水の章 クランバトル編 二回戦 悠編Ⅹ
○ 懐かしき過去の面影
ドガァァアアン!!
会場中に、ピー太郎が放った渾身の一撃の破壊音が響き渡る。
(実況)
こ…!これは!
ピーさんの放ったこの一撃は!
あまりに!あまりにも強烈過ぎます!
こんな攻撃を、まともにくらってしまっては…。
ディープインパクトの吉田悠選手…。
圧倒的な体格差がありながらも、果敢に打ち合いを挑んだ小さな英雄でありますが…。
その生存は…。
流石に…。
絶望的としか…。
考えられません…。
私も含め…。
会場全体が…。
あまりにも悲惨な現状に…。
言葉もなく…。
静まり返っております…。
我々はただ。
彼の無事を祈ることしか出来ない状況です…。
(観客)
おいおいおいおい…。
いくらなんでもあれはやりすぎだろ…。
これは試合であって、殺しあいではないのに…。
あんなの助かる訳ねーよ…。
こら~!
審判は何で止めなかったんだ!
運営はいったい何をしている!
早く彼を病院に連れていけ!
彼は十分すぎるほど、見事に戦い抜いた英雄だ!
何かあったら許されないぞ~!
ブーブー!主催者は何をやってる~!
ピーさんもだ~!
いくら相手がやりづらいからって、あそこまでやっていいはずないだろ~!
そうだ~!最低だこのヤロー!
さっさと森に変えれ化け物が~!
会場からは、運営側とピー太郎へのブーイングが成りやまない。
会場は怒号に包まれていた。
一方、ディープインパクトの陣営では。
(リナ)
うそ…。嘘でしょ?悠兄…?
あんなのまともに受けてしまったら…。
そんなの…。いくら悠兄でも…。
助かる訳ない…。
ねぇ?マリ姉?
大丈夫だよね?
悠兄はきっと…。
いつもの能力で、致命傷は避けてるんだよね?
そ、そうだよね?
ねえ、マリ姉?そうなんでしょ?
マリ姉からは、そう見えてたんだよね?
リナは体を震わせ、涙を流しながら、マリエの両肩を掴み、願望のような質問をする。
それに対し、マリエは唇を強く噛み締め、口許から血を流しながら。
目には涙を浮かべながら答える。
(マリエ)
リナちゃん、落ち着いて。
私もそう思いたいけど…。
確かにそう信じたいけど…。
残念ながら、私からも…。
悠さんの能力の発動は確認できなかった…。
嘘だって思いたいけど…。
けれど、あの威力をまともに受けてしまったのなら、とても…。
私たちの…。いや、私のせいだ…。
彼に対し、やる気を煽るような言葉をかけてしまった…。
だから彼は、あんな無茶な戦いかたを…。
どうしよう…。私だ…。
私が…。私が彼を…。
彼の命を…。
マリエは、そこで言葉につまり、口を押さえながら声を殺して泣き出してしまった。
(リナ)
嘘だ…。嘘だよ…。
そんなはずないよ…。
だって、悠兄。強いんだよ?
私が本気を出しても、きっと勝てないんだよ?
あんな、デカイだけが取り柄の奴なんかに負けないよ…。
ましてや…。
し…。死んじゃうなんて…。
あ、ありえな…。
ウワァ~~ン!!
嫌だよ~~!悠兄がいなくなるなんて!
絶対に嫌だよ~~!
起きてよ悠兄!
いつもみたいな悪ふざけなんでしょ!?
泣いてる私たちを見て、いつもみたいにニヤニヤ笑うんでしょ!?
もう十分だよ!!
私たちは十分驚いたよ!!
だからお願いだよ!
悠兄!目を覚ましてよ!
悠兄…。頼むよ…。
いつもみたいにバカやってよ…。
お願いだよ…。
誰か…。誰か悠兄を助けてよ…。
リナはその場に力尽きる様に座り込んで泣き始めた。
リナとマリエの様子を、マザーは黙って眺めることしかできず、ただ居場所なく空中を漂っていた。
(エリアス)
審判!生死の確認を!
医療班は、緊急処置の準備を!
急げ!運営全体で救護に取りかかれ!
我が大陸!我が帝の名において!
この男は絶対に死なせるな!
主賓席から駆け付けたエリアスが、周りの人間に指示を飛ばす。
彼女もまた、現状に対し、強い責任を感じていた。
(エリアス)
すまない。吉田悠。
お主の成長が見たくて、お主がどう切り抜けるのか興味が合って。
安易に戦いを続行させてしまった…。
完全に私の判断ミスだ。
接近戦を挑んだ段階で。
お互いがヒートアップした段階で。
一度注意を促すべきだった。
すまない。勝手な期待が判断を鈍らせた。
だから頼む!死なないでくれ!
