水の章 クランバトル編 二回戦 マリエ編Ⅶ
○ そこにある世界
(審判)
勝負あり!
勝者!
クラン ディープインパクト!
進藤 マリエ選手!
審判が高らかに、マリエさんの勝利を宣言した。
(マリエ)
ふ~。さて、と…。
お疲れさま。
いい子だったわね。
もう戻っていいわよ。
マリエさんは、審判の言葉を耳にした直後。
体から生える植物に、何かを呟いた。
すると、手と足から生えていた植物が、ゆっくりと体の中に回収されていった。
ズル…。ズルズル…。
植物達は相変わらずの、耳にさわる音をたてながら。
ゆっくりとマリエさんの体に収まっていく…。
そして…。
ズルズルズル…。
植物の回収が終わる…。
すると不思議な事に、負傷した肩と足の傷跡から、シューっと煙が上がり始めた。
煙は、しばらく傷跡から立ち昇った。
そして、煙が消えさると、彼女の体から、先程まであった。
鞭による傷跡が消え去っていた。
(マリエ)
よし。傷跡もないわね。
完璧。完璧。
マリエさんは、嬉しそうに肩の傷があった付近を眺めている。
どうやら、傷の回復も。
彼女の中では計算されていた様だ。
どんな方法を使っていたのか。
今の俺達には、見当も付かない。
そして、呆気に取られる俺達を気にも止めず。 マリエさんは、勝ち名乗りに応える様に。
手を振ってから、ゆっくりと会場に一礼をした。
(観客)
ざわざわ…。ざわざわ…。
さっきまで出てた、あの化け物は何なんだ?
あれは、やっぱりマリエ様が…?
マリエ様が作り出したものなのか?
マリエ様は、あんな化け物を体の中に飼っているのかよ…?
こ、怖いよな…。いくら美人でも…。
あんな恐ろしい物を見せられちゃあな…。
あれじゃあ、まるで…。
マリエ様が化けものみたいだ…。
マリエさんは、観客四方に一礼をする…。
しかし、会場はあまりの出来事に衝撃を受けたのだろうか。
暫くは騒然とした空気に包まれていた。
そして、中には。
マリエさんが人有らざる物であるかのように…。
人に対し、向けてはいけない言葉を…。
恐怖心を後ろ楯に。
平然と口に出すものもいた。
(リナ)
なによ!会場の連中は!?
マリ姉が、挨拶してるに無視しちゃって!
それに!
どさくさに紛れて、酷いことまでいいやがって!
さっきまで、あんなにマリ姉に夢中だったくせに!
ちょっと怖い姿見ただけで、もう手のひらを返すわけ!?
あんたら何なのよ!
ぶざけんじゃないわよ!
だっさ!本当にカッコ悪い!
自分の好きな姿以外は受け入れないっての!?
だから男って嫌いなのよね…。
リナはあまりの態度に、観客席に食って掛かった。
リナの言う通りだ。
どんな状況でも、人には言ってはいけない言葉がある。
観客の連中の態度は。
決して許されるべきものではない。
けれど…。
俺は…。
俺には、観客の人達の気持ちも、十分に理解できてしまっていた。
あれほどの。
あれだけの恐ろしい。
身のすくむ様な力を…。
目の前で見せ付けられたのだ。
俺自身も、彼女が本当に。
同じ力のレベルをもった。
同種の生き物なのか…。
疑問を持ってしまったのは事実だ…。
だから、俺には。
彼らを責める資格はないのかもしれない。
俺は何だか複雑な心境で、怒るリナを見つめていた。
そして…。
リナの怒りが収まり。
マリエさんが頭を挙げて。
会場は、静寂に包まれた。
暫く間。誰も何も発する事が出来ない。
皆、どうしていいな分からず。
誰かが口火を切ってくれと。
場を助ける誰かを待ち望んでいた。
その時。
我に返った実況のアナウンサーが、思い出した様に声をあげた。
(実況)
は!あれ?ああ!?
今は一体!?
私は何をして…?
そうだ!話を!
こういう時こそ!
私が話さないと!!
私はプロだ!
頑張れ私!
え~と…。
どうしようかな…。
あ~。す、すいません!!
恐れながら、ワタクシ…。
その…。あの…。ええ~と…。
ビビって?いやいや違うな…。
驚いて?いやいや、それも不味いな…。
じゃあ、魅入って?いいじゃないか!
うん、これだ!
これでいこう!よし、これでいく!
