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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
47/114

水の章 クランバトル編 二回戦 悠編Ⅲ

 ○ ピー太郎の秘密


 (悠)

 それで!?

 どんな話を聞けば、あの檻の中で暴れている猛獣が人間になるんだ!?


 おうおう!おっちゃんよ!

 分かるように説明して貰おうか!?



 俺は、グランファーマーズの面々(主に畑さん)の前にあぐらをかいて座り、腕組みをした。


 そんな俺を見て、人のいい畑さんは、申し訳なさそうに笑い、ゆっくりと話を始めた。



 (畑)

 いやさいやさ~。

 なんだかんだ言っても。

 やっぱり兄ちゃんはいい奴やね~。

 オラ達も嬉しくなってきたよ~。


 一回戦の相手も同じように抗議してさ~。

 けんど、こっちの話を全然聞いてくれんで…。

 説得に、かなりの時間さかかったから。


 ピー太郎怒っちまって…。

 だから、結局あんな大惨事に…。


 (悠)

 え?なに?大惨事?

 何が大惨事なの?


 (畑)

 …!?

 あ!?

 い、いや!

 なんでもねぇ!

 なんでもねぇさ!

 そろそろ3時やから!

 ピー太郎におやつ上げねぇとと思っただけさ!

 そうさ!おやつの時間やな~!

 3時やな~!思っただけさね!


 畑さんは手をバタバタと動かし。

 必死に誤魔化そうとしている。

 その仕草から、何かとてつもない事を言いそうになり。

 咄嗟に隠したのが見え見えであった。


 優しい彼でも嘘をつくのか…。

 俺は少しがっかりしたので。


 『そうだ。この際彼を困らせて見よう!』


 という悪癖とも言える、クレーマーモードに火をつけてしまった。


 

 (悠)

 …。へ~。

 そうか。おやつか。

 確かにおやつは大事だよな。


 ねえ、畑さん知ってた?

 小さな子供はさ。

 いっぺんには沢山食べられないから。

 昔は栄養不足に成りがちだったんだって。


 昔はさ。食べ物も少なかったし。

 戦争のせいで、貧乏な家も多かったから。

 きっと皆大変だったんだよ。


 お父さんやお母さん。

 更に言えば、じいちゃんばあちゃん世代は。

 きっと、色々と苦労したんだよね。

 

 そういう意味でさ。

 親孝行って大事だな~って思うよ。

 この年になってさ。

 やっとそう考えられる様になったんだ。


 う~ん、少し遅いのかな~?

 いやいや、そんな事はないよね?

 相手に敬意を払うのに、遅いなんて事はないよね?


 (畑)

 そ、そうだな~。

 うん。遅いなんて事はないんじゃね~?


 何時だって、気付いた時に。

 相手に感謝の気持ちさ、伝えたらええよ。

 オラも子っこさ居るから分かるな~。


 ハハァ~…。

 あ~あ。


 なあ、兄ちゃん…。

 ごめんさ。あんさん。

 何が言いて~んだ?


 (悠)

 いやいや、別に。

 世間話だよ。

 ちょっと色々と考えただけだよ。

 相手に敬意を払うのは、大事だな~ってさ。


 え~とね。なんの話だっけ?


 そうそう。おやつの話だったね。


 そんな物が少ない時代にさ。

 子供には、回数を分けて栄養を摂取させる必要があったんだ。


 さっきも話したけど、子供はいっぺんには食べれないからね。

 そうやって、取りきれない栄養を補填する目的で始まったのが、現在のおやつの起源と言われているんだ。


 実はおやつには、そんなに深い理由が存在したんだよ。びっくりだよね?


 おやつにそんな意味があるなんてさ。

 誰も教えてくれないんだもん。

 俺、始めて知ったときに感動したよ。


 感動ってさ。色んな時に起きるもんだよね。

 それこそ、絵に書いた様ないい人が、目の前に現れたりしたら感動するよ。


 仲間の為にさ。

 対戦相手を説得するなんて。

 素晴らしい友情だと思うんだ。

 

 きっと誠意に溢れた人なんだって。

 俺は思いたいな~。

 

 (畑)

 兄ちゃん。ごめんて。

 もう許してけろ。

 ホントに謝るからもう勘弁してけろ…。


 (悠)

 いやいや、何言ってるの!?