私に謝らせてくれ!
目を開けてくれ!
吉田悠!
エリアスは、周囲の運営メンバーに指示を飛ばし続ける。
頭の中は、自分を責める言葉で満たされていた。
そして、その場に立ち尽くしているピー太郎に気付き。
睨み付け、一喝した。
(エリアス)
このたわけ者が!
転倒し、身動きの取れない相手に、あの様な致命傷に達する攻撃を仕掛ける奴があるか!
帝の名の元に!
あくまで大会に参加している立場を忘れたか!
この愚か者が!
エリアスの一喝に、ピー太郎を含めた周囲の人間の体に緊張が走る。
ピー太郎も自分がやり過ぎてしまったことを自覚したのか。
反省した様子で、
「済まない。相手が強くて。興奮してやり過ぎてしまった」
と謝罪し、その場で俯いていた。
救護班が悠に駆け寄る。
すると、悠に異常が発生したのか。
驚きの声を上げた。
「な、なんだこれは!?」
「い、一体どうなっているんだ!?」
「そんなバカな!」
「彼は確かに…。」
悠の現状を見た、救護班は驚きを隠しきれない。
そして、エリアスに報告をする…。
「エリアス様!これを御覧ください!」
エリアスも慌てた様子で駆け付ける。
(エリアス)
なんだ!息があるのか!?
駆け付けたエリアスも、その光景に息を飲んだ。
な、なんだこれは!?
どうなっている!?
一体何が起きているんだ!?
エリアスも驚きと動揺を隠せない。
悠の体には、目に見える形で、ある異常が発生していたのだった…。
一方…。
当の悠本人は…。
(悠)
『ん?あれ?なんだこれ?』
『どこだここは?』
『目の前が…。周りが真っ白だな?』
『俺はなんでこんなところに?』
『確か、俺はさっきまで…。』
『闘技場で、熊みたいな化け物と戦っていたはずなのに…。』
『そうだ!思い出した!』
『俺は気に入らないピー太郎に殴りあいを挑んで…。』
『確か…。それから…。』
『ああ、そっか…。』
『はいはい。分かったよ。』
『確か、最後にアイツの本気の一撃を腹に叩き込まれて…。』
『そうか…。あれが原因か…。』
『なるほどね…。』
『俺は、あの攻撃を受けた…。』
『そして、その威力の凄まじさに耐えられず。』
『つまり、俺は…。』
『死んだんだな…。』
『あ~あ、マジかよ~!』
『まさかルールのある大会で殺されるとはな~!』
『お互い興奮してたとはいえ、そりゃねーぜ熊太郎。』
『そこは死なない程度に加減しろよな~…。』
『あ~…。マジついてない…。』
『最期の最後まで、ついてない人生だよ…。』
『…。…。』
『でも、まあ今更言っても…。』
『どうせ誰にも聞こえないし。』
『諦めるしか無いんかね…。』
『こういう運命だったってことだしね…。』
『最後に嫁さんに会いたかったなぁ~…。』
『大学時代のバカ仲間も元気かな~…。』
『あ~あ、もう会えるチャンスもないのか』
『嫌になるね、まったく…。』
『挨拶くらい、させてくれればいいのに…。』
『仲間にだって…。』
『分かっていたなら、話したいこと…。』
『沢山あったんだけどな…。』
『…。…。』
悠は、不機嫌そうな顔をして、頭を掻きながら空を見上げていた。
すると、その時…。
「ゆ…。に…。い…。だ…。し…。で…。」
『ん?なんだ?なんか聞こえるな?
