水の章 2回戦 反省会Ⅲ
○ 相反するもの
(マリエ)
さて…。
じゃあ、悠さんがピー太郎戦で起こした出来事なんだけど…。
先ず確認するわね?
悠さん…。貴方自身が覚えているのはどこまで?
どこまでハッキリ覚えていて…。
どこから記憶が曖昧なのかしら?
マリエは、扇で自分をゆっくりと扇ぎながら、悠を見つめている。
(悠)
『うわ~…。近くで見ると本当に綺麗だな~。』
悠はその仕草に、思わず見とれそうになった。
しかし、今は重要な話をしているところだ。
自制心をフル活用し、悠は必死に自分の記憶を探し始めた…。
(悠)
どこまで…。か…。
え~と、そうだな~…。
確か~…。
腹が立った俺は、ピー太郎に殴りあいを仕掛けて~…。
その時は、自分の能力。
相手を弾き飛ばす力を、自分の攻撃する部位に纏わせてたんだよな…。
こうすれば、少しは威力のある攻撃になるかと思ってさ…。
それで~…。
思った通り、能力の推進力が肉体の攻撃力を増加してくれたんだけど…。
確か…。
結局ダメだったんだよな…。
元々、俺は身体能力に恵まれている訳ではないから…。
能力の力に、自分の肉体の力を加えたところで、対した破壊力の増加には繋がらなかった…。
逆に、苦手な接近戦に乗り出さなきゃいけないデメリットを考えると…。
このやり方は能力の使い方としては、不十分だったって事だろうな。
うん。先ずこの部分。
ここはちゃんと覚えてるよ。
俺は手を口元にあて、戦いを思い出しながら話をした。
周りの仲間たちも、今の俺の話には、特に疑問は持たなかったようだ。
(マリエ)
ええ。そうだったわね。
そこは、私たちも見ていたわ。
悠さんの違った戦い方が見れて、少し面白かったのよね…。
能力の活用方法としては、少し相性が悪かったみたいだけど…。
それが、分かるというだけでも。
十分な収穫と言えるんじゃないかしら?
実戦の中で、新しいことを試せた。
それは間違いなく、今後に大きな経験として繋がるわよ。
マリエは、笑顔を浮かべながらそう話した。
本当に息を吸うのを忘れるくらい。
その姿は美しかった。
そこで、悠の鼻の下が伸びていることに気付いたリナが、「ううん!」と咳払いをした。
(悠)
あ、あい!そうだよね!
次の戦いに繋げればいいんだよね!
頑張った!俺頑張ったよね!
悠は慌てた様子で話を戻す。
(悠)
ええと…。その後だけど…。
確か、ピー太郎に攻撃が効かなくなって…。
それで、防戦一方になっていったんだよ…。
そして…。
俺はピー太郎のタックルで吹き飛ばされて…。
起き上がろうとしたんだけど…。
既にピー太郎が目の前で、覆い被さっていて…。
それで…。
立ち上がって逃げることも出来なくて…。
それで、俺は…。
ドクン!!!
悠の頭の中に、その後のピー太郎の攻撃がフラッシュバックする。
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!
悠は自分の心臓が、とてつもない早さで脈打っている事に気が付く。
ハアハアハアハア…。ヤバイ。息が?
息があがり、空気がうまく肺に入らない。
手足はがしびれ、目眩で景色が歪む。
悠の体に、再び謎の発作が起こり始めていた。
(悠)
『ハアハアハアハア…。苦しい!』
『けど、思い出した!』
『ピー太郎から逃げられなかった俺は!』
『ピー太郎の攻撃を、腹にモロにくらった!』
『そして…。俺は腹をえぐられて…。』
『血が一杯でて…。意識が薄れていった…。』
『そして、悟ったんだ。』
『自分はもう助からないということを!』
『その後直ぐに、意識を失った…。』
『そして、気が付いたら闘技場に立っていて』
『俺の勝ちが告げられていた!』
『つまりは…。』
『ピー太郎に腹をえぐられてから、俺が勝ち名乗りを受けるまで。』
『この範囲の出来事が、やはり俺の記憶と一致しない!』
『この部分で何かがあった!』
『それが俺を!皆を!深く混乱させている!』
『そうだよ!やっぱりおかしいんだ!』
『俺は勝ってなんかいない!』
『それどころか…。俺はピー太郎に負けた…。』
『いや…。ピー太郎に殺されたはずなんだ…。』
(悠)
ハアハア!ハアハア!
やっぱり…。おかしい…。
俺が宿屋で…。皆と話せる訳がない…。
俺は死んだはずだ!
皆も見ただろう!?
ピー太郎の攻撃を腹に受けて!
ほとんど即死に近い形だった!
皆が騒いでる声が聞こえた!
覚えてるよ!
皆が心配してくれていたこと!
なのに!!
何で俺はここにいる!!
やっぱりここは、死後の世界なのか!?
皆のフリをして!!
俺を騙すつもりか!?
安心させるように優しく近づきやがって!
俺は騙されねーぞ!
お前ら全員!
