表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
14/114

扇の章Ⅲ

 ○ 美しき舞姫


 (悠)

 というわけで、私たちのクランに入ってはいただけないでしょうか?

 俺はマリーさんにクラン加入を打診した。

  

 話し合いが終了して少しした後。

 急にマリーさんが俺の部屋を訪ねてきたのだ。


 マリーさんからは、昨日の夜について。

 体調が悪いことに気付かず、無理をさせて申し訳無かったと謝罪を頂いた。

 本当に気に病んでいた様で、それはそれは丁寧な謝罪であった。


 俺はもちろん。

 これは自分の持病であり、マリーさんには全く非がないこと。

 むしろステージで近くで踊れて嬉しかったこと。

 丁寧な謝罪に申し訳なさを感じていること。

 そして、ついさっきまで俺達がマリーさんとクランを組みたいと話していたことを説明した。


 (マリー)

 え?私!?

 私が…?

 あなた達とクランを?

 どうしてまた。随分と突然な話ね? 

 でも、どうして私なのかしら?

 私達は知り合ったばっかりで、お互い何も知らないのに。

 あなた達は私を。

 もう命を預けられる程信頼しているというの?


 マリーさんは突然の提案に驚いているようだ。  無理もない。

 彼女の言うとおり、我々は出会ってからまだ2日しか経っていないのだ。

 お互いのことも殆ど分かっていない。


 (悠)

 いえ、お話の通りです。

 私達はまだ全然お互いを知らない。

 知り合ってから日が浅いですから。

 名前だって昨日のショーで知りました。

 ただ何と言うか…。

 私達は、始めて貴方に会ったときから、何か強く惹かれる物を感じていたんです。

 それは、貴方の容姿にではなく。

 貴方の中から溢れる「何か」だと思うんです。

 あ! いや、お綺麗だとも思ってます!

 実際は容姿にも惹かれてます…。

 けど…。ね…。


 (リナ) 

 んんん!!

 余計なことは言うなと、

 リナに咳払いで威圧される。

 リナはこちらを見て睨んでいる。


 (悠)

 『ちょっとフォローしただけでしょ!』

 リナに目線を送り反抗する。


 エリーさんは不思議そうな表情をした。


 ああ、ごめんなさい。続けますね。

 私達は恐らく、貴方の持つ「資質」に強く惹かれたんだと思うんです。

 惹かれたというか、高い「資質」に圧倒されて、恐怖心すら抱いたこともあります。

 私がショーのときに倒れてしまったのは、多分そのせいなんです。

 マリーさんの得たいの知れない強い「資質」に。

 プレッシャーを感じたせいだと思います。

 さっきの話し合いの中で、一応そう結論づけました。


 (マリー)

 私の強い「資質」ねぇ…。

 始めて言われたわ。そんなこと。

 まあ、私と結婚したいとか。

 ただ、一緒に居たいからってクランに誘われたことは何度もあったけどね。


 マリーさんは自慢気に笑いながら話した。


 まあ、何となくだけど。

 あなた達の言いたいことは分かったわ。

 皆さんが話し合って、私に強い「資質」があると結論付けていただいた訳ね。

 それは大変光栄なことでしょうね。


 けれど、話を聞いていると、それは随分と感覚的なことなんでしょう?

 私の資質は…。

 実際はあなた達の期待に添うものではないかもしれない。

 まして、私達は知り合ったばかり。

 普通クランを結成する時は、友人や家族と組むのがほとんどなのよね?

 あくまで感覚的な判断だけで、私をクランに誘うのは危険が大き過ぎないかしら?


 彼女の意見は全くもって正しい。

 普通に考えればこんな理由でクランを組むなんてあり得ないのだろう。

 はっきり言って返す言葉がない。


 (レイナ)

 あの…。

 マリーさんは、私達とクランを組むのは…。

 いや…。ですか…?


 レイナはおどおどしながら尋ねた。

 レイナ自身も彼女に強い資質を感じていたことから、加入して貰いたいという思いが強いのだろう。

 あと、個人的にご一緒したいだけかもしれない。


 (マリー)

 う~ん。

 正直に言うとね。迷っているのよ。

 実は私も、あなた達に会ってから、何だかずっと気にはなっていたの。

 ほら、躍りのときも話したけど。

 貴方から血液型の話を聞いたのもあるし…。


 (悠)

 血液型?

 そう言えば、俺が倒れる前にもその話をしていたような気が…。

 血液型がどうかしたんですか?


 (マリー)

 ステラではね。 

 魔法による治療は発達しているけれど。

 医学的な分野の治療の発達は遅れてるの。

 そりゃ、手をかざせば病気が治せる人がいるんだから、当然かもしれないわね。

 だからステラでは初対面の人に何かを聞くとき、「血液型」を聞くことはあまりしないのよ。

 だからもしかしたら…。

 あなた達も私と同じ世界から来たのかもって思ってたのよ。


 『まさか!?』

 俺たちはその発言に衝撃を受けた。


 (悠/リナ/レイナ)

 マリーさんも地球から来たんですか!?

 いつ頃からここに!?

 ここに来た原因は分かりますか!?

 誰か他に同じような状況の人に、会いませんでしたか!?


 俺達は突然の事実に驚きを隠せず、矢継ぎ早に質問をしてしまった。


 (マリー)

 ふ~~。マリーさんはため息をついた。

 やっぱりそうだったのね~。

 あなた達も地球から…。 

 あの時から何となくそんな気がしたわ…。


 マリーさんは、

 ゆっくりと俺達の質問に答え始めた。


 私がね。

 こっちに来てからは5年位になるかしら。

 私も最初は帰る手段を探そうと、宿のお客様とか

酒場でも色々聞いて回ったけど…。

 結局何も情報は得られなかったわ。 

 情報を餌に危ない目にもあったから、途中で聞き回るのも止めたの。


 何で来てしまったのかも分からない。

 他に同じような人がいるかも分からなかった。

 結局何も分からなかったのよ。

 だからもう諦めてたわ。

 帰れなくても仕方ないかなって…。


 (悠)

『ん?5年前?』

『そういえば、確かマザーが前に。俺達と同じような人間がいたって言うのも5年前だったよな。』

 俺はマリーさんが、その人物のことを何も知らないということに、少しだけ違和感を覚えた。

 

 (悠)

 そうだったんですか。

 5年も前に。それからずっとか…。


 まあ。でも、年月は経ってますが、こちらに大切な知り合いが来てるかもしれないですもんね。

 それなら俺達と安易にクランを結成する訳にもいかない。申し込まれても困るだけだ。


 (マリー)

 まあ、どっちかと言うと逆なんだけどね…。

 私は帰ることにあまり意味がないのよ。

 クランを結成してまでそれを探す意味が…。


 それに、こっちに来てから直ぐに。

 宿屋のお爺ちゃんとお婆ちゃんに知り合って。

 それからずっとお世話になっているから…。

 もう私にとっては家族なのよ。唯一の家族。

 年齢的にも二人が心配だし。

 お婆ちゃんは足が悪いから…。

 私がいないと出来ないことも多いの。


 だから…。

 そうね。どう考えても…。

 ごめんなさい。

 やっぱり一緒には行けないわ。

 私はここでやることがあるのよ。

 大事な家族を支えていきたいのよ。


 マリーさんは終始落ち着いた様子で、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと話していた。


 (悠)

 『うわ~~!』

 『個人的には、そこをなんとか!って、もう一押ししたいところなんだけどな~。』

 『リナとレイナを見ても、もうすっかり納得してるみたいだしな~。』

 『ここで引き留めちゃうのは、流石に人間として問題あるのかな~~。』

『いや~!しゃあない…。』

『残念だけど受け入れるしか…。』

『あ~~…。しゃあないか~…。』

 

 俺は脳内で自問自答を繰返し、周りの様子からも、彼女の決定を受け入れるしかないと判断した。

 

 (悠)

 そうなんですか…。

 宿屋の方たちとはそんなに長く…。

 それなら仕方ないですね。

 ステラに新しい居場所を見つけて。

 ここで生活を続けるのも一つの選択肢ですしね。

 大事なものは人それぞれですし。


 残念ですが、それなら仕方ないです。

 マリーさんが踊り子を続けると喜ぶ奴も多いのは分かりますから!