『これは、誰かの声か?』
『よく聞こえないな?一体誰の声だ?』
(リナ)
「いつもの悪ふざけなんでしょ!?」
「嫌だよ!目を覚ましてよ!悠兄~!」
『お?これはリナか?』
『なんだアイツ…。ないてんのかよ…。』
『普段は嫌みばっか言う癖に…。』
『何だかんだ言って、寂しいんじゃねーか。』
『無くしてみて、始めて俺の偉大さが分かったか。』
『バカめ。時既に遅しだ。』
『俺にしてきた無礼の数々。』
『今後一生悔やみ続けるがよい!』
(マリエ)
「私が気合いを煽るような事をしてしまったから」
「悠さん!ごめんなさい!どうか目を開けて!」
『お?この声はマリエさんか?』
『おいおい!なんだよそれ!』
『なんでマリエさんのせいなんだよ!』
『俺が相手を挑発して』
『勝手に自滅しただけじゃねーか。』
『まったく!この人は直ぐに自分を悪者にして』
『それに…。ダメだよマリエさん…。』
『そんなに泣いたら、綺麗な顔が台無しだよ。』
『お?本人がいないせいか』
『それとも死んだからか?』
『何だかキザな台詞も言えちゃうのね。』
『けど…。マリエさん。ホントに気にしないで』
『俺はマリエさんの事を。』
『これっぽっちも責めちゃいないよ。』
『寧ろ、若いメンバーばかりの中で…。』
『間に入って関係を取り持ってくれたこと…。』
『ホントに感謝しています。』
『ありがとう。マリエさん。』
『貴女がいれば、きっと皆も上手くやっていけるよ。』
『貴女になら、安心して後を任せられます』
『短い間だけど楽しかったよ…。』
『ホントにありがとうございました。』
(エリアス)
「水の大陸!水の帝の名において!」
「この男を絶対に死なせるな!」
「すまない!私の判断ミスだ!」
「だから死ぬな!吉田悠!」
『お?なんだ?意外だな?エリアスさんか?』
『なんだよ。なんだよ。』
『俺の為に頑張ってくれてるのか?』
『まあ、始めてあった時から』
『面倒見は良さそうだと思ってたけど…。』
『やっぱり優しい人なんだな…。』
『何もそんなに責任感じんでもいいのに』
『ありがとう。エリアスさん。』
『そんだけ一生懸命に救護されたんなら』
『もう、諦めがついたよ。』
『貴女みたいな凄い人に看取られたんだ』
『ただのパンピーな俺には、十分過ぎる栄誉だよ。』
『あ…。りが…。と…。う。』
ん?上手く言葉がでない?
そうか、そろそろこっちの意識も限界なんだな。
思えば知らないメンバーと、なし崩しでクランを結成して…。
何だかんだで知らない世界を冒険してさ。
結構楽しかったんじゃないか?
何もない。ただ繰り返すだけの日常から。
毎日を懸命に。
新しい刺激の中で生活して来れた。
うん。仲間もいい奴ばっかだったし。
何より、皆と旅して楽しかった。
短い期間でも、十分満足だよ。
結果は残念だけど…。
そんなに大きな悔いはないかなぁ。
こっちの世界では。
俺は「生きて」たし、「活きて」いたよ。
日常では味わえない…。
貴重な経験だった…。
最高の思い出なんだよな…。
悠は、再び空を見上げる。
今度はどこか、晴れやかな表情に見受けられた。
(悠)
さて。と…。
じゃあ、そろそろ終わりにしようかな。
走馬灯は無かったけど…。
代わりに仲間の声が。
想いが聞けた。
俺には勿体無い言葉ばかりだったな…。
まあ、皆。俺なんかよりもずっと有能だ。
俺なんかいなくても、きっと無事に元の世界に帰るだろう…。
その部分は安心できるな。
やっぱり持つべきものは、信頼できる仲間なんだな。
…。
よし!じゃあ、行くか!
悠はゆっくり立ち上がり。
背筋を伸ばした。
(悠)
これから空に…。
マザーの言う「天部」に行くんだな!
そういうシステムなのは知らなかったけど…。
今は何故か、そうすればいいと分かる。
きっと魂に刻まれているんだ。
死んだ人間は、導かれる様にそこに向かうのだろう…。
悠は空を見上げる。
今までは見えなかったが、上空を浮遊する大陸を見つけることができた。
よし!あそこだな!
では、いざ!天部へ!
吉田悠!行きま~~す!
悠は力強く地面を蹴った。
ふよふよと体が空に舞う。
天部~~。何があるんだろ?
天使って美人多そうだな!
ウヒヒヒ。ちょっと楽しみになってきたぞ。
悠は顔をニヤつかせながら、空へ。
天部へと向かった…。
ふよふよ。
ふよふよ。
ふよふよ。
ふよふよ。
結構距離あるんだな~…。
……。
ふよふよ。
ふよふよ。
ふよふよ。
なんだよ!
死んでから苦労させんなよ!
天国なら、もっと楽させてくれよな!
