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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
108/114

○ 大地の章 8年前の真実Ⅰ

 

 「チョット待ッテヨ!ベルチャン!」

 「8年前ノ出来事ヲ話ス!?」

 「ドウシテ今!?一体何ノ為ニ!?」

 

 アナベーが慌てた様子でドスドスと

 ベルガリスの元に駆け寄った。


 「そう言ったつもりだが……。」

 「何か問題があるのか?」


 ベルガリスは目の前に立ちはだかる

 アナベーを睨み付けた。

 先程までの友好的なムードとは変わって、

 二人の間に緊張した空気が流れる。


 「モ、問題アルデショ?」

 「アノ話ハ、デキルダケ内密ッテ……」


 「分かっている」

 「分かった上で話すと言った」

 「それに何か問題があるか?」


 「ソ、ソレハ……」

 「イクラベルチャンデモ……」


 二人の間を包む空気が、

 どんどん圧力を増していく。

 そのあまりの迫力に、

 周辺にいる一般の人々さえざわつき始めていた。


 (流石にこれはマズイだろ!)

 (早く止めね~と!)


 「ちょっとちょっと!」

 「いきなりどうしたんだよ!?」 

 「さっきまで仲良くやってたのに!」

 「とにかく落ち着いてくれよ!な!?」

 「落ち着こう!二人とも!」


 悠が二人の間に割って入る。

 二人は睨みあったまま微動だにしない。

 その迫力に、周辺の空気が震えているのが伝わってくる。


 「な、何ですか!?」

 「二人が睨みあっただけで空気が!」

 「息が苦しい!」


 「あの二人の圧に私達が気圧されているの!」

 「レイナちゃん!気をしっかり持って!」

 「気を抜くと意識まで

  一瞬で持っていかれるわよ!」


 二人の様子に気が付いたのか、ベルガリスとアナベーは放たれる圧力を弛め始めた。

 場の圧力から解放され、レイナはへなへなと力なく尻餅をついた。

 それを見て、ベルガリスがレイナに近付いた。


 「嬢ちゃん。すまないね。立てるかい?」


 ベルガリスが差し出した手を、

 レイナは怯えながらも握りしめた。

 ベルガリスは無言でレイナを引き起こした。


 「あ、ありがとうございます……」


 お礼を述べるレイナに、ベルガリスは黙って手を振り、再び歩き出した。


 「俺の勘が『伝えるべきだ』と言っている。」

 「それ以上の理由がいるか?アナベー」


 「……。了解シタネボス」

 「ミーモ少シ出過ギタヨ」

 「ゴメンヨ、ベルチャン……」


 しょんぼりと肩を落とすアナベーに、

 ベルガリスはコツン。 と胸を叩き労った。


 緊迫した空気から解放され、ディープインパクトのメンバーも、ホッと胸を撫で下ろした。


 「さて、それで……。だが」


 ベルガリスは直ぐ様話題を戻していく。

 先ほどの殺気が嘘のように、

 いつもの冷静な表情に戻っている。


 「8年前、この大陸で行われたのが、

  言わずと知れた和平を目的とした五帝会談だ」

 「各大陸の帝が集まって、

  戦争終結の為の議論を行う。」

 「ステラにおける一大行事だ」


 「まあ、名目は和平に向けた帝達の会談だが」

 「誰もそんなつもりで来ちゃいない」

 「言ってしまえば定例のお茶会だな」


 「爺どもが集まって、和平に向けた話をする」

 「そう銘打って、茶だけ飲んで飯食って帰る」

 「そんな空洞化した、ただの寄り合いだ」


 「あいつ等、ハナから解決する気なんてねぇ」

 「和平なんて誰も望んでねぇんだ」

 「お互いの近況を報告したら終いさ」


