クランと資質の章Ⅲ
○ 街への帰還とリナの鳥頭
ウェアウルフを退けた悠たちは、その後リナとレイナの案内で近くの街に引き返していた。
街は西部劇に出てくるような、雰囲気のある木造の建物が立ち並んでいる。
人々も何処か昔のアメリカ映画の登場人物の様な出で立ちだ。
(悠)
「あ~、本当に無事に街に来れて良かった…。」
「帰りに他のモンスターに遭遇しなくて、本当に 良かったよな。」
「あれ以上頑張るのはホントに無理。」
「久しぶりに走ったせいで、もう全身がバキバキ だよ。」
(リナ)
「全くあれくらいでだらしないわね。」
「私達の半分も走ってないのに…。」
「けど、疲れたのは同感。」
「ホントに途中まで死ぬかと思ったもん。」
リナは疲れ果てた表情で座り込んだ。
(レイナ)
「私ももう限界です~。」
「多分3年分位走りました~。」
街の広場の噴水に、3人並んで座った。
ホントに生きた心地がしない1日だった。
そんな思いが頭に満ちていた。
(マザー)
「いや~、皆さんお疲れ様でした。」
「心配になって探しに来てしまいましたが、やっ ぱり皆さんなら何とかなったみたいですね。」
3人で頭上を見上げる。
そこにはさっきまで一緒にいた光の玉。
マザーの姿が浮かんでいた。
(リナ)
「ああ…。マザーかお疲れ様。」
「まあ、私がいるんだから無事なのは当然よ。」
リナは下を向いたまま手を上げ答えた。
(レイナ)
「マザーさん。お疲れ様です。」
「いきなりで申し訳ないのですが、私達実はこの 世界のお金を持っていないのです。」
「もうお腹はペコペコで、喉はからからです。」
「寝る場所もないですし、正直違う意味で崖っぷ ちなんです。」
「どうしたら良いでしょうか~。」
レイナは泣きそうな声ですがり付く様に訪ねた。
(悠)
「あ~、やっぱり通貨とかも違うのかよ。」
「カードも使えないだろうし…。」
「俺も腹減って、くたくただ…。」
「一体どうすりゃいいんだよ。」
話をしながら、これからのことを考えようとするが、疲れで全く頭が働かない。
今にも疲れで倒れ込んでしまいそうだ。
(マザー)
「その件について、取り敢えずは大丈夫です。」
「まずは最初に待ち合わせ場所にしていた、この 街の《クランハウス》に行きましょう。」
(悠)
「そこに行けば、ご飯食べれるの?」
(マザー)
「はい。お金も貰えますし、食事も取れます。」
「クランハウスは、大きな街には必ずある。」
「皆さんの様な冒険者に、仕事を斡旋する施設で す。」
「ここでは倒したモンスターに応じ、討伐報酬を 受けとることもできます。」
「皆さんはウェアウルフを3体倒していますの で、数日間の生活費には困らないでしょう。」
その言葉を聞き、3人は安堵の表情を浮かべた。
(悠)
「マジでか!?」
(リナ・レイナ)
「良かった~。良かったです~。」
(マザー)
「今日は取り敢えずクランハウスで報酬を受け取 り宿を取りましょう。」
「その後は宿屋で皆さんの事情をお聞かせ下さい。」
「私も皆さんに対して、必要と思われる情報を提 供させていただきます。」
「それに合わせて、今後のクラン活動の方針など も決めていきましょう。」
(悠)
「とにかく当面の生活が保証されただけでひと安 心だよ。」
「さっさとクランハウスに行って宿で休もう。」
「全てはそれからでいいよ。」
「本当にもうクタクタなんだ。」
(リナ)
「賛成!異議なし!」
(レイナ)
「私も賛成です~。早く休みたいです~。」
こうして3人は、マザーの案内に従いクランハウスへと向かった。
クランハウスは街の中心部にあった。
西部劇の酒場のような雰囲気で、同じ冒険者と思われる、如何にもいかつい連中が出入りしていた。
(マザー)
「さて……。」
「ハウスに入る前に、念のため皆さんはこれを身 につけて下さい。」
マザーが光の中から、おもむろに皮の手袋を取りだし、全員に配り始めた。
(リナ)
「なんで手袋?」
「別に寒くないけど。」
リナが不思議そうに尋ねる。
(マザー)
「ええ、決して防寒が目的ではありません。」
「その手袋は、皆さんの手の甲を隠すため。」
「つまり、皆さんの個人ランクを隠すための物で す。」
(悠)
「ランクを隠す?」
「個人のランクって、他の人に知られたらマズイ のか?」
(マザー)
「マズイと言いますか…。」
「他の冒険者には、出来るだけ手の内を見せるべきではないのです。」
「今後クランとして活動していく中で、どうして も他のクランと争わなくてはいけない場面が出て 来るでしょう。」
「いい仕事には沢山のクランが殺到しますし。」
「何よりも他のクランを襲い、金品を奪うことを 生業としているクランもある位です。」
「本来は禁止されている行為ですが。」
「ルールの範囲内で不正をする輩がいるのも事実 なのです。」
「ランクがそういった相手にバレてしまうと、対策を練られ、狙われたりすることがあります。」
「クラン同士の抗争は、常に情報が物をいう。」
「クランのランク及び構成員のランク。」
「そして何よりも心具の情報。」
「これらは絶対に、他人に知られるべきではない のですよ。」
「それを知られるだけで、戦いは格段に不利に なってしまう。」
「それだけは絶対に心に刻んでおいて下さい。」
(悠)
「はあ~。なるほどね。」
「何処からボロが出るか分からない訳か。」
「クランの活動ってのは、一筋縄では行かないっ て訳なんだな~。」
「これからは気を付けないとな~。」
(リナ)
「あ~、もう分かったわよ~。」
「そういう難しい話は後にしましょう。」
「とにかくお金だけもらって宿屋。」
「そしてご飯。」
「私もうお腹減って限界なの。」
「ホントに早くしましょ~。」
レイナもコクコクと頷いている。
どうやら二人はホントに限界が近いようだ。
(悠)
「よし!そうだな!」
「とにかくお金もらって休憩だ!」
「詳しい話はそのあとにしよう!」
「俺たちに今一番必要なのは、金と飯と宿だ!」
(マザー)
「その表現は、何だか聞こえが悪いですが…。」
「分かりました。休息も時には必要ですよね。」
「ではクランハウスで手続きだけして帰りましょ う。」
マザーに促され、3人はクランハウスのドアを開ける。
中には複数の男の集団。
おそらく他の冒険者クランなのだろう。
入ってきた悠たちを見つめ、室内の空気がピンと張りつめたのを感じた。
( 男 達 )
「見ない連中だな…。どこのクランだ?」
「男一人に女が二人?気に入らねぇな。」
「なんだあの男?ただのおっさんじゃねぇか。」
「一応手袋はしてるな。何ランクだ?」
「どうせ大したランクじゃねーだろ。」
「大袈裟に隠しやがって情けねぇ。」
「ただのおっさんに嬢ちゃんじゃねぇか。」
どうやら全く歓迎はされていないようだ。
少人数のクランで、男が一人女が二人。
百戦錬磨の連中が、いい顔をするわけがない。
その時、一人の大柄な男が近付いてきた。
( 大 男 )
「よう、おっさん!!邪魔だぜ!道をあけな!」
「あん、なんだ女連れかよ?」
「随分いい思いしてるじゃねぇか!?」
「若い姉ちゃん二人も連れてよ!?」
「俺はこれから報酬で飲みにいくんだよ!」
「今日も大量に狩ってきたからな!」
「姉ちゃんのどっちか…。」
「いや両方貸してくれよ!!!」
「まあ、ダメって言っても勝手に借りてくけど な!」
男はそう言うと、レイナの方に手を伸ばした。
(悠)
「おい、あんた!」
「いきなり何しやがんだ!」
悠が二人に割って入ろうとした次の瞬間。
(リナ)
「何だテメー!このデカブツが!」
「ふざけたことぬかしてんじゃねーぞ!」
「私たちは、確かにさっき結成したばかりのクラ ンだが全員ランク「GⅢ」だ!」
「おら!見ろ!」
リナは左手の手袋を男に投げつけ、手の甲を示した。
(リナ)
「分かったか!?テメーみたいな三下が!」
「気安く声かけていい相手じゃねーんだよ!」
「私達はクラン・ディープインパクト!」
「これから世界に名を轟かせる偉大なクランだ!
