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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
66/114

水の章 エクストララウンドⅤ

 ○ 挑戦者の資格


 (アイシス)

 は~い。エリーちゃん。

 そろそろお客さん達がお待ちで~す♪

 時間もおしてま~す!

 ちゃっちゃと始めちゃって下さ~い♪



 アイシスはまるで親しい友人に話しかけるかの様にそう告げた。

 その声に促され、エリアスは話を止め。

 主賓席にいるアイシスを見る。

 


 (エリアス)

 お~。すまんすまん。

 ついつい話しすぎたわ。 

 確かにあまり時間もなかったな。

 私としたことがうっかりしていた。

 よし。確かに頃合いか…。

 ではそろそろ始めるとするかの。


 まあ、何故私がここにいるのか。 

 先ずはそこを説明するか。

 

 まったく…。

 私も忙しいというのに…。

 つまらない話を長々とさせおって…。


 最近の連中は礼儀というものを知らなすぎる。

 一般的な礼節なんぞに、これ程までに時間を割かせおって。

 これでつまらん戦いをしたら承知せんぞ。


 しかし、話しすぎて肩が凝ったな。

 これだから、立ちっぱなしというのはどうも好かん。

 まあ、アイシスも待っていることだし…。

 言われた通りに、ちゃっちゃと始めるかの。

 


 エリアスはアイシスの言葉を受け、あっさりと話を終えてしまった。

 肩をぐるぐると回し、凝りをほぐしている。

 どうやら、話し続けていた彼女も、少しは疲れていた様だ。


 エリアス・ペールという大きな存在。

 ステラに名を馳せる重鎮。

 精霊に愛され、加護を受けし者。

 そして、高貴なるプライドの塊。


 偉大な彼女を形容する言葉は数多に存在する。


 そんな大物の話を遮り。

 さっさと戦うよう指示し、行動を促せる人物。


 ステラ広しと言えども、恐らく彼女を除いては存在しないであろう。

 

 水の帝 アイシス・スキュータムス


 彼女の放った、軽々しい一言により。

 会場の空気は一瞬で様変わりしたのだ。



 (観客)

 ア、アイシス様だ!

 アイシス様が我々を地獄から救って下さった!

 やはりアイシス様は素晴らしいお方だ!

 我々の救世主なのだ!


 慈悲だ!これは慈悲なのだ!

 何て深いお心だ!

 こんな我々の為に御言葉を発して下さった!

 アイシス様と精霊様が慈悲を下さったのだ!


 水の帝アイシス様!精霊様!

 その慈愛に満ちた心に感謝致します! 


 アイシス様!

 ありがとうございます!

 もう少しで頭がトロけそうになっていました!


 アイシス様!感謝致します!

 私たちはこれからも水の精霊様!

 帝様への感謝を忘れません!



 観客は皆、その場で膝をつき。

 主賓席のアイシスに向かって、手を合わせてお祈りをした。


 あるものは深く頭を下げ。

 あるものはその目に涙を浮かべている。


 その姿勢は、年齢や性別などには左右されない。

 全ての者が彼女を崇拝し。

 全ての者が彼女にひれ伏している。


 その言葉に宿るは精霊の息吹。

 その姿が作るは精霊の化身。

 その動きが描くは精霊の魂。


 全ての動作が信仰の対象であり。

 全ての言葉が民の導きとなる。


 まさに、存在そのものが奇跡。


 彼女はその圧倒的な求心力。

 圧倒的な存在の差。

 圧倒的な「資質の違い」を。

 たった一言で、ディープインパクトに示して見せたのだ。


 ディープインパクトの面々は、アイシスに祈りを捧げる会場の様子に圧倒されながら。


 その様子を、息を飲んで黙って見つめていた。



 (悠)

 分かっていたつもりではあったが…。

 やっぱり桁外れってことかよ。

 スゲ~な…。

 これだけの人数が、一人の人間に頭を下げる光景なんて始めてみるよ。

 ある意味ではこれも、滅多に拝めない。

 所謂、絶景なのかもしれないな。


 しかしまあ…。

 これだけ盛大に違いを知らしめられると…。

 流石に何の言葉も出ないもんですねぇ…。



 悠はそう言って、マリエを見た。

 マリエも若干険しい表情を見せながら、悠の言葉に黙って頷いた。



 (マリエ)

