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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
52/114

水の章 クランバトル編 二回戦 悠編Ⅶ

 ○ 矛と盾


 (実況)

 きた~!

 一回戦から、対戦相手を確実に仕留めてきた!  ピー太郎選手のフィニッシュブロー!

 その名も、「熊さんの蜂蜜落とし」!


 愛くるしい仕草から放たれる驚異の一撃!

 亡き母に捧げる、渾身の必殺技だ~!


 蜂蜜を採るために、自然と身に付いたという驚異のジャンプ力!

 高所から全体重をかけて放たれる!

 防御など不可能な最強の一撃!


 これは、善戦をしていた吉田悠選手!

 流石に塵一つ残らず消し飛んだか~!


 (観客)

 ウオ~!やっぱりスッゲェぞ~!

 ピーさ~ん!あんたの戦いは最高だ~!


 キャ~!ピーさ~ん!ステキ~!

 蜂蜜あげちゃ~う!


 ピーさん!ピーさん!ピーさん!ピーさん!


 会場は、ピー太郎の迫力の一撃に大興奮だ。

 ピー太郎の勝利を確信し、会場全体が彼を讃えていた。


 (リナ)

 悠兄…。嘘でしょ…。

 いくらなんでも、そんな…。  

 塵一つすら残らないなんて…。


 リナは余りの光景に、肩を落とし。 

 膝をついて涙を見せていた。


 (マリエ)  

 リナちゃん。

 彼はよく戦ったわ…。

 始めから分かっていた事だけど…。


 やっぱりあんな巨大な生き物に…。

 人間が戦いを挑むなんて無茶なのよ…。 


 悠さんは、身をもってそれを証明したの。 

 私たちは、彼の死を無駄にしないように…。

 この大会から身を引きましょう?


 マリエは、リナの肩に手を置き、落ち着かせるように語りかけた。


 (リナ) 

 うん…。そうだね。

 あの人…。

 最後までバカな事ばっかりしてたけど…。

 最後の最後で、私たちに戦いの厳しさを教えてくれたんだ…。

 今思うと…。

 悠兄って、そういう人だったよね?

 いつまでも泣いていられないや。


 ありがとう…。悠兄…。 

 色々楽しかったよ。


 さようなら…。  


 二人は闘技場に背を向け、控え室に戻ろうとする。そこに、マザーがふよふよと近付く。


 (マザー)

 あの~…。

 すいません。二人とも…。


 この流れはいつまで続きますか?

 悠さん…。元気そうですよ?


 あそこでピーさんに。

 滅茶苦茶文句言ってますよ?


 『なんかこの二人…。

      ノリが悠さんに似てきたな』


 マザーが二人に闘技場を見るように促す。


 その時…。

 闘技場では…。


 (悠)

 あっぶね~!

 ホントにギリっギリじゃね~か!

 つ~かこれ!

 まともに当たったら死ぬだろ!?

 アスファルトの闘技場がバキバキに割れちまってるぞ!?


 おい!ピー太郎!    

 ちょっと待て!

 お前はバカなのか!?


 相手は殺しちゃダメなの!

 気絶するくらいで限界なの!

 個人的には、軽傷で済むくらいで頼みたいの!

 

 こんなの喰らったら、頭と地面がくっついちまうだろうが!

 お前の母さんは、スゴい精霊なのに!

 手加減ってもんは教えてくれなかったのかよ!


 

 俺はピー太郎を指差し、猛烈に抗議する。


 しかし、ピー太郎は…。


 (ピー太郎)

 オレ、ソノウタシッテル。

 オナカガヘルト、オナカトセナカ、クッツイチャウ…。

 ソンナコト、アリエナイ。 

 オレ、ナツカシクテタノシイ。

  

 オフッ!オフフフフフ!


 ピー太郎は、俺の話から、懐かしい童謡を連想したようだ。


 実に楽しそうに笑っている。


 (悠)

 なに笑てんだ!

 俺は何も楽しくね~ぞ!

 一人で勝手に笑ってんじゃね~!


 俺はお前の攻撃はやりすぎだって怒ってんだよ!

 亡き母に捧げる一撃とか言ってたけど!

 お前の母ちゃんに、俺の命をささげても、絶対喜ばね~ぞ!


