水の章 クランバトル編 一回戦反省会
○ 大会一日目 反省会
(マザー)
皆さん。本日はホントにお疲れさまでした。
無事に初戦突破。
大きな怪我人も出ず、理想的な形で初日を終えられました。
各人が、自分の能力や課題を確認できたのも、大きな収穫になりましたね。
一回戦が終わり、イグ・ノウレッジの研究発表会に付き合った俺たちは、その後宿屋に戻った。
今は明日の二回戦に向け、反省会兼ミーティングを行っている。
集合場所はいつも通り。
俺の部屋だ。
(リナ)
まあ、私にしてみれば。
相手が弱すぎて何の練習にもならなかったけどね。明日こそは、少しでも骨のある奴と戦いたいわ。
リナは相変わらず、今日の対戦相手には納得していないようだ。
もっと強い奴と戦いたいだなんて。
全く意味が分からない。
普通、戦うのは怖いし、楽に勝ちたいんじゃないかな…。
(悠)
いやいや。
リナの対戦相手。確かグラハムだっけか…。
アイツだって、決して弱い相手では無かったぞ。
未来予知なんて、スゲ~心具じゃね~か。
リナにしてみれば物足りないかもしれないが…。
普通なら、あんな風に瞬殺するなんて無理だ。
まあ、なんだ…。
面と向かって言うのも恥ずかしいが…。
やっぱり対人戦。
特に一対一の戦いなら。
リナに勝てる奴は、そうはいないんじゃないか?
俺はリナを見ながら、全員に伝わるよう話をした。
(マリエ)
そうね。あのスピードについてこれる人は…。
きっと、ほとんどいないでしょうね。
確実には言えないけど…。
リナちゃんが、私達の中で、1番一対一に向いているのは間違いなさそうね。
まあ、もちろん性格も含めてだけどね。
(レイナ)
リナちゃん。
戦う前からやる気満々でした~。
相手の心具なんて関係ない。
開始と同時に一撃で倒す。
そういう気配が体中から涌き出てました~。
結果的にホントにそうするから。
やっぱり、リナちゃんは凄いです~。
(リナ)
ハッハッハッ!
皆やっと私の偉大さに気付いたのね!
私ってば、ホントに強いのよ!?
もしかしたら、この大会の間に、水の帝を越えちゃうかもね!
リナは立ち上がって、自信満々に胸を張っている。顔もどうだと云わんばかりだ。
正に鋼のメンタル。
開会式でビビっていた姿は何だったんだ…。
(悠)
出たよ。メンタルお化け。
その自信。少し俺とレイナに分けてくれよ。
体はゴリラ。心はお化け。
名探偵も真っ青だな。
(リナ)
誰がお化けよ!?そしてゴリラよ!?
人を化け物みたいに!
あんた女性に対して、その発言はサイテーよ!
(悠)
バカにしてねーよ!誉めてんだぞ!
身体能力・メンタル、どっちも普通じゃねーって意味だよ!
誉めてんの!羨ましがってるの!
(リナ)
はあ!?誉めてる!?
それなら、もっと言い方ってもんがあるでしょーが!
俺とリナは、また下らないことで言い争いを始めた。皆慣れたもので、最近はそれほど慌てて止められることは無くなってきた。
(マザー)
まあまあ、二人とも落ち着いて下さい。
喧嘩をするようなお話ではありませんよ。
マザーの仲介により、俺とリナは一端会話を中断した。実は、言うほどお互い怒ってはいない。
コミュニケーションの一つの形になりつつあるのだ。
(マザー)
今お話が出た通り。
今日の戦いを通して、リナさんの戦闘能力の高さは、間違いなく証明されたと思います。
しかし、対人戦では皆さんの中で一番強い。
リナさんなら、誰にも負けないという考えは、少し間違っているのです。
(リナ)
何よ、マザー。
私の素晴らしい戦いにケチつける気?
