水の章 クランバトル編 一回戦Ⅵ
○ ジャック行きます!
(実況)
いよいよ、本クランバトルも大詰め!
中将戦に突入しています!
現在の対戦成績は、クラン・ディープインパクトが、我らがマリエ様の活躍もあり!
見事2連勝を飾っております!
この中将戦!ディープインパクト所属の、吉田悠選手が勝った場合!
ディープインパクトの、次戦への勝ち上がりが決定します!
対するクラン・イグノウレッジは後が無い状況!
この試合に勝利し、何とか次に望みを繋ぎたいところです!
(悠)
おお?何だか、今までで一番まともな実況だな?
俺が戦うんだから、やっぱりちゃんとした舞台にして貰わないとな。
(実況)
そして、イグノウレッジの中将戦、出場者はぁ~!!
ガシャ~アン!!!
けたたましい機械音が鳴り響き、大きな影と共に、その男は闘技場に姿を現した。
(実況)
何だこれは~~!!
イグノウレッジの中将!
機械工学者、ジャック・パセーラ選手!
まさかの、巨大な二足歩行の機械に乗って登場だ~~!!
これは一体、どんな技術で稼働しているのか!?
私達素人には全く分かりませ~ん!
(観客)
スゲ~~!!
なんだあの機械!!自分で歩いてるぞ!!
どうやって動いてるんだ!?
でかいな~~!!
5メートル位あるんじゃないか!?
かっこい~~!
あれどうやって乗るのかな!?
突然の大物に会場がどよめきと歓声に包まれた。 俺も男だ。巨大ロボに憧れを抱かない訳がない。
(悠)
スゲ~~!!
ちょっとだけちっこいけど、まるで○ンダムじゃねーか!!
かっこいい~!
え~!!まじかっこいい!
俺も乗りて~!
思わぬロボの登場に、俺も興奮が収まらなかった。
俺はコックピットと思われる部分に手を降った。 すると…。
(ジャック)
フッフッフ。ご機嫌よう。
皆さん驚いてくれたかな?
そして、気に入ってくれたかね?
私の30年の研究の成果!
この、ジャックマークⅡの晴れ姿を!
(観客)
うお~~!!
やっぱり中で動かしてるんだ!!
スゲ~~!!
機械ってあんなことも出来るのかよ!
かっこいい!スゲ~かっこいい!
観客も、その圧倒的な迫力に歓声をおしまない。
(悠)
ジャックマークⅡ!?
名前までかっけーじゃねーか!!
おっさん、あんた最高だ!!
男はやっぱりマークⅡだよな!!
俺は中二心をくすぐられ、これから戦う相手に対し、尊敬の念を惜しむことが出来なかった。
(リナ)
ちょっとオジサン!
これから戦う相手と馴れ合うんじゃないわよ!
それに、何でマークⅡに、食いついてんのよ!?
マークⅠはどこいったのよ!
私も気になるじゃないの!
リナが応援席から乗りだし、こちらに声をかける。リナもきっと、あのロボが気になるのだろう。
(悠)
ジャックマークⅠか?
話せば長くなってしまうが…。
マークⅠはな。
先の戦いで、ライバルとの壮絶な死闘の末…。
何とか勝利を収めた。
しかし、その時に相等な深手を受け。
結果的に、再起不能になり。
帰還の際に…。
墜ちてしまったんだ。
俺は頭の中で勝手にストーリーを作り、話し始めた。
(レイナ)
墜ちた!?
あの最強を誇るマークⅠがですか!?
レイナが、応援席から身を乗りだして叫んだ。
こういう時に食いつくのは、最近はレイナだと相場が決まってきた。
(悠)
そうだ。
先の大戦時。あの荒廃した大地で…。
ライバルと大戦の雌雄を決する戦いが行われた。
そして、壮絶な戦いの末。
マークⅠは確かに勝利した…。
しかし、相手にもかなりの深手を負わされてしまったんだ。
マークⅠは、既に限界を向かえていた。
しかし、パイロットであるジャックだけでも、基地まで運ぼうとしたんだ…。
ジャックもマークⅠも、戦いの果てで、心身ともにボロボロになっていたんだよ。
しかし、帰路の途中。
遂にマークⅠは限界を向かえてしまった…。
マークⅠは最後の力を振り絞り…。
ジャックを離脱機に乗せ、空に放った。
抵抗するジャックを優しく諭しながら…。
ありがとうと、最期の言葉を残して…。
そして、そのまま…。
自分はゆっくりと、地上に落ちていったのだ。
(レイナ)
そんな!最強のマークⅠが墜ちたなんて!
