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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
5/114

クラン活動の章

 ○ マザー 母なるそのセンス


 おはよー。

 リナが眠たそうな顔でロビーにおりてきた。


 おはようございます。レイナだ。

 こちらはきちんとした顔立ちだ。


 マザーの説明を聞いた後、皆は解散し、疲れはてていた俺はすぐに眠りに落ちた。

 泥のように眠るとは、きっとこういうことを言うのだろう。

 それ位深い眠りであった。


 二人もゆっくり寝られただろうか。

 ロビーには10時集合だったため、時間的には余裕があったはずだが…。


 全然寝たりないよ。今日はやめにしない?

 リナがダルそうに言う。


 個人的には、少しでも早く帰れるよう頑張りたいけどなー。妻も探したいし。

 ただ、二人が疲れているなら、1日位いいけど。

 俺は二人に伝える。


 冗談。冗談。

 マジメだな~。人生損するタイプだよ?

 リナはアクビをしながら返答する。


 一度年上に対する敬意というものを学んだ方がいいぞ。お前は。

 俺は若干怒りを込めて発言した。


 おはようございます。

 マザーが現れる。

 皆さんゆっくり休めましたか?

 今日からいよいよ我々のクランとしての活動がスタートします。


 なんだかドキドキしてきました。

 レイナが不安そうに話す。


 大丈夫ですよ。

 最初なので皆さんに受けて貰う依頼にはあてをつけています。

 怪我などの心配は少ないものです。

 マザーがレイナを落ち着かせるように話す。


 さて、先ず始めに私からプレゼントがあります。 そのままの格好では、これからの戦いに不向きですから、私が装備をあしらわせていただきました。

 大したものではないですが、せめてもの気持ちとしてお受け取りください。


 装備!?やったー!!

 かっこよくて可愛いのでしょ!?

 ちゃんと私に似合うものよね!

 リナが目を輝かせている。


 きっと喜んでいただけると思います。

 あちらの更衣室に用意してあるので着替えてきて下さい。


 オヤジ!覗くなよ!

 リナが軽やかに着替えに向かう。


 の、覗かねーよ。

 出端を挫かれ

 残念な気持ちで俺も更衣室に向った。


 ……。


 更衣室に入り、置かれている服を見て絶句した。


 そこには真っ青なジャージの上下と真っ白なスニーカーがあった。

 胸には白い糸で、Dインパクトと書かれている。


 確かに動きやすそうだ。


 学ジャーじゃねぇーか!!!!

 俺は心からの叫びをあげた。




 着替えを終えてロビーにでた。

 二人も出てくる。


 同時にお互いを見て爆笑する。


 オヤジ似合わねー!!

 真っ青!!!顎みたいに青い!!

 海のような青い!!

 そう。まるであの空のように。

 てか、顎青すぎ!!


 リナが顎を指さし笑う。

 

 今顎は関係ねーだろ!

 髭剃り無いんだからしかたねーんだよ!

 そしてなんで途中詩的なの。

 おじさん少し感動しちゃったよ。

 それに…。

 お前らだって真っ赤じゃねぇーか!

 ただ、若いから似合うのな……。


 二人とも真っ赤な学ジャーを着ている。

 致命的にダサいのにそれなりに見える。


 つい最近まで現役で着てたのだから当然か……。


 俺はリナに何か言ってやりたいが、言い返す言葉がなかった。

 何か、何かないものか。

 必死になって二人を見回す。


 あ、くつ紐。

 リナが屈んだその時、背中に大きく白い文字が浮かんでいるのが見えた。


 「Team D Impact」


 これだ!!!!!

 俺は宝物を見つけたような心のときめきを覚えた。

 あははははは!!!!!!!

 背中!!背中!!!!

 なんだお前田舎のヤンキーかよ!!

 だっせー!!!!!

 俺はトキメキに任せ、リナを指して笑った。


 え?何?

 ええええ!? 何これ!?!?

 超恥ずかしい!!!


 リナが背中を窓に写し、文字を確認して真っ赤になっている。


 いやいや、かっけーよ!

 チーム背負ってる感じだよ!

 ぐれてるね!家出してんの!?