 「俺は何度も爺どものそんな姿を見せられて」

 「あの頃は、正直嫌気が差していた」


 「いや、違うな」

 「大陸の民の事など、これっぽっちも考えず」

 「己の利益を追求するためだけに、

  毎度毎度ヨタヨタと集まって来やがる」

 「そんな爺どもの腐ったにやけ面に、

  心底吐き気を覚えたもんさ」


 「こんな奴等の為に命張ってる人間がいる」

 「何の疑いもなく、戦いに身を投じる奴がいる」

 「そいつ等にも、

  大事な家族や友人がいるはずなのに」

 「爺どもは、ヘラヘラ酒飲んで帰るだけ」


 「そう考えただけで、奴等の顔をぶん殴ってやり  たいと何度思ったことか!」


 ベルガリスはその話をしながらも、

 口元にギリリッ。 と力を入れている。


 彼が過去の帝達に、

 どれ程強い苛立ちを覚えていたか。

 その様子だけで、

 3人にも直ぐに理解することができた。


 「その日もいつもと変わらねぇ」

 「各大陸が平等に利益を得るには、

  一体どうしたら良いのか」

 「何処で誰が戦い。誰が勝つのか。」

 「そんな話ばかりが繰り返されていた」


 「ここの戦は譲るから、こっちの海域は譲れ」

 「ここの資源は渡すから、ここの勝ちを譲れ」 


 「皆が民から不満を持たれない範囲で」

 「戦の勝敗や資源の分配を決めていく」


 「今回は炎の大陸さんに譲りますから、次回はウ  チに贔屓してくださいね」

 「そんな会話が平然と飛び交う」

 「腐った権力者達のお遊戯会さ」



 「え!?ちょっと待ってくれ!」

 「何処で誰が戦うか!?」

 「それにどっちが勝つかまで決まっていた!?」

 「それが戦争の中で!?」

 「それじゃあ、過去の大戦ってのは……。」


 

 「帝達による出来レースさ……。」

 「お察しの通り。笑える程低レベルのな」


 「戦場に出される下っぱには何も告げず」

 「既に勝敗の決まった死地へと、

  何万もの兵を平然と送り込んでいく」

 「負けた方は、

  原因を信仰の深さが足りないからだと喚き」

 「決して自らの愚策を認めようとはしない」


 「民は帝の言葉は絶対だと疑いもせず」

 「皆が帝のために死ぬのは当然と受け入れた」

 「その帝ってのが、どれ程無能かも知らずにな」


 「少なくとも、過去20年に渡る大戦の中では、

  このやり取りが間違いなく行われていた」

 「俺達のクーデターが成功した時に、

  奴等本人に聞いたから間違いない」


 「恐らくこの流れの始まりはもっと古い……」

 「つまり、これまでステラの多くの民は」

 「帝達が己の私腹を肥やす為だけに用意した、大戦と言う名の出来レースに、無償でその命を捧げてきたことになるのだろう」


 「帝様から賜った、有りがたいお言葉を信じて」

 「その数は、何百万から何千万」

 「一体何処まで遡れば収まるのかも分からない」


 「本当にヘドが出る話だが、

  これは紛れもない事実だ」

 「少なくともここ数百年」

 「本気で争いを解決しようとした、

  帝や執政部は存在しなかった」


 「これが当時の俺達が導きだした結論だ」


 その発言に、

 3人は返す言葉が見当たらなかった。 

 私腹を肥やすために、

 平然と民を犠牲にする帝達。

  

 帝は精霊のつかいと信じ、疑うことなく命を捧げた何千万の人々。

 大戦は力の均衡により、

 終わらなかったのではない。

 終わらないように、巧みに操作されていたのだ。


 「そんなのって……」

 「そんなのってあるのかよ」

 「誰も心が痛まなかったのか?」

 「皆自分を信じて戦って」

 「そして死んでいったんだぞ」

 「それなのに……。」


 悠は俯いて、体を怒りに震わせていた。

 

