水の章 クランバトル編 一回戦Ⅱ
○ 勝因分析
(マリエ)
さっきの話。
どういう訳か説明しなさい。
マリエさんが、怒った顔で迫ってくる。
(悠)
な、なにがですか?
『近い!嬉しいくらい顔が近い!』
俺は照れてしまい、思わず視線を逸らした。
(マリエ)
だ~か~ら~!
なんでリナちゃんが勝てると分かったのかを教えなさいっての~!
マリエさんは肩を掴み、体を揺すってきた。
(悠)
『ああ、良い!』
『こんな綺麗な人とじゃれ会えるなんて』
『俺の人生最高の瞬間は今かもしれない!』
俺は頭をガクガクされながらも、恍惚の笑みを浮かべていた。
(リナ)
やれやれ。
人が一頑張りして帰ってきたのに…。
それをほったらかして、何をじゃれ会ってんだか…。
戦いを終えたリナが、闘技場脇の応援席まで戻ってきた。
(悠)
お~!リナお疲れさん!
俺はマリエさんへの照れ臭さを隠すように、リナに駆け寄った。
やっぱり先鋒はお前に任せて大正解だったな!
お陰で、流れが一気にこちらに向いたよ!
会場の驚き様ったらなかったな!
皆唖然としてたぜ!
(リナ)
ふん。当たり前よ。
何せこの私が戦ったんだから。
会場全体に腰抜かして貰わないとね。
そして…。なんなのよあの相手は!
張り合いが無さすぎる!
一発で沈むなんて!
はっきり言ってこんな試合、時間の無駄よ!
トレーニングしてた方がまだ有益だわ!
リナは余裕の勝利にも納得をしていない。
試合の時間をトレーニングに充てたかったとか。
ホントに上昇思考の塊の様な奴だ。
(悠)
まあまあ、そう言わずに。
相手だって頑張ったんだよ。たぶん…ね。
まあ、とにかくお疲れさん!
ナイスゲーム!お陰で最高の滑り出しだ!
俺はリナに手を差し出した。
(リナ)
ま、まあね。
私からしたら当然だけど…。
まあ?少しはキャプテンの期待に答えられたかしらね。
リナも照れ臭そうに手を差し出した。
パァン!
俺はハイタッチでリナの健闘を讃えた。
勝利の後のハイタッチ。
チームの大切さを確認できる最高の瞬間。
俺はこの瞬間が大好きだ。
(マザー)
『彼女にとっては時間の無駄か…。』
『いや、そんなことはない。』
『駆け出しのクランが経験を積むには、十分すぎる相手だったはず…。』
『決して相手が、グラハムが弱い訳ではない。』
『やはり、リナさんがホントに集中した時。』
『自分と向き合った時の能力は圧倒的だ。』
『会場の中で、一体何人が彼女の動きを追いきれただろうか』
『恐らくは我々や帝を入れても数人…。』
『身近で見ていた私でさえ、攻撃の瞬間は見えなかった』
『彼女は強い。まだ若く心が安定していないが』 『そのムラを無くせば、一体どれ程の…。』
『まったく、この人達は…。』
『いつもふざけたことばっかり言ってるくせに』
『ホントに、これからが楽しみで仕方がない!』
(レイナ)
リナちゃん!お疲れさまです~!
凄いかっこよかったです~!
さすがです~!
レイナはリナに飛び付き。そのまま抱きついた。
(リナ)
よしよし、レイナ!
私に掛かればこんなもんよ!
あんたに出番なんて回さないから、ゆっくり見学していなさい!
リナもレイナを抱き締め、頭を撫でている。
(マリエ)
リナちゃんお疲れさま!
凄いスピードね!
噂には聞いていたけど、あれほどなんて!
流石に驚いたわ!
(リナ)
マリエさん!
ありがとう!
マリエさんに繋げるように。
私頑張ったんだよ!
(マリエ)
ありがとうリナちゃん!
私もいい流れで試合に挑めるわ!
