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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
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水の章 エクストララウンドⅢ

 ○偉大にして大変迷惑な存在


 (エリアス)

 何が、「ダメ?」だ!?

 当たり前であろう!!

 この私に、

 いつまで猿芝居に付き合わせる気だ!


 この私が!

 このエリアス・ペールが!


 さっきからずっと、

 こうして待っているのが見えているであろう!?

 それを差し置いて…。


 お主らは一体、

 何をちんたらやっておるのだ!?

 駆け足で来んか!駆け足で!



 エリアスは怒りに身を震わせながら、ディープインパクトの面々に向かい、叫んだ。


 顔は怒りで紅潮し、耳まで赤くなっている。


 (ディープインパクト)

 『あ、やばい。やり過ぎた。』

 『何か知らんけど。』

 『あの人、本気で怒ってるわ。』

 『ちょっと調子に乗りすぎたかな…。』


 会場全体が非常にマズイ雰囲気にある。

 各々が瞬時に、場の空気を把握した。

 ディープインパクトは全員で顔を見合わせ。

 頷いた。


 (ディープインパクト)

 『よく分からんが…。』

 『ここは取り合えず、謝っておこう。』

 『それが今できるベストな選択だよね?』


 目を見るだけで通じあった。

 正に阿吽の呼吸。

 クランの息も合ってきている。

 非常に喜ばしいことだ。


 取り合えず。

 これ以上、あの人を怒らせるのはマズそうだ。

 意思の疎通は完璧であった。



 (悠)

 え、え~と…。

 エリアスさん…。

 そのですね…。なんと言いますか…。

 お怒りは最も存じております。


 え~と、ですから…。

 大変申し訳ありませんでした。

 少し悪ふざけが過ぎました。


 以後気を付けますので。

 どうか今回は許してくれませんか…?

 本当に申し訳ありませんでした。


 (ディープインパクト)

 申し訳ありませんでした…。

 でした~。


 皆が口を揃え、次々と謝罪した。

 どうしてか怒ったかは分からないが…。

 取り合えず、

 当たり障りのない謝罪をしておこう。


 この辺りも、見事に意思の統一が成されていた。


 エリアスは、次々に示される謝意を、腕を組ながら見下ろしていた。


 素直に謝罪をされたからだろうか。

 その表情は、徐々に柔らかくなっていった。

 

 (マザー) 

 エリアス様。

 本当に申し訳ありませんでした。


 そして、最後のマザーが謝罪を終える。

  

 (エリアス)  

 …。ん、んん!


 謝罪を黙って聞いていたエリアスだが、暫しの沈黙のあと口を開いた。

 

 (エリアス)

 え~、まあ。なんだ。

 ま、まあ?

 そうやって素直に謝られてはなぁ…。

 まあ、次から気を付けるって言うなら…。

 うん。まあ、許してやらんこともないよなぁ…。



 エリアスは、ブツブツと呟きながら、照れ臭そうにニヤニヤと笑っている。

 どうやらディープインパクトの謝罪を素直に受け止めてくれたようだ。

 

 (ディープインパクト)

 『お?なんだ?』  

 『結構怒ってたみたいだけど』

 『まさか、こんな謝罪でいけるのか?』


 ディープインパクトの面々は、再び顔を見合わせた。

 皆、適当な気持ちで謝罪をしてしまったが。

 エリアスの表情は和らいでいる。

 思った以上の手応えの様だ。


 (ディープインパクト)

 『もしかして?』

 『この人意外にチョロいのか?』

 『結構素直でいい人なのか?』

   

 もう一押しで完璧に許して貰えるかもしれない。 皆が気を緩めた瞬間。

 悠は、エリアスと眼が合ってしまう。


 (悠)

 『やっべぇ!油断してた!』

 ほ、本当にすいませんでした~!



 焦りから悠の声は裏返っていた。

 悠は咄嗟に頭を下げ、緩んだ顔を隠す。

 しかし、それが逆効果となった。

 眼が合ったことと、咄嗟に顔を隠した事で。

 悠の心情は、エリアスに悟られてしまった。  

 

 エリアスの表情が、

 再びみるみる険しくなっていく。



 (エリアス)

 お~の~れ~!!

 さては、貴様ら!!

 この私を騙しおったな!

 本当は全然反省しておらんのだな!?


 なんて卑劣は奴等なのだ!

 素直に謝罪する心意気に、私は感心しておったというのに…。


 実に卑劣なやり口だ!

 もう騙されんぞ!!


 それにそもそもだな!!

 このエリアス・ペールを待たせて平気な顔をしておった!

 その根性が信じられん!!

 

 途中まさかの無視まで決め込んで!

 お主らだけで楽しそうに…。

 キャッキャウフフと騒ぎおって!


 どういう神経をしておるのだ!?

 エリアス・ペールだぞ!?

 あの超が着くほどの偉人だぞ!?