 ただの世間話だよ!?


 いや~。

 そういう意味でも、おやつってホントに大切だよね。

 食育の基本だよね。

 正に先人の知恵。

 

 まあ、あのバカでかい猛獣が、いっぺんに沢山食べられないなんてことはないだろうし!?

 俺の時計は、まだ昼前を指していたとして!? 

 3時のおやつの大切さには代わりはないよね!?


 いや~ホントに!

 畑さんは時間に律儀な人だな~!


 俺はありったけの嫌味を込めて、畑さんの方を見つめた。

 畑さんの顔から、絵にかいた様な冷や汗が流れている。

 畑さんの素直な性格が、こんな一面からも伝わってくる。


 俺のクレーマーモードが、ステラで始めて効果を発揮したようだ!

 日常で身に付けたスキルを、遂に発揮できたぜ!

 俺はそんな一瞬の歓喜の後。

 結局いい人を傷つけるだけの結果しか得られていない事に気付き。


 とてつもない空しさに包まれていた。


 このスキルは、基本的に自分より立場が弱い人にしか通用しない。

 謂わば弱者のスキルである。


 もう嫌だ。封印しよう。

 このスキル…。


 しかし…。畑さんも畑さんだ。

 この人はホントに。


 つくづく人を騙すのに向いていない。

 世の中、こんな素直な人ばかりだったら。

 きっともっと優しい世界になるんだろうな。


 …。

 ま、しゃあないか。


 (悠)

 ふぅ~…。


 俺は一度大きく息を吐いた。

 

 うん。

 まあ、いいよ。畑さん。

 俺も大人だ。

 一度聞くと言ったのだから。

 まずは話を聞きます。


 そして、もし納得できなかったら。

 その時は得意の猛抗議をさせて貰いますね。


 

 俺は呆れながらも、畑さんの話を聞く決心は既に固めていた。 


 そう始めから。

 素直なリアクションをする彼を。

 少し困らせたかっただけなのだ。


 そんな俺の様子を見て、畑さんは安心したのか、タオルで顔の汗をごしごし拭いている。

 

 ははは~…。と愛想笑いをする彼を見ながら。


 俺は

 『やっぱりこの人、○ールおじさんそっくりだな』と、再びどうでもいい事を考えていた。


 始めにおやつの話をしたのは向こうだからね。

 これについては仕方ないよね!


 (畑)

 いや~。なんか兄ちゃんには、何回も助けて貰ってる気がしてきたさ~。

 ホンに感謝せな。

 いや~、ありがとな~。

 感謝感謝。


 畑さんは汗を拭きながら頭を下げた。


 う~ん。やっぱりいい人だ。

 じゃなきゃ俺も話なんて聞かないよ。

 猛抗議の末、ボイコットコースだよな。

 そういう意味でも、人当たりって大切なんだな~。これは後学の為に覚えておこう。


      人当たり。これ大切。


 俺の頭の中は、どんどん違う方向に脱線を始めていた。

 これはマズイ。

 時間が掛かるだけで、話が全然進まないぞ。


 俺は自分の頭を切り替える意味も込めて、再度畑さんに話を促すことにした。

 

 (悠)  

 畑さん。もういいですから。

 頭を上げてください。

 それより、ピー太郎の話をしましょう。

 そっちの方が、僕にとっても重要な問題なんです。

 なんせこっちは、余命が掛かっている可能性さえありますから。



 俺は自分の状況を思い出し。

 話を聞こうとする。


 そうだった!

 俺は今まさに、命のやり取りをしているのだ!

 

 もし、彼の言葉に納得させられた場合。

 俺はあの化け物と戦うのだ。


 あの檻で、高らかに「俺を食う!」

 と宣言している化け物と!

  

 そうだったのだ!

 この論争には、正に俺の命が掛かっている!