二人もお互いにがっちりと手を会わせた。
試合に勝つことで、より一層クランに一体感が生まれていく…。
どんな勝負であっても、勝つことの大切さは間違いなく存在するのだろう。
そして、リナと喜びを分かち合ったマリエさんがこちらに向き直った。
(マリエ)
・・・・。
さてと…。
そ・れ・で~~!?
何であなた達は、リナちゃんが勝てると分かったのか、そろそろ教えなさいよ~~。
マリエさんは俺の頬っぺたをギリギリとつねる。
ああ、やっぱりマリエさんとの絡みは刺激的だ。
(悠)
痛い!マリエさん痛いよ!
ちゃんと説明するから離して!
それを聞き、マリエさんは手を離した。
(マリエ)
もう!勿体ぶらないでさっさと教えてよね!
それで!?
どうして戦う前から勝ちを確信できたわけ!?
(悠)
確信できたって言うか、予想できた感じです。
(マリエ)
どっちでもいいわよ!
だから、それはどうしてなの!?
(悠)
それはですね…。
え~と。
マリエさんが、もし。
グラハムと同じ心具を持ったとしたら、どう使いますか?
(マリエ)
どうって!?
普通に未来を見て、相手の動きを確認して!
反撃できるように動きを合わせるわよ!
(悠)
そうですよね。俺もそうすると思います。
(マリエ)
だったらグラハムは間違ってないじゃない!
あ~!だんだんイライラしてきた!
さっさと答えを教えなさいよ!
(悠)
いやいや、これからが大事なことでして…。
グラハムは5秒先を予知する心具を手にいれた。
では、その心具を使うとき、マリエさんなら何秒先の未来を見ようとしますか?
(マリエ)
5秒後…。
貴方、そろそろ質問するときに、体の一部を失う覚悟をしておくことね。
(悠)
失うって何を!?まさか!?
俺は思わず股間を押さえた。
(マリエ)
バッ!
マリエさんは俺を睨み付け、扇を構えた。
(悠)
嘘です!すいません!
そう!普通は5秒後を見ようとするんです!
ですが、これが彼の敗因なんですよ!
(マリエ)
5秒先が見える心具を正しく使ったのが敗因!?
何よそれ!?
とんちでもさせるつもりなの?
(悠)
確かに、ひとやすみさんみたいですよね。
でも、答えはいたって簡単なんですよ。
要するに、彼は開始の「合図の瞬間」。
心具を発動させた…。
けれど、リナの攻撃が彼に到達したのは、心具が見せた5秒後より前だったんです。
(マリエ)
グラハムの心具は彼に5秒後の世界を見せた。
だが、彼が攻撃を受けたのは5秒より前だった。
・・・・・!? そうか!
彼が心具を通して見た5秒後の世界は、リナちゃんの攻撃が叩き込まれた後の世界だった。
だから彼は、何が起きたのか分からない内に、リナちゃんの攻撃をまともに受けたのね。
(悠)
その通りです。
グラハムが、自分の心具をわざわざ会場に自慢したときに。
俺とレイナはそうなる可能性に気付いたんです。
俺はレイナに視線を送った。
レイナもこちらを見て頷いていた。
(レイナ)
リナちゃん気合い入ってましたから。
きっと開始と同時に突っ込むと思ったんです。
そしたら、攻撃が届くまで。
きっと5秒かからないかなって。
私のも、あくまで予想でしたが。
(マリエ)
呆れた…。
単純な算数計算じゃない。
難しく考えて損したわ。
(悠)
リナの集中した時の凄さを知っていれば、そんなに難しくなかったですよね。
俺達は時々トレーニングで見てたし。
それに…。
まあ、これも結果論かもしれないですが…。
グラハムが例え何秒先を見たとしても…。
きっと結果は変わらなかったと思いますよ。
(マリエ)
何秒先を予知したとしても?
それも気になる言い方ね。
(悠)
これも単純な話ですよ。
集中した時のリナのスピードは圧倒的だ。
今回グラハムを倒すのにも、約1、5秒位しか掛からなかった。
だから…。
リナと戦うときに、「未来」を見ても、結局無意味かなと。
(マリエ)
で?その真意はなに?