(マザー)
いえいえ、決してそんなつもりは…。
勝って兜の緒を締めろと言いますか…。
(リナ)
何よ~。勝った時は盛大に喜べばいいじゃない。
私達、もう兜被る世代じゃないのよ。
(マザー)
いえ、これは諺というやつで…。
リナとマザーは、何故か兜の話題に進もうとしていた。
その話題を遮るように、話を始めたのはマリエさんだった。
(マリエ)
マザーが言いたいのは、つまり。
戦いにおける「相性」の話よね?
いくらリナちゃんが強くても、相性が悪ければ苦戦することもある。
そういうことでしょ?
マリエさんの発言を受け、リナと言い合っていたマザーは、部屋の中心にふよふよと移動した。
(マザー)
マリエさん。ありがとうございます。
私が正に伝えたかった話。
皆さんも、身をもって体験したと思いますが。
対戦相手と相性が悪ければ、どんなに強くても、苦戦を強いられることは有り得るのです。
(悠)
相性か~。
俺も能力的にマークⅡはキツかったな~。
アイツの相手は、リナかレイナの方が向いていたよな~。
(マザー)
今日の戦いの中で、一番相性で苦戦したのは。
間違いなく悠さんでしょうね。
逆に相性・実力共に勝っていたのは、リナさんとマリエさんでしょう。
悠さんの能力は、相手自身や攻撃を吹き飛ばして防ぐことが出来ます。
しかし、あれだけ巨大で重たい物を吹き飛ばすのは、流石に少し厳しかった。
リナさんやレイナさんなら、スピードと力。
そして魔法で労せず仕留め得たかもしれない。
そういう意味で、今後は相性が悪い相手に当たってしまった場合。如何にして戦い抜くか。
これが皆さんの課題になるでしょう。
(リナ)
相性ね~。確かにそれはあるか。
私、悠兄にはまだ勝てる気がしないけど、今日のマークⅡには多分苦戦しないもんな~。
戦ってる時も思ったけど、確かに相手の心具が分からない中でどう戦うのか。
そして相手が苦手なタイプの時にはどうするか。
もっと頭使わなきゃダメなのかな~。
私、そういうの苦手なんだよな~。
(マザー)
そういう部分で、一番この大会に向いているのはマリエさんでしょう。
相手の心具と能力を把握し、こちらの能力は把握させない。
そう言った高いレベルの駆け引きを行えるのは。 ウチのクランでは、間違いなくマリエさんです。
今日の戦いの中で、マリエさんの策略はずば抜けていましたよね。
皆さんは、これからマリエさんの戦い方を参考にし、戦闘における、「思考の早さ」を身に付けて頂きたいものです。
(レイナ)
確かに、マリエさんの戦い方は見事でした~。
相手には一切気付かせず、自分の能力にはめ込んでいく。
素晴らしい心理誘導でした~。
とても勉強になります~。
(マリエ)
あらあら。皆さんに誉めて頂いて恐縮だわ。
ただ、私はあまり強い力を持った能力ではないから…。
一応自分なりに考えて戦う必要があっただけよ。
「考えよう考えよう」とあまり意識せず。
自分の得意な形に、如何にして相手を陥れるか。
私はそっちの方が大切な気がするわね。
(マザー)
確かにその通りかもしれません。
相手と相性が悪いとき。
それはつまり、相手の形では、部が悪いということ。
そこで、如何にして、自分の得意な形に持っていくか。
これから沢山の相手と戦闘を重ね、皆さんが少しずつ学んでいくべき課題でしょう。
複数で戦うクランバトルであれば、お互いの弱点をフォローし会えますが。今大会は個人戦です。
個人の課題の確認と、個々のレベルアップという意味では。
早い段階でこの大会に参加できたことは、幸運だったかもしれませんね。
(リナ)
自分の得意な形ね…。
私はやっぱり、真正面からバキバキやり合いたいな~。
チマチマチマチマやられると、やっぱりイライラしちゃうわ。
(悠)
リナらしいな~。
まあ、今はそれでもいいかもしれんが…。
これから勝ち上がるにつれて、相手も強くなる。 俺もそうだけど、自分の苦手なタイプがどんな奴か。そういう奴とはどうやって戦うか。
頭の中でシミュレーションしておいた方がいいかもしれないぞ。
俺は今日、それが骨身に染みたよ。
(リナ)
シミュレーションか~。
イメトレってやつよね~。
私、自分が負ける姿って、あんまり想像出来ないのよね~。
頭の中でイメトレすると。
大体私が圧勝して、大歓声を浴びる展開になるのよ。
(悠)
どんだけポジティブなんだよ!
