表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
41/114

水の章 クランバトル編 二回戦 マリエ編Ⅳ

 ○ お姉さんを信じて


 (実況)

 なんということだ~!

 鵜骨選手が放った必殺技!


 その名も、双頭鳥の尾! 


 鞭が二又に分かれ、同時に2ヶ所への攻撃を可能とする妙技であります!  


 これが何と!我らがマリエ様に直撃!

 美しい肌に大きな傷がつき!

 マリエ様は思わず膝をついてしまった~!


 マリエ様の美しい顔が苦痛に歪む!

 一回戦を無傷の勝利で悠々と勝ち上がって参りましたが!

 二回戦は序盤から大ピンチに陥っている!

 マリエ様に勝機はあるか!


 これからの展開に大注目だ~!


 (観客)

 マリエさま~!大丈夫ですか~!

 痛々しいお姿!胸が痛みます!

 鵜骨のやろ~!マリエ様に怪我させやがって~!

 ふざけんな~!無事に帰れると思うなよ~!

 いや、俺は痛がるマリエ様に興奮している! 

 鵜骨~!よくやったぞ~!

 もう充分楽しんだ~!

 あとは適当に負けちまえ~!


 (実況)

 観客も、マリエ様が痛がる姿を心配する人!

 痛がるマリエ様に興奮する人に別れています!


 しかし、どちらにも共通するのは、マリエさまの勝利を期待していること!

 鵜骨選手は、完全に観客を敵に回してしまったようだ~!


 (鵜骨)

 酷いこというな~!

 そげなこと言ったって!

 オラだって今のは様子見のつもりやって!

 そしたら、偶然あのお姉さんが!

 咄嗟に体さ固めてしもうて!

 そのままぶつかっただけや!

 直撃して一番驚いとるのはオラ自身さね~!


 鵜骨さんは観客に向かって叫んだ。

 彼も格上のマリエさんが、まさかこんな形でダメージを負うとは思っていなかった様だ。

 俺達も驚いたが、それ以上に攻撃した本人が一番戸惑っている。


 (マリエ)

 ハア。ハア。

 まさか二又に分かれるなんて…。

 ちょっと予想外だったわ…。

 貴方少しはやるじゃない…。

 痛っ!参ったな~。

 思ったより効いてるかも…。


 マリエさんは、左手で右肩を押さえながら、立ち上がった。

 攻撃を受けた左足の腫れも酷い。

 

 マリエさんは、立ち上がるので精一杯の様だ。

 試合を続けるのは難しいかもしれない。

 それ位、マリエさんの表情は辛そうに見える。


 (悠)

 マザー!どうする!?

 こちらからギブアップを入れるか!? 

 もう一撃くらっちまうと、明日以降の試合にも影響しかねない!

 レイナはずっと寝ているし、起きてすぐに回復魔法を使えるかも分からない!


 そして…。

 偶然とは言え、攻撃が足に直撃しちまった!

 よりにもよって、回避の時のフットワークに影響する足にな!

 現状でもかなりキツそうに見える!

 見た目以上にダメージが深刻なのかもしれない!


 今は立っているので精一杯だよ!

 あの様子じゃ、次の一撃はかわせない!

 これ以上は危険かもしれないだろ!?



 俺はマザーに決断を促した。

 試合前には、何となくであるが。

 マリエさんが勝つ気がすると話していた。

 しかし、俺の認識は不足していたんだ。


 バトルは一回勝負なんだ。

 どんなに実力に差があっても…。

 運で相手が上回る事だってあるんだ。


 (マザー)