もう疲れたから、質問はしないわよ?
(悠)
では、簡潔に。
トレーニングで確認されている、リナの攻撃スピード。いわゆる回転力ですが。
初撃から追撃に要する時間。
これが実は、驚異の約0.2秒。
しかもリナは、この秒数の間に、上下左右全ての方位から攻撃を行うことができる。
(マリエ)
0.2秒!?
それってまさか!?
(悠)
お気付きの通りです。
つまり、大体1秒もあればリナの攻撃は…。
「全方位から繰り出される」
ということになるんです。
・・・・大会主賓席にて・・・・
(アイシス)
あの速さ…。何よりも瞬発力か…。
速かったわね~。
ちょっと驚いちゃった。
流石にあのスピードで突っ込まれたら、未来を見る暇なんて全くないわね。
つまり…。
相性が最悪だったのは実はグラハムの方だった。 ということになるかしらね。
アイシスは闘技場を見下ろし笑っている。
(エリアス)
私の見立ても検討違い。
まるで外れていた訳か…。
しかし、意外だな。
つい先程、私が会ったときはあの娘。
そこまでの力を有しているとは感じなかったが。
今日の私の見立ては、どこかおかしいのかな?
(アイシス)
そんなことないわよ。
きっとムラっ気があるんでしょうね。
元々短気みたいだし。
心が安定しないのよ。
でも、貴女が会ってから一時間位しか経ってないのに…。
あそこまで心を落ち着かせることが出来たのは… きっといい仲間に巡り会えたからでしょうね。
アイシスは、じゃれ会うディープインパクトの面々をみて、優しい笑みを浮かべていた。
(アイシス)
やっぱり、あのクラン面白いじゃない。
親書を携えて来るだけはあるわ。
(エリアス)
…。
彼らになら。
任せられると思うか?
(アイシス)
…。
それはまだ分からないわね。
取り敢えずは、勝ち上がりを願いましょう。
これくらいの相手には勝って貰わないと…。
全くお話にならないわ。
話はそれからよ。
・・・・闘技場脇応援席にて・・・・
(実況)
さあ!先程のグラハム選手対リナ選手の戦いの映像が入ってきました!
皆さん!会場モニターにご注目ください!
(悠)
お~!凄いな!
リプレイもあるのか!
野球場を思い出しちゃうな!
(レイナ)
スポーツニュースのハイライトみたいです!
興奮します~!
(悠)
だな!
『よし!決めた!』
『やっぱりレイナとは、野球友達という新たな関係も築いていこう!』
『スポーツニュースまで見てるなら、この娘はきっと本物だ!』
(実況)
私もそうですが、多くの方たちが一瞬の出来事で何があったか分からなかったでしょう!
それでは、スローで確認します!
先ずは、審判による開始の合図!
この瞬間、グラハム選手のレンズが光りました!
恐らくは心具を発動させたのでしょう!
そして、リナ選手ですが…。
なんと!?
既にグラハム選手の直ぐ手前まで来ている!?
端から端まで約30メートルはある、この闘技場で!?
これは!なんて速さでしょうか!?
これでは我々に見えるはずがありません!
そしてグラハム選手のレンズが光り終えた時!
リナ選手は既に攻撃体制に入っています!
そして、リナ選手は心具である剣を!!
・・・・・。
え!?あれ!?ジャンプした!?
え~と、これは・・・?
ジャンプをしてから顔面を?
あれ?もしかして「飛び蹴り」?
な、なんとリナ選手!!
スピードを活かして、そのまま相手に飛び蹴りを叩き込んでいます!!
そしてグラハム選手は、そのまま吹き飛ばされている~!ダ~~ウン!!
審判が確認し、リナ選手の勝利が決まりました!
なんということでしょうか~!
この試合!ディープインパクトのリナ選手は!
心具を一切使用せず相手をKOしてしまった~!
この娘!
まだまだ若い様ですが、規格外に強い!
これは当闘技場外に!
もの凄い選手が現れてしまったようだ~!
