水の章 エクストララウンドⅦ
○挑戦者の資格Ⅲ
(観客)
絶対に逃がすな!
捕まえて八つ裂きにしろ!
帝様にあんな無礼を働いたんだ!
取り逃がしては、水の精霊様。帝様の信仰者としてのメンツに関わるぞ!
ロープだ!
梯子かロープを持ってこい!
早くしろ!奴等を絶対に逃がすな!
殺気だった観客達が、闘技場のディープインパクトに向かって罵声を浴びせ続ける。
観客達は直接手を下そうと、観客席から身をのりだす。
ロープや梯子を持ってきて闘技場に降りてこようとしている様だ。
観客席の至るところからロープが垂らされる。
今にも観客達が闘技場に突入しようとしている。
状況は一層逼迫してきていた…。
(悠)
おいおい!
マジでヤバイって!
あの人達本気で俺達を捕まえる気だぞ!
あの人数に一気に襲われちまったらひとたまりもない!
まして、ステラではクランバトル以外で、人を傷付けるのは禁止なんだろ!?
それじゃあ、抵抗しても幽閉だし!
抵抗しなくても、ぼこぼこにされて捕まる!
最悪殺されちまう!
八方塞がりじゃねーか!?
けど、観客だって俺達をぼこぼこにしたら幽閉なんだろ!?
皆頭に血が昇って忘れちまってるのか!?
悠は観客に向かって叫ぶ。
しかし、誰一人として耳を貸そうとはしない。
(悠)
くそ!全然聞いちゃいねー!
頼むから落ち着いてくれ!
俺達は皆と戦いたい訳じゃない!
リナの行動も、少し感情に流されただけなんだ!
本当に水の帝に敵意があるわけじゃないんだよ!
本当に申し訳なかった!
謝るから!
頼むから落ち着いて!
話を聞いてくれ!
悠は観客に向かい叫び続けた。
しかし、怒りが頂点に達している彼達の耳に。
その言葉は届かない。
観客達は、遂にいくつかのロープを壁から垂らし、我先にと流れ込もうとしている。
(レイナ)
ダメです~!
皆さん完全に頭に血が昇っています~!
こちらの説得なんて、全く聞いてくれません~!
このままじゃ間違いなく戦闘になります~!
私たちはどうしたらいいのでしょうか~!?
レイナは目に涙を浮かべながら、おろおろと落ち着きのない様子で、マリエに駆け寄った。
(マリエ)
残念だけど…。
リナちゃんの行動は行きすぎていた…。
観客達がこうなってしまうのも。
この世界では当たり前の事よ…。
寧ろ信仰の対象に刃を向けられて、それを許すなんてこと…。
この世界の人間には考えられないことだわ。
私たちは、この世界で絶対にやってはいけない行為に及んでしまった…。
私達の世界においては、言うなれば大量殺人鬼。
それに等しいほどの重罪を、多くの人の前で堂々と行ってしまったのよ…。
最早弁解の余地など残っていない…。
私たちを切り刻み、非信仰者として晒し者にする。
彼らの中では、それが絶対の正義。
正義に反するものは、容赦なく処罰される。
もうこの会場の中に、私たちの味方は誰一人として残っていない。
衝突を避ける術は…。
もう残っていないのよ…。
マリエは、レイナを抱き締めながら、観客席を見渡している。
流石のマリエも、この人数を同時に対応する術はなく。
ただ黙って、事態が最悪の方向に進んでいくのを傍観することしか出来ずにいた…。
(悠)
本当になんなんだよ!
少しでいい!話をさせてくれ!
ついさっきまで、
「マリエさま~!頑張って~!」とか、
「レイナちゃ~ん!無理しないでね~!」とか、
「剣士さま~!すてき~!」とか、
「死ね~!変な格好の青髭おやじ~!」とか、
色々と親しげに応援してくれていたじゃねーか!
俺のはいっつも悪口だったけどさ!
寧ろ俺達…。
どっちかって言うと、人気者の部類だったはずだろ?
皆、俺達の試合…。
楽しみにしてくれていたんじゃねーのかよ!?