 そうですね。それは、分かりますが…。

 ちょっと待って下さい…。

 今考えますから…。


 『悠さん。随分取り乱しているな…。』

 『これ位の状況。』

 『真剣勝負のバトルを経験していけば、常に起こり得る程度のものだが…。』


 『恐らく、今の様子から察するに。』  

 『悠さんは、自分の認識の甘さを悔いているはず…。』 

 『一回勝負の本当の怖さを…。』

 『改めて感じているはずだ。』


 『試合前…。』

 『私は真剣勝負というこの舞台で…。』 

 『「絶対に勝つ」なんて表現が出てくるのは』  『有り得ないと感じていた。』

 『相手も本気で倒しに来るんだ』

 『何が起きてもおかしくはない。』 


 『今まさに、目の前で起きている状況も。』

 『本来であれば、想定されるべき展開の一つなんだ。』


 『本来。作戦や戦略というものは…。』

 『どんな些細なアクシデントに見舞われた状況をも想定し。』

 『起こりうる、全ての可能性を潰した上に成り立つもの。』

 『綿密な計画と万全な準備をもって、始めて価値を持つものだ。』


 『ただ、仲間の才能に任せるというやり方は。』

 『仲間を信頼しているからではなく、自分の職務を放棄しているだけなんだ。』

 『愚かな軍師の甘えでしかないんだ。』

 

 『そして…。残念だが今の悠さんがそれだ。』

 『仲間のピンチを想定出来ず、ピンチが来た状況に、ただ右往左往するだけだ。』

 『仲間の為に、なんの準備もしていない。』

 『自分の責任を、仲間に押し付けてしまっている。』


 『それでは、クランのリーダーは務まらない。』


 『真剣勝負の中で、例え苦境に陥っても。』


 『それを打開する一瞬の判断力。』  


 『仲間の状況を的確に判断し、連携から隊列に到るまで、全てを纏めあげる統率力。』


 『言ってしまえば、仲間の体調。相手の能力。戦況のバランス等』

 『千里眼の様な観察眼で常に全体像を把握し。』

 『全ての状況を想定していく力が必要となる。』


 『私は、この人はそれを理解した上で。』

 『万が一の際の、自分の判断力も含めて。』

 『それでも、マリエさんの勝利は確実だと思っているのだと信じていた。』

 『試合前の彼等には、それ位の確信があるように感じていたのだ。』


 『だが、そうではなかったと言うのか?』

 『ホントに何も考えずに?』

 『ただ、ボンヤリと。何となく勝つと思っただけなのか?』


 『だとしたら、あまりにも愚かしい。』

 『ステラのバトルを。真剣勝負を。』

 『馬鹿にしているとさえ思えてしまう。』


 『普段からふざけた言動が多いが…。』

 『やるべきことは、きちんとやる性格かと考えていた…。』

 『しかし…。もしかすると…。』

 『この人は考えるべき論点を、見極めるのが下手なのかもしれないな。』


 『それを悟られぬよう。』

 『悪ふざけをすることで、自分の無知を隠そうとしているのかもしれない。』


 『だとしたら…。』

 『これは非常にマズイ「癖」だ。』

 『この人は、そうやって難しい状況から。』

 『自分が傷付かずに逃げ出す、「悪癖」が身に付いているのかもしれない。』

  

 『もしそうであるならば…。』

 『今後、幾度か訪れる困難に…。』

 『この人は…。正面から向き合おうとしないかもしれない。』

 『自分が傷付かぬ様…。』

 『判断がつかない状況でも、分かった「フリ」をして、場をやり過ごそうとするかもしれない。』


 『それはマズイ。一番マズイんだ。』

 『分かったフリをするのが、一番マズイ。』


 『周りとの認識の違いに、実際に問題に直面するまで、気付けなくなる。』  

 『周りも彼を信じ、理解されていると信じて、行動してしまう可能性がある。』


 『これは、大事な場面で致命傷になりかねない』

 『リーダーである彼が、一番周りを理解出来ていないのかもしれない…。』

 『周りを、状況を把握する能力に欠けているのかもしれない。』


 『もし、それが事実なら…。』

 『リーダーを変えるべきだろうか…?』

 『しかし、それではあまりにも急すぎる…。』

 『彼のモチベーションを、著しく下げてしまうかもしれない…。』

 

 『いや、それよりも、今はマリエさんの試合。』

 『ここをどう乗りきる?』

 『彼の言う通り、こちらからギブアップを…。』

 『確かに、現状での継続は難しいか?』 


 『どうする?どうすべきだ…?』

 『私も人の事を言えない…。』

 『彼等の言葉を盲信して、場面毎の対策を怠った…。』

 『そういう意味では…。』

 『周りが見えていないのは…。』

 『私も同じか…。』


 (グランファーマーズ)

 鵜骨どん!チャンスや!

 今ならあの娘さんに勝てるやて!

 一気に決めてしまいんさい!


