水の章 クランバトル編 二回戦Ⅲ
○ レイナのバトルⅤ
(実況)
レイナ選手の凄まじい魔法が遂に炸裂!
辺りは土煙と水の雫に満ちております!
しかし…!この破壊力では…!
果たして畑選手が、生存しているのでしょうか?
私達の関心は…。
今正に、その一点に向けられております!
(観客)
すっげ~威力…。
あんなの形も残らねーだろ…。
あの娘可愛い顔して、なんてことやらかすんだよ…。
バトル大会であって、殺しあいじゃないんだぞ。
え?幽閉?
あの娘捕まっちゃうの?
おいおい…。
どうなっちまうんだよ?
洒落になんねーぞこれ。
実況も観客も、あまりの出来事に騒然としている。
誰だって、目の前で人が殺められる瞬間など見たくはない。
ましてや、これはバトル大会だ。
ルール無用の殺しあいではない…。
レイナの突然の行動に…。
俺達も未だに何が起こっているのか。
頭の整理が追い付かずにいた。
(悠)
嘘だろ…。レイナの奴…。
ホントにやっちまいやがった…。
あの優しいオジサンを、消し飛ばしちまった…。
俺はあまりの出来事に、膝をついて俯いた。
手が震え、息が苦しくなる。
目の前の光景が信じられない。
現実を受け入れる事が出来ず、俺はパニックを起こし始めていた。
(悠)
『どうしてこんな事になったんだ!』
『誰がこんな結末を望んだ!』
『俺はただ、レイナの決意を受け入れただけだ!』 『悪いのは俺じゃない!』
『レイナが勝手に暴走しただけだ!』
『誰にも止められなかったんだ!』
『どうしようもなかったんだ!』
『誰にも止められなかった?』
『嘘だ。俺は止められたじゃないか。』
『あの時、審判にきちんと伝えていれば。』
『オジサンは死なずに済んだのかも…。』
『じゃあ、俺が悪いのか?』
『俺が止めなかったから…。』
『オジサンは…。死んだのか?』
うわ~~~~!!!!
俺はパニックになり、無意識に叫び声を上げていた。
呼吸は荒く、息がうまく吸えない。
肺に穴が開いているのか?
酸素を。酸素を取り込まないと。
全身が痺れる。
心臓が張り裂けそうだ。
涙が止まらない。
自分でも、自分の体に何が起きているのか分からない。
ただ、このまま死んでしまうのではないか…。
そんな強い不安が、頭の中を駆け巡っていた…。
(マザー)
悠さん!悠さん!
大丈夫ですか!?
しっかりして下さい!
意識が朦朧とするなかで、うっすらとマザーの声が聞こえてきた。
(マリエ)
悠さん!大丈夫なの!?
しっかりして!
突然何があったのよ!?
マリエさんも慌てている。
俺は今、どんな状態なんだ?
見える景色は、一面の空だ…。
俺は仰向けになったまま。
周りで慌てる皆の様子を、意識が飛び飛びになりながら、ボーッと見つめていた。
そしてその時、会場がざわつき始めた。
闘技場に動きがあったようだ。
(実況)
おーっと!!これは~!?
土煙の中から、誰かが歩いて出てきます!
これは~!
恐らくはレイナ選手でしょうか!?
…。
いや?歩いているのは?
大柄な男性か?
まさか、これは?
会場全体が闘技場に注目する。
土煙と水の雫が舞う闘技場から、ゆっくりと姿を現した人物…。
それは、レイナを両手で抱き、大した怪我をした様子もない、あの農家のオジサンであった。
(実況)
なんということだ~~!
畑選手!あの激しい攻撃の中!
無事に生還致しました~~!
会場全体が、彼はもうダメかと息を飲んでおりましたが、どうやら大きな怪我はないようです!
取り敢えずは一安心!
あの攻撃を凌ぎきった!
畑選手の無事を祝いましょう!
パチパチパチパチ…。
会場は、何が起きたか分からない。
取敢えず、オジサンの生存を拍手で讃えていた。
そしてオジサンは、両手に抱き抱えているレイナを、俺達の応援席へと運んでくれた。
(リナ・マリエ・マザー)
レイナ!レイナちゃん!レイナさん!
3人がレイナに駆け寄っていく。
俺もレイナの姿を見に行きたいが、まだ体が思うようには動いてくれない。
(リナ)
レイナ!しっかりして!
レイナ!お願いだから目を覚まして!
ねえ!レイナはどうしちゃったの!?
なんで目を覚まさないのよ!?
ねえ!誰か分からないの!?
早く助けてあげてよ!?
お願い…。お願いよ…。
誰かレイナを助けて…。
リナは泣きじゃくりながら、レイナの手を握りしめている。
先程と同様に、激しく取り乱しており、顔面蒼白で、今にも倒れてしまいそうだ。
(大作)
いやいや~。
お嬢ちゃん。大丈夫だよ~。
そげに心配せんで~。
その娘は、魔力を使い果たして倒れただけだから~。
少し休んだら目も覚めると思うよ~。
オジサンは、取り乱す俺達を落ち着かせるように、優しく話しかけてくれた。
その話を聞いて、俺達全員が安堵し、少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
(マリエ)
うん。良かった。
ホントにただ眠っているだけみたい。
魔力を使いすぎると、こんな風になるのね。
はあ~。びっくりしたわ。
何かあったのかと思ってひやひやしたじゃない。
マリエさんがレイナの様子を確認する。
無事が確認できたのを聞き、俺の緊張も少しずつ解けてきたようだ。
(悠)
レイナ…。良かった…。
レイナは無事なのか…。
ホントに良かった…。
俺は仰向けになったまま、緊張が解けたからか、再び涙を流していた。
見られるのが恥ずかしいので、顔を両手で隠し、俺はしばらく泣き続けていた。
この戦いで、
何か大切なものを失うのではないか?