 おじさん触れたら怪我しちゃうかもな!

 俺は畳み掛けるようにリナを笑った。

 

 その時。つんつん。

 レイナが俺の肩をつついた。


 え?何これ可愛い…。

 俺は一瞬ときめきを覚えてしまった。


 あの…。レイナが俺の後ろの窓を指差した。


 そこには、白き糸でこう紡がれていた。


 「☆キャプテン オブ ジ インパクト☆」

 

 バーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 頭の中で強烈な爆発音がした。

 その衝撃は俺の記憶を吹っ飛ばすには十分な威力であった。

 その後数秒間の記憶はない。

 ただ、その瞬間俺の目は飛び出しただろう。

 漫画のように飛び出したはずだ。

 それから、無意識の世界を旅をしていた気がする

 リナが海や空を語ったときに、きっと俺は旅に出たんだ。


 …。…ニイサン。 …お兄さん。

 悠お兄さん!! レイナの声が聞こえる。


 はっ! ガバッ

 俺は飛び起きた。あまりのインパクトに気をうしなっていたようだ。

 俺は、俺は何を…?


 すぐ横をリナが笑い転げている。


 アハハハハハハハ!!!!!!!!!!!

 星!!!!!  星!!!!  星~!!!!!

 キャプテン! ジ インパクト!!!!!!!!!!

 星~!なんでカタカナ~!!!!?????

 どうも。私はキャプテンオブジインパクトです。

 アハハハハハハハ!!!

 ダメ!!!! 死ぬ死ぬ死んじゃう!!!!!

 

 その様子を見て俺は理解する。

 そんな……。夢じゃなかったのか…。

 こんな辛い現実が世の中にあっていいのか…。


 その時。

 お!様になってますね!


 マザーが声をかける。


 テメー!!!! ふざけんな!!!!

 人にはやっていいことと悪いことがあんだよ!

 悪ふざけにもほどがあんだろ!

 俺をいじめて楽しいか!?


 マザーにありったけの怒りをぶつける。

 

 は?何がですか?

 私が選んだユニフォームになにか文句でも?


 ………………。

 マザーの迫力に一瞬で場が凍りついた。


 いえ、なんでもないです。

 俺は強い人には弱い。そんな可愛らしい人間だ。


 マザーは怒らせない方がいい。


 三人で初めて共通認識を得た瞬間であった。


 さて、クランユニフォームも決まりましたし、このままクランハウスに向かいましょう!

 マザーがみんなに声をかける。


 このまま外出するのか……。

 今日俺は死ぬのかもな。

 いつもより空が青い。

 そんなことを考えていた。



 ○ クランハウス 晒される恥


 クランハウスに着いた。

 今日も他のクランが何組も集まっている。


 ドアを開けて中に入る。


 ざわさわ。一瞬でこちらに視線が集中する。

 

 さすが実力者が揃うクラン。

 注目されていますね。

 マザーが自信満々といった声で話す。


 …。違いますよね。これ…。

 レイナが恥ずかしそうに身を屈めている。


 恥ずかしい。もう死にたい。

 リナが泣きそうな声で話した。


 大丈夫だお前ら。キャプテンに任せろ。

 その言葉を聞き、二人は肩を震わせ笑いを堪えていた。

 どんな形であれ、二人の役に立つならばと思い、俺は堂々としていた。


 うわ!なんだあの服!ダサ過ぎたろ!

 キャプテン!?

 なんだあいつ?罰ゲームか!?

 頭がおかしいとしか思えない。

 正気なのか?


 周囲の声が耳に刺さる。視線も刺さる。 

 五感すべてがいかれてしまいそうだ…。


 その時

 こんにちは。ディープインパクトの皆様。

 本日はどのようなご用件でしょうか?

 受付の女性が尋ねてきた。


 そういえば、受ける依頼は決まっていると言っていたけど何をするんだ?

 マザーに尋ねる。


 はい。

 今日皆さんに受けてもらう依頼は…。

 「兎狩り」です。

 

 兎狩り?

