水の章 クランバトル編 一回戦
○バトル大会初戦
・バトル前控室にて
(マザー)
皆さんいよいよ初戦です!
気を引き締めて挑みましょう!
(リナ)
当たり前よ!
先ずは3人全勝して明日に繋げるわ!
(マリエ)
ええ、そうね!
私だって誰にも負けるつもりはない!
初戦なんて眼中にないのよ!
圧勝して格の違いを見せつけるわ!
(悠)
二人ともいい感じだな!
このまま気合いで相手を圧倒しよう!
マザー!
相手のクランの情報は上がったか?
(マザー)
はい!先程上がりました!
クラン名は、「イグ・ノウレッジ」。
全員資質ランクD。
クランランクもDです。
気を付けて下さい。
本大会の参加可能ランクでは、最上位にあたります!
クランランクも我々より上!
一般的な指標では、相手の方が格上になります!
恐らく実戦経験も上でしょう。
予選を突破したクランですから、簡単にいくはずがありません!
(リナ)
確かに実戦経験は少ないけど、私達はあんたのトレーニングを受けてるから大丈夫よ。
相手が誰かなんて関係ない。
私は全勝して、この大会でもっと強くなる。
帝にだって…。私は勝ってみせるんだ!
試合が近づくにつれて、リナのテンションはぐんぐん上がってきている。
今は自分自身でも、興奮を押さえられない。
俺からはそんな風に見えていた。
(マリエ)
ねえ?悠さん。
マリエさんが俺に近づき小声で話しかけた。
(マリエ)
リナちゃんなんだけど…。
私にはなんだか、凄く危なっかしく見えるわ。
あの娘は確かに強いし。資質にも恵まれている。 けれど、あんな風に自分を追い込み続けて、いつか壁にぶつかった時。
あの娘は立ち直れるかしら?
私達には気にもならない小さな壁でも、あの娘みたいに全力でぶつかり続けてしまったら…。
あの娘はいつか自分に疲れはてて。
そのまま壊れてしまうんじゃないかしら?
私はそれが凄く心配なのよ。
あの娘は、自分に「完璧」であり「無敵」を求めている。
きっとあの娘の中では、世の中のどんな出来事も「勝ち負け」が判断の基準なのよ。
今回みたいなバトルはもちろん、これまでの試験や部活動、日常生活に至るまで。
全てに勝ち負けをつけている。
これほど大変な生活は想像出来ないわ。
常に何かと戦い続けているのだから。
そしてあの娘は、その全てに勝とうとしている。
勝ってきたと自負している。
どんな勝負においても勝ち続ける存在。
そんな人間絶対にいないのに。
あの娘はそれが自分の使命であるかのように。
強迫観念にも近い、激しい信念で自分を締め上げている。
でも、それが無理だと気づく日が必ず来る。
上には上がいると知らしめられる日が来るわ。
もしかしたら知らしめる相手は、身近にいるかもしれない。
その時あの娘は…。
一体どうなってしまうの?
その事実に耐えることが出来るの?
私はそれを知るのがそれが凄く怖いのよ。
マリエさんは真剣な表情でリナを見つめている。
確かにリナの負けず嫌いは常軌を逸している。
今日だけでも2度、勝てない相手に実力を見せつけられ、異常なまでに心を乱した。
マリエさんの言うように、些細な壁にぶつかっただけで、大きく心が揺さぶられるような。
そんな弱さをリナには感じる時がある。
しかし、当の本人は試合に向けてやる気充分。
腕をグルグル回し、戦いたくて仕方ない。
そんな表情だ。
(悠)
マリエさん。
マリエさんの言いたいことはよく分かりました。
確かにリナには、色々危なっかしい部分も多い。
けれど、まだ今は大丈夫。
アイツはまだまだ若いっすから。
しばらくは様子を見てあげましょう。
もしかしたらアイツ。
俺達がビックリする位、人として成長するかもしれない。
自分の弱さに気付くかもしれない。
アイツならそんな風に、俺たちを驚かせてくれるかもしれない。
実は俺、アイツにそれ位の期待してるんですよ。
俺はマリエさんに、にっこり笑ってみせた。
マリエさんはその顔を見て一瞬笑い。
安心したかのように、大きく息を吐いた。
(マリエ)
確かにそうよね。
あの娘が壁にぶつかる日が、いつになるかは分からない。
それまでに、あの娘自身が成長して、答えを出すかもしれない…。
その可能性だって充分にあるのよね。
あ~あ。なんだろうな。
私もあの娘みたいに、答えを焦ったのかもしれないわね。
貴方に気付かされるなんて、私もまだまだみたいね。
(悠)
貴方にって…。
まあ一応、無駄に年だけは取ってますからね。
あんまり嬉しくはないけど…。
(マリエ)
そんなことはないわ。
少なくとも今の貴方は、年長者として、私に適切なアドバイスをくれた。
貴方が私より長く生きたことに、少しは意味があったんじゃない?
