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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
44/114

水の章 クランバトル編 二回戦 マリエ編Ⅶ

 ○ そこにある世界


 (審判)

 勝負あり!

 勝者!

 クラン ディープインパクト!

 進藤 マリエ選手!



 審判が高らかに、マリエさんの勝利を宣言した。


 (マリエ)

 ふ~。さて、と…。

 お疲れさま。

 いい子だったわね。

 もう戻っていいわよ。


 

 マリエさんは、審判の言葉を耳にした直後。

 体から生える植物に、何かを呟いた。

 すると、手と足から生えていた植物が、ゆっくりと体の中に回収されていった。


 ズル…。ズルズル…。


 植物達は相変わらずの、耳にさわる音をたてながら。

 ゆっくりとマリエさんの体に収まっていく…。


 そして…。

 ズルズルズル…。

 植物の回収が終わる…。


 すると不思議な事に、負傷した肩と足の傷跡から、シューっと煙が上がり始めた。

 煙は、しばらく傷跡から立ち昇った。

 そして、煙が消えさると、彼女の体から、先程まであった。

 鞭による傷跡が消え去っていた。


 

 (マリエ)

 よし。傷跡もないわね。 

 完璧。完璧。



 マリエさんは、嬉しそうに肩の傷があった付近を眺めている。

 どうやら、傷の回復も。

 彼女の中では計算されていた様だ。

 どんな方法を使っていたのか。

 今の俺達には、見当も付かない。


 そして、呆気に取られる俺達を気にも止めず。  マリエさんは、勝ち名乗りに応える様に。

 手を振ってから、ゆっくりと会場に一礼をした。


 (観客)

 ざわざわ…。ざわざわ…。 

 さっきまで出てた、あの化け物は何なんだ?

 あれは、やっぱりマリエ様が…?

 マリエ様が作り出したものなのか?

 マリエ様は、あんな化け物を体の中に飼っているのかよ…?

 こ、怖いよな…。いくら美人でも…。

 あんな恐ろしい物を見せられちゃあな…。


 あれじゃあ、まるで…。


    マリエ様が化けものみたいだ…。


 

 マリエさんは、観客四方に一礼をする…。 

 しかし、会場はあまりの出来事に衝撃を受けたのだろうか。

 暫くは騒然とした空気に包まれていた。


 そして、中には。

 マリエさんが人有らざる物であるかのように…。

 人に対し、向けてはいけない言葉を…。  

 恐怖心を後ろ楯に。

 平然と口に出すものもいた。

  


 (リナ)

 なによ!会場の連中は!?

 マリ姉が、挨拶してるに無視しちゃって!

 それに!

 どさくさに紛れて、酷いことまでいいやがって!

 さっきまで、あんなにマリ姉に夢中だったくせに!

 ちょっと怖い姿見ただけで、もう手のひらを返すわけ!?


 あんたら何なのよ!

 ぶざけんじゃないわよ!

 だっさ!本当にカッコ悪い!

 自分の好きな姿以外は受け入れないっての!?

 だから男って嫌いなのよね…。


 

 リナはあまりの態度に、観客席に食って掛かった。

 リナの言う通りだ。

 どんな状況でも、人には言ってはいけない言葉がある。 

 観客の連中の態度は。

 決して許されるべきものではない。


 けれど…。

 俺は…。

 俺には、観客の人達の気持ちも、十分に理解できてしまっていた。


 あれほどの。

 あれだけの恐ろしい。

 身のすくむ様な力を…。

 目の前で見せ付けられたのだ。


 俺自身も、彼女が本当に。

 同じ力のレベルをもった。

 同種の生き物なのか…。

 疑問を持ってしまったのは事実だ…。


 だから、俺には。

 彼らを責める資格はないのかもしれない。


 俺は何だか複雑な心境で、怒るリナを見つめていた。

 

 そして…。


 リナの怒りが収まり。

 マリエさんが頭を挙げて。


 会場は、静寂に包まれた。


 暫く間。誰も何も発する事が出来ない。

 皆、どうしていいな分からず。

 誰かが口火を切ってくれと。

 場を助ける誰かを待ち望んでいた。


 その時。

 我に返った実況のアナウンサーが、思い出した様に声をあげた。


 

 (実況)

 は!あれ?ああ!?

