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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
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水の章 2回戦 反省会Ⅳ

 ○ 二つの記憶


 (悠)

 俺には、ピー太郎に吹き飛ばされてからの記憶が、二種類あるんだ…。

 それも内容的には全く真逆の。

 どうも相容れない記憶がね。


 恐らくそれが、俺の頭の混乱と…。

 どこか噛み合わない俺に、皆が感じた不安の原因なんだと思う。


 だから…。  

 もう少し詳しく。

 今日の俺の試合と、その後の様子を教えてくれないか?

 俺は取り敢えず、皆の話を聞きながら、自分の中で話を纏めてみようと思うんだ。



 悠はベッドから体を起こし、仲間たちの表情を見る。 

 皆は、一様に不思議そうな顔をしていた。


 無理もないだろう。


 現実的に、ある1つの出来事において、二つの記憶が同時に存在することなどないのだから…。


 悠自身もそれは理解している。

 自分がどんなに突拍子のない。

 矛盾に満ちた事を言っていることも。


 しかし、自身と…。

 そして何よりも、仲間たちの不安を取り払うためにも。


 現在自分に何が起きていて。 

 そして何を感じているのか。

 きちんと伝えるべきだと、彼は判断したのだ。


 スッ…。


 マリエがゆっくりと手をあげた。

 こういった、クランが迷い、議論が停滞しそうになったとき。

 いつも周りを見て、冷静に最善の行動を選択してくる。それがマリエだ。


 そんなマリエを、悠は心から尊敬していた。


 (マリエ) 

 悠さん…。分かったわ。

 私も皆も、きっと思うところはあると思うけど。

 先ずは悠さんの言う通りにしてみましょう。

 それがきっと…。

 お互いの疑問を解決してくれるはず。

 何だかそんな気がしてきたわ。

 

 私たちが何かを伝えるのはその後にする。


 悠さんと私達の記憶は、相容れないものかもしれないけど…。


 先ずは、お互いの認識を確認しましょう。


 皆もそれでいいわね?



 膠着した場をマリエが取り仕切る。

 仲間たちは、一様に頷き、視線を悠に向けた。


 悠は、皆の視線を受け、自身に起きた出来事を話し始める…。


 (悠)

 マリエさん、ありがとう。

 マリエさんには、助けられてばかりだな。


   

 悠の発言に、マリエは黙って手をあげて答える。

 その姿もまた、悠には凛々しく。逞しく写る。


 

 (悠)

 皆もありがとう。

 疲れてるのに、俺のおかしな話に付き合ってくれて。

 俺も出来るだけ短く纏めるから、もう少しだけ我慢してくれると助かる。



 悠の発言を受け、リナとレイナも黙って頷いた。

 二人もまた、自分を信じて真面目に話を聞いてくれているのだ。


 だからこそ、おかしな事と分かっていても、本当の事を伝えなければならない。


 悠は、そう考え。

 口を開いた。



 (悠)

 ええ~と…。

 じゃあ、さっそく話をさせて貰うよ。

 おかしな事を言っているのは理解しているから、それを踏まえて聞いて欲しい…。


 じゃあ始めるよ…。


 さっき話した二種類の記憶なんだが。


 1つは恐らく、皆と同じ記憶…。


 ピー太郎に追い詰められた俺は…。

 どうやったかは覚えてないんだけど…。  

 なんとか、ピー太郎に勝った。   


 その後、俺は自分の状況が分からず取り乱した。

 そして、過剰なストレスに耐えられず、意識も混濁し、そのまま気を失った。


 そして、気が付いたら宿屋にいて。

 今、こうして皆と話している。


 これが今の俺の状況に一番合致していると思う。

 

 ピー太郎を倒し、俺も倒れた。

 取り乱して、リナやマリエさんに酷いことを言ったのも覚えてる。

 だけど、ピー太郎を倒したからこそ、俺は今も大した怪我もなく。

 こうして宿屋で休めている。


 つまり、今日の試合は、今俺が述べた通り。

 俺はピー太郎に勝った。

 そして、倒れた。

 皆に宿屋に運ばれた。


 これが俺以外の共通の記憶で、俺がこうして大した怪我もなく寝ている状況とも一致する。

 

 この記憶は俺にもある。

 ピー太郎が俺の横に倒れている姿も。

 皆が心配して声をかけてくれたことも。

 