 

 はい。少し待ってて下さい。

 マザーは何やら受付の女性と話している。


 準備が済みました。

 場所は近くの山間の草原です。

 直ぐに向かいましょう。


 ありがとうございました。

 いい成果を期待してお待ちしております。

 女性が深々と礼をした。  


 あ、どうもありがとうございました。

 俺たちも一礼する。


 出口に向かおうとした時。

 ぷっ。クックッククク…。

 女性が後ろで笑いを堪えているのが分かった。

 あの文字を見たのだろう。


 俺は決して振り向かないと決めた。

 耐える女性の姿を見るのは男のすることではない。俺はただ前を見て涙を堪えていた…。


 

 ○ 兎狩り リナの場合


 ここです。

 マザーに案内され草原に着いた。


 で、俺たちは何をすればいいんだ?


 今回はこの時期にたくさん発生する兎を捕まえて貰います。

 依頼がクラン端末に出ていますので、内容を確認しましょう。レイナさんお願いできますか?


 は、はい!

 レイナが端末を操作する。


 依頼内容 

 沢山発生し畑を荒らすもっさりうさぎを捕まえる

 依頼先クラン

 指定なし。

 結果に応じて農業団体から報酬を与える。

 条件 兎は生け捕りにすること。

 依頼ランク E

 依頼内容は以上です。


 レイナさんありがとうございました。

 マザーが話し出す。


 聞いていただいた通り、依頼は兎を生け捕りにするという単純なものです。

 兎と言っても体長は1・5メートルほどとかなり大きいです。

 性格は狂暴で、敵を認識すると一気に襲いかかってきます。

 ですが、ウェアウルフを退けた皆さんなら、造作もなく片付く相手です。


 なので私から条件を出します。


 1 捕獲には心具のみを使用すること。

   心具を使わないのも認めません。

 2 今日は1人ずつ捕獲活動をすること。

   他の二人は手を出さず見ていること。


 以上が条件です。それ以外は自由です。

 さあ、誰から始めますか?


 はいは~い!あたしあたし!!

 リナがぴょんぴょん跳ねながら手を挙げた。


 私が最初にやってさっさと全部捕まえちゃうよ!

 二人はゆっくり休んで宿屋で私に感謝することだね!

 リナが自信満々に名乗りでた。


 では、リナさんから始めましょう。

 マザーも同意し、遂にクランとしての活動が始まったのだ。



 しばらく歩くと、もっさりうさぎと思われる生物の群れに遭遇した。10体ほどいるだろうか。

 こちらには気付かず、畑を荒らしながら食事をしている。


 でけぇ……。

 あれホントに兎かよ?


 大きいですね。顔は可愛いのに。

 あんなのと戦うんですか……。

 レイナも不安そうだ。


 大丈夫ですよ。

 強力な武器を持っている訳ではありません。

 あれくらい捕まえられないと、これからの依頼は勤まりません。

 マザーが少し厳しめの口調で告げた。


 では、リナさんお願いします。

 方法は任せますので、好きにやって下さい。


 まっかせなさい!

 直ぐに終わらせるよ!

 そういうとリナは兎の方にゆっくり歩き始めた。


 あれ? あいつどうするつもりだ?

 回り込んで1羽ずつ倒さないのか?

 近付きすぎたら逃げちゃうだろ。

 俺が疑問を口にしたときだった。


 リナちゃんなら、多分大丈夫だと思います。

 リナちゃんは本当に強いから。

 何より速いから。1羽も逃がさないと思います。

 レイナが珍しく断言し言い切った。


 いくら速いと言っても、相手は野生の動物だぞ。

 そう考えていた時だった。


 さて、兎さーん!!!

 そろそろ行くよー!

 リナが剣を高く突き上げ兎に声をかけた。


 兎たちはそれに気付き、一斉にリナに襲いかかった。


 危ない!そう声に出そうとした瞬間だった。


 リナは身を屈め、一気に駆け出した。

 バッ!!! 砂煙が舞う。


 速い!!! 俺とマザーが思わず声を出す。


 兎との距離を一瞬で詰め。

 一気に剣を降り下ろす。 


 おりゃ!峰打ちー!

 バコ! 鈍い音が響く。

 

 額を打たれた兎が、

 まずは1羽その場に倒れた。


 一撃!? あいつ化け物かよ!?