 ステラにおける帝という存在。

 彼女に対する皆の敬意。

 その信仰心。求心力。


 あんなに軽薄な言葉であっても…。  

 誰もがその言葉に感謝し。

 あまつさえ、自らを導く信仰の対象となってしまう。


 もしかしたら…。

 彼女が誰かに「死ね」と命じれば。

 この世界の人たちは、喜んで命を断つのかもしれない。


 それ程の影響力を、彼女一人が有しているという現実…。


 誰も口を挟めない大物も軽口で止める。

 たったの一言で、場の全てを収めてしまう。  

 その一言で、大陸全ての人間の行動が決定する。 

 圧倒的な格の違い…。

 絶望的な存在の違い。


 ステラ風に言えば、正に「資質」の違い。


 ホンの一瞬の登場で、その全てを認識させられてしまった…。


 やはりは帝。

 精霊の化身。


 今の私たちでは…。

 到底…。届きそうにはない…。



 マリエはそう呟くと、険しい表情のまま俯いた。

 気位の高い彼女であっても、受け入れざるを得ない大きな差。


 その背中は遥か彼方。

 まだ黙視することすら許されない。


 彼女は圧倒的な実力の差を、嫌がおうにも再認識していたのだ。



 (リナ)

 二人の話も分かるんだけど…。

 私は…。私はやっぱり。何だか怖いよ。  

 この光景は、私には怖い…。



 リナがふと言葉をもらした。



 (レイナ)

 怖い?リナちゃんが?

 リナちゃんに怖いものがあるんですか?

 (リナ)

 …。

 あんたは、私を何だと思ってんのよ…。

 私にだって苦手なものくらいあるわよ。

 カエルとか、蛇とか。

 まあ、それはいいとして。


 だって、そうでしょう?

 

 帝と言っても、私たちと同じ人間なんだよ?

 それを…。まるで神様みたいに崇めて…。

 ただ少し話をしただけで…。

 年齢も性別も関係ない。

 みんなが膝をついて祈ってる…。


 確かに文化の違いはあるかもしれないけど…。

 私にはなにか、あの人が全てを。

 この世の全てを支配しているかのような…。

 そんな怖さを感じてしまうよ…。

 

 私にはそんな風に見える。 

 皆変だよ。同じ人間なのに。

 異常だよ。 

 やっぱり私にとって、この光景は異常…。

 怖いよ。

 気持ち悪いよ…。


 やっぱりダメ。

 こんな風に人の心を支配するなんて。

 こんなの洗脳じゃない。


 私には受け入れられないわ…。


 

 リナは、そう話すと目を伏せた。

 自分がステラの人々に失礼な事を話していることは、充分に理解しているのだ。


 確かに、元々信仰心の薄い彼女達にとって。

 この光景は「異常」と映るのだろう。


 彼女が手を合わせる存在。

 そんなものは、精々が自分の先祖。

 有っても初詣等による神社位のものであろう。


 どちらかと言えば、お祈り・信仰は非日常。

 特別な。

 季節的なイベントに近い感覚にあるはずだ。

 

 それが彼女達の、我々にとっての日常である。


 しかし、ステラの人間にとって、それは真逆だ。


 「信仰」こそが日常。

 「信仰」こそが生活の基盤なのだ。

 

 信仰の対象たる帝が姿を見せる。

 彼らはごく自然に。ごく滑らかに。

 その場で膝をつき、祈りを捧げる。


 生きた信仰の対象者に、最大限の敬意を示す。

 それは、彼らにとって当然の行動である。


 ステラの日常。

 その振る舞いは、まだ若いリナにとって。

 余りに現実離れした大きな非日常。非現実。


 違う形の文化を受け入れるだけの器は、彼女の中にはまだ備わっていないのだ。


 彼女が今後、自らの資質を伸ばすヒントは。

 もしかしたら、こういった部分の心の在り方にあるのかもしれない。



 (マザー)

