水の章 エクストララウンドⅨ
○挑戦者の資格Ⅵ
(エリアス)
なんじゃ。今更私に何の用がある?
私を差しおいて。
一人で放っておいて。
お主らで楽しそうにやっておったじゃろ。
今更私と話すことなどないはず!
お主らは自分達で勝手にやってればよい!
私はもう知らんからな!
もう関わらないからな!
エリアスは腕を組んだまま、不機嫌そうにプイっと顔を背ける。
放ったらかしにされたことで、かなり不機嫌になってしまった様だ…。
(悠)
いや、すいません。
その…。
エリアスさんにしか頼めない…。
大切なお話がありまして…。
その本当に申し訳ありませんでした…。
話を…。少しだけ話を聞いて下さい…。
『ほら~。やっぱりお怒りだよ。』
『流石に少し放置しすぎたかな~。』
『しかし、この露骨過ぎるふて腐れ具合。』
『しつこそうだな~…。』
『どうやってほぐして行こうかな~…。』
『てか、本当に何この露骨さ…。』
『何この態度に出すマン。』
『いや、態度に出るマン?』
『どっちでもいいや…。』
『この人本当に大人なの?』
『本当に成人してるの?』
『成人式で暴れるタイプの若者なの?』
『本当に大丈夫?人に成ると書いて成人だよ?』
『成人はちゃんとさ。人として成り立ってないとダメなんだよ?』
『読んで字の如くなんだよ?』
『成人式で暴れる様なのは、まだ人として成り立ってないよね?』
『まだお山の大将ごっこ続けちゃってるじゃん』
『あれで成人扱いして良いわけ?』
『年齢だけが条件なのは考えものだよね?』
『最低限のTPOと世渡りは出来ないとダメじゃない?』
『皆もきっと、そう思ってるよね?』
『子供の学芸会や、猿軍団のショーじゃないんだよ?』
『場をわきまえずに暴れたり騒いだり…。』
『相手の事を考えずに我儘ばっかり言ってちゃダメでしょ?』
『なのにさ…。何この人。これ成人女性?』
『心情をダイレクトに表現しすぎ。』
『素直なの?素直すぎて態度に出るの?』
『そうならどんだけピュアなんだよ?』
『純情ピュアガールかよ。』
『ほんのり赤ら顔かよ。』
『いい年して本当に迷惑な人だな…。』
『早く大人になりなよ…。』
『早く人として成り立ってよ…。』
『いい年なんだから成人してよ。』
『立場も高いんだから頼むよマジで…。』
『ほらほら顔!顔に出てるよ!』
『垂れ流れてますよ~!』
『愛想笑い位覚えなさいよ。』
『人の話を聞く姿勢も持ってよね…。』
『もうやだ。本当にめんどくさい…。』
『本当にめんどくさい人ばっか。』
『何で僕が振り回されるのよ…。』
『僕悪くないのよ?もう帰るよ?』
悠の中から、怒りと悲しみ。
目の前にいる同年代であろう女性に対する、情けなさがふつふつと沸き上がってくる。
大人になれない大きなお友達を前に。
社会の荒波に揉まれた大人として。
世間の厳しさを叩き込んでやりたいと、心から感じていたのだ。
(エリアス)
私にしか頼めないお話だ~!?
何を今更!?
お主らは目の前にいる「この私を差し置いて」! 勝手に揉め事を起こしたではないか!?
それもあまつさえアイシスに!!
大陸を統べる帝相手に!!
凶器を!!
剣を向けるなどという、前代未聞の暴挙に打ってでおったではないか!!
場の混乱は当然じゃ!!
なんせ「この私を差し置いて」まで!!
信仰の対象たる帝に!!
まあ確かに、私よりもちょっぴり地位は上ではあるがな…。
「この私を差しおいて」!!
誰もが私に並ぶ程に敬愛し!!
私と同程度には尊敬する!!
一大陸の主たる帝に対して!!
凶器を!!
刃を向けたのじゃからの!!
あの瞬間!!
お主らは、水の帝!!
水の精霊!!
そしてこの私!!
更には、水の大陸に住む全ての信仰者に対して!
刃を向け敵に回したのじゃ!!
その場で打ち首にあってもおかしくはない!!
それほど迄の、最大級の侮辱行為じゃ!!
今、命があるのが不思議な位と思え!!
こんなことは、前代未聞じゃ!!