よく覚えとけ!」
リナが怒声をあげる。
その迫力に周囲の連中は一瞬で萎縮していた。
しかしそれ以上に問題なのは…。
( 男 達 )
「ぜ、全員がランク「GⅢ」!?」
「結成したばかりで!?」
「けど、あの女の手!間違いなくGⅢだった!」
「ディープインパクト!?」
「聞いたことあるか!?」
「いや初めて聞く名前だ!データにもない!」
「事実なら覚えておかなくては!」
「これは大事だ!早く各クランに連絡を!」
「データ収集にも着手しろ!」
「大変だ!この街に、とんでもない連中が集まっ たクランができたかもしれないぞ!」
「新参クランなら、まだ対応できるかもしれな い!」
「心具の能力を知っているものがいないか、各ク ランに確認を急げ!!」
「念のため上層部へも連絡だ!」
「とにかく急げ!時間との勝負だ!」
さっきまでニヤニヤとこちらを笑っていた連中だったが、リナの発言で表情が激変。
どこかと連絡をとりながら、バタバタとクランハウスを駆け出していった。
シーン……。
辺りを静寂が包んでいく。
先程まで賑やかだったクランハウスだが、気がつけば悠たち以外誰一人いなくなっていたのだった。
そんな中、悠は黙ってリナを見つめていた。
リナは『しまった!』と事態に気づいた後。
(リナ)
「テヘ☆やっちった!」
とおどけてみせた。
(悠)
「レイナよ。リナは真性の馬鹿なのか? 」
悠は真顔でレイナに尋ねた。
(レイナ)
「馬鹿ではないんですが…」。
「後先を考えるのは苦手なんです…。」
レイナは目を背けながら小さな声で応えた。
(悠)
『いや、馬鹿だろこいつは…。』
『わざとかって位、全部話してたじゃん。』
悠は空を見上げ心の中でそう呟いた。
○ 宿泊先とステラの現状
3人は誰もいなくなったクランハウスにて、ウェアウルフ3体討伐分の報酬を受け取った。
3体で9000ルクス。
こちらの通貨の単位はルクスというらしい。
宿代は一部屋500ルクス。
男女に分けるため1000ルクス支払う。
悠は部屋に入り、ベッドで一息ついた。
(悠)
「あー、疲れた。取り敢えずシャワーだな。」
部屋のシャワーに入る。
今日1日の疲れが、汗と共に流れ落ちていく。
今日一日を通し、あまりにも色々な事が起きた。
未だに自分の置かれている状況を、完璧には整理しきれていない。
この後は皆で夕食を取る。
そしてマザーから、この世界やクランについての話を聞く予定だ。
(悠)
「取り敢えず腹ペコだ…。」
「考えても仕方ねーんだ。」
「取り敢えず飯だな!飯!」
シャワーを止め、
着替えを取ろうと部屋にでた。
(リナ)
「おー、あれ?小学生かな~?」
「残念!GⅥランクだね!」
その声の方に目を向ける。
何故かリナとレイナがベッドに座っている。
(悠)
「きゃ~!うそ~!」
「何でいるのよ~!」
悠は慌ててタオルで前を隠した。
(リナ)
「えー?ノックしたけど返答ないから心配して 入ったんだよ。」
「もしかしたら疲れて倒れてるかもって!」
「そしたらさ~。変な親父がぶら下げて出てきた の。粗末なものをぶら下げてさ。」
「とてもお粗末な顔をしながら。」
「ホントに粗末なものを携えて。」
(悠)
「なによ~!ビックリしたじゃない!」
「それに貴女。実はちゃんと見てないでしょ?」
「私どっちかって言うと、粗末じゃない方よ?」
「むしろ立派な方だもの!」
「もう一回見て、ちゃんと確認してごらん?」
悠が再びぶら下げようと、
腰のタオルに手をかけた時。
(レイナ)
「それ以上はやめてください~!!」
「警察を呼びますよ~!!」
レイナが顔を赤くし、叫んでいる。
目を閉じ、体を震わせている。
(悠)
「あらやだ!レイナちゃんごめんなさい!」
「もうしないから警察は止めて!」
「こんなことで、前科着けたくないわ!」
「前の不始末で、前(前科)はつけるなってね!」
(リナ)
「あんたは一体何をいってんのよ。」
「レイナ怯えてるじゃない。可哀想に。」
リナは冷めた目で悠を見つめていた。
(悠)
『そもそもシャワー中だと分かったら、
部屋を出るのがマナーだろうが!』
『何で見られた俺が悪いことになってんだ!』
悠は腑に落ちない怒りを、
頭の中で噛み殺していた。
(マザー)
「えーと、楽しい交流中に申し訳ありません。」
「皆さん今日はホントにお疲れ様でした。」
マザーがふよふよとどこからか現れる。
(マザー)
「今日1日。」
「色々あって大変だったと思います。」
「ですが…。クランハウスの件を考えると。」
「やはり、皆さんには、早い段階でこの世界につ いて理解して貰う必要があると思いました。」
「ですので、お疲れでしょうが、
もう少しだけお時間をいただきたい。」
「これから話すことは、この世界でクランとして 活動する上で、とても重要なことなんです。」
(悠)
「そうだよな~。勉強は大事だよな。」
「さっきも誰かさんが3歩歩いただけなのに。」 「マザーが教えてくれた、ありがた~いお言葉を 忘れてしまいましたからねぇ。」
悠は先ほどの怨みを込め、
リナに皮肉を言っている様だ。
すると……。
(リナ)
「ごめんなさい。
私のせいで皆に迷惑をかけてしまって…。」
「ホントにごめんなさい。」
「ああ、私。謝っても謝りきれないわ!」
意外にもリサは素直に謝っている。
まさかではあるが、
その目には涙も浮かべている。
(悠)
「いやいやいや!ウソウソウソウソ!」
「本気で言ったわけじゃないよ!」
「ちょっとからかうつもりでさ!」
「俺の方こそなんかごめんな!」
「まあ、済んだことだし!」
「あまり気にするなよ!」
「次から気を付ければ良いんだからさ!」
悠は必死にフォローしようと言葉を探した。
(リナ)
「いいえ!ダメよ!許されないわ!」
「あんなバカなミスをして!」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「…。本当に、《粗末な女で》ごめんなさい。」
「プー、くすくす。」
(悠)
「いや、お前!全然反省してねーだろ!」
(レイナ)
「二人とも~!もうホントにやめて下さい~!」
レイナの悲鳴により、二人は再び我に返った。
レイナがいないと全く話が進まない。
何だかんだで、一番この世界について。
真剣に向き合おうとしているのは、レイナなのかもしれない。
(マザー)
「レイナさん、ありがとうございます。」
「貴女もこれから気苦労なさるかもしれません ね。」
「では…。そろそろ本題に入りましょうか。」
マザーが場をしきり話を始める。
(マザー)
「さて、まずはじめに質問があります。」
「クランを結成するにあたり、今後の指針を決め たいのですが。」
「皆さんがクランとして活動する目的は?」
「見たところ、この世界についてあまりにも無知 だ…。」
「まるで最近、ステラに来たばかりの様に…。」
(リナ)
「うん。そだよ~。」
「私とレイナは2日前に来たばかり。」
「何か電車乗ってたハズなのに、駅降りたらここ の街に着いてたんだよね~。」
「いつもの大学前の駅で降りたハズなのに。」
「だからここの事は、な~んにも分かんない。」
