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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
2/114

クランと資質の章Ⅰ

 ○ マザー クラン契約

 (悠)

 「ハアハア…。ハアハア…。」

 「ねえ…。ねぇ…。お嬢さん…。たち」

 「こ…。オェ…。一体…。どうなってんの?」

 「あの…。追っかけてくる…。奴等…なに!?」

 「知り合い…。なら…。

  止めるよう…。説得して…。くんない!?」 


 悠は全力で走りながら少女たちに訊ねる。

 まだ大した距離を走った訳ではないが、そもそも全力で走るのが何年ぶりか分からない。

 走っているというこの状況だけで、彼の全身は悲鳴をあげていた。


 ( 少女1 )

 「そんなの私たちに分かるわけないでしょ!」

 「街から出て歩いてたら、

  いきなり襲ってきたのよ!」

 「そもそも剣だの棒だの持って追い掛けてくる奴 が知り合いな訳ないでしょ!」

 「いいから走る!ホント死ぬわよ!」


 ショートカットの気の強そうな女の子は見た目通りの辛辣さで、吐き捨てるようにそう叫んだ。


 振り返り後ろを確認する。

 どうやら彼女達は、剣や棍棒を持った二足歩行の狼に追いかけられているようだ。


 (悠)

 「た、確か…。に…。」

 「一理…。ある…。わ~…。」

 「あれ…。知り合いなら…。」

 「一儲け…。する…。よね~…。」


 明らかに彼女達よりも走行距離は短いが、悠の体力は既に限界を迎えようとしていた。

 最早声にならない。

 呼吸で精一杯になってきている。


 ( 少女2 )

 「おじさん!いや、お兄さん!?」

 「もっと走ってください~!」

 「もうそこまで迫ってます~!」

 「追い付かれたら最期ですよ~!」


 ロングヘアーの女の子が、悠を励ますように叫んでいる。

 あまり運動が得意ではないようだが、彼女も懸命に走っているのが分かる。

 だが悠と同様に、彼女にも限界が迫っているようだ。


 (悠)

 「くっそ…。それは分かってんだけど…。」

 「そろそろ体力が…。いや、精神もか…。」

 「こんなことなら…。日頃の運動をもっと大切  に…。するべきだった…。」

 「忙しくて…。は理由にならない…。って先輩た まにはいいこと言ってました…。」

 「いつも隠れてバカにして…。」

 「本当に…。すいませんでした…。」 

 「ただし課長。テメーはダメだ。」


 (少女2)

 「か、課長さんにも家族がいるはずです~。」

 「そこは許してあげて下さい~。」  


 走りながらも少女は

 悠の言葉にツッコミを入れてくれる。 


 (悠)

 『おいおい。こんな状況でもツッコミを。

 しかもあのクソ(課長)を庇うなんて…。』

 『なんだこの娘…。もしかして女神か?』

 『現人神か?』

 『最近の若いのにもいい娘はいるじゃねーか。』

 『世の中まだまだ捨てたもんじゃねーな。』


 『いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃ  ねーだろ!』

 『とにかく何か対策を考えねーと!』

 『あの化け物達!武器持ってるし!』

 『マジで襲われたら洒落になんねーぞ!』


 危機的な状況ではあるが、

 何処か危機感に欠ける。

 現代人の悪い癖だと悠は感じていた。


 (少女1)

 「二人とも!バカなこと言ってる暇があったら走 りなさいよ!」  

 「くっそ~!さっきおじさんを見かけた時は、強 いクランの人が助けに来てくれたのかと思ったの に!」

 「とんだ期待外れじゃないのよ!」

 「寧ろトロいの一人増えただけじゃない!」 

 「ホントにツイてない!」


 そう叫ぶと少女はスピードを上げ始めた。

 こちらはまだまだ体力が有り余っているようだ。


 (悠)