私は!私は信じません!
レイナは首を大きく横に振りながら叫んだ。
首を振った際に、レイナの目元から美しい涙の粒が流れ出ていた。
レイナは最期まで、マークⅠの帰還を信じていたのだろう。彼女には、酷な話になってしまった…。
(悠)
レイナ。すまない。
あの戦いでは、間違いなく。
俺達は力不足だったんだ…。
だが、心配はしないでくれ!
俺たちは、墜落したマークⅠの機体をかき集め、次の大戦の際にはライバルに不覚を取らぬよう!
様々な研究と努力を重ね!
更に強力な機体を作り上げた!
最強と吟われたマークⅠのパーツをメインとしながらも。武器の出力。機体の反射速度。
装甲の固さ。関節の可動域。
全てをグレードアップし、遂に完成した機体!
それこそが、今、皆の目の前にある!
この ジャックマークⅡだ~~!!!!
ダダ~~ン!!
俺の頭の中で効果音が巻き起こる。
俺は全身を使い、マークⅡを紹介するポーズを決めていた。
(リナ)
そんな…。
あの機体にそんな背景があったなんて…。
あの二人は、戦いの末に更に強くなって帰ってきたんだ…。
ジャックさん!そしてマークⅡ!
あんたらなかなかやるじゃない!
リナは親指を立て、ジャックに労いのポーズを決めた。目にはうっすら涙を浮かべている。
俺の頭の中のストーリーにより、我がクランの中二患者が、3人に増えたようだ。
(ジャック)
フッフッフ。
皆さんよく分かっているじゃないか。
大戦相手のキミ!
紹介いただきありがとう!
そう、あの大戦の苦楽の末!
我らが作り上げた新しい機体!
それこそが、このジャックマークⅡだ!!
私の30年に渡る努力の結晶!!
しかとその目に焼き付けろ!!
ウイ~~ン!
ガシャ~~ン!
ジャックはマークⅡを動かし、剣を空に突き上げるポーズを決めた!
ジャックもなかなか、いいキャラをしている。
俺も戦いを前にして、機体のカッコよさに、オラわくわくすっぞ状態に陥っていた。
(観客)
スゲ~~!!
ホントにかっこいい!!
ジャック!! ジャック!! ジャック!!
ジャック!! ジャック!! ジャック!!
観客もジャックの機体とパフォーマンスに、興奮は最高潮だ!
俺としても、もうバトルなどどうでもよく。
マークⅡの作り形や性能等について、ジャックと二時間程語り合いたいと思い始めていた。
(審判)
二人とも!
バトルの前に騒ぎすぎです!
帝様の前ですよ!静粛にお願いします!
審判が俺らのばか騒ぎに痺れを切らし、注意をしてきたのだ。
審判に怒られ、俺とジャックは
「すいません。騒ぎすぎました。」
「以後、気を付けます。」
と、普通に謝った。
二人ともテンションが上がりすぎた事を、若干反省していたのだ。
ただ、個人的には凄く楽しい時間であった。
審判は呆れた様子で、
「もういいです。場をわきまえて下さい。」
と話し、バトルのルール説明をしていた。
いい大人が、TPOをわきまえるよう、大観衆の前で叱られたのだ。
何とも恥ずかしい話だ…。
しかし、審判に二人とも闘技場端に戻るよう、指示された時。
俺はある違和感に気づいた。
(悠)
ジャックとマークⅡ!!
ちょっと待て~~い!!
俺の叫び声に、一瞬観客がざわついた。
(悠)
ジャックよ!!
マークⅡの凄さは分かった!!
小型の○ンダムみたいでかっこいいよ!!
俺も好きだよ!!もっと話聞きたいよ!!
でもまさか、それに乗ったまま戦うんじゃねーだろな!?
俺はマークⅡを指差し、抗議の意味を込め強く問い詰めた。
(ジャック)
え?そ、そうだけど…。
なんで?だめ?
かっこいいじゃん…。
ジャックは、俺の突然の激昂に、意味が分からず困惑しているようだった。
(悠)
「なんで?」じゃねーだろが!!
だって、それロボだろが!!
乗ったまま戦うのは卑怯だろ!!
こっちは生身なんだぞ!!
あんたも生身と心具で戦えよ!!
確かにかっこいいけど!!
バトルにはルールがあるだろ!!