まあ、あまり褒めると調子に乗るし。
あまり期待してはいないけど…。
これからも何かあったらよろしくね?
キャプテンさん?
マリエさんはそう言って扇で口元を隠す。
ただ褒めるだけのことはしない。
ウチの女性人は、ホントに頼もしく厳しい。
(マザー)
さて、もうすぐ入場時間です!
相手の心具が分からない以上、対策は取りようがありません!
私はただ、皆さんの資質を信じ!
勝ち上がりを信じています!
…。
それで…。
一番大切な出場の順番ですが。
どうしましょうか?
(悠)
それは決めているよ。
一対一と聞いた時から、この順番しかないと思ってた。
皆には悪いがここは俺の案に乗ってくれないか?
(リナ)
仕方ないね!
でも悠兄なら、きっとうまく纏めるでしょ?
(レイナ)
私も異論はありません!
悠兄さんにお任せします!
(マリエ)
こういう時位は決めて貰わないと。
頼むわよ!キャプテンさん!
皆の視線が集まる。
人生の中で、これほど相手から信頼されていることを実感し。
自分も相手を、心から信頼していると感じた瞬間があっただろうか?
この世界に来て、不安で一杯な時期もあったけど、俺はこうして信頼できる仲間に巡り会えた。
この一点においては、この世界に来たことに感謝している。
俺は皆と旅が出来てホントに良かった…。
皆に出会えてホントに良かったと…。
今心からそう感じている。
スウ~~。
俺は大きく息を吸い込み、大きく目を見開いた。
(悠)
はっきり言おう!
俺たちは今大会で一番強いクランだ!
これは間違えのない事実!
真実である!
何故なら!
最強のスピードスター、リナがいる!
最高の魔法使い、レイナがいる!
精霊と交信する舞姫、マリエさんがいる!
そして!
そんな素晴らしい仲間に恵まれた!
この俺がいるからだ~~!!!
今大会は俺達が勝つ!
勝って帝に近づき、いつか帝を越える!
今日は、その第一歩だ!
気合い入れていくぞ!
(全員)
おーー!!!
(悠)
よろしい!
では、オーダーを発表する!
先鋒はリナ!
お前のスピードで相手を圧倒し!
流れをウチに呼び込んでくれ!
(リナ)
アイサー!!任せなさい!!
キャプテンの期待に答えて見せるよ!
(悠)
次鋒はマリエさん!
舞で相手のペースを乱し!
会場を魅了し、全体をこちらのペースに持ち込んで下さい!
(マリエ)
沢山の人の前で恥かく様じゃ、踊り子は名乗れない!
キャプテンのお望み通り、お客さんを引き込んでやる!
(悠)
中堅は俺が務める!
二人がつないでくれた流れを、俺が必ず締め括ってみせる!
だが二人は無理をしないでくれ!
ダメなら後ろには俺がいる!
だから安心して戦って欲しい!
(リナ)
分かってるわよ。
(マリエ)
こう見えてそれなりには信用してるのよ?
(悠)
二人とも…。ありがとう。
そして、副将はレイナだ。
レイナは無理をしなくていい。
試合開始と同時にギブアップで構わない。
後は俺達には任せてくれ。
怪我人がでたらよろしくな!
(レイナ)
ありがとうございます…。
出来ることがありましたら…。
頑張らせて…。もらいます。
(悠)
よし!じゃあ、そろそろ会場入りだ!
せっかくの大舞台だ!
全員腰を抜かすくらい圧勝するぞ!
(全員)
おー!!
こうして俺達は気を引き閉め直し、初戦に挑む運びとなった。
格上相手なんて関係ない。
俺達は今大会最強のクランだ。
勝ち続けて、それを証明してやる!
全員の思いが一致していた!
○ 試合開始の5秒先
(実況)
さあ~~、始まります!
水の帝様主催のバトル大会一回戦!
こちらディープインパクト対イグ・ノウレッジの試合がまもなく開始となります!