 「そんな……。酷い……。あんまりです」

 「皆が命を懸けて帝を、

  大陸を守ろうとしていたのに……。」

 「本人達はゲーム感覚で遊んでいたと

  言うのですか……。」

 「自分達が満足できればそれでいいと……。」


 「そんなの酷い……。」

 「あまりに酷すぎます!!」

 「人間のやることじゃありませんよ!!」


 普段大人しいレイナであっても、ベルガリスの言葉を聞いて憤慨し、怒りのあまり目から涙を溢していた。

 マリエも同じだ。

 過去の帝達の行いが事実であれば、

 ステラの民全員への不敬である。

 また、精霊に対する敬意さえも持ち合わせていない。

 大戦など名ばかりの、帝の蛮行に過ぎないのだ。


 「あんたらの反応が正常で嬉しいね」

 「やはりあんた等に話して正解だった」

 「分かって貰える、

  それだけで救われる事もあるのさ」


 「そもそも生い先短い爺どもに、未来を決める役柄を与える事自体が間違ってんだよ!」


 「未来を決めるのは、その未来を生きる若い人間であるべきだ!」


 「少なくとも、俺はそう思ってる」

 「だからあと、10年もしたら帝は止める」


 「後は未来を生きる人間が考えろ」

 「生い先短い俺は、先の事なんざ知らねぇさ」


 そう話すと、

 ベルガリスはケラケラと笑い始めた。

 アナベーはそれを聞き、

 かなり焦って取り乱し始めている。


 「チョット!ベルチャン!」

 「10年ハ早イヨー!」

 「アト、20年ハガンバッテクレナイトー」

 「ベルチャンクラスノ人間」

 「ソンナニ直グ見ツカル訳ナイデショー!」


 困惑するアナベーを他所に、

 ベルガリスはおどける様にこう続けた。


 「うるせえ!」

 「そもそも俺は帝なんざ性に合わないんだよ!」

 「あと、10年やったら後進に譲る!」

 「そう決めたから、まだやってやってんだ!」


 「さっきも言ったが、

 爺が若者の将来を決めるなんざ無理なんだよ!」

 「年を取ったら引っ込む!口出ししねえ!」

 「それが生物としての正しい在り方だ!」


 「分かったらもう止めるなよ!」

 「俺は絶対に10年で止めるからな!」


 そう豪語するベルガリスの顔は、いつもと違い

 何とも楽しそうにも見えた。


 「アンタが言った今の話」 

 「俺達の世界で偉そうにしてる爺どもに、直接

  聞かせてやりたいよ……」

 「本当に人間は、年を取ってから力を持つと」

 「録な使い方をしやしねぇんだよな」


 そう告げた悠も、思わず笑ってしまった。

 レイナもマリエも、その通りだと頷いている。


 アナベーだけが、

 味方が見つからず慌てている。 


 アナベーには悪いが、

 それでもやはり、ベルガリスの言う通りだと、

 悠は思った。


 『未来の事は、

  未来を生きる若い人間が決めるべきだ』


 そう皆が割り切れたなら、

 世の中どれ程変わって行けるだろうか。


 ベルガリスが何故民に慕われ。

 何故クーデターを成功出来たのか。 


 3人はこの時、何となくではあるが、

 彼の人間としての魅力の高さによるものであろうと理解し始めていた。



 「あー、それでだ……。」

 「8年前に、くそ爺どもの集まりが、

  この大陸で行われた」

 「そこで俺達は、予め用意していたゲームを、

  奴等に持ち掛けたんだ。」


 「ゲーム?さっきやったダウトとかか?」


 「まあ、そんな所だな。」

 「最初はお遊びみたいな所から始めた」

 「暇潰しに、若者対爺どもで対戦ゲームでもやりませんか。って、提案してな」


 「爺どももよ」

 「これは一興とか言って楽しんでたよ」

 「あとで自分等が、

  まさか経を読まれる事になるとも知らずにな」


 ベルガリスは自身の発言に

 クスクスと笑い始めた。

 しかし、彼のその言葉では、

 他に誰一人として笑う者はいなかった。


 場に気まずい空気が流れる。


 それに気付いたベルガリスは、

 少し照れ臭そうに話を続けようとした。


 「え~と、それでだな……。」

 

 「ベルチャン……。チョット待ッテ」

 「モシカシテ今ノッテ……」


 しかし、アナベーは逃がしてくれない。

 逃げ道に素早く回り込んでくる。

 彼はそういう男なのだ。

 アナベーはここぞとばかりに、

 ニヤニヤした顔をベルガリスに近づける。

 

 「うるせえ……。話を戻す」

 「邪魔をするなよ……。」


 「チョット待ッテヨ。直グスムカラ」

 「今ノッテモシカシテ、駄洒落ナンジャ?」

 「駄洒落ナンジャナーイ?」


 「ブフッ!」 


 何処からか吹き出す音が聞こえてくる。

 ベルガリスは出所を探すが、

 皆は素知らぬ顔で道の土や花をいじくっている。


 (アナベー、バカ野郎!何で2回言いやがる!)

