にしてはいたが。

 彼女の話が終わった事で勢いを取り戻し。

 再び闘技場に向かって走り始めていた。



 (観客)

 「エリアス様のお話は終わったようだ!」


 「よし!突撃しろ~!!」

 「絶対に逃がしはしないぞ!」

 「エリアス様の手を汚させるな!」

 「あの無礼者達は、俺達信仰者の手で裁くんだ!」 

 「水の精霊・水の帝の敵に死を!」

 「ここで裁くのを躊躇っては、信仰者の名が泣くと思え!」

 「討ち取れ!そして晒してしまえ!」


 「ステラ中に、水の大陸の信仰心を見せつけろ!」


 

 多くの観客が一目散に、ディープインパクトを目掛けて駆け出している。

 

 闘技場にいる彼らも、これだけの人数に敵意を剥き出しにされた経験など、あろうはずがない。

 

 自分達に向けられた。

 強く・そして大きな殺意。


 人間のなかで、恐らく一番おぞましい感情。

 その感情を大量に。

 当事者として受け止めたことにより。


 ディープインパクトのメンバーは足がすくみ。

 回避行動や、逃走方法の確認など。

 考える余裕すら無くなっていた。


 (レイナ)

 「き、来ます!皆さん一気になだれ込んでくる」

 「どうしましょう!?」

 「皆さん本気で…。」

 「私たちを裁くつもりでいます!」


 「怖い…。私、怖いです…。」  

 「あんなに怖い表情なんて始めてみました…。」

 「あれが…。人が心の底から憎悪する相手に見せる表情…。」

 「怖い…。無理です…。」

 「私には、抵抗する気力すら…。」



 レイナはあまりの恐怖心で、その場にへたりこんでしまった。

 リナがレイナの前に立ち、剣を構える。

 悠とマリエも、最悪の事態に備えて身構えた。


 その時…。

 


 (エリアス)

 「リフレクトアクア」



 エリアスが何かを呟き。

 手を真上に伸ばした。


 すると、彼女の上空に大きな水の塊が姿を現す。

 水の塊は一瞬にして弾け。

 上空から闘技場を覆った。



 (観客)

 「これは!水の防壁!?一瞬で!?」

 「まさかエリアス様か!?」


 「ダメだ!闘技場に入ろうとしても、水が壁になって中には入れない!」


 「同じ水の使い手でも、エリアス様の魔法は我々とは純度が違いすぎる!」


 「俺達がこの壁に干渉して、中に入るなんて不可能だ!」



 観客達は、エリアスが作った水の壁を前にして、足踏み状態となった。 


 ある者は力付くで入ろうと。

 壁に向かい武器を振るい。

 体当たりをしている。


 ある者は魔法に干渉し、魔力の流れを変化させ、通り道を作ろうと試みるが、いっこうに成功する気配はない。



 (観客)

 「くそ!やはり俺達では無理だ!」

 「エリアス様クラスが放った魔法を、解除するのは不可能だ!」

 

 「エリアス様!何故です!?」

 「そこにいるクランは帝様の敵!」

 「つまりは、我々水の精霊信仰者全員の敵だ!」


 「そんな連中を何故庇うのですか!?」

 「貴女は水の帝様の側近でしょう!?」


 「まさか帝を裏切ると言うのですか!?」

 「応えて下さい!」 

 「返答次第では、我々は貴女も!」


 

 観客達は、何故エリアスが自分達の邪魔をするのか理解できずにいる。

 自分達は、水の精霊の信仰者。

 勿論エリアスも同様である。

 それなのに、何故反乱分子を庇うのか…。


 怒りを暴走させた観客は冷静さを欠き。

 感情の矛先を、遂にはエリアスにさえ向け始めた。


 観客達は、爆発した感情の捌け口を、長話により、長期間奪われ続けてきた。

 その結果、圧縮されたストレスが、彼らの冷静な判断力と思考力を奪い去っていた。


 よって、現時点で。

 彼らは感情によってのみ行動している。


 所謂、思考停止状態であり。

 怒りの感情だけを行動原理とする。

 一種の動物レベルに迄、彼らの思考を貶めていた。


 そんな彼らを、エリアスは哀れんだ目で見つめ、一瞬ため息をつく。


 そして、大きく息を吸い込むと。

 暴徒化した観客達に向け叫んだ。


 

 (エリアス)