現在、両クランが舞台中央に整列し、天使によるバトル説明を受けています!
ちなみに、試合の判定は当大陸が用意した、専門の審判員が行います!
天使はあくまで、重大なルール違反がないかの監視役にすぎません!
今大会は帝様の権限により、一対一以外の特種ルールはありません!
己の肉体と心具を充分に活用し、全力で戦っていただきます!
(悠)
改めて見るとすげ~人だな!
実況までついてら!
ヤバイ…。
ちょっと緊張してきたかも…。
俺緊張するとお腹緩くなるんだ…。
(レイナ)
私もです…。
お腹は大丈夫ですが…。
人前に出るのは苦手です~。
(リナ)
なにいってんのよ!
私の実力を世間に知らしめるいい機会じゃない!
(マリエ)
そうよね?
私が戦うんだからこれ位は集まってくれないと。
俺はレイナに近付いてひそひそと話した。
(悠)
最近思うんだけど、俺達の考え方って完璧に2対2に別れるのな。
ネガティブ側と超ポジティブ側に。
(レイナ)
私達は確かに臆病かもしれないですが、あの二人のメンタルも異常すぎます~。
あれはメンタルお化けです~。
メンタルお化けとは、なかなか上手い表現だなと俺は思った。
心のノートにメモしておこう。
その時、相手クランに声をかけられた。
(メガネの男)
あ~。君達が私達の初戦の相手かね。
可哀想に。初戦が我々なんて。
最初の試合で、我々の科学力の前に、無様にもひれ伏すことになろうとはね!
(リナ)
あ?何言ってんのこのメガネ。
ひれ伏すのはあんたらの方よ。
てか、何なのよあんたら!
全員メガネじゃないの!
どんだけ視力弱いのよ!
戦うんだから外しなさいよ!
目を怪我したらどうすんのよ!
てか、全員ひょろいわね!
ちゃんと外で遊んでんの!?
(メガネの男2)
フッフッフッ。
外す必要はないのですよ。
そして外に出るのは、実は久しぶりです。
貴方たちは、我々に触れることなく破れ去るのですから。
まあ、ぶっちゃけメガネないと何も見えないから、我々に必要なだけなんですけど…。
とにかく!貴方方は我々の科学力の前では無力!
科学の偉大さをステラに知らしめるため、我々はこの大会に参加しています!
貴方方はその最初の実験体です!
哀れな方達だ!
身をもって科学の力を知るのです!
覚悟しておきなさい!
(悠)
ふ~ん。そっか~。
科学はステラでは軽視されてるって聞くしな。
俺らの世界では科学が全てみたいなところもあるから、気持ちは理解できるよ。
まあ、皆何かしらの目的があって参加してるんだな。それは分かったよ。
取り敢えず、お互い悔いの無いように頑張りましょう。
俺は相手のリーダーと思われる男に握手を求めた。
(メガネリーダー)
ふん。礼を欠いては科学者の名が泣く。
ここは、貴方の気持ちに応えましょう。
相手も俺の手を握ってきた。
物言いは横柄だが、案外悪い奴等ではないかもしれないな。
(審判)
では、一度舞台袖に降りて下さい!
直ぐに先鋒戦から始まります!
俺達は一度舞台袖に降ろされた。
そして、審判と天使の打ち合わせを見ていると。
(審判)
では、
ディープインパクト対イグ・ノウレッジ
のバトルを開始します!
両チーム!先鋒!前へ!
(リナ)
おっしゃあ!
体ぎったぎたのメガネバッキバキにしてやる!
リナは気合いの雄叫びをあげ、舞台に飛び上がっていった。
(悠)
アイツは…。
少しは女らしさってもんがないのかね…?
(レイナ)
リナちゃんは昔からああなんです。
何かの試合の前とかになると、より一層口が悪くなって…。
大会とかでも相手チームと乱闘寸前まで…。
何回もいってるんですよ。
(マリエ)
それはいけないわ。
今度少し、女性のたしなみを教えてあげないと。
(審判)
両者中央に!
互いに礼!帝様に礼!
リナは帝には礼をせず、ただ黙って主賓席を睨み付けていた。
(悠)
う~わ。睨んでる。
ものっすごい睨んでるよ。
アイツ会場からブーイングされんじゃね?
(レイナ)
そういえば、昔相手の応援席を煽って怒られたこともありました…。
(マリエ)
ねえ?あの娘ホントにスポーツやってたの?