頑張れわたし!ファイトだ私!
そう!そうです!
ワタクシは、マリエ様のお姿に!
マリエ様の勝利に!
思わず魅入ってしまいました!
そうです!
勝ったのは我らがマリエ様!
途中に何だか色々ありましたが!
怖い思いもした気がしますが…。
とにかく!勝ちました!
皆さん!勝ったのはマリエ様です!
次も戦う姿が見れるんですよ!?
形なんて気にしません!
あの怖い植物も消えたんです!
それでいいじゃないですか!?
それが全てではないですか!?
この結果で十分!
そういう事にしましょう!
あんな不気味な植物なんて忘れた!
あ~、忘れた!ぜ~んぶ忘れました!
私は忘れましたよ!
皆さんにもきっとできます!
yes!we can !
この精神がとっても大事!
さあ、皆さんもご一緒に!
Yes we can !
皆さんにも出来ますよ~!
(観客)
ざわざわ…。
なんだって?あいつ何いってんだよ…。
yes?何だって?
yes?ウィーキャン?
(実況)
声が小さ~~い!!
皆さん!!
気持ちを切り替えますよ!!
勝ったのはマリエ様!
それで十分だと理解するのです!
yes!ウィーキャン!
yes!ウィーキャン!
はい!ご一緒に!
yes!ウィーキャン!
yes!ウィーキャン!
(観客)
ざわざわ…。あいつ一体何なんだよ…。
いいや、お前付き合ってやれよ…。
yes…。ウィーキャン…。
俺もやるんだからお前もやれよ。
yes。ウィーキャン。
分かったよ。やりゃあ、いいんだろ。
yes。ウィーキャン。
yes。ウィーキャン。
あれ?何これ?なんか楽しくね?
yes!ウィーキャン!
yes!!ウィーキャン!!
yes!!!ウィーキャン!!!
(実況)
皆さん!いい感じですよ~!
我々は少しでも長く、マリエ様が見れればいいのです!確か始めはそうだったはず!
そう!物事はシンプルに考えた方がいい!
今日の怖い思いは忘れましょう!
イエス!ウィーキャン!
イエス!ウィーキャン!
(観客)
イエス!ウィーキャン!
イエス!ウィーキャン!
イエス!ウィーキャン!
ウオ~!なんか楽しくなってきたぞ~!
イエス♪ ウィーキャン♪
イエス♪ ウィーキャン♪
イエス♪ ウィーキャン♪
そうりゃ!
マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!
マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!
実況の開き直りにより、観客を含めた男性陣は息を吹き替えした様だ。
状況が始めていい仕事をしてくれた。
そして。
流石は別世界と言えども、純粋な男子達だ!
この辺の、マリエさんへの…。
そう!それこそ、己の欲望に対してのバカさ加減が、つくづく愛らしい!
分かる!分かるぞ!
俺も同じだ!
男のロマン(エロ)は、人種や年齢。
そして世界をも越えて分かち合える!
そんな数少ない文化だと、俺は思うぞ!
いつか、世界を。
男のロマン(エロ)が救う。
そんな日が来るかもしれない。
俺は会場の美しい光景に、そんな妄想を抱かずにはいられなかった。
マリエさんは、再び観客に手を振って応えている。俺の推測が正しければ、今の彼女は、踊り手としての「プロ」ということになるだろう。
(観客)
マ・リ・エ! マ・リ・エ!
マ・リ・エ! マ・リ・エ!
マリエさま~!今回も素敵でした~!
次も長めに!なが~く戦って下さい!
私はビビってませんよ!
始めからマリエ様の味方でした~!
マリエさんと観客の関係は、これにて簡単に修復された。
実況の言う通り。
世の中は、これくらいシンプルでいい。
エロは偉大である。
今回はそれでいいじゃない。
皆色々あったけどさ。
その方がずっと分かりやすいよね。
マリエさんが、再び手を振り。
会場へ挨拶をした。
そして、笑顔で俺達の所に戻って来てくれた。
(リナ)
マリ姉お疲れさま!
宣言した通り、凄い戦いだったね!
相手を上げるだけ上げて突き落とす!
マリ姉らしい、いやらしい戦い方だね!
それに、あの植物!
一体どうやって出したのか…。
後で詳しく教えてよね!