流石の私も!!
こやつら頭大丈夫か!?
と思っておったよ!!
はっきり言ってな!!
大陸と同じ程に心が広いと言われる!!
慈愛に満ちたこの私でさえ!!
ぶちギレ寸前だったのじゃぞ!!
我が大陸の帝に対し最大級の無礼じゃ!!
いくらこの私とて!!
許容することなど叶わん!!
じゃがな!!
お主らは幸運なことに!!
偶然にも、今日の私は!!
大会の「主催者」!!
最高責任者!!
最高!!私が最高!!私が一番!!
という立場にあった!!
大会の主催者という、大会を安全に運営する立場になければ!!
あの娘など、一息のまもなく!!
一瞬にして葬り去っていたことじゃろう!!
本当に私が居て良かったのぉ!?
責任者が私で良かったのぉ!?
私が一番近くに居て良かったじゃろう!?
他の者では、こうはいかんかったぞ!?
怒りに任せ、お主らに斬りかかっておったぞ!?
観客を先導し、お主らの首を死にもの狂いで獲りにいっておったのじゃぞ!?
功を成そうと!!
躍起になっておったはずじゃぞ!?
ああ!!何たる幸運じゃ!!
偶然にも目の前にいたのは!!
帝と対等とすら歌われる!!
曰く、慈悲の塊!!
曰く、博愛の伝導者!!
曰く、大陸の良心!!
曰く、真なる大陸の覇者!!
異名は尽きない素晴らしい人物!!
そう!!それはあの!!
高貴なるお方!!
エリアス!!
ペール様!!
その人ではないか~~!!
精霊の様に深く!!
大きな御心を持って!!
慈悲を含みしその眼差しで!!
最悪なる不貞どもを!!
優しく見守っておる!!
ああ!!
何たる幸運なのだ!!
水の帝に対する反逆者は!!
彼女の存在がなければ、とっくに天の彼方!!
天の大陸に向け、その魂が捧げれていることじゃろう!!
ああ!!
何たる幸運なのだ!!
今自分の命が繋がっておるのは!!
かの有名な、エリアス・ペール様!!
あの高貴なお方のお陰なのだ!!
いいか!!
本当はまだまだ言いたいことはある!!
じゃがな!!
かいつまんで言えば、こういう事じゃ!!
分かったか!?
自分達が相手にしているのは、そういう相手なんじゃ!!
そういう存在なんじゃ!!
そんな相手を、お主らは放ったらかしにしておったんじゃ!!
その意味を知れ~~~~!!!!!!
エリアスは悠に向けて、ディープインパクトに向けて叫んだ。
あまりの迫力に、ディープインパクトを含め。
観客達の足も再び止まることとなる…。
(エリアス)
だからお主らは…!!
この私は一人で居るなんて…!!
子供の頃は、こんな子供でな…!!
フフフ…。ウフフフフフ~…。
ディープインパクトは、再びエリアスの長話に捕まることとなった。
そして前回に引き続き、この話の一番の特徴であり、何よりも苦痛な理由。
それは…。彼女の話そのものが。
心の底から。正に心底。
「詰まらない」
というところにある。
ずっと自分の話だけを延々と。
無制限に話は続ける。
『あんたの昔なんて知らんがな…。』
誰もがそう思うが逃げられない。
そう。大魔王からは逃げられないのだ。
彼女の機嫌を損ねると、漏れ無くこの苦痛タイムが発生する…。
(エリアス)
しかして!!
その後も、お主らは私を頼らず!!
この緊迫した状況を、全て自分たちだけで解決しようと!!
「私をほったらかして」!!
楽しそうにワイワイやっておったじゃろ!?
私は「一人で」!!
お主らが楽しそうに話しておるのを見ておったよ!?
こっちでず~っと「一人で」!!
待っておったよ!?
あやつらどうするのかな~!?って!!
何話してるのかな~!?
って思いながらも!!
誰もこっちを見てこないけど…。
私も話し合いに入った方がいいのかな~!?
あやつら私に助けを求めんのかな~!?
本当に大丈夫かな~って!!
ここは主催者として!?
こっちから手を差しのべた方が良いのかな~!?
けど、誰も私を見てないよな~!!
勝手に手を貸すのは、余計なお世話かな~!?
さっきから視線は送ってるんだけどな~!!
アピールが足りないのかな~!?
って色々と悩んだけどな!!