やっぱりメンタルお化けだな!お前は!
(リナ)
何よ~!自信があるのは良いことでしょ~!?
(レイナ)
まあまあ。
リナちゃんの言うことも正しいです。
勝つイメージを持つことも、きっと大切なんですよ。
(リナ)
さっすがレイナ!
よく分かってるじゃない!
苦戦するイメージなんて、戦いの時の足を鈍らせるだけよ!
私は相手が強くても勝つの!
結果的に私が勝つんだから、相手の能力は関係ないのよ!
(悠)
結局そうなんのかよ…。
ホントに羨ましい奴だな、お前は…。
(レイナ)
リナちゃんはそれで良いんですよ~。
実際、今までも結果が着いてきてますから。
(悠)
まあ、確かに…。
結果的に勝つし、実際強いからなリナは…。
(レイナ)
そういうことですよ。
あの~、それで突然で恐縮なんですが~。
悠兄さんにお聞きしたいことがあるのですが~。
レイナは恐る恐る、身を屈めながら手を挙げる。
(悠)
俺にか?なんだ?急にあらたまって?
(レイナ)
いえ…。大したことではないのですが…。
今日の試合。マークⅡを相手に…。
悠兄さんは、どうやって勝ったんですか?
闘技場でリナちゃんが聞いてましたが…。
あの時は、イグ・ノウレッジさん達の発表会になって、きちんと聞けなかったので…。
私、出来れば知りたいのですが…。
(リナ)
あ~!そうだった!
あの時、悠兄の力が見えないから!
私もどうやったか分かんなかったんだ!
すっかり忘れてたよ!レイナナイス!
悠兄!私も知りたい!教えて教えて!
リナも勢いよく手を挙げ、俺の解答を促した。
(マリエ)
私も…。
私も知りたいわね。
相性の悪い相手を、貴方が如何にして倒し得たのか…。今後の戦いの参考になると思うの。
マリエさんも壁に寄りかかりながら、ゆっくりと手を挙げる。
手の挙げ方だけでも3者3様。
こういった行動の違いは、見ている側としては実に面白い。
(悠)
そっかぁ~。確かに説明してなかったな。
一応、皆の試合を分析するのは大事だよな。
経験を共有することもできるし…。
よし!ちょっと時間下さい!
今から説明しますね!
(マザー)
私からもお願いします。
きっとこれからのバトルに、活かすべき部分がある様な気がします。
(悠)
よし!マザー!
任せなさい!
俺は皆に促され、自分の試合の説明を始めた。
○ 反省会Ⅱ レイナの決意
(悠)
じゃあ、説明させていただきます。
(リナ・レイナ)
よろしく!
お願いします~。
(悠)
はいはい。
それでは、取り合えず最初らへんからかな?
開始と同時に、俺は取り合えず、マークⅡを吹き飛ばそうとしたんだ…。
俺の力は、マークⅡの肩辺りに直撃したはず。
けれど、マークⅡは少しよろけただけ。
場外に吹き飛ばすのは、ちょっと難しそうな感じだったんだ。
(マリエ)
覚えてるわ。
私達も見た感じ、吹き飛ばすのはちょっと厳しいと感じたもの。
(悠)
そうなんですよ。
俺の唯一の取り柄が、あんな序盤にいきなり封じられた訳です。
正直。あ、これもうだめかもな…。
って思いましたもん。
(リナ)
早いな!