 『逆になんだこの娘は!』

 『初対面の人間におっさんだの!トロいだの!』

 『これだから最近の若いやつは!』

 『こいつはアレだな!現人人だな!』

 『ただの現代人だな!』


 悠の頭の中で、

 既に少女二人の位置付けが決まりつつあった。

 ショートは悪人。ロングは聖人。


 (悠)

 「ああ…。どうも…。すいませんねぇ…。」

 「トロい…。上に…。おじさんでね…。」

 「それに…。クランって…。なに…?」

 「警察か…。自衛隊の…。部隊か…。何か…?」


 悠がそう告げると二人の少女は驚き、顔を見合わせた後に叫んだ。


 ( 少女1・2 )

 「まさかおじさん・お兄さんも!?」


 二人は走りながらも悠の顔を覗きこんだ。


 (悠)

 「な、何が…?俺も…。何なんだ…?」

 

 悠は二人の様子に混乱を強めていた。

 《クラン》

 全く聞き覚えのない言葉だ。

 自分の言葉への反応に、悠は戸惑いを見せる。


 ( 少女1 )

 「なんてこと…。」 

 「どうしてこのタイミングなのよ!」

 「さっきの街には、

  いくら探してもいなかったのに!」

 ( 少女2 )

 「流石にこれは酷いです~!」

 「もっと早く出逢えていれば、

  なんとかできたかもしれないのに~!」


 二人は今にも泣き出しそうな顔で頭を抱えている。

 事態を飲み込めない悠だったが、《もっと早く出逢えていれば》と言う表現は何だか詩的で素敵だな。と感じていた。


 ( 少女1 )

 「!? ヤバ!? 二人とも止まって!!」


 少し前を走っていた少女1が急停止する。


 (悠)

 「な!?なんだってんだ!?」

 「早く逃げないと!」

 そう発した悠も前方の異変に気付いた。

 「クッソ…。なんだよこれ…。」

 「何処までツイてないんだ…。」


 そこに広がっていたの、一面が崖の景色。

 どうやら知らず知らずの内に、崖側の方へと追い立てられていたようだ。


 ( 少女2 )

 「万事…。休す…。ですか…。」


 少女は崖を前にしてヘタりこんでしまった。

 その顔は今にも泣き出してしまいそうだ。


 ( 少女1 )

 「チクショー…。こんなとこで終わるのか…。」


 気の強そうな少女も、

 顔を歪ませ涙を堪えている。


 ガサガサ…。ガサガサ…。


 後ろの草を掻き分ける様に、二足歩行の狼がじりじりと近付いて来た。

 彼らはまだまだ体力的にも余裕な様で、呼吸一つ乱れてはいなかった。


 (狼たち)

 「ヒャッハ~~!!」  

 「やっと追いつめたぜ~!」

 「ちょこまか逃げ回りやがって~!」

 「旨そうな人間が三匹!」

 「おいおい、コイツらクランも結成してないん  じゃないか~!?」

 「嘘だろ!?ラッキー!」

 「そんなバカどもがまだ存在するとはな~!」

 「こいつぁ~ツイてるぜ!」

 「なぶり殺して内蔵から喰ってやる!」


 全部で3体。

 口は半開きになり、

 長い舌がベロりなと伸びている。

 剣を持つもの、棍棒を持つもの。

 大きな尖った爪を持つもの。

 3体ともに、人を殺傷するに充分な武器を持ち合わせている。


 (悠)

 「ヒャッハ~~!って始めて聞いたよ…。」

 「何ここ、世紀末なの?」


 悠は震えを抑えようと、必死に声を絞り出していた。


 (悠)

 『クソ!何とかできないか!?』


 必死に頭を回転させるが後ろは崖。

 前は武器を持った化け物が3体。

 どう考えたところで、勝機は見えてこない。


 (悠)  

 『思考を止めるな!頭が止まっちまうと、体も一 緒に止まっちまう!』

 『考えろ!頭を使え!最後まで!』

 

