水の章 クランバトル編 二回戦 悠編Ⅷ
○ ハナコどこの子
(悠)
え!?なになに!?
チョット待って!?
なに!?ハナコ生きてんの!?
てか、生きてるって…。
精霊ってやっぱり実在するもんなの!?
生き死にの観念ってあるんだ!?
あれ!?
でも、ピー太郎の体を被う毛皮は!?
母の形見って、アナウンスされてたじゃん!?
なに!?なにが真実なの!?
なんか上手く纏まんないよ!
もしかして、全部夢なの!?
そろそろネタも尽きてきたし…。
結局夢オチなの!?
俺は頭が混乱し、捲し立てる様に、ピー太郎に質問をしていた。
なにが真実で…。
なにが嘘なのか…。
悪いのは不真面目に生きてきた俺なのか…。
俺を受け入れない社会なのか…。
実に深刻な問題である。
(ピー太郎)
母ハ生キテイル。
コレハ事実ダ。
母ハ死ンデナンテイナイ。
質問ニアッタ、精霊ガ実在スルカニツイテハ。
ウ~ン…。
コレハ概念的ナ話デ…。
説明ガ非常ニ難シイカラ。
ゴメン。チョット今ハ割愛シマス。
タダ母ハ生キテイル。
正シクハ…。
存在シテイル。
ト、言ッタ方ガイイカモシレナイ。
マア、トニカク…。
キット母ハ。
今モ森デ、楽シクヤッテイル。
沢山ノ男達ヲハベラセテ。
毎日飲メヤ歌エヤ。
舞エヤ踊レヤ。
実ニ楽シクヤッテイルハズダ。
人生ッテヤツヲ、コレデモカトイウホド。
実ニ、エンジョイシテイルコトダロウ。
ア~!イイナァ母サンハ!
ズルイヨナ、ホントニサ~!
俺モ、実ハ早ク帰ッテ、
前ミタイニ豪遊シタイナ~!
故郷ノ村…。帰ル様ニ言ワレタケド…。
村全体ガ貧乏デ、全然ツマラナイ…。
コッチハ、檻トカイレラレテ…。
マジ窮屈。
遊ブ場所ナイシ。
マジ退屈。
ナンデ皆アンナトコデ満足シテルノ?
マジ、意味ワカンナイワ…。
ア~!!
ナンカ懐カシクナッテキタ~!
帰ッテ家デ豪遊シタイナ~!
飲ミ屋ノ、アノ娘元気カナ~!
アイチャーン!
ピーチャン、暇ダヨ~!
会イタイヨ~!
マタ一緒ニ遊ボウネ~!
森ナラ自由!
自由ニ食ベテ!
自由恋愛!
自由ニ酒池肉林!
毎日ウフフナ!
タノシイ生活!
広イ家!広イ庭!広イプール!
イイ酒!イイ女!
全部イイ感ジ!
食ベルモ遊ブモ全部自由!
ア~!
ヤッパリ森サイコーダゼ!!
早ク帰りテ~!
ピー太郎は、森での生活を思いだし、突然テンションがはね上がってしまった。
森の話をする時は、まるでさっきまでと別人である。
目なんかホントにキラキラしている。
森での生活は、ここに比べると。
少なくとも、グランファーマーズの村に比べると。かなり娯楽に満ちているようだ…。
なんだよそれ…。マジびっくり。
森…。サイコーじゃね~か…。
何でわざわざ帰ってきたんだコイツ?
(悠)
お、おう。そ、そうなんだ…。
それは、スゴいね。楽しそうだね。
うん、スゴい。ホントに楽しそう。
な、なんだよ。
なんなんだよそれは…。
意外って言うか…。
結構いい生活してんじゃねーか。
つーか、滅茶苦茶いい生活じゃんかよ。
森なのに…。精霊なのに…。
なんかさ…。勝手なイメージだけど。
精霊って、どっかで人知れず。
ひっそりと生活してるのかと思ってたわ。
人の信仰心を糧に、落ち着いた生活してると思ってたわ。
なんかちょっと意外すぎて…。
イメージ違いすぎて…。
若干リアクションに困るわ。
つーか、なんか腹立つ。
精霊なのに。
実際は、遊び放題なのかよ…。
ホントにショックだわ…。
皆、精霊がそんな生活してるって知ってんのか?