 宿屋もきっとこれからも繁盛しますよ!

 どうかこれからも、じいちゃんばあちゃん孝行してくださいね!


 俺は本音を抑え、誰もが納得するであろう言葉を述べた。


 (マリー)

 ありがとう。

 私もあなた達の旅の無事を祈っているわ。


 マリーさんは微笑みながらそう告げた。


 (リナ)

 あ~あ!残念だな~!

 せっかく新しい仲間と旅ができると思ったのに!

 まあ、マリーさんが居れば宿屋は安泰だろうし、そっちはそっちで頑張ってよ!

 なんかあった時はいつでも言って!

 直ぐに飛んでくるから!

 

 リナは笑いながら、手を羽ばたかせるように動かしている。

 リナのことだから。

 今の話を聞いて、本心から納得した上で彼女の選択を受け入れたのだろう。


 (レイナ)

 残念です。すごく残念です。本当に残念です!

 でも大事な人がいるなら…。、

 それを守ると決めたなら…。

 それは凄く立派なことだと思います。

 私はそんなマリーさんを応援したいです。

 私、マリーさんの躍りもこの宿屋も大好きです。

 だからマリーさん。

 私の大事なこの場所を。

 これからもよろしくお願いします。


 レイナは深々と頭を下げた。

 レイナも彼女の選択に納得しての行動だろう。


 (マリー)

 ありがとう二人とも。

 二人は本当に素直ね。

 見ていて眩しいくらい。

 二人もずっと元気で。

 旅で怪我なんかしないでね。

 女の子なんだから無理しちゃダメよ。


 マリーさんの表情は今までで一番柔らかかった。

 自分の決意が二人に受け入れられて安心したのだろう。

 それだけ彼女にとって、この場所は大切なんだと強い印象を受けた。


 (マリー)

 じゃあ、私はステージとか色々準備があるからそろそろ行くわね。

 まだ何日か泊まってくれるなら、時々劇場に見に来てよ。

 もうステージにあげたりしないから。

 

 マリーさんは冗談っぽく笑いながら部屋を出ていった。


 パタン。ドアが閉まった。

 


 そしてドアの向こう側にて…。


 (マリー)

 クランか~。

 考えたこともなかったな。

 世界中を見て回るのか…。

 いいな~。旅なんてしたことないや。

 あの人達となら。もっと早く会えてたら…。 

 もしかしたら。なんて…。


 あれ?お婆ちゃん?

 いつからいたの?


 宿屋の女将がマリーの横に立っていた。

  

 (女将)

 立ち聞きになって悪いねぇ。

 でも、マリー。本当にいいのかい?

 今までのような奴等じゃなく。

 あんないい人たちに誘って貰えたのに。

 わしらならマリーがおらんでも、どうとでもなるんじゃよ?

 どうせ年寄り二人。生い先も短い。

 そんなに稼がんでも。

 残りの数年位は何とでもなるんじゃ。


 (マリー)

 もう!止めてよそういうの!

 前にも話したけど、

 私はどこにも行かないわ!

 二人は私の唯一の家族だもの!

 これからも3人でずっと一緒!

 二人にはまだまだ元気でいて貰わないと!

 私にまた、寂しい思いをさせないでよね!


 (女将)

 マリー…。そうかい。ありがとう。

 わしらは本当にいい娘を持ったよ。

 本当に自慢の娘じゃ。


 (マリー)

 今更気づいたの?

 私って結構親思いなのよ?

 さあ、今日も張り切って踊って、ジャンジャン稼いでくるわ!

 いっぱい稼いで、今度3人で旅行に行ってみましょうよ!


 マリーは宿屋の地下に向かい階段を進んでいく。


 (女将)

 優しい娘じゃよ。本当に。

 わしらには勿体ないくらいにな…。


 女将はマリーの背中を見つめてそう呟いた。



 そしてドアの内側…。


 (マザー)

 残念でしたが仕方ないですね。

 皆さんがお話ししたとおり。

 大切なもの。

 守りたいものは人それぞれです。

 クランを結成し、旅をすることが人生の全てではありません。

 私も皆さんの意見に賛成します。

 皆さんは本当に。

 相手のことを第一に考えられる、素晴らしい方々ですね。


 (リナ)

 ありがとうマザー。

 ただ、一つ訂正してくれる?

 そこであまりに悔しくて、泣いてるオジサンがいるの。


 (悠)

 え~ん。悔しいよ~!

 家族を引き合いに出されたら説得のしようがないじゃんか!

 ズルいよズルいよ!

 お世話になっているのは分かるよ!?

 けど、本当の両親じゃないのに!!

 どうしてもっと上手く言えなかったかな~!

 あ~!綺麗な踊り子さんと旅したかったよ~!

 悔しい悔しい悔しい!!


 俺は布団にくるまって泣いた。

 本心では、美人のお姉さんと旅ができるとワクワクしていたからだ。

 男なら当然のこと。浮気はしない。

 だが美人と仲良くはなりたいのだ。


 (レイナ)

 本当に残念です。

 マリーさんじゃなくて悠兄さんが…。


 レイナでさえ空いた口が塞がらないと言った様子だ。


 やはり俺と二人の考え方は根本的に違う。

 俺は自分の利益を最優先するが、二人は自分と相手の利益を対等に見ている。

 二人とも一応二十歳と聞いている。

 大人になっても、未だにそういう感覚を持ち続けられていることに、正直驚かされる。


 (マザー)

 残念なオジサンはさておき…。

 人員確保に失敗した以上、ここに長居は無用でしょう。

 悠さんの体調を考慮して、2日後にはここをたちます。

 その間、悠さんは完全休養。  

 二人は今日の夜からトレーニングを再開します。

 水の帝と謁見するため、更なるレベルアップが必要です。

 皆さん気を引き締め直してください。


 マザーはそう言って場をまとめた。


 リナとレイナは俺の看病の疲れもあるため、部屋で夜まで休むと話していた。

 

 俺は二人に再度今回の件についてお礼をした。

 それからは、まだ全身に痛みと疲労が残っていたこともあり、二人が部屋を出ていった後、再び眠りについた。



 ・ 夜 悠の部屋にて


 トントン。

 夜中に部屋のドアがノックされた。

 

 (悠)

 『ん?こんな時間に誰だ?』

 『二人はマザーとトレーニング中だし』

 『マリーさんは今ステージだよな?』


 はい!どうぞ!

