クラン活動の章Ⅲ
○心具 それぞれの課題
ディープインパクトの場合
昨日に引き続きもっさりウサギ捕獲依頼を受けた俺たちは、山の上の草原に来ていた。
さあ、着きました。
皆さん今日も頑張りましょう!
マザーが爽やかに挨拶をする。
え?なに?
ホントに昨日と同じなの?
多分私たち今日はホントに全部取りつくしちゃうよ?
リナが自信満々にマザーに伝える。
確かに昨日よりマシなやり方が思い付きそうだ。 成果も多く望めるだろう。
相手がもっさりウサギなのは昨日と同じです。
ですが昨日とは違い、今日は三人で協力して捕獲して貰います。
え!?三人!?マジで!?
俺たちは耳を疑った。
昨日それぞれが単体で圧倒した相手に三人で挑めと言うのか…。
マザーは一体何を考えているんだ?
はい質問!
リナが手を挙げる。
これにはどんな意味があるのでしょうか?
私たちは昨日の戦いで彼らを圧倒しております。
三人でやる必要性が分かりません。
分かるように教えて下さい。
マザーが応える。
とても大きな意味があるのですが…。
今回もやってみるのが一番早いです。
とりあえずやってみて下さい。
なお、昨日と同じで2つ条件があります。
1 捕獲の際は必ず心具を用いること。
心具を使っていない捕獲は無効です。
2 バラバラに戦わないこと。
私たちはクランですので、あくまで協力して 戦ってください。
一人で勝手に追っかけて捕まえるのは禁止で す。
以上を守っていただければ方法は自由です。
よろしいですか?
了解/あいよー/分かりました
三人揃って返事をした。
・捕獲対象 ウサギ12羽
では、始めてください!
俺たちは横一列に並びお互いに顔を見合わせた。
ファイアウォール!
レイナが昨日と同様炎の壁を作った。
先ずは兔達が逃げ出さないよう周りを囲む。
三人で決めた作戦だった。
兔たちは炎に囲まれ戸惑っている。
リナがトップスピードで間から中に入り込んだ。
さすがレイナ!完璧な追い込みだよ!
リナが中で突撃する。
リナは火の壁の中で一体に狙いを定めた。
バコ! リナは剣の鞘を使って兎を殴り付けた。
兎は衝撃により気絶したようだ。
さすがリナ!鞘も使えるのか!
幸先の良いスタートだ。
俺が声をかけるとリナはこちらに手を降った。
さあ、どんどん片付けるよ!
更に追撃を加えようと他の兎に飛びかかった。
しかしその時
リナちゃん!そっちは危ないです!
避けてください!
リナがハッと周りを見渡す。
レイナの放った魔法が範囲を狭めリナに迫っていた。
リナは兎を倒すことに集中し過ぎたのか、魔法との距離を見謝ったのだ。
危な!あっちぃ!
リナがギリギリで炎をかわし壁の外にでる。
その時。
狙い済ましたように兎がリナの背後から飛びかかった。
リナはジャンプしながら炎を避けたため、まだ体制が整っていない。
しまった!リナは身を屈めた。
まずい!
俺は咄嗟にリナの後ろの兎を吹き飛ばした。
ドン!兎は数10メートル吹っ飛び、岩にぶつかり気絶した。
危なかったぁ…。悠兄サンキュー!
助かったよ!
リナが手を振っている。
おう!任せろ!
俺もそれに答えた。
昨日のトレーニング後から、二人とは何だか距離が近くなったような気がする。
弱い部分を見せたことで壁がなくなったのかもしれない。
次はミスらない!
私が一気に片付けでやる!
リナが体制を立て直し他の兎に突撃する。
よし!俺も!リナに負けてられないな!
気合いをいれ、他の兎を吹き飛ばしにかかる。
ドン!一羽の兎が宙に舞った。
しかし。 ジュワっ!
俺が飛ばした兎はレイナの放った炎の壁に突っ込み、一瞬で灰になってしまった。
しまった!
俺もレイナの魔法の位置を把握していなかった。
クソ!今度こそ!
他のターゲットを必死になって探した。
よし!アイツだ!
炎から距離を取っている兎を見つけ手をかざす。
その時だった。
助けて下さい~!!
