水の章 クランバトル編 二回戦 悠編Ⅶ
○ 勝負を決める一撃
(審判)
始め!
ドォン!
開始の合図と共に、俺はピー太郎に一直線に向かっていった。
(悠)
来いや熊すけ~!
人間様舐めてんじゃね~ぞ!
俺は仲間に励まされて、テンションマックス状態で突っ込んでいく。
一方、ピー太郎は…。
(畑)
ええか稲田?
ほったら、いっせーのせ!
で、檻の鍵さ開けっぞ!
鍵開けたら、すぐに闘技場から降りねーと!
ピー太郎が襲ってくっかもしれねーかんな!
ぜってータイミング会わせろよ!
いいか!?いっせーのせ!
だかんな!?
ガシャアン!
(畑)
はい?
その言葉と同時に、稲田さんは、檻のドアの鍵を半分開いていた。
ドアを開けた稲田さんは、ピー太郎の被害から逃げるように、直ぐに舞台から飛び降りた。
(畑)
おい。稲田?
あんさんなんで…?
(稲田)
え?あれ?畑?
え?嘘?
まだやったの?
ごめん…。畑…。
オラ、間違って開けちまった…。
稲田さんの手には、しっかりと鍵が握りしめられている。
(畑)
い~な~だ~!!!
あんさんは昔っから人の話さ聞かんで~!
こんな大事な時に~!
このあんぽんた…!
ドカン!バキィ!
(畑)
ギャア~!
なしていつもオラだけ~!
ピー太郎は、半開きの檻に体当たりし、勢いよく舞台中央に駆け出してきた。
鍵が空いていない檻の方にいた畑さんは。
ピー太郎が勢いよく抉じ開けたドアに捲き込まれ、ドアと共に舞台袖まで吹き飛ばされていった。
畑さん…。いい人なのに…。
なんでいつもツキのない…。
まるで、コントの様に、畑さんは綺麗な放物線を描き、飛ばされていった。
(ピー太郎)
グアアアア~!
ヤットメシノジカンダ~!
クワセテモラウゾ~!
ピー太郎も真っ直ぐ此方に向かって来る。
リナの言う通り、アイツの動きは四足歩行だ。
かなりの速度で此方に迫ってきている。
けれど…。
(悠)
歩行も、スピードも!
予想の範囲内なんだよ!
ウチのクランで一番速いヤツは、こんなもんじゃねーぞ!
くらいやがれ!先手必勝だ!
吹き飛べ!
俺は左手を前方に突きだし、ピー太郎に向けて心具の力を使用した。
ズドン!
攻撃は、ピー太郎の頭部に命中し、突然の事に驚いたピー太郎は、ヨロヨロとよろめいた。
真っ直ぐ此方に向かってきていたが、スピードを緩め、頭部に何がぶつかったのか。
不思議そうな顔で、首を傾げている。
(ピー太郎)
ム~。ナニカアタッタ?
ナニガアタッタ?
アタマガ…。アタマガイテェ…。
ピー太郎は、自分が何をされたのか分からず、攻撃を躊躇っているようだ。
(悠)
攻撃するなら剥き出しの頭部!
これもアドバイス通りだな!
ホントにウチのメンバーは…。
スゲエ奴ばっかりだよ…。
俺は仲間達のアドバイスに感謝し。
同時に彼女達の頼もしさを再認識していた。
ピー太郎が仕掛けてくる様子は無い。
このまま一気に畳み掛けてやる!
相手が熊だからって関係ない!
俺は、スゲエ仲間たちに認めて貰えているんだ! 自信を持って、どんどん攻めるぞ!
(悠)
来ないならこっちから行くぞ!
都会での生活は息苦しいだろう!
さっさと森に帰りやがれ!
オラ~~!
吹き飛んでけ~!
ドンドンドンドン!!
俺の攻撃は、ピー太郎の頭部に連続で命中していく。
(ピー太郎)
イダ!イダダ!
ナンダ!?オマエイッタイナニシテル!?
アダダダダダ~!
ピー太郎の頭部は上下左右に揺さぶられている。
思った以上に戦えている。
間違いなく、こちらのペースだ。
だが…。
(マリエ)
悠さんの攻撃…。
いいリズムで続いてるけど…。
決定的なダメージにはなり得てないわね。
(マザー)
え?そうですか?