(悠)
「あ、俺も一緒。」
「汽車降りたら二人にあった草原だった。」
「だから俺は、つい2~3時間前に来たばかりに なるのかな~?」
リナと悠があっけらかんとした様子で応える。
二人は自分達の状況を理解している様だが、何だか酷く緊張感が欠けている。
マザーは二人の話を、ふよふよ漂いながら黙って聞いている様だった。
(レイナ)
「私達は2日前にこの街に来て。」
「それから色々な人にお願いをして、
何とか日銭を稼いでいました。」
「けれど何も分からないし、誰に話を聞いても相 手にされませんでした。」
(リナ)
「それで埒が空かないから、レイナと二人で街を 出てみようって話し合って外を歩いていた。」
「そしたらあの狼達に襲われて、逃げてるときに ソコのおじ…。お兄さんに遭遇した。」
「まあ、簡単に言うとそんな所かしら。」
(マザー)
「なるほど…。最近違う世界からステラに来たば かり…。」
「だからクランや心具について知らなかった。」
「武器も持たずに、モンスターのうろつく外界に 出てしまった…。」
「一応…。辻褄はあっていますね。」
(悠)
「辻褄も何も、
本当にここが何処かも分かんないだよ。」
「帰れるもんなら早く帰って、
普通の生活に戻りたいんだが…。」
「なんかこっから帰る方法はないもんかね?」
「逆行きの汽車とかないの?」
悠はベッドに腰を掛けながら、マザーを見つめて話しかけた。
未だに現実感の湧かない状況。
どうせ直ぐに帰れるだろうと、
たかをくくっていた。
(マザー)
「残念ですが…。」
「私には皆さんがお話ししている汽車なるものが 何なのかも分かりません。」
「帰るも何も、ここは《ステラ》です。」
「ここ以外の世界があると言われても私には。」
(悠)
「いやいやいや。そんな訳ないでしょ。」
「現に俺たち来てるんだし。」
「来れるなら帰れるでしょ?」
「じゃあ駅は?この辺りの駅でもいいよ?」
「俺降りたの新宿だし。」
「まあ、乗り換え必要とかかもしれんけど。」
「駅出れれば帰れると思うよ。」
(リナ)
「私達は東京駅だよ。」
「取り敢えず駅まで連れてってくれれば、私も
後は勝手に帰れると思うけど。」
レイナはリナの横でコクコクと頷いている。
(マザー)
「すいません…。《駅》なるものは私には…。」
その言葉に3人の顔色は一瞬で雲っていく。
(悠)
「わ~ったよ!」
「じゃあ空港は!?バスは!?タクシーは!?」
「何だったら帰れるって言うんだよ!!」
ダアン!!
悠は苛立ちを抑えられなくなり、床を強く踏みつけていた。
そう。3人ともとっくに気が付いていたのだ。
光の玉が言葉を話し。
狼が二足歩行で走る。
そして…。
自分達の心が武器となり。
敵を打ち倒す力を得た。
こんな摩訶不思議な事がまかり通る世界から。
いとも簡単に帰宅するなんて事は、
どう考えても有り得ないと言うことを。
(レイナ)
「じゃあ…。やっぱり…。私達はここで…。」
レイナは涙を拭いながらうつ向いてしまった。
リナはレイナの頭を抱きよせ、
落ち着かせようと優しく撫で始めた。
(悠)
「ふざけんなよ…。」
「いきなりよく分かんねぇ所に着いたと思った ら…。」
「帰る手段は有りませんだと…。」
「ふざけんのも大概にしやがれ!」
「俺には帰る家も、
やらなきゃならない仕事だってあんだぞ!」
悠もうつ向き、苛立ちから拳を強く握りしめた。
瞳から涙が溢れてきそうになる。
正に八方塞がり。
雲をも掴む話を聞かされた気分だ。
(マザー)
「皆さん、落ち着いて下さい。」
「私には分からないお話ですが…。」
「もしかしたら、分かる人が広いステラには居る かも知れません。」
(悠)
「なんだって!?」
「なにか心当たりがあるのか!?」
悠はマザーの言葉に驚き。
顔を近づけて声をあげた。
(マザー)
「私が直接お会いした訳ではありませんが…。」
「過去に皆さんと同じような状況の方たちがい らっしゃったと聞いたことがあります。」
「その方たちが現れたのは、確か5年ほど前だっ たと記憶しておりますが…。」
「その後どうなったのか…。」
「足取りまでは把握しておりません。」
「しかし、その方達も《元の世界に帰る》事を目 標に、クランを結成したと聞いています。」
「ですので、
皆さんもステラ中を回ればもしかしたら…。」
(悠)
「もしかしたら…。もしかしたら、
帰れる可能性もあるかもしれない…。」
「けれど、
その人達の足取りは分からないんだろ?」
3人の目線がマザーに集中する。
マザーも話すべきか躊躇っている様だ。
重苦しい空気の中、マザーは重い口を開いた。
(マザー)
「はい…。誰にも分かっていません…。」
「何も情報がないのです。」
「現在の状況は、誰にも分からない様です。」
「分かっていることは1つだけ。」
「担当していた精霊とある日突然姿を消した。」
「それだけなんです…。」
「あまりに突然のことで…。」
「天使達が総力を上げて探した様ですが…。」
「誰もその後の消息を掴めなかった…。」
「そう…聞いています。」
「ステラの最高権力である、天部をもってしても 把握できない《何かが》彼らに起きた。」
「それ以外は…。何も…。」
「全く何も解明されていません…。」
「元の世界に帰ったのか…。それとも何処かに身 を隠したのか…。」
「誰にも分からぬまま、現在に到っています。」
「……。」
「…………。」
顔を曇らせたまま。
悠たち3人は少しの間言葉を失っていた。
簡単な状況でないことは察していたつもりだ。
しかし、話を進めていけば帰還に繋がるヒント位は得られるのではないか。
マザーと言う、この不思議な光る球体。
こんな驚くべき存在ならもしかしたら…。
そんな、願望にも似た期待を。
口に出さずとも皆が持っていたのだ。
だが、現実はあっさりとその期待を裏切った。
今後どれほどの時間をかけねばならないのか。
時間をかければ解決するのか。
何を差し出せば…。
誰に懇願すれば…。
答えは誰にも分からないのだ。
やり場のない不安だけが体にまとわりつく。
不安を何にぶつけていいかも分からない。
現実は突然に慈悲を失った。
彼らの思いは考慮せず。
鋭い事実だけを突き付けてきた。
何故自分達なのだ。
他の人物ではダメだったのか。
せめて、その理由だけでも…。
叶わないと分かっていても。
せめて受け入れるための。
納得するための理由を。
誰でもいいから与えて欲しい。
3人はそんなことを切に願っていた。
重い空気だけが室内を包んでいく。
受け入れたくない現実に、
顔を上げることさえ叶わない。
そんな3人を励ますように、
マザーが再び声をあげた。
(マザー)
「み、皆さん!取り敢えず落ち着きましょう!」
「まだ百パーセントダメと決まった訳ではありま せんし。もちろん私も可能な限り、協力させてい ただきますので!」
「今は5年前の方と同じように!」
「地道にクラン活動を行い、情報を集めましょ う!」
「それこそ、ステラの冒険者の中には、あなた方 と同じ境遇の方が他にもいるかもしれません!」
「まだ何も始まってはいないはずでしょう!?」
「ですから!どうか!