 

 危ないところだった。

 話が脱線し過ぎて、一番の問題を忘れていた。


 俺は決意をあらたに。

 気を引き締めて、畑さんと向き合った。


 そんな俺の言葉を聞き。


 畑さんは顔を上げる…。


 (畑) 

 いや~。ホントにごめんな~。

 そう言ってくれると助かるべさ。

 ホントにありがとな~。


 畑さんは満面の笑みでこっちを見直した。

 ホントにいい表情をする。

 キャラクター性の高い表情に。

 思わず一瞬キュンとしてしまいそうだ。


 しかし…。

 今の俺には通じない。

 何故なら俺は。

 ホントに命の危機を感じているのだから。


 その重さを感じ取っている俺には。

 何がどうやったら、あんないい表情で御礼を言えるのか。

 正直さっぱり分からなかった。


 まさか!?

 こっちの!俺の命を!

 「ありがとな」

 の一言で受け止めたと言うのか!?


 彼の「ありがとな」の一言には、そんな高い守備力が込められているのか!?


 俺の中で、怒りにも似た感情に溢れ返ってきた。


 これはダメだ!絶対に受け入れられん!

 俺の命はそんなに軽くはない!


 俺はやはり、猛抗議をしようと決意した。


 扱いが難しく、封印した伝説のスキル。

      

     名 を 「クレーマーモード」


 その封印が遂に解かれようとしていた!


 よし!いったる!

 俺は再び伝説を体現しようとした。


 しかし、彼は俺の言葉で気持ちが切り替わったのか。

 再び話を始めてしまった。


 (畑)

 そうしたら、話を始めさせてもらうべよ。

 ピー太郎が何であんな熊みたいな風貌で。 

 どうしてあんなでっかくなっちまったのか…。

 そして、それに関わる。

 オラ達の村の話を…。


 畑さんは目を閉じ、ゆっくりと語り始めた。

 これから始まる話を、思い返している様だ。 


 (悠)

 え?村の話?

 ピー太郎じゃなくて?



 畑さんはこちらを見ながら、ニッコリと微笑んだ。

 その時の彼の表情が、若干寂しげに見え。

 俺は自分の怒りの矛先を失ってしまった。


 伝説のクレーマーモード。

 終了のお知らせである。

 

 どうしてかは分からない。

 けれど、その表情が。

 何故だか俺には。

 とても気にかかって見えたのだった。



 ○ピー太郎の秘密Ⅱ

 

 (畑)

 あれはオラ達が、まだ小さかった頃…。

 もう30年以上前の話になるんさ~。


 その頃は今よりもずっと~。

 ホントに色んな所に自然が溢れていて~。

 オラ達の村は、それこそホントに~。

 たいそう綺麗な森に囲まれてたんだ~。 


 その森に住む生き物達とも~。

 村全体でいい関係が築けていたんだと思うよ~。

 今ではそういう所も少なくなって~。 

 オラは何だか寂しい気がしてるけどね~。


 その頃で言ったら~。

 森の生き物達が、オラ達の畑を荒らすこともねぐ~。

 オラ達も森の自然を尊重して~。

 無理な開墾や狩りなんかはしていなかったんだ~。まあ、所謂。


 自然や動物との「住み分け」ってのが有った時代やったんかね~。


 オラ達もよく森に遊びにいってさ~。

 それこそ熊とかにあっちまた事もあったけど。

 結局誰も襲われんかったし。

 他の動物もなついてきて~。

 時々一緒に遊んだりもした位さ~。

 今思えばいい時代やったね~。



 畑さんは自分の昔を思い出し。

 しみじみと懐かしそうに。

 そして嬉しそうに話していた。

 その話ぶりからも、彼の村への暖かい愛着の様なものを、強く感じることができた。


 (グランファーマーズ)  

 あったな~!そうだ~!

 いや~!懐かしいな~!

 色んな動物とも遊んだやな~!

 

 確か、大人に入っちゃいけね~、と言われてた森の奥まで冒険してさ~!

 確かその時に、でけえ熊にも会ったよな~!

  

 あったあった~!懐かしいな~!

 熊に会ったときなんて~!  

 オラ達も怖くてガタガタ震えてたけど~!


 畑の奴が、泣きながら小便漏らしたっけ~!


 あっはっは~!せやせや~!

 皆ガタガタ震えたけど~!

 畑の小便見て笑い始めちまって~!

 なんか恐怖心も一気に吹っ飛んだっけな~!

 

 そうそう!