 

 その後直ぐに次のターゲットを確認。

 また走り出す。

 全身がしなる。まるでバネだ。

 その動きは力強く、自信に満ち溢れている。


 ヒュッ。

 また、一瞬で間合いを詰める。

 飛びかかる複数の兎を縫うようにかわし、回避不能な一撃を急所に叩き込んでいく。

 どでかい兎がつぎつぎと倒れこんでいく。


 何て速さだ…。しかも全部一撃じゃねーか。

 俺が話す横でマザーが呟く。


 正直、ここまでとは思いませんでした…。

 元々身体能力は抜群に高い方ですが、心具の使用でその能力が飛躍的に伸びています。

 それに対する体の負担も全く問題ないようです。

 複数の攻撃をかわしながら、確実に急所を撃ち抜いている。

 本当に恐ろしい資質の持ち主です。


 よし!ラスト!

 リナは高らかにジャンプした。

 

 たっけぇ…。

 あまりの高さに、リナの体が太陽と重なる。

 神々しささえも感じる。

 美しい光景だった。


 ドガッ!剣を最後の1羽の頭に剣を打ち付けた。


 どんなもんよ!

 リナが爽やかに言ってのける。


 10羽もいた巨大な兎は、たった1人の女の子により、1分も持たずに全滅したのだ。


 本当に速い。そして強い。

 リナちゃん凄いよ。

 レイナも驚きを隠せない。


 まあ、私にかかればこんなもんよ!

 リナは得意そうに笑った。


 本当に見事な剣捌きです。

 驚嘆しました。

 ですが…。 

 マザーが付け加える。


 依頼は兎を「生け捕り」にすることです。

 リナさん、よく見て下さい。

 みんな亡くなっています。


 周りを見渡す。

 確かに兎たちは実に安らかな顔で眠りについていた。

 

 えー!?なんで!?

 ちゃんと峰打ちしたのに!

 リナは不服そうに叫んだ。


 リナよ。ゴリラという動物を知ってるか?

 俺はリナに声をかける。


 知ってるけど。いきなりなに?

 リナが尋ねてくる。

 

 ゴリラってな。動物園ではのんびりしている印象だが、実はメチャクチャ強いんだ。

 あの巨体を支えて木を登る。その握力は500キロにも達すると言われている。

 人間なんて捕まったら一捻りなんだよ。


 そうなんだ。でもだからどうしたのさ?

 リナは段々不機嫌になってきたようだ。


 もし、そのゴリラが硬い金属の棒を使ってレイナの頭をぶん殴ったらどうなると思う?


 そんなのレイナ死んじゃうよ!

 そんなことは私がさせないけどね。


 そうだろ?だからだ。


 え?


 だから兎は死んだんだ。

 ゴリラに峰打ちとはいえ、硬い金属で殴られたんだ。 そりゃ死んじゃうって。

 

 ……。

 は? 

 あ!

 オッサンあんた私がゴリラだって言いたいの!?

 このやろう!叩き切ってやる!


 リナは剣を振り回し追いかけてくる。


 冗談だよ!危ないからしまってくれ!

 俺は必死に逃げまどった。 

 


 ○ 兎狩り レイナの場合


 えー、リナさん。

 マザーがじゃれあう俺達に声をかける。


 お疲れさまでした。

 とりあえず、今日のところはこの辺りで良しとさせていただきます。


 えー!?まだ私捕まえてないよ!!!

 まだまだいけるって!

 リナが不満そうに話す。


 まあ、あくまでも今日の所はです。

 また明日以降は頑張って貰いますから。

 次はレイナさんにお願いしたいのです。

 

 レイナがやるなら仕方ないか~。

 リナがしぶしぶ納得する。

 

 さて、レイナさん。


 は、はい!

 レイナはとても緊張した様子だ。


 そんなに緊張しないで下さい。

 次はレイナさんに捕獲をお願いします。

 リナさん同様、やり方は自由です。


 分かりました。頑張って…。みます。

 若干自信がなさそうにレイナは応えた。


 暫く歩くとまた10体程度の群れに出くわした。


 では、お願いします。


 マザーの言葉にレイナは一歩前に出る。


 が、頑張ります!