どうか諦めないで下さい…。」
「私を少しでも皆さんのお役にたててください!
マザーは3人を懸命に勇気づけようとしているのが伝わってくる。
その中で悠は考えて続けていた。
(悠)
『マザーの話は分かる。頭では分かる。』
『確かに帰れる可能性はあるのかもしれない。』
『5年前に来た連中…。』
『そいつらの動向も気になる。』
『もしかしたら、本当に帰れたのかもしれん。』
『希望はある…。けれど…。』
『けれど、そんなことが《俺に》できるのか?』
『誰もやったことがないような。』
『前例も伴わない、偉業とも言える結果を』
『特に取り柄もなく、
ただ漫然と生きてきただけの…。』
『平凡が取り柄みたいな《この俺》が…。』
『名前以外、特に何も知らない女の子達と。』
『保証も確証も得られないままで…。』
誰にも頼ることも出来ず。
直ぐに答を得られる訳ではない。
何も知らない世界で。
全てを手探りで探していく。
そしてやり遂げたその瞬間に。
彼らは恐らく、語り継がれる程の偉業を成し遂げる事になる。
(悠)
『スゲェな…。』
『きっとステラに名を轟かせる様な偉業だぞ。』
『もしかしたら新世界の冒険者として。』
『俺達の世界でだって。』
自分が成し遂げようとしている出来事の大きさに、悠は興奮し、武者震いを起こしていた。
(悠)
『スゲェ!誰もやった事が無いような偉業を!』
『語り継がれる様な偉業を!』
『こんな俺なんかに、
成し遂げるチャンスが回ってくるなんて!』
『こんなチャンスが…。』
『こんな凡人の俺に…。』
悠は兼ねてからある不満を抱えて生きてきた。
それは恐らく、誰しもが一度は感じた事のある。
ホンの小さな違和感にも似た感情である。
彼は人生をただただ普通に生きてきた。
悪いこともせず、
周りから大きく遅れた訳でもない。
けれどどれだけ年齢を重ねても。
何かを成し遂げた訳でもなく。
何かを産み出した訳でもない。
そして今後も…。
そんな予定はないことを理解していた。
小中高・大学・就職。
年齢毎に訪れた選択肢は、取り敢えず無難そうな道をダラダラと歩いた。
中の中。大半の人と同じレール。
特に道をそれた覚えはない。
けれど幼い日に夢見た。
幼い頃に聞かされていた。
夢の様な。夢を与える様な立派な大人には、
この道ではどうも辿り着くことはないらしい。
誰からも頼られ、必要とされる自分。
周りには笑顔が溢れ。
誰からも一目を置かれる。
自分の名前は日本中の皆が知っている。
毎日テレビやネットに出てくる様な人気者。
幼い頃は、生きていれば自然に、そんな人生に行き着くのだと信じていた。
そうなれると、周りの大人達にも言われ続けていた気がしていた。
今頑張らなければ将来が。
今やらなければ就職が。
いつからか将来の夢の話が、
将来の安定した生活の話にシフトしていた。
おいおいちょっと待ってくれよ。
いつから俺の選択肢は、
そんなに狭くなっていたんだ?
テレビに出てるあの人達は?
いつあんな華やかな道に進む
選択肢があったんだ?
これまでの人生。
言われたことは最低限やったはずだし。
世の道とやらも踏み外した事はない。
けれど気が付けばいい年になり。
華やかな世界に行き着くハズの選択肢は消え去っていた。
『あれ?どっかで見落としたか?』
『いや、そんなハズはない。』
『あったら絶対に飛び付いたハズだ…。』
そしてある時気が付いたのだ。
言われた通りにしか生きられない人間には。
その選択肢は絶対に発生しないという事に。
周りの大人達は厳しい言葉で、その選択肢を異物としてひっそりと排除していたのだ。
あれをやれ!これをやれ!この道が正しい!と
選択に揺れる我々を、親や教育者と言う絶対的な権力で押さえつけ。
言われた道を真っ直ぐに進め!と。
強制的に選択肢を削っていたのだ。
今にして思う。
『いくらなんでもそれは卑怯なんじゃねぇか?』
何も知らない子供に、正しい道だと擦り付け。
世の中には夢が溢れていると吹き込みながら。
実際にその選択肢を選ばせるつもりはない。
ならせめて教えて欲しかった。
『はい。有名になりたい人は手を上げて~。』
『これから有名に成れるかテストしますよ~。』
『このタイミングを逃したら、
もう貴方は有名人には成れませんよ~。』
『ここでダメなら他の仕事に着いて下さい。』
『貴方には見込みが有りませんから。』
ってさ。
いつ失ったかも分からない選択肢で。
何年も何年もモヤモヤさせないでくれ。
いつ自分が凡人に決定したのか。
せめてそのタイミング位
教えてくれてもいいだろう?
やれと言われた事をやった。
世の摂理もきちんと守ってきた。
その先には凡人ルートしか無いことが分かっていれば、一回どっかでチャレンジしたかもしれないのに。
『凡人には凡人なりに、
ちゃんと不満があるんだよ!』
『誰が好き好んで凡人になんかなるか!』
『チャンスがあるのを知っていれば、賭けに出て たに決まってんだろうが!!』
彼はよく、そんな心の葛藤を覚えていた。
刺激もなく、ただ繰り返されるだけの毎日に。
家族がいる幸せを感じながらも、どこか拭えない不満を持ち続けてきた。
(悠)
『これはチャンスなのかもしれない!』
『俺が凡人を抜け出すための!』
『最後にして最大の!』
悠の心は期待に溢れ震えていた。
平凡な日常から脱出できる。
どんな辛い道であろうと。
始めて彼は、《選択する機会》を得たのだから。
(悠)
「う~ん。どうだろう…。」
「俺にそんな大それた事できるかな~。」
心とは裏腹に、言葉は慎重であった。
そう。彼は知っているのだ。
やりたいと言う思いは強くとも。
自分はやはり凡人であるという事実を。
いざ選択を迫られてしまうと、やはりそういった普段の自分が顔を出すのだ。
『実に情けない話だ』と、彼自身も感じていた。
しかし、そんな彼の苦悩を他所に。
若い二人は即座に、自らの足で困難を切り開く決意を固めていた。
(レイナ)
「わ、私…。やります!」
「が、頑張って。…みます!」
(悠)
「え!?」
悠は驚いて顔をあげた。
意外にも口を開いたのはレイナだった。
(レイナ)
「私一人じゃ…。ダメかもしれないけど…。」
「リナちゃんが…。みんながいるなら…。」
「私は…。諦めたくない…。です…。」
レイナは泣き出しそうな顔になりながらも。
視線は真っ直ぐにマザーを見つめていた。
出会った時から感じていた。
レイナは気が小さいく、
自分に自信が持てない無いようだ。
だが決して、心が弱いわけではない。
決断する勇気を持っている。
きっと、優しいだけなんだ。
相手を傷つけるのが怖い。
その感情が彼女の闘志を上回っているのだ。
優しすぎるが故に自己主張ができない。
『何だかそれって凄く人間らしいな。』
悠は彼女を見て、そんな事を考えていた。
(リナ)
「私も私も~!こんなんで絶対諦めたくない!」 「また家族と友達と会いたいし!」
「何もしないで諦めるのなんて絶対に嫌!」
「だから私も、一緒に頑張るよ!」
「やってやるよ!私達ならきっとできるよね!」
リナも続いた。
表情には何の迷いもない。
寧ろやってやるという、
強い気持ちが溢れでている。
二人の発言に、
悠は心が締め付けられる思いがしていた。
(悠)
『凄いな。二人とも。あんなにあっさりと。』
『ああ、なんか眩しいな。二人が眩しい。』
どんな物事にも明るく前向きな姿勢。
どんなに怖くても立ち向かう勇気。