 それを全く構いもせず…。

 私が一人ポツンと待ちぼうけだと…?


 やっぱり許せない…。

 そんなことはあってはならない…。

 

 うん決めた!

 絶対に許さんからな!

 あ~もうダメだ!

 本当にあったま来た!!


 全員雁首揃えてギッタギタにのしてやる!

 ちょっとは楽しませてやろうと思っておったが!

 やめだやめだ!


 バッキバキにしてやる!

 ギッタギタにしてやる!

 ぼろ雑巾にしてやる!


 もう決めたからな!

 もう変えないからな!


 お主ら!今日が人生最期になるぞ!


 その旨覚悟しておれよ!



 エリアスは怒りで体をワナワナと震わせながら、ディープインパクトの面々を指差している。


 元々初めからやる気満々といった表情であった。

 しかし、それに加えて行われた彼等の無礼が。

 彼女の心に怒りの火を着けてしまったようだ。


 

 (悠)

 『これはマズイ。』

 『何で戦わなきゃ分からない内に。』

 『人生の最期通告を貰ってしまった。』

 『何とか機嫌を直して。』

 『出来れば戦わない方向に…。』


 (悠)

 ま…。

 まあまあ…。

 エリアスさん。

 少し落ち着きましょうよ?

 さっきのは、驚いて顔を背けた訳で…。

 エリアスさんを騙す気なんて、さらさら持ち合わせていないですし…。

 私たちは本当に反省しているんです。

 どうか、お許し下さい。


 悠は再びエリアスに頭を下げた。

 

 (悠)

 まして、初めから。

 エリアスさんを無視した訳じゃないですよ?

 ただ、ちょっと驚いてしまって…。

 皆パニックになってしまったんです。

 だからあんな無礼なコントを…。


 何せ、いきなり対戦相手として、エリアスさん程の人がが立っていたのだから…。


 そりゃあ、ねえ?

 誰だって驚きますよ?

 混乱しちゃいますよ?

 本当に悪気はなかったんです。


 だから、そんなに怒らないで下さい。



 悠は少しでもエリアスの気持ちを落ち着かせようと、必死に言い訳を述べるのであった。


 しかし…。


 (エリアス)

 い~や、ならん!

 絶対に許さん!


 いつまでも人を待たせおって!

 私とて暇ではないのだぞ!

 それを、わざわざこちらから出向いてやったというのに…。

 仲間内でワイワイ盛り上がって…。

 私の事はほったらかしだ…。


 その上、謝罪の意思を示したかと思えば、その姿勢さえも虚偽であったのだ!

 

 なんたる無礼!

 許せるはずがない!

  

 そもそもだ!

 この私が突然登場したのだぞ!?

 普通ならなぁ!

 

 「あ、あれはエリアス・ペールさま!?」

 「何故あなた様のようなお方が!?」

 「いや、それなことはどうでもいい!」

 「こんな所でお会いできるなんて!」

 「私たちは何て幸運なんだ!」

 

 と言ってダダダっと私に駆け寄ってだなぁ!

 そして、私に注がれる尊敬の眼差し…。

 相手は目を輝かせながら片膝をつき…。

 頭を垂れて敬意を示す…。 


 そしてこう述べるのだ。


 「エリアス・ペール様!」

 「お会いできて光栄であります!」

 「まさかエリアス様がご来場されているとは…。」

 「本来であれば我々が先に入場し…。」

 「エリアス様をお迎えに上がるべき身!」 

 「それをお待たせしてしまうとは…。」

 「何というご無礼!!」

 「本当に申し訳ございません!」

 

 「この非礼をどう侘びれば良いのか…。」

 「私どもは、この命をもって!」

 「この全てをもって償う所存です!」


 「さあ、エリアス様!」

 「この命は、今から貴方様のもの!」

 「この無礼で愚かな私どもに!」

 「何なりとお申し付けください!」


 「我々は既に貴方様の血!」

 「貴方様の一部です!」

 「貴方様の思うがままに!」

 「その御言葉をもって!」

 「私たちの処遇をお示しください!」


 ここでは、

 そう言って更に頭を垂れる!


 私が纏う空気に!

 私の存在感に!

 私のオーラに!


 体を怯えるように震わせながら!

 私になら、何をされても仕方ないと!

 心の底から思いながら!


 ただ、私の存在の大きさに!

 自分の存在の小ささを身に感じながら!

 私に最大限の敬意を示すのだ!


 それを私はゆっくりと見下ろす!

 ここ!このタイミングで!

 少しばかり威圧感を強めるのだ!


 すると相手は全てを察する!