 …。

 やはりそうですか。

 気持ち…。悪いですか…。


 なかなか辛辣な言われ方ですね…。

 リナさん自身も悪いとは思っているようですが。

 なかなか心に来るものがありますね。

 

 リナさん。

 分かっているとは思いますが。

 今のような言葉。

 他の人の前では、絶対に言わないで下さいね。


 ステラでは、皆が信仰に命を掛けています。 

 貴方から見れば異常と感じるほどに。

 自分が信じる精霊に。

 精霊の化身たる帝に。

 自分の全てを捧げています。

 

 それが「普通」であり。

 全ての。絶対の基準なのです。


 それを…。

 信仰を気持ち悪いなんて言われた日には…。

 ステラの人間の怒りは、頂点に達するでしょう。

 ステラ中の人間に、追われる事にも成りかねない。

 はっきり言って、何をされても…。

 私も責任は持てません。



 マザーは冷静さを保とうと、いつも以上に落ち着いたトーンで話をする。 

 しかし、いくら隠そうとしても。

 言葉の節々には強い怒りが込められている事が分かる。


 生活の全てである精霊・帝への信仰。


 それを「気持ち悪い」の一言で片付けられては、心中穏やかではないのは当然だ。

  

 それでもマザーは、冷静さを保つ努力を続けている。

 クランメンバーの現状を把握し。

 彼等が持つ違和感も、文化の違いとして理解しようとしている。


 ステラの人間でありながら、自分達の全てを否定されても。

 まだ共に旅をする仲間を信頼したいと思っているのだ。

 マザーもマザーなりに、仲間たちに最後まで寄り添う意志を、既に固めているのだ。


 マザーとクランメンバーのこの溝が埋まるとき、クランはより強い結束を勝ち取ることになるのかもしれない…。



 (エリアス)

 さて。何やら長々と話してしまったが…。

 時間もないことだ。 

 本当にそろそろ始めさせて貰おうかのう。


 

 エリアスは腕を前で組んで体を伸ばす。

 表情も引き締まり、いよいよ準備万端といった様子だ。

 ここで悠が皆の疑問を代弁する形で質問をした。


     

 (悠)

 エリアスさん。

 ここにきて申し訳ないですが。

 ちょっといいでしょうか?

 (エリアス)

 なんじゃ?

 さっきも言うたが時間も迫っておる。

 手短に頼むぞ。


 (悠)

 はい。分かっています。


 『元々時間がねーのはあんたのせいだろ…。』

 『こっちは暇過ぎで逆に疲労してるんだよ。』

 『早く始めたいのは、むしろ俺達なんだが…。』


 それで…。

 もう何となく分かってはいますが…。


 状況から見て…。

 俺たちの3回戦の相手は、エリアスさん。

 ってことになるんですかね?



 悠はエリアスを示し確認をする。



 (エリアス)

 うむ!その通りだ!

 お主らの3回戦はスペシャルバトル!

 相手はなんとこの 


    エリアス・ペールその人である!

 

 どうだ!嬉しいだろ!?

 しっかりと感謝するのだぞ!



 エリアスは両手を腰に当てて、どうだと言わんばかりに胸を張った。

 ちなみに顔も随分と得意気である。

 鼻息も荒くなっている。

 

 

 (悠)

 そ、そうでしたか…。

 分かりました。

 やっぱりそうですよね。

 あ、ありがとうございます。

 『なんでそんなに嬉しそうなの?』

 『喜んでるのあんただけだからね!』


 

 悠はエリアスの得意気な様子に、若干ついていけないと感じていた。

 これから戦う強敵に、感謝を述べる気など起きるはずがない。



 (エリアス)

 なんだ。

 つまらんリアクションじゃの。

 ここは驚いて。  

 慌てて礼を言うべきところじゃろ~に。

 全く…。

 やはりこれだから新参は…。


 よいか!

 光栄に思うのだぞ!

 私自らが相手をしてやることなど! 

 ホントに滅多にあることではない!

 普通なら膝をついて、最大限の感謝と敬意を示すところじゃ!


 泣いて感謝し、これからは精霊様とアイシスだけではなく。

 私に対する信仰心を強く持つと良い!

 先程も話したが、

 私とてステラでは重鎮だ!