 グランファーマーズの面々から、鵜骨さんへの檄が飛んだ。


 (グランファーマーズ)

 相手は格上!それもランクCやど!

 勝ったら大金星や!

 偶然とは言え、自分の力で作った勝機!

 逃す手はないて!


 (鵜骨)

 そ、そうか! 

 そやろな!

 オラの鞭が通用したんだ!

 一気に決めて、皆に勇気を与えていかな!

 

 鵜骨さんは、鞭を握りしめて、再び振るおうと攻撃体制に入る。

 仲間の檄を受け、一気に勝負を決めるつもりだ。

 

 (グランファーマーズ)

 鵜骨どん!勝ったらホントに凄いことや!

 村中に皆で広めたる!

 鵜骨どんは、格上の相手に堂々と勝負を挑んで、見事に打ち倒したってな~!

 オラ達も、今の状況が信じられん!

 けんど、一斉一代のチャンスに間違いなか! 


 オラ達の勝利に向けて! 

 頼むで鵜骨どん!  

 次で決めてくんろ!


 いけや~!鵜骨どん!あんさんならやれる! 

 村で自慢の鞭使いとして!

 ステラ中に名前を轟かせ~!

 鵜骨どん!チャンスや!

      

     あんさんが決めてきんさい!


 グランファーマーズの一層強い檄が飛んだ。

 鵜骨さんは、仲間の方を振り返り。

 こくりと頷き、マリエさんを見る。

 表情が引き締まる。

 彼の体からは、力が溢れて見えるようだ。

 見ているだけで、彼の決意が伝わる。

 一気に決着をつけに来るつもりだ。


 (悠)

 マズイ!決めに来るつもりだ! 

 あの様子じゃ、マリエさんはもう避けられない!

 マザー!ギブアップするぞ!

 (マザー)

 …。

 仕方ありません…。

 悠さん!

 端末を操作して下さい!

 私が審判に止めに入って貰います!


 俺達は、結局何も考えが浮かばす、マリエさんギブアップを決断するしかなかった。

 不測の事態への、余りにも疎かな対応だ。


 しかし…。


     これから先の試合もあるんだ。


 自分の無策を棚にあげ、先のための英断だと自分に言い聞かせた。 


   今はまだ、無理をさせるべきじゃない。


 では、自分に出来ることをやりつくしたのか?

 マリエさんの為に、お前に出来ること…。

 ホントに何もなかったのか?


 嫌な疑問が頭をよぎる。


 だが、始めから答えるつもりはない。


 答えは結局。自分が傷つく事実しか産み出さないことを、自分自信で気が付いているからだ。


 俺は今までも、そうやって色々な事から逃げてきたのだから…。


 この姿勢は、この年齢になってからは変えられないだろう…。


 俺はまた、そうやって言い訳を重ねていく。


 目を瞑り、自分の情けなさを笑った。


 そして俺は端末を操作しようと手を伸ばした。


 しかし、その時…。 


 (リナ)

 さっきからアンタらゴチャゴチャうっさいのよ!

 黙ってマリ姉が戦ってんの見てなさいよ!


 鬱陶しいのよ!

 さっきから二人でオロオロして! 

 マリ姉が自分でギブアップしないんだから大丈夫なのよ!

 私達は黙って見てればいいの!

 戦ってんの誰だと思ってんのよ!

 あのマリ姉よ!?

 これ以上は、言わなくても分かるでしょ!?

 分かったら応援しなさい!

 仲間が体はって頑張ってんのよ!


 リナの大声が舞台袖に響いた。

 俺とマザーは、リナの発言を聞き。

 思わず手続きの手を止める。


 (悠)

 しかし、リナ! 

 今の状況を考えると、これ以上戦うのは危険なんじゃ…。

 お前だって、足を怪我してマズイって言ってただろ?


 (マザー)

 そうですよ、リナさん。

 現状、マリエさんが攻撃をかわすのは難しい。

 これ以上のダメージは、今後の闘いに影響しかねません。

 今は無理をさせるべきじゃない。

 やはり、ここはギブアップを…。


 無策な俺達は、何故かギブアップへの対応には息がぴったりだ。

 二人とも気が小さく、安全な一手に対する執着だけは強いのだ。


 (リナ)

 ねぇ?マリ姉は何て言った?


