水の章 クランバトル編 一回戦Ⅳ
○「舞」の秘密
(実況)
勝ったのはディープインパクト!!
我らが新藤マリエさまで~~す!!
(観客)
ウォー!!!
マ・リ・エ!!マ・リ・エ!!
マ・リ・エ!!マ・リ・エ!!
マリエさんは、観客の大歓声に答えながら、闘技場脇まで降りてくる。
(悠)
マリエさん!お疲れ様です!
流石ですね!
ナイスゲームでした!
(マリエ)
あら、ありがとう。
ちょっとお客さんが多かったから。
楽しくなって遊んで長引かせてしまったわ。
リナちゃんみたいに、直ぐに片付けられなかった。 一人で楽しんでご免なさいね。
(悠)
何言ってるんですか!
無傷の圧勝!完璧な勝利です!
最高の形ですよ!
では!恒例の!
俺はマリエさんに手を差し出す。
(マリエ)
次はキャプテンの番ね?
私達を少しは楽しませてね?
パァン!
俺達の2連勝を告げるハイタッチが鳴り響いた。
これで、こっちは2勝目!
次に俺が勝てば、レイナに回らずウチの勝利が決まる!
(リナ)
マリ姉おかえり!
相変わらずカッコよかったよ!
相手に攻撃させない、大楽勝だね!
リナはマリエさんに抱きついた。
(レイナ)
マリエさん!
ホントにお綺麗でした!
マリエさんがきらきらし過ぎて、私は途中直視出来ませんでした!
お願いします!握手してください!
レイナはテンションが上がりすぎて、意味が分からなくなっているようだ。
(マリエ)
ありがとう!二人とも!
二人の応援のお陰で、お姉さん頑張れたわ!
マリエさんは、そう言って二人を強く抱き締めた。リナは姉にじゃれつく妹のように笑い。
レイナは白目を向いて気絶した。
(観客)
マ・リ・エ!マ・リ・エ!
マ・リ・エ!マ・リ・エ!
観客の興奮も収まらない。
マリエコールが鳴り続いている。
(リナ)
しかし、ついさっきまでウキーウキー言ってたのに、気が付いたら普通に応援してるなんて…。
一体この人達の手のひらは、今日だけで何回回ったのかしら?
(マザー)
ロボットアームでも着いてるんじゃないですか? あのクルクル~って回るやつ。
もの凄い回転スピードですし。
(レイナ)
あの、ウィンウィ~ンってやつですね。
最早どっちが上か分からないです~。
(悠)
まあ、そう言わさんな。
マリエさんのあの容姿にあの性格。
そして、何よりもこの試合内容。
皆は自分達が、彼女の勝利に貢献した様にも感じられたんだろう。
彼等がマリエさんに入れ込む理由は、それで充分なんだよ。
ほら?流行りの「会いに行ける」的なさ…。
あいつらは皆、もしかしたら自分のお陰でマリエさんが勝利したのかもって思ってるんだ。
信じられないかもしれないけど。
あいつら本気でそう思ってるからな?
見ろよ。皆の幸せそうな顔。
あんな顔見せられたら、怒るに怒れねぇよ。
どんなに手のひらを返されようとな…。
同じ男だから分かっちまうんだ。
な?あいつらは皆。
自分のアイドルを見つけて嬉しいんだよ。
今、新しい生き甲斐を見つけたんだよ。
見てくれよ。皆きらきらしてるだろ?
そしてな?
今最高の瞬間を生きている。
あの幸せそうなオジサンがだぞ?
明日会社行ったら上司にどやされるんだぞ?
どうだ?悲惨すぎて泣けてくるだろ?
そう話ながら泣いていたのは俺だった。
よくよく見ると、観客の内数名も泣いていた。
現実に引き戻してしまい、本当に申し訳なかったと、心からお詫びをしたい気分だった。
(レイナ)
大人って!大人って大変です~!
何故かレイナも泣いていた。
(リナ)
あんた共感する方向間違ってない?
今大会の開始時から、リナはレイナの突っ込み役にもなりつつあった。
(マザー)
祝勝ムードのところ申し訳ありません。
少しお伺いしてもよろしいですか?
マザーがマリエさんに声をかける。
(マリエ)
ええ。なにかしら?何かの質問?
(マザー)
ええ。
マリエさん。今回の…。
フィーブルを拘束した心具の能力。
あれは一体どうやって発動させたのですか?