 充分に信仰に値する人物なのだぞ?



 エリアスは更に胸を張り。

 更に得意気になって話している。

 ヤバイ、この流れはまた長話になる。

 そう察知した悠は、素早く話を進める。



 (悠)

 分かりました。

 本当にありがとうございます。

 私たちみたいな新参と戦って貰えることには感謝します。


 けれど…。 


 どうして今…。

 3回戦でエリアスさんなんですか?



 実のところ、悠を含め皆が一番に感じているのはこの点であった。

 決勝や優勝者との対戦なら理解が出来る。

 勝ち上がった相手の実力を知りたい。

 この大会を開催した成果を知りたい。


 それならば理解が出来る。

 では、何故今なのか? 

 何故3回戦のこのタイミングなのか?

 

 この一点に関しては、誰もが不可思議で。

 結論に至るだけの情報も不足していた。


 

 (悠)

 え~と…。

 もしかして、エリアスさんのクランも、この大会に参加していらっしゃるんですか?


 たまたま勝ち上がって、3回戦でウチのクランと激突した?

  

 いや、それはないよな。

 どう考えても…。

 エリアスさんがいるクランが、大会に参加する資格を有する程、クランランクが低いとは思えないし…。


 (エリアス)

 うむ。お主の言う通りだ。

 私のクランでは、ランクが高すぎてこの大会に参加出来ん。

 そもそも訳あって開いた大会だ。

 私が出てきてぶち壊しては、元もこもない。


 (悠)

 やっぱりそうですよね…。

 では、どうして今?

 この3回戦で?

 どうして俺たちと?


 (エリアス)

 ふっふっふっ。

 何やらぐちゃぐちゃと考えておるな?

 だが案ずるでない。

 簡単なことじゃよ。

 お主らを含めて、3回戦には8チームが勝ち残り、バトルを予定しておった。


 しかしな。

 その内の1つのクランなんだが。

 2回戦で多数の負傷者が出てしまっての。

 とてもこのままでは戦えん。

 3回戦は棄権すると申し出てきたのだ。


 まあ、怪我人が出るのも仕方あるまい。

 皆、真剣に戦ってくれておる証拠じゃ。

 主催者としては嬉しい悩みじゃよ。


 しかしな~。

 そうすると、どこか1つのクランが3回戦で不戦勝になってしまう…。  

 それでは、しっかりと3回戦を戦った他のクランが、不公平と感じても仕方があるまい。


 何せ一日休暇が入るのだ。

 それは大きなメリットになる。

 これでは不戦勝になった方も後味が悪かろう。


 そこで!だ!

 我々は!

 私は考えたのだ!

 この大会を管理する責任者として!

 皆を導く立場の人間として!


 まあ、たまたま選ばれたクランが不戦勝になる。

 これについては仕方あるまい!

 運も実力のうちだ!

 引き当てたお主らは、その幸運を誇ってよい!

   

 しかし、不戦勝の事実は仕方ないとしても…。

 他のクランが納得出来る様に。

 不戦勝になったクランが気持ちよく準決勝に挑めるように。


 3回戦の相手と同程度。

 若しくはそれ以上の相手と、何かしらのバトルはこなして貰おうと。

 

 じゃあ、皆は相手が誰なら納得する?

 誰ならば何の遺恨も残らない?


 そこで私は考えた!

 お、そういえば私は最後のバトルであれば少し時間が作れるぞ!


 そうだ!  

 私が相手とならば、誰も文句は言うまい!

 よし!決まりだ!

 これでいこう!


 というような形で、昨日急遽私に決定した事だ。


 ちなみにラッキーなことに、厳正な抽選の結果。

 見事不戦勝を引き当てたのが、たまたまお主らであったということじゃ。

 ホントにお主らはツイておるな。

 私と手合わせをする機会を、こんな形で幸運にも引き当てたのだからな。

  

 まあ、なに。

 そんなに恐れんでも良い。

 勿論殺しはしないし。

 明日の準決勝には、フラフラかもしれんが立たせてやる。

 それ位の手心は加えてやるつもりだ。


 それに、バトル形式はエクストラとする。

 クランの敗北数に影響が出ることもない。


 な、安心したろ?  