 レイナが杖を握り締める。

 兎の群れからは10~15メートル離れている。

 

 随分離れたままだな。


 ……。

 …………。

 レイナは何やら祈りを捧げているかのようだ。

 そしてレイナの周りが少しずつキラキラと光始める。

 綺麗な光景に思わず見とれる。

 


 凄いよ。レイナ光ってる。綺麗。

 リナが思わず感嘆の声をだす。 

 

 俺も同じことを感じていた。


 そう思っていた矢先。


 ファイアウォール!

 レイナが叫んだ。


 ゴオオオオ~~~~~!!!!!!

 巨大な火の壁が五枚。

 兎達の周りを取り囲んだ。


 おわっ!あっち!!

 あまりの火力に炎からかなり離れた俺達にも熱風が襲ってくる。


 なんて火力だよ!!!


 ゴオオオオ~~!!!

 炎の音の大きさに周りの音がほとんど聞こえない。

 

 囲め!!

 レイナが手を上げて叫ぶ。

 

 炎の壁がレナの指示により、徐々に兎との距離を縮めていく。

 兎たちは壁の隙間から逃げ出そうとするが、あまりの火力に近づくことができないようだ。


 普段は大人しいレイナだが、今は集中しているためか、普段よりずっと凛々しい顔立ちをしている。


 兎は逃げ場がなくどんどん中心に追い込まれていく。

 凄まじい炎の壁が、一本の火柱になろうとしたその時。

 

 レイナが突然慌てた様子で杖を振り回し始めた。  

 そして……。


 フッ……。

 炎が一瞬で消え去った。

 周囲一体は黒焦げに焼き付くされている。


 ぴょんぴょん!

 煙の中から兎たちが我先にと逃げ出して行く。


 あれ?なんで?

 レイナどうしたのさ!?

 リナは何が起こったのか分からないという様子だ。


 だってあのままじゃ……。

 レイナが困った様にこちらをみる。


 あのままじゃ。

 兎たちは焼け焦げて死んでたな。

 リナのときみたいに全滅だ。


 俺がレイナの視線に応えた。


 あの威力じゃ人間も即死だな。

 ひとたまりもない……。

 すげー威力だ。

 

 レイナさん。途中から火力を落とすことは出来なかったのですか?

 マザーが質問する。


 やろうとはしたんですが……。

 うまくいかなくて…。調節が難しいんです。


 ……。

 やっぱり水を使った攻撃にしておけばよかった。


 え?水って攻撃にも使えるの?

 治すだけじゃないの?

 俺は驚いて質問した。


 はい。おそらくですが。

 水を細かい刃状に生成して兎にぶつければ、大きな傷を付けないで捕まえられたかもしれないです。 系統の選択を間違えました。


 へぇ~~。そんなことも。器用なもんだな。

 俺が感心していたその時。


 ちょっと待ってください!

 マザーが突然大きな声をだす。


 びっくりした~~。

 いきなりなんだよ!? 俺は尋ねる。


 水も使える!?しかも攻撃「にも」!?

 「にも」ってなんですか!?

 まさか傷を癒す力があると!?

 そうなんですかレイナさん!!?


 は、は、はい!!!!!

 レイナが迫力に圧倒された様子で応える。


 嘘ですよね…。信じられない……。

 2つの属性に癒しの力まで…?

 マザーはあまりのことに困惑している様子だ。


 そんなに凄いことなのか?

 

 凄いもなにも……。

 帝クラスの人物でも複数属性の魔法が使えるなんて聞いたことがありません。

 属性は1人に1つ。

 ここステラでは常識です。

 それに加えて「癒し」の力があるなんて…。

 本当なんですか?