私たちの中で、発動に気付けたのは、レイナさんだけだったんです。
出来れば後学のため、教えて頂きたいのですが。
マザーが質問したのは、やはりフィーブルを拘束したあの生物。あの能力の発動についてだった。
俺達も、レイナ以外はサッパリ分からない内に、能力は発動されていた。
植物の能力であれば、舞を踊る必要があるのだが。その様子はなかった。
何か隠された発動条件があったのか。
俺も出来れば知りたいところだ。
(マリエ)
ああ、あれね?
というより、レイナちゃんにはバレちゃったのか~。
上手く隠したつもりだったのにな~。
流石ねレイナちゃん!
マリエさんは、レイナの頭を撫で回した。
レイナは、一回戦2度目の恍惚の表情を浮かべている。
(リナ)
レイナが凄いのはもう分かったわよ!
それはいいから、早く理由を教えてよね!
リナは若干イラついたかの様に語尾を強めた。
(マリエ)
あらあら、ごめんなさい。
でも、せっかく気付いてくれたのだから。
ここは、レイナちゃんに説明して貰いましょう?
私も、どのタイミングでバレたのかが分かれば、次に注意しなきゃいけない部分が確認できるもの。
レイナちゃん。お願いできる?
そう言ってマリエさんは、レイナからの説明を求めた。
(レイナ)
わ、私がですか?
うう~~。上手くできるか不安です~~。
レイナは突然の指名に顔を赤く染め、緊張している様子だ。
(悠)
マリエさんがああ言ってんだ。頼むよ。
(マザー)
私からも是非!
これからのトレーニングの参考になるかもしれませんし!
(マリエ)
ね?レイナちゃん。お願い。
レイナは皆に促され、恐る恐るだが、話を始める決意をしたようだ。
(レイナ)
分かりづらかったらすいません~。
レイナは頷いてから、ゆっくりと説明を始めた。
・・・・ 大会主賓席にて ・・・・
(エリアス)
どのタイミングで発動したか…。
はっきり「ここ」という部分は、残念だが私にも分からなかったな。
あの女性は会話や身振りで、上手く相手や私達の気を逸らしていた。
誠に天晴れな手口としか言いようがない。
(アイシス)
帝の右腕。
エリアス・ペールをして、そこまで言わしめるか…。
彼女は貴女の言う通り、ただ者じゃないかもしれないわね。
(エリアス)
アイシス。ちなみに君は分かったのか?
彼女がどのタイミングで生物を発生させ、何故2つの能力を有したのか…。その原因を。
(アイシス)
う~ん。私はそういう細かい所は苦手なのよ。
何て言うか、私の力は。
きっともっと大雑把なの。
大きく使って、一気にバシャーみたいな。
分かるかしら?
(エリアス)
普段のお前を見ているからな。
確かに分からんでもない。
しかし、つまりは…。
水の帝をもってしても、彼女の能力発動については、はっきりとは分からなかった。
というわけか…。
(アイシス)
何だか言い返されちゃったみたいね。
でも、確かにその通りね。
今の試合だけでは、情報が少なすぎるわ。
恐らく、彼女の心具は、あの「扇」。
ここは、私達の共通認識よね?
(エリアス)
ああ。そこは私も同じ意見だ。
常に手放さず、最後に刃を飛ばしている。
心具であると見て、間違いはないだろう。
そして、基本属性は「風」だろうな。
扇と刃だ。まず間違いはないだろう。
(アイシス)
そこまでは分かるのよね…。
では、何で彼女はあの生き物を発生し得たのか。
ここが分からない。
若干の魔力の動きを感じたけれど、それからあの生き物が発生するのには、時間が短すぎる。
彼女はどこかで必ず、魔力を練っていたはずなんだけど…。
(エリアス)
彼女が2つの属性を有する稀有な存在であるとしても。
片方の属性を発言させるには、若干魔力を練るタイミングが必要だ。
一般的な言い方をすれば、「詠唱」の時間だが、この戦いの最中、彼女が時間を取って魔力を練った様子はなかった…。
彼女は詠唱を必要としない…というのは、解釈が肥大し過ぎだな。
(アイシス)
そこまでいくと、ランクCでは収まらない気がするのよね…。
可能性を感じるのは、彼女が「踊り子」を語っていること。
彼女が詠唱の代わりに、「踊り」を魔力出力に利用できるなら・・・。
けれど、彼女はこの試合中で踊ってはいないのよね~。
あ~。もう分かんない!
審判!私もギブアップします!
(エリアス)
おいおい。
帝がこんな大会で敗れたとなったら、ステラ中が大騒ぎだぞ?