私には、かなりいい形で。
いいテンションで戦えてる様に見えますが…。
(リナ)
いいテンションってのは、同意するわ…。
決して私たちも、嘘はついてないけど…。
試合前にちょっと誉めただけで、あれだけ生き生きと戦えるんだから…。
あの人どんだけ誉められ慣れしてないのよ…。
なんか私が、少し悲しい気持ちになるじゃない。
(マリエ)
きっと職場とかで怒られ慣れしちゃってるのよ。
たまに誉められると、嬉しくて仕方ない…。
スパルタ教育の家庭の子供のみたいな人ね…。
あれ?私も何だか可哀想になってきたかも…。
(マザー)
皆さんの世界では…。
働くって大変な事なんですね…。
まあ、今はその話は後に。
彼の人生観については、また後日話しましょう。
それで、マリエさん?
悠さんの攻撃…。
悪くないと思いますが…。
やはり難点があるのですか?
(マリエ)
難点って訳ではないけど…。
悠さんの心具って。
以前も話したけど、周りを「活かす」タイプの力なのよ。
私たちが、強い魔力を練るための準備をしているとき。
リナちゃんが、接近戦で複数の敵を相手にするとき。
そんな時に、彼は私たちを相手の攻撃から守り。
こちらの攻撃体制を整えるアシストをする。
つまり、どちらかと言うと、全体の支えになる。
縁の下の力持ちなのよ。
だから…。
こういう一対一の様な戦いでは。
どうしても火力不足になる。
相手を沈める、フィニッシュブローが、彼には存在しない。
彼の力は。
決して肉体を強化する訳でもない。
武器を生み出す訳でもない。
彼は、その力で周囲を支える。
そして、支え続けた仲間に、フィニッシュブローを託す。
クランの仲間からしたら、これ程頼れる仲間はいない。
けど、いざ一人で戦うとなると。
相手の攻撃を防ぎ。
防御を攻撃に転じて、自分の力を相手にぶつける。
彼には、この二つの戦い方しかない。
そして…。
マークIIやピー太郎の様に、攻撃で吹き飛ばす事が出来ず。
攻撃によるダメージも期待出来ない相手には…。
残念ながら、どんどん手が伸びなくなる。
ダメージが少ないと気付いた相手は。
悠さんの攻撃を恐れずに、突っ込んでいく。
そして…。やはりああなってしまう。
マリエは、闘技場の中心を指差した。
(闘技場中心)
バキィ!
ピー太郎の攻撃が、悠の体をとらえる。
(悠)
クソ!
ギリギリのところで攻撃は弾けるが、それでもかなり重い!
しかも…。
マリエさんの言う通りだ!
心具がある右手の攻撃!
その威力は桁外れだ!
俺の能力じゃあ、完全には弾ききれない!
クソ!
せっかくいい感じだったのに!
これじゃあ、マークIIの時と同じじゃね~か!
(ピー太郎)
オマエ、ナカナカヤルナ。
コンナニタタカウノハヒサシブリダ。
オレモスコシ、チカライレルゾ。
ナア、オマエ。
クウマエニシヌナヨ!
(悠)
なんだって!?
今まで手加減してたって言うのかよ!?
ふざけやがって!
俺だって、まだ本気だしてないんだからな!
俺はピー太郎に目をやる。
しかし、目の前にいたはずのピー太郎が、忽然と姿を消している。
(悠)
あれ?あいつどこいった?
俺は周りをキョロキョロとピー太郎を探した。
(リナ)
悠兄!どこみてんの!?
上だよ!やばいよ!
気を付けて!
(悠)
上!?
俺は咄嗟に真上を見上げた。
そこには、ゆうに数メートルはジャンプしているピー太郎の姿があった。
(悠)
嘘だろ!?あの巨体で!?
俺は余りの光景に、一瞬息を飲んだ。
(ピー太郎)
キヅカレタカ。
ダガ、ドチラニシテモフセゲナイ!
オマエヨクヤッタ!
キヲウシナッテ、エサニナレ!
ピー太郎が空から降ってくる。
(リナ)
悠兄!避けて!
リナの声が聞こえた。
(悠)
『ダメだ!あまりに突然すぎて体が動かない!』
『マズイ!このままじゃ、本当に!』
ズガア~~ン!!
ピー太郎の全体重を乗せた一撃が、空から放たれた。
その余りの衝撃に、闘技場全体にヒビが入った。
なす術もなく、俺は…。
(リナ)
ちょっと…。嘘でしょ?
悠兄?無事よね…?
悠兄?返事しなさいよ!
悠兄~~!!!
リナの叫び声だけが、会場に響いていた…。