 大丈夫だ。

 要するに滑り落ち私に任せれば良い!

 

 さあ、分かったな!?

 分かったらさっさと始めようではないか!



 エリアスは楽しそうに、大きな身ぶりを加えながら、今回の経緯を説明し続けた。

 その表情は、とても嬉しそうだ。

 これから行われるバトルが楽しみで仕方がない。

 そんな彼女の気持ちが全面に押し出されていた。



 (悠)

 幸運にも引き当てたね…。

 どう考えても不幸だろ…。

 大凶よりも質が悪い…。


 それに…。

 確か俺たちが帰るときには。

 既に翌日の集合時間は決まっていた気がしますけどね…。

 対戦相手は、その後急に棄権したのかよ…。

 ホントに嘘の上手いお人だことだよ。


 顔に「俺たちと戦いたくて我慢できない」って見事に書いてあるじゃねーか。



 皮肉を言う、悠の顔に汗がにじむ。

 どちらにしても、エリアスと戦う事実に間違いはない。

 どんな抽選が行われようと、悠達がそれを拒否することは叶わない。

 何故なら相手はこの世界で絶対的な存在。

 

 エリアス・ペールだからだ。

 

 彼女が白といえば、例え彼らが黒を主張しても意味などなさない。

 ただ、彼女が楽しむために戦わされる。

 それが分かっていても、異議は認められない。

 勿論、大会に参加を続ける為にも、逃げることは許されそうにない。


 『やるしかないのか…。』


 ディープインパクトの面々が、ほんの少しだけ抱いた希望は、今完全に絶たれたのだ。



 (マリエ)

 エクストラ。

 そう言ったわね?

 申し訳ないのだけど。

 それが何を示すのか、私たちには分からないわ。

 普通のバトルと、何か違いがあるのかしら?



 覚悟を決めた面々の中で、マリエが一番最初に発言をする。

 高みを目指す彼女にとっては、相手が帝の右腕だろうと関係ない。


 『やるからには勝つ』

 『その為に必要な情報は逃さない』


 彼女はその貪欲な克己心により。

 誰よりも早く気持ちの切り替えを行っていた。



 (エリアス)

 なんじゃそんなことも知らんのか?

 そんなんでよくもまあ、ここまで勝ち上がったものだな。

 感心するというよりも、若干呆れてしまうのう。

  

 …。

 まあよいか。説明してやる。

 エクストラとは、所謂練習試合じゃよ。


 お互いのクランの同意の上で、真剣なクランバトルではなく、練習試合を行い。

 互いの力量を伸ばすためのシステムじゃ。


 このシステムを使えば、好きなときに好きなだけ実戦訓練が行える。

 お互いの経験値は上がるし、あくまで「練習」として認識されるので、どちらのクランにも勝ち負けはつかん。


 まあ、能力を見せ合うのだから。

 基本は信頼に足るクラン同士で行うものだな。

 心具の情報は、クランにとって絶対機密。

 おいそれと他人に話すべきではないしな。


 まあ、後は基本的なバトルと同じ。

 相手の殺傷は禁止だし。

 試合は天使の管理下に置かれる。



 (リナ)

 なるほどね。

 よく分かったわ。

 要するに普通に戦っていいのね?

 それが分かれば充分よ。


 そしたらさっさと始めましょうよ。

 こっちも長々と待たされて疲れてるの。


 それで?

 あなたのクランの他のメンバーは?

 今回も大会同様に、一対一でやるんでしょ?


 あなたは何番目か教えてくれる?

 その自信満々の鼻っ柱。 

 私の剣で叩き潰してあげるわ。



 リナは剣を抜き、エリアスに向けて構えた。

 エリアスはリナの真剣な表情を見て、ニヤリと笑う。

 そしてその後、隻をきったように笑い始めた。



 (エリアス)

 クッ!クックックッ…。

 アーハッハッハッ!

 

 あ~良いな!ホントに良い!

 ホントにいい心構えじゃ!


 やはりお主らにして正解だったわ!

 あ~、面白い!

 こんなに笑ったのは久しぶりじゃ!