人を信じ、何よりも《自分を信じている。》
(悠)
『俺一人なら…。』
『チャンスだ!とか思いながら…。』
『やっぱり俺には無理だ~。』
『とか言い出して、逃げ出してたかもな…。』
『結局自分には何も変えられやしない…。』
『それなら現実を受け入れる…。』
『とか格好つけた言い方をしてさ…。』
『いや、それは違うのか。』
『俺はいつも受け入れた《ふり》をして、
行動しないでいただけなのかもな。』
『自分が頑張って、それが報われなくて…。』
『やるんじゃなかったって、後悔するのが怖いだ けなのに…。』
『冷静に考えた結果だと。』
『いつも言い訳を隠れ蓑にして、
身を縮めて動かないだけなのだろう。』
『本当は自分にも何かできると信じたい!』
『何かを変えられると証明したい!』
『自分を!周りを!』
『変えて周りを驚かせたいんだ!』
悠には、二人が眩しかった。
自分の可能性を信じている二人が。
(悠)
「そうだよな…。二人の言う通りだ。」
「まだ、何も分からないんだ…。」
「それなら、それなら頑張るしかないよな!」
悠は二人に向かって笑顔を見せた。
けれど、本当はそんな風には思えていない。
ただ自分を信じて頑張るという二人が眩しくて。
自分も二人と同じだと思いたくて。
本心とは違う言葉が口をついた。
二人は嬉しそうにこくこくと頷いている。
悠を見て安心したかのように、涙を拭きながら笑っていた。
それを見て、悠は黙って二人に親指をたてた。
(リナ)
「なにそれ古いよ。」
リナが笑いかける。
自分を。仲間を。心から信じて決断した。
全員で前を見ている。
そう信じる二人を裏切った。
そんな罪悪感が悠の心には広がっていた…。
(悠)
『それでもやってみようとは思えた。』
『久しぶりに何だか、
逃げずに踏ん張れた気もするな。』
しばらく時間が経ち、皆が落ち着き始めた頃、
マザーが再び語り始めた。
(マザー)
「元の世界に帰る方法は必ずあります。」
「ですから今は出来ることから始めましょう!」
(リナ)
「そうだね!」
「なにもしない方がきっと後悔する!」
「私は、いや私達はそう思うよ!」
リナの口調は明るさを取り戻していた。
当面の予定が決まったこと。
そして何よりも、仲間と心を同じにできたこと。
彼女はそれを心から喜んでいるのだろう。
(マザー)
「では、当初の予定通り!」
「今からこの世界について、概要を順を追って説 明させていただきます!」
「クラン活動をする上でとても大切な事です!」
「皆さんきちんと聞いて下さいね!」
マザーはみんなを励ますように、明るい口調で話し始める。
ステラとは何か。
先ずは相手を知ることから始めようと、皆は心に誓っていた。
○ステラと帝
(マザー)
「まず、この世界の現状からお話しします。」
「ちなみに皆さんは、世界全体のことをなんと呼 んでいましたか?」
(リナ)
「世界全体?地球…。のことかな?」
(マザー)
「なるほど地球と言うのですね。」
「やはり聞いたことがない呼び方です。」
「ちなみに我々の世界は《ステラ》と呼びます。
先ずはこれを見て下さい。」
マザーが光の中から、
大きな地図を取り出した。
(マザー)
「地図を見て下さい。」
「この通り、ステラには大きく分けて6つの大陸 が存在しています。」
「順に炎の大陸・水の大陸・風の大陸・大地の大 陸・霧の大陸。」
「そして、現在は誰にも見ることが出来ない。」
「けれど機能は維持されており、未だに必ず存在 しているとされる。」
「ステラの最高権力。《天の大陸》です。」
「それぞれの大陸には、その属性を司る6体の 精霊が存在すると言われています。」
「所謂《6大精霊》と呼ばれる存在。」
「各大陸において、
絶対的な信仰の対象とされている。」
「ステラを象徴する6体の精霊達です。」
「レイナさんが魔法を使う際に、少しだけ説明し ましたが、魔法というのはこの精霊の加護を力に 変え発動しています。」
「各大陸の名前は、
そこを治める精霊の属性に由来しています。」
「炎の大陸は炎の精霊が。」
「水の大陸は水の精霊が治めているのです。」
「そして、それぞれの大陸は…。」
「その精霊の力を誰よりも強く受け継ぎ…。」
「時に人智をも越えるとされる。」
「そんな心具をもつ人物達が統治しています。」
「それぞれの大陸を統べる王。」
「《帝》(みかど)の名を冠する方たちです。」
「炎の大陸は炎の帝が。水の大陸は水の帝が。」
「風の大陸は風の帝が…。といった具合です。」
「それぞれの帝は、大陸に拠点をもつ多くのクラ ンと同盟を締結しています。」
「皆、帝の後ろ楯を得ることで、他のクランとの 争いを可能な限り回避し。」
「帝は多くの戦力と広大な情報網を得ています」
「それ故に、帝の力は絶大であり。」
「その影響力は計り知れません。」
「各大陸の人達は、その力故に、帝は精霊の化身 であると考え、精霊同様に信仰の対象としていま す。」
「また帝達は、ステラで唯一精霊と直接交信でき ると言われています。」
「これも帝が信仰の対象足る、
由縁と言われています。」
「そして何よりも…。」
「その強さは絶大です。」
「個人のランク及び所属するクランのランクは間 違いなく《GⅠ》ランクであろうと言われていま す。」
「なぜ断定出来ないかと言うと…。」
「そのあまりの強大さに、そもそも挑むものがい ないこと。」
「そして、挑んだとしても、無事に帰ってこれた ものがいないため。とも言われています。」
(レイナ)
「あの……質問なんですが…。」
レイナが恐る恐る手を上げる。
(マザー)
「あ、はいどうぞ。」
(レイナ)
「その…。6人の帝さんたちは、他の大陸を奪お うとはしないのですか?」
「クランを大きくするには、そういうことも起こ りそうな気がするのですが…。」
(悠)
「あ~確かに。そんだけ強いんなら、他の大陸を 手にいれようと考えそうなもんだよな。」
「なんか同盟とか組んでるみたいだし。」
「ステラはどの大陸も仲良くやってるのか?」
(マザー)
「お二人がお考えの通り…。」
「過去にはそういった争いが絶えない時代もあり ました。」
「過去と言っても、
そんなに前でもないのですが…。」
「しかし、現在は一応均衡を維持し、
平静を保ち続けています。」
「その理由の1つとして、実はそれぞれの精霊に は属性毎に相性があるのです。」
「では、地図を見て下さい。」
「それぞれの大陸の位置ですが、
まず一番西が炎の大陸です。」
「その右上。北側が水の大陸です。」
「さらにその右下。東側が霧の大陸です。」
「地図の中央。この大陸が大地の大陸です。
「そして一番南。これが風の大陸です。」
「偶然ですが、実はステラでは愛称が良い相手と 悪い相手が隣り合っているのです。」
水
∟ Г
火 大地 霧
ゝ ┐
風
(リナ)
「あれ?天の大陸は?」
「大地も相性とか争いとかないの?」
リナが尋ねた。
(マザー)
「天の大陸は現在消息不明です。」
「ステラの空。その何処かに必ずあると言われて いますが…。」
「現在は誰にも
その位置を把握できていません。」
「ですので、地図には記載がないのです。」
「また、天の大陸はどの大陸にも中立です。」
「天の大陸がステラに秩序をもたらし、
そのルールが全ての大陸に適応されています。」
「天の大陸は世界の統治者のため、
侵略や争いの対象とも少し違いますね。」