俺は心の中でそんな強い不安を抱え続けていた。
レイナと、そしてオジサンの無事を聞き。
俺はやっと、心から安心していたのだ。
会場も二人の無事を聞き、少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
泣き続けていた俺も、安心したからか。
気が付くと体調も大分落ち着いていた。
俺は重い体を持ち上げ、オジサンに話しかけた。
(悠)
オジサン。レイナを連れてきてくれてありがとうございます。
でも、どうやって…。
あれだけの威力の魔法を、どうやって防ぎきったんですか?
オジサンは俺の話を聞いて、レイナを見つめながらゆっくりと話し始めた。
(大作)
いんや~。
ワシは防いだわけじゃないさ~。
むしろワシ、避けてさえいないんだ~。
全部この娘が、ぎりぎりでワシらに当たらないように、魔法を逸らしてくれたんだ~。
ほら~。闘技場見てみんさい~。
オジサンが闘技場を指差す。
俺達は視線を闘技場に移した。
(悠)
あれは?
一体どうなってるんだ?
そこには異様とも言える光景が広がっていた。
闘技場は、レイナとオジサン。
そして、審判が居たであろう部分を残して、刃が深く突き刺さり、抉り獲られた跡が残されていた。
その範囲は広く、万が一魔法をくらっていたら、オジサンは間違いなく、命を落としていたことが理解できた。
(マリエ)
あそこまで地面を抉りとるなんて…。
やっぱり凄い威力だったみたいね。
一撃で魔力を使い果たすのも頷けるわ。
けれど、あれだけの迫力で、正に相手や周りを圧倒していたけど…。
ぎりぎりの所では、ちゃんと平静を保っていたのね。
レイナちゃんの優しさが失われてなかったみたいで、本当に安心したわ。
マリエさんも、やっと安堵の表情を浮かべ始めた。
やはり、彼女もレイナの変貌ぶりに、強い不安を抱いていたのだろう。
それ位に、今日のレイナの様子はおかしかったのだから…。
(悠)
けど、よくレイナが魔法を逸らすって分かりましたね。
恥ずかしい話ですが…。
なんせあの迫力だったから。
正直俺たちでさえ、レイナはあのまま、オジサンを貫くつもりなのかと思ったのに。
(大作)
いやいや~。
オラだって確信してた訳じゃないよ~。
たださ~。
このお嬢ちゃんは、馬の事を大事にしてくれる優しい娘だったから~。
もし、魔法を放つにしても~。
関係ない審判さんまでは、巻き込まないと思ったんさ~。
でも、あの娘はあの時~。
「闘技場全体に刃を放つ」
って言ったから~。
もしかしたら、これは本当は当てないつもりなんじゃないかと思ったんさ~。
まあ、咄嗟の思い付きだったし~。
もう、それにかけるしか無かっただけだけど~。
オジサンは頭を掻きながら、照れ臭そうにしている。
けれど、この優しいオジサンが相手だったお陰で、レイナは最後に、自分の冷静さを取り戻せたのかもしれない。
(悠)
審判までは傷付けない。か…。
確かに冷静に考えれば、レイナならそうするよな。あ~あ。
結局俺達よりも、オジサンの方がレイナの事をきちんと理解していた訳ですね…。
俺はオジサンに目を向ける。
オジサンは、手を顔の前で降りながら…。
「そげなことない~。たまたまやて~。」
と、俺達に気を使ってくれる。
俺は今更になって、レイナの始めて対戦相手が、このオジサンで良かったと思い直している。
本当に、なんて都合のいい話なんだ…。
(悠)
結局、どれ位の覚悟で挑んだかは知らないが…。 レイナは最後の最後で、俺達の知るレイナのままで居てくれたのか…。
試合には、負けてしまったけれど…。
俺はレイナが変わらず帰ってきてくれた事が、何よりも嬉しいよ。
今日はもう、ホントにそれで充分だ。
(マリエ)
ホントに…。
あまりヒヤヒヤさせないで欲しいわ…。
何だか、可愛い妹が、何処か遠くに行ってしまうのかと思って。
私かなり怖かったわよ。
俺とマリエさんは、顔を見合わせてニッコリと笑った。
リナもレイナの様子に安心したのか、手を握りしめながら、にこやかに頭を撫でていた。
俺達を大混乱に陥れた犯人は、まるで何事も無かったかのように、スヤスヤと眠り続けている。
その顔は俺達がよく知っている。
優しくて。少し天然で。
そして物事に対して少し臆病な。
いつものレイナの顔に見えた。
ディープインパクト大会 二回戦 先鋒戦
● 岩本レイナ × ○ 畑 大作
ディープインパクト大混乱の末に今大会初黒星。
次鋒戦にて、巻き返しを狙う…。