 (破壊力が増してんじゃねーか!)


 しかし、そのやり取りを見ていた3人は、

 最早笑いを堪えることができなかった様で……。


 「ダ、ダメよ。アナベー……。」

 「そこを掘り下げたら、彼が可哀想よ」

 「クスクス…。ほ、ほら、話を続けて?」


 「ア、アナベーさん。じ、邪魔はダメですよ」

 「帝さんが一生懸命話しているんですから」

 「ほら、早く戻ってください。プークスクス」


 フォローを入れるハズの二人だが、

 体は小刻みに震え、ベルガリスを直視しない。


 「ダメだぞブラザー」

 「こういう時は、経を読んで」

 「あ、間違えた。空気を読んでやらないとな。」

 「帝が可哀想。あ、俺もうダメだわ。ギブ」

 「アーハッハッハッ!」

 「ダメだよアナベー!」

 「その顔で失敗したネタ引っ張ったら!」

 「俺ら堪えられる訳ないじゃん!」

 「何が、『今ノッテモシカシテ……。』だよ!」

 「そんなん笑うに決まってんじゃん!」

 「しかも何で2回言うかな!?」

 「流石にそれは無理だわ!絶対無理!」

 「堪えれたら奇跡だと思うよ!」


 悠は腹を抱えて爆笑し、その場を転げ回った。


 「アーハッハッハッ!!」

 「流石ブラザーネ!!」

 「ユー達、ユーモアノセンス抜群ヨー!!」

 「本当ハ、ミーモ笑イタカッタヨー!」

 「デモ、モシカシテ……。ッテ思ッタノネー!」

 「良カッター!ヤッパリ笑ウトコデOKネー!」


 悠とアナベーは、

 腹を抱えてゲラゲラと笑い転げた。

 最早フォローもへったくれもない。


 最初は一緒になって笑っていたレイナとマリエだが、彼女達は空気を読んで即座に笑うのを止めた。

 誰だって命は惜しい。

 その為なら、仲間だって売ってしまうのだ。


 レイナとマリエは道を開け、

 ベルガリスが二人に近づけるよう誘導した。


 そして、笑い転がり続ける二人に、

 ベルガリスはゆっくりと近付いていき……。


 カチャン。 


 悠とアナベーの額に、

 ベルガリスが持つ銃が突きつけられた。


 「それで?お二人さんは、

  経を読む準備はできたのかな?」


 ベルガリスの両手が引き金にかかる。

 それを見て、アナベーが咄嗟に返答する。


 「オー、今日ハ止メトキマース……。」

 「ナンチャッテ~」

 「面白イデショー?」


 「ブフッ!ゲホゲホ!」

 「テメエ!アナベー!裏切り者!」 

 「こんな時に何上手いこと言いやがって……!」


 ゴリッ……。


 横を向いた悠のこめかみに、

 ベルガリスの銃がめり込んでいく。


 「お兄ちゃん。あんた楽しい奴だったよ。」

 「だけど残念だが……。」

 「あんたとはここでさよならだな。」


 その言葉を聞き、

 アナベーはホッと胸を撫で下ろしていた。  

 

 (フーッ、何トカ誤魔化セタネー)

 (危ナイ危ナイ。)

 (クワバラ、クワバラ……。)


 「アナベー、何を安心してる。」

 「当然お前もだぞ。」


 ゴリッ……。


 「オー、ジーザス……。」

 「ベルチャン、ソレハ酷イヨー!」


 パアン!パアン!


 乾いた銃声が周囲に響く。


 悠とアナベーの安否は如何に……。


ステラの重大な出来事である、8年前のクーデターを少しだけ触れようと思います。  

もうすぐユズキも登場予定です。


前の話でも書かせていただきましたが、感想や評価、ブックマーク等いただけると励みになります。


厳しいことを言われると辛いですが、何かアドバイスなどいただけると嬉しいです!

 

 どうぞよろしくお願いいたします。

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