確かに、リナの行為は誉められたもんじゃない!
けれど、ちょっと感情的になってやっちまっただけなんだ!!
俺達だって悪いことをしたと思ってる!
頭を下げる用意だって出来てるんだ!
それなのに…。
たった一つの…。
たった一回の過ちで…。
本当に手を出した訳でもないのに…。
どうしてここまで変わっちまうんだよ!
何で話すら聞いてくれないんだよ!
観客の皆だって、感情的になって失敗したことくらいあるはずだろ!?
酔っぱらって人に迷惑かけた事だって、あるはずだろ!?
人間なら、誰にだって。
そういう失敗はあるはずだろ!?
帝だってそうだ!!
結局は、俺達と同じ人間だってのに…。
失礼な態度に怒って、敵意を向けただけでこの仕打ちかよ!
実際に俺達に失礼な提案をしたのだって、向こうが先だったじゃねーかよ!
それなのに!
自分達の都合で手のひらクルクル返しやがって!
これまで俺らの事、それなりに好きでいてくれたじゃねーかよ!
応援してくれたじゃねーか!
仲良く!
楽しくさ…。
やれてたじゃねーかよ…。
俺はこの大陸で会った人達のこと…。
観客の皆の事だって…。
結構好きだったのに…。
悠の頭の中で、これまでの対戦相手や絡んだ観客達。宿屋の夫婦。町の人々の顔が次々と浮かぶ。
皆、笑顔で親切な。
悠のいた世界と変わらない、とても親切で気のいい人達ばかりだった。
それなのに…。
たった一度の過ちで。
たった一つの感覚のズレで。
あの優しい笑顔が、こんなにも恐ろしい表情に変わってしまうのか…。
あの和やかな空気が、こんなにも殺伐としてしまうのか…。
あの楽しかった時間が、まるで存在しなかったかの様に、関係全てが壊れてしまうのか…。
悠は、これまで皆と築いてきた、沢山の楽しい時間が、一瞬にして崩壊してしまった現実に。
とても大きな焦燥感を。
とても大きな悲壮感を。
とても大きな違和感を。
そして、なによりも…。
とても大きな悔しさを。
心の中で感じながらも。
結局何もできない自分に。
結局何も変えられない現実に。
強い苛立ちを感じていた。
(悠)
なんでそんな目で見るんだよ!
なんで平然と危害を加えられるんだよ!
なんでそんなに威圧的なんだよ!
なんで話し合う余地をくれないんだよ!
あんなに楽しかったのに!
あんなに大好きだったのに!
友達になれたって…。
友達だって思っていたのに!
なんでそんな風に変わっちまうんだよ!
信仰するものの方が、実際の友達よりも大事だって言うのかよ!
どんなに仲良くなっても、信じる物を否定されたら、命まで取り合わなきゃいけないって言うのかよ!?
おかしいだろ!!
そんなのおかしい!
絶対におかしいよ!!
俺は…。
自分が信じる抽象的な。
それこそ神様や精霊なんかより…。
いつも側にいてくれる…。
家族や…。仲間や…。
友達の方が、ずっと大切なんだよ!!
それじゃあ、ダメなのかよ!?
一番が信仰じゃなきゃ、受け入れてくれねーのかよ!?
同じものを信じていなきゃ、友達にもなれねーのかよ!?
そんなの変だよ!!
絶対に間違ってるよ!!
信じるものが違っても、友達は友達じゃねーのかよ!?
相手の違う部分も受け入れるのが、本当の仲間じゃねーのかよ!?
俺達には。
俺にはこの世界で…。
ずっと仲間や友達は、
出来ねー、つーのかよ!?
そんなの…。
そんなのおかしいだろう…。
俺は好きなのに…。
仲良くしたいのに…。
誰も…。
受け入れてくれないのかよ…。
変だよ。そんなの。
やっぱりおかしいよ…。
信じるものが違うだけで、命をかけて争わなきゃなからないなんて。
そんなの絶対に間違ってる…。
そういう違いをも受け入れるのが。
許していくのが。
本当の仲間のはずだ!