あんたもっと頑張んなさいよ!
(悠)
だから、この後頑張ったでしょ!
勝ったんだから許しなさいよ!
まったく…。これだからメンタルお化けは…。
え~と、続けますね。
その後、マークⅡの攻撃に晒されました。
この一撃も強烈で。
実際、弾くのが精一杯。
私は盛大に吹き飛ばされました。
(マザー)
覚えています。
ホントに弾くので精一杯。
果たして次は防げるのか…。
そう思えてしまう位。
相手の一撃は強烈でした。
(悠)
やっぱり、端から見てもそう感じたのか…。
今考えても、あそこからよく勝ったもんだよな。
自分でも驚きだよ。
(マリエ)
だからこそ、聞く価値があるのよ。
あの場面から、どう逆転したのか。
皆が共有するのは、凄く大切なことだわ。
(悠)
確かにそうですね。
やっぱり話せて良かったのか…。
ええと…。続けます。
そして、状況が不利だと悟った時。
これが非常に嬉しかったのですが、皆の応援が聞こえてきたんです。
実はこれが逆転の方法を思い付く、きっかけになりました。
(レイナ)
私達の応援がですか!?
何だか凄く嬉しいです~。
(悠)
ホントにそうなんだよ。
皆には、日頃から感謝しているけど。
この時ほど、有り難さを感じた事はなかった。
今日の勝利は皆のお陰だよ。
ホントにありがとう。
俺は座りながらではあったが、皆に感謝を込めて頭を下げた。
(リナ)
声援を力に覚醒したのね!
なんて熱い展開なの!
私、そういうの大好きだよ!
リナは嬉しそうに。興奮した様子で身を乗り出している。
確かにリナの好きそうな展開かもしれないな。
(悠)
そう。皆の声援で力を得た俺は…。
ふと、「皆ならどうやって勝つのかな?」と思ったんだ。
ここで大事だったのは、俺以外の皆なら、きっとマークⅡに勝てると気付いた事だ。
俺は皆なら、こう勝つだろうとイメージをしてみたんだよ。
(マザー)
他の方の戦いをイメージか…。
なるほど、確かに自分のやり方で手詰まりになった時。
他の仲間の戦い方を参考にするのも、一つの有効な手立てかもしれない…。
面白い発想ですね。
やっぱりこの機会を設けたのは正解でした。
(悠)
そう言って貰えると、話す方としても嬉しいね。
そう。そこで俺はある作戦に行き着いた。
名付けて、
「失敗したらレイナにお任せ」
「リナは無理だからマリエさんで行こう」
作戦だ。
(リナ)
…。なにそれ。センスわる。
てか、何で私だけ否定されてんのよ!
そこは私を選ぶところでしょーが!
(悠)
名前は今決めたんだよ。
センス悪いとか言わないでよ…。
何だか悲しくなる…。
まあ、作戦を要約するとだな。
俺は自分の能力を分析してみて…。
リナみたいにゴリラパワーで押しきるのは無理。
レイナみたいに魔法で圧倒するのも無理。
マリエさんの戦い方なら参考に出来る。
俺は咄嗟にそう考えたんだよ。
これが俺の逆転のきっかけになって、俺を勝利に導いてくれたのです。
(マリエ)
私の戦い方を?何だか嬉しいわね。
確かに、私と悠さんの能力には。
「遠距離~中距離の技巧派タイプ」
という部分で、少しだけ共通するものがあるわね。
(悠)
その通りなんです。
俺もそれに気付いて、マリエさんの戦い方を頭の中でイメージして見たんです。
(マザー)
なるほど。系統が近いからこそ、マリエさんの戦い方はイメージしやすかった。
実に理に叶った判断です。
それで、悠さんはマリエさんのどんな戦い方をイメージしたのですか?
(悠)
時間も無かったから、断片的にしかイメージ出来なかったんだけど…。
マリエさんなら、マークⅡの攻撃を、真正面から受けるようなことはしない。
きっと風を使って、どっちかに「受け流す」んじゃないかと思ったんだ。
(リナ)
受け流す?