 とりあえず中に入って貰うことにする。


 夜中に申し訳ない。

 少しだけ失礼させて貰うよ。


 そう言ってドアを開けて入ってきたのは、宿屋の女将さんだった。


 (悠)

 あれ?宿屋の?

 どうしたんですか突然?

 私たち何かしましたか?


 俺は夜中の意外な訪問に驚いた。


 (女将)

 いやいやなんでもないのさ。

 ただ、ちょっとあんたと話したくてねぇ。

 少しだけ時間が欲しいんだが…。

 体の方は大丈夫かい?


 (悠)

 今は大分落ち着きました。

 ご心配いただきありがとうございます。 

 宿屋の方にまで迷惑をかけてしまって…。 

 いい年してお恥ずかしい限りです…。

 体は大丈夫ですので、お話とは?

 

 (女将)  

 そうかい。そりゃ良かった。

 ああ…。それで話っていうのは…。

 あの娘の…。

 マリーのことなんじゃけど…。

 さっき本人から聞いたんじゃが…。

 クランに誘わられたけど断ったって。

 あの娘は何て言って断ったんだい?


 (悠)

 ああ…。

 やっぱりその事でしたか。

 こんな時間だし、きっとそうかなと思いました。

 ええと、マリーさんに言われたのは…。

 貴方たち。つまりは宿屋の女将さんとご主人は大切な家族だから。

 家族を置いて旅には行けない。

 二人だけだと不安も多いから、自分がこれからは二人を支えていきたいと仰ってましたよ。

 本当にいい娘さんですね。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 そうかいそうかい。

 あの娘は本当に…。

 どこまでも孝行娘だねぇ。

 

 女将さんには何か思うことがあるのだろうか。

 一時的には嬉しそうな表情で笑ったが、直ぐに深刻な表情に戻っていた。

  

 (悠)

 本当にそうですね。

 私たちとしても…。

 出来れば一緒に旅をしたかったのですが…。

 マリーさんの気持ちは最もですし。

 やはり大切な人と一緒に居たいという思いを無下には出来ませんから…。

 残念ですが、一緒に旅に出るのは、諦めざるを得ないと判断しました…。

 ですから、娘さんを無理矢理連れていったりはしません。安心して下さい。

 どうかこれからも3人で助け合って。

 皆さんお元気で暮らして行ってください。

 色々とお世話になってしまった我々の、ささやかなお願いです。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 そうかいそうかい。

 それで諦めたのかい。

 なるほどねぇ。それなら。

 やっぱりあんた達になら、

 頼めるのかもしれんね。

 

 女将さんは笑いながら何かを決心した様だった。


 (悠)

 私たちに何かご依頼ですか?

 お世話にもなりましたし、出来ることならさせていただきますよ?


 俺は実際に恩を感じていたこともあり、軽い気持ちで依頼を受けるつもりでいた。

 そして女将さんから、思いもよらぬ相談を受けることになる。


 (女将)

 そうかいそうかい。

 それは助かるの~。

 なかなか依頼する相手が見つからなくて困っておったんじゃよ。

 これはいい機会かもしれんのじゃ…。


 (悠)

 そうなんですか?

 そんなに前から頼む人を探していたんですね。

 さっきもお話ししましたが、我々に出来ることなら引き受けます。

 恩を返させるつもりで言ってみて下さい。


 (女将)

 そうかいそうかい。

 そしたら一つ頼まれて欲しい。

 お主がわしらに少しでも恩義を感じているなら。

 あの子を。マリーを無理矢理にでも、あんたらの旅に連れていってはくれんかね?

 ずっと連れ出してくれるもんを探しておったんじゃよ。


 (悠)

 …。え?

 は!? ええ!?

 マリーさんを!?旅に!?一体何で!?

 無理矢理にでもって…。

 一体どういう…。

 それに、さっきも話しましたが…。

 私たちはマリーさんに、ここに居たいからって誘いを断られたんですよ!?

 本人がそう望んでいるし!

 何より宿はどうするんです!?

 マリーさんがいないとお二人も困るんでしょ!?


 俺は突然のことに驚き口調が少し強くなってしまった。

 しかしそれ位女将さんの真意がさっぱり分からなかったのだ。


 (女将)

 まあ、落ち着きなさいな。

 まさにあんたの言う通りじゃよ。

 ひゃっひゃっひゃっ。

 あの娘に言っても、きっと同じようなことを言うんじゃろうな。


 しかし確かに事実ではある。

 あの娘がいないとわしらは困る。

 宿も立ちいかなくなるじゃろう。


 (悠)

 そこまで分かっていてどうして?

 やはりどう考えても、マリーさんはお二人と居た方が…。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 確かにそうなのかもしれんな。 

 しかし色々あるんじゃよ?

 お主体は大丈夫か?

 大丈夫なら、もう少し昔話にも付き合えるかい?


 (悠)

 大丈夫です。

 きっと何か理由があるのでしょう…。

 最後まで聞かせて下さい。


 (女将)

 そうかいそうかい。

 それなら少しだけ…。

 あの娘。マリーなんじゃが…。

 あの娘はの…。

 ここに来るまで家族というものを知らなかったそうなんじゃ。


 なんでも物心ついた時から施設とか言う所で育ったんだと。

 施設にも友人はいたが、親のいない寂しい気持ちには勝てんかったと。

 みんな悪事に手を染めて、結局ばらばらになっていったんだと話しておったわ。

 そしてあの娘自身も…。

 自分の境遇を呪い、次第に荒んでいったと話とったよ。


 そうやって施設を抜け出してから。

 学のない小娘が一人で生きていくのは、思った以上に大変だったそうじゃ。

 社会はそうそう甘くなかったんじゃな。

 小娘の想像以上に厳しかったと悔やんでおった。


 ただ、幸い容姿には恵まれておったから、近付いて来る人間は多かった。

 そんな相手を上手く騙して、大金を稼いで優越感に浸っていた時期もあったとな。

 自分の力で、社会に受け入れられている相手を騙していく。

 そうすることで、自分を蔑んできた社会に復讐をしたつもりになったんじゃろうな。

 バカな大人を自分が欺いている。

 社会に蔑まれてきた自分が、社会で戦う大人を簡単に騙している。

 そんなことに生き甲斐を覚えたそうじゃ。


 だけどな。ある日。

 自分が前に騙した相手が家族といる姿を見たんじゃと。

 幸せそうに妻と子供と歩いておったんだと。

 そしてその時、あの娘は気づいたんじゃよ。

 自分が騙した相手。

 自分がバカにしていた相手の方が、自分より遥かに優れたものを持っていたことに。

 自分が一番欲しいものをもっとったことに。

 自分には、結局本心から一緒に笑い会える相手なんぞ、今まで一人としていなかったことに。

 あの娘は気付いてしまったんじゃ。


 それからあの娘は、一層荒れたそうじゃ。

 自分が本当に汚いものに思えて怖かったそうじゃよ。

 恐怖を消し去ろうと、更なる悪事を重ねてしまったんじゃと。

 人間というものは落ちるときは本当に早い。

 わしも何人も見てきたものよ。

 警察とかいう、悪人を取り締まる機関に、何度も世話になったそうじゃ。

 最後には…。

 あの娘はもう自分自身でも、一体何がしたいのか分からなくなっていたそうじゃ。


 そして。

 あの娘は…。マリーは…。

 汚れきった自分に絶望し。

 自分の手で人生に幕を降ろすと決めた。


 崖の上から身を投げて。

 誰からも愛されず、人を騙して生きてきた。

 汚いものの塊でしかない自分と別れることを決めたんじゃ。



 ・ 悠の部屋にてⅡ


 そしてあの娘は崖の上にたった。

 遺書も何も要らない。

 死んだことに気づく人もいない。

 そんな人生を振り返り、涙が止まらなかったといっておったよ。

  