 必死に考えを巡らせている最中。


 (狼)

 「ああ!もう我慢出来ねぇ!」

 「俺は行くぜ!」


 狼の中の一体が、

 少女二人目掛けて突進してきた。


 (少女2)

 「きゃああ~!!」

 (少女1)

 「レイナ私の後ろに!!」


 少女達は咄嗟に身を屈めて座り込んだ。

 ショートカットの少女はもう一人を抱え込むように守っている。


 (悠)

 「クッソ!そっちから狙うなよ!」 

 「この卑怯者が!!」


 我を忘れ、

 咄嗟に二人と狼の間に割って入った。


 狼から容赦なく、鋭い爪が振り下ろされる。


 ズバッ! 左手に鈍い痛みが広がっていく。


 (悠)

 「痛ってぇ~!!」

 「クソ!やっぱり本物…。だよな…。」


 (少女たち)

 「おじさん・お兄さん!!」


 少女たちは悠の左手に目を向ける。

 咄嗟に伸ばした左手が、甲から肘にかけて深く抉られていた。


 (狼)

 「アッハッハ!オッサン格好いいな!」

 「庇ったところで、結果は変わらねぇのによ!」

 「まあ、

  死ぬ前にいいトコ見せれて良かったな!」 

 「結局全員死ぬんだ!」

 「ちょっとは満足して逝けや!」


 狼は叫びながら、トドメの一撃を降り下ろした。

 その顔には何の迷いもなく、殺戮を楽しんでいる様だった。


 (悠)

 『ああ…。終わりか…。』

 『何が起きてるかも分かんないまま…。』

 『こんなに呆気なく終わっちまうのか…。』


 もうダメだ…。

 そう考え、目を閉じ身をすくめた。


 だが…。


 (悠)

 「…」。

 「……。」

 「ん…?あれ…?」

 「攻撃が…。こない…?」


 恐る恐る目を開ける。

 

 (悠)

 「おわ!何だこれ!?」

 「景色全体が…。止まってる…!?」


 (少女1)

 「ホントだ!何よこれ!?」

 (少女2)

 「周りを見て下さい~。

  皆灰色で止まってます~。」

 「これは一体何なのでしょ~?」


 三人が目を開けると、辺り一面は時間が止まったように、全く動きが感じられなかった。

 悠と女の子二人以外は、全てがモノクロの世界になり、狼人間の爪は悠に到達する寸前に止まっていた。


 (悠)

 「なんだこれ?どうなってんだ?」


 悠は直前で止まっている、狼の爪をツンツンつついてみる。

 

 (狼)

 「…。」

 狼は全く動く様子がない。


 (悠)

 『何だか分からないけど…。』

 『これは大きなチャンスなのでは!?』


 悠の両目がきらりと光った。

 『一発殴って、さっさと逃げちまおう!』


 二人にそう声を掛けようと振り返った瞬間。

 頭上から聞き覚えのない声が聞こえてきた。


 ( ? ? )

 「いやー、危ない危ない!」

 「どうやら、

  ギリギリ間に合ったみたいですね~。」

 

 三人は声の方に目を向ける。

 すると、空から小さな光の玉が、

 こちらに向かって、

 ゆっくり降下してくるのが見えた。


 (悠)

 「おお!?なんだあれ!?」

 「もしかしてケセランパサランか!?」

 

 (少女2)

 「古すぎです~!今の人には分かりません~!」

 (少女1)

 「え?なに?ケセラセラン?何よそれ?」


 3人の混乱を他所に、光の玉はフワリと3人の中心に降り立った。


 (光の玉)

 「初めまして。私は《マザー》と言う者。」

 「皆様の様に、クランを結成せずに外界に出てし まう等、不慮のアクシデントに見舞われた方たち を助けるために配置されている。」

 「所謂、お助け下級野良精霊の様な者です。」

 「どうぞよろしく。」


 (悠)