弾いたり、押し返したりしないの?
(悠)
そう!ここでリナ!
お前の戦いも参考になったんだよ!
お前なら、きっと正面から防ぎにいくだろ?
実際俺も最初はそうやって防いだ。
けれど、俺にはお前みたいなパワーはない。
だから、リナみたいに防いだらダメなんだ。
俺はそこにも気が付いたんだよ。
だから、俺やマリエさんが防ぐ方法。
これは、「受け流す」なんだと、お前のお陰で俺は気付いたんだ。
(リナ)
何だかよく分からないけど…。
まあ、私のお陰ならきちんと感謝して頂戴!
扱いをもっと、敬意を持ったものに変更することを希望するわ。
(悠)
はいはい。
リナサマアリガトウゴザイマシタ。
それで、勝ち目を感じた俺は、マークⅡの攻撃を受け流す機会を作ったわけだ。
まあ、あの最高にカッコいい。
勝利宣言のシーンだな。
(リナ)
ハイハイ。カッコイイカッコイイ。
ユウニイスゴイスゴイ。
(悠)
…。話をつづけよう。
そして、マークⅡがまさかの全力宣言。
最初の一撃が手加減していたなんて知らないから、正直焦ったよ…。
けれど、結果的に。全力で打ってくれたから。
多分俺は勝ったんだろうな…。
(レイナ)
相手の攻撃が強くなったから勝てた…。
何だか不思議な表現ですね?
(悠)
確かに分かりにくいよな。
それを今から説明するよ。
マークⅡはスピードを上げて俺に向かってきた。
そして、正に渾身の一撃を降り下ろしてきた。
さっきと同じ方法なら、きっとマークⅡの力に負けて、俺は吹き飛んで敗北した。
けれど、この時俺は。
攻撃を「防ぐ」のではなく、「流す」事に力を使ったんだ。
つまりは、力を正面からぶつけるのではなく。
自分を中心に。円を描くように。
自分からマークⅡの攻撃が逸れていくように。
マークⅡの力の方向を変える様に能力を使った。
弾き飛ばすのではなく、滑らかに横に滑らせる感覚だ。
分かりにくいかもしれないけど、自分としてはそういう感覚で能力を使ったんだ。
(マリエ)
なるほど。
感覚の部分は、本人にしか分からないけど。
やろうとした事は分かる気がするわ。
私が戦うにしても、あのパワーを風や植物を使って正面から防ぐのは無理。
悠さんと同じように、風を使って、剣を自分から逸らすように防いだと思う。
力がない私達は、そういった技術で太刀打ちするしかないものね。
(悠)
そうなんです。
だから、俺もマリエさんを参考にしました。
そして、俺はマークⅡの剣を逸らした後。
今度はマークⅡの剣に向かって、名一杯自分の能力を使い、地面に向かって負荷をかけた。
マークⅡは、全力で攻撃してくれたこともあり、
俺の能力の負荷と、自分の重さに耐え兼ね、勢いよく地面に向かって転倒した。
そして、結果的に機能が停止し。
俺が勝ち得た。
ってのがこの試合の内容なんです。
長くなったけど、以上がこの試合の分析かな?