私たちは、歴史的な資質の目撃者になったのかもしれません!
(観客)
マジかよ!スゲエ~~!
俺速すぎて何したか全然分からなかったよ!
いやいや!見えたやつなんかいねーよ!
完全に別次元のスピードじゃねーか!
映像を見た観客達も驚きを隠せない。
リナの勝利で完全に、観客はこちらを意識し始めたようだ。
流れは間違いなくこちらに吹いている。
(リナ)
フッフッフッ。
驚いてる驚いてる。気分いいわ~~。
対戦相手には恵まれなかったけど。
私の名前をステラ中に売る、いい機会になったかな?
(レイナ)
リナちゃんの動きに会場中が釘付けです! やっぱりリナちゃんは凄いです!
私の。私の憧れ…。です…。
(リナ)
え?何?聞こえなかったわ。
(レイナ)
何でもないです~!
とにかくリナちゃんの凄さは皆に伝わりましたよ~!
(リナ)
そうかな?サインとか求められたらどうしよ?
考えとかないとね。
リナはにやにやと笑っていた。
(審判)
静粛に!!
グラハム選手の搬送が終わりました!
まもなく次鋒戦を執り行います!
両クラン!代表者準備して下さい!
(マリエ)
あ~あ。
リナちゃんの凄さを見せつけられてる内に、私の出番になってしまったわ。
ちゃんとウォームアップも出来なかったわね。
(悠)
マリエさん。ごめんなさい。
俺が長々と話をしたばっかりに…。
(マリエ)
あら?きちんと責任を感じているの?
それに関しては評価してあげるわ。
必ず次に活かすことね。
(悠)
はい…。心得ておきます。
『いや、ここは普通…。』
『そんなことはないわ。大丈夫よ。』
『とか、言うところでは?』
あの、マリエさん!
頑張ってください!
俺…。応援してますから!
(マリエ)
キャプテンにそう言われたら…。
まあ、頑張るしかないわね。
リナちゃんの様にはいかないけど、私もクランの代表に恥じない試合をしてみせるわ。
(リナ)
マリ姉なら大丈夫!
私みたいに圧勝できるよ!
落ち着いて!いつも通りにね!
(レイナ)
マリエさん!今日はいつも以上に綺麗です!
精霊さんも扇も喜んでいるはず!
怪我をしないように気を付けて!
頑張ってください!
(マリエ)
あらあら。皆ありがとう。
こんなに可愛い妹たちからも励まされたら…。
気合いが入らないわけ。ないわよね!
パァン!
マリエさんは自分の頬を叩き、気合いを入れる。
皆ありがとう!必ず勝って!
優雅に戻ってきてみせるわ!
(審判)
では、時間です!両者!舞台中央へ!
(マリエ)
はい!
(悠・リナ・レイナ)
マリエさん頑張って!
気を付けて行ってきて下さい!
マリ姉!かましたれ!
マリエさんの気合いの入った返事。
そして、俺たちの声援が響く。
イグ・ノウレッジとの次鋒戦。
マリエさんの戦いが幕を開ける。
○ 狂演乱舞 主に男性
(審判)
それでは、次鋒戦を執り行います!
両者、お互いに礼!
帝様に、礼!
二人はお互いに礼を交わし、帝にも礼をした。
(悠)
良かった~。
マリエさんまで帝に喧嘩売ったら、俺達悪役として会場に認知されちまうところだった。
さすがマリエさん。
大人だな~。
(リナ)
ハイハイ。すいませんね~。
私はどうせお子さまですよ。
(レイナ)
まあまあ、リナちゃん。
戦ってる時のリナちゃんは、ホントにカッコ良かったから。
きっと誰も悪役なんて思ってないですよ。
(リナ)
ありがとう~。やっぱりレイナは優しいね~。
リナはレイナの頭を撫でている。
(レイナ)
えへへ~。レイナは頭を撫でられ嬉しそうだ。
(リナ)
それにね。オジサン。
別に心配なんていらないわよ。
例えどんなに帝に喧嘩を売ったとしても…。
この状況でマリ姉が悪役になんて…。
絶対なるはずないでしょ?