 「おわ?なんだこのパサラン!?」

 「しゃべってるぞ!?」

 (少女2)

 「なんですかこれ~?」

 「なんかの手品ですか~?」

 (少女1)

 「狼も光の玉も喋るなんて…。」

 「やっぱりここは世紀末なのかしら…。」


 驚く3人を他所に、マザーと名乗る光の玉は、黙々と話を続けていく。

 

 (マザー)

 「かなり混乱をきたしている様ですが、あまり時 間も在りませんので、話を進めますね。」

 「率直に申し上げますと、私は貴殿方に、

  クラン申請のご案内に来ました。」

 「それが私の仕事なのです。」

 「最近はクランを結成せずに街を出られる方なん てほとんど居ませんので、滅多に仕事なんてない のですが…。」

 「まあ、皆さんもピンチみたいだし、私も暇だっ たし。ちょうどいいかと思いまして。」

 

 光の玉は三人を若干見下したように。

 そして、若干気だるそうに応える。

 

 (悠) 

 「なんかムカつく言い方だなぁ…。」

 「人を小バカにしおってからに…。」

 「それにさっきから言ってる《クラン》ってのは 何なんだよ…?」 

 「それに入ったら何がどう変わるってんだ?」

 「この状況をどうにか出来るようになんのか   よ?」

 「そもそも、世の中いつからそんな謎の組織が当 たり前になったんだ?」

 「俺がちょっとテレビ見てない間に、世の中はそ んなに大きく変わっちまったのか?」

 「いくら平日働いているからって、狼人間が走り 回って謎の組織が対抗してるなんて話。」

 「何かしらのニュースで知れそうなもんだが。」


 (マザー)

 「…は?貴方こそ何を仰ってるんですか?」

 「クランですよ。クラン。」

 「ステラに生きる民ならば、当たり前の様に加入 するものでしょう?」


 (悠)

 「ステラ?なんだそれ?」

 「また知らない単語使いやがって。」 

 「なんだここ?外国か?」

 「それとも俺は知らないうちに、世の中の流行に 完全に取り残される様な年齢になっちまったの  か?」


 光の玉はふよふよと。

 不思議そうに宙を漂っている。


 (マザー)

 「貴方こそ、先程から何を仰ってるんですか?」

 「ステラ。クラン。この世界の常識でしょう?」

 「私の事をバカにしているんですか?」


 二人の間に若干不穏な空気が流れる。

 それを察してか、少女の一人が声を掛けた。


 (少女1)

 「ねぇ、マザー?って言ったかしら?」

 「私たちも上手くは言えないんだけど、

  貴方が常識と述べるこの世界の出来事を。」

 「残念ながら、

  私たちは何も理解できていないのよ。」

 「先ずはこれを

  事実として受け入れて欲しいの。」


 もう一人の少女も、

 その後ろでコクコクと相槌をうっている。

 

 (少女1)

 「それを踏まえた上で、貴方が言う時間の許す範  囲で、私たちに可能な限りの説明をして貰えな  いかしら?」  

 「私たちも貴方の話を全面的に信じて、出来る限 り理解出来る様に努めるから。」

 「ねえ、おじさん。それでいいでしょ?」


 少女は諭すように、悠に同意を求める。

 

 (少女2)

 「わ、私からもお願いします~。」


 もう一人の少女も、涙目になりながら同意を求めてくる。


 理解できない出来事には敵意を向ける。 

 年寄り勢によく見られる現象だと思っていたが。

 随分と頭が固くなったものだと悠は感じていた。


 (悠)

 『こりゃあやられたな…。』

 『二人の方がずっと大人じゃねぇーか…。』


 頭をポリポリと掻きながら、

 悠は深く反省していた。

 そして、二人に対し軽く手を上げ応えた。


 (悠)

 「すまなかったよ。二人とも。そしてマザー。」

 「俺も二人と同じ意見だ。」 

 「全く何も知らないことを前提に、《クラン》や 《ステラ》について教えて欲しい。」

 