友達のはずだ!
例え考えが違っても、相手の事を大切に思うことは出来るはずなんだ!
信じるものがあってもいい!
その対象が違ってもいい!
それよりも…。
一人の人間として、相手を大切にする。
大事だって思う。
そんなの、当たり前じゃねーか。
仲間なんだから、友達なんだから…。
一番大事なのは、「相手自身」のはずだろう?
違うのかよ。
それっておかしなことなのかよ。
俺にはもう…。
よく分からねーよ…。
悠は拳を強く握りしめ、下を向いたまま俯いている。
大切だと。友達だと思っていた人達から向けられる殺意に。
何も出来ない。何も変えられない自分自身に。
そして、自分の考えとは、余りにもかけ離れたステラの現実に。
悠は今。
余りに大きすぎる、思考の違いにぶち当たっている。
その余りにも高すぎる文化の壁。
越えていくのは容易なことではない。
いつの日か、悠がステラを。
ステラが悠の考えを。
受け入れられる日が来るのであろうか。
今は誰にも、その答えは分からない。
(マリエ)
悠さん…。
(レイナ)
悠兄さん…。
悠の様子を心配した二人が声を掛けようとする。
しかし、その前にマザーが声を発する。
(マザー)
悠さん。
残念ながら違います。
ここでは違うんです。
一番大切なのは「相手が何を信仰しているか」。
であり、相手が「どんな人間であるか」は、信仰が伴って確認されるべき事由。
信じるものが違う人同士が、互いの「内面」のみに惹かれ、親密な関係になることは有り得ません。
例え一度親密な関係を築こうとも、相手が違う精霊の信仰者であれば、それ以降の関係は消滅します。
それがステラにおける人の在り方であり。
これからも続いていく、不変なる真実です。
以前にもお話ししましたが、ステラにおける生活の基礎。
考えの基盤は「信仰」にあります。
日常の全て。
その人生の全てが、信仰のために存在します。
衣食住。その全てが精霊の恩恵であり。
自分の命さえ、精霊のために捧げています。
ステラでは、この考えが常識であり正義です。
どんなに一瞬仲良くなれたとしても、信仰が違えば命のやり取りさえいとわない。
ステラはそういう世界であり。
そういう文化が続いてきました。
異質なのは悠さん。
貴方の考えの方です。
いい加減にそれを理解してください。
私から見ていても。
自分が信仰する帝に刃を向けられるなんて、とても許せたもんじゃない。
はっきり言って、リナさんの行動は常軌を逸している。
私が同じ立場なら。
例え刺し違えてでも、その人物を地の果てまで追い回し。
そして必ず葬って見せるでしょう。
例えその相手が、ディープインパクトの皆さんの何方かであっても…。
私は絶対に許しません。
信仰の対象を愚弄する行為は、その信仰者全てを愚弄する行為に等しい。
命に変えても、その愚弄者を葬り去るべきだ!
いいですか?
ステラも、そして私もそうです。
ここでは、それが当たり前。
それが「正義」です。
信仰なくして、人間関係など有り得ません。
いい加減に受け入れてください。
例えどんな綺麗事を並べようと。
これがステラです。
異質なのはあなた方だ。
それを理解し、受け入れた上で行動してください。
そうしないと。
このままでは本当に近い将来。
貴方達…。
本当に死にますよ?
残念ながら、会場の現状を作り出したのはあなた方です。
観客の行動は、ステラに住む人間にとっては当然の事。
残念ながら、我々に弁解の余地など残っていません。
さて、余り話している余裕も無いようです。
どうされますか?
このまま大人しくぼこぼこにされるか。
幽閉覚悟で観客と戦うか。
どちらも皆さんにとっては、いい選択肢には成り得ませんが…。
残念ながら、他の可能性は残っていない。
それを招いた、自分達の安易な行動を悔いることですね。
マザーが言うように、観客席からは既に無数のロープが垂らされている。
観客達は我先にとロープを下り、今にもディープインパクトに襲い掛かって来る勢いである。
(レイナ)
どどど、どーしましょー!?