結局誰もこっちには来ないな~!!
私はやっぱり必要ないのかな~!!
何かするのは余計なお世話なのかな~!?
って。
「一人で」!!
もやもやしながら!!
見ておったよ!?
寂しかったのよ?
けれど、誰も私には声も掛けないから!!
あ~。なんかもういっかな~。って!!
どうせ私なんか必要ないんだな~。って!!
「一人で」!!寂しく…。
結論を出して見守っておったよ!?
何たる苦痛!!
なんたる切なさ…。
今思い出しても悲しい…。
涙がでよる…。
だって私…。女人なんだもん…。
その寂しさも知れ~~~!!!!
更に加えるなら~…!!!
エリアスの叫びは止まらない。
しかし、
『これ以上の長話は、こっちの身心が持たない』
『もう辛すぎて聞いてられないよ…。』
そう判断した悠が必死に彼女を制する…。
(悠)
ちょっ!!待ってください!!
分かりました!!
分かりましたから!!
本当に悪いと思ってますから!!
身に染みましたから…。
ちょっとだけ話を聞いて下さい!!
(エリアス)
嫌じゃ!嫌じゃ!!
止めてくれるな!!
まだ終わらんぞ!!
本当に寂しかったんだから…。
まだ言いたいことは山ほど…!!
(悠)
分かりました!!
分かりましたから!!
お願いします!!
謝ります!!
これまでの事は謝りますから!!
お願いします!!
話を!!
私たちの話を聞いて下さい!!
これ以上長いのは…。
これ以上は我々の体が持ちませ~ん!!
悠がエリアスに向かい叫んだ。
気が付けば、泣きながら土下座もしていた。
ふと隣に視線を向ける…。
(悠)
レイナ…。
お前どうして?
何故か隣にレイナがいる。
彼女もまた土下座しながら泣いていた。
(レイナ)
お許しを…。御先祖様…。
お許し下さい…。
な…。つ…。
な…。あ…。つ…。
ブツブツブツ…。
レイナは何かを呟きながら、何度も頭を下げ続けている。
下げられる頭は地面にぶち当たり、徐々に下げられる範囲を広げていった。
そう。つまりは、徐々に頭部は地面にめり込んでいったのだ。
(悠)
レイナ!?お前どうしたんだ!?
頭が!頭がめり込んでるぞ!?
お前、大丈夫なのか!?
それに御先祖様!?
お前!何を見ているんだ!?
何が見えてしまってるんだ!?
何をブツブツブツと…。
悠はレイナの口許に耳を近づけた。
(悠)
!?
『レイナ!?お前が呟いているのはまさか!?』
(レイナ)
お許し下さい…。
ブツブツブツ…。
南無…。阿弥…。陀仏…。
南無…。阿弥…。陀仏…。
(悠)
こ!これは!?
『間違いない!これは!』
『田舎のばーちゃんが、じいちゃんの仏壇の前で一生懸命に唱えていた!』
『ガキの頃。線香の臭いとセットの思い出!』
『この聞き覚えのある旋律!』
『これは…!これは仏教の念仏!』
『否!!正確には浄土宗!その念仏!』
『南無阿弥陀仏!!』
(レイナ)
南無阿弥陀仏…。
南無阿弥陀仏…。
南無阿弥陀仏…。
南無阿弥陀仏…。
レイナは白目を向き、額から血を流しながら念仏を唱え続けている。
(悠)
『限界だったんだ!!』
『当の昔に!!』
『レイナはとっくに限界だったんだ!!』
(レイナ)
「私は謝り慣れてますから~。」
「私の頭は軽いです~。」
あの時のレイナの言葉が、悠の中に流れ込む。
(悠)
お前!こんな状態だってのに!
約束を!俺との約束を覚えて…!!
悠の瞳から、更なる涙が流れ出る。
こんな所で、同じ宗派の檀家を見つけたからじゃない。
ましてじいちゃんの顔を思い出した訳でもない。
限界を越えてなお、約束を守ろうとするレイナの優しさに。
悠は震える心を抑えられずにいるのだ。
(悠)
レイナ~~~!!!
悠はレイナを両手に抱き空に叫ぶ。
一面の晴天のなか、レイナの念仏が響き渡る。
(悠)
成仏したよ!ちゃんと届いたよ!
御先祖様は許してくれたよ!
だから…。だから逝くな!
逝くなレイナ~!!