 今は一体!?

 私は何をして…?


 そうだ!話を!

 こういう時こそ!

 私が話さないと!!

 私はプロだ!

 頑張れ私!


 え~と…。

 どうしようかな…。

  

 あ~。す、すいません!!

 恐れながら、ワタクシ…。

 その…。あの…。ええ~と…。


 ビビって?いやいや違うな…。

 驚いて?いやいや、それも不味いな…。

 じゃあ、魅入って?いいじゃないか!

 うん、これだ!

 これでいこう!よし、これでいく!

 頑張れわたし!ファイトだ私!


 そう!そうです!

 ワタクシは、マリエ様のお姿に!

 マリエ様の勝利に!

 思わず魅入ってしまいました!

 

 そうです!

 勝ったのは我らがマリエ様!

 途中に何だか色々ありましたが!

 怖い思いもした気がしますが…。

 とにかく!勝ちました!

 皆さん!勝ったのはマリエ様です!


 次も戦う姿が見れるんですよ!?

 形なんて気にしません!

 あの怖い植物も消えたんです!

 それでいいじゃないですか!?

 それが全てではないですか!?


 この結果で十分!

 そういう事にしましょう!

 あんな不気味な植物なんて忘れた!

 あ~、忘れた!ぜ~んぶ忘れました!

 私は忘れましたよ!

 皆さんにもきっとできます!


 yes!we can !

 この精神がとっても大事!


 さあ、皆さんもご一緒に!


  Yes we can ! 

 皆さんにも出来ますよ~!


 (観客)

 ざわざわ…。

 なんだって?あいつ何いってんだよ…。

 yes?何だって?

 yes?ウィーキャン?


 (実況)

 声が小さ~~い!!

 皆さん!!

 気持ちを切り替えますよ!!

 勝ったのはマリエ様!

 それで十分だと理解するのです!


 yes!ウィーキャン!

 yes!ウィーキャン!

 はい!ご一緒に!

 yes!ウィーキャン!

 yes!ウィーキャン!


 (観客)

 ざわざわ…。あいつ一体何なんだよ…。

 いいや、お前付き合ってやれよ…。

 yes…。ウィーキャン…。


 俺もやるんだからお前もやれよ。


 yes。ウィーキャン。


 分かったよ。やりゃあ、いいんだろ。


 yes。ウィーキャン。

 yes。ウィーキャン。


 あれ?何これ?なんか楽しくね?


 yes!ウィーキャン!

 yes!!ウィーキャン!!

 yes!!!ウィーキャン!!!


 (実況)

 皆さん!いい感じですよ~!

 我々は少しでも長く、マリエ様が見れればいいのです!確か始めはそうだったはず!

 そう!物事はシンプルに考えた方がいい!

 今日の怖い思いは忘れましょう!


 イエス!ウィーキャン!

 イエス!ウィーキャン!


 (観客)

 イエス!ウィーキャン!

 イエス!ウィーキャン!

 イエス!ウィーキャン!

 

 ウオ~!なんか楽しくなってきたぞ~!


 イエス♪ ウィーキャン♪

 イエス♪ ウィーキャン♪

 イエス♪ ウィーキャン♪


 そうりゃ!

 マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!

 マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!


 実況の開き直りにより、観客を含めた男性陣は息を吹き替えした様だ。

 状況が始めていい仕事をしてくれた。


 そして。

 流石は別世界と言えども、純粋な男子達だ!

 この辺の、マリエさんへの…。


 そう!それこそ、己の欲望(エロ)に対してのバカさ加減が、つくづく愛らしい!


 分かる!分かるぞ!

 俺も同じだ!

 男のロマン(エロ)は、人種や年齢。

 そして世界をも越えて分かち合える!

 そんな数少ない文化だと、俺は思うぞ!