(悠)
え?なんで?
だって、いくらマリエさんでも。
ここは水の大陸だし。
水の帝に喧嘩を売ったら、流石にただでは…。
(リナ)
…。あのさ。腹立つけど。
よく聞いてみなさい…。
(悠)
なにを?
(リナ・レイナ)
実況!/実況です。
俺は二人に促され、実況に耳を傾ける。
・・・・・・・・・・・
(実況)
え~~。
大きなお友だちの皆さんこんにちは。
小さなお友だちの皆さんお休みなさい。
皆さん!!お子さまは帰しましたか!?
(会場)
お~~~~!!!!
(実況)
奥様、彼女には用事を頼みましたか~~!?
(会場)
お~~~~!!!!!!!
(実況)
そうですか。
私も妻に忘れ物したと言って、手元にあるお弁当を取りに行って貰いました。
私の準備は出来ている!!
それでは、皆さん!!
大変お待たせいたしました!!
私もずっと待っていたぞ!!
ずっと気になっていた!!
あのセクシーなドレス!!!
麗しいお姉さんの登場を!!
いいですか皆さま!!!
注意してください!!!
ここからは~~~~~~~~。
大人の時間だ~~~~~~!!!!!!!!
(会場)
いやっほ~~!!!
やっと出てきてくれたぜ~~!!!
待っていたぞ!!この時を!!
正に夢にまで見ていた!!
俺はちゃんと子供をベットに寝かしつけた!!
嫁さんには用事を頼んでおいたぜ!!!
そうこれからは~~~~!!
俺達の時間だ~~~~~~!!!!!!
会場(主に男性)は、マリエさんの登場に、正にお祭り騒ぎになっていた。
中には涙を流しているものまでいる。
現在の会場の歓声は。
帝に向けられたそれよりも大きく…。
何よりも声が低い!
いいぞ皆!最高に気持ち悪いね!
・・・・主賓席にて・・・・
(エリアス)
なんだなんだ?あの女性は?
凄い人気だな!そして凄いドレスだ!
声援の大きさだけなら、水の帝のお前よりも大きいのではないか?
(アイシス)
私の場合、ああいうアイドル的な要素は不要よ。 私に必要なのは、見た人を黙らせる程の、圧倒的な存在感。
登場するだけで、場を完全に支配する。
そんな絶対的な気配。
彼女と私では、資質が示す方向が違うわ。
(エリアス)
確かにそうかもな。
しかし、少しは悔しいのではないか?
お前は昔から、負けず嫌いだからな。
(アイシス)
悔しいわよ!
私だって皆にキャーキャー言われたいわよ!
けど、私は…。
そういう立場じゃないじゃない。
ただ静かに、そこにいること。
それが私の役目なのよ。
(エリアス)
アイシス。
お前も本来なら年の若い女性だ。
人並みに周りに認められたいと思うのは当然だよ。私はそれについては、否定する気はない。
帝と言えど、一人の人間だからな。
(アイシス)
ありがとう。エリーちゃん。
エリーちゃんがそう言ってくれるから、私は帝として頑張れていると思うわ。
…。
何だかネガティブな雰囲気になってきたわね。
この話はお仕舞い。
バトルの話に戻しましょう。
それで?彼女の資質。エリーちゃんはどう見る?
(エリアス)
資質というか、持ち得た感想だが。
一番の特長として。
心が非常に穏やかだ。波が少ない。
彼女は、感情が上下しても、心の中の平静は一定に保てる人間なのだろうな。
怒りに任せて動いているつもりでも、頭の片隅だけはいつも冷静でいられる。
常に物事を大局的に見ることが出きる。
どんな時も、相手や周りに目がいくタイプ。
一種のバランサータイプの人物だろう。
ああいう人間が、クランに一人いると非常に助かるんだ。
私が控え室に挨拶にいった際も、彼女は私と仲間の心の波を注視していた。
ああいう人物は、爆発力は少ないかもしれないが、常に安定した力を発揮する。
ホントに計算の出来る、素晴らしい仲間となるだろうな。ウチのクランに欲しい位だよ。
そして…。
(アイシス)
そして…。あの謎の求心力。
人が人を惹き付けるのには、必ず理由がある。 それは、その人物の、
「容姿」「器量」「分野別の特技」
そして何よりも備わった「資質」。
あれだけの求心力だもの。
彼女の資質の高さに疑問の余地はないわ。
果たして彼女が何を有したのか。
現状では分からない。
この戦いで少しは分かるといいわね。
・・・・闘技場脇応援席・・・
(悠)
実況を聞いて理解したよ!