リナはマリエさんを一番に出迎えた。
リナはマリエさんの植物が怖かった事については、全く気にしていないようだ。
いやらしい。マリエさんらしい戦い方だと。
言いにくい事もズバズバ言っている。
これもまた、リナ「らしい」出迎え方と言えるのかもしれない。
(マリエ)
あら。リナちゃんありがとう。
試合前に、凄いところを見せるとか言っちゃったから。
少しドキドキする展開にしてみたの。
ちょっとは、焦ったり。
楽しんだりしてくれたかしら?
マリエさんは、リナが差し出した手をパシンと叩き、楽しそうに応援席に降りてきた。
彼女の話から察するに…。
やはり、鵜骨さんの攻撃は、故意に受けた様だ。
自分の新しい技術を習得するために。
彼女はこの試合を使って、壮大な実験を行っていたのだ。
やはり、どんな試合も無駄にはしない。
そんな彼女の高い意識を。
再び感じさせられる試合となった。
そして…。
今回の実験結果についても。
彼女はそれなりに満足している様である。
(悠)
マリエさん。お疲れさまでした。
試合を通して…。
何だか色々と学ばせて貰った気がします。
俺もこの大会で、自分に出来ることを見つけるために…。
次の試合には、いつも以上に課題を持って挑もうと思います。
俺は、マリエさんを真っ直ぐに見つめた。
彼女の試合に挑む姿勢。
自分の力の見極め方。
常に課題を持って取り組む心意気。
その全てが。
一試合毎に、彼女の可能性を着実に広げている。
俺はそう感じずにはいられなかった。
こういった小さな意識の違いは。
いつか取り返しのつかない。
とてつもなく大きな差に繋がっていく。
俺はこれまでの人生を通して、少なくとも何度か、そんな経験をしてきたんだ。
客観的に。多角的に。
如何にして、自分の課題と向き合うことが出来るか。
いくら同じトレーニングを続けていても、この意識の違いが。
あっという間に、相手と自分の距離を引き離していく。
一日は短いようで長く。
1年は長いようで短い。
その小さな積み重ねは。
一日で思った以上の差を産み出し。
1年もあれば、あっという間に。
相手を手の届かない存在に昇華させていく。
それは、人が自分の欠点に向き合うことを。
そこをじっくりと見つめる事を。
強く怖れる傾向にあるからだ。
誰だって、自分の苦手な事より。
得意な事をやりたがる。
そんなの当たり前だと思う。
もちろん俺だってそうやって生きてきた。
しかし。そんな中でも。
自分に欠けているもの。
不足しているもの。
それらに正面からぶつかる勇気。
言葉にするのは簡単だ。
そして、きっと誰もが、気が付いてはいる。
しかし、実際に行動すること。
これが非常に難しい。
人間なんてもんは、やらなきゃいけないと言われれば、やりたくなくなる生き物だ。
そして、大抵の人間は。
やらなくてもいい理由を探す手段だけは。
プロ並みに発達させている。
人間は、やらない言い訳に関しては。
全員がプロなんだよ。
自分が楽をするためには。
決して手を抜かないんだ。
しかし、彼女は。
マリエさんは違った。
少なくとも、今回の戦いで俺はそう感じたんだ。
人が避けたがる。
目を背けたくなるような。
自分の課題や欠点に。
彼女は、常に向き合い。
克服する努力を続けている。
その積み重ねが。
きっと自身に満ちた。
彼女の普段の言動に繋がっている。
彼女には自負があるのだ。
自分は「やっている」と。
人が目を向けない。
自分の問題に。
きちんと向き合っていると。
年を取るにつれて、頭は固くなり。
行動への壁は高くなる。
そんな中でも、彼女は自分を高める努力を惜しまない。
彼女のそういう気丈な姿勢に、俺はいつも尊敬の念を感じるのだろう…。
それは、俺にはない。
これまでの俺には出来なかった。
言うなれば、自分が理想とする人間の姿なのかもしれない。
(マリエ)
あらあら。
何だか随分と真面目に迎えられちゃったわね。
でも、私の戦いに「何か」を感じてくれたのなら…。
私もわざわざ、怪我をしながら戦った意味があったのかもしれないわね。
マリエさんは、そう言って手を差し出した。
俺はニヤリと笑い、手を重ねた。
パァン!
マリエさんと笑顔でハイタッチを交わす。
彼女の戦いに恥じぬよう。
俺も次の試合で、「何か」を掴んでみせる!
俺は決意も新たに、次の試合へ気合いを入れ直した。
(実況)
おお~っと!?
ここで戦いを終えた、鵜骨選手が担架で運ばれていきます!