降参したとしても、
簡単に捕まえてはくれそうにありません~!!
必ず私たちをギタギタにするつもりです~!
かといって、皆さんを傷付ける訳には~!
困りました~!
助かる手立てが思い付きません~!
レイナが泣きながら、おろおろと闘技場を動き回る。
(マリエ)
流石にもう説得は無理そうね。
だけど、簡単に捕まるつもりはない…。
やれる範囲でも、抵抗して逃げ道を作れれば…。
天部に追われることになっても、それは後から考えるしかない。
今は無事に、ここから逃げることを考えましょう。
マリエは既に観客と戦う決意をしている様だ。
扇を構え、臨戦態勢に入っている。
そしてこの時、この状況を作りあげた張本人であるリナが、騒動後始めて口を開いた。
(リナ)
ちょっと待ってよ。
皆が戦ったり、捕まったりする必要はないでしょ?
私がこの騒動を起こしたんだから、尻拭いは私がやるわよ。
私が切り込んで道を作るから、皆はその間に逃げればいいのよ。
私は自分がした行動に後悔はしていないし。
観客にも大した思い入れはない。
天部にだって、世話になったつもりはないから。 全部まとめて相手をしてやるわよ。
分かった?
皆は逃げることに集中すればいいのよ。
一緒に旅ができなくなるのは残念だけど…。
十分楽しませて貰ったし…。
後は私の好きな様にやるわ。
やっぱりステラは、私みたいな人間には生きづらい所みたいだし…。
これからも一緒にいると、きっと迷惑になる。
だから…。
パァン!!
(ディープインパクト)
!?
その時、誰かがリナの頬を打ち抜いた。
リナは驚き。
目を丸くしながら、頬を押さえる。
そのリナの前には、さっきまで涙を流しながら、闘技場をウロウロさ迷っていたレイナが立っていた。
(レイナ)
どうして…。
どうしていっつも全部一人で決めちゃうんですか!?
どうしていつも一人で格好つけようとして!
どうして私を…。仲間を頼らないんですか!?
現状を切り抜けるためなら、リナちゃんがクランから居なくなってもいいと!
この中で誰かが思っていると言いたいんですか!?
いい加減にしてください!
一人で突っ走ってトラブルを起こして!
格好つけて一人で解決しようとして!
貴方は何がやりたいんですか!?
全部何でも一人で決めて!
感情に流されて行動して!
いい加減に大人になってください!
皆が一生懸命考えているのは、誰の為なんですか!?
そんなことも分からないんですか!?
レイナは泣き叫びながら、リナに向かっていく。
普段の彼女とはかけ離れた、その余りの迫力に。
ディープインパクトの面々は、一瞬驚きの余り、立ち尽くしてしまっていた。
(リナ)
ちょっと…。
レイナ!待って!
リナは迫力を増して近付いてくるレイナを、必死に押さえようと手を伸ばす。
(レイナ)
待ちません!
今日という今日は許しません!
私の堪忍袋は、今解き放たれました!
興奮しすぎて、何を言っているのかは分からないが、どうやらレイナは相当怒っているようだ。
リナに歩みより、ポカポカと彼女を叩き始める。
(レイナ)
本当にいっつもいっつも! グスン!
一人で暴走して迷惑かけて! エグエグ!
ヤバイと思ったら、格好つけて責任は自分で取るから、皆バイバイですか!? ヒックヒック!
バカに…。しないで下さい!
グスングスン!ズズー!
レイナは勢いよく鼻をすすると、表情を引き締め、再びレイナに詰め寄っていく。
(レイナ)
貴方はただ、逃げたいだけでしょう!?
自分が起こした失敗で、仲間が傷付くのを見たくないだけでしょう!?
自分のせいで誰かが傷付く現実が、怖いだけでしょう!?
本当は皆と一緒にいたいのに!!
いっつも!いっつも!いっつも!いっつも!
そうやって一人で何でも出来るふりをして!
私が引き付けるから先に逃げろって!?