ステラじゃ、それが常識なのか?
ここじゃあ精霊って。
どれもそんな認識なのか?
一応、仏教が身近な人間として…。
なんか凄いショックなんだけど…。
俺は周囲の反応が気になり、周りを見渡す。
そして、最初に確認したグランファーマーズの面々を見て。
全てを理解することになる。
そう。
彼らは全員。
泡を吹いて白目を向いて震えていたのだ。
どうやら立ったまま、気を失っている様だ。
彼らの心境を端的に表現した。
実に素晴らしいリアクションである。
(悠)
あ、そう。
うん。なるほどね。
よく分かったよ!
非常に分かりやすいね!
皆さんナイスリアクション!
うん!
やっぱり皆も驚きまくったみたいだね!
意外すぎたみたいだね!
信じられないみたいだね!
フリーズする位に、ショック過ぎたみたいだね!
普通そうだよ!
そりゃそうだよ!
逆に安心したわ!
そうじゃなきゃおかしいんじゃんか!
例え世界が違っても…。
自分の心から慕う、信仰の対象がさ!
心から信じ、尊敬する存在がさ!
いつでも心と生活に共にあり。
身近な感謝の対象がさ!
実際は、欲にまみれ捲って!
そんな信仰心を糧にして!
毎日どんちゃん騒ぎの豪遊してたら!
そりゃあ、ショックだよね!
そりゃあ、立ったまま失神もするよね!
寧ろ、よく失禁はしなかったよね!
皆の膀胱は、よく耐え抜いたよね!
ましてや、グランファーマーズの皆はさ!
その対象やピー太郎の為に!
30年にも渡って、お詫びと反省の念を持ち続けて…。
これからやっと、村の再建を実現していく所なんだよね!
雨の日も、風の日もさ!
これまでの、森やハナコへの非礼を恥じて。
必死に信仰を続けてきたんだよね!
ハナコに戻ってきて欲しい!
もしかして、モンスターを追い払った時の傷で、ハナコは死んでしまったんじゃないか!
ピー太郎も、もう生きてはいないんじゃないか!
ハナコが怒りに任せて、食べてしまったんじゃないか!
そんな不安を、30年間抱えてきたんだよね!
それを村の皆で、励まし合って乗り越えて来たんだよね!
ありがとう!一つ勉強になったよ!
グランファーマーズの皆!
なんて言うかさ…。
ホントにお疲れさま!
貴方達の30年は、無惨に散ったみたいだけど、信仰に対する想いは。
やっぱりこっちの世界でも同じなんだよね?
うん…。
なんて言うかさ…。
なんかごめん。
こんな形で、現実を突きつけちゃって…。
なんか俺も、皆の事考えたら。
本気で悲しくなってきたわ…。
30年ってさ…。
長いよ。
何かに捧げるには、あまりに長すぎるよね。
俺は意図した形ではないにしろ、彼らを間接的に傷付けたことを反省していた。
その時、白目を向いたまま、畑さんがピー太郎に何かを質問し始めた…。
(畑)
ピ、ピー太郎…。
ハ、ハナコが無事なのは…。
ホ、ホントなのかい?
(ピー太郎)
本当ダヨ。母サン元気ダヨ。
最近二日酔イ、酷イミタイダケド。
(畑)
そ~…。そりゃあ、良かった…。
でも、そしたら何で。
村に来るモンスターは減らないんかの~。
ハナコはやっぱり。
あの時の無礼を…。
ワシらの行いを、許してはくれないのかな~。
(ピー太郎)
ソンナコトハナイ。
母サンガ元気ニナッタノハ、ココ十数年ノ話。
ソレマデハ、30年前ノ戦イノ傷デ。
マトモニハ動ケナカッタ。
ソレホド傷ハ深イモノダッタ。
(畑)
そ、そうなんか!?