 悠はマザーに対し軽く頭を下げる。

 得たいの知れない物体ではあるが、

 今は少しでも情報が欲しい。

 二人の少女のお陰で、

 少しばかり冷静さを取り戻しつつあった。


 マザーは3人の様子を

 ふよふよと漂いながら見つめていた。

 そして、決心したかの様に語り始めた。


 (マザー)

 「分かりました…。」

 「皆さんがこの世界について、何も知らないとは にわかに信じがたいのですが…。」

 「皆さんの様子を見るに、嘘をついているとは思 えません…。何よりメリットがない。」

 「分かりました。私が張った軽微な結界が、保て る範囲で、必要な限りの説明しましょう。」


 そう言うとマザーは、

 3人の頭上にゆっくり上昇していった。


 (マザー)

 「先ずは先程から話している《クラン》について です。」

 「クランを組みし者は冒険者となり。」

 「冒険者は証として《心具》を得る。」

 「これ即ち、信仰を超越し、ステラに生きる全て の人類に与えられし等しき権利である。」


 「これがステラにおける、冒険者という存在を規 定している。根本となるルールと言えます。」

 「先ずここまでは理解いただけていますか?」 

 

 マザーの問いに、三人は顔を見合わせる。

 しかし、当然理解など出来るはずもなく、三人と も顔を横に降ることしか出来なかった。


 (悠)

 「うーん、やっぱり良く分かんねぇ…。」

 「《クラン》ってのを結成すれば、《冒険者》っ て奴に成れるのか?」 

 「《冒険者》になると、何かメリットがあるって ことか?」

 「《シング》ってのが、何か大きなメリットって ことか?」


 (マザー)

 「はい。その通りです。」

 「クランの結成が承認されると、各々が信仰心に 応じた《心具》。」

 「つまりは、個人の心を具現化した、強力な武具 を手にすることが出来るのです。」

 「冒険者は皆、この《心具》を用いて強力なモン スターや他のクランとの戦いに挑んでいくので  す。」

 「外界を旅するのであれば、この《心具》の所有 は、ある種の必須条件と言えるのです。」


 (少女1)

 「なるほどね。だから貴方は私たちがクランを結 成せずにモンスターに追われているのを不思議  がっていた訳か…。」

 「ここじゃあ、武器を持たずに街を出るなんて自 殺行為っていう訳なのね。」


 (マザー)

 「その通りです。」

 「まあ、そういった危険な行為を行ってしまった 人達を救済するために、私達の様な低級な精霊  が街の付近を見回り、人々を危険から守ってい  る訳です。」

 

 (少女2)

 「なるほど~。

  けれど、冒険者の中では、

  それは常識中の常識。」

 「だからマザーさんは、滅多に仕事なんてないと 言うわけなんですね~。」


 少女たちの解説もあり、悠は何となくではあるが 自分達が置かれている立場が見え始めてきた。

 つまりは…。

 

 (悠)

 「なるほどね…。」

 「つまり俺たちがこの状況を打開するためには、 直ぐにでも《クラン》とやらを結成して、《心  具》とかいう武器を手に入れ、あの狼達と戦   う。」

 「それ以外に方法はないって事か…。」


 悠の問い掛けに対し、

 マザーと少女達は暫く沈黙を続けた。


 (マザー)

 「現状で言うとその通りです。」

 「正にお察し頂いている通り。」

 「しかし、事はそう単純ではないのです。」


 (悠)

 「と、言うと?」


 (マザー)

 「つまり…。急遽クランを結成することには、  《デメリットも存在する》と言うことです。」


 (少女1)

 「デメリット?武器も手に入ってこの状況も打破 できる。私たちにとって、一石二鳥にしか聞こえ ないけど…。」


 (マザー)