絶対ブッ飛ばしてやる!
ガバッ!
悠はベッドから飛び出し、戦いに備えて構えをとった。
ハアハア!!ハアハア!!
息が上がり、目眩でたっているのがやっとだ。
それでも、周りが敵だと気付いてしまった。
『大人しく捕まってやるものか!』
悠はボーッとする頭の中で、必死に脱出の手段を探していた。
(マザー)
悠さん!突然一体どうしたんですか!?
私たちが誰か分かりませんか!?
私はマザー!
リナさんも!レイナさんも!マリエさんもいます!
私たちは、皆でクランを組んでいるでしょう!
ディープインパクトです!
これまで苦楽を共にしてきた仲間たちです!
私たちが分かりませんか!?
悠さん!落ち着いて私たちを見てください!
マザーが悠を落ち着かせようと、必死に声をかける。
リナとレイナは、あまりに突然の出来事に驚き。
再び涙を流している。
マリエは黙って、悠の顔を見つめていた。
(悠)
『攻撃してこない…?』
『油断を誘うためか…?』
『けど…。あの二人は、確かに泣いている…。』
『よく分からないけど…。』
『あれが演技だとは思えない…。』
『じゃあ、やっぱりここは本当に宿屋?』
『皆も本物なのか?』
『でも、それなら…。』
『どうして俺は生きている!?』
( ? ? )
お前は一回死んだ。
けれど俺がそれを書き換えた。
今はそれだけ分かっていればいい。
悠の頭の中で、謎の声の言葉が響いた。
(悠)
『じゃあ、あれは夢じゃない!?』
『俺は本当に一度死んで…。』
『それをアイツが書き換えた!?』
『バカな!そんなことあり得ないだろ!』
『けど…。』
悠は自分の腹部に手を置き、ピー太郎にえぐられた場所を探す。しかし…。
(悠)
『やっぱりだ…。傷がなくなっている…。』
『あれだけ深い傷だ…。』
『いくらレイナでも、跡くらいは残るはず…。』
『それがない!まるで始めから、傷なんてなかったみたいだ!』
『じゃあ、やっぱりあの声が話したのは事実?』
『アイツが現実を書き換えたから!?』
『そんなバカな!』
『発生した現実を、後から書き換えるなんて!』
『そんなの…。神様でもない限り不可能だ!』
『それにステラは精霊信仰の世界。』
『神なんていないはずだろ!?』
『なら、もしかしてあれは精霊…?』
『いや、そんなはずはない…。』
『それは違う。だってあれは…。』
『あの声は…。確か…。』
声の主を思い出せそうになったとき。
悠は、再び意識を失いかけた。
(ディープインパクト)
悠さん!悠兄さん!悠兄!
仲間の声が聞こえてくる。
悠は皆に支えられながら、ベッドに戻り、横になった。
少しずつ回復してくる意識の中で、自分が何かに気付いた記憶が残っていた。
しかし、それが何だったのかは思い出せない。
声の主の正体については、すっかりと忘れ去られていた。
その後30分ほど休憩をとり。
悠が落ち着いたため。
再び話は再開した。
そこで悠は、自分の記憶の矛盾を、皆に確認することとした。
恐らく、自分の違和感の正体はそこにある。
悠は直感的に、それを理解していた。
(悠)
皆、さっきは取り乱してすまない。
何度も不安にさせて、本当に情けない男だと思う。
けど…。その原因を、今から話すよ。
これから俺が話すのは、実際に俺が体験した出来事だ。
自分で言うのも変だが…。
はっきり言ってあまりに現実離れしている。
だけど、皆に嘘をついてる訳じゃない。
それを理解した上で話しを聞いて欲しい。
じゃないと皆には、俺の行動の本当の意味を。 説明する方法がないんだ…。
仲間たちは皆、黙って頷いてくれた。
悠の尋常ではない様子に、何か事情があることを察してくれた様だ。
悠自身も、どこからが夢で。
どこからが現実なのか。
最早区別など、全く出来なくなっていたのだ。
(悠)
それじゃあ、確認をさせてくれ。
俺の記憶の全てを話す。
何か違和感があったり、事実と違う場合は教えてくれ。
どんな些細なことも、俺の混乱を溶く鍵になり得るかもしれないんだ…。
皆も再び頷いている。
悠は全員の顔を確認し、それからゆっくりと話を始めた。
(悠)
俺が混乱している原因は二つある。
何故なら俺の記憶の中には、ピー太郎に吹き飛ばされた後の記憶が、二種類残っているからだ…。
話を始めた瞬間から、仲間たちが動揺で声を漏らしている事に気付く。
当然の反応だ。
現実というのは、必ず1つの結果しか産み出さない。
今回で言えば、ピー太郎に勝つという結果。
もしくは負けるという結果だ。
相反する結果が共存することなどあり得ない。
その事実を理解した上で、
悠は自分の状況を仲間たちに伝えるのであった。
仲間たちの反応は、混乱する悠にとってどんな結果をもたらすのか。
今の彼らには、分かる術はないのであった…。