我々が見るには、少し残酷すぎる姿では~…。
…。
あれ?あれはどういうことだ?
なんと担架に乗っている鵜骨選手!
体には大した怪我が見受けられません!
それどころか!
何だかその表情は…。
穏やかで…。安心して眠っている様だ~!
私たちには、マリエ様が出力した植物により!
ズタボロに?メチャメチャに?グチャグチャに?
とにかく!傷だらけにされた様に見えました!
しかし!
当の本人は至って普通の。
ただ疲れて眠っているような!
とにかく!
マリエ様は私たちの期待を裏切らず!
相手を傷付けずに勝利していたようです!
流石はマリエ様!
やはり、我々の天使は慈悲深かった~!
(観客)
ウォー!
やっぱりですか~!信じてました~!
愛しています~!
マリエ様が、無抵抗な相手をボコボコにするはずありません!
やっぱり貴女は我々の天使です!
よ~し!皆行くぞ~!
そうりゃ!
マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!
マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!
観客達も、鵜骨さんの様子を確認し、心底安心した様だ。
マリエさんへの大声援が再び巻き起こる。
マリエさんは、再び闘技場に上がり。
観客に対して、深く一礼をした。
それに対し、再び歓声があがる。
彼女は完全に、観客を味方につけたようだ。
そして再び、応援席に戻ってくる。
(リナ)
ちょっとちょっと!
マリ姉どうなってんの!?
私てっきり、あの人はマリ姉の植物の栄養になったんだと思ったわよ!
マリ姉の養分として…。
シワシワになって…。
その生涯を終えたんだと思ってたわよ!
それに…。
マリ姉がダメージを受けた傷も塞がってるし。
一体あの植物は、何だったの?
何処から来て、何処に行ったのよ?
リナはマリさんの手と足に目をやり、不思議そうに首を傾げている。
そしてそれは、俺も聞いてみたい質問の一つであった。
(悠)
マリエさん。
実は俺も、それは聞いてみたかったんだ。
あの植物は、一体どうやって出力して。
そして、植物を回収した後、何で傷が治ったのか。鵜骨さんの様子も含めて、出来る範囲で教えてくれないかな?
俺はマリエさんの方を見る。
マリエさんは、扇でパタパタと自分を扇いでいる。
(マリエ)
う~ん…。
そうねぇ~。
マリエさんは、自分を扇ぎながら、横を向いて何かを考えている。
クランの仲間と言えども、自分の力の秘密を人に話すことに抵抗があるのだろうか?
パシン!
マリエさんが扇を閉じる。
(マリエ)
うん!次の試合まで時間がないけど…。
出来る限り手短に話すわね!
実はあれはね…。
・・・・闘技場主賓席にて・・・・
(エリアス)
体内の魔力ね~。
確かに。人間の体にも、魔力は流れてる。
そうだよね~。
使えると考えたことはないが…。
原理で言えば、可能かもしれんな。
…。
くそ~!なんてことだ!
あの女め!
何食わぬ顔でそんな技術を!
まさか体内の魔力まで使ってくるとは!
結局、あの性悪!
今回も尻尾を出さずじまいではないか~!
エリアスは、主賓席から身を乗り出し、ディープインパクトの面々を見る。
拳は強く握り締められ、体はワナワナと震わせている。
表情にも悔しさが滲み出ていた…。
(アイシス)
ふぅ~。
流石にあそこまで見事に出所を隠されると。
なかなかこっちも探りようがないわね。
しかも、今回に到っては…。
彼女は、得意な風の属性の技さえも使っていない。体内での魔力生成は確認しようもないし…。
やはり、完全に私たちを意識した戦い…。
自身の本質。奥の手は絶対に晒さないつもりね。
結局彼女は、見事に手の内を隠しきって、この2試合を終えて見せたのよね。
彼女にしてみたら、正にしてやったりでしょう。
このクランは…。
皆が皆、実践経験に欠けると聞いていたけど…。
本当に天晴れだわ。
彼女は我々の目さえも、何の小細工もなく、見事に欺いて見せた。
魔力を練る方法も、出力に至る手順も。
体内でやられてしまえば、確認のしょうがない。
あれほどの力の使い手。
ステラ広しと言えども、そう出会えるものではないでしょうね。
彼女もまた、力の使い方に関しては天才の域にあるのかもしれないわ。
ホントに…。このクランは…。
面白い人材の集まりね。
アイシスは、椅子に深くもたれ掛かる様に座り、溜め息をついている。
マリエの魔力精製の過程を、エリアスと共に探ろうと躍起になっていたのだ。
それが叶わず、落胆の色が濃いようだ。
(エリアス)
確かに魔力は、体内にも流れているとは言われている。
だが、それのみを用いて魔法を出力するなど、私は聞いたこともないぞ。
そして、不思議なことに。
あの植物が食らい付いた相手には、なんの怪我も無かった。
そして、逆にあの女の怪我は治っていた…。
私はこの事実についても、はっきりとは理解できずにいる。
アイシスよ。
お主は何か上手く見立てがついておるのか?