 俺の記憶には、きちんと残っている。


 だからきっと…。  

 皆も同じ光景を見たんだろう。


 そうだ…。

 話していて気付いたが。

 ピー太郎を倒した後、記憶が混乱して、皆に酷いことを言ってしまったな…。


 本当にごめん。

 余裕が無かったにしても、本当に申し訳ないことをした。



 悠は皆に対し、頭を下げた。

 皆も顔を見合せ、少しだけホッとしたような表情を見せた。

 


 (リナ)

 そんなこと…。

 もう誰も気にしてないよ。

 あの状況じゃ仕方ないって。

 端から見ても、悠兄が何かに怯えて、混乱しているのは理解できたし…。 

 尋常ではない精神状態だったんなら、どうしようもないじゃない。


 だから謝るのはなし!   


 仲間なんだから、謝るのは本当に悪いことをした時だけでいいのよ。  


 分かった?

 悠兄は、だらしないくせに小心者なのよ。

 あまり人に気を使いすぎない方がいいわよ。



 リナは悠の肩に手を置き、優しく語りかけた。

 不器用な表現だが、リナの優しさが手から伝わる様だった。

  


 (悠)

 ありがとう。リナ…。


  

 悠が顔をあげると、リナは笑顔で応えてくれた。

 その反応に、悠は深い安心感を覚えていた。



 (リナ)

 けどさ…。二種類の記憶があるって。

 今の話は、私たちが見た光景そのものだよ?


 悠兄が、ピー太郎に吹き飛ばされて…。

 ピー太郎が悠兄に詰めよっていく。

 

 悠兄は、ピー太郎が近付くのに気が付かないから、私たちは「危ない!」って思っていたら…。


 そしたら、悠兄は突然。    

 空に向かって手を伸ばしたのよ。


 こう、何かを取ろうとしたみたいに。


 真っ直ぐに空に向かって。



 リナはジェスチャーを交え、その時の状況を説明する。

 リナの言うことが事実なら、確かに悠は何かを掴むかのように、空に向かって手を伸ばしていた様だ。

 しかし、悠にはその部分の記憶は曖昧で。


 鮮明な状況は思い出せなかった。 



 (リナ)

 そんで次の瞬間。

 ピー太郎はいきなり、地面にめり込む位に叩きつけられて…。

 声も出せずに、地面に這いつくばっていたのよ。


 ピー太郎も何が起きたかわからなかったんじゃないかな?

 なんか必死になって抵抗してさ。

 しばらく起き上がろうとバタバタしてたけど…。

 直ぐに全然動かなくなったのよ。


 それで…。

 ピー太郎が動かなくなった後に、悠兄はゆっくり立ち上がって。

 何だかボーッとした様子で空を見上げていた…。   

 審判が慌てた様子でピー太郎の様子を確認して、直ぐに悠兄の勝利が宣言された。

 

 私たちも何が起きたか分からなかったけど。

 悠兄の様子が変だったから、急いで駆け付けたわ。

 そしたら、悠兄は酷く取り乱して。

 それこそ、何か恐ろしい物から、逃げようとしてるみたいだったよ。

 

 私たちも落ち着かせようと頑張ったけど…。

 結局悠兄は倒れてしまって。

 そのまま、意識を失った。


 その後は、さっき話した通りだよ。

 悠兄を、ここに運んで。

 起きたレイナに治療をお願いして。

 皆で起きるのを待った。

 そしたら、これまた怯えた様子で悠兄は起きた。


 んで、またよく分からない話をしている。


 …。 


 これが私たちが見てきた全てだよ。

 悠兄は意識を失っていた部分以外に、私たちと違う記憶があるって言うことなの?

 それとも、私たちが見た以外の「何か」を見たってことなの?


 私たちは、そこがよく分からないのよ。

 だから話をしていても、なんか噛み合わない気がするのよね~。



 話を終えたリナは、再び不思議そうな表情に戻っていた。



 (悠)  

 なるほどね。やっぱり皆はそっちなんだな。

 だから俺は、今もこうして…。


 いや…。じゃないとおかしいよな。 

 辻褄が合わない。

 だったら…。  

 やっぱりそれが事実なのか?  

 もう1つの記憶は、俺が混乱したなかで見た幻覚か…?