レイナの声がした。
咄嗟にレイナの方を見る。
2羽の兎がレイナ目掛けて突っ込んでいった。
俺とリナは自分の戦いに集中するあまり、レイナへのフォローを怠ってしまったのだ。
しまった!レイナ!逃げろ!
レイナ逃げて!
二人は咄嗟に叫ぶがレイナは怯えてその場から逃げられない。
小規模魔法を打とうとするが、焦りから上手く出力できないようだ。
俺は2羽とも吹き飛ばそうと手をかざした。
しかし、1羽には命中したがもう1羽は能力の範囲が及ばなかったようだ。
間に合って!!
リナも全速力でレイナの元へ走り出していた。
その瞬間。
バキッ!鈍い音がした。
走り出したリナの背後から兎が体当たりを加えたのだ。
きゃあ!
悲鳴をあげリナが吹き飛ばされた。
リナはその場に倒れ込む。
リナ!!
声をかけるが直ぐには動けそうにない。
そこに兔たちが止めを刺そうと数羽突っ込んでいく。
クソ!二人同時じゃ間に合わない!
どうしたらいい!
何か!何かないのか!?
頭の中をぐるぐると言葉だけが回っていく。
その時だった。
俺は誰かに声をかけられた気がした。
大丈夫。お前ならできる。
落ち着いて。ゆっくりと手をかざせ。
集中し、こう願うんだ。
「消え去れ」と。
誰の声かはわからない。
ただすごく懐かしい気持ちになった…。
俺は何故か冷静さを取り戻していた。
言われるがまま、二人に向かう兔に手をかざし、こう願った。
「消え去れ」
次の瞬間辺りは静寂に包まれていた。
二人を襲った兔の姿はどこにも無くなっていたのだ。
……。……?
あれ?なんで?
レイナが立ち上がり辺りを見回す。
何があったのか理解ができていない様子だ。
そして倒れているリナに気が付く。
リナちゃん!?大丈夫!?
レイナは慌ててリナに駆け寄った。
リナ!大丈夫か!?
リナさん!?(マザー)
俺たちもリナに駆け寄る。
リナちゃん!リナちゃんしっかりして!
レイナが泣きながら声をかけている。
リナ!!しっかりしろ!!
声をかけるが反応がない。
そうだ!魔法!水の魔法で!
レイナが慌てて癒しの魔法を唱える。
優しい光がリナを包み込んだ。
ん。うう…。いった~い…。
リナが意識を取り戻した。
リナちゃん!よかった!ホントによかった!
レイナが泣きながらリナに抱きついた。
あはは。ごめんねレイナ。
ちょっとミスっちゃった…。
大丈夫なのか!?
どこか痛んだりしないか?
俺も心配し声をかけた。
大袈裟だな~。大丈夫だって。
ただ、ちょっとボーっとするかな~。
リナは明るく振る舞うが、頭を打ったのか少し視線が定まらない。
直ぐに宿屋に戻りましょう!
今日の依頼はこれで中止です!
マザーもかなり困惑た様子であった。
・ 宿屋にて
ガチャ。
部屋のドアが開いた。
マザーが依頼した医者が部屋から出てくる。
あの!?その……。
リナちゃんは…?
レイナが恐る恐る医師に訊ねる。
ああ。大丈夫ですよ。
体は特に問題ありません。
ただ、頭を強く打ったために脳震盪を起こしたみたいですね。
取りあえずは2~3日安静にして様子を見てください。
何かありましたら連絡を。
直ぐにこちらに伺いますので。
そうですか。ありがとうございました。
俺たちは医師に深々とお辞儀をした。
リナちゃん!
リナ!
俺たちも部屋に入る。
何さみんなして慌てて。
こんなの大したことないよ~。
リナは心配をかけないよう明るく振る舞っている。
ただ、まだ痛みが残っているのか。
表情はどこかぎこちない。
みなさん!
本当に申し訳ありませんでした!
マザーが大きな声で謝罪した。
どうしたんだよ突然?
私は…。
私は少なからずこうなる可能性を予測していました。
ですが、あまりに素晴らしい皆さんの資質を見せつけられ、結成間もないクランを危険の伴う依頼に参加させてしまった…。
本来であればもっとトレーニングを行い、連携の確認や能力の把握を行ってから実戦に望むべきなんです。
私が欲を出したばっかりに…。
本当に申し訳ありませんでした!