最後に勝てたのは、結局マークⅡの力が強かったから。
咄嗟に上乗せ出来た俺の力なんて、もしかしたら大した物ではなかったかもしれないしな…。
ただ、力を使う方向。
これを一方向ではなく、複数の方向に出来れば。
俺の戦いの幅は、もう少し広がりそうだな。
そういう意味では、ホントにいい経験になる試合だったよ。
(マザー)
なるほど。力の方向か…。
今後のトレーニングメニューの参考にもなりそうですね。
悠さん。お疲れさまです。
報告ありがとうございました。
非常に参考になる部分が多いお話でしたね。
(悠)
いや~。それほどでも~。
何か参考になったなら嬉しいよ。
(マザー)
はい。もちろん参考にさせて頂きます。
さてと…。
どうでしょう皆さん。一日目を終えて。
皆さん各々、思うところがあると思います。
最初の試合。
リナさんは、相手を秒殺し。
チームに流れを与えてくれました。
この試合で我々は、チーム内の雰囲気。
流れの大切さに気付きましたね。
そして二試合目。
マリエさんが戦略で相手を圧倒。
私達は、クランバトルにおける、相手の情報の引き出し方。
その駆け引きの大切さを。
目の前で体験することが出来ました。
そして三試合目。悠さんの試合。
悠さんは、相性の悪い相手に対し。
どう戦うべきか。試行錯誤の末に見つけ出した。 仲間の戦いをイメージし、自分に取り入れる。
これが必ず正解になるとは限りませんので、あくまで方法の一つとして。
私たちに可能性を示してくれました。
今日一日の試合。
簡単にまとめるだけでも、これだけ多くの経験を私達はしている。
実戦が少ない私達は、こうやって戦いを共有することで、少しでも経験値を上げていくしかない。
この反省会を、是非次の機会に活かしてくれるよう。私は願ってやみません。
(悠)
経験値を上げるか…。
自分で言うのも変なんだけど。
俺、昔からこういうミーティング的な時間って、正直無駄だと思ってたよ。
部活とか会議とかでも、早く終われよ、めんどくさい位しか考えてなかった。
けど、真剣に聞くと勉強になるんだな。
まさか、この年で気が付くとは…。
何だか恥ずかしい気持ちになるよ…。
(マリエ)
あら?私だって同じよ?
ミーティングなんて机上の空論。
話をするくらいなら練習したら?
って思っていたわ。
けれど、それは日常の中のやり取りだからよ。
私達みたいに、命のやり取りに近い経験の話し合いでは、その中身の濃さが全然違うわ。
私達はこの話し合いで経験を逃すと、最悪次は死ぬかもしれないのよ?
聞く方も話す方も、それは必死になるわよ。
(リナ)
確かにね。
タイプが違うとはいえ、相性が悪い相手にぶつかる可能性は、誰にでもあるんだよね。
私も少しは苦戦する試合の想像しておこうかな。
(悠)
お?リナさんも少しは謙虚になられましたな?
それだけでも、今日の話し合いの意味はあったかもな~。
(リナ)
なによ~。私はいつでも謙虚でしょ~。
けれど、悠兄だって苦戦するんだから、現実的に私もそういう場面はあり得るって思っただけよ。
一応これでも皆のことは認めてるんだからね。
(悠)
それは…。
それは光栄な話だな。
素直に嬉しいもんだな。
やっぱり今日の話し合いは大正解だった訳だ。
俺はリナを見ながらにっこり笑った。
リナは「やめてよ~。」と言いながら、照れて顔を赤くしていた。
(マザー)
皆さんにとって、いい時間になったみたいで良かったです。
では、今日の反省会はこれくらいにして、明日に備えましょう。
マザーが話をまとめ、解散を促そうとした時。
(レイナ)
あの…。皆さん。
少しだけいいでしょうか?
話を黙って聞いていた、レイナが口を開いた。
(マザー)
レイナさん?どうしました?
何か話し足りない部分がありましたか?
(レイナ)
いえ、あの…。
皆さんに、少しだけ聞きたいことが…。
あり…。まして…。
その…。悠兄さんの話だったんですが…。
(悠)
お?俺か?
なんか伝わらないことがあったかな?
ごめんな~。
どうしても、感覚で話しちゃうからな~。
(レイナ)
いえ!違うんです!
その…。話の中で…。
私なら、マークⅡに…。
魔法を使って勝てると…。
お話がありましたが…。
(悠)
おお、したした。
レイナなら魔法で圧倒出来ると思ったからな。
俺にはそれが出来ないから苦労したんだよ。
それが何かあったのか?