 悠は、口元に手を添え、何かぶつぶつと考えを口にしている。 



 (悠)

 うん。まあ、取り敢えずは分かったよ。

 とにかくリナ。ありがとうな。


 さっきも言ったけど…。

 実は俺にも、そっちの記憶も残っているんだ。


 だから今、俺がこうやって宿屋にいても不思議ではない…。


 けれど…。

  

 

 悠は再び考え込んだ。

 リナが述べた試合の流れは、やはり悠の予想したものと同じ内容であった。

 更に言えば、悠自身も、同じ記憶を有しているのだ。

 

 しかし、悠の混乱の原因である。

 それとは違うもう1つの結果。

 思い出したくない方の記憶。 


 そう、つまりは、悠がピー太郎に負けた。


 結果的に、命を落としたという記憶は。


 どうやら、悠以外の仲間達は、誰も覚えていない様なのだ。

 

 これも実は、悠が予想した結果の1つであった。

 真っ暗な部屋で、あの声は「事実を書き換えた」と言っていた。

 もし、本当に奴が悠の運命を変える事が出来るなら。

 それに基づいた記憶を、皆が有していても不思議ではない。


 そして、書き換えられた張本人。

 悠だけに、「書き換え前」の記憶が残っていても、なんら不自然ではない。

 悠は、皆の話を聞いていくなかで、その可能性についても、ある程度は覚悟をしていたのだ。



 (悠)

 実はさ。

 今の話を皆がしてくれることは、俺自身も予測がついていたんだよ…。

 じゃないと、今の自分の状況に矛盾が生じるからさ。

 だから、今の話は、どっちかと言うと確認だったんだ。

 混乱したなかで「突然現れた記憶」が、実際に皆の前で、現実に起きた事なのかを。


 (レイナ)

 突然現れた記憶??

 何だか不思議な表現です~。


 記憶って普通は。

 「見たものや実際に経験したことを覚える」事ですよね?

 見聞きしていない出来事が、いきなりポンッて頭の中に現れる事なんてあるんですか?


 何だか経験したことがない。

 とても不思議な表現です~。

 


 レイナは首を傾けながら、とても不思議そうな表情をしている。


 そう、皆が見聞きしたという悠の試合の内容。

 それは、悠に取っては、頭の中に突然現れた不可思議な記憶なのだ。


 自分の運命を決める、「死」という大きな出来事が。

 まるで、データを入れ換えるかの様に、一瞬で取り消され、違う結果と記憶を上書きされた。

 あまりにも巨大な運命のすり替え。 


 悠が抱える不安の根源は、このすり替えが起きた事実を、悠だけが把握している事に起因している。


 (悠)

 レイナの言う通りなんだよ。

 記憶っていうのは、実際に自分が経験した事を覚える作業のことなんだと思う。


 けれどさ…。

 俺自身が、実際にピー太郎に追い詰められた後に経験した出来事。


 つまり俺の中に残っている「もう1つの記憶」。

 俺が実際に見聞きした記憶は。


 皆が今話してくれた内容とは違うものなんだ。



 (リナ)

 う~んと、つまり悠兄は。

 私たちが見聞きしていた。

 私たちが試合を観戦して得た記憶とは、別の経験をしたってことになる?

 よく分からない毛戸、あってるかな?


 (悠)

 うん。リナの考えで合っているよ。

 俺の中で、実際に経験したとして残っている記憶は、さっきまでの話とは全く違う記憶だ。


 結論から言うと、俺は今回の試合でピー太郎に負けている。

 更に言えば、その傷が元で命を落としている。


 実はこちらの記憶の方が、実際に俺が経験をしている分、鮮明に思い出す事が出来る。


 俺にとっての、本当の記憶と言えるものなんだよ。



 悠の言葉に仲間達は言葉を失った。

 実際は、自分は死んでいるんだ。

 彼の言葉は、そうとらえることもできる。

 

 しかし、仲間達は悠がピー太郎を倒す瞬間を見ている。

 その瞬間を体験している。

 悠が嘘をついているのだろうか…。


 しかし、悠が嘘をついている様には見えない。

 何よりも、嘘をつく理由がない。

 

 同じ状況で二種類の記憶・経験をした彼は告げた。

 そんな仲間に対し、皆はなんと声をかけるべきなのか。

 誰も直ぐには、思い付けずにいるのであった。






 


 

  

 

 











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