 「ええそうですね。《現状を打破する》という点 においてはその通りです。」

 「しかし、ステラにおいてクランを結成する事と は、とても重大な意味を持つものなのです。」


 「それこそ後々の人生を左右する程の。」


 「だから誰も安易に見ず知らずの人間とクランを 結成することはない。」

 「自分の命を預けるに足る、家族や親族。」

 「もしくは親友、恋人など自分が心から信頼でき る相手とのみ、クランを結成するのが通例なので す。」


 (少女2)

 「それほど大事な決定なんですか?」  

 「もしかしてそれって~…。」


 (マザー)

 「はい。恐らくお察しの通りです。」

 「クランは一度結成すると、基本的に解散するこ とができません。」

 「つまり、クラン結成後に他のクランに移った 

 り、他のクランから人材を引き抜いたりすること はできないのです。」

 「一度結成したクランは、自由意思で解散するこ とも不可能です。」

 「依頼によっては、他のクランと同盟を組み、共 に活動することは可能ですが…。」

 「それはあくまでも例外的な活動となりま    す…。」


 「つまり…。」

 「今、この時点でクランを結成すると決めた瞬  間から、お3人は運命共同体。」

 「このステラにおける活動は、必然的に常に3人 で行っていく事になる。」


 「見ず知らずの他人に、今後の自分の運命を委ね る事になる…。」

 「これが急遽クランを結成する場合に発生する、 何よりのデメリットと言えるでしょう。」


 その言葉を聞き、3人は言葉を失っていた。

 いきなり訳も分からない化け物に追い掛けられ、 状況を打開するためには、名前も知らない赤の他人と、今後の運命を左右する契約をしなくてはならない。

 そんな馬鹿げた話があっていいものか。

 いや、あっていいはずがない…。

 しかし、恐らくこの光の玉が話している事は事実 なのだろう。

 非日常的な出来事の連続のなかで、これまで聞い た話を推察するに、嘘を述べている根拠は何処にも見当たらない。


 (少女1)  

 「何よそれ…?嘘でしょ…。」  


 ショートカットの少女は、状況の厳しさに声を震 わせている。

 自分で言うのもおかしいが当然だろう。

 彼女達二人は知り合いなのかもしれないが、悠と は赤の他人である。

 察するに10は年齢も離れている。

 こんな状況であっても、今後の運命を共にする相 手として相応しくないことは目に見えていた。


 (マザー)

 「更に言いますと…。」


 マザーは再び言葉を続ける。


 (悠)

 「おいおい。まだあるのかよ…。」

 「もう勘弁してくれよ…。」


 悠の声も動揺から、震えていることが分かった。


 (マザー)

 「はい。残念ながらもう1つ。」

 「ステラの民であるならば、絶対に知っておかな ければならない点があります。」

 「それは信仰する精霊に関するものです。」

 

 (悠)

 「信仰する精霊?」

 「精霊なんてものが、

  ステラには存在するって言うのか?」


 (マザー)

 「精霊を知らない?」

 「その発言自体が…。」

 「私からすると信じられないものではあるのです が…。」  

 「今はそこを問い詰めている暇はありません。」


 「ステラの民である以上、日常的に信仰している 精霊が存在するはずです。」

 「ステラは信仰の社会であり、生活の基礎から政 治・経済に至るまで、全てが信仰により成り立っ ています。」

 「過去には信仰の違いにより、何度も戦争が起こ り、多数の犠牲者を出してきました。」

 「ですので、クランを結成する場合は、同じ精霊 を信仰するもの通しが集まるのが大原則になりま す。」

 「信仰する精霊が違う集団に、纏まりなど発生す るはずもなく、直ぐに瓦解するのが当然の認識だ からです。」

 「皆、自分が信仰している精霊の教えが正しいの だと心から信じていますし。」

 「違う精霊の信仰者には敵意を持っているものは 少なくありません。」


 「例えクランを結成したとしても、この問題によ り内部崩壊を起こす可能性が極めて高い。」

 「他人同士が集まったクランでは、この問題によ る揉め事が高確率で発生する危険性があるので  す。」


 「直ぐに上げられるデメリットと言えばこの二点 でしょうか。」


 「今後の運命を共にする相手として相応しいか」

 「同じ精霊を信仰する同士であるか。」


 「この二点が不明確であることは、今後のクラン 活動の致命傷に成りかねませんからね。」


 黙り混む3人を他所に、マザーは再びフワフワと 上昇していく…。


 (マザー)