(レイナ)
それは、ホントにそう思ったのかなって…。
悠兄さんが苦戦する様な相手に…。
私が簡単に勝つなんて…。
ホントにあり得るのかなって…。
ちょっと信じられなくて…。
(悠)
いやいや。レイナなら勝つだろ?
あれだけの魔法を使えるんだから。
俺が勝てない相手でも、レイナなら勝てるって。
(レイナ)
ホントに…。そう思いますか…?
(悠)
嘘なんて言わないって。
皆そう思ってるよ。
ねえ?マリエさん?
俺はたまたま隣にいた、マリエさんに話をふる。
マリエさんも、頷きながらレイナに話しかけた。
(マリエ)
レイナちゃん。
自信がないのかもしれないけど、ホントに皆そう思っているわよ。
貴女は自分が思っているよりも、ずっと優れた力を持っているわ。
私達が安心して戦えるのは、何かあっても貴女がいてくれるから。前にも話したわよね?
(レイナ)
私が…。いるから?
(マザー)
レイナさん。
レイナさんは、少しだけ臆病な所があります。
ですが、それはレイナさんが優しいことの裏返し。ですから、無理に人を傷つけさせるような真似は、誰もさせません。
けれど、強さという部分においては、お二人が話した通りです。
今日対戦した相手。
イグ・ノウレッジの誰が相手でも。
レイナさんならば、まったく苦もなく倒してみせるでしょう。
貴女には、それくらいの資質が備わっている。
それは、誰しもが認めている事実なのです。
(悠)
そうだぞ、レイナ。
だから俺は作戦名に、
「何かあったらレイナにお任せ」
って入れたんだ。
皆お前の事を信頼してるんだ。
そこは疑ったらあかんところだぞ。
(マリエ)
その通りよ。
そして、力の使い方は人それぞれ。
決して強制されるべきではないわ。
レイナちゃんは、自分が力を使いたいと思った時。そうなった時に、力を使うべきなのよ。
だから、焦らないで?
自分の力をもっと信じてもいいと思うわよ?
マリエさんの言葉を受け、レイナは拳を握ったまま、俯きながら黙っていた。
そして…。
(レイナ)
悠兄さん!
(悠)
はい!
ビクッ!
突然大きな声で呼ばれて俺は驚いた。
びっくりした~!
いきなりどうしたよ?
(レイナ)
悠兄さんは、怖くなかったんですか!?
あんなに大きい!相性も悪い!
マークⅡを相手に!
戦うのが怖くなかったんですか!?
レイナは真剣な表情でこちらを見ていた。
目には涙も浮かんでいる。
本能的に、俺はこの問い掛けには誠意をもって答えるべきだと判断した…。
俺は少し、呼吸を整え。
レイナの問いに正直に答えた。
(悠)
怖かったさ。戦う時はいつだって怖い。
俺は皆と違って臆病だからな。
けれど、俺には皆がいてくれる。
仲間がいるから、怖くても戦えるんだ。
そして、何よりも。
何かあったらお任せ出来る。
レイナがいてくれる。
怪我をしても、レイナが治してくれる。
そう信じているから、俺は戦えるんだ。
俺はレイナをまっすぐ見つめ、思ったことを素直に伝えた。
過不足はあるかもしれないが、これが俺の正直な答えだった。
レイナは、俯きながら。
暫く何かを呟いているようだった。
(レイナ)
やっぱりそうなんだ…。
皆怖いのに…。我慢して戦ってるんだ…。
私を信じてくれてるんだ…。
私は…。それなら私は…?
そして、顔を上げて俺達に向かって叫んだ。
(レイナ)
明日の試合!
明日の試合から!
私も!私も試合に出ます!
皆と一緒に戦います!
皆と一緒に!!
私も!
戦わせてください!!
そう叫び、泣きながら宣言をしたレイナの姿は。
いつもの穏やかで優しいそれとは違い。
決意を、覚悟を決めた。
一人の女性の凛々しい姿だった。
俺達には、そんなレイナが。
いつもより、ずっと綺麗で…。
何だか、大人びてしまった様に映っていた…。