なるほどな!マリエさん!
ここでも凄い人気だな!!
会場から大声援じゃねーか!!
そして男って生き物は!
ホントに愛らしいもんだな!!
へへ!お前らみたいな素直な連中!!
俺!嫌いじゃないぜ!
舞台袖の俺達も声を張らないと会話が成り立たない。マリエさんへの声援があまりに大きいのだ。
しかし、男という生き物に、世界の違いは関係がないことがよく分かる。
皆、綺麗でセクシーなお姉さんが大好きだ。
そして、俺は…。
そんな皆が大好きだ!!
(リナ)
男って生き物は!!
何でこうも単純なのよ!!
マリ姉が味方じゃなかったら、私会場中をぶん殴って歩く自信があるわ!
(レイナ)
リナちゃん!!
マリエさんの美しさに性別は関係ありません!!
私もマリエさんの戦うお姿が早く見たいです!!
男女問わず、皆マリエさんに夢中です!!
そして、そんな皆が私は大好きです!!
(リナ)
なんてことなの!?
レイナまでおかしくなってる!!
ああ!?見てあれ!!
あそこにいるお爺さんなんて、泣きながら手を合わせて拝んでるわ!!
お爺さん!!
その人は決して神様じゃないわよ!!
仏さまは、まだ見てはダメなものよ!!
(悠)
良かったな爺さん!!
今日まで長生きしてきてよ!!
ああ、分かるよ!!同じ男だからな!!
うんうん!!
きっと、もう後悔はねえんだな!!
いや、正確には、今無くなったんだな!!
いいよ!!俺が許す!!
爺さん!!いっそ今日!!行ってしまえ!!
(リナ)
勝手に行かすなこのボケが!!
ガン!
俺はリナに後頭部を殴られた。
(悠)
いたたたた~~。
冗談だよ。ホンの冗談。可愛い冗談。
(リナ)
許される冗談と許されない冗談があんのよ!
あんたのは許されないの!
大人なら分かりなさい!
(悠)
大人よりも優先すべきは「男」という事実だからな~。
ほら、爺さんも分かってんだよ。
こっちに手を降りながら、空に向かって飛んでるじゃねーか。
(レイナ)
ホントですね。
お爺さん。幸せそうです。
(リナ)
ちょっと待って!
それ行ってるから!
洒落にならないから!
私には見えないから!
あんたたち早く連れ帰ってきなさいよ!
(悠)
大丈夫だよ。あんなに幸せそうだし。
空飛んでるのはあれだ。
きっと爺さんの心具かなんかだろ。
(レイナ)
そうですね。
あれだけ幸せそうなんです。
きっと晴れやかな旅路なんでしょう。
(リナ)
二人とも、何でそんなに落ち着いてんのよ!
私だけ現実見るの辛いんだけど!