ルールは守れや!!
俺は相手のルール違反を感じとり。
猛烈な勢いで抗議したのだ。
間違いなく、非が相手にあると感じたとき。
俺の言動は、普段の2倍強い。
これだけは自信がある。
俺は、負けないと分かった戦いには強いのだ!
確か前にもこんな話をした気がする…。
(悠)
どうなっとんじゃメガネ!
ルール知らんのかいメガネ!
答えんかいメガネ!
ハアハア…。どない…。や、ねん。ハアハア。
普段はやらない猛抗議のせいで、戦う前から俺の息はあがっていた。
それに対し、ジャックはメガネを直しながら冷静に答えた。
(ジャック)
これは、私が心具を経由して操作しています。
いわば、心具の使用効果の媒体なんです。
心具の使用により、物質を稼動させても。
確かルール違反ではないはず…。
あなた達の剣や扇が、この機械に代わったと思って頂ければよろしいのかと…。
(悠)
・・・・。は?
そ、そうなの?
え?ルール上問題ないの?
あれ、機械だけど…。
いいのか?
俺はあれだけの猛抗議をしたのだ。
ルールを知らなかった事がバレると恥ずかしいと思い。審判にこっそりと尋ねてみた。
(審判)
はい!心具の使用により、他の物体が動いている場合。その物体は、心具と同じ扱いとなります!
彼の言う通り、ルール違反ではありません!
真面目な審判は、声高らかに、俺にルールを教えてくれた。
彼の真面目な性格は、結果的に、俺がルールを知らずに抗議をしていたことを、会場内に広める事になったのだ。
(観客)
おいおい。
あいつルールも知らないで参加してんのか?
しかもあんなに強気に抗議して。恥ずかし~。
相手にメガネとか言っちゃってさ。
だっさいな~~。
クスクス。クスクス。クスクス。クスクス。
会場中から、俺に対する嘲笑が聞こえてきた。
(悠)
…。
ならええんじゃい!
ルール内ならしゃあないわ!
最初から言えや!
この…。メガネロボオジサン!
俺は恥ずかしさに肩を震わせながら叫んだ。
エリアスさんの時と同様。
最早このキャラを引くに引けなかった。
自分の器の小ささと情けなさを噛みしめ。
俺はすごすごと闘技場の端に移動したのだった。
・・・・闘技場主賓席にて・・・・
(エリアス)
ジャック・パセーラか。
技術者の間では、それなりに名の知れた機械工学者だったな。
しかし、ホントに大きな機械だな。
とても立派な作品だ。
どうやって動かしているんだろうな?
(アイシス)
年齢47歳。独身。家族なし。
現在、様々な大陸で使用され始めている、船や鉄道などの新しい移動手段。
こういった物の製作にも、技術者として、何度か参加しているようね。
(エリアス)
ふむふむ。
一般の技術者として参加しているな。
メイン作業ではないにしろ、回数を考えると技術力は確かなのかな。
大地の帝が好きそうな分野だな。
(アイシス)
私も科学について詳しいことは分からないわ。
けれど、彼はこの道一筋30年の大ベテランよ。
きっと、技術力は確かなのでしょうね。
それにね…。経歴を見てみると。
意外なことに、彼は元々。
技術者としての資質には、あまり恵まれていなかったみたいなの。
(エリアス)
ほ~。そうなのか。
資質に恵まれずとも、あれだけの作品を作り上げたのか。さぞ努力したのであろう。
立派な男ではないか。
(アイシス)
ホントにそうよね。
彼の努力は尊敬と賞賛に値するわ。
科学者仲間でクランを結成した時。
彼の資質は唯一、最低のランクFだった。
それでも機械工学が好きな彼は。
仲間に励まされながら。毎日遅くまで勉強し。
少しずつ技術を磨いていった。
そして惜しまぬ努力と時間により。
少しずつ資質を伸ばしていったの。
その中でも、才能に恵まれなかった彼は、何度も失敗と挫折を繰り返したでしょう。
自分よりも資質の高い、他の研究仲間にどんどん差を広げられたりもしたと思うわ。
それでも彼は、大好きな機械工学を続けた。
友人や家族を作る時間も惜しみ、寝る間も惜しんで研究に没頭していった。
その支えはやはり。
機械工学に対する、彼の「愛情」と「情熱」以外の何物でもないのでしょうね。