 そしてじゃよ。

 そして涙を拭いて顔をあげた時。

 あの娘はこの町の近くの砂漠に立っていたそうじゃ。

 最初は訳がわからず、自分は死んで死後の世界に来たと思ったそうじゃ。

 不思議なこともあるんじゃのう。

 わしらには、あの娘の言う別の世界については分からんが…。


 とにかく、あの娘は砂漠を歩き続けた。

 数日さまよった後、この町にたどり着き。

 この宿についたのじゃ。


 始めてここに来た時。

 あの娘は全身泥だらけで真っ青な顔をしていた。

 そして、

 自分には何もない。お金も家族も友達もいない。

 でも、許されるなら。

 もう一度生きてみたい。

 誰かに少しでも愛される人生を送ってみたい。

 そういって大泣きしたんじゃ。


 わしらは最初何が起きたのか分からなかった。

 何とか落ち着かせて。

 これまでの話を聞いた。

 そして事情も事情じゃったんでな。

 給料は出せんが、住み込みで働くことを提案したんじゃ。

 あの娘は、最初のうちは、ずっと落ち込んだ表情じゃった。

 何をしても上の空で、食欲なども殆ど失っとったよ。

 けれどわしらと一緒に過ごすうち。

 少しずつ明るさを取り戻していったんじゃ。

 それにつられるようにして。

 わしらも閉店を予定していたこのぼろ宿で。

 もう一頑張りしようという気持ちになっていったもんじゃ。

 今のこの宿があるのも、全部あの娘のお陰なんじゃ。


 そうやって3人で力を合わせ。

 少しずつ宿を盛り上げていったんじゃ。

 そのうちに綺麗な娘がいる宿として噂がたち。

 徐々に客も増えだした…。

 そして、あの娘が宿の為に踊り子を始めてくれてからは、あれよあれよと大陸中で有名な宿になったんじゃ。

 あの娘はこんな老夫婦に、再び生き甲斐を与えてくれたんじゃよ。

 わしらこそあの娘に感謝せにゃならん。

 あの娘がわしらの人生を。

 より素晴らしいものにしてくれたんじゃ。


 (悠)

 あの明るいマリーさんが…。

 そんな大変な思いを…。

 それは。なんというか。

 なんとも壮絶なお話ですね…。


 ですが、待ってください。

 話を聞けば聞くほど。

 皆さんはお互いを大切に思い。

 一緒にいたいと感じているとしか思えません。

 それなのに、女将さんはなぜ…。

 マリーさんを旅に出そうと言うんですか?


 俺は黙って話を聞いていたが、どうしてもこの部分だけは理解できずにいた。

 誰が聞いても、これからも3人で仲良く暮らすべきだろう。

 女将さんの真意は結局分からなかった。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 そうかいそうかい。

 それはのう。

 ホントに単純なことじゃよて。


 わしらにとってあの娘は。マリーはの。

 もはや本当の娘だからじゃ。

 あくまで気持ちの話じゃがの。


 それでもわしらは5年間、本当に家族の様に過ごしてきた。

 それはわしらの間では、間違いのない事実なんじゃよ。 

 他のものから見たら。

 それこそ、ただの家族ごっこにしか見えんのかもしれん。

 いや。実際そうなんじゃよ。

 弱いものがたまたま集まって。

 ただ互いの傷を舐めあって生きてきた。

 そんな5年間じゃ。

 余所様に胸を張って言えることなど、何もありゃせん。


 それでも…。坊主よ。それでもな。

 ずっと子供のおらんかった。

 ぼろ宿でひっそりと生きてきた。

 そんなわしらにとっては…。

 あの娘はもはや。かけがえのない。

 大切な一人娘になっておるんじゃよ。 


 そして、これも分かりきったことじゃが。

 わしら夫婦に残された時間はそう長くはない…。

 二人とも10年も生きんじゃろ。

 ひゃっひゃっひゃっ。

 それはいいんじゃ。

 素晴らしい娘もできて、もはや後悔はないわい。


 ただ、気がかりはあの娘の方なんじゃ。

 今や齢が20代の半ばに入っておる。

 人生をかけて何かを始めるには、残された時間は多くなくなってきておる。

 今動き始めなければ…。

 最悪な場合は、あの娘は一人で…。 

 わしらの居ないこの宿に、一人で取り残されてしまうじゃろう。


 そう遠くない未来に。

 わしらのいなくなったこの宿で。

 あの娘はまた一人ぼっちになってしまうんじゃ。

 やっと寂しさから解放されたのに…。

 わしらのせいで、再び孤独になってしまう。


 それはダメじゃ…。

 それではダメなんじゃよ!

 あの娘はわしらを、こんなにも幸せにしてくれたのに!

 今度はわしらのせいで、あの娘が再び不幸になってしまう。

 そんなことをわしらは望んでいない。

 

 娘が親のせいで不幸になるなんて…。

 そんなことあってはならんのじゃ!

 あの娘がわしらのせいで不幸になる。

 そんな姿なんて見たくないんじゃよ…。


 仮初めであっても。

 短い間であっても。

 あの娘はわしらを親にしてくれたんじゃ。 

 親としての幸せを教えてくれたんじゃ…。


 そんなあの娘の。

 次への旅立ちの邪魔にはなりたくない。

 わしらはそんな人間には。

 そんな親にはなりたくないんじゃよ。


 わしらは確かに出会うのが遅すぎた。

 共に過ごせる時間も短かった。

 だが、このたったの5年間は。

 わしらの人生でとても幸せな時間じゃった。


 だから…。

 もう十分なんじゃ。

 あの娘がわしらの為に生きてくれる時間を、これ以上は望むべきではない。

 お互い潮時なんじゃ。

 仮初めの親は、そろそろ娘を解放してやらなくてはならん。


 俺は女将さんの話を、ただ黙って聞いていることしかできなかった。

 そして親が子を思う気持ちというのは、ここまで強く、優しいものなのかと、気付かされたのだ。

 

 (女将)

 だから。だからお主に頼みたいのじゃ。

 あの娘をここから連れ出し、自由にしてやって欲しい。

 あの娘に新しい生きる道を与えてやって欲しいんじゃ。


 そういうと女将さんは、ゆっくりと頭を下げた。


 俺も思わず頭を下げた。

 そして女将さんの強く、優しい決意に。

 何としても応えたいと心から感じていた。


 (女将) 

 して、どうじゃろう?

 お主なら頼まれてくれるとありがたいんじゃが。

 あの娘のこと、任されてはくれんかの?


 女将さんに答えを促され、

 俺は直ぐに心を決めた。


 (悠)

 分かりました。

 女将さんの親心。確かに受けとりました。

 娘さんは私たちが必ず預からせて頂きます。 

 ですが、結局本人の意志もあります。

 宜しければ、女将さんにも協力頂けませんか?