あんな大人数を相手に、一人で何が出来るって言うんですか!?
どうせ直ぐに捕まって、皆にぼこぼこに殴られて晒し者にされるだけでしょう!?
そうなることも分かっているんでしょう!?
私たちにも分かりますよ!!
一人で引き付けるなんて無理だって!!
リナちゃんは捕まるつもりなんだって!!
誰でも分かりますよ!!
(リナ)
ちょっとレイナ…。
落ち着きなさいよ…。
あんた突然どうしたのよ?
余りの迫力で迫るレイナに、リナは思わず後退りをする。
しかし、レイナの怒りは収まりを見せず…。
(レイナ)
いいえ!今日という今日は言わせて貰います!
自分が犠牲になって仲間を逃がす!?
皆が逃げられれば自分はどうなってもいい!?
どこまで人をバカにすれば気が済むんですか!?
皆が本当に、そんな事を望むと思っているんですか!?
リナちゃんが犠牲になって、逃げ切って…。
ああ、無事に逃げ切れて良かったな。って…。 皆が安心するとでも思うんですか!?
仲間を…。友達を…。私たちを…。
バカにするのもいい加減にしてください!!!
リナちゃんが一人残るなら、皆はきっと全員で引き返して助けに来ます!!
リナちゃんが捕まってしまったら!!
天部に乗り込んで奪い返しにいきます!!
私たちは、そういう関係でしょう!?
私たちは、一緒に旅をする仲間でしょう!?
私たちは、皆が揃って…。四人で…。
クラン・ディープインパクトでしょう!?
そんなことも…。
そんなことも分からないで、何が仲間なんですか…。
リナちゃんが一番仲間を理解していません!!
私たちを理解していません!!
バカにしないで下さい!!
私のクランは!!仲間は!!
そんなサイテーな人間なんていないんですよ!!
ふざけた事言う暇あったら、もっとマシな提案しやがれ!!
この筋肉ナルシスト~!!
ハアハアハアハア…。
レイナは泣きながら思いの丈を吐き尽くした。
その余りの迫力に、一瞬闘技場中の視線が彼女に集まる。
リナも他のメンバーも、レイナの突然の爆発に身を固めていた。
そして、数瞬の後…。
(マリエ)
プッ…。クックック…。
筋肉ナルシストって…。
もう少し、マトモな言い回しは無かったのかしら…。
せっかく良いこと言っていたのに…。
最後の最後で台無しじゃないの…。
クスクスクス…。
マリエは、肩を震わせながら笑いを堪える。
(悠)
ああ。確かにそうだな。
筋肉ナルシストか…。
本当にいきなり作ったんだろうけど。
それにしても、語呂も悪い。
やっぱりレイナは、人の悪口を言う才能はないみたいだな。
しかしまあ。
本当に酷いセンスだな…。
クスッ。あっはっはっ!
本当にひでぇーや!!
アッハッハッハッ!!
マリエにつられて、悠も思わず笑い始める。
(レイナ)
ちょっとマリエさん。悠兄さん。
恥ずかしいから止めてください!
あれは、ちょっと興奮しすぎて…。
場の勢いで言ってしまったから…。
本当に止めてください~!
からかわれると、どんどん恥ずかしくなって来ちゃうじゃないですか~!
けど…。確かに酷いセンスです~。
やっぱり慣れないことはするものではないですね~。
クスクスクス…。
筋肉ナルシスト。
自分で言っときながら、酷い出来です~。
発言をしたはずのレイナまでもが笑いだす。
三人は思わず、顔を見合わせた。
(悠)
クック…。筋肉ナルシスト…。
(3人)
アーハッハッハッハ!!
ひでぇーや!!
本当に酷いセンス!!
ちょっと悠さん止めてよ!!
つられちゃうでしょ!!
アッハッハッハ!!
止めて下さい~!
本当に恥ずかしいです~!
でも酷い渾名ですよね~!
アッハッハッハ~!
私も何だか笑えてきちゃいます~!
アーハッハッハッハ~!
ハーハッハッハ~!
苦しい!息できない!