エリアスは、アイシスの方を見て尋ねる。
マリエの今回の戦いは、百戦錬磨のエリアスをして、全てを理解するのは困難であったようだ。
(アイシス)
エリーちゃんを、そのレベルで惑わせること自体。そもそも、駆け出しのクランとして、あるまじき実力の持ち主たる証拠よね?
まあ、私もはっきりは分からないけど…。
彼女が、あの植物に食らわせたも…。
それは、恐らく「魔力」だったんじゃないかしら?
(エリアス)
魔力? なるほど、魔力か…。
それならば、相手に傷がなかったことにも説明がつく。
体に絡み付き、魔力の流れを察知し、そこから魔力のみを吸いだした…。
不気味な植物が、魔力の流れに根をはる。
そして、根から魔力を吸い上げ。
それをあやつは体内に取り込んだ訳だな。
魔力を吸い付くされた相手は、疲労困憊となり倒れる。
それにより、勝負は決したのか。
しかし…。
あやつは自身の傷も治して見せたな。
これは…。
魔力と一緒に、相手の生命エネルギーも少しばかり頂戴したと言うことか?
(アイシス)
恐らくは…。
エリーちゃんの想像通りでしょうね。
植物の本来の餌は、出力に要する魔力のエネルギー。
しかし、彼女はそれに加え、自身の傷を治す程度の、生命エネルギーも、ちゃっかり頂いた。
多分だけど…。
魔力を吸い付くす役割を、肩の傷から出力した植物に。
生命力を頂戴する役割を、足から出力した植物に役割を分けていた。
同時に2つの指示を、自身の体内の魔力という、微力なエネルギーで動いている魔法態に込めていた。
もし、普段からトレーニングを繰り返していたとしても…。
かなりの練度を要する技術に違いない。
そして…。
もし、この戦いの中で偶然に思い付き。
簡単に実行して見せたのだとすると…。
彼女は、本当に私達の世界まで。
私やあなたの様な、選ばれし者が見る世界まで。
いつの日か、たどり着くのかもしれない。
少なくとも、その位の可能性を。
彼女は今の戦いで、示していたわ。
アイシスは、そう話ながら、嬉しそうに笑っていた。エリアスは、それに気付き、アイシスがディープインパクトを気に入り。
以後の戦いをどう組み合わせていくべきか、考え始めている事を理解した。
(エリアス)
随分と嬉しそうだな。
まあ、思わぬ拾い物だ。
その拾い物に、思ったよりも価値があったのだから当然かもな。
(アイシス)
ええ。その通りよ。
彼らはホントに面白い。
彼らを上手く「餌」にしていけば。
もしかしたら、この大会中に会えるかもしれない。
そう考えると、嬉しくてたまらないわ。
エリーちゃんもそうなんでしょ?
アイシスは、エリアスの隣に立ち、顔を覗き込む。
(エリアス)
この大会の実行を決めた時から…。
最早綺麗事を吐くつもりはないさ…。
アイシス、次は準備しておいてよいな?
エリアスは、真っ直ぐ。
ディープインパクトの面々を見つめながら、アイシスに問う。
(アイシス)
そうね。イメージしてたより、少し早いけど…。 「善は急げ」とも言うしね。
いいんじゃないかしら?
彼らならきっと…。
アイシスは、椅子に向かう。
その足取りは軽く。
まるで躍りのステップをふんでいるかの様だ。
(エリアス)
どこまでやってくれるのか…。
私も楽しみだよ。
だから、こんな所で負けるなよ。
さっさと勝ち上がってこい!
ディープインパクト!
・・・・舞台は闘技場に戻る・・・・
(悠)
なるほど。
つまり、マリエさんは、自分の体の中を流れる魔力を感じとり。
自身がイメージした、植物として出力してみた。
そしたら、あの怖いのが出せたので、自身の魔力を餌にして指示に従わせた…。
そういうことですね?