 皆畑を見て爆笑しちまって~!

 熊の前で大笑いしたんさ~!

 したら熊も驚いてな~!


 そのまま笑ってたら~! 

 気付いたら熊も居なくなってな~!  

 畑が泣き続けるから仕方なく村さ戻ってな~!

 したらおかあに、しこたま怒られて~!

 

 森の奥まで行ったらいかん~! 

 森の長に襲われっぞ~!ってな~。


 いや~!懐かしいな~!

 オラはあの頃さ戻りて~!

 楽しかったな~!

 

 グランファーマーズの面々は、昔を思い出し。

 何とも楽し気に話をしている。

 幼少期から一緒の彼らにとって。

 楽しい思い出も全て共有されているようだ。

 なんとも微笑ましい光景である。


 そして…。

 会話のどさくさの中。

 大観衆の前で幼少気の恥態を晒された畑さんは。


 「こら~!その話はしない約束じゃろて~!」


 と仲間に掴みかかっていった。


 皆、昔からの幼馴染みなんだ。 

 いいな。そういう付き合い。

 そういえば、俺にはいないな。  

 昔の事を思い出して笑える。


 そういう長い付き合いの仲間なんて…。


 俺はグランファーマーズのやり取りを、少し羨ましく感じながら眺めていた。


 グランファーマーズの面々の、一連のやりとりが終り。 

 畑さんが話に戻ってきた。



 (畑)   

 いや~。ごめんな兄ちゃん。

 せっかく聞いてくれてるのに。

 横から腐れ縁の奴らが、ちゃちゃを入れてくるもんでさ~。

 全く~。人が話してるのに冷やかして~。



 畑さんは息を整えながら話を戻そうとする。

 その時、再びグランファーマーズの面々が叫んだ。


 「何が冷やかしさ~!偉そうにして~!」

 「自分は冷えた小便たらしのくせして~!」


 この言葉に畑さんの表情は変わり。

 再び仲間の元に向かおうとした。 


 その瞬間。


 「ドッ!!アッハハハ~!」

 「冷えた小便たらしだって~!」


 と会場全体から笑いが起きた。


 会場からの思わぬ大爆笑により。

 畑さんは恥ずかしそうに身を縮める事しか出来なくなってしまった。


 なんて可哀想な人なんだ…。

 公衆の面前で若気のいたりを晒されるとは…。



 (悠) 

 は、畑さん。プッ…。

 だ、大丈夫ですか…? クスクス…。

 まあ、子供の頃の話ですし…。ププ…。

 あまり、気にしないで…。

 アッハハハ~!いやいや、冷えた小便て!



 俺は畑さんを励ますつもりであったが、後半はどうでも良くなり、普通に笑っていた。


 畑さんも諦めたのか、ただ顔を伏せて震えていた。彼は今日の夜も、今回の件を思い出し。

 震えて眠ることになるだろう。


 そう考えた俺は、思い出し笑いを繰り返し。

 同じく肩を震わせていた。



 (畑)

 だ~!じゃかあしゃい!

 余計な話はよかね!

 ワシの小便なんて今は関係なか!

 ワシがたらした話はお仕舞いじゃ!

 話ば戻すど!

 ええな!?


 畑さんがかつてない迫力で顔を近づけてきた。

 俺は突然の出来事に。


 「はい。終わりにします。」

 「話を再開しましょう」


 と、思わず優等生の様な返しをしてしまった。

 本当はその話をもっと掘り下げたかった…。

 そう思いながら、俺は再び冷えた小便を思い出し。肩を震わせた。



 (畑)

 もうよか!

 あんさんらが聞かんでも勝手に話すけぇな! 

 聞きたくないなら笑っとれ!


 畑さんは完全にお冠のようだ。

 ○ールおじさんが、ぷりぷりぷんぷんモードに入ってしまった。

 それはそれで愛らしい姿に見える。


 (畑) 

 それでな!

 自然と共存していたオラ達の村は、それこそホントに平和だったんよ!

 大きな事件もね~!

 動物やモンスターに襲われることもなかっだ!

 これには、ホントに大きな意味があったんさ!