 いつか、世界を。

 男のロマン(エロ)が救う。

 そんな日が来るかもしれない。

 俺は会場の美しい光景に、そんな妄想を抱かずにはいられなかった。


 マリエさんは、再び観客に手を振って応えている。俺の推測が正しければ、今の彼女は、踊り手としての「プロ」ということになるだろう。


 (観客)

 マ・リ・エ! マ・リ・エ! 

 マ・リ・エ! マ・リ・エ!

 マリエさま~!今回も素敵でした~!

 次も長めに!なが~く戦って下さい!

 私はビビってませんよ!

 始めからマリエ様の味方でした~!



 マリエさんと観客の関係は、これにて簡単に修復された。

 実況の言う通り。

 世の中は、これくらいシンプルでいい。


 エロは偉大である。


 今回はそれでいいじゃない。 

 皆色々あったけどさ。

 その方がずっと分かりやすいよね。


 マリエさんが、再び手を振り。

 会場へ挨拶をした。

 そして、笑顔で俺達の所に戻って来てくれた。



 (リナ)

 マリ姉お疲れさま!

 宣言した通り、凄い戦いだったね!

 相手を上げるだけ上げて突き落とす!

 マリ姉らしい、いやらしい戦い方だね!

 

 それに、あの植物!

 一体どうやって出したのか…。

 後で詳しく教えてよね!


 

 リナはマリエさんを一番に出迎えた。

 リナはマリエさんの植物が怖かった事については、全く気にしていないようだ。

 いやらしい。マリエさんらしい戦い方だと。

 言いにくい事もズバズバ言っている。

 これもまた、リナ「らしい」出迎え方と言えるのかもしれない。

 


 (マリエ)

 あら。リナちゃんありがとう。

 試合前に、凄いところを見せるとか言っちゃったから。

 少しドキドキする展開にしてみたの。

 ちょっとは、焦ったり。

 楽しんだりしてくれたかしら?


 

 マリエさんは、リナが差し出した手をパシンと叩き、楽しそうに応援席に降りてきた。


 彼女の話から察するに…。

 やはり、鵜骨さんの攻撃は、故意に受けた様だ。


 自分の新しい技術を習得するために。

 彼女はこの試合を使って、壮大な実験を行っていたのだ。

 やはり、どんな試合も無駄にはしない。

 そんな彼女の高い意識を。

 再び感じさせられる試合となった。


 そして…。

 今回の実験結果についても。

 彼女はそれなりに満足している様である。


 

 (悠)

 マリエさん。お疲れさまでした。

 試合を通して…。

 何だか色々と学ばせて貰った気がします。

 俺もこの大会で、自分に出来ることを見つけるために…。

 次の試合には、いつも以上に課題を持って挑もうと思います。



 俺は、マリエさんを真っ直ぐに見つめた。


 彼女の試合に挑む姿勢。

 自分の力の見極め方。

 常に課題を持って取り組む心意気。


 その全てが。

 一試合毎に、彼女の可能性を着実に広げている。

 俺はそう感じずにはいられなかった。


 こういった小さな意識の違いは。

 いつか取り返しのつかない。  

 とてつもなく大きな差に繋がっていく。


 俺はこれまでの人生を通して、少なくとも何度か、そんな経験をしてきたんだ。


 客観的に。多角的に。

 如何にして、自分の課題と向き合うことが出来るか。

 いくら同じトレーニングを続けていても、この意識の違いが。

 あっという間に、相手と自分の距離を引き離していく。

 