そして気が付くと、彼は大好きな機械工学を続けて、約30年もの月日が流れていた。
気が遠くなる程の月日の中で、何度も失敗と挫折を重ねながら…。
それでも、大好きな研究に対する情熱を継続し、諦めずに資質を磨き続けた結果…。
彼は自分の資質を、ステラにおけるランクDにまで高める事に成功していた。
これは本当に凄いことよね。
全く資質が無いに等しい状況から、情熱と努力により、30年かけて資質をここまで磨き上げたのだもの。
小さな努力の積み重ねが、今の彼を作り上げた。
この積み重ねの人生は、真似をしようとしても、そうそう出来るものではない。
正に彼は、「努力を続ければきっと夢は叶う」。
という名言を、自らの姿勢で体現しようとしているとも言えるのよ。
そして、そんな彼がここまで磨き上げてきた。
現在の資質と技術力の全てを結集した。
正に彼の魂の結晶。
それが、あのジャックマークⅡなのよ。
面接であの大きな機体を見せられたとき。
流石に私も胸がときめいたわ。
(エリアス)
水の帝から、自分の努力に対し賞賛を贈られる。
奴が聞いたら、科学者としてどれ程名誉に感じることだろうな。
そしてあの機体は、それくらいの賞賛に値する。
本当に見事な出来栄えだ。
あれだけの大きさだ。
武器の破壊力などは疑いようがない。
しかし、動かすだけで大変そうにも見える。
戦いには向いているのか?
(アイシス)
それは問題ないそうよ。
何やら、乗り込んで直接自分の魔力を送り込むから、かなりの速度で稼動するみたい。
戦闘能力に関しては、クランの中では一番だと、自他共に認めていたわ。
負けられない戦いで彼が出てきたのは、イグノウレッジからすると、当然の作戦じゃないかしら?
(エリアス)
ふむ。して、ディープインパクトはあの男か…。
あの男…。
何やらいつもふざけておるが、資質が高いのは間違いがない。
開会式の時に、お前の圧力に耐えきったのも、確かあの男なのだろ?
努力で資質を磨いた男と、恐らくは産まれながらにして資質に恵まれた男。
面白い組み合わせだな。
ちなみにだが…。
お主はどちらが勝つとふんでおる?
(アイシス)
確かに面白い対決になるわね。
まあ、私の予想はもちろん…。
・・・・闘技場脇応援席・・・・
(リナ)
あ、因縁つけておいて言い負かされた、恥ずかしい大人が帰ってきた~!
リナがここぞとばかりに、俺に口撃を仕掛けてくる。
(マリエ)
リナちゃん。レイナちゃん。
よく見ておくのよ。
人間、学がないとああいう恥をかくの。
二人はああなっちゃダメよ。
あれは、ホントにダメな見本よ。
(リナ・レイナ)
は~い!!
3人は俺をネタにし、楽しそうにじゃれあっている。
(悠)
ばかたれ!
あんなデカイのと戦わされる身にもなれ!
抗議の一つや二つ、してやらんと納得いかんわ!
あと、さっきのマークⅡの話!
あれ嘘だからな!
ただ、ロボットアニメでは、ああいう展開で新しい機体が登場して。
名前もマークⅡになって、響きがかっこいいってだけだからな!
本当に騙されてやんの!
ちょっと泣いちゃったりしてさ!
恥ずかしい~~!
バーカ!バーカ!
俺はリナに対し、口から舌を出し、せめてもの抵抗をしてみせた。
(リナ)
な、なんですって~~!!
あんた!
私がマークⅠに対して流した涙を返しなさいよ!
何で騙す必要があんのよ!
子供みたいな仕返しすんじゃないわよ!
リナは顔を真っ赤にして怒っている。
どうやら本気で信じていたようだ。
それもどうかと思うが…。
(悠)
へん!騙される方が悪いんだ!
バーカ!バーカ!
(審判)
始め!
ドォン!戦いを告げる太鼓が響く。
(悠)
しゃあ!いったる!
俺は太鼓の音と同時に、闘技場の中心に駆け出した。
(リナ)
あ~~!あんた!
ちょっと待ちなさい!
謝ってから戦いなさいよ!
こら~~!逃げるな~~!
リナが後ろで騒いでいる。
だが俺には、バトルと言う大義名分がある!
何を言われようと、今の俺には届かない!
俺は逃げ勝っただけだが。
始めて、リナを言い負かした気分だった。
ジャックよ!
機体については、今度ゆっくり話を聞かせて貰うぞ!
いざ、尋常に勝負!