 「汝らに問う!!!」

 「今一度清き思考を取り戻し!!」

 「誇り高き水の精霊の信仰者として答えよ!!」


 「汝らの前に立ち!!」

 「語りかけているもの!!」


    「そう、我は誰だ!!??」

      「誰と心得る!!」


 

 エリアスは会場全体に響き渡るほど。

 大声を上げて叫んだ。


 皆、その声に驚き。

 一瞬身を固めた。

 観客達の視線が彼女に集中した。


 突然の事に、思わず言葉を失う観客達に向かい。


 エリアスは再び声を上げた。


 

 (エリアス)

 「誇り高き水の民よ!!」

 「聞こえておらぬのか!!??」


 「ならば再び問おう!!!」

 「今、闘技場の中心に位置し!!」

 「汝らに声をかけておる!!」


 「我は誰だ!!??」

 「答えろ!!!」

 「今現在汝らに問いかけておる!!」


     「我は誰なのだ!!??」

   


 (観客)

 「え、エリアス様…?」

 「な、何がどうしたと言うのだ…。」  


 「無礼者達を庇ったかと思ったら。」

 「今度は自分の名を訊ねている?」


 「一体何が起きたのだ?」

 「エリアス様は何を考えていらっしゃる?」

 「本当に、何かあったのではないか?」



 突然のエリアスの行動。

 謎めいた質問。


 会場は違った意味の困惑を見せ始めた。

 観客達はざわつき。    

 闘技場全体を、異様な雰囲気が包み始めていた。



 (悠)

 「おいおい。なんだよいきなり?」

 「私に任せておけとか言っといて。」

 「なんだよあの質問は!?」

 「意味が分かんねーよ!」

 「会場の皆もどんどん混乱してってないか!?」


 「エリアスさんが、水の防壁で守ってくれて助かったけど…。」

 「結局、皆怒ったままだし。」


 「俺達にここを離れる術はない。」

  

 「まさか、エリアスさんがああやって時間を稼いでいる内に、作戦を考えろってことか!?」


 「それなら、はじめからそう言えよ…。」


 「それに、あんな意味不明な話するから…。」


 「結果的に観客達を煽っちまってるよ。

 「余計な混乱も招いて、騒ぎがどんどん広がっているじゃねーか。」


 「それに…。相手の取り方によっては、エリアスさんまで危険になるかもしれない。」


 「これじゃあ、ただ俺達を匿っているだけだ。」

 「少なくとも、観客からはそう見えるはず…。」


 「あの人、本当に何か考えがあるのか?」


 「本当にこのまま任せて大丈夫なのか!?」


 

 悠にも、エリアスの行動は理解できない。

 彼女の言葉の真意を受け取れずにいた。


 すると、そんな悠を見かねて、マリエが声をかけてきた。 



 (マリエ)

 「私も。私もあの人が何を考えてるかは分からない…。」

 「けれど…。間違いなく。」

 「水の結界も観客への問いかけも。」

 「何か意図があっての行動だとは思う。」


 「今、彼女が私たちを守ろうとしている。」

 「考えがあって、あの質問をしている。」 


 「それは紛れもない事実だと、私は思うわ。」


 (悠)

 「マリエさん…。本当にそうでしょうか?」

 「確かに結果的に守って貰ってはいるけど…。」


 「あの質問に意味があって。」

 「事態を好転させる効果があるとは思えない。」

 「少なくとも、今の状態ではとても…。」

 

 「あの人のことだから…。」 

 「もしかして、ただ目立ちたいだけかも…。」


 「だってあの人だもん。」

 「自分の話を立場に任せて長々聞かせるし。」

 「自分のこと大好きだし。」

 「あり得ない話じゃありません。」


 「それでもマリエさんは…。」

 「あの人の質問に意味があると思うんですか?」


 「どうしてそう言い切れるんですか?」


 (マリエ)

 「そうね。確かに彼女ならあり得るかも…。」


 「けれど、さっき発動した彼女の魔法…。」

 「スゴく引っ掛かるのよ。」


 (悠)

 「引っ掛かる?」

 

 (マリエ)