 

 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 大丈夫。大丈夫じゃよ。

 あの娘だって、もうそろそろ別れねばならんことには気付いておる。

 わしらが少し背中を押してやれば、あの娘も現実を受け入れるさ。

 わしに出来ることがあるなら、何でも協力させて貰うよ。


 俺たちは互いに手を差し出し、がっちりと握手をした。


 こうして女将さんとの会談は終了したのだ。

 マリーさんの旅立ちに向け、今後俺達は協力し合うことを約束したのだった。



 ・ 本心を越えるもの


 (悠) 

 皆さん、本当にお世話になりました。

 またこの町に寄る機会があったら必ず顔を出します。

 本当にありがとうございました!

 

 俺は見送りに出てきてくれた、マリーさんと女将さん。そしてご主人に頭を下げた。


 (マリー)

 是非また寄ってね!

 あなた達ならいつでも大歓迎よ!


 マリーさんも、笑顔で手を振り見送ってくれている。


 (リナ)

 マリーさんお元気で!

 おじいさんとおばあちゃんも無理しないでね!


 (レイナ)

 本当にお世話になりました。

 皆さんも元気でいてくださいね。


 俺達は感謝の言葉を伝え、宿を出発する。


 その時だった…。


 (女将)

 さて、マリーや。  

 見送りも済んだことじゃし。

 あんたにも今日限りで出ていって貰うよ。

 

 (マリー)

 え!?

 アッハッハッ!

 おばあちゃん?

 どうしたのいきなり?

 熱でも出たのかしら?


 突然のことに、マリーさんは冗談だと思っているようだ。

 しかし残念ながら冗談ではない。

 俺と女将さんで話し合い。

 このタイミングで切り出すことを決めていたのだ。


 (女将)

 この娘は何を笑うかね。

 冗談でもなんでもないよ。


 先日主人と話してね。

 やっぱり宿は閉めることにしたんだ。

 年よりがやっていくにはキツイ仕事じゃしね。

 年齢的にも潮時じゃと思うしの。


 だからあんたを養っていく余裕は、もうわしらにはなくなったのさ。

 これからは夫婦二人で、慎ましく生きていくよ。

 だから丁度いい機会じゃ。

 あんたはこの人達と一緒に出ていっておくれ。

 じゃないと、わしらの生活が、ままならなくなってしまうじゃろ。


 (マリー)

 おばあちゃん!

 さっきから何を言っているの!?

 冗談もいい加減にして!

 宿は二人が大変な仕事は私が手伝うし!

 私の踊り子としての収入もあるんだから、3人でならこれまで通り生活出来るわよ!

 今後もそうして行こうって、これまでも何度も話したでしょ!?


 マリーさんは女将さんの発言に強い苛立ちを感じている。

 いつかそうなってしまうかもしれないという不安もあるのだろう。

 そしてこういった話も皆で何度もしてきたのだろう。

 マリーさんの中では既に結論が出ているようだ。


 (女将)

 ずっと思っていたことじゃが…。

 マリーよ。

 お主は本当にわしらの娘にでもなったつもりなのかい?

 確かにわしらはお互いに傷を舐めあい、これまで一緒に生活してきた。

 しかし、決して本当の家族ではないはずじゃ。

 なぜ他人にこれからの人生の世話をさせなきゃならんのじゃ。

 これからのことは自分達で。わしら夫婦で、家族で決めることじゃよ。

 お主に勝手に決められるのは迷惑じゃよて。


 (マリー)

 おばあちゃん!

 ホントにいい加減にしてよ!

 冗談だと分かるけど、あんまり嫌なこと言わないでくれる!?

 私は二人を本当の両親だと思ってるし、二人だって私を娘のように可愛がってくれてたじゃない!!

 これまでだって一緒に頑張ってきたじゃない!!

 それなのに…。それなのに!

 何を今更そんな風に寂しいことを言うのよ!


 マリーさんは女将さんの態度に苛立ちを隠せなくなった。

 心から信頼している。

 親の様に慕っている。

 そんな人からは、例え嘘であったとしても、絶対に言われたくない言葉。

 そんな言葉が、きっと誰にだってあるのだろう。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 言うに事欠いてそれかい。

 いやいや…。

 それは思い上がりじゃよマリー。

 わしらは確かに、お前のお陰で、子供を持った親の気持ちを体験できた。

 それには確かに感謝しておる。

 じゃが、一生面倒を見てくれとは思っておらん。 そんなこと頼んだつもりはないわい。


 わしらは、今までの5年間で十分満足なんじゃ。

 そろそろ出ていってくれんと、宿も閉めるに閉めれんじゃろ。

 そろそろわしらもゆっくり余生を過ごしたい。

 流石に家族ごっこもおしまいじゃよ。


 そう言うと、宿屋の主人がマリーさんの荷物をまとめた袋を持ってきた。


 (主人)

 マリーよ。世話になったのう。

 わしらは十分楽しませてもらったよ。

 もう満足じゃ。

 あとは自由に。達者で暮らせ。


 (マリー)

 ちょっと待ってよ!

 おじいさんまで!

 もういい加減にして!

 冗談にしても酷すぎるわ!

 私たちはこれからも3人で暮らす!

 それが一番なのは分かってるでしょ!


 (女将)  

 ひゃっひゃっひゃっ。

 だからさっきから言っておるじゃろ。

 誰もそんなこと頼んでおらん。

 何を勘違いをしておる。

 わしらはもう宿を閉めたいんじゃ。

 もう頼むから出ていっておくれ。

 宿を続けたいのは、お前さんの気持ちじゃろ?

 お前さんがどうかは知らんが、わしらにとっては閉めるのが一番なんじゃ。

 夫婦二人で余生をゆっくり過ごしたいんじゃ。


 (マリー)

 嘘だよ。そんなの。

 ずっと一緒だって。

 家族だって言ったじゃない。  

 あれは?あれも嘘だって言うの?

   

 (女将)

 嘘は言っておらんよ。

 ただ、それをお主が都合よく解釈しただけじゃ。

 わしらのせいにするのはお門違いじゃろ。


 この言葉が致命傷になったようだ。

 マリーさんはその場で泣き崩れた。

  

 (マリー)

 そんな…。

 これからも一緒って…。

 3人でって言ってたのに…。

 始めてできた家族なのに…。


 マリーさんは座り込んで泣き続けている。

 あまりのショックで動くことが出来ないようだ。


 (女将)

 おやおや。

 こんな所で泣かれたら迷惑じゃよ。

 まだ客もおるというのに。

 のうお主らよ。

 早くそやつを連れてっておくれ。

 わしらには仕事もある。

 そろそろ中に戻らせてもらうよ。


 そう言うと主人と女将さんは会釈をし、宿の中に入っていった。


 外には俺たち3人と泣き続けるマリーさんが取り残された…。


 (リナ)

 ちょっとちょっと!

 どうなってるのよ!?

 マリーさんは宿に残っておじいさんとおばあちゃんと暮らすんでしょ!?

 何で喧嘩して追い出されてるの!?


 突然のことにリナも驚きを隠せないようだ。


 (レイナ)

 これは。

 これはどういうことですか…? 