 

 畑さんは無理矢理話を進め始めた。

 俺も流石に可哀想になり、話を聞きながら相槌を打ち始めた。


 (悠)

 なるほどなるほど。

 とても豊かな自然に溢れていたんですね。

 けれど、動物や。

 それこそモンスターにも襲われないのは何でなんですか?

 自然が多いなら、なんかモンスターとかも多そうなイメージですが…。


 (畑)

 んだ!兄ちゃんの言う通りだ!

 自然が多ければ、モンスターも多い!

 餌になる動物が多いんだから当然さね!


 (悠)

 じゃあ、どうして?

 畑さんの村は動物とモンスターと共存出来ていたんですか?


 俺は当然浮かんだ疑問を畑さんにぶつけた。

 すると、畑さんは一呼吸空け。

 表情を切り替え。

 真面目なトーンで話を始めた。


 (畑)

 そう。そこが今回の話で伝えたい部分なんさ。

 それがピー太郎の生い立ち。

 そして、オラ達がこの大会に参加した理由。


 言うてしまえば…。

 オラ達の村が今まさに直面している。

 全ての問題の根幹になるんよ。


 (悠)

 ピー太郎の事だけじゃなく。

 畑さん達の村全体の問題?

 さっきも言ってましたけど…。

 畑さんの村で、今何が起きてるって言うんですか?


 俺は畑さんの尋常ではない様子に、思わず話に聞き入っていた。

 やっと真面目に、話を聞き始めた俺に安心したのか。

 それとも話の懐かしさに染み入ったのか。

 畑さんは微笑みを浮かべながら、話を再開した。



 (畑)

 オラ達の村の問題は、追々絡んでくるよ~。

 …。 

 まあ、とにかく話を続けるさね。


 オラ達の村を、動物やモンスターが襲わなかった理由。

 それは、あるたった一匹の熊によってもたらされた恩恵だったんよ。


 (悠)

 熊?ここに来て熊が絡んでくるんですか?

 でも、たった一匹って…。

 いくら熊が強い動物でも…。

 流石に一匹で、モンスター達を追い払えるもんなんですか?


 俺は再び、当たり前の疑問を畑さんに投げ掛けた。畑さんも、その質問は当然とばかりに、こちらを見ている。

 そして、彼の話は続いた…。



 (畑)

 そうさ~。普通に考えたら無理に決まってる~。

 けんど、彼女にはそれが出来たんだ~。


 圧倒的な巨体と、人間をも凌ぐ高度な知性を身につけ。

 齢はゆうに300歳を越えると言われた。


 その広き森の長。


 その美しい、特種な蒼白い毛並みから。

 周囲の村々も含め。

 各地で森の精霊として崇められていた。


 正に、オラ達にとって炎の精霊と並ぶ、最も身近な信仰の対象。

 常に感謝し、大きな恩恵を与え続けてくれた偉大な存在。


 そう、その一匹の熊。

      彼女の名は「ハナコ」。


 森の偉大な主にして、そこにいるピー太郎の育ての親。


 オラ達や周囲の村を、その圧倒的な力で守り続け…。

 そして、皮肉にもその人間の手によって葬られたとされる。

 気高くも偉大な森の守護精霊。


 そして…。

 今のオラ達の村の惨劇や、ピー太郎の生い立ち。


 その全てに関わっている。

 謂わば、オラ達の村の大恩人さ。


 (悠)

 森の精霊?

 ピー太郎の育ての親?

 しかも、人間に葬られた?


 畑さん…。

 貴方は一体何の話を…。



 俺の疑問を遮るように、畑さんは手を突きだし、話を続けた。


 (畑)

 兄ちゃんの言いたいことは分かる。  

 聞きたいこともな。

 けんどな。その疑問も直ぐに解決するさ。


 オラがこれから話すことに、その答えがある。



 俺は畑さんの言葉に、黙って頷いた。

 彼がこれから話すことに、純粋に興味が湧いたからだ。


 ステラにおける信仰や、日常の成り立ち。


 そして、俺の対戦相手とされる。

 あの化けも…。


 …。

 いや、ピー太郎の秘密に。

 

 少しずつ引き込まれている自分がいる。


 俺はそう感じながら、少しだけワクワクしながら、彼の話に聞き入っていた…。

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