 (ディープインパクト)

 ?

 『なんだ突然?』

 『リナなんか変なこと言ったか?』



 エリアスはお腹を抱え、湧き出る笑いを我慢できず、体を九の字に曲げ震えている。

 ディープインパクトの面々は、一体彼女に何が起こっているか分からず。

 ただその光景を呆気に取られながら見つめていた。



 (リナ)

 ち、ちょっとあんた!

 何をゲラゲラ笑っているのよ!?

 私なんか変なこと言った!?

 全然身に覚えがないわよ!

 何がそんなに可笑しいってのよ!

 バカにしてんの!?



 リナは、剣をエリアスに向け問い詰める。

 他のメンバーも、何がエリアスをそこまで楽しませたのか。

 さっぱり理解できずにいた。



 (エリアス)    

 クッ。クスクス。

 いや~。すまんすまん。

 確かにその部分は説明しておらんかった。


 しかし…。

 まさか私と一対一でやる気だったとは…。 


 それは流石に…。

 あり得んじゃろて…。   


 プッ!クックックッ!



 (リナ)

 は!?

 あんたこそ何いってんのよ!?

 この大会はお互いのクランが代表を出しての一対一。

 それで勝敗決めてきたじゃない!!

 それの何処がおかしいのよ!?

 まさか自分で決めて、もう忘れたって言うの!?

 自分の話の長さに、頭溶けたんじゃない!?



 リナは、エリアスの態度に声を荒げた。

 それを聞いたエリアスは、笑いを押さえ。

 何とか呼吸を整え、ディープインパクトの面々に告げた。



 (エリアス)

 いや~、すまんすまん。

 確かに説明不足と言われても仕方がないの。

 何せお主らは右も左も分からん新参じゃ。


 だが、余りに当然のことすぎてな。

 話してないことに気づかなかったんじゃ。

 

 (リナ)

 回りくどいのはいいっての…。

 何が言いたいのよ。

 さっさと単刀直入に説明しなさいよ。



 リナはエリアスを鋭く睨み付ける。



 (エリアス)

 ああ。そうさせて貰おう。

 今回のお主らのエクストラ。

 対戦相手は私

    「エリアス・ペール」一人だ。


 そしてバトルは、クランバトルで行う。

 つまりは…。  


 お主らはクラン全員。

 私一人。


 四対一でバトルを行い。


 お主らの実力を測らせて貰う。


 と言うことになるな。



 エリアスはさも当然の様に、他対一のバトルを提案する。

 彼女にとっては、それが説明を要しない程に「当たり前」の状況と言うことの様だ。



 (悠)

 は!?クランバトル!?

 しかも四対一で!?


 なんだよそれ!?

 そんなんでいいのかよ!?


 そんなの…。

 俺たちに余りにも有利すぎるだろ…。 

 四人で一人をタコ殴りにしろって言うのか?

 

 何が当たり前のことだよ。

 自分に超不利な条件じゃねーか。

 それで実力を測るって?

 一体あの人は何をいってんだよ…。


 ホントにあの人は何考えてるんだよ。

 意味わかんねーよ。



 発言に驚く悠達を横目に、エリアスは再び体をほぐし始める。


 その様子から、彼女が冗談を話している様には見えない。

 彼女は本気だ。

 本気で一人で、ディープインパクトを相手にするつもりの様だ。



 (エリアス)

 さて…。ホントにそろそろ時間がなくなる。

 さっさと始めさせて貰うぞ。


 

 そう話すとエリアスは、舞台端まで歩き。

 開始の合図を待ち始めた。



 (悠)

 マジかよ…。

 あの人本気でやる気なんだ。

 俺たち四人を、たった一人で相手にするつもりなんだ。



 彼女の余りの自信に、ディープインパクトの面々は、一瞬で場の空気に飲まれてしまった。

 皆、表情が引きつり。

 開始前の決意は見る影もない。


 格上相手の四対一のクランバトル。


 エクストラ、練習試合という形ではあるが。


 自ら不利なバトルに挑み、不敵に笑う

 エリアス・ペール。


 彼女の余裕はどこから来るのか…。


 この試合に挑む、彼女の目的は一体…。


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