 一日は短いようで長く。

 1年は長いようで短い。


 その小さな積み重ねは。 

 一日で思った以上の差を産み出し。

 1年もあれば、あっという間に。

 相手を手の届かない存在に昇華させていく。


 それは、人が自分の欠点に向き合うことを。

 そこをじっくりと見つめる事を。

 強く怖れる傾向にあるからだ。


 誰だって、自分の苦手な事より。

 得意な事をやりたがる。

 そんなの当たり前だと思う。

 もちろん俺だってそうやって生きてきた。


 しかし。そんな中でも。 


 自分に欠けているもの。

 不足しているもの。

 それらに正面からぶつかる勇気。


 言葉にするのは簡単だ。

 そして、きっと誰もが、気が付いてはいる。


 しかし、実際に行動すること。

 これが非常に難しい。


 人間なんてもんは、やらなきゃいけないと言われれば、やりたくなくなる生き物だ。


 そして、大抵の人間は。

 やらなくてもいい理由を探す手段だけは。

 プロ並みに発達させている。


 人間は、やらない言い訳に関しては。

 全員がプロなんだよ。 


 自分が楽をするためには。

 決して手を抜かないんだ。


 しかし、彼女は。

 マリエさんは違った。

 少なくとも、今回の戦いで俺はそう感じたんだ。


 人が避けたがる。

 目を背けたくなるような。


 自分の課題や欠点に。


 彼女は、常に向き合い。

 克服する努力を続けている。


 その積み重ねが。

 きっと自身に満ちた。

 彼女の普段の言動に繋がっている。


 彼女には自負があるのだ。

 自分は「やっている」と。


 人が目を向けない。

 自分の問題に。

 

 きちんと向き合っていると。


 年を取るにつれて、頭は固くなり。

 行動への壁は高くなる。

 

 そんな中でも、彼女は自分を高める努力を惜しまない。


 彼女のそういう気丈な姿勢に、俺はいつも尊敬の念を感じるのだろう…。


 それは、俺にはない。

 これまでの俺には出来なかった。

 言うなれば、自分が理想とする人間の姿なのかもしれない。

 


 (マリエ)

 あらあら。

 何だか随分と真面目に迎えられちゃったわね。

 でも、私の戦いに「何か」を感じてくれたのなら…。

 私もわざわざ、怪我をしながら戦った意味があったのかもしれないわね。


 

 マリエさんは、そう言って手を差し出した。

 俺はニヤリと笑い、手を重ねた。


 パァン!


 マリエさんと笑顔でハイタッチを交わす。

 彼女の戦いに恥じぬよう。

 俺も次の試合で、「何か」を掴んでみせる!

 俺は決意も新たに、次の試合へ気合いを入れ直した。



 (実況)

 おお~っと!?

 ここで戦いを終えた、鵜骨選手が担架で運ばれていきます! 

 我々が見るには、少し残酷すぎる姿では~…。


 …。

 あれ?あれはどういうことだ?

 なんと担架に乗っている鵜骨選手!

 体には大した怪我が見受けられません!

 それどころか!

 何だかその表情は…。

 穏やかで…。安心して眠っている様だ~!


 私たちには、マリエ様が出力した植物により!

 ズタボロに?メチャメチャに?グチャグチャに?

 とにかく!傷だらけにされた様に見えました!

 しかし!

 当の本人は至って普通の。

 ただ疲れて眠っているような!


 とにかく!

 マリエ様は私たちの期待を裏切らず!

 相手を傷付けずに勝利していたようです!


 流石はマリエ様!

 やはり、我々の天使は慈悲深かった~!


 (観客)

 ウォー!

 やっぱりですか~!信じてました~!

 愛しています~! 

 マリエ様が、無抵抗な相手をボコボコにするはずありません!

 やっぱり貴女は我々の天使です!

 よ~し!皆行くぞ~!


 そうりゃ!

 マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!

 マ・リ・エ! マ・リ・エ! マ・リ・エ!


 観客達も、鵜骨さんの様子を確認し、心底安心した様だ。  


 マリエさんへの大声援が再び巻き起こる。

 マリエさんは、再び闘技場に上がり。

 観客に対して、深く一礼をした。

 それに対し、再び歓声があがる。

 彼女は完全に、観客を味方につけたようだ。


 そして再び、応援席に戻ってくる。


 

 (リナ)

 ちょっとちょっと!

 マリ姉どうなってんの!?

 私てっきり、あの人はマリ姉の植物の栄養になったんだと思ったわよ!


 マリ姉の養分として…。

 シワシワになって…。

 その生涯を終えたんだと思ってたわよ!


 それに…。

 マリ姉がダメージを受けた傷も塞がってるし。

 一体あの植物は、何だったの?

 何処から来て、何処に行ったのよ?