 ステラの長い歴史の中でも聞いたことがない。


 本当だよ。

 だって俺の手の怪我、レイナが治してくれたんだもん。俺は左手の手袋を外しマザーに見せる。

 大きな傷は残ったが、傷は塞がり痛みもない。

 

 ウェアウルフとの戦いの後に、治せるかもっていうから試して貰ったんだ。

 そしたら水の塊を出して、そこに手を入れたらみるみる傷が塞がったんだよ。

 

 びっくりしたよねー。でもホントだよ。

 リナも証言する。


 あの後そんなことが…。

 いやでも、レイナさんなら……。

 マザーは自問自答を繰り返しているようだ。


 しばらくして。

 分かりました。

 嘘を…。ついても意味がないですしね。

 とりあえず納得します。

 今度実際に見たいところですが…。

 レイナさん。今日はこの辺りにします。

 お疲れさまでした。


 ありがとうございました。

 また機会があったら頑張ります。

 レイナは深々とお辞儀をした。



 ○ 兎狩り 悠の場合


 さて、最後は悠さんですね。

 

 あー、やっぱりやるんだ。

 俺は気のない返事をする。


 当然です。不満ですか?

 マザーが落ち着いた様子で質問してくる。


 だって若い娘達にあんな凄いの見せられたらな。

 俺あんなカッコいいこと出来ないし。

 俺は口を尖らせ不機嫌アピールをする。


 悠さん。心具は心の形。

 2つとして同じ形、同じ力のものはありません。

 二人と同じことができないのは当然なんです。


 逆にあなたにできることは、二人にはできないことなんですよ。 

 あなたはあなたにできることをやる。

 その結果が、クランへの貢献に繋がるんです。


 そうそう!私みたいになろうなんて無理だって!

 とりあえず気楽にやりなよ!


 悠兄さんならきっと大丈夫です。

 頑張って下さい!


 二人に励まされ、少しだけヤル気がでた。

 仲間に励まされるなんて久しぶりの感覚だ。


 よし!やってみっかな!

 俺はぐるぐると腕を回し、二人の声援に応えることを決意した。


 では、行きましょう。

 マザーに促され、兎の群れの前にたつ。


 5メートルくらい離れたところに陣取った。

 

 行くぞ!一気に集中力を高める!

 はあ!手を伸ばし気合いを込めたその時。

 

 ドン!一羽の兎が10数メートル吹き飛んだ。


 え!?何が起きたの!?

 リナが驚いて声をあげている。


 自分でもはっきりとは断言できないが、俺は自分が吹き飛ばそうと思うものに手を向け集中すると、実際に相手を吹き飛ばすことが出来るようだ。


 近づいてくる兎達を次々と天高く吹き飛ばしていく。


 凄い!魔法みたい!

 リナが興奮しているのが分かる。


 しかし……。


 吹き飛ばした兎たちは、何事もなかったかの様に起き上がり、再び俺めがけて突進してきた。

 自分でもすぐに理解したが、この能力には致命的なほどに殺傷能力がない。 

 ただ、相手を近づけさせなかったり。

 相手が攻撃してきた時に、相手を吹き飛ばして攻撃させないという使い道しかないのだ。

  

 なんか地味な能力だな。まあ、俺らしいか。


 そう考えている時に、目の端でマザーと二人が集まって何やら話しているのが見えた。

 

 なんだよ。もう飽きたのか。

 まあ、つまんないよな。こんな力じゃ。


 その時だった。


 悠兄覚悟!

 リナがすごいスピードでこちらに向かってくる。

 

 いきなりなんだよ!思わず叫ぶが。

  

 ハアアアアア!リナが剣を降り下ろそうとした。


 クソっ!

 俺は思わずリナに手を向け吹き飛ばした。


 ありゃー!?

 リナは数メートル吹き飛び、見事に着地した。


 いきなりなにすんだよ!

 文句を言ったその時だった


 ファイアボール!

 レイナが巨大な火の玉を作り出し、こちらに向かって放っていた。


 またかよ!避けられそうにはない。

 クソ!火の玉に向かい手を向け、空に向かって吹き飛ばした。

 

 二人ともいきなりなんなんだよ!

 驚いて二人を問い詰める。


 悠さんお疲れさまでした。

 もう結構ですよ。マザーが声をかけてきた。


 いや、もういいって今のは何だよ!

 あの二人の攻撃なんて弾けなきゃ死んでたかも知れないんだぞ!