ふよふよ。
ふよふよ。
ス~~…。
悠は突然。
上昇するのを止めてしまった。
そして突然。
ポツリと呟いた。
(悠)
やっぱり…。
嫌だなぁ…。
思わず本音が口をついたのだ。
そして…。
そこからは、もう。
止まらなかった。
セキを切った様に、悠の本音が溢れでる。
(悠)
嫌だ…。
嫌だよ!こんな終わり方なんて嫌だ!
もっと皆と一緒にいたい!
もっと皆とバカやりたい!
もっと皆と冒険したい!
嫁さんと再会して!
昔の友達にも会って!
親父やお袋にも会って!
子供を育てたり!
家を買ったり!
もっと沢山の経験をしてみたい!
死ぬのは嫌だ!
死にたくない!
もっと!もっと沢山の人に出会って!
沢山の思い出を残して!
沢山の幸せを味わって!
沢山の人の役にたって!
もっと!もっともっと!
もっと知りたい!
自分の知らないことを!
自分の可能性を!
もっと知っていきたい!
嫌だ!こんなの嫌だ!
こんなことは望んでいない!
一度だって望んだことはない!
誰か!誰か助けてくれ!
こんなの理不尽すぎる!
誰か俺を助けてくれよ!!
誰か俺を救ってくれよ!!
このままじゃ!このままじゃ!嫌なんだ!
それは天部へ向かう道中。
悠は顔をグシャグシャにしながら、号泣し、錯乱していた。
周りを見ても誰もいない。
誰に話している訳ではないのに。
悠の口からは、
なぜだか自然と言葉が溢れていた。
沸き上がる感情を、抑えることが出来なかった。
そして、
そんな時だった…。
( ? ? )
やれやれ…。
やっと素直になりおったか…。
ホントに昔から、大人ぶって何でも知ってますって顔ばかりしおって。
随分とまあ、ひねくれて育ったもんだよ…。
あ~あ。
ホントに…。
一体誰に似たんだか…。
辺りを確認する。
しかし、周りには誰もいない。
それでも、確かに話しかけられている。
何が起きているか分からない中で、悠は藁にもすがる思いで、声の主に話しかける。
(悠)
なんだ!?
誰か…!誰かいるのか!?
いるなら出てきてくれ!
お願いだ!
力を貸してくれ!
俺は嫌なんだ!
このまま終わるなんて嫌だ!
仲間の所に帰りたいんだ!
お願いだよ!俺を助けてくれ!
暫くの間、辺りを静寂が包んだ。
しかし、何かがそこにいる。
何故かは分からないが、悠は感覚的に、それを理解していた。
そして、その誰かが悠に話しかける。
( ? ? )
…。仕方ない…。
今回だけは力を貸そう…。
けど、これが最後だぞ。
お前は力の使い方さえ、きちんと理解すれば。
そもそもこんな事にはならんのだ。
まったく…。
昔っから要領が悪い。
いいモノを持っているのに…。
使用者が不器用すぎて、資質が可哀想だわ。
ホントにまあ…。
情けなくて悲しくなるね。
声の主からは、落胆した言葉ばかりが繰り返されていた。
その時、悠は再び、突然大きな違和感を感じることになった。
(悠)
『あれ?なんだっけ、この感覚…。』
『なんか知らんが、懐かしい様な…。』
『俺…。もしかしてこいつと、どっかで会ってないか?』
( ? ? )
まあ、いい。
そしたら、さっさと行くぞ。
お前がこっちに来るのは。
まだ、ちょっと早すぎるからな…。
(悠)
ま、待ってくれ!
聞きたいことがある!
あんたは何者なんだ!?
俺は、あんたとどっかで会ってないか!?
何故かは分からないが!
そんな気がしてならないんだ!
悠は、声の主に話しかけた。
声の主は、こう切り返した。
( ? ? )
な…。バ…。お…。る。
お…。お…。だ…。
バ…。む…。
(悠)
何だって!?
よく聞こえないよ!
聞こえるように話してくれ!
頼むよ!あんたは誰なんだ!?
もう一度教えてくれ!
悠は、声の主に質問を繰り返した。
しかし、辺りがゆっくりと光に包まれ。
周囲の景色が消えていった。
それと共に、その「誰か」の気配も失われた。
悠も光の眩しさに、思わず目を閉じてしまう。
そして、周りの光が消え。
悠は、ゆっくりと目を開いた。
すると…。
(審判)
ピー太郎選手戦闘不能!
勝者!クランディープインパクト!
吉田悠選手!
気が付けば、悠は大歓声に包まれる闘技場に立っていた。
そして、目の前には…。
大の字で気を失う。
ピー太郎が倒れていたのであった…。