 ご主人も女将さんも変です。

 あまりに不自然な気がします。

 

 レイナも二人の態度に疑問を感じたようだ。


 (悠)

 『やっぱりいくらなんでもこれは…。』

 『他にやり方があるだろうに…。』



   それは旅立ちの前日 悠の部屋にて


 (悠)

 え?

 マリーさんに出ていけって言って無理やり追い出すことにする?

 いやいや女将さん。それ本気なんですか?

 いくらなんでもそれはちょっと…。

 

 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 本気も本気。

 わしはやる気満々じゃよ。


 女将さんは飄々とした態度でそう言い切った。

 女将さんから、マリーさんの出発については任せてくれと言われていたが、まさかそんな強行手段を選んでくるとは…。


 (悠)

 いやいや、この間背中を押してやれば理解して貰えるとか言ってたのに。

 押してないですよ。背中蹴ってますよそれ。


 (女将)

 まだまだ若いもんには負けん。

 華麗に蹴り飛ばしてやるわい。

 ひゃっひゃっひゃっ。


 女将さんはそう言い放ち、笑っていた。 

 どうも女将さんの真意が見抜けない。


 (悠)

 ひゃっひゃっひゃっ。じゃないですよ!

 普通に説得すればいいじゃないですか?

 何でまた。

 そんなお互いが傷付くやり方を…。


 (女将)

 簡単なことじゃて。

 前にも話したが、あの娘はわしらの娘じゃ。

 娘が旅立つのに、親が足枷になってどうする。

 あの娘はホントに優しい娘じゃ。

 わしらの為に人生を犠牲にすることに躊躇はないじゃろう。

 しかし、それはわしらの望みとは違う。

 わしらは身を引くため、あの娘の中から消えねばならん。

 旅に集中させてあげるためにも、わしらはあの後の中から居なくならねばならんのじゃ。


 (悠)

 それは…。

 いくらなんでも極端すぎるのでは?

 そんなことをしなくてもゆっくり話し合えば…。


 (女将)

 何回話し合ってもダメなんじゃよ。

 二人は私が支える一辺倒じゃ。

 ひゃっひゃっひゃっ。

 誰に似たのかのう…。

 まあ、この事はわしらに任せてくれ。

 家族の…。

 そうわしら家族の問題じゃよ。


 女将さんはそう言うとにっこりと笑った。

 その笑顔は娘の旅立ちを心から喜んでいるようにも見えた。


 (悠)

 家族…。

 家族の問題か~…。  

 う~~ん。

 そう言われてしまうとな…。

 もう私には口の出しようがないですよ…。

 ただ、出来ればですが…。

 皆さんが…。

 全員が納得のいく形になってくれることを、心から期待しています。

 

 俺はそう言うのが精一杯だった。

 女将さんは「任せておけ」と言い。

 また、ひゃっひゃっひゃっ。と笑っていた。

 

     そして話は今に戻る…。


 (悠)

 「任せておけ」って言ってたんだけどなぁ。

 

 そこには、泣き崩れたマリーさん。

 宿に戻ったご主人と女将さん。

 呆然と立ち尽くす俺たち。


 (悠)

 『いくらなんでも、これが仲のいい家族の旅立ちの光景には見えないだろ…。』 

 『何で優しい人は深刻になった時に、こういう自分も傷つく選択肢しか選べないんだ?』

 『自分が悪者になれば。犠牲になれば相手が幸せになるとでも思ってるのか?』  

 『でも、これは女将さんが。娘のマリーさんのために考えて決めたこと。』

 『俺に否定する権利があるだろうか?』


 俺は頭の中で、今からでも二人が傷付かずに済む方法はないものかと考えていた。

 しかし元々使っていない頭では何も浮かびそうにはない。


 しかし、その時だった。


 (リナ)

 あったまきた!

 いくらなんでもこれはない!

 どんな理由でも許されない!

 私は許さない!


 (レイナ)

 ええ!本当です!

 これはないです!

 いくらなんでも許せません!


 二人が女将さんの態度に腹をたて、宿屋に向かい歩きだしていた。

 今にも殴り込みそうな形相だ。


 (悠)

 『マズイ!二人は女将さんの真意に気付いていないんだ!』

 ちょっと待て!二人とも!

 女将さんは、本当は!


 俺が女将さんの気持ちを伝えようとした時。

 リナは宿屋のドアに向かって叫んでいた。


 (リナ)

 すぅぅぅ~。 (大きく息を吸い込む)

 もしもしオバサン聞こえてる!?

 いくらマリーさんの為を思っての発言でも!

 あれはないんじゃないの!?

 思ってもいないことを言って!

 自分は悲劇のヒロインで満足かもしれないけど!

 結局マリーさんは傷付いてるよ!!

 それじゃあ、意味ないじゃない!

 普通に元気で行って来い!

 でいいのに何でこんなことするかな!!

 格好いいとか思ったの!?

 

 (レイナ)

 そうですよおばあちゃん!!

 これはマリーさんの。

 二人への気持ちを馬鹿にしています!!

 この程度でマリーさんが、お二人のことを綺麗に諦められると思いますか!?

 はっきり言ってあり得ないです!!

 家族の絆はそんなに弱くありません!!

 貴方たちは今まで自分達が過ごしてきた時間!

 その全てを否定するつもりですか!?

 私はそんなこと許せません!!

 皆さんの様な温かい家族が、こんなやり方でしか別れられないなんて!!

 私は許せません!!

 久しぶりに怒っています!!

 


 二人は町中に響き渡るような大声で叫んだ。

 二人とも怒りで感情が高ぶったのか、涙を浮かべながら叫んでいた。


 (悠)

 二人とも…。

 気付いてたのか…?

 女将さんの気持ちに…。


 (リナ)

 気付くも何も見てりゃ分かるでしょ!

 悠兄こそ知ってたなら何で止めないのよ!?

 3人は本当に仲良くて!お互いを思ってる!

 なのに相手を思うせいで、こんなやり方しかできないなんて!!

 そんなのおかしい!!間違ってる!!

 私は絶対許さない!!

  

 (レイナ)

 相手を思うからと言って!!

 相手のためだと言って!!

 自分が悪者になれば解決すると!?

 相手が忘れやすいようにするのが優しさだと!?

 そんなの間違ってます!!

 相手を馬鹿にしています!!

 マリーさんの二人への想いはそんなに軽くありません!!

 そんなの自分がカッコつけたいだけです!!

 こんなやり方私も許しません!!


 二人は俺の方を見て、泣きながら叫んでいる。

 泣き顔で顔をくしゃくしゃにしながら、心の底から叫んでいる。

 

 俺はそれを見て。

 やっぱり二人は、

 自分よりずっと綺麗だと思った。 

 相手の立場や考えにばかり視線がいく。 

 そんな自分とは違う。  


 二人は相手の気持ちを。本心を。

 何よりも大切にしている。

 例え同じことに気がついても。

 相手のことを思い。

 きちんと否定する強さを持っている。

 俺はそんな二人が、いつも眩しく見えるんだ。


 (悠)

 『そうだよな。二人からしたら当たり前だよな』

 『ちょっと考えれば分かることだよな…。』

 

 すぅぅぅ~。

 俺も一度大きく息を吸い込んだ。

 そして宿屋のドアをノックする。

 

 (悠)

 女将さん!

 聞こえましたか!?

 我々としては、今のままでマリーさんを連れて行くわけにはいきません!!

 きちんとお互いが納得するように話し合いましょう!!