スポーツマンシップの欠片も持ち合わせてないじゃない。
(悠)
マリエさん。あいつはスポーツをするゴリラなんです。人の精神性なんて理解できませんよ。
(リナ)
ちょっと~!
あんた達さっきからバカにしてんでしょ!
よく聞こえないけど、雰囲気は分かるのよ!
リナは闘技場の中心でギャーギャーとこちらに向かい叫んでいた。
(悠)
あいつ遂に味方にまで噛みつきだしたぞ。
(レイナ)
そういえば、むかし・・・。
(マリエ)
止めましょう。この話は、きっときりがないわ。
(リナ)
あいつら~!
後でなに話してたか絶対吐かせてやる!
(メガネの男)
ちょっといいかな、お嬢さん。
(リナ)
あ?なによ?
(メガネの男)
私は貴方と対戦させて頂く、
グラハム・シュタインといいます。
普段は時空に関する研究をしております。
我々は科学者の集まったクランなのです。
皆、それぞれ違った分野の研究をしています。
先鋒は私が務めることとなりました。
お手柔らかに。
どうぞよろしくお願いいたします。
男はペコリと頭を下げた。
(リナ)
ご丁寧にどうも。
私は石澤リナ。
貴方を秒殺する女です。
どうぞよろしく。
(悠)
なんだあの二人?なんかしゃべってないか?
(レイナ)
リナちゃん。また相手を怒らせてないといいですが…。
(グラハム)
秒殺ですか。
それは頼もしい。
だが、それは無理でしょう。
先ほど私の仲間が言っていた通り。
貴方の攻撃が、私に当たることはない…。
ですからこの勝負。
あなたの勝ち目はありません。
(リナ)
あ?あんた顔もだけど、冗談もつまらないわよ。
私はあんたみたいなひょろいのが相手で。
間違って殺しちゃはないかの方が心配よ。
(グラハム)
いえいえ。ご心配なく。
全力で戦っていただいて結構です。
何故なら…。
貴方の攻撃が当たらない!
貴女が決して勝てない理由!
それは!
私の心具がこのレンズであるからなのです!
グラハムは手に持っている小さなレンズを会場全体に高らかに掲げて見せた。
そしてそのレンズをメガネの右側のレンズに重ね合わせる。
これをメガネにはめることで!
5秒先の未来を見通す力を私は得たのです!
これは時空を研究してきた私の努力の結晶!
正に私の心の形!
このレンズを研究し、いずれ未来にワープする機械を作り上げること!
それこそが私の夢なのです!
私はこの大会で優勝し!
帝様に、ステラで軽視されている、科学の素晴らしさを知っていただきたいのです!
今日は、皆さんに!
そんな科学力の片鱗をお見せ致します!
(実況)
おーっとー!!
グラハム氏の心具はまさかの未来予知!?
これは凄い機能を持った使い手が現れたぞー!!
いきなりの凄腕の登場に、会場は大興奮だ~!
(会場)
未来が見えるって!!
なんて凄い心具なんだ!!
グラハム!?聞いたことないな…。
今度家の店から出資金をだしてみるか!
スゲエ~~!!
相手の娘可哀想だけど、この勝負は決まったも同然だな!!
・主賓席にて…
(エリアス)
未来予知だと!?
そんな高レベルな心具を持った存在が、未だに水の大陸に隠れていたのか!?
(アイシス)
分からないものよね~?
私も最初は信じられなかったけど、予選最後の面接で実際に見たときは驚いたわ。
(エリアス)
お前が勝手に面接官に成り済まして、終わった後に楽しんできたと言ったのはこの為か…。
しかし、お前はホントに…。
帝としての自覚が!
(アイシス)
まあまあ、エリーちゃん。
今はあのグラハムの心具の話をしましょ?
とても素晴らしい心具だわ。
惚れ惚れするほどに。
5秒先を見る力。
あなたはどう考える?