 俺は興奮し、思わず語気が強まっていた。


 申し訳ありません。二人には私がお願いして攻撃を加えて貰いました。

 あなたの能力がどれ程凄いのか確認をしたかったのです。


 だから何を言ってんだよ。分かるように説明してくれ!俺はなかなか興奮が収まらなかった。


 はい。説明します。

 まず、初めの兎たちの様子から、あなたの心具の能力は相手を触れずに吹き飛ばす、サイコキネシスの様な力だと分かりました。

 兎達をあれだけ吹き飛ばせるなら、人間が相手ならもっと威力がでるだろうと。


 ですからリナさんに攻撃を仕掛けて貰い、どの程度の攻撃までなら弾き飛ばせるかを確認しました。

 結果、リナさんクラスの力を持ってしても、あなたに攻撃を行うことはできないことが分かりました。


 私は全力でいったけど、悠兄に剣は届かなかったよ。悔しいけど、一対一なら私じゃ勝てないかもしれないね。

 リナが不満そうに話した。


 次に物理的な攻撃以外も防ぐのかを確認しました。レイナさんが魔法を放ちましたが、あなたは同じように魔法も弾き飛ばしました。

 これにより、物理と魔法どちらもあなたには直接的にダメージを与えられないことが分かりました。


 私もマザーに言われて全力で打ちました。

 今の私では悠兄さんに攻撃を当てることはできないようです。

 レイナは落ち着いた様子だ。


 それを見て俺も少しだけ落ち着いてきた。

 

 以上から、悠さんの心具はどちらかというと守備寄りですが、その有効範囲と耐久力は物凄いものであることが分かりました。

 範囲を広げれば、クランの仲間が誰一人傷つくことなく完勝できるほどの可能性を含んでいると思います。


 派手な威力はなくとも、あなたの能力はクランバトルにおいて絶大な効果を発揮するものです。

 ですから自信をもってその力を伸ばして下さい。


 マザーの言葉に俺は大きな安堵感と喜びを覚えた。

 ここに来てから、若い二人のために大人として何かしてあげられないかと考えてきた。

 しかし、才能溢れる二人に比べると自分は情けないほど凡人に思えた。

 実際に自分の能力は地味で、使いづらいものと感じていた。

 しかし俺にもできることがある。

 ずっと眩しく感じていた二人の力になれるんだ。

 ホントに嬉しい。絶対に二人の支えになろう。


 俺はこの時心にそう誓ったのだ。

  

 マザーごめん。ありがとう。


 いえ、いいんです。

 あなたにだってやれることはいくらでもある。

 あなたにはそれだけの資質も能力もある。

 それを理解して貰いたかったのです。


 あ、それとあなたの心具ですが、


 ああ、

 指輪だろ・でしょ・ですよね?


 三人が同時に答えた。


 皆さんもお気付きでしたか。

 流石としか言い様がないです。

 悠さんはあの時心具が発現しなかったのではなく、既に身に付けていたものが心具となった。

 珍しいことですが、力の源は間違いなくその指輪です。 

 悠さんはそれほど強い思い入れが、その指輪にあるということでしょう。

 

 結婚指輪が心具なんて素敵ですね。

 レイナが頬を染め嬉しそうにしている。 


 ホントにそうですね。

 奥さまが羨ましいです。

 マザーも同調した。


 さて、皆さん今日はこの位にしてクランハウスに戻りましょう。もう日も暮れます。


 気付けば時計は5時を回っていた。


 私お腹すいたー。早く帰ろうー。

 リナが話す。


 同感だ。今日は早く帰ってゆっくりしたい。

 そして今日感じたことを思い返し、明日からまた頑張ろう。俺は心の中で決めていた。


 では、山を降ります。

 ホントにお疲れさまでした。

  

 俺達のクラン活動初日はこうして幕を降ろした。



 本日のクラン活動成果 


 ・リナが撲殺した兎 18羽

 (帰る途中であった群れをリナが襲ったため)

 ・兎捕獲数 0

 ・クランハウスからの報酬 0

 ・マザーユニフォーム代 -2000ルクス

 ユニフォーム代は無料だが、刺繍は特別料金とし て結局請求された。

 ・総評

 恥ずかしい服をきた兎虐殺クランとして

 少しだけ有名になる。






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