 俺はドアに向かって叫んだ。


 シ~~ン。

 しばらく無言の状態が続いた。

 そして…。


 ガチャ。宿屋のドアが開いた。

 

 (女将)

 やれやれお前さんたちは…。

 すっかり予定が狂ってしまったわい。


 女将さんがドアを開け、顔を出した。



 ・ 旅立ちの日に 


 (女将)

 本当にお前さん方は…。

 わしらがせっかくマリーを預けようというのに。


 女将さんは苦笑いをしながらこちらを見ている。


 (悠)

 いや~。申し訳ありません…。

 でも、やっぱりこのやり方は…。

 後ろの二人の言うように。

 やっぱり納得できないですよ。


 (女将)

 はぁぁぁ~。

 ホンに。お主らは…。

 まあ、だからこそわしらも。

 お主らにマリーを預けても良いと思ったのかもしれんの…。

 ひゃっひゃっひゃっ。


 女将さんは下を向きながら優しく笑っている。


 (リナ)

 やっぱり知ってたんだよ、このオジサン!

 何で知ってて止めないのよ!

 こんなやり方間違ってるに決まってるじゃん!


 (レイナ)

 そうですよ!

 お互いを大切に思っているのに!

 こんなやり方許されませんよ!


 (悠)

 いや。二人の言う通りだ。

 当たり前だよな。

 本当にすまない。


 二人から厳しいお言葉をいただく。

 年を重ねたせいか、本質とは違うところばかり気にしてしまう。

 我ながら情けない話だと反省した。


 (女将) 

 お主らの言う通りじゃな。

 年寄りが集まると立場ばかり考えおる。 

 まあ、こやつもワシを思って黙っていてくれたんじゃ。

 許してやっておくれ。


 女将さんも二人の真摯な言葉に心が動かされたようだ。表情も随分とすっきりとした様子だ。


 (マリー)

 グスン。

 私は…。

 さっきから何が何だか分からないんですけど…。


 泣き崩れていた当人が、俺たちの会話を聞き、一番混乱しているようだ。 

 涙が溢れ、顔はまだくしゃくしゃのままだ。


 (悠)

 いや…。

 すいません実は…。

  

 俺が話そうとした時。

 女将さんが俺の方にスッと手を出した。

 自分で話すことに決めたようだ。


 (女将)

 ひゃっひゃっひゃっ。

 簡単なことじゃよ。

 お前が何も気にせず旅立てるように、わしらで一芝居うったんじゃ。

 そしてこやつらにも、その協力をして貰ったという話じゃよ。


 (マリー)

 どうしてそんなことするのよ!?

 旅を勧めたいなら…。

 きちんとそう言えばいいじゃない!!

 私は二人から拒絶されたと思って…。

 もう会えないかと思って…。

 どれだけ…。

 どれだけ悲しかったか!


 マリーさんは泣きながら話すため、言葉が上手く出てこないようだ。

 その姿からも、マリーさんがどれだけ辛い思いをしたのかが伝わってくる。 


 (女将)

 お主の言う通りなんじゃ。 

 きちんと話をして、説得すればよかった。

 けれど、お主は優しいから…。

 それを知っていたから…。

 わしらのことを考えて、踏ん切りがつかんと思ったんじゃ…。

 だから、わしらが犠牲になれば…。

 悪者になれば…。

 未練をすてて旅立てると思った…。


 勝手な話じゃ。

 あの娘らの言う通り。

 自分に酔っていただけなのかもしれん。

 本当に…。

 本当にすまんかった。

 

 女将さんは曲がった腰をさらに曲げ、マリーさんに頭を下げた。


 (マリー)

 本当に勝手よ!

 私が二人をどれほど大切に思っているか!

 何も分かってない…。

 こんなやり方で旅に出ても、嬉しい訳ないじゃない!!


 マリーさんは泣きながら大声で叫んだ。

 俺はその様子を見て、二人はやっぱり家族なんだ。お互いが本当に大切なんだと強く感じた。

 二人があのまま別れることにならず、本当に良かったと心から思った。


 (女将) 

 本当に。本当にすまなかった。

 マリーや。わしらの愛する娘や。

 どうか。どうか許しておくれ。

 

 女将さんはマリーさんの肩を抱き締め、泣きながら謝り続けていた。


 ただのう。マリーや。

 お主が旅に出るべきというのは本心じゃ。

 お主にはこやつらと旅に出てほしい。

 それがわしらの、親としての気持ちなんじゃ。


 (マリー)

 なんで?

 どうしてなの?

 いつも話してるでしょ?

 私はこのまま3人で暮らしたいの…。

 始めてできた家族なの…。

 本当に二人が大好きなのよ…。

 一緒にいたいのよ…。

 

 私がいないと宿をやりくりするの大変じゃない。

 布団を運んだり、階段上ったり。

 二人は体も悪くなってるし…。

 心配だよ…。置いてなんていけないよ…。


 マリーさんは涙を押さえられない。

 2人の互いへの愛情の深さが、言葉の端々から伝わってくる。


 (女将)

 その通りじゃ。

 わしらはお前がいなければ満足に仕事ができん。

 お前が近くに居てくれれば、こんなにも嬉しいことはない。

 (マリー)

 じゃあ。じゃあどうして!?

 私は…。

 (女将)

 マリー。

 親と子というのは、いつか必ず離れなくてはならん。

 それは子供の結婚や就職。そして親との死別。

 色々な理由があるじゃろう。

 残念な話じゃが、親と子がどんなにお互いを思っていても、必ず別れの日は来るのじゃよ。

 これだけは誰にも変えられんのじゃ。


 そしてワシも旦那もじゃが。

 年齢を考えても、それほど長くはないじゃろう。

 ワシが一番怖いのは、ワシらがいなくなった後に、お主が居場所を失うことなんじゃ。

 誰も居なくなった宿屋で、お主が一人ぼっちで。 ワシらの幻影に縛られて生きていく。

 お主は優しいから、ワシらが居なくなった後も、きっと宿を続けるじゃろう。

 そしてお主がワシらの幻影を捨てる頃には。

 お主が自分で何かを始めるには、年齢が高すぎるのかもしれん。

 そう思うと不憫で涙が止まらんのじゃ。

 

 マリーや。

 親という生き物は、子供が安心して暮らしていけることを何よりも望んでいる。

 わしらはたった5年間という短い家族じゃ。

 親を名乗るのはおこがましいかもしれん。


 だけどマリーや。

 ワシらは自分のせいで、娘が何かを失う姿だけは見たくないんじゃ!

 娘には自分達以外の場所を見つけて!

 安心して暮らして欲しいんじゃ!

 これがワシの本心じゃよ!

 分かっておくれ! 

 ワシはもしかしたら、今回が最後のチャンスではないかと思っているんじゃ!