マザーに表情はないが心の底から後悔していることが伝わってくる。
マザー有り難う。(悠)
俺たちにそこまで期待してくれていたんだな。
でも本当に悪いのは俺だよ。
リナとレイナの周囲を警戒しきれてなかった。
自分が兎を仕留めることに夢中で、全然周りが見えてなかったんだ。
自分の能力の範囲やレイナの魔法の範囲も全然理解していなかった。
本来であれば二人に近づく敵を撃退し、二人が戦いに集中出来るようにするのが俺の役目なんだ。
なのに自分が目立とうとして本来の役割を果たさなかった。
悪いのは全部俺だよ。
二人とも本当にごめん。
俺は謝罪し、二人に対し頭を下げた。
そんな!悠兄さんは悪くありません!
私が二人に合わせて魔法の範囲をコントロール出来ないのが問題なんです。
リナちゃんが怪我をしたのも、私が相手を怖がって悲鳴をあげてしまったから…。
私が自分で対処していればリナちゃんが背後から攻撃されることなんてありませんでした!
全て私が魔法をコントロール出来ないことが原因です!
リナちゃん!悠兄さん!
本当に申し訳ありませんでした!
レイナも自分の行動に責任を感じていたようだ。
いつにも増して深々と頭を下げている。
いやいやちょっと待ってよ。
二人ともなに言ってんのさ。
そもそも私が自分の周りの敵を把握してなかったことが原因なんだよ?
目の前の敵を倒すことに夢中になって、レイナに向かう敵に全く気付かなかったんだよ?
レイナの声を聞いてやっと状況を理解して。
慌ててフォローに回ろうとした挙げ句、後ろから激突されてKOだよ?
どう考えてもクランを混乱させたのは私だよ。
自分のせいで怪我して周りに迷惑かけて。
ホントに情けないよ。
二人ともごめんね。
リナは自分が怪我をしたのに、その責任を人に押し付けようとせず、自分に原因を見つけていた。
負傷しながらもきちんと次に活かそうとしている
ホントに前向きな奴だと感心させられた。
いいえ。悪いのは私です。
私が欲張ったばっかりに。(マザー)
いや、やっぱり俺だよ。(悠)
いえ、そもそも私が…。(レイナ)
だから私だって!(リナ)
そんなやり取りが何度か続いた。
そして…。
ダー!もう分かったよ!
みんな悪かった!それでいいでしょ!?
リナが大声を出し場をまとめた。
リナ!何やってんだ!
大声なんかだして!
安静にしてないとダメだろ!(悠)
そうよリナちゃん!
大きな声なんかだしちゃダメ!(レイナ)
そうですよリナさん!(マザー)
誰のせいだと思ってんのよ!?
リナはまたしても大声でツッコミをいれる。
もう、分かったよ!
今回はみんな悪かった!
みんな実戦を甘く見てた!
そしてみんな色々反省してる!
それでいいでしょ!?
リナ!
俺は真剣な表情でリナを見つめる。
な。なによ?
まとめの中にお前が大声を出したことが入ってない!やり直し!
まだ言うか!?
リナはツッコミながらこちらを睨んできた。
……。
…………。
さて、冗談はさておき…。
リナの言う通りだな。
今回のようなことが二度と無いように。
みんなで反省しよう。
はい。(マザー)
そうですね(レイナ)
マザーとレイナが同意する。
それでなんだが。
昨日言ってた俺たちに決定的に足りないものって言うのは、つまりこういう事なんじゃないか?
俺はマザーに尋ねた。
…その通りです。
皆さんに足りないもの。
能力の把握もそうですが何よりも重要なこと。
それは強すぎる余り、自分以外の周囲の状況を把握しようとしないこと。
つまり、戦いにおいて全員が主役になって個人プレーに走ってしまうことです。
クランバトルはチームプレーです。
お互いが仲間を信頼し、与えられた役割をこなしていく。
仲間の状況を常に把握し、必要に応じてお互いをフォローしあう。
そうやって自分と仲間の力を最大限に発揮していく。
それがクランバトルであり、クランを組む最大の理由なのです。
皆さんは資質に恵まれました。
一対一で皆さんに勝てる人は限られるでしょう。
しかし、クランバトルではそうはいきません。
一人一人は弱くても力を合わせれば強敵にも勝つことができる。
クランバトルとはそういった可能性を秘めているのです。
皆さんが個人プレーを続ける限り勝つことは難しいでしょう。
昨日私が伝えたかったのはそういうことだったのです。
今日は兎と戦いながら、少しでも皆さんにその部分に気付いていただけたらと思っていました。
しかし、結果的にリナさん。
そして皆さんを危険に晒してしまった…。
案内人失格です。本当に申し訳ありません。
マザーはまた謝罪する。
本当に今日のことを悔いているようだ。
謝るのはもういいから。
リナがマザーの謝罪を遮った。
連携が大事なことは今日で痛いほど分かった。
言葉通り身に染みたよ。
それで?
私たちは何をすればいい?
どうすればマザーの言うクランになれるの?
私が聞きたいのは謝罪じゃない。
その部分だけなんだよ。
兎相手にやられっぱなしなんて私のプライドが許さない。
絶対にやり返してやる。
リナは真っ直ぐマザーを見ていい放った。
さっきまで意識が朦朧としていた女の子とは思えない。
力強く真っ直ぐな瞳だ。
リナ。お前すごいな。
自分があんな目にあったのに…。
怖がる訳じゃなく、次に活かそうとしてる。
本当に凄い奴だな。
俺は思わずリナへの感嘆の言葉を述べていた。
心の底からでた。本心の言葉であった。
今さら気づいたの?
私って凄いんだからね!
リナは今度はふざけながらいい放つ。
いつものリナだ。
俺は少し安心していた。
マザー。
リナの言う通りなんだ。
俺は二人と、そしてお前と。
クランとして戦いたい。
その為のアドバイスをくれないか?
俺にできることなら何でもする。
私もです。
私もリナちゃんと悠兄さんとマザーとクランになりたいです。
私にできることを教えて下さい。
私のせいで仲間が傷つくのはもう嫌なんです。
怖がりで人を傷つけるのを恐れてきたレイナだが、今日の出来事をうけ、クランのために自分の力を発揮するとを決意したようだ。
皆さんはこんな私でもまだ信用して下さるんですね。
本当に有り難うございます。
分かりました。
私にできるアドバイスをさせていた頂きます。
マザーも俺たちの決意を受け止めてくれたようだ
○ ディープインパクトというクラン
マザーが話し合いの口火をきる。
では、最初に皆さんに質問があります。
クランとして、どんな事態に陥ったとしても。
絶対に死守しなければならない人物。
それは三人のうちどなただと思いますか?
レイナだな/レイナね
俺とリナが即答する。
え!?え? 私ですか?
レイナは困惑した表情で俺たちを見渡した。
はい。その通りだと私も考えています。
レイナさん。
ではあなたはどなただと思ったのですか?
マザーがレイナに尋ねる。
ええと…。
相手の近いところで戦うリナちゃんは一番危ないし、速さと攻撃力も高いです。
いつも明るくて。みんなを励ましてくれます。
クランには絶対に必要な人だと思います。
悠兄さんは、相手からリナちゃんや私を守ってくれる重要な役割です。
年上としてクランをまとめてくれてもいます。
いなくなるのはクランとして非常に大きい損失です。
私は…。
私は攻撃に時間がかかるし。
皆をまとめることも出来ないし。怖がりだし。
クランの中では二人に頼りっぱなしです。
だから…。私…ではないです。
どちらかは選べませんが。
私以外の二人の方がクランに必要だと思います
レイナの性格がよく出た回答だと俺は思った。
しかしその答えは間違っている。
成る程。
分かりました。
悠さん。今の答え。どう考えます?
…。
レイナらしい答えだと思うよ。
レイナは能力や強さで人を見ない。
その人自身の性格や貢献度で判断してくれる。
本当に優しい娘だと思う。
けど…。
今回の質問に対する答えとしては間違っていると思う。
クランで絶対に欠けてはならない人物。
やっぱりそれはレイナだよ。
俺はマザーに向け自分の考えを告げる。
そんな!どうしてですか!?
私なんかよりずっと!
二人の方がしっかりしているのに…。
レイナは自信なさげな表情で俯いている。
悠さん。応えていただけますか?
マザーに回答を促される。
さっきも言ったけど。
レイナは優しい。優しすぎるんだ。
相手の価値ばかり見て自分の価値は二の次だ。
いいかレイナ。
お前は自分が思うよりずっと凄い奴なんだよ。
それを今から話させて貰う。
俺はレイナを見てゆっくりと話し始めた。
先ずレイナの魔法による攻撃力だ。
確かに魔力を練る時間は必要だが、時間に応じて発揮される魔法の威力は桁外れだ。
この間見たもっさり兔との戦いでも、手加減してあの威力だぞ?
リナや俺がちまちま一匹ずつ倒すよりも、恐らくレイナが魔法で一掃する方が結果的なスピードは早い。
しかもあれだけの広範囲に攻撃できるんだ。
もし範囲と威力を小さくできるようになれば、恐らく魔法の出力スピードが俺たちの攻撃速度を上回る。
要するにリナレベルの攻撃が遠距離から可能になるんだ。
レイナの魔法にはそれくらいの可能性を感じる。
そんな!私はリナちゃんみたいな攻撃なんて出来ません!
レイナは強く否定している。
何故だか焦っているようにも見えた。
更にだ。
俺は続ける。
俺はこっちの方が凄いと思うが。
レイナには人を癒す能力がある。
これは人数制限のあるクランバトルにおいて大きなアドバンテージだ。
例え俺たちが大きなダメージを負っても、レイナがいれば戦線に復帰できるんだ。
相手からしたら何度倒しても起き上がってくる。
まるで不死身の集団だよ。
相手がどんなに強くても、人間である以上は体力や精神力に限りがある。
俺たちがダメージを負っても、それを少しずつ削っていけば必ず限界がくるんだ。
レイナが後ろで支え続けてくれる限り、俺たちはクランバトルで負けることはないんだよ。
そんな。そんな私は。
そんなに凄い人間ではありません…。
何故だろう。
レイナは誉められているのにどんどん追い込まれているようだ。
レイナ。
俺たちはレイナが居てくれるだけで安心して戦うことができるんだ。
何かあってもレイナが助けてくれる。
レイナを信じているからこそ、思い切り戦いに集中できるんだよ。
レイナはいつも自分は大した人間じゃないと言うけど、俺たちはレイナを頼っているし信じている。
そしてレイナはそれに足る人物だと俺は思っているよ。
……。レイナは俯いたまま黙っていた。
まあ、俺の考えはこれくらいなんだがどうだろ?
俺はリナとマザーに目配せをする。
私もほとんど同じ意見だよ。
リナが応える。
私もです。マザーも続いた。
まあ、1つ付け加えるとすれば、癒しの力は相手との交渉にも用いることが可能です。
大きなダメージを負った相手に、傷を癒す代わりに何か約束を強いることも可能でしょう。
流石マザー。悪どいなー。(リナ)
確かにそれは考えもつかなかったよ…。
しかしマザー…。
この話を出したことには何か意味があるんだろ?
俺はマザーに訊ねる。
はい。
皆さんも先ほどお話しされていましたが、クランバトルにおいては仲間との連携が重要になります。
・バトルにおける隊列
そしてこの連携をより強固な物にするために必要なのが「隊列」。
つまりバトル時の皆さんの配置です。
隊列か!成る程なー。
戦略ゲームには必ず出てくるもんな~。
俺は過去にやった歴史ゲームを思い出していた。
リナさんが怪我をしてしまったあの戦い。
皆さんが攻撃を始めた時の配置を覚えていますか?
はい!真っ直ぐ横に並びました!
リナが手を挙げて応えた。
その通りです。(マザー)
では、何故あの並びから攻撃を始めたんですか?
格好いいと思ったからです!(リナ)
では、攻撃を始めてからの隊列は覚えてますか?
(マザー)
覚えていません!好き放題戦いました!(リナ)
……。
その様でしたね。
私が見る限り皆さんは自由に。
個別に戦っていました。
これが皆さんが各兔に注意を払えなかった一番の原因です。
自分が目についた敵だけに注意を向けてしまった。それでは現在敵が何人いるのか。
仲間がどんな状態にあるか。
詳細に状況を把握することはできません。
クランバトルにおいては、誰が何体の敵を倒すかよりも、常にクランのバランスを保ち、全体が安全に戦い続けられるよう広い視野を保つことが大切なんです。
フムフム。成る程。
確かにあのとき。
俺もリナも早く相手を倒すことを考えていたな。 全体に兔が何羽いて、現在何羽倒したのか。
そして残りはどういう位置に残っているのか。
そんなこと考えもしなかった。
それどころ、レイナが何処にいるかも知らなかったよ。
一番堅守しなけりゃならない人物を無視しちまったんだな。
私もだ。自分がさっさと全部片付ければいいとしか考えなかった。
反省しないとな。(リナ)
その結果が今回の事態の原因でしょう。
皆さんは自分が最善を尽くすつもりで自らの首を絞めてしまったのです。
しかしこれは決して恥ずかしいことではありません。
クランバトルに慣れていなければ、誰もが陥る事態なんです。
それを分かっていながら私は…。
だからそれはもういいから!(リナ)
それで私たちはどんな隊列を組むべきなの?
どうしたら全体を把握できるようになる?
私なりに1つの隊列を考えてみました。
非常にシンプルですが、皆さんにはぴったりな気がします。
それは先ほどの戦いで皆さんが行った隊列とは真逆。3人を基本的に縦の関係で配置するものです。
具体的には前衛にリナさん。中盤に悠さん。後衛にレイナさんを配置するという形です。
リナさんの心具は剣。直接攻撃専門です。
射程は0~2メートル。
前衛でのリナさんの役割は、相手の同じ直接攻撃タイプのブロック及び撃破です。
同一タイプの敵を悠さんとレイナさんに近づけないことが、行動の主目的になります。
撃破はそれに付随する結果だと考えてください。
成る程。私は皆に敵が行かない様にする壁役な訳ね。(リナ)
はい。その通りです。
そして二人の真ん中に配置される悠さん。
悠さんの心具は攻撃や敵自体を弾き飛ばす指輪。
見ていると確実に当てられる射程は10メートル それ以上だと有効範囲が定まらないことがあるようです。
悠さんはこの距離を保ち。リナさんの戦闘のフォロー。
それと相手の中~遠距離攻撃の防御。
リナさんが取りこぼした相手をレイナさんに向かわせず弾き飛ばすこと。
つまり全体を見通して、他の二人に危険が及ばないように防御の柱になってもらいます。
俺は二人を守ることを第一に考えればいいんだな。(悠)
そうです。
そしてレイナさん。
あなたの心具は杖。攻撃手段は魔法。
射程は5~30メートル。
これはこれから更に延びるでしょう。
あなたの役目は二人が相手を引き付けている間に魔力を精製し、一撃で相手を行動不能に陥れること
万が一大きなダメージを負った仲間がいる場合は、その仲間のダメージを癒し、クランのバランスを再構築させることです。
つまり。
あなたには戦闘を終わらせるトドメの一撃とクランのピンチを覆す逆転の切り札になって貰います。
やっぱりレイナがクランの中心なんだな。(悠)
はい。
ですから他の皆さんの一番の目的は、レイナさんが安全に魔法を使用できるように時間を作ること。
そしてレイナさんを相手に指一本触れさせないことと言っていいでしょう。
異議なし!非常に分かりやすく合理的です!
リナが手を挙げて応える。
で、レイナを守るために私たちはどんなトレーニングをすればいいですか?
それについても既に考えてあります。
これからは普段の個人トレーニングのあとに、3人での連携トレーニングを加えます。
どんなトレーニング?(リナ)
いつも行っているボールを使ったトレーニングを隊列を組んで行います。
赤と青のボールを投げ、悠さんとリナさんは赤のボールを全て撃破します。
レイナさんは後方からボールの位置を指示し、自分は青いボールを魔法で撃墜します。
このとき、3人が常に一定の距離を保つことが大切です。
現在何個のボールが周りにあり、どのボールを先に攻撃すべきか。
3人が各々の体制やクランのバランスを考えて指示していくのです。
そうやって練習していけばもっといいクランに成れるんだね!
よーし、早速トレーニング開始だー!
リナは立ち上がり腕を高く突き上げた。
ポーズにはやる気が満ち溢れている。
リナさん。
あなたは三日間の安静が必要です。
トレーニングはあなたが回復してからにしましょう。
マザーの言葉に俺とリナは思わず笑っていた。
ただ、話の途中からレイナだけが浮かない表情をしていた。
俺はずっとそれが引っ掛かっていた…。