「争うなんてとんでもない。」
「敬虔なステラの民であれば、反逆を企てた段階 で、行いを恥じて自害の道を選ぶでしょう。」
「天の大陸。天の帝は全ての精霊の創造主。」
「歯向かうなんておこがましい想いは、誰一人と して持ちようがないのですよ。」
(リナ)
「見えなくなっても統治は続いている。」
「そして信仰の対象として、
今も崇められ続けている。」
「私たちには、ちょっと理解しがたいわね。」
「まあ、それぞれ文化があるから仕方ないか。」
「それで?大地の大陸は?」
(マザー)
「はい。実は大地の大陸は
少し特殊な事情を持っています。。」
「ここは地図にある通り、
ステラのほぼ中央に位置している。」
「つまり各大地からほぼ等距離にあるのです。」
(レイナ)
「確かに~。本当にまんまん中ですね~。」
「四方を囲まれ大変そうです。」
(マザー)
「はい。正にその通りです。」
「ステラの中央に位置するこの大陸は、四方を他 の大陸に囲まれ、常に侵略の恐怖に晒されていま した。」
「各大陸はこの大陸の覇権を争い、大きな争いが 何度も繰り返されたと聞きます。」
「位置を考えても、各大陸を牽制する上で、
制圧すればとても重要な拠点になり得ます。」
「不運な話ですが、争奪戦となっても仕方がな いとも言えるかもしれません。」
「大地の大陸はそんな侵略の恐怖に怯え、何百年 もの間、耐え忍ぶ生活を続けていた様です。」
(悠)
「そりゃあ…。気の毒な話だな…。」
「ただ位置が悪かったってだけで。」
「大地の大陸の人達はずっと辛い思いを。」
(マザー)
「はい。正に悲劇としか言いようがない。」
「しかし、実はここ数年。」
「その立場は一変されようとしています。」
「その原因となったのが。」
「ステラに《信仰に対する新たな教義》が加わ り。」
「経済に対する《新たな観念》が広まった為。」
「と言われています。」
「所謂宗教・経済革命の様なものですね。」
「ちなみに仕掛人は大地の帝。
正にその人です。」
「彼は、ステラ統一通貨の作成や、海運による自 由な貿易。」
「それによる争いの減少や大陸間のインフラの発 展を唄い、各大陸を説得していきました。」
「そして見事、大地の大陸を、各大陸の海運主要 拠点と設定する事に成功。」
「これに伴い、大地の大陸をステラにおける公的 な経済交流の場と認めさせました。」
「これにより、現在のステラの交易は、全て大地 の大陸を介して行われる事になりました。」
「その後は交易の公平性を維持する事を名目に、 各大陸と平和条約を結び、全ての大陸に対し、一 切の武力介入を禁止した。」
「つまり…。大地の大陸をどこにも属さない中立 な産業都市とすることで、長年続いた各大陸から の侵攻を終了させた訳です。」
「この期間、時間にして僅か2年。」
「大地の帝の政治力の高さを証明するエピソード として、今やステラ中の語り草になっている位で す。」
「そして…。」
「各大陸は大地の大陸に産業品を持ち込み、安心 して貿易を行う事が出来る様になりました。」
「長くなりましたが、以上から大地の大陸は他の 大陸に侵略される心配がありませんので、相性相 関図には矢印が入っていないのです。」
「いや~本当に。大地の帝様の偉業足るや」
「語る方も、思わず身震いするほどに素晴らしい ものばかりですね。」
(悠)
「はえ~…。」
「なんか、スッゲェ~な。大地の帝。」
「長年続いた争いをそんな形で終結させるなんて。」
「しかも百戦錬磨の他の帝達を一人で。」
「余程弁のたつ男なんだろうな~。」
「流石は帝だ。政治力も超一流なんだな。」
悠はマザーの説明に感嘆の声をあげた。
一人で大陸を戦争の悲劇から救い出した
《大地の帝。》
その見事な手腕に、心から尊敬の念を抱いていたのだ。
(マザー)
「はい。本当にその通りです。」
「恐らく彼の資質は、政治力やカリスマ性に高く 分類されるものなのでしょう。」
「しかしG1クラスの資質となると、達成する偉 業の凄さも桁違いですね。」
その言葉を聞き、
リナはおもむろに右手をあげた。
(マザー)
「はい。リナさん。どうされました?」
(リナ)
「いや、ちょっと気になったの。」
「資質って言うのは、やっぱり単純な強さを表す 指標ではないのね?」
「カリスマ性とか、政治力とか…。」
「不確定な要素も込みで認定される訳?」
(マザー)
「ええ。仰る通りです。」
「資質とはその人が有する器の大きさ。」
「武力に秀でる人もいれば、産業や経済。」
「政治、学問。他人を惹き付ける何か。」
「そういったその人物を構成する全ての要素を包 括して、資質という言葉が使われるのです。」
(悠)
「ふ~ん。そういうことなのか。」
「じゃあ、大地の帝はどっちかと言うと武力より も知力で勝負するタイプなのかな?」
「何だか現代的な戦いをする相手って事かな。」
(マザー)
「確かにそうとも言えるかもしれません。」
「人が現す《強さ》には様々な形があります。」
「単純な戦闘能力から知力やカリスマ性。」
「それこそ時代によっても
変化していくものでしょう。」
「ですが、流石にGⅠクラスとなれば、戦いにお いても化け物染みた強さを有するでしょうね。」
(リナ)
「なるほどね~。」
「じゃあバトルタイプじゃない大地の帝であろう と、私達が戦いを挑むのは、まだまだ無謀な話っ て事か。」
「な~んだ。資質の方向が違うなら、バトルに持 ち込めばイケるかと思ったのにな~。」
(マザー)
「いやいやいや。」
「先程お話しした通り。」
「帝クラスの強さは常軌を逸しています。」
「挑もうと考える人間は、ステラ中を探しても貴 女位ですよ。」
(レイナ)
「リナちゃんは相手が強ければ強いほど燃えるタ イプですからね~。」
「一番強いと言われたら、真っ先に挑んでしまい そうです…。」
(リナ)
「組織を潰すなら頭から!」
「戦術の基本じゃない!」
(悠)
「お前は先ず自分の頭をどうにかしろよ。」
「ホントにマザーの話聞いてるのか?」
(リナ)
「何よ~。」
3人の空気は大分和んできていた。
全くタイプの違う人間の集まりだが、それなりに上手くやっていけそうな気がしてくる。
(マザー)
「皆さんなかなかいい雰囲気です。」
「皆さんなら、きっと素晴らしいクランになって くれるでしょうね。」
「さて、では大陸間の相性の話の続きをしま すね。」
「大地の帝の手腕により、今現在のステラは休戦 状態に入り、大きな争いは中断されています。」
「そもそも、元々相性のいい相手。」
「悪い相手に挟まれている訳ですから。」
「どの大陸も迂闊には動けない状態なのです。」
(悠)
「なるほど。相性のいい相手に攻め混むと。」
「反対側の悪い相手への防御が手薄になる。」
「そうすると、自分の大陸を守れない可能性があ る。」
「どの大陸も迂闊には動けない。」
「何だか昔の冷戦みたいな状態だな。」
(マザー)
「皆さんの世界でも、
同じような事があったんですね。」
「強い力を持つものが集まれば、自ずと戦況は均 衡を維持し始める。」
「これが果たして正しいことなのか。」
「今現在は誰にも分からないのです。」
「さらに悪いことに…。」
「現在、6つの大陸のうち…。」
「霧の大陸と天の大陸の状況が、他の大陸の帝に も掴めなくなっているのです。」
(リナ)
「さっきも言ってたけど、掴めないって何?」
「しかも霧の大陸もなの?」