 「さあ。私から話せるのはこの位です。」

 「私の結界もそろそろ限界ですし。」

 「一般的な常識を含めて、可能な限りは伝えたつ もりですが…。」


 「それを踏まえた上で聞きましょう。」


 「今この場で3人でクランを結成されますか?」

 「されませんか?」


 「決めるのは皆さんです。」

 「現状を鑑みた上で、

  賢明なるご判断をお願いいたします。」


 …。

 ……。

 ………。


 場に暫くの沈黙が流れる。

 誰もが突然訪れてしまった重大な決断に。

 必死になって最善の答を探していたのだ。


 (悠)

 『突然降って湧いた様な災難に。』

 『今後の人生を左右する決断だ?』

 『ふざけやがって…。』

 『此方はまだ、あの狼が本物かどうかさえ。』

 『それこそ今の状況が本当に現実かさえも釈然と していないって言うのに…。』

 『あの光る玉は、しゃあしゃあと勝手に話を進め やがって…。』


 『それに何が賢明なる判断を…。だよ。』

 『こんなもの、始めから選択肢なんて用意されて ねーじゃねーか。』

 『答えなんて始めから…。』


 悠は混乱する頭の中で、

 必死に状況を整理していた。

 そしてどんなに頭を回転させようが、

 結論は1つしか用意されていないこと。

 

 今決断しなくては、その後の生活など考える余地すらないことを理解していた。


 その時…。


 (少女1)

 「分かった。やる。私やるよ。」

 「3人でクランとか言うの作って。」

 「この状況を何とかしないと。」

 「それこそ考えなきゃいけない《今後》なんて無 くなってしまうんだから。」


 ショートカットの少女が口を開いた。

 その目は吹っ切れたのか。

 迷いのない真っ直ぐな目に見えた。

 彼女の芯の強さ。

 心の強さを表しているかのように。

 その瞳には力強さが宿っていた。


 (少女2)

 「わ、私も!私もやります~!」

 「足手まといにしかならないかもしれないです  が…。」

 「私にもできることがあるかもしれないなら!」

 「私も3人で助かる道を選びたいです!」


 ロングヘアーの少女も続けて同意する。

 大人しそうに見えるが、決断力はあるようだ。

 状況もよく理解している。


 そう彼女達の選択が正しい。

 いや、始めからその手段以外 

 取りようがないのだ。

 

 (悠)

 『まあ、当然そうなるわな…。』

 『始めから分かっていたことではあるが…。』

 『言葉にして発するという行為自体に大きなハー ドルがあった。』

 『3人のうちの、誰かが拒否する可能性だってな い訳じゃないからな。』

 『そういった意味でも、あの二人の方が。』

 『俺なんかよりずっと、勇気があるんだろうな』


 そう考えながら、 

 悠は自分の決断力の無さを嘆いていた。


 (少女1)

 「で?肝心のおじさんは?」

 「あとは貴方次第になった訳なんですけど?」


 そう話ながら、少女達はにやりと笑い。

 悠の顔を眺めている。

 彼女達の決意に揺るぎは無いようだ。

 そんな二人に頼もしさを感じつつ、悠は重い腰を 持ち上げてニヤリと笑った。


 (悠)

 「勿論俺もOKだ。」

 「よろしくお嬢さんがた。」

 「俺の運命。二人に預けてみるよ!」


 今後のステラに大きな旋風を巻き起こす。


 新たなクランが誕生した瞬間であった。


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