 「ええ…。さっきの魔法。」

 「魔力の生成から出力まで。」

 「ほとんどタイムラグが無かったのよね。」


 「つまりは、魔力を練る。詠唱時間を削り。」

 「最速で魔法を出力した。」

 「だから、ほとんど詠唱時間がなかった。」


 「そんな状態にあって…。」

 「彼女は、一瞬にしてあれほど純度の高い魔法を、広範囲に出力して見せた…。」

 「はっきり言って、魔力感知が得意な私にも。」

 「魔力生成の流れが、ほとんど感じ取れなかったの。」


 「彼女はそれほど迄に素早く。」

 「そして、威力の高い魔法を出力した。」

 「これは物凄い技術だと思う…。」


 「はっきり言って、化け物クラスよ。」

 「さらっとやってのけたけど…。」

 「ほぼノータイムで、あのレベルの魔法を放つなんて、普通不可能だわ。」


 「少なくとも、今の私たち。」

 「レイナちゃんをもってしても、足元にも及ばないレベルと言えるわ。」


 「私たちには、恐ろしい話だけどね。」


 (悠)

 「レイナでさえ、足元にも及ばない…。」

 「そんなにレベルが違うって言うのか…。」 

 

 「マジかよ…。今の行動だけで、それほど迄の差を見せつけられていたのか…。」

 「本当にサラサラ過ぎて気付かなかった…。」


 「けれど、どうしてその魔法の使い方で。」

 「俺達を守ろうとしていると分かるんですか?」


 「俺には、単純に格の違いを見せてきただけにも思えるんですけど…。」

 「だってあの人ですよ?」

 「自分のこと大好きだし…。」


 (マリエ)

 「確かに彼女ならその可能性もあるかも。」

 「…。悠さん、本当にあの人の事苦手なのね。」


 「けれど、何か意図がなければ。あれほどの魔力操作を行う必要なんてない気がするの…。」


 「格の違いを見せるなら、あの魔法を私たちに放っても良かった。」


 「私たちを吹き飛ばし、行動不能にする。」

 「その後で天使に引き渡せば、彼女は大好きなヒーローになれたはず…。」

 「それは彼女にも分かっていたはずじゃない?」


 「けれど、彼女はそうしなかった。」

 「私たちを守るために、彼女はある程度本気で、水の結界を張る事に、その力を使ってくれた。」


 「どうしてかは、分からないけど…。」


 「彼女にはきっと。」

 「本当に私たちと戦わなければならない、何か大きな理由があるのだと思う。」

 「つまり、さっき彼女が話した事は事実なのよ。」

 「そうじゃなければ辻褄が合わないもの。」

 

 「観客を敵に回してまで、私たちを守った。」

 「大好きなヒーローになる機会を捨ててまで、私たちを庇ってくれた。」


 「きっとこれらには、何かしらの意図がある。」

 「私たちには話せない。」

 「何か重大な秘密が。」


 「この大会にはあるのだと思えるの。」



 悠は再びエリアスと観客達に視線を戻した。


 一触即発の殺伐とした空気のなか。


 その中央に位置し。

 全ての視線を受け止めている小さな女性。


 臆することなく、腕を組み堂々と立ち振る舞う。

 その女性の姿は凛として逞しく。

 体中から自信と自尊心が満ち溢れて見えた。


 気がつけば、皆が彼女に視線を引き込まれ。

 その発言を見守っていた。



 (悠)

 「なんか確かにさっき迄とは違う…。かも。」

 「いや、明らかに違うよな…。」

 「さっき迄の長話とは…。」


 「エリアスさんの雰囲気が。」

 「彼女の纏う空気が…。」

 「彼女の動作全てが…。」


 「会場全体を…。」

 「俺達の視線を引き込んで…。いる?」


 「不思議だ。彼女から目を離す事が出来ない。」

 「まるで…。まるで吸い込まれていくみたいだ…。」


 「もしかして…。これが…?これが《資質》の差なのか?」

 「絶対的な高ランクに位置する人間の《資質》の力なのか…?」



 ただ、彼女は其処にいる。

 其処に立っているだけなのだ。

 

 しかし、決して目を離す事が出来ない。

 

 目を背ける事が許されないかのように。

 目を背ける事が罪であるかのように。

 心を直接握りしめられたかのように。


 軽い息苦しささえも感じながら。

 誰もが其処に在る一人の女性の姿に。

 凛々しさと。

 ホンの少しの恐怖心を感じながら。


 ただ黙って、彼女の同行を。

 見守る事しか出来なくなっていた。



 (エリアス)

 「再び皆に!我が同胞に問おう!」

 「皆の前に立ち!」

 「答えを求めている者!」

 

       「我は誰だ!?」



 彼女は凛々しく。

 観客全体に問いかけ続ける。

 会場は再び混乱し、ざわつき始めた。

 

 謎の質問を続ける、

 エリアスの真意は如何に…。

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