(エリアス)
はっきり言って驚異だ。
5秒とは言え、こちらかの攻撃が相手に先にバレてしまうのだからな。
クランバトルは情報戦だ。
先に相手に心具の能力や攻撃パターンがバレてしまっては…。
こちらの攻撃が完全に封じられてしまう。
時間が経てば経つほど、こちらの形勢は不利になるだろうな。
(アイシス)
正にその通りよね。
たかが5秒。去れど5秒よ。
時間が経てば経つほど、こちらの不利は増していく。
彼がこれから資質を研き、更なる修練を重ねた先に、何秒先の世界が見えるのか…。
はっきり言って驚異以外の何物でもないわ。
(エリアス)
こちらに忠義を尽くしている内はいいが…。
場合によっては早い内に…。
(アイシス)
ま、それもまだ先の話よ。
取り敢えずは、あの威勢のいいお嬢さんが、グラハム相手にどんな戦いをするのか。
高みの見物といこうじゃないの。
(エリアス)
あの娘か…。
確かに控え室でも威勢だけはよかったな。
心具を見るに、直接攻撃メインだろう。
相性は…。最悪だな…。
・闘技場 応援スペースにて
(マリエ)
ちょっとちょっと!!
5秒先を見通せるって!!
いきなり大変な相手じゃない!!
そんな凄い輩が、なんであんな低ランクで燻ってんのよ!
なんか単純な私達の力より!
ずっと凄いじゃないの!
(マザー)
分かりません…。
しかし、未来予知なんて…。
ホントにそんなことが可能なのか…。
でも、可能ならばなぜ?
彼はDランクなんだ?
そんなに凄い力ならもっと高いランクでも…。
って、そちらのお二人はなんでそんなに平然としてるんですか!?
未来を予知されてしまえば、打撃がメインのリナさんの攻撃は当たらないじゃないですか!?
相性は最悪ですよ!
彼の言う通り、この勝負リナさんに勝ち目はないではありませんか!?
(悠)
え?あぁ。いやいやごめん。
凄いとは、思ってるよ。
彼の言う通り、未来に行けたらすごいよな。
俺も未来の自分に会ってみたいよ。
でも、5秒でしょ?
5秒はな~。5秒ってさ~。
そんなに凄いかな?
(マリエ)
凄いわよ!
5秒もあれば、相手が次ぎに何するか全部分かるのよ!?
そんな相手にどうやって勝つのよ!?
(レイナ)
まあまあ、マリエさん。
なんたって能力が未来予知です。
確かに凄いですよね。
うん。私たちなんかよりずっと凄いです。
私たちなら負けちゃうかもです。
でも、相手がリナちゃんですから~。
彼の見る未来はきっと変わらないですよ。
(悠)
やっぱり?俺もそう思うんだよな~。
きっとそうだよな?
(レイナ)
はい。きっとそうです。
(マリエ)
何なのよ二人して!
ちゃんと分かるように説明してよ!
(悠)
まあまあ、見ていれば分かりますって。
ほら、始まりますよ。
(審判)
両者舞台の端まで下がって!
開始の合図を待ってください!
二人はそれぞれの舞台端まで歩を進めた。
(グラハム)
『可哀想な娘だ』
『私の心具の凄さに、怖くなってからは何も言えなくなっていた』
『それは仕方がないのだよ。』
『なんといっても、私は未来が見える』
『この力を手にした時、私は帝さえも凌駕する可能性を感じたのだ!』
『個人ランクは相手が上でも、私の方が強いのは明白!』
『大丈夫。少し攻撃をかわして盛り上げたら』
『優しく場外にでも落としてあげよう』
『私も大人だ。若い娘の発言には寛大なのだ。』
(審判)
では、バトルを開始します!
はじめ!!
ドォン!戦いを告げる太鼓が鳴り響いた。
(グラハム)
『さあ、見せなさい!』
『5秒後の貴女の攻撃の姿を!』
『そのパターンを!』
『私は直ぐに分析し、全てかわして見せよう!』
グラハムは目を見開き心具を発動させたようだ。
ドォン!!!
再び鈍い音が会場に響き渡る。
(グラハム)
『さあ、どうでる?』
『右からか?左からか?上からか?』
『それとも特種な心具で遠距離からか?』
『どこから来ても全てかわしてやろう!』
『そして、攻撃をかわした先に!』
『見えるのは勝ち名乗りを受ける私だ!』
『ん?あれ?なんだこれは?』
『私の目に何が写っている?』
『これは…。空か?』
『まさかあの娘!空から攻撃を!?』
『いや、違う!空に娘はいない!』
『ならどうして?私は空を見ているんだ?』
『なぜ空が急速に動いている!?』
『なぜだ?なんなんだ!?』
『視界が…。暗く…。』
(審判)
グラハム戦闘不能!
勝者! ディープインパクト! 石澤リナ!
初戦の先鋒同士の戦いは、リナの宣言通りの秒殺で幕を下ろした。