やっぱり、ハナコは…。
あの時の戦いで怪我を…。
やはり、モンスターが入り込んだのも。
森に元気がないのも。
全部ワシらが原因だったのか…。
ハナコには、ホントに悪いことをしてしまった。
ハナコはまた。
ワシらの信仰を、受け入れてくれるだろうか…。
流石にもう…。
許してはくれないのだろうか…。
『あれ?十数年前から元気なら。
ここ数年は、思いっきりサボってたんじゃないのか?』
俺は非常に気になる疑問が頭に浮かんだが、これ以上グランファーマーズの皆さんに、ショックを与えては命に関わると判断し、質問を自粛した。
しかし…。たとえどんな理由にしろ。
畑さんは、30年に渡り償って来たんだ。
彼の努力が少しでも報われて欲しい。
俺も彼に同情し、心からそう願い始めていた。
(ピー太郎)
大丈夫。母ハ怒ッテハイナイ。
(畑)
本当け!?
(ピー太郎)
本当ダヨ。
村ノ信仰心ガ、母ノ糧デアルノモ事実。
村ノ信仰心ガ強マッタコトデ、母ノ傷ハ早ク回復シタ。
人間ガ、心具ヲ通シテ、精霊ノ力ヲ借りル様ニ。
精霊モマタ、人間ノ信仰心ヲ力ニ変エテイル。
精霊ノ力ハ偉大ダガ、信仰スル人間ガ、イナクナレバ、徐々ニ弱マル。
力ノ流レハ、ケシテ一方通行デハナイ。
ドチラモ、モチツモタレツ。
ドッチモ不可欠ダ。
ダカラ…。
母ハ、村ノ信仰心ガ回復シ、喜ンデイル。
ソウ遠クナイ日ニ、再ビ村ヲ守ル力ヲ、取り戻スダロウ。
マア、タブンダケドネ…。
ピー太郎の話を聞き、畑さんはほっとした様だ。
安らかな表情で、再び気絶状態に戻った。
凄いな畑さん!
もしかして、今のも無意識で!?
彼は後で、今の話を覚えているだろうか…。
人類の新たな可能性を感じた瞬間であった。
(悠)
さてと…。
それで?ピー太郎はさ?
なんでそんな大事な話を、今まで皆にしなかったんだ?
(ピー太郎)
え?だってさ。
聞かれなかったもん。
皆が母さんに、そんな思い入れがあったの、知らなかったし。
(悠)
なるほどね。
じゃあ、毛皮は?
なんで形見とか言っちゃったの?
(ピー太郎)
その方が、ウケるかなって思ったから。
実際、この毛は、母さんが村を守るとき。
怪我した部分が生え変わったものを編んで作ったから。
皆には、形見って事にした方が、なんか響きがいいかなって。
ちやほやされるかなって。
(悠)
ああ、そう。
皆も罪悪感感じてたしね。
それくらいは、まあ、いいかなって。
そんな感じ?
(ピー太郎)
うん。ごめん。
悪かったと思ってるよ。
(悠)
途中から、滅茶苦茶難しい言葉使ってたから。
もしかしてとは、思ってたけど…。
片言は、もう止めたの?
つーか、お前ペラペラじゃねーか!
始めからちゃんと話せよ!
聞きにくいんだよ!
(ピー太郎)
うん。いっぱい話したし。
雰囲気作りも疲れたし…。
なんか飽きちゃった。
(悠)
じゃあ、最後に。
ホントにこれが最後だから。
なあ。ピー太郎よ。
森での生活は事実なのか?
(ピー太郎)
事実だよ!
毎日豪遊だよ!
この世のパラダイスだよ!
早く帰りたいよ!
(悠)
オッケー。了解。
なんかマジムカついたわ。
お前絶対ぶっ飛ばしてやる。
覚悟しろよ。
俺は、自分の中で色々な感情が入り雑じるのを感じていた。
ピー太郎は、確かに被害者かもしれない…。
けれど…。
何故か俺は、コイツを許す気になれなかった。
ただ、個人的にムカついた。
そんな理由で、俺はピー太郎を倒すことに決めたのだ。
(悠)
手加減しねーぞ。
覚悟しとけ。
俺は指の骨をバキバキと鳴らした。
(ピー太郎)
望むところ。
少しは楽しませろよ。
ピー太郎も臨戦態勢に入る。
おしゃべり休憩をはさみ。
バトルは第2ラウンドに突入する。