 リナはマリさんの手と足に目をやり、不思議そうに首を傾げている。

 そしてそれは、俺も聞いてみたい質問の一つであった。



 (悠)

 マリエさん。

 実は俺も、それは聞いてみたかったんだ。

 あの植物は、一体どうやって出力して。

 そして、植物を回収した後、何で傷が治ったのか。鵜骨さんの様子も含めて、出来る範囲で教えてくれないかな?


 

 俺はマリエさんの方を見る。

 マリエさんは、扇でパタパタと自分を扇いでいる。


 (マリエ)

 う~ん…。

 そうねぇ~。


 マリエさんは、自分を扇ぎながら、横を向いて何かを考えている。

 クランの仲間と言えども、自分の力の秘密を人に話すことに抵抗があるのだろうか?


 パシン!

 マリエさんが扇を閉じる。

 

 (マリエ)

 うん!次の試合まで時間がないけど…。

 出来る限り手短に話すわね!

 実はあれはね…。



    ・・・・闘技場主賓席にて・・・・


 (エリアス)

 体内の魔力ね~。

 確かに。人間の体にも、魔力は流れてる。

 そうだよね~。

 使えると考えたことはないが…。

 原理で言えば、可能かもしれんな。


 …。

 くそ~!なんてことだ!

 あの女め!

 何食わぬ顔でそんな技術を!

 まさか体内の魔力まで使ってくるとは!

 結局、あの性悪!

 今回も尻尾を出さずじまいではないか~!



 エリアスは、主賓席から身を乗り出し、ディープインパクトの面々を見る。

 拳は強く握り締められ、体はワナワナと震わせている。

 表情にも悔しさが滲み出ていた…。



 (アイシス)

 ふぅ~。

 流石にあそこまで見事に出所を隠されると。

 なかなかこっちも探りようがないわね。


 しかも、今回に到っては…。

 彼女は、得意な風の属性の技さえも使っていない。体内での魔力生成は確認しようもないし…。


 やはり、完全に私たちを意識した戦い…。 

 自身の本質。奥の手は絶対に晒さないつもりね。

 結局彼女は、見事に手の内を隠しきって、この2試合を終えて見せたのよね。

 彼女にしてみたら、正にしてやったりでしょう。


 このクランは…。 

 皆が皆、実践経験に欠けると聞いていたけど…。

 本当に天晴れだわ。

 彼女は我々の目さえも、何の小細工もなく、見事に欺いて見せた。

 魔力を練る方法も、出力に至る手順も。

 体内でやられてしまえば、確認のしょうがない。


 あれほどの力の使い手。

 ステラ広しと言えども、そう出会えるものではないでしょうね。

 彼女もまた、力の使い方に関しては天才の域にあるのかもしれないわ。

 ホントに…。このクランは…。

 面白い人材の集まりね。



 アイシスは、椅子に深くもたれ掛かる様に座り、溜め息をついている。

 マリエの魔力精製の過程を、エリアスと共に探ろうと躍起になっていたのだ。  

 それが叶わず、落胆の色が濃いようだ。



 (エリアス)

 確かに魔力は、体内にも流れているとは言われている。

 だが、それのみを用いて魔法を出力するなど、私は聞いたこともないぞ。

 そして、不思議なことに。

 あの植物が食らい付いた相手には、なんの怪我も無かった。 

 そして、逆にあの女の怪我は治っていた…。

 

 私はこの事実についても、はっきりとは理解できずにいる。

 アイシスよ。

 お主は何か上手く見立てがついておるのか?


 エリアスは、アイシスの方を見て尋ねる。

 マリエの今回の戦いは、百戦錬磨のエリアスをして、全てを理解するのは困難であったようだ。



 (アイシス)

 エリーちゃんを、そのレベルで惑わせること自体。そもそも、駆け出しのクランとして、あるまじき実力の持ち主たる証拠よね?

 まあ、私もはっきりは分からないけど…。

 彼女が、あの植物に食らわせたも…。

 それは、恐らく「魔力」だったんじゃないかしら?