 もし無事に捧げられて!

 お前の母ちゃんに天国で会ってもな!


 「あ、どうも。はじめまして。吉田です。」

 「あ、もしかしてピー太郎のお知り合い!?」


 「あ、そうでしたか。」

 「お世話になっております」


 「私!?」

 「あ、犠牲者です。ピー太郎さんの攻撃の」

 「なんか、母に捧げる一撃だ~とか言って…。」

 「ええ。地面にめり込みまして…。」

 「お顔と地面がくっついちゃって…。」

 「ホントに酷い目に合いましたよ…。」


 「え!?あ、お母さま何ですか!?」

 「え!?ホントに!?ピー太郎さんの?」


 「いえいえ!そんなそんな!」

 「お母さまは、何も悪くないですから!」

 「いえ!ホントに!大丈夫ですから!」

 「ね!?お顔を上げてください!」

 「はい。はい。ご丁寧にありがとうございます」

 「はい。いいえ~。はい。大丈夫です。」

 「はい。ええ…。はい。」


 「…。」

 「ピー太郎さんは、お父さん似ですかね?」  

 「あ、どっちかというと、お母さま似?」

 「あ、言われてみれば確かに~。」

 「鼻のラインが似てますよね~。」


 「…。」


 「…。」


 って、ほら見ろ!

 俺この年齢にもなって、人見知りだからな!

 これ以上会話なんて、絶対続かね~ぞ!

 今考えただけで、重い空気に失神しそうだよ!


 お前の母ちゃんが、いかに立派な精霊でも!

 俺が相手じゃどうしようもないぞ!


 絶対に滅茶苦茶空気悪くなっかんな!


 きっとハナコだって! 


 「おいおい。何だよこいつ」

 「ピー太郎の奴」

 「よりにもよって、何でこんな奴を送って来たんだよ…。」


 「いい年して、なんか挙動不審だし。」

 「来てそうそう超空気悪くなったよ…。」 


 「ホントに余計なもん送って寄越すなよ。」

 「これからコイツとなに話せばいいんだよ…。」

 「こいつと、いつまで一緒にいんだよ。」


 「マジ勘弁してくれよ。」

 「鼻なんて似てね~よ。」

 「人間と熊だぞ?」

 「こいつ頭おかしいんじゃね~の?」

  

 …。

   

 ほら見ろや~!

 ハナコだって困ってんじゃね~か!


 それにな~!

 俺は行きたくてハナコのトコに行くわけじゃないんだぞ!

 

 ピー太郎が、俺の魂を捧げちゃうから!

 無理矢理ハナコのトコに連れていかれちゃうだけなんだぞ!?


 それなのに…。


 何で連れて行かれた方が、気まずい思いをせねばならんのだ!?  

 何故連れて行かれた人間に、責任を押し付けるんだ!? 


 人が足りないから!

 数会わせで参加してくれって言うから行ったのに! 



 あの人気持ち悪~い。

 マジ冷めるわ~。



 とか、聞こえる様に言わないでくれ!


 俺は頼まれてここにいるんだ!

 自分で望んで、ここに来た訳じゃね~んだよ!

 そんな奴を傷つけないでくれ!

 俺のハートはそんなに強くないんだよ!    

 プレパラート位の強度しかないんだよ!


 ハアハアハアハア…。

 ヤベエ…。


 途中から気持ちが高ぶりすぎて、プライベートの生き恥を晒してしまった…。

 また、やっちまったよ…。

 もう嫌だ…。この性格…。

 

 まあ、今はいいや…。

 嫌なことは、後で考えるよ…。


 とにかく!

 俺だからギリギリ避けれたけれど!

 あれはダメだろ! 

 生身ならホントに死んじゃうよ!


 あれは今後禁じます!

 蜂蜜は森でとりなさい!


 分かった!?

  


 俺はある程度感情をぶつけたため、少し冷静さを取り戻していた。


 ピー太郎の、熊さんの蜂蜜落とし…。

 リナの声と、マークIIとの戦いの経験がなければ


 まともに喰らっていたかもしれない…。

 マークIIの時と同じように。

 攻撃を上手く受け流す形で、心具を咄嗟に扱うことができた。


 「実戦に勝る経験はない」


 今回は、ギリギリの命のやりとりの中で。

 身をもって体験することとなった。

 これもまた、今後に経験として、活かす必要がありそうだ。


 (実況)

 な、なんと~!?吉田選手!