(マリエ)
簡単にまとめるとそういうことね。
私は以前から、風や植物の属性を使用するときに、自分の魔力の流れが頭にイメージとして浮き出て来ていたの。
それで、これを上手く利用してやれないかと考えた。
その結果が、今日の試合で出力したあの子達。ということ。
あの子達は、私に流れる魔力をイメージして形にしたもの。
言ってしまえば、私の魔力が具現化した姿ね。
(リナ)
マリ姉の自分の魔力のイメージってあんな怖いものなの!?
マリ姉みたいな美人なら、もっと綺麗な花とかをイメージすればいいのに。
似合わないよ。
あんなズルズル這い出る気持ち悪い植物なんて。
(悠)
確かに…。マリエさんなら、もっと相応しい植物がありそうなもんだ。
何でよりによって、あんなズルズルネバネバをイメージしちまうんですか?
もっと可憐な花にして下さいよ。
正直、あんなの傷口から出てきたら、マジで怖いんですよ。
(マリエ)
そう言って貰えるのは嬉しいけれど…。
魔法はあくまで「魔」の力なのよ。
決して清らかなものではなく、私の中では、あくまでも「魔」の法。
可憐で綺麗な植物を出力しても、所詮は人間に含まれる「魔」の力。
表面を取り繕う事に、私は意味を感じないのよ。
例え周りから恐れられようと…。
私に宿る「魔」の力は、おぞましく、不気味なものであることに変わりはないわ。
だから私は、あの子達を外に出すのに躊躇いはないし。
私の力の現れとして、当然の姿だと思った。
実際に出力したのは始めてだから。
まあ、少しは驚いたけどね。
それに…。
まだ、傷などの外傷がないと、外には出してあげられないから、そこを改善するのが今後の課題ね。
マリエさんは、扇で自分を扇ぎながら飄々と話している。
あれほど凄いことをやり遂げても。
彼女は現在の自分の課題を、明確に受け止めている。
自分を更に高めようと。
常に試行錯誤しているようだ。
本当にこの人は…。
どこまで上を見ているのか。
どこまで自分を高めようというのか。
どこまでの資質を。自分に感じているのか。
…。
考えただけで、俺は身震いが止まらなくなった。
これは、マリエさんへの賞賛の震えだろうか。
それとも…。
俺は自分も。
彼女と同じように。
同じ世界を見てみたいと。
強く感じ始めていた。
(マリエ)
まあ、私が今言えるのはこれくらいかしら。
私自身。まだ、体内の魔力について…。
全てを理解している訳ではないの。
今回の戦いで、少しだけ感覚は掴めたけれど…。
ただ…。
ただ、可能性は感じているわ。
私にしか出来ない何かが。
この戦い方にはあるかもしれない。
そんな可能性が…。
私の体内には流れているかもしれない。
そうね…。言うなれば。
可能性は無限大。
大嫌いな言葉だけれど。
私にしか見えない。
私だけの力。
もしかしたら、そんないい相方が。
私の中には流れている…。
まあ、私が言えるのは、そんな所なのかしらね。
パシン。
話を終えると、マリエさんは扇を閉じた。
そして、俺の方をゆっくりと見つめる…。
(マリエ)
さあ、次はいよいよ。
我らがキャプテンの出番ね。
私の話に聞き惚れていたけれど…。
貴方の準備は大丈夫かしら?
マリエさんは、そう話すとにっこりと笑った。
自分の戦いを見て、俺が何を感じ取ったのか…。
彼女はまるで、それが手に取るように分かっているかのようだ。
本当に凄いな。この人は…。
けど…。
(悠)
スウ~~~。
ハア~~~。
俺は1度。大きく息をついた。
そして気合いを入れ直し、こう告げる。
(悠)
当たり前じゃないですか。
準備万端ですよ。
今度はウチのクランのキャプテンが。
どれくらい凄い奴なのかを。
会場に。そして皆に。
見せつけてみせますよ!
俺は自分の中で、何かが燃え上がっているかの様な感覚を覚えていた…。
この凄い人達に。
少しでも近づいてみたい。
俺にも何か出来るのだと。
そんな世界が、今。
手の届く所にあるのかもしれない。
そう感じて俺は。
興奮を押さえられずにいた。
そしていよいよ。
ディープインパクトの勝ち抜きをかけた。
俺の2回戦が、幕を開ける…。