(悠)
さてと…。
冗談はそれ位にして、マリエさん。
やっぱり凄い人気だ。
大観衆に緊張してないだろうか。
(レイナ)
マリエさんは、ステージ慣れしているし、観客は大勢の方が力が出るタイプでしょう。
見てください。
歓声に手を降っています。
お爺さんが逝くのも納得です。
(リナ)
今さらりと、「逝く」とか言ったけど、もう付き合わないわよ。
私だけ疲れるのはごめんだからね。
…。
確かにマリ姉は大丈夫そうね。
後は、相手の心具がどんなものか。
それが知りたいわね。
舞台の中央では、マリエさんが歓声に手を降りながら応えている。
その最中、対戦相手がマリエさんに話しかけているのが分かった。
(メガネⅡ)
いやはや凄い人気ですね。
私なんか相手だなんて、恐縮してしまいます。
ああ失礼。
申し遅れましたが、私の名前は,
フィーブル・コット。
ステラにおける生物の研究しております。
ご存じないでしょうが、ステラにはその全土に、何千・何億もの生物が存在しています。
中には、人と同程度の知能を有するものもいる。
いわゆるモンスターと言われる存在です。
私は特にモンスターを研究し、彼らが人に危害を加える理由を解き明かしたいと思っています。
そして…。その研究の先に…。
いつか彼らと共存する道がないかを研究していきたいのです。
今大会での目的は、グラハムと同じ。
帝様に、生物学の魅力を知ってもらい。
私の研究を進展させる、援助をして貰いたいのです。
(マリエ)
へ~~。モンスターと共存か…。
何だかとても素晴らしい研究じゃない?
グラハム見たあとだから、どんなぶっ飛んだ奴かと思ったけど…。
個人的に、凄く応援したいと思うわ。
生き物好きなのよ。私も。
それに、知能が高くて、人間と共存関係を築けるモンスターを。実際私も知っているしね。
まあ、そいつらちょっと禿げてるけど。
(フィーブル)
なんと!?それは素晴らしい!
是非話を聞かせていただきたい!
実は、私自身は最近まで。
研究の第一歩として、生物の採集をメインに活動していました。
掴まえた生物の生態を研究し、モンスターの生態と繋がる部分を探してきたのです!
その研究を基に、モンスターとの共存は可能と判断しました。
モンスターとの共存は、これから本格的に取り組む研究課題なのです!
ですから、お恥ずかしい話ですが。
まだ人間社会に溶け込んでいるモンスターについて、実際に目にしたことがないのです。
こんな所で貴重なお話が聞けるなんて…。
水の精霊に深い感謝を示さねばいけませんね。
もちろん、情報を教示頂ける、貴女にも感謝いたします。
(マリエ)
何だか大袈裟な人ね。
でも、グラハムとは違って、研究者以外の人間にも敬意をもって接している。
生物に興味を持つだけあって、優しい人なのかしらね。
私の知るモンスターの話は後でしましょう。
興味があるなら試合後でもいいわ。
とにかく、この試合をよろしく。
ああ、そうだ。
私は新藤マリエ。踊り子よ。
よろしくね。研究者さん。
(審判)
両者!一度舞台端に戻って!
準備出来次第、試合開始します!
マリエさんが舞台上のこちら端に戻ってくる。
(リナ)
マリ姉!なんか話してたけど大丈夫!?
変なこと言われなかった!?
(レイナ)
マリエさん!?あのメガネ!
マリエさんに何をしたんですか!?
場合によっては私が!
(マリエ)
大丈夫よ!二人とも。
心配してくれてありがとう。
グラハムとは違って。
今回の相手は。
相手をバカにしたり、研究成果を自慢したりするような人ではないわ。
私も誠意をもって試合に挑める。
気持ちも穏やかに、集中してやれそうよ。
マリエさんは自分で話しているように、落ち着いた表情をしている。
試合にもすんなりと入っていけそうだ。
(悠)
マリエさん!
マリエさんの言う通りなら、相手はきっと真面目な研究者なんでしょう!
ですが、相手は一応格上クランです!
グラハムと違って心具の能力も分かっていない!
絶対に無理はしないで下さい!
(マリエ)
あらあら。
今日のキャプテンは随分優しいのね。
大丈夫よ。安心して待っていて。
私だって、足を引っ張るためにこの場にいる訳じゃない!
(レイナ)
ドクン!
足を…。引っ張るためでは…。ない…。
皆そうなのかな?
皆戦う前は怖いのかな…?
私だけじゃ…。ないのかな…?
(審判)
それでは、次鋒戦を開始します!
はじめ!
ドォン!
マリエさんの戦いを告げる太鼓が高らかに鳴り響いた。