二人の涙が頬を伝う。
自分でも何故泣いているのか分からなくなった。
先祖のため?
自分のため?
そのナミダは誰が為に…。
ただ、涙は止まらない。
次から次へと頬を伝った。
自然に溢れでる涙を。
二人は拭うことなく、頭を下げ続けていた。
その時、二人の後ろでは…。
リナはぼ~っと空を見つめ笑っている。
(リナ)
ウフ。ウフフフフフ。
ピー。チチチ~。
空に向かい、何かを一人で話している…。
…。
どうやら鳥と話そうとしている様だ。
限界なのだろう。
マリエは扇を振り回し、バブル期ばりに踊っている。
扇はブンブンと空音を発てる。
(レイナ)
フフフ…。
東京の夜は私のもの…。
イッツマイ舞台…。
彼女も笑っている。
しかし目は笑っていない。
限界なのだろう。
そうここにいる誰もが皆。
エリアスの話の長さと、あまりの詰まらなさに。
精神的な限界を迎えていたのだ。
観客達も同様であった。
あれほど強い衝動に駆られながら…。
今は意外なほど静かに。
闘技場の様子をただ無言で。
水を打った様に。
冷静に見つめていた。
彼らもまた…。
大陸の重鎮である、エリアスが話しをしている最中に、割って入る事など出来るはずはない。
つまりは、黙って彼女の話を聞いていることしか出来なかったのだ。
そして、延々と続く長話により…。
怒りを向ける捌け口を。
ぶちまけるタイミングを、何度も奪われ続けた結果。
怒りの感情は徐々に小さくなり。
その感情をぶつける意欲を。
行動に移す気力を。
徐々に失っていった。
そう、誰もが逃げ出し。
感情を諦め始めていたのだ…。
終わらない大陸の重鎮による。
詰まらない自慢話から。
心が…。体が…。
無意識に逃避し始めていたのだ。
そうしなければ、自我を維持できないと。
無意識に理解していたのだ。
さて少し話が逸れるが…。
不幸にもエリアスの特徴である。
「話が長い。話が詰まらない。」という事実。
この事実だけを取り上げれば。
正にデメリットの塊。
宴会の敵。
年寄りの道楽。
どう考えても、長所ではなく。
短所に見えてしまうだろう。
しかし、実はこの特徴。
メリットも欠片ほどだが存在し得る。
現在の観客の落ち着きが、その最たる証明でもあるのだ。
何故なら…。
人間という動物の特性として。
○一気に発生した強い感情ほど、その場で一気に 吐き出されるケースが多く。
○瞬間的に沸いた感情ほど、まるで反射の様に、 瞬間的に行動に移されやすい。
ためである。
怒りに任せ、思わず手が出てしまう。
所謂キレると言われるもの。
先程の観客達の行動原理とも重なる。
嬉しさのあまり、ガッツポーズがでる。
喜びの瞬間的な表現となるもの。
バトルに勝った選手達の行動と重なる。
どうしてあの人があんな事を…。
所謂、魔が差すというもの。
犯罪の際に使われる定型文。
等々…。
恐らく突発的な行動は、全てこのカテゴリーに含まれる。
後々、冷静になって考えれば。
絶対にその様な行動は選択し得ないはず。
自分の立場。
相手の感情。
行動から発生する自分への評価。
同じくして相手への評価。
人は行動の後に発生しえる、様々な結果を瞬時に想定し。
その情報を基に、行動を決定する生物だからだ。
人はそうして、集団の中で孤立しないように、目立つ行動を極力控え。
様々な感情で構成される、複雑な人間社会を生き抜いている。
そう。無意識ではあっても。
人は自分を。
そして相手を守るよう。
行動を「選択」しているのだ。
自分と相手の立場を考え。
その場で社会的に最善の行動を選択する。
それが出来る唯一の生物。
それが人間であり。
それにより形作られるのが、人間社会なのだ。
人の行動。発言や動作。相手への反応。
その全てに「益」の天秤は存在する。
「選択」に最重要なのは、どの行動を選ぶのが、自分にとって最も「益」であるかになる。
唯一、平静時に益に基づく「理性」を行動原理とする生物。
それ故。
人は自と他の利益を追及し、文明は進化した。
その結果、生物として今の地位を築いたのである。
だが、そんな人間であっても。
瞬間的に感情が高まり、その高まりがある基準値を越えてしまうと。
他の動物と同じよう、感情に直結した行動を起こす場合がある。