 (エリアス)

 魔力? なるほど、魔力か…。

 それならば、相手に傷がなかったことにも説明がつく。

 体に絡み付き、魔力の流れを察知し、そこから魔力のみを吸いだした…。

 不気味な植物が、魔力の流れに根をはる。  

 そして、根から魔力を吸い上げ。

 それをあやつは体内に取り込んだ訳だな。

 魔力を吸い付くされた相手は、疲労困憊となり倒れる。

 それにより、勝負は決したのか。


 しかし…。  

 あやつは自身の傷も治して見せたな。

 これは…。  

 魔力と一緒に、相手の生命エネルギーも少しばかり頂戴したと言うことか?


 (アイシス)

 恐らくは…。

 エリーちゃんの想像通りでしょうね。

 植物の本来の餌は、出力に要する魔力のエネルギー。

 しかし、彼女はそれに加え、自身の傷を治す程度の、生命エネルギーも、ちゃっかり頂いた。


 多分だけど…。

 魔力を吸い付くす役割を、肩の傷から出力した植物に。

 生命力を頂戴する役割を、足から出力した植物に役割を分けていた。


 同時に2つの指示を、自身の体内の魔力という、微力なエネルギーで動いている魔法態に込めていた。

 もし、普段からトレーニングを繰り返していたとしても…。

 かなりの練度を要する技術に違いない。


 そして…。

 もし、この戦いの中で偶然に思い付き。

 簡単に実行して見せたのだとすると…。 


 彼女は、本当に私達の世界まで。

 私やあなたの様な、選ばれし者が見る世界まで。

 いつの日か、たどり着くのかもしれない。

 

 少なくとも、その位の可能性を。

 彼女は今の戦いで、示していたわ。



 アイシスは、そう話ながら、嬉しそうに笑っていた。エリアスは、それに気付き、アイシスがディープインパクトを気に入り。

 以後の戦いをどう組み合わせていくべきか、考え始めている事を理解した。


 

 (エリアス)

 随分と嬉しそうだな。

 まあ、思わぬ拾い物だ。

 その拾い物に、思ったよりも価値があったのだから当然かもな。


 (アイシス)

 ええ。その通りよ。

 彼らはホントに面白い。

 彼らを上手く「餌」にしていけば。

 もしかしたら、この大会中に会えるかもしれない。

 そう考えると、嬉しくてたまらないわ。

 エリーちゃんもそうなんでしょ?


 アイシスは、エリアスの隣に立ち、顔を覗き込む。


 (エリアス)

 この大会の実行を決めた時から…。

 最早綺麗事を吐くつもりはないさ…。

 アイシス、次は準備しておいてよいな?


 エリアスは、真っ直ぐ。

 ディープインパクトの面々を見つめながら、アイシスに問う。


 (アイシス)

 そうね。イメージしてたより、少し早いけど…。 「善は急げ」とも言うしね。

 いいんじゃないかしら?

 彼らならきっと…。


 アイシスは、椅子に向かう。

 その足取りは軽く。

 まるで躍りのステップをふんでいるかの様だ。


 (エリアス) 

 どこまでやってくれるのか…。

 私も楽しみだよ。

 だから、こんな所で負けるなよ。

 さっさと勝ち上がってこい!

 ディープインパクト!



  ・・・・舞台は闘技場に戻る・・・・

 

 (悠)

 なるほど。

 つまり、マリエさんは、自分の体の中を流れる魔力を感じとり。

 自身がイメージした、植物として出力してみた。

 そしたら、あの怖いのが出せたので、自身の魔力を餌にして指示に従わせた…。

 そういうことですね?


 (マリエ)

 簡単にまとめるとそういうことね。

 私は以前から、風や植物の属性を使用するときに、自分の魔力の流れが頭にイメージとして浮き出て来ていたの。

 それで、これを上手く利用してやれないかと考えた。 

 その結果が、今日の試合で出力したあの子達。ということ。

 あの子達は、私に流れる魔力をイメージして形にしたもの。

 言ってしまえば、私の魔力が具現化した姿ね。


 (リナ) 

 マリ姉の自分の魔力のイメージってあんな怖いものなの!?