 ピーさんの、蜂蜜落としを喰らいながらも、平然と立っております!


 これは始めての出来事だ~!


 魅力的なメンバーが多い!

 クラン・ディープインパクト!

 

 その中でもかなり地味な存在の彼だが!

 実はかなりの実力者なのか~!?


 これはこの試合!

 ピーさんの魅力以外の部分!

 熱い試合展開の方も、面白くなってきたぞ~!


 (観客)

 ざわざわざわざわ。

 え?なにアイツ強いの?

 あんなに恥ずかしい格好しておいて?

 え?アイツ戦えるの?

 あんな格好なのに?

 ざわざわざわざわ。


 観客も、俺の活躍が意外なのか。

 予想外の戦況に、ざわつき始めていた。

 

 うん。若干衣装の話が出ているのは、気にしないでおこう。



 (リナ)

 な~んだ。思ったより元気そうじゃない。

 泣きの演技まで入れて損したわ。


 (マリエ)

 ホントにね…。

 どっか、怪我くらいはしたかと思ったけど…。


 やっぱり流石というべきかしら?

 あの威力の攻撃を、咄嗟の判断で受け流して見せるなんて…。

 悠さんもどんどん。

 自分の力を、使いこなせる様になっているのね。


 (マザー)

 はい。皆さんの日々の進化には、ホントに目を見張るものがあります。


 他の方に埋もれがちですが…。

 悠さんだって、相当な実力者だ。

 あのレベルの攻撃…。

 防げたって、何の驚きもない。


 けれど…。 


 《大会主賓室にて》


 (エリアス)

 ある意味この戦いは…。

 心具として、完全に相反する力を手にした相手どうしの。

 優劣の決定の場と言ってもいいかもしれんの…。

 果たして実際に…。

 どちらの力が優れているものか…。


 (アイシス)

 一方は、全てをなぎ払い。

 全てを叩き潰す。

 謂わば、「最強の矛」

 

 もう一方は、全てを受け流し。

 全てを弾き返す。

 謂わば、最強の「盾」


 もし、お互いがそう自負していたとしたら…。


 果たして、ホントに優れているのは。  

 一体どちらの「最強」なのかしらね?


 (エリアス)

 勝つために「倒す力」と勝つために「守る力」

 同レベルで放たれた時…。


 果たして、どちらに軍配があがるのか…。

 古い話の矛盾にも通ずる…。


 個人的にも、決着に対する楽しみが増えてきたのぉ。

 果たして勝つのは、どちらの最強か…。

 

 結果が待ち遠しいわ…。


 (悠)

 分かったか!?

 とにかく、母に捧げる感動の一撃はなしだ!

 亡くなった親に変な気を使わせるな!

 熊さんでも、それは分かるだろ!?

 空気を読んであげなさい!


 (ピー太郎)

 オマエがイイタイコト。

 オレニモワカル。

 ダガ、アノコウゲキハヤメナイ。 

 アレハ、オレノトクイワザ。


 (悠)

 何でだよ!

 死んだ母ちゃんにゆっくり休んで貰いたいとは思わないのか!?

 気まずい空気の中で、ゆっくり寝れる奴なんていないんだぞ!?

 母ちゃん、ストレスで胃を悪くしちゃうぞ!?

 いいのか!?

 天国で旨い肉が喰えないのは、お前のせいかもしれないんだぞ!?

  

 (ピー太郎)

 ダイジョウブ。サイキンモニクタベテルシ。

 ソレニ、カアチャンイキテルモン。

 オマエ、テンゴクイッテモモンダイナイ。



 (会場)

 …。

 ……。

 ………。


 な………。


 なんだって~~~~~!?!?!?!?


 母ちゃん生きてるって!?


 え!?毛皮は!?


 どういう話なんだよ~!?



 まさかの発言に、会場中が騒然となった。


 ピー太郎の発言の真意は、一体どこにあるのか。


 俺は混乱する頭の中で。


 必死に答えを探していた…。 

 







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