 その後、女将さんとマリーさんは抱き合いながら泣き続けた。

 二人がどれほどお互いのことを考えたのか。

 どれほどの覚悟で決断をしてきたのか。

 その光景は、親と子の人生における最も大切な時間を、全て凝縮しているかのように見えた。


 二人はしばらく、抱き合いながら泣いた。 

 お互いに名前を呼び。謝りながら泣いていた。

 俺たちはただ黙って、その光景に見入っていた。


 (マリー)

 ありがとう。おばあちゃん。

 本当にありがとう。

 おばあちゃん…。

 分かったよ。おばあちゃんの気持ち…。

 だから…。

 私行くね。

 自分の居場所を見つけてくるね。 

 ありがとう。

 私。二人の娘になれて良かった。

 本当に。本当にありがとう。


 先に言葉を発したのはマリーさんだった。

 マリーさんは泣きながら、感謝の言葉を述べ、深々と頭を下げた。


 女将さんもそれを聞いて顔をあげた。


 (女将)

 ああ。ああ。

 行っておいで。

 宿はワシらが何とかするよ。

 お主の帰るところは必ず守っておく。

 マリー。

 お礼を言うのはワシらの方じゃ。

 子供のおらんワシらを、こんな素敵な娘の親にしてくれおった。

 お主は本当に親孝行な娘じゃよ。 

 本当にありがとう。


 そう言って二人は抱き合い、別れの挨拶を交わした。そして…。 


 (マリー)

 そういうことだから連れていって貰うわよ。

 今更断るなんて許さないから!

 

 マリーさんは涙で目を真っ赤に腫らしながら、こちらに足を進める。

 

 (リナ) 

 もちろん!

 こういう形なら大歓迎だよ!

 ようこそ美人のお姉さま!

 我がクラン。ディープインパクトへ!


 (レイナ)

 すっきりとした形でお迎え出来て嬉しいです!

 いえ!どんな形でも私は嬉しかったかも!

 とにかく、これからもよろしくお願いたします!


 二人はマリーさんに一礼し、加入を喜んだ。

 そして俺の方に笑いながら視線を向ける。


 (悠)

 『結局俺がやったことは全部裏目にでたな。』

 『あの二人の勝ち誇った顔を、今回ばかりは受け入れざるを得ないな』

 俺は二人の視線に申し訳ないと言わんばかりに会釈を返した。


 マリーさん。

 この度は勝手に余計なことをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 もし許していただけるなら、我々とクランを組んで旅を進めてくれませんか?

   

 俺は頭を下げ、マリーさんに再度クラン加入を打診した。


 (マリー)

 どうしよっかな~。

 このオジサン。 

 勝手に人の家庭を滅茶苦茶にしようとした人だしな~。


 マリーさんは、笑いながら話している。

 どうやらからかわれているようだ。


 (悠)

 大変申し訳ありませんでした。

 どうか許してやって下さい!


 俺は再度謝り。頭をより深く下げた。


 (マリー)

 まあ、仕方ないか!

 お母さんが選んでくれた人達だし!

 お母さんの顔に免じて許してあげる!

 お母さんに感謝しなさいよ!


 マリーさんはそう言って、冗談っぽく笑った。

 気づくと女将さんの呼び方は、お母さんに変わっていた…。


 (マザー) 

 おめでとうございます!

 ついに4人目の仲間の誕生ですね!


 マザーがどこからか現れ、祝福の声をあげた。


 (リナ)

 うわ!

 びっくりした~!

 いきなり出てこないでよ!

 てか、今まで何処に行ってたのよ?


 (マザー)

 天部に戻り、マリーさんの加入手続きを行ってきました!

 これで加入申請をすれば、マリーさんは直ぐにでも当クランの一員になれます!


 マザーは仕事の早さを自慢するかのようにハキハキと話した。


 (マリー)

 加入を申請するにはどうすればいいの?


 (マザー) 

 ご説明致します!

 皆さん此方に集まって輪を作ってください。


 俺たちはマザーに促されるまま、向かい合って輪を作った。


 (マザー)

 では、左手を前に出して重ねて下さい!

 あ、マリーさんが一番上にして下さいね!


 俺たちは手を前に出して重ね合わせる。


 では、マリーさん。

 名前と年齢を叫び、その後で「私はクラン・ディープインパクトに加入を申請します」と宣言して下さい!


 (マリー)

 あら?以外と簡単なのね。

 じゃあ、さっそく。

 私、進藤マリエは、クラン・ディープインパクトに加入を申請します!

 

 マリーさんがそう宣言すると、マリーさんの左手が光った。

 光が収まると、左手の甲にはアルファベットが。

 右手には心具が握られていた。


 そして気が付くと、俺達の上空には天使が舞い降りてきていた。


 (マザー)

 では、マリーさん。

 天使に向かい、名前と自身の手の甲に刻まれたランク。そして心具を申告して下さい。


 (マリー)

 分かったわ!

 進藤マリエ!個人ランクはC!

 心具は。心具は扇!!


 マリーさんの右手には、淡い緑色の美しい扇が握られていた。

 扇には二人の子供が川の近くで遊んでいる姿も見える。


 (天使)

 進藤マリエ。

 貴方の申告は適正になされたものと確認致しました。

 これからは冒険者として。

 より一層資質の修練に励んで下さい。


 そう言うと、天使は空に向かい上昇し、雲の向こうに消えていった。

 

 (リナ)

 凄い!

 マリエさん心具も綺麗!

 マジ羨ましい!


 (レイナ)

 ああ、ホントにお綺麗です。

 綺麗過ぎて直視出来ないです…。

 これから一緒なんて感激です。

 

 (悠)

 本当だな。

 大事な人に愛されると。

 人の心はあんな風に綺麗な形になるのかな。


 (女将)

 ホンに綺麗な姿じゃよ。

 あれがマリエの心具かい。

 あの娘らしい。綺麗なもんじゃの~。

 何だか花嫁姿を見せて貰ったようで嬉しいのう。


 女将さんはそう呟きながら泣いていた。

 皆は気付いていなかったようだが、俺はそれを見て。

 マリエさんを旅に参加させる以上は、女将さんやご主人が傷つくことが無いように。

 しっかり皆を守っていこうと気を引き締めた。


 (マリエ)

 あら?皆さんもしかして見とれちゃった?

 これから一緒に旅をするんだから、少しは慣れて貰わないと。

 特にそこのオジサンは変な気を起こさないでね。

 何かあったら直ぐにお母さんに言いつけるから。


 マリエさんはそう言って笑っていた。


 それと、私は今日からマリーじゃなくてマリエ。

 旅立ちを機会に、ステージの名前から本名に戻すわ。

 特に意味はないんだけど…。

 私なりの一区切りにしようと思うから…。

 

 マリエさんはそう言うと、暫く宿屋をじっと見つめていた。

 これまでの生活を振り返っていたのだろうか。

 そしてこちら側に笑顔で振り返る。


 (マリエ)

 さてと…。

 じゃあ、行こうかな…。

 お母さん!

 私、行ってきます!

 自分の居場所を見つけて来ます!

 その間、我が家をよろしくお願いします!

 たまに帰って来るから、体には気を付けてね!

 何かあったら直ぐに連絡してよ!


 (女将) 

 ああ。いっておいで。

 わしらはきっと大丈夫。

 お主はお主の旅に集中しなさい。


 ただ、忘れないでおくれ。 

 お主の帰る家はここにある。

 何かあったらいつでも帰っておいで。

 わしらはいつだってお主のことを待っているよ。

 

 (マリエ)

 ありがとう。お母さん。 

 でも、きっと大丈夫。 

 私にはもう、仲間がいるから…。


 こうして俺たちディープインパクトに、新しい仲間が加わった。

 クランのメンバーも増え、俺たちは水の都に向けて、新たな旅を始めるのであった。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