助けて!死んじゃう!
お客さんに捕まる前に死んじゃうって!!
本当に止めてよ!
状況分かってるの!?
あ、ダメね。
堪えようとすると余計に…。
アッハッハッハ~!
酷い!いくらなんでもひでぇーよ!
ヒー!本当に息できない!
誰か助けて!
3人の大きな笑い声が、会場全体に響いていく。
先程まで、我を忘れて殺気だっていた観客たちも、その状況に思わず立ち尽くし、彼らが笑う姿をじっと見つめ続けていた。
(観客)
ザワザワザワザワ…。
なんだアイツら…。
この状況を分かっているのか?
今から俺たちに袋叩きにされるって言うのに、何を楽しそうに笑ってやがる…。
観客達は、その余りにも異様な光景に。
少し襲いかかるのを、尻込みしているようであった。
(リナ)
ちょっとちょっと!
皆何してんのよ!?
観客まで呆気にとられてるじゃない!?
結局どうすんのよ!?
逃げる準備は出来てるんでしょーね!?
リナが慌てて3人に駆け寄ってくる。
そして、駆け寄ってきた彼女に対し。
パァン!
悠が一発。
リナの頬を叩いた。
(リナ)
え?ちょっ!?なに!?
突然の出来事に、リナは驚いている。
その間に、他の3人は笑いながら、目で合図を送りあった。
パァン!パァン!
悠に続いて、マリエとレイナがリナの頬を叩く。
(リナ)
いや、ちょっと!?
なんなのよ!?
パァン!パァン!パァン!
パァン!パァン!パァン!
3人はリズミカルに、リナの頬を叩き続ける。
(リナ)
ちょっ!痛い!痛いってば!
だから何なのよ!?
これからどうするか決めないと…。
パァンパァンパァンパァンパァンパァン!
誰かが張り手を連打する。
(リナ)
痛いっての…。
いい加減にしろ!!
バキィ!!
リナは刀の峰を使い、張り手を続ける相手を殴り付けた。
相手はもちろん。
(悠)
いってぇ~!
暴力反対!!
悠は叩かれた頭を押さえ、リナを睨み付ける。
(リナ)
あんたが先に人の顔をパンパン叩いたんでしょーが!!
この緊急時に何やってんのよ!?
これからどうすんのよ!?
ちゃんと逃げる方法考えてんの!?
(悠)
お~怖い怖い。
ちょっとふざけただけなのに…。
ねえみんな?
(マリエ)
いえ、最後のはやりすぎよね?
(レイナ)
はい。やりすぎだと思います。
あれは、私でも怒ります~。
(悠)
さっきまで一緒にやってたくせに…。
この卑怯者め…。
この…。筋肉ナルシスト!
3人は再び笑い出す。
再び場の空気が和んでいく~。
(リナ)
ちょっとちょっと!
本当にどうすんのよ!?
笑ってる暇なんて無いんだってば!!
この状況をどうするか!
早く決断しないと!
リナは一人、現状の打開策を考え様と促すが。
(悠)
取りあえずは、筋肉ナルシストが一人で引き付けて逃げるのは却下だな。
一人で格好つけんな。
レイナが正しい。
(マリエ)
プッ…。クスクスクス。
そうよね。一人ナルシストは却下よね。
(レイナ)
クスクスクスクス。
はい。
ナルシストは却下ですね~。
(リナ)
じゃあ、どうすれば!
どうする気なのよ!?
(悠)
まあ、取りあえずは…。
なんとかなるんじゃね?
たぶんナルシストよりはマシな位にはさ?
悠がそう言うと、3人は再び大声で笑い始めた。
(リナ)
???
何!?どうなってんの!?
3人とも頭ぶつけちゃったのかな!?
(マザー)
分かりません…。
この状況を打開するなんて、本当に可能なんでしょうか?
けれど…。
何だかいつもの。
「彼ららしく」は、なってきたんじゃないでしょーか。
二人の視線の先には、笑い転げる3人の姿。
この状況を打開する手段など、果たして存在するのであろうか…。