 マリ姉みたいな美人なら、もっと綺麗な花とかをイメージすればいいのに。

 似合わないよ。

 あんなズルズル這い出る気持ち悪い植物なんて。


 (悠)

 確かに…。マリエさんなら、もっと相応しい植物がありそうなもんだ。 

 何でよりによって、あんなズルズルネバネバをイメージしちまうんですか?

 もっと可憐な花にして下さいよ。  

 正直、あんなの傷口から出てきたら、マジで怖いんですよ。


 (マリエ)

 そう言って貰えるのは嬉しいけれど…。

 魔法はあくまで「魔」の力なのよ。

 決して清らかなものではなく、私の中では、あくまでも「魔」の法。

 可憐で綺麗な植物を出力しても、所詮は人間に含まれる「魔」の力。

 表面を取り繕う事に、私は意味を感じないのよ。

 例え周りから恐れられようと…。

 私に宿る「魔」の力は、おぞましく、不気味なものであることに変わりはないわ。

 だから私は、あの子達を外に出すのに躊躇いはないし。

 私の力の現れとして、当然の姿だと思った。

 実際に出力したのは始めてだから。

 まあ、少しは驚いたけどね。

 それに…。

 まだ、傷などの外傷がないと、外には出してあげられないから、そこを改善するのが今後の課題ね。



 マリエさんは、扇で自分を扇ぎながら飄々と話している。

 あれほど凄いことをやり遂げても。

 彼女は現在の自分の課題を、明確に受け止めている。

 自分を更に高めようと。

 常に試行錯誤しているようだ。


 本当にこの人は…。


 どこまで上を見ているのか。

 どこまで自分を高めようというのか。

 どこまでの資質を。自分に感じているのか。


 …。

 考えただけで、俺は身震いが止まらなくなった。


 これは、マリエさんへの賞賛の震えだろうか。


 それとも…。


 俺は自分も。

 彼女と同じように。

 同じ世界を見てみたいと。

 強く感じ始めていた。

 


 (マリエ)

 まあ、私が今言えるのはこれくらいかしら。

 私自身。まだ、体内の魔力について…。

 全てを理解している訳ではないの。

 今回の戦いで、少しだけ感覚は掴めたけれど…。


 ただ…。

 ただ、可能性は感じているわ。

 私にしか出来ない何かが。

 この戦い方にはあるかもしれない。

 そんな可能性が…。

 私の体内には流れているかもしれない。

 

 そうね…。言うなれば。

 可能性は無限大。

 大嫌いな言葉だけれど。


 私にしか見えない。

 私だけの力。

 もしかしたら、そんないい相方が。

 私の中には流れている…。

 まあ、私が言えるのは、そんな所なのかしらね。



 パシン。

 話を終えると、マリエさんは扇を閉じた。

 そして、俺の方をゆっくりと見つめる…。



 (マリエ)

 さあ、次はいよいよ。

 我らがキャプテンの出番ね。

 私の話に聞き惚れていたけれど…。


 貴方の準備は大丈夫かしら?



 マリエさんは、そう話すとにっこりと笑った。

 自分の戦いを見て、俺が何を感じ取ったのか…。

 彼女はまるで、それが手に取るように分かっているかのようだ。


 本当に凄いな。この人は…。

 けど…。


 

 (悠)

 スウ~~~。

 ハア~~~。



 俺は1度。大きく息をついた。

 そして気合いを入れ直し、こう告げる。



 (悠)

 当たり前じゃないですか。

 準備万端ですよ。

 今度はウチのクランのキャプテンが。

 どれくらい凄い奴なのかを。


 会場に。そして皆に。

 見せつけてみせますよ!



 俺は自分の中で、何かが燃え上がっているかの様な感覚を覚えていた…。


 この凄い人達に。


 少しでも近づいてみたい。


 俺にも何か出来るのだと。


 そんな世界が、今。


 手の届く所にあるのかもしれない。


 そう感じて俺は。


 興奮を押さえられずにいた。


 そしていよいよ。

 ディープインパクトの勝ち抜きをかけた。

 俺の2回戦が、幕を開ける…。



















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