 リナは俺達の様子を察し、溜め息をつきながら質問をした。


 (悠・マザー)

 え?

 (リナ)

 バトルが始まる前!

 マリ姉は何て言ってた!?

 ちゃんと覚えてる!?


 (マザー)

 確か…。

 貴女達のお姉さんがどんなに凄いか。

 ゆっくり休んで見ていて…。

 だったかと…。

 (リナ)

 なによ!ちゃんと覚えてるじゃない!

 だったらバタバタする必要はないわ!

 私達は黙って!

 マリ姉が凄いことを見ていればいいのよ!


 リナは力強くそう語った。

 その横顔には、何の迷いも感じない。

 ただ、マリエさんを信じ。

 これから起こる事を、ワクワクしながら楽しみに待っているようだ。

 俺は堂々としているリナを見て。

 何故か憑き物が取れたかのように安心していた。


 (マザー)

 ですが!

 (悠)

 …。そうだったな。

 何をバタバタしてたんだ。俺は。

 アホくさ。

 あのマリエさんがこのまま終わる訳ねーよな。

 何を慌ててんだか…。

 ホントに間抜けだわ…。


 俺は息を吐き出し、体の力を抜いてみる。

 そして、もう一度。

 落ち着きを保ちながら、マリエさんを見つめる。


 (マザー)

 悠さん!?

 しかし、今の状況では!


 (悠)

 マザー。情けなく取り乱してすまない。

 リナ、気付かせてくれてありがとう。

 なんせ戦ってんのは…。あのお方だ。

 ウチのクランの自慢。 

 あの綺麗なお姉さんなんだよな。


 あの人が何も考えずに、あんな風に不自然にダメージを受ける訳ないんだよな。

 何で気付かないんだよ。

 アホか?アホなのか?


 (リナ)

 その通りよ!

 何を今更気付いてるのよ!

 あんたは正真正銘のアホよ!

 私が保証するわ!


 マリ姉が、あんな攻撃。

 まともにくらう訳ないじゃない。

 きっと何か考えがあるのよ。

 そうに決まってるわよ。


 リナは半分笑いながら、楽しそうにマリエさんを見つめている。

 その様子は、まるで何かを楽しみにして待っている、小さな子供の様にも見える。


 (悠)

 ああ。そうだ。 

 きっと俺達が想像もつかない。

 相手を嘲笑うかのような、悪どい手口を考えてるに決まってる。


 俺達はマリエさんを見る。

 マリエさんは、腕を押さえながら、顔を歪めている。

 しかし、その目は真っ直ぐに相手を見つめ、光を失っていない。

 彼女の闘志は、未だに消えてはいないようだ。


 (マザー)

 まさかここから?

 一体どんな秘策があると…?


 マザーは、俺達が落ち着きを取り戻したことが、不思議でならないようだ。

 そんなマザーを、俺達はニヤリ笑い。見つめる。

 マザーよりも、俺達の方が。

 マリエさんの人間性を理解している。

 俺達は笑顔に、そんな意思表示を込めていた。


 (実況)

 残酷な!なんて残酷な描写でしょうか!

 我らがマリエ様は、足を怪我してまともには動けません!

 対する鵜骨選手は未だ無傷!

 そして、鵜骨選手の必殺技「双頭鳥の尾」を!

 マリエ様は止められずにいます!


 鵜骨選手がマリエ様に詰め寄る!

 ジリジリと距離を詰める!

 マリエ様は、足を引きずり!

 距離を保とうとするも、足取りは重い!


 鵜骨選手が更に詰め寄る!

 いよいよ決着を!

 格上からの大金星を狙っています!


 (鵜骨)

 怪我をした…。

 しかも若い女性にトドメを刺すのは忍びね~。

 けんど、村の皆と、仲間の為に!

 オラは勝たせて貰うべや!

 

 いくぞ!必殺!

         双頭鳥の尾!


 鵜骨さんの鞭がマリエさんに迫る。


 マリエさんには、鞭を避ける力は残ってはいない。


 けれど、俺達には見えていた。


 必殺技を出し、勝ちを確信した鵜骨選手を…。


 不適な笑顔で見つめる。


 いつも綺麗な…。


 お姉さんの、あの凛とした姿を…。 

 


 

 












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