「一応天の大陸の管理は続いてるし。」
「霧の大陸を含めた、
大陸間の均衡も続いているんでしょ?」
(マザー)
「その通りなんです。」
「もともと天の大陸は、ステラの上空に浮遊し、 クランの活動の支援や違反行為の取り締まりを 行っていました。」
「この活動は現在でも続いています。」
「クランの結成やバトルの管理、ステラの規律違 反者の取り締まり等、対応事態に変化は見られま せん。」
「私も皆さんのクラン結成の手続きを申請しまし たが、通常通り受付はされていました。」
「しかし、何故他の大陸から見えないのか。」
「何故急に姿を消したのか。」
「やはり誰にも分からないのです。」
(悠)
「消えたって言うのはいつ頃からなんだ?」
「それまでは普通に空に浮いていた訳だろ?」
(マザー)
「ええ。ステラの空をランダムに
周遊していました。」
「突然姿が消えたのは約5年前の出来事です。」
(リナ)
「5年前!?」
「確か私達より前に
こっちに来た人達がいたのも…。」
(マザー)
「はい。同じく5年前になります。」
「そしてこれに絡んでいると言われているのが、 問題の霧の大陸なのです。」
(レイナ)
「霧の大陸と天の大陸の間で、
何かがあったんですか?」
(マザー)
「確定的な事は分かりません。」
「ですが、霧の大陸も5年前、その名の通り、大 陸の周りに大量の霧を発生させ、その姿を隠して しまったのです。」
「霧は非常に濃い魔力を帯びていて、外部から侵 入しようとしても、霧が侵入者を惑わせ、外に放 り出されてしまう。」
「つまり、外部からの侵入を不可能としたので す。」
「それと時を同じくして、空から天の大陸が姿を 消しました。」
「他の帝たちは、霧の帝が天の帝を倒し、天部を 支配したのではないか。」
「もしくは二人の帝が手を組み、何かを企んでい るのではないかと疑っています。」
「天部が支配されたとなると、クランの維持やバ トルの管理権を、霧の帝が思うように操れるよう になります。」
「そうなれば、いかに帝たちと言えども、自分た ちの領土を守りきることは難しいでしょう。」
「そして二人の帝が手を組んだとすると事態は更 に深刻です。」
「何故なら、天の帝は当然ですが…。」
「霧の帝の強さも、他の大陸の帝を凌いでいると 言われていました。」
「霧の大陸の魔法は特殊で、人を混乱させたり、 貶めたりする効果に特化している為です。」
「二人の帝が秘密離に手を組み、他の大陸に戦い を挑むことになれば、抗う術はないでしょう。」
「本来であれば四人の帝同士で協力し、事態の収 拾に努めるべきなのですが…。」
「これまで争ってきた歴史もあり。」
「お互いを信頼し、領土を空けることに抵抗があ る様です。」
「万が一、留守の間に他の帝が攻め混んでくれ ば、どちらにしても領土を守る術はないですから ね。」
(悠)
「なるほどね。共通の敵はいるが、歴史が邪魔し てお互い手を組みづらい。」
「けれど、霧と天の動向も気になる。」
「そうとうなジレンマだな。」
「それと5年前に現れた連中。」
「やっぱり今の状況に、
そいつらは絡んでいる気がしてならない。」
「俺達のターゲットは一先ずそっちだな。」
(リナ)
「な~んか難しい。情勢はよく分かんないや。」
「皆気にせず好きなようにやればいいのにね。」
「でも、取り敢えず5年前に何が起きたのか。」
「そこを調べていく必要があるのは
間違いないよね。」
(レイナ)
「5年前に来た人達が、何かステラに大きな影響 をもたらしている。」
「私達が帰る方法も、きっと彼らなら…。」
(マザー)
「皆さんの活動の指針が見えて来ましたね。」
「さて、ステラの情勢については、ある程度理解 していただけたでしょうか?」
「あくまで基本ですが、取り敢えずはこんな所か と…。」
「ちなみに我々は現在、炎の大陸のグレイスとい う街にいます。」
「一応ここは、炎の帝のお膝元に当たります。」
「もしかしたら、クランハウスの一件は、既に炎 の帝の耳に入っているかもしれません。」
「まあ、どちらにしても駆け出しのクランである 我々は、しばらくここに拠点をおいて地道に情報 収集を行うべきでしょう。」
「警戒されたとしても、やるべき事に変わりはあ りませんからね。」
(悠)
「だな。先ずは自分達でやれる事をやろう。」
「それこそ地道にコツコツとな。」
3人は顔を見合わせて頷いた。
(マザー)
「同意いただいて光栄です。」
「では、次はクラン活動について
基礎的な事からお話ししますね。」
○クラン活動について
(マザー)
「さて、次はクラン活動に関する一般的な知識を お伝えいたします。」
「皆さんには先ず
《クラン端末》をお配りしますね。」
マザーは光の中から、時計のような形をした機械を取り出した。
(マザー)
「では皆さん、それを腕に巻いてみて下さい。」
悠たちは言われた通りそれを腕に巻き付けた。
(マザー)
「この端末ですが、自分たち及び対戦したことの あるクラン。そして同盟先。」
「同盟まではいかないまでも、お互いに端末情報 を交換したクラン。」
「そういったクランの、
現在の情報を見ることができます。」
「具体的に見ることが出来る内容は。」
「クラン名」
「クランのランク」
「クラン構成員名」
「構成員のランク です。」
「それ以外にも、登録をしたクラン同士であれ ば、端末を通して連絡を取り合うこともできま す。」
「お3人の様に、同じクランの仲間は基本的にい つでも連絡が可能です。」
「また、対戦したクランに不必要な情報を知られ たくなければ、そのクランを登録から消すことも 可能です。」
「更に、この端末ですが…。」
「クランのランクに応じて、
その機能が強化されていきます。」
「上位ランククランになると、相手クランの位 置情報の把握。」
「バトルの際には、相手に簡単なルールを強いる こともできます。」
「クランランクが高いと、端末を通してそういっ た様々な面での恩恵を受けることが出来るので す。」
(レイナ)
「あの……。」
「クラン同士のバトルということは……。」
「やっぱり人同士で戦うこともある。」
「ということですよね…?」
レイナがオドオドと手を挙げ質問した。
(マザー)
「はい。当然人間同士で戦う機会もあります。」
「ですがその際、最低限のルールとして。」
「相手を直接的に殺傷する行為は禁止されていま す。」
(悠)
「なんだ。殺し会いはしないのか。」
「良かった~。」
「戦いで殺されるなんてまっぴらだからな。」
(マザー)
「はい。一応その部分は安心して下さい。」
「このルールが制定されたのは、約8年前。」
「本当に最近なのですが、争いが耐えないステラ の中で、何とか和平を制定するため。」
「現在の帝たちが話し合いの末に決めました。」
「そして現在では、《不可侵の絶対的なルール》 になっています。」
「それまでは実際に、相手の殺傷も認められてい ました。」
「長きに渡り戦争をしていたのですから当然です ね。」
「ですので新たにこのルールが加えられた際。」 「ステラの中でも大きく賛否が別れました。」
「しかし、今のステラの均衡が維持できているの は、このルールの制定が大きいと言われていま す。」
(リナ)
「ルールに違反するとどうなるの?」
(マザー)
「ルールに反した行為を行うと、天部が派遣する 天使により、連行され幽閉となります。」