 「ああ…。

 やはり自分は、取り返しのつかない事をしてしまったのか。

 相手はあのエリアス・ペール様…。

 ステラにおいて、その名を知らぬ者などいない。

 そのお姿、御言葉、振る舞い。

 全てに精霊の加護を受けているかの様な方だ…。」

 

 「それほど迄に偉大な存在だ…。

 そんなお方を、

 コンマ何秒でも待たせてしまったのだから…。

 この命をもって償う以外の方法はないのだ…。」


 「水の精霊様に感謝しなくては…。

 自分の様な小さな存在が。

 エリアス様の様なお方と、一瞬でも御言葉を交わせたのだから。」


 そして、そやつはゆっくりと目をつぶる!

 私がゆっくりと近づくのを感じながら!

 自分の命が残り僅かと悟りながらも、そやつの顔には笑顔が溢れておる!

 

 何故だか分かるか!?

 分かるな!?

 いや、そろそろ分かれ!!

 頼むから分かってくれ!!


 いいか!?続けるぞ!?

 ちゃんと着いてくるのだぞ!!


 そう何故ならば!!


 目の前にいるのが、

        「私」だから!!!!

 今、自分の前に!!!!


 エリアス・ペールという!!!

 絶対的に偉大で!!!

 何よりも尊い!!!

 精霊と同価値とも言える!!!

 そんな素晴らしい存在が立っているから!!!


 命に代えても、言葉を交わす価値のある存在だから!!

 そんな人物に自分の最期を決めて貰えることが、何よりも光栄と感じるからだ!!


 分かったな!!!???

 着いてきておるな!!!???

 大丈夫だな!!??


 よし!続けるぞ!!


 そして、全てを理解した相手に!!

 私はゆっくりと手を伸ばす!!

 

 そやつは少しだけ身をすぼめる!!

 「いよいよ最期の時か…。」

 その瞬間に計らずも一瞬恐怖心を感じてしまうのだ!


 しか~~し!!

 次の瞬間驚くべきことが起こる!!


 私が伸ばした手は、その者の肩にゆっくりと添えられるのだ!!


 その者は一瞬混乱する!

 自分に何が起きているのか、理解するのに時間がかかってしまう!


 そう!何故ならば!

 その手の主が!!


         私だからだ!!

 

 他ならぬ偉大な存在!!

 エリアス・ペールだからだ!!


 「エリアス様に裁きを受ける」

 そう覚悟をしていた者は、優しく添えられたその手を見つめる!

 そこからは、

 私の優しさ!偉大さ!温もり!

 全てが流れ込んでくる!!


 気付けばその者の眼からは、涙が流れている!

 偉大な存在の優しさに!温もりに!


 そして何よりも!!!

 無礼な自分を!!!

 その広い心をもって!!!

 全てを許した!!!

 その余りにも大きな!!! 

 水の様に透明な!!!


 その人間としての!!

  

 資質の大きさに!!!!


 だ~~~~~!!!!!!



 エリアスは、渾身の力を込めて。

 体を反らしながら空に向かってさけんだ。


 ハアハアハアハア…。

 エリアスは叫びすぎたからか、両手を膝につき、肩で息をしている。



 (エリアス)

 いいか…。ハアハア。

 これがお主らのあるべき姿だ!!

 

 いや、違うな…。

 これが「普通の」!!

 一般的なクランの!!

 あるべき姿なのだ!!


 それをお主らは…。

 まさかのシカトだと!?

 まさかの偽証だと!?

 しんっじられん!!


 こんな屈辱は産まれて初めてだ!!

 余りの衝撃に!!

 私はパニック寸前だ!!

 爆発寸前だ!!

 

 絶対に許さん!

 本当に許さん!

 もう許さん!

 

 この屈辱…!!!


 数万倍にして返してやるから、

 

      覚悟しておれよ~~~~!!

 


 エリアスはディープインパクトの面々を指差す。 感情が昂ったせいか。

 彼女の目には涙が浮かんでいた。


 その様子を見ていた。 

 その話を聞いていた。


 会場、そしてディープインパクトの面々。


 この時、全員が全く同じことを考えていた。


 『やべぇ。』 


 『どうしよう。』

  

 『この人確かにスゴい人なんだけど…。』

  

 『多分よくいるあのタイプだ。』

  

 『自分が話の中心じゃないと…。』


 『直ぐに機嫌が悪くなる人だ。』


 『どんな時も話題の中心じゃないと。』


 『つまんないとか言って帰る人だ。』

  

 『まあ、一言で言うと…。』


 『こいつマジめんどくせぇ奴だ…。』  

  

 『仲間内にいると、一番気ぃ使う奴じゃねぇか』

 

 『資質は高いかもしれんけど、質は最悪じゃねーか』

    

 『厄介なのに捕まっちまったな~。』


 『この話…。まだまだ終わらない…。』

  

 『絶対長くなるよ…。』

  

 『誰か止めテクれよ…。』

 

 『あのヒステリックアクアブルー…。』

 


 その日の気温は39度。   


 この夏最高の気温を記録していた…。

 

 こんな状況で説教続いていたら。


 体とろけちゃうよ。


 誰かがポツリと、


 そんな言葉を呟いていた…。


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