冗談でも止めてくれ。
しかし、小さな魔力の揺らぎを何度か感じたが、結局尻尾は掴ませなかった。
やはり、私が感じた通り。
彼女はかなりの使い手だな。
(アイシス)
そこは認めざるを得ないわね~。
アイシスは、ディープインパクトの面々を見下ろしている。
あれ?見てエリーちゃん!?
あの人達、なんか集まって話してる!
もしかして、私達と同じ話してるんじゃない!?
(エリアス)
なにぃ!?どれどれ!?
・・・・・・。
う~む。確かにそうかもしれん。
しかし、中心で話しているあの白いローブの娘。
あれは、本人ではないな?
(アイシス)
簡単なことよ。
(エリアス)
うん?
(アイシス)
あの娘は気付いたのよ。
私達でさえ気付かなかった、魔力の動きに。
だから彼女が本人に代わって説明している。
そういうことじゃない?
(エリアス)
なるほど…。辻褄は合うな…。
しかし、あの娘は…。
そうか!控え室の時に怯えていたあやつか!
跳ねっ返りの強い、隣の娘に気をとられがちだが、確かにあの娘からも、強い資質を感じた…。
いや、しかしあの中では…。
(アイシス)
あ~!気になる気になる気になる~~!
エリーちゃん!
ちょっと近くで盗み聞きしてきてよ!
盗撮や盗聴でもいいわよ!
(エリアス)
アイシスよ。
それが帝の言うことか…。
私は恥ずかしくて泣きたいよ…。
(アイシス)
…ごめんなさい。
・・・・闘技場脇にて・・・・
(マザー)
それで、レイナさん。
マリエさんは、どのタイミングで魔力を練り、あの生物を発生させたのですか?
俺達はレイナを見る。
レイナは恥ずかしそうにしながら、口を開いた。
(レイナ)
はい。あの~。
基本的には、始めの内の動作のほぼ「全部」かと…。
(悠)
…。
ん?動作の全部?
ごめん。言ってることがよく…。
(レイナ)
ご、ごめんなさい!
私も何て言っていいのか…。
レイナは緊張のせいで、上手く整理して伝えられないようだ。
(マリエ)
レイナちゃん?
(レイナ)
は、はい!
(マリエ)
そんなに緊張しなくて大丈夫よ。
今の表現で大丈夫。
貴女の考えは合っているわ。
ただ、もう少し。
皆に分かるように、場面に分けて伝えてあげて?
マリエさんは、レイナを諭すようにゆっくり話しかけた。
レイナも、マリエさんに「合っている」と言われて安心したのだろう。
緊張も弱まり、落ち着いた様子に変わってきた。
自分の考えの正否が分からないとき。
こういった場面で発言するのは緊張するものだ。
レイナが緊張してしまうのも当然。
もっと気を使ってあげれば良かったと、少し反省をした。
(悠)
ごめんなレイナ。
押し付ける形になってしまって。
それで、マリエさんの言う通り、レイナが魔力を感じた場面を教えてくれないか?
始めから順番だと助かる。
俺の発言を聞き、マリエさんはにっこりと微笑んだ。
そう、それでいいのよ。
と、聞き方を誉められた気分だ。
やはり、彼女の方が俺より何枚も上手らしい。
(レイナ)
は、はい!分かりました!
では、始めの部分ですが~。
レイナも緊張が解け、いつもの口調に戻っている。
(レイナ)
まず、始めに魔力を練っていたのは、試合開始直後。フィーブルさんと話し始めた所から、会場の皆さんにお辞儀をした所までです~。
実際一番沢山の魔力を練ったのは、このタイミングでした~。
・・・・・。
(悠・リナ)
『その場面!一切踊っちゃいねーじゃねーか!』
俺とリナは同じことを考えたのだろう。
一瞬で目があった。
(悠)
リナさんやリナさんや。
ワシは年を取ったでの~~。
耳が聞こえんのかの~。
あの、のんびり話す娘さん。
何言ってるのか、さっぱり分からんのじゃ。
(リナ)
ええ。え~。分かります。
私もねぇ~。
長い付き合いですが、あの娘が時々。
何を言っているのか分からないんです。
私が年を取ったせいなのか。
あの娘が宇宙から来たせいなのか。
ちょっと分からないんです。
年を取るのは寂しいものですね~。
って、何をさせるのよ!
コツン!
俺はリナに軽く頭を叩かれた。
(リナ)
ちょっとレイナ!
今の話だと、マリ姉は全く踊ってないじゃない!
マリ姉が、植物の能力を使うときは、舞を踊る必要があったわよね!?
それは、どうやって補ったのよ?
リナは俺の漫才に付き合った後で、一番気になっていた質問をした。
それに対するレイナの答えは…。
(レイナ)
分からないです~。
(悠・リナ)
は?
(レイナ)
ですから、魔力を練ったタイミングと発動のタイミングは分かりますが、その方法は分からないです~。
それはマリエさんに聞いてください~。
(悠・リナ)
『なんですって!?』
『そりゃないでしょ、レイナさん!』
(レイナ)
あと、因みに魔力を練り終えたのは、マリエさんがフィーブルさんを指差した所です。
あの行為でマリエさんは、魔法の発動対象を扇に認識させました。
それと、それ以外に。
口元を隠したり、ヒラヒラさせたりと、扇を使う動作では、全て魔力を練っていました~。
私からは以上です~。
ありがとうございました~。
レイナは、そう言って頭を下げた…。
・・・・・。
(悠・リナ)
『終わっちゃった!』
『結局何も分からないまま終わっちゃったよ!』
(悠)
終わっちゃったよ~~!!!
どうしよう~~!!
お母さ~~ん!!!
俺は訳も分からず、空に向かい叫んでしまった。
自分だけが取り残された感覚に耐えられなかったのだ。
(リナ)
どうしよう…。こればっかりは。
私の理解の範疇を越えている…。
リナもさすがにどう解釈したらいいか分からないらしい。
リナで無理なら、年配の俺が分かるわけないね!
パチパチパチパチ。
マリエさんは拍手をした後、レイナを抱き締めていた。
(マリエ)
凄いわ!レイナちゃん!
全部見破られていたのね!
(レイナ)
全部だなんて…。
そんなこと…。
ないです~~。
レイナは、マリエさんに抱き締められ、嬉しそうに笑っている。
二人の様子からも、レイナの指摘に間違いはなかった様だ。
(マザー)
つまりは、合っていると…。
今のレイナさんの指摘に間違いはないと。
そういうことですか?
マザーがマリエさんに確認をとる。
(マリエ)
ええ、その通りよ。
レイナちゃんは、完璧に私の魔法の生成過程を見破っているわ。
やっぱり彼女は凄い娘ね。
そう話ながら、マリエさんはレイナの方を優しい顔で見つめている。
(マザー)
分かりました。
では、我々にも分かるように。
少し詳しい説明を頂いてもいいですか?
(マリエ)
ええ、もちろん。
同じクランの仲間ですもの。
(マザー)
ありがとうございます。
では、最初の質問ですが、試合開始直後。
貴女はフィーブル氏と話始めた。
この段階では、魔力は練っていますか?
(マリエ)
ホントに少しだけど練っているわね。
けれど一番強く出力させたのは、その後。
会場全体に身ぶり手振りでアピールした所ね。
それ以外は、魔力の補填をしただけ。
言ってしまえば、あそこで私は、勝ち目が出てきたと感じていたわ。
(マザー)
開始直後のあの段階で…。
しかし、それほど大きな植物では有りませんでしたが、マリエさんが植物の魔法を使うとき。
舞を踊ることで精霊と交信し、魔力を得ていたはず…。
あの場面、確かに観客にアピールするために、大袈裟な演技や、身ぶり手振りで扇を使用したりはしていましたが。
「舞」と言える程には見えなかった…。
では、その魔力は一体どうやって練り出したのですか?
多分、私達が分からないのはその部分なんです。
マザーの質問に、俺とリナは頷いた。
マリエさんがフィーブルを捉えた生物。
あれは間違いなく植物だろう。
マリエさんの心具を知っている俺達なら理解できる。
だが、その出力方法が分からない。
舞を踊らずとも、精霊との交信は可能なのか。
それとも気づかない内に舞を?
しかし、それは戦いを見ていた全員が否定している。
彼女は舞を踊っていない。
(悠)
…。
あ~!もう頭の中がぐちゃぐちゃだ!
マリエさん!ギブアップです!
どうやって植物の魔法を使ったのか?
舞に変わる何をしたのか!
俺達に教えて下さい!
(リナ)
私もお手上げだよ!
マリ姉!頭から煙出る前に教えて~!
(レイナ)
私も魔力の練り方にコツがあるなら知りたいです~!マリエさん!教えてください~!
俺達は全員でマリエさんを見つめる.
マリエさんは、クスクスと笑いながらこちらを見ていた。
(マリエ)
ごめんなさい。
何だか皆、真剣に考えてくれるものだから…。
私としても嬉しいのよ。
ただ、私としてはそんなに難しいことはしてないのよ?
それを今から説明するわね。
そう言ってマリエさんは語り始める。
その話には、彼女の躍りへの意識の高さと、能力の使い方の秘密が隠されていた…。