先程述べた先例が正にそれにあたる。
これは恐らく、瞬間的に発生した大きな感情。
これを発散せず、「維持」しようと努めると。
想像を越える莫大なエネルギーが必要になるためであろう。
どんなに平静を保とうとも。
どんなに冷静であろうと心がけても。
時に抗えぬ程のエネルギーを産み出す。
それが人間が社会の中で、後天的に身に付けた「理性」ではなく。
先天的に備わっている。
本能としての「感情」なのであろう。
そういった意味で「感情」という要素は。
「理性」を越える人間の最大の行動原理であり。
瞬間的に起こる「感情の爆発」は。
人の理性の天秤など、一瞬にして崩壊させ。
容易く過った行動へと人を誘う。
人間を唯一、本来の動物の姿へと貶める。
ただ1つの本能的な行動といえる。
そう考えると。
そのエネルギー足るや想像に難くはない。
基準値を越える感情の爆発。
言ってしまえば、これも心に負担を掛ける「ストレス」の一種だ。
それほど大きな「ストレス」を体に維持してしまえば。
恐らく人間は、一瞬にして壊れてしまうのだろう。
人間が耐えうるストレスなどたかが知れている。
それほどまでに大きなエネルギーなのだ。
一気に行動に移し、排出しなければならない。
つまりは、感情に直結した行動は、人間の自己防衛行動の1つなのである。
だから決して無くならない。
悲劇は…。黒歴史は繰り返される。
そうしないと生きていけないのだから…。
この悲しい連鎖は永遠に消えることはない。
さて…。
結局何が言いたいのか。
そう。長話の小さなメリットの話だ。
ディープインパクトが、エリアスに絡まなかった時間。
約3分。
エリアスがディープインパクトに述べた不満の時間。
約18分。
この長く詰まらない時間がもたらした物。
それが観客が冷静さを取り戻す。
頭を冷やす時間。
爆発したエネルギーを維持できなくなり。
感情を冷ます時間であった。
単純な話である。
彼女の長話は、観客達が感情に直結した行動を維持できる時間を越えたのだ。
大きなエネルギーを維持できる時間を越えてしまったのだ。
怒りは残れど、行動に直結する事はなくなった。
自分が手を汚し。
幽閉されるデメリットを。
彼らが考える時間を与えたのだ。
つまり、長話の唯一のメリット。
それは…。
聞かされる相手の心の熱を冷まし。
冷静さを取り戻させる作用がある。
そういった、大変下らない。
実に虚しい副作用にすぎないのだ。
しかし、この作用によって…。
現在闘技場には、泣きながら頭を下げる。
悠とレイナ。
現実から逃げるリナとマリエ。
気が付けば一人で話を続けていたエリアス。
気まずい顔をした審判。
以上、6名がいるだけである。
そして、皮肉にも。
エリアスもまた。
自分の長話により、冷静さを取り戻した一人なっていた…。
(エリアス)
あ…。れ…?
私はどうして…?
観客は何で黙っておるのだ?
しまった!?
まさか!?
私はまたあの癖を!?
そう。ある程度人生を経験した人間ならば。
実は自分の欠点に気が付いている場合が多い。
普段は隠そうと努力しているが…。
感情と直結してしまうと…。
皆、そういって恥ずかしい歴史を繰り返していく。
一度学んだはずなのに…。
身をもって感じたはずなのに…。
こうして黒い歴史は繰り返される…。
エリアスは恥ずかしさのあまり、顔を押さえその場に座り込んだ。
自分の話の長さ。
つまらなさを自覚している。
何とも悲しい話ではある。
…。
悠は無言のままエリアスに呟く。
(悠)
もうクランバトルでも何でもいいんで。
何とかこの場だけ治めて貰えませんかねぇ?
ウチの皆も。エリアスさんも。
もう充分罰を受けたでしょう?
これ以上は、お互い身が持たない…。
戦わずして、社会的な負け組になっちまいますよ…。
(エリアス)
…。
分かった…。
任せておけ…。
エリアスは顔を押さえたままコクコクと頷いた。
最早誰もこの場に耐えられなくなっていたのだ。
二人の理念がここに初めて一致する。
長い前振りの果てに。
エリアス・ペール対ディープインパクト
クランバトルが遂に。
やっと…。
始まりを迎えようとしていた…。