「この機能は現在も維持されています。」
「なので悪い事をすると牢獄行きです。」
「十分に注意して下さい。」
(悠)
「何故そこで俺をみる。」
(リナ)
「アンタが一番可能性が高いからよ。」
(マザー)
「…。話を続けます。」
「ですが、殺傷までいかなければ、重度の障害が 残る攻撃は可能です。」
「バトル後に後遺症により死亡したとしても、罰 を受けることはありません。」
「攻撃の影響で高い場所から落下し、死亡したと しても罪には問われません。」
「あくまで、《直接的に》相手を殺傷する行為が 許されないだけです。」
「その部分は十分に注意して下さいね。」
(悠)
「やり方によっては後遺症を与え、
事実上二度と戦えない体に出来るわけか。」
「悪党が考えそうなやり口だな。」
(レイナ)
「死ななければ何をしてもいい。」
「ルールがある様で、
空洞化してるとも言えますね。」
(マザー)
「仰ることは最もです。」
「それでも無かった頃に比べると、世の中は格段 に平和になりました。」
「帝たちはこれから、更なるルール改訂を検討し ているのかもしれませんね。」
(リナ)
「だといいけど…。」
「結局今の膠着状態が崩壊すれば全部元通り。」
「私達の世界でもよく聴く話だしね。」
(マザー)
「そうなんですか…。けれど私としては、
そうならないことを願いたいですね…。」
「ちなみにバトルの終わり方ですが。」
「基本的には、相手のギブアップ。」
「もしくは、全員戦闘不能になったと判断された 段階で終了します。」
「念のために付け加えますが、クランに所属しよ うと死は絶対です。」
「冒険者だから死んでも生き返るなんてことはあ りませんからね。」
「人生は一度きり。」
「これは等しく絶対の原理です。」
「バトルに附随するルールとして、冒険者は街の 中でのバトルを禁止されています。」
「単純に一般人や他のクランを巻き込まないため です。」
「このルールに反しても、当然天部による処分の 対象となります。」
「また、街の内外を問わず、バトル以外で故意に 人を傷つける行為は禁止されています。」
「バトル以外の暴力は犯罪です。」
「これも絶対に頭に入れておいて下さい。」
(悠)
「リナ。分かったか。」
「挑発にのって手を出して捕まるなよ。」
(リナ)
「なんで私に言うのよ。」
(悠)
「お前が一番可能性が高いからだよ。」
(マザー)
「…。」
(マザー)
「話を続けますね。」
「クランバトルを行う場合ですが、手続きとし て、端末を通して天部への申請が必要です。」
「申請を受けると、天部からバトルを監督する天 使が派遣されます。」
「天使はそのバトルのみに適用されるルールを設 定し、両クランはそのルールの範囲内で戦うこと になります。」
「基本的には、地形などから絶命の可能性が高い 行為を禁止する事が多いみたいですね。」
(悠)
「クランバトルを挑まれたときに、
拒否することは出来ないのか?」
「できれば人間同士で戦いたくないんだが。」
悠の質問に対し、
レイナもこくこくと頷いている。
(マザー)
「一応拒否も可能です。」
「ですが、一度拒否をすると、その後のクランラ ンクに大きな影響が出てきます。」
「特に格上のクランが、下のランクのクランから の申し出を断ると、今後のランクアップの確率が 大幅に低下します。」
「状況によっては、その場でランクダウンする 場合もあり得ます。」
「ランクの上下については、天部により判断され ます。」
「これまでのクラン活動の内容や、バトルの成績 などで評価される様です。」
「以上から、絶対とは言いませんが。」
「クランランクの継続及びアップを願うなら、
バトルの拒否はおすすめできませんね。」
(リナ)
「あまりこっちからは挑まないで、
来た奴を片っ端から叩く!」
「それでいいんじゃない?」
(レイナ)
「うう~…。」
「そうだとしてもやっぱり怖いですよ~…。」
レイナは小さく体を震わせている。
(マザー)
「なお、クランバトルは目標や依頼が被った場合 に起こりやすいものです。」
「ステラには多数のクランがあります。」
「酷な話ですが、割りと頻繁にあることだと思っ たほうが良いと思います。」
(悠)
「同じ依頼を受けると、あくまで成功したクラン に報酬が与えられる。」
「まあ、そんな所なんだろ?」
(マザー)
「正にその通りですね。」
「クラン活動はバトル以外にも。」
「クランハウスを通して受ける一般的な労働や、 慈善事業なども存在します。」
「クランのランクに応じて、与えられる仕事の内 容も変わりますし。」
「高いランクのクランは、報酬や社会への影響力 の高い依頼を受けられる訳です。」
(リナ)
「これは分かるよ!!」
リナが立ち上がり叫んだ。
「要するに沢山依頼を受けて、どんどん私たちの 名前を世の中に知って貰えばいいんだ!」
「そしたらまた依頼が来て、お金が貯まって、
有名になる!そしたらランクも上がる!」
「とても分かりやすい!」
リナが得意気に話している。
(マザー)
「単純に言うとそういうことですね。」
(リナ)
「よっし!少し分かり始めたよ!」
時々ホントに女の子かと疑いたくなるほど、リナは実に分かりやすい性格をしている。
(マザー)
「さて…。せっかくですので、まずは自分達のク ランのランクを確認しましょう。」
「リナさんお願いできますか?」
(リナ)
「任せなさい!」
「えーと、クラン情報、クラン情報と…。」
「あった!ディープインパクト!」
「クラン構成員 3人
悠兄 個人ランクGⅢ
レイナ 個人ランクGⅢ
私 個人ランクGⅢ
クランのランクは…。は!?《GⅤ!?》」
「ちょっとなんでGⅤなのよ!?」
「私たち平均でも個人ランクGⅢなのよ!?」
「それより低いってどういうこと!?」
「何よこれ!壊れてんの!?」
リナが血相を変えてマザーに詰め寄った。
(マザー)
「り、リナさん。落ち着いて下さい。」
「先ほどもお話しましたが…。」
「クランランクは、
強さだけで決まるものではありません。」
「クランとして活動の成果をあげ、個人の力もあ げていく中で、ランクは上昇していきます。」
「人数も少なく、駆け出しの皆さんのランクが低 いのは当然のことなんです。」
マザーはたじろぎながら、リナを諭すように話しかけている。
(マザー)
「ですから、私が今日の最後に皆さんにお伝えし たいのは…。」
「先ずは、明日からクランハウスで依頼を受け、 情報収集とランクの上昇を目指しましょう。」
「ということです。」
(リナ)
「……」。
「そうですか。分かりましたよ~だ。」
リナは返す言葉がなかったようで、ブスッとした表情で椅子に座り直した。
(マザー)
「さて…。一旦はこれくらいでいいでしょう。」
「今日は沢山話を聞いて、色々あって疲れたで しょう。」
「そろそろ解散して明日に備えませんか?」
マザーの言葉を聞き時計を確認する。
既に時間は11時を回っていた。
(悠)
「確かに疲れたな。よし!もう休もう!」
(リナ)
「確かにこれ以上は無理。頭破裂する。」
「取り敢えず寝ようか。おやすみ~。」
(レイナ)
「悠兄さん。マザー。おやすみなさい。」
二人も部屋に戻り、本当に長い1日が終わりを迎えた。
明日からはいよいよクランとしての活動開始だ。
期待と不安